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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1192778
審判番号 不服2007-9589  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-02-09 
事件の表示 平成9年特許願第137501号「ガスケット材料」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月24日出願公開、特開平10-310164号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年5月13日の出願であって、平成18年6月23日付け拒絶理由通知に応答して、平成18年8月2日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたが、平成19年2月22日付けで拒絶査定され、平成19年4月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに平成19年5月7日に明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

第2 平成19年5月7日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年5月7日付けの明細書を対象とする手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、平成18年8月2日付けで補正された明細書をさらに補正するものであり、補正前の【特許請求の範囲】の請求項2を削除するとともに、請求項1の「エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物」という記載の前に、
「エアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるガスケット材料であって、該ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め、この溝に下方から円筒状本体の上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテンキャップの周縁部をかしめて使用され、」という記載を付加する補正(以下、補正Aという。)と、
請求項1の「エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物」という記載を、
「エチレン重合体、αオレフィンがプロピレン、ブテン-1およびヘキセン-1から選ばれたいずれか一以上のαオレフィンであるエチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・ブテン-1共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物からなり、該混合物はエチレン・ブテン-1共重合体を必須とし、」とする補正(以下、補正Bという。)とを含んでいる。
2.新規事項追加の有無、補正の目的の適否
上記補正A及びBは、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載を参照すれば、いずれもその記載の範囲内においてなされたものであり、新規事項を追加するものではない。
また、この補正Aにより、ガスケット材料の用途について特に限定がなかったものを、「エアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるガスケット材料であって、該ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め、この溝に下方から円筒状本体の上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテンキャップの周縁部をかしめて使用され」るとして限定するものであり、それにより、産業上の利用分野や解決しようとする課題が変更されるものでもない。
そして、補正Bについても、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物として特に限定がなかったものを、「αオレフィンがプロピレン、ブテン-1およびヘキセン-1から選ばれたいずれか一以上のαオレフィンであるエチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・ブテン-1共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物からなり、該混合物はエチレン・ブテン-1共重合体を必須と」するとして限定するものであり、それにより、産業上の利用分野や解決しようとする課題が変更されるものでもない。
したがって、本件補正は、補正前の請求項1に記載されたガスケット材料の用途や、「エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物」の構成を限定して特定する補正を含むものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明
補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記「本件補正」において、補正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「エアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるガスケット材料であって、該ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め、この溝に下方から円筒状本体の上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテンキャップの周縁部をかしめて使用され、
エチレン重合体、αオレフィンがプロピレン、ブテン-1およびヘキセン-1から選ばれたいずれか一以上のαオレフィンであるエチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・ブテン-1共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物からなり、該混合物はエチレン・ブテン-1共重合体を必須とし、200%伸長時の引張り永久歪みが上記重合体の混合比率や共重合比の調整により60%以下に設定されていることを特徴とするガスケット材料。」

