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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1192880
審判番号 不服2007-21628  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-03 
確定日 2009-02-20 
事件の表示 特願2002- 92018「車両の自動変速装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月10日出願公開、特開2003-286881〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年3月28日の出願であって、平成18年7月6日付けで拒絶理由が通知され、平成18年9月15日付けで手続補正がなされると共に意見書が提出され、平成18年11月17日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成19年1月29日付けで意見書が提出されたが、平成19年6月22日付けで拒絶査定がなされ、平成19年8月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その請求項1及び2に係る発明は、上記平成18年9月15日付け手続補正によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 エンジン回転数,アクセル開度と燃料噴射量との対応関係を予め格納したガバナテーブルを参照することにより、検出されたエンジン回転数と検出されたアクセル開度とからドライバー要求噴射量を求めるドライバー要求噴射量算出手段を有し、電子ガバナに燃料噴射量の信号を出力する噴射量制御手段と、
前記噴射量制御手段に接続され、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサと、
前記噴射量制御手段に接続され、アクセル開度を検出するアクセル開度センサと、
車両の発進時、エンジン回転数の制限を行なう噴射量制限手段と、
車両の発進時のエンジン回転数の制限を解除する噴射量制限解除手段と、
前記噴射量制限解除手段によるエンジン回転数の制限の解除の終了時点から、アクセル開度による燃料噴射を中断する噴射量切換え手段と、
前記噴射量切換え手段の実行中、エンジン回転数の制限の時における燃料噴射量から前記ドライバー要求噴射量に至る間まで、燃料噴射量を所定の勾配で増加させて前記噴射量制御手段に送る噴射量徐変手段とを備え、
前記ドライバー要求噴射量算出手段は、回転数の制限解除の終了時点からアクセル開度による燃料噴射を一時中断し、
噴射量徐変手段は、ドライバー要求噴射量算出手段で求めたドライバー要求噴射量からエンジン回転数制限時の実噴射量を要求噴射量の初期値として、要求噴射量の信号を噴射量制御手段に送信し、
噴射量制御手段は、噴射量徐変手段から入力した今回の要求噴射量から実噴射量を求めて燃料噴射量を制御し、
実噴射量がドライバー要求噴射量に達しない場合、前記噴射量徐変手段は、前回の要求噴射量に加算噴射量を加えて今回の要求噴射量を算出していくことで、エンジン回転数の制限時における燃料噴射量から前記ドライバー要求噴射量に至る間まで、燃料噴射量を所定の勾配で増加させて前記噴射量制御手段に送ることを特徴とする車両の自動変速装置。」


第2.引用文献
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-287420号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア.「2 特許請求の範囲
1. 歯車変速機及びクラッチの操作を電子的に制御するようにした自動変速装置付の車輛の発進制御方法において、車輛の駆動用内燃機関の回転速度制御を通常走行用の制御モードで行ない、車輛の発進制御期間中においては機関速度をアクセル操作量に従って定められる上限値以下に制限し、発進制御終了に応答して前記上限値を徐々に増大させるようにしたことを特徴とする車輛の発進制御方法。
2.歯車変速機及びクラッチの操作を電子的に制御するようにした自動変速装置付の車輛の発進制御方法において、車輛の駆動用内燃機関の回転速度制御を通常走行用の制御モードで行なうと共に車輛の発進制御期間中の前記クラッチの接続をすべり率制御により行ない、車輛の発進制御期間中における機関速度の上限値を定める回転制限値を発進制御終了前の所定のタイミング以後徐々に増大させることを特徴とする車輛の発進制御方法。」(特許請求の範囲)

イ.「(産業上の利用分野)
本発明は自動変速装置を備えた車輛の発進制御方法に関するものである。
(従来の技術)
近年、歯車変速機とクラッチとの操作制御を電子的に行なうようにした電子制御式自動変速装置を搭載した車輛が広く実用に供されている。この種の自動変速装置を備えた車輛にあっては、一般に、車輛の発進制御時に内燃機関の不必要な回転上昇が生じるのを防止する必要があり、従来においては、発進制御動作期間中における機関速度制御モードをそれ以外の通常運転動作期間中の機関速度制御モードと異なるモードに設定し、発進制御動作中に機関速度が不必要に上昇することがないようにした構成が公知である(例えば、特開昭61-196831号公報)。」(公報第1ページ右下欄第4行ないし第19行)