4.刊行物及び刊行物に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開平9-77154号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エアゾール缶等に使用するライニング蓋及びその製法に関するもので、より詳細には、ライナー材が熱可塑性樹脂粉体の溶融成形で形成され、缶への巻締乃至締結性や密封性、耐腐食性及びストレスクラッキングに優れたライニング蓋及びこのライニング蓋を環境汚染等の問題を生じることなしに高生産性を以て製造する方法に関する。」
(b)「【0004】エアゾール缶用マウンテイングカップに、溶剤を使用することなしにライナー材を施すことも既に知られており、米国特許第4547948号明細書には、筒状のガスケット材料をマンドレルから引き出し、これをカッターで切り出して蓋体の巻締乃至締結用フランジの溝にはめ込むことが記載されている。」
(c)「【0008】本発明によればまた、金属製蓋体の周囲の巻締乃至締結用フランジ部に、熱可塑性樹脂粉体を供給し、該粉体の充填層を成形治具で加圧しながら該蓋体を加熱して、該樹脂粉体をライニング形状に仮固着させ、次いで成形治具での加圧を解除した状態で粉体を溶融固化させることを特徴とするライニング蓋の製法が提供される。」
(d)「【0021】
【実施例】
[ライニング蓋]本発明のライニング蓋(マウンテイングカップ)の一例を示す図1において、このライニング蓋1は、金属製蓋体2とライナー材層3とから成っている。この具体例(マウンテイングカップ)の金属製蓋体2は、リング状外周凹部4及びリング状内周凸部5を備え、両者の間には内周側壁6が、リング状外周凹部4の外周には外周側壁7が形成されている。外周側壁7の上端は巻締乃至締結用フランジ8に接続されている。リング状内周凸部5及び内周側壁7で規定される部分がバルブ収容部9であり、リング状内周凸部5の中央はパイプ(後述する)用の貫通孔15となっている。」
(e)「【0026】目金蓋22は、環状壁28と、該環状壁の外周部(下端周辺部)に形成された溝29と、該環状壁の内周部(上端周辺部)に形成されたビード乃至カール部30とから成っている。この環状壁28は円錐台状或いはその断面が上に凸な曲線形状を有しており、ビード30によって規定される上方部開口の径は一般に25.4mmである。目金蓋22の溝29の寸法は、この溝29に缶胴部材の上方フランジ24が嵌合するようなものであり、この溝29にも密封用ライニングが施されており、フランジ24と溝29とは二重巻締により締結されている。」
(f)「【0027】バルブ保持マウンティングカップ1は、図1において既に説明したとおり、下向きに凸なカップの形状をしており、その周辺には前述した目金蓋のビード30に嵌合する溝状のフランジ部8が設けられ、且つその中央部にはそれ自体公知のバルブ31が保持されている。バルブ31の導入側には可撓性ディップ・チューブ32がエアゾール缶の底部近傍に達するように延びており、一方バルブ31の排出側に位置するパイプ33が上下動可能に且つマウンティング・カップ1を突き抜けて設けられている。パイプ33の先端には吐出孔34を備えたアクチュエータ35が設けられている。マウンティング・カップ1の溝10に前述したライナー3が設けられていて、目金蓋22のビード30をこの溝に嵌合させ、クリンチすることにより密封が行われている。」
(g)「【0036】[ライナー材]本発明では、ライナー材として、熱可塑性樹脂の粉体を使用する。ライナー用熱可塑性樹脂としては、蓋体に粉体として施すことができ、蓋体上で密封に必要な形状に成形され、必要なクッション性と柔軟性を有するものが使用され、柔軟性のある比較的低融点或いは低軟化点の熱可塑性樹脂が適当である。これらのライナー形成用樹脂としては、オレフィン樹脂、例えば低-、中-、高-密度のポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)或いはこれらのブレンド物等のオレフィン系樹脂が適当である。」
(h)「【0037】上記オレフィン樹脂は、他のエラストマー、例えば、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、SBR,NBR、熱可塑性エラストマーとのブレンド物で使用することもできる。」
(下線は当審において付与したものである。)

そして、上記記載、及び各図面から次の事項は明白である。
・特に摘記事項(c)から、ライナー材は、金属製蓋体の周囲の巻締乃至締結用フランジ部に熱可塑性樹脂粉体を供給して溶融固化することにより形成することから、その形状はリング状であること。
したがって、上記各記載及び図面から刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。

「エアゾール缶の目金蓋上端とマウンテイングキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるライナー材であって、該ライナー材はリング状ライナー材として、熱可塑性樹脂の粉体をマウンテイングキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝状のフランジ内で溶融固着し、この溝状のフランジに下方から目金蓋の上端のビードを押込み、しかるのちマウンテイングキャップの周縁部をかしめて使用され、
プロピレン・ブテン-1共重合体、及びエチレン・ブテン-1共重合体のブレンド物からなるライナー材。」(以下、この発明を「引用発明」という。)

5.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その文言上の意義、構造及び機能等からみて、引用発明における「エアゾール缶」は、本願補正発明の「エアゾール容器」に相当し、以下同様に、「マウンテイングキャップ」は「マウンテンキャップ」に、「ライナー材」は「ガスケット材料」に、「溝状のフランジ」は「溝」に、「ビード」は「丸縁」に、「ブレンド物」は「混合物」にそれぞれ相当する。
そして、本願補正発明の「円筒状本体上端」と引用発明の「目金蓋上端」とは、「マウンテンキャップ取付部上端」である限りにおいて一致している。
また、本願補正発明の「ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め」ている点と引用発明の「ライナー材はリング状ライナー材として、熱可塑性樹脂の粉体をマウンテイングキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝状のフランジ内で溶融固着し」ている点とは、「ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に配置され」ている点で共通する。
さらに、本願補正発明の「エチレン重合体、αオレフィンがプロピレン、ブテン-1およびヘキセン-1から選ばれたいずれか一以上のαオレフィンであるエチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・ブテン-1共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物からなり、該混合物はエチレン・ブテン-1共重合体を必須とし」ている樹脂の中には、引用発明の「プロピレン・ブテン-1共重合体、及びエチレン・ブテン-1共重合体のブレンド物」が含まれているのは明白である。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「エアゾール容器のマウンテンキャップ取付部上端とマウンテンキャップの周縁の接合部のシール用に使用されるガスケット材料であって、該ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に配置され、この溝に下方からマウンテンキャップ取付部上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテイングキャップの周縁部をかしめて使用され、
プロピレン・ブテン-1共重合体、及びエチレン・ブテン-1共重合体の混合物からなるガスケット材料。」
〈相違点1〉
リング状ガスケットに関し、本願補正発明においては、エアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるリング状ガスケットであって、マンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め、この溝に下方から円筒状本体の上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテンキャップの周縁部をかしめて使用されるのに対して、引用発明においては、エアゾール缶の目金蓋上端とマウンテイングキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるものであって、熱可塑性樹脂の粉体をマウンテイングキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝状のフランジ内で溶融固着し、この溝状のフランジに下方から目金蓋の上端のビードを押込み、しかるのちマウンテイングキャップの周縁部をかしめて使用される点。
〈相違点2〉
本願補正発明においては、200%伸長時の引張り永久歪みが上記重合体の混合比率や共重合比の調整により60%以下に設定されているのに対して、引用発明においては、200%伸長時の引張り永久歪みがどの程度か明確でない点。

6.判断
(1)相違点1について
一般にエアゾール容器等の圧力容器のかしめ部に、リング状ガスケットを溝内に嵌めた後かしめ固定を行うことは、例を挙げるまでもなく、本願出願前より、もっとも一般的な手法として広く採用されていることであり、また、このような圧力容器において、マウンテンキャップを、引用発明にみられるように目金蓋を介してかしめ固定することも、直接圧力容器の円筒状本体にかしめ固定することも、圧力容器の容量等に応じ、広く採用されていることである。
このことは、例えば、特開平8-231345号公報、特開平8-198734号公報、実願平1-31338号(実開平2-121158号)のマイクロフィルムに、マウンテンキャップを直接圧力容器の円筒状本体にかしめ固定したエアゾール容器が示されていることからも明らかである。
したがって、引用発明において、マウンテンキャップを直接圧力容器の円筒状本体にかしめ固定する形態を採用して、本願の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
(2-1)本願補正発明の相違点2に係る構成の技術的意義について
本願の明細書の段落【0005】、【0007】、【0008】、【0009】、【0010】、【0011】、【0024】には、本願補正発明の技術的課題として次のように記載されている。

A.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、特定の樹脂を用いることにより、ゴムに比べて安価で、ゴムのような臭いやブリードアウト等の移行性がなく、有害な溶剤を使用する必要がなく、しかも塑性変形が少なくてゴムと同様にシール性が良好で、特にエアゾール容器のマウンテンキャップのシール用として好適なガスケット材料を提供するものである。」
B.「【0007】上記のガスケット材料は、上記の樹脂を押出機やカレンダーでシートに成形し、リング状に打抜いたり、押出機や射出成形機で円筒状に成形し、これを薄く輪切りにしたり、また射出成形機や圧縮成形機を用いて金型でリング状に直接成型したりして製造される。そして、このガスケット材料は、例えばエアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用される。図1において、10はエアゾール容器の円筒状本体、11はマウンテンキャップ、12はステムであり、マウンテンキャップ11の周縁下面に形成した断面半円形の溝11a内にリング状ガスケット13を嵌め、この溝11aに下方から円筒状本体10の上端の丸縁10aを押込み、しかるのちマウンテンキャップ11の周縁部をかしめることにより、円筒状本体10にマウンテンキャップ11が接合される。その接合状態が図2に示される。」
C.「【0008】上記マウンテンキャップ11の周縁をかしめる際、リング状のガスケット13は押しつぶされ、その厚みが元の厚みの30%程度になる。このことは、上記のガスケット13に約200%の伸びを与えたことを意味する。実験によれば、この発明のように200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定した場合は、上記のようにかしめた際にも良好なシール性が維持され、上記円筒状本体10とマウンテンキャップ11の接合部における気密性が維持されるが、上記ガスケット13が比較的硬く、結晶性が高くて200%伸長時の引張り永久歪みが60%を超えた場合は、上記200%の伸長で塑性変形が起き易くなり、ときにはネッキングが生じてシール性が悪くなる。」
D.「【0009】そして、この発明では、ガスケット材料として、エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体のいずれか一種を単独で、またはその二種以上を混合して用いるので、上記200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定するのが容易である。」
E.「【0010】上記のエチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体におけるαオレフィンは、請求項2に記載のごとく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、2-メチル-1-ペンテンおよびオクテン-1が好ましく(ただし、プロピレン・αオレフィン共重合体のαオレフィンからは当然ながらプロピレンが除かれる。)、これらのαオレフィンは、いずれか一種を単独で用いても、また二種以上を混合して用いてもよい。この場合は、上記の引張り永久歪みを更に容易に設定することができる。」
F.「【0011】この発明のガスケット材料では、上記200%伸長時の永久歪みが60%以下であれば、その他の物性、例えば硬度や弾性率等は特に限定されない。また、各種オレフィン共重合体における共重合比率やブレンド比率等も上記の永久歪みが得られる範囲で任意に設定することができる。また、製造法も特に限定されず、前記のように、シートに成形してリング状に打抜いたり、また円筒状に成形して輪切りにしたり、また金型でリング状に直接成型したりして適宜に製造することができる。」
G.「【0024】
【発明の効果】上記のとおり、この発明のガスケット材料は、200%伸長時の引張り永久歪みが60%以下であるため、シール性が良好であって、エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体等の合成樹脂の柔らかさと結晶性を、共重合比や混合比率等でコントロールすることにより容易に作ることができ、しかも合成樹脂製であるため、ゴム製品で生じるブリードアウトやゴム臭の付着がなく、特にエアゾール容器のマウンテンキャップのシール用として好適である。」
(下線は当審において付与したものである。)