ウ.「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、上述の如く、機関の回転速度制御のための制御モードを切り換える構成によると、車輛の発進が完了した時点で制御モードを変更したときに車輛の加速度が大きく変化し、乗車フィーリングを損ねるという問題点を有している。
本発明の目的は、従来技術における上述の問題点を解決することができる、改善された車輛用発進制御方法を提供することにある。」(公報第1ページ右下欄第20行ないし第2ページ左上欄第8行)

エ.「(課題を解決するための手段)
上記課題を解決するための本発明の特徴は、歯車変速機とクラッチとの操作を電子的に制御するようにした自動変速装置付の車輛の発進制御方法において、車輛の駆動用内燃機関の回転速度制御を通常走行用の制御モード、例えばリミットスピードモードで行ない、車輛の発進制御期間中においては機関速度をアクセル操作量に従って定められる上限値以下に制限し、発進制御終了に応答してこの上限値を徐々に増大させるようにした点にある。」(公報第2ページ左上欄第9行ないし第19行)

オ.「(作用)
発進制御期間中においても内燃機関の速度制御は通常走行用の制御モードで実行されており、機関速度の上限値はその時のアクセル操作量に応じて定められる。したがって、略オールスピード特性に等しい速度制御特性で機関速度の制御が行なわれ、発進制御期間中に機関速度が過度に上昇することはない。発進制御の終了と共に、その上限値は例えば時間の経過に従って徐々に増大し、機関速度の制御が完全に所要の通常走行用の制御モードで実行される。このため、発進制御の終了時に車輛の加速度が急激に変化することがない。」(公報第2ページ右上欄第8行ないし第19行)

カ.「(実施例)
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について説明する。
第1図には、本発明の方法により車輛の発進制御が行なわれるように構成された車輛用制御装置の一実施例が示されている。第1図に示される車輛用制御装置1は、燃料噴射ポンプ2から燃料の噴射供給を受ける内燃機関3によって駆動される車輛(図示せず)の制御を行なう装置であり、ここで、内燃機関3からの回転出力は摩擦式のクラッチ4と歯車変速機5とを介して車輛の駆動輪(図示せず)に伝達される構成となっている。クラッチ4にはクラッチアクチェータ6が連結され、クラッチアクチェータ6は、後述する制御ユニット7からのクラッチ制御信号Scに応答してクラッチ4の接続(オン)、切り離し(オフ)操作を行なう。一方、歯車変速機5に連結されている変速機アクチェータ8は、制御ユニット7からの変速機制御信号Stに応答し、歯車変速機5のギヤのシフト操作を行なう。
第1検出器9は、クラッチアクチェータ6により操作されるクラッチ4のプレッシャプレート(図示せず)の位置を示す第1検出信号K_(1)を出力し、一方、第2検出器10は、変速機アクチェータ8によって操作される歯車変速機5の実ギヤ位置を示す第2検出信号K_(2)を出力する。第1及び第2検出信号K_(1),K_(2)は、制御ユニット7に入力されている。
クラッチ4の入力側にはクラッチ4の入力回転速度を示す入力速度信号Saを出力する第1センサ11が設けられ、クラッチ4の出力側にはクラッチ4の出力回転速度を示す出力速度信号Sbを出力する第2センサ12が設けられている。入力速度信号Sa及び出力速度信号Sbはすべり率検出部13に入力され、ここでクラッチ4におけるその時のすべり率が計算される。その計算結果を示すすべり率信号SDは制御ユニット7に入力される。なお、入力速度信号Saは、内燃機関3の回転速度を示す信号として制御ユニット7にも入力されている。
制御ユニット7には、このほか、アクセルペダル14の操作量を示すアクセル信号ACがアクセルセンサ15から入力され、セレクタ16のセレクト位置を示すセレクト信号SCがセレクトセンサ17から入力されている。さらに、車速センサ18からは車速を示す車速信号VCが出力され、車速信号VCが制御ユニット7に入力されると共に、キースイッチSWがOFFか否かを示すキースイッチ信号KYも制御ユニット7に入力されている。
符号19で示されるのは、制御ユニット7から出力される燃料制御信号FSに応答して燃料噴射ポンプ2の燃料調節部材であるコントロールラック2aの位置調節を行なうラックアクチェータである。符号20は内燃機関3の冷却水温を示す水温信号WTを出力する水温センサであり、水温信号WTは制御ユニット7に入力されている。
制御ユニット7は、中央処理装置(CPU)21,ランダムアクセスメモリ(RAM)22,読出専用メモリ(ROM)23,入出力インターフェイス回路(I/O)24,及びこれらを相互に接続するためのバス25を含んで成る公知のマイクロコンピュータシステムにより構成されている。制御ユニット7は各入力信号及びデータに応答し、ROM23内に予めストアされている制御プログラムがCPU21内で実行され、これにより車輛の発進のための制御、機関速度制御、変速のための制御が実行される。」(公報第2ページ左下欄第11行ないし第3ページ右上欄第18行)

キ.「第2図には、制御ユニット7において実行される制御プログラム30を示すフローチャートが示されており、このフローチャートに基づいて制御ユニット7により実行される車輛制御について説明する。
制御プログラム30は装置の電源投入により実行が開始され、ステップ31において、制御ユニット7に与えられている信号又はデータに従う、車輛の運転状態を示す各種データがマイクロコンピュータシステム内に入力される。次のステップ32では、第1センサ11からの入力速度信号Saにより示される内燃機関3の機関回転速度値とアクセル信号ACにより示されるアクセル操作量値とに従い、予めマップデータとしてROM23内にストアされている所定のリミットスピード特性データを参照して、その時の運転条件におけるリミットラック位置の値LPが計算される。
この計算の基礎とされるリミットスピード特性が第3図に示されている。第3図は横細に機関回転速度を取り、縦軸にコントロールラック2aの位置を取ってその特性が示されている。
第2図に戻ると、ステップ33では、第3図に示したリミットスピード特性に相応するリミットスピード特性データに基づき、その時の機関回転速度値に従ってコントロールラック2aの最大位置を示すフルラック位置の値FPの計算が実行される。この計算は、機関回転速度値のみに従って決定してもよいが、さらに水温信号WTに応答してその時の機関冷却水温の値をも考慮して決定するようにしてもよい。
ステップ34では、LP>FPか否かの判別が行なわれ、LP≦FPの場合にはステップ34の判別結果はNOとなりステップ36に進む。一方、LP>FPの場合には、ステップ34の判別結果はYESとなり、ステップ35において値LPの内容を値FPの内容に置きかえてからステップ36に進む。すなわち、リミットラック位置の値がフルラック位置の値を越えることがないようにデータの変更が行なわれる。
ステップ36では、車輛の発進制御のための機関回転速度の制限を行なうか否かを示すフラグFがセットされているか否かの判別が行なわれる。このフラグFのセット/クリアは第4図に示される制限値計算プログラム50において行なわれるが、これについては後で詳しく述べる。フラグFがクリアされている場合(F=「0」)には、ステップ36の判別結果はNOとなり、ステップ37でコントロールラック2aの位置制御が値LPに従って制御され、さらにステップ38で歯車変速機5及びクラッチ4の制御などその他の制御が実行され、この後ステップ31に戻る。」(公報第3ページ右上欄第19行ないし第4ページ左上欄第9行)