これらの記載からみて、本願補正発明の相違点2に係る構成の技術的意義は、ガスケットがマウンテンキャップのかしめ時に押し潰され、元の厚みの30%程度(ガスケットに約200%の伸びを与えたことに相当)になった後も、塑性変形が少なくて、良好なシール性を保つようにすることにあると解することができる。

(2-2)圧力容器において求められるガスケットの永久歪み特性
ガスケットは、そもそも結合部等の密封性を向上させるためのものであり、最も一般的に使用されているゴム製のものでは、部材間で圧縮され、その弾力性により、両部材との接触面に沿って均一に圧着され、気体等の漏洩を防止するものであるから、塑性変形、すなわち永久歪みが限度を超えれば、接触面に復元し得ない間隙が発生し、本来の目的である密封性が失われるのは当業者からみて明白である。
このことは、例えば特開平9-40824号公報、特開平6-263937号公報に永久伸び(永久歪み)がガスケットの特性を評価する指標として用いられていることからも明らかである。

(2-3)引張り永久歪みの試験方法と範囲設定
本願明細書には、200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定するにあたり、重合体の混合比率や共重合比を適宜調整する旨やこれらを適宜選定した実施例が記載されているものの、それらの具体的な調整手法についてなんら開示はなく、また、重合体の混合比率や共重合比を所定範囲に選定することで、はじめて臨界的に引張り永久歪み特性が格段に改善され、200%伸張時の引っ張り永久歪みが達成されるといった技術的解明がなされていえるわけではない。
つまり、永久歪み特定の選定については、本願明細書を参酌しても、永久歪みとシール性の関係が記載されているにとどまり、実験条件の設定、歪み特性の選定は、単に圧力容器を密封する上で求められる条件を限定したにすぎず、それを超え、引用発明と比較してエチレン・ブテン-1共重合体とプロピレン・ブテン-1共重合体との重量比、重合比等の、永久歪み特性に直接関係する材質としての実質的な相違を特定するものではない。
そして、JIS K-6262にみられるように、試験対象の永久歪み特性を、試験対象を所定の長さに伸張し、その際の永久歪みで評価することが本願出願時点において技術常識として行われているものであるから、エアゾール容器のかしめ固定部に使用されるガスケットの永久歪みを、このような評価方法に対応させることは、当業者が当然に試みるべきことというべきであって、かつ、引用発明において当業者が通常試みる範囲で「200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定」することが達成できないといった技術的根拠は見当たらない。
さらに、本願明細書の摘記事項Dには、本願補正発明は、ガスケット材料として、エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体のいずれか一種を単独で、またはその二種以上を混合して用いるので、200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定するのが容易である旨の記載があることも踏まえると、本願補正発明と同様に、エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体のいずれか一種を単独で、またはその二種以上を混合して形成する引用発明においても、200%伸長時の引張り永久歪みを60%以下に設定することは当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎない。
以上の点を総合すると、引用発明において、上記周知技術を踏まえて、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