ク.「次に、第4図に基づいて制限値計算プログラム50について説明する。この制限値計算プログラム50もまた、ROM23内に予めストアされており、所定の周期で実行される。このプログラム50が実行開始されると、ステップ51において車輛を発進させるための制御が実行中か否かの判別が適宜の公知の方法により判別される。この判別結果がYESとなると、ステップ52に進み、ここでアクセル操作量及びその時セレクタ16によりセレクトされているセレクト位置に応じて回転制限値Kが第5図に示す特性図に従って計算される。この回転制限値Kは車輛の発進制御期間中における機関回転速度の上限値である。このようにして回転制限値Kが計算されると、ステップ53に進み、ここでフラグFがセットされ、このプログラム50の実行が終了する。
一方、発進制御期間中でない場合にはステップ51の判別結果はNOとなり、ステップ54においてフラグFがセットされているか否かの判別を行ない、フラグFがセットされていない場合にはステップ54の判別結果かNOとなり、プログラム50の実行が終了する。フラグFがセットされている場合には、ステップ54の判別結果がYESとなり、ステップ55に進む。ステップ55では、ステップ52において定められた回転制限値Kをある時点から漸次増大させる場合の単位時間当りの増加量を示す変化量ΔKが、その時のアクセル操作量とセレクタ16のセレクト位置とに従って決定される。ステップ56では、回転制限値Kの値がK+ΔKに置き換えられ、ステップ57においてこの更新されたKの値がその機関に許される所要の最高回転速度値よりも大きい値Nmaxより大きいか否かの判別か行なわれる。Nmax≧Kの場合にはステップ57の判別結果はNOとなり、プログラムの実行が終了する。しかし、Nmax<Kとなると、もはや回転制限の必要はなくなるので、ステップ58においてフラグFがクリアされ、プログラムの実行が終了する。上述の如く、車輛が発進制御期間中であると、回転制限値Kが第5図の特性に基づいて決定されると共にフラグFがセットされる。
したがって、第2図に示した制御プログラム30のステップ36の判別がこの場合YESとなり、ステップ39に進む。ステップ39では、制限値計算プログラム50において得られた回転制限値Kに基づいて、この値Kに相応するコントロールラック2aの位置が計算され、この計算値を示す制限位置の値MPが計算される。
次いで、ステップ40でLP>MPか否かの判別が行なわれ、LP≦MPの場合にはステップ40の判別結果はNOとなり、ステップ37に進む。LP>MPの場合にはステップ40の判別結果はYESとなり、ステップ41において値LPか値MPの内容に置き換えられる。すなわち、値MPにより決定される回転制限線(イ)が第3図に示されるように値LPで示されるリミットラック線(ロ)より第3図の特性線上で右にある場合には、機関回転速度 はリミットラック線(ロ)に従って制限されるが、回転制限線(イ)がリミットラック線(ロ)より第3図の特性線上で左に位置している場合には、ステップ41の置換により回転制限線(イ)に従って機関回転速度が制限されることになる。
上述の構成によれば、車輛の発進制御中にあっては、回転制限値Kが第5図の特性に従って決定されると共にフラグFがセットされ、この回転制限値Kを越えて内燃機関3が運転されることがないように、コントロールラック2aの位置の制限が行なわれる。この回転制限値Kはアクセル操作量に応じている。
このため、コントロールラック2aの位置は発進制御の開始と共にアクセルペダル14の操作量に従う所要の値に従う回転制限値K以下に抑えられ、発進制御終了後、時間の経過と共にこの回転制限値Kは漸次増大し、最終的には所要のリミットスピード特性に従う最大回転速度にまで達する。したがって、車輛の発進制御期間中においてリミットスピード特性で内燃機関3の回転速度制御を行なうにも拘わらず、機関回転速度が過度に上昇することを有効に防止できる。さらに、回転制限値が徐々に増大し、その回転制限値が所要のリミットスピード特性の最大回転速度値をこえたことにより回転制限値による回転速度の制限動作が解除されるので、回転制限動作から通常のリミットスピード特性に従うガバナ制御動作への移行が円滑に行なわれ、発進制御の終了時に車速が急激に変化する等の不具合を全く生じることがない。」(公報第4ページ左上欄第10行ないし第5ページ左上欄第16行)

ケ.「(発明の効果)
本発明によれば、通常走行制御のための速度制御特性により制御される内燃機関の回転速度を車輛の発進制御期間中所定値以下に制限して機関速度が過度に上昇するのを防止し、発進制御が完了したならばこの回転速度の制限値を徐々に増大させて最終的に通常走行制御のための速度制御特性で機関の運転を行なうため、発進制御時に機関速度が過度に上昇するのを防止することができ、且つ発進制御完了後において車速を急激に変化させるのを確実に防止することができる。
更に、クラッチの接続をすべり率制御により行なう場合において、発進制御を開始した後一定時間経過後に回転制限値を徐々に上昇させる構成とすることにより、極めて良好な発進フィーリングを得ることができるほか、発進制御期間中機関速度を徐々に上昇させることができ、トルク不足でエンジン負けが生じている時でもトルクアップが行なわれ、発進性能を著しく改善することができ、且つ車輛の負荷状態に拘わらず加速性の向上を図ることができる等の効果を得ることができる。」(公報第6ページ左下欄第12行ないし右下欄第12行)