なお、本願補正発明の相違点1に係る構成に基づき、ガスケットがそれ自体個別の部品として成形されたリング状のものであると解釈した場合、既に断面が略半円形に形成されている引用発明のガスケットに比べ、かしめ固定に伴い負荷される曲げ応力に相違が生じると解する余地はある。
しかしながら、上記相違点1と相違点2とを総合しても、ガスケットをシート状に形成して、圧力容器の封止部にこのガスケットを配置し、かしめ等で固定することはむしろ、ガスケットとしてごく普通の使用方法であって、周知技術にシール性を向上する上で、永久歪み特性が重要なパラメータであることが示されているのであるから、このような使用方法を想定し、本願補正発明の永久歪み特性をその設計目標とすることは、圧力容器の内部圧力や内容物などを勘案することにより適宜選定したものにすぎないというべきである。

(3)相違点についてのまとめ
本願補正発明を全体構成でみても、引用発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、上記刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7.補正却下についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

8.付言
平成20年11月12日付けで当審がFAXにて受領した補正案の請求項1は、本願補正発明のガスケットの形状を「シート形状」として限定し、ガスケットの材料を「混合物全体に対して、30重量%から75重量%含む、エチレンおよびブテン-1共重合体と、25重量%から70重量%含む、エチレン重合体ならびにエチレンおよびヘキセン-1共重合体から選ばれた少なくとも1つの重合体との混合物」と限定し、さらに、引張り永久歪みを「23°Cの雰囲気中で200%伸張して固定し、24時間後に固定を解除し30分後」に測定したものとして限定したものである。
しかしながら、圧力容器のガスケットとしてシート形状のものは、特開平8-231345号公報、特開平8-198734号公報、実願平1-31338号(実開平2-121158号)のマイクロフィルムに記載されているように従来より周知の技術である。
また、ガスケットを構成する材料として、エチレン・ブテン-1共重合体とエチレン・ヘキセン共重合体との混合物を用いることは、特開平9-40824号公報(特に、【0028】を参照されたい。)に記載されており、その混合比についても、エチレン・ブテン-1共重合体を全体の30重量%から75重量%とし、エチレン・ヘキセン-1共重合体を25重量%から70重量%とすることは、当該文献において記載された範囲内である。
よって、ガスケットを構成する材料及びその混合比の限定については、上記「6.判断」において検討した如く、要求されるガスケットの永久歪みの特定などを踏まえて適宜定める設計的事項にすぎない。
さらに、永久歪みの試験方法を限定する点についても、永久歪みがガスケットにおいて、重要なパラメータであることが周知である以上、それをどのような方法で測定するかは、測定対象の性質を踏まえて当業者が適宜選択し得る事項である。
したがって、上記補正案は採用しなかった。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成18年8月2日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1は以下のとおりのものである。
「エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物からなり、200%伸長時の引張り永久歪みが上記重合体の混合比率や共重合比の調整により60%以下に設定されていることを特徴とするガスケット材料」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、及びその記載事項は、前記第2、「4.刊行物及び刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。
第5 対比・判断
上記第2、「1.本件補正の内容」での検討によれば、本願発明は、前記第2、「3.本願補正発明」から、ガスケット材料の用途に関する限定事項である「エアゾール容器の円筒状本体上端とマウンテンキャップの周縁との接合部のシール用に使用されるガスケット材料であって、該ガスケット材料はリング状ガスケットとして、マウンテンキャップの周縁下面に形成した断面半円形の溝内に嵌め、この溝に下方から円筒状本体の上端の丸縁を押込み、しかるのちマウンテンキャップの周縁部をかしめて使用され」るとの構成を省き、かつ「エチレン・αオレフィン共重合体」の限定事項である「αオレフィンがプロピレン、ブテン-1およびヘキセン-1から選ばれたいずれか一以上のαオレフィンである」との構成を省き、かつ、「プロピレン・αオレフィン共重合体」が「プロピレン・ブテン-1共重合体」であるとの限定を解除し、かつ「エチレン重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびプロピレン・αオレフィン共重合体から選ばれたいずれか二種以上の重合体の混合物」の限定事項である「該混合物はエチレン・ブテン-1共重合体を必須とし、」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2、「5.対比」及び「6.判断」で検討したように、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-19 
結審通知日 2008-11-25 
審決日 2008-12-09 
出願番号 特願平9-137501
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
P 1 8・ 575- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 真柳田 利夫  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 熊倉 強
遠藤 秀明
発明の名称 ガスケット材料  
代理人 和気 操  

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