コ.「図面の簡単な説明
第1図は本発明による車輛用制御装置の一実施例を示すブロック図、第2図は第1図の制御ユニットにおいて実行される制御プログラムを示すフローチャート、第3図は第1図の装置に置いて用いられるリミットスピード特性を示す特性図、第4図は第1図の制御ユニットにおいて実行される制限値計算プログラムを示すフローチャート、第5図は回転制限値とアクセル操作量との関の関係を示すグラフ、第6図は第1図の制御ユニットにおいて実行される別の制御プログラムを示すフローチャートである。
1…車輛用制御装置、3…内燃機関、
4…クラッチ、 5…歯車変速機、
6…クラッチアクチェータ、
7…制御ユニット、 8…変速機アクチェータ、
14…アクセルペダル。」(公報第6ページ右下欄第13行ないし第7ページ左上欄第9行)

(2)ここで、上記記載事項ア.ないしコ.及び図面から、次のことが分かる。

上記記載事項ア.ないしコ.及び図面から、引用文献には、車輌の自動変速装置に係る発明が記載されていることが分かる。

上記記載事項カ.、キ.及び図面から、引用文献に記載された車輌の自動変速装置では、制御ユニット7において実行される制御プログラム30において、内燃機関3の機関回転速度値とアクセル信号ACにより示されるアクセル操作量値とに従い、予めマップデータとしてROM23内にストアされている所定のリミットスピード特性データを参照して、その時の運転条件におけるリミットラック位置の値LPが計算され、ステップ37でコントロールラック2aの位置制御(すなわち燃料噴射量の制御)が値LPに従って制御されることが分かり、この点について「燃料噴射量制御手段」が記載されているといえる。また、検出された機関回転速度値と検出されたアクセル操作量値とからリミットラック位置LPを計算する「リミットラック位置算出手段」が記載されているといえる。

上記記載事項カ.、キ.及び図面から、引用文献に記載された車輌の自動変速装置では、第1センサ11からの入力速度信号Saにより内燃機関3の機関回転速度値が示され、アクセルセンサ15からのアクセル信号ACによりアクセルペダル14の操作量が示され、第1センサ11とアクセルセンサ15は制御ユニット7に接続されていることが分かる。

上記記載事項キ.、ク.及び図面から、引用文献に記載された車輌の自動変速装置では、制御ユニット7において実行される制限値計算プログラム50のステップ51において、車輌を発進させるための制御が実行中か否かの判別が判別され、この判別結果がYESとなると、ステップ52で回転制限値Kが計算され、ステップ53でフラグFかセットされ、この回転制限値Kを越えて内燃機関3が運転されることがないように、コントロールラック2aの位置の制限(すなわち燃料噴射量の制限)が行なわれることが分かる。このことから、車輌を発進するための制御が実行中か否かを判断し、車輌の発進制御中は回転制限値Kによるエンジン回転数の制限を行い、発進制御中でなければエンジン回転数の制限を行わない制限値計算手段(プログラム)が記載されているといえる。

上記記載事項キ.、ク.及び図面から、引用文献に記載された車輌の自動変速装置では、制御ユニット7において実行される制限値計算プログラム50のステップ51において発進制御中でない場合で、さらにステップ54において、フラグFがセットされている場合には、発進制御終了後の制御として、ステップ55ないし57において、車輌発進制御中の回転数制限値Kに基づく制御から、リミットスピード特性に従う制御の間、回転数制限値を徐々に増大する「回転制限値Kによる回転速度の制限動作を行う」ことが分かる。具体的には、ステップ56において回転制限値Kの値がK+ΔKに置き換えられ、ステップ57においてこの更新されたKの値がその機関に許される所要の最高回転速度値(すなわち、リミットスピード特性の最大回転速度値)よりも大きい値Nmaxより大きいか否かの判別が行なわれ、Nmax<Kとなると、ステップ58においてフラグFかクリアされ、プログラムの実行が終了する(すなわち、回転制限動作から通常のリミットスピード特性に従うガバナ制御動作への移行が行われる)ことが分かる。

上記記載事項カ.、キ.、ク.及び図面(特に第4図のステップ51,54ないし57)等の記載からみて、発進制御終了後(KがNmaxに達するまでの「F=1」がセットされている期間)、回転数制限値KをΔKずつ増加させるように燃料噴射量を制御するものであるから、アクセル操作量による燃料噴射(LP)を実行していないものと解され、このことは、制限値計算手段(プログラム)によるエンジン回転数の制御の解除時点から、アクセル操作量に基づく燃料噴射を中断し、エンジン回転数を所定の勾配(ΔK)で増加させる回転数徐変手段を備えることが記載されているといえる。

上記記載事項カ.、キ.、ク.及び図面(特に第2図)等の記載からみて、回転制限値Kから計算されるコントロールラックの位置MPが、その時の運転条件におけるリミットラック位置の値LPより小さい間のみコントロールラックの位置MPが採用され、コントロールラックの位置MPがリミットラック位置の値LPを超えるとリミットラック位置の値LPでコントロールラックの位置、すなわち燃料噴射量が決まることが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記記載事項(1)、(2)より、引用文献には次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

「機関回転速度値、アクセル操作量ACとコントロールラック2aの位置との関係を予め格納したリミットスピード特性データを参照することにより、検出された機関回転速度値と検出されたアクセル操作量ACとからその時の運転条件におけるリミットラック位置の値LPを求めるリミットラック位置算出手段を有し、ラックアクチェータ19に燃料制御信号FSを出力する制御ユニット7と、
前記制御ユニット7に接続され、機関回転速度値を検出する第1センサ11と、
前記制御ユニット7に接続され、アクセル操作量ACを検出するアクセルセンサ15と、
車輌の発進制御中、機関回転速度値の制限を行い、また当該制限を解除する制限値計算手段と、
前記制限値計算手段による車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点から、アクセル操作量ACによる燃料噴射を中断し、当該中断中、車輌の発進制御中における回転制限値Kから、回転制限値Kによる回転速度の制限動作が解除されるまで、回転制限値Kを徐々に増大させて制御ユニット7に送信する回転数徐変手段を備え、
前記回転数徐変手段は、車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点からアクセル操作量ACによる燃料噴射を回転制限値Kに相当する量に抑え、
前記回転数徐変手段は、リミットラック位置算出手段で求めたリミットラック位置の値LPから、機関回転速度の制限時のコントロールラック2aの位置を初期値として、燃料噴射制御信号FSを制御ユニット7に送信し、
制御ユニット7は、前記制限値計算手段から入力した今回の回転制限値Kからコントロールラック2aの位置MPを求めてコントロールラック2aの位置(すなわち燃料噴射量)を制御し、
回転制限値Kが所要のリミットスピード特性の最大回転速度値に達しない場合、前記制限値計算手段は、前回の回転制限値Kに変化量ΔKを加えて今回の回転制限値Kを算出していくことで、車輌の発進制御中における回転制限値Kから算出できるコントロールラックの位置MPがリミットラック位置の値LPを超えるまで、回転制限値Kを所定の勾配ΔKで増加させて前記制御ユニット7に送る車輌の自動変速装置。」


第3.対比
本願発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明の備える「機関回転速度」、「アクセル操作量AC」、「コントロールラック2aの位置MP」、「リミットスピード特性データ」、「その時の運転条件におけるリミットラック位置の値LP」、「リミットラック位置算出手段」、「ラックアクチュエータ」、「燃料制御信号FS」、「制御ユニット7」、「第1センサ11」、「アクセルセンサ15」及び「車輌の発進制御中」は、その機能及び作用からみて、それぞれ、本願発明の備える「エンジン回転数」、「アクセル開度」、「燃料噴射量(及び実噴射量)」、「ガバナテーブル」、「ドライバー要求噴射量」、「ドライバー要求噴射量算出手段」、「電子ガバナ」、「燃料噴射量の信号」、「噴射量制御手段」、「エンジン回転数センサ」、「アクセル開度センサ」及び「車両の発進時」に相当し、また、引用文献記載の発明の備える「制限値計算手段」は、本願発明の備える「噴射量制限手段」及び「噴射量制限解除手段」に相当する。
また、引用文献記載の発明において、回転制限値Kによりコントロールラックの位置を制御するものであるから、エンジン回転速度の制限は噴射量の制限と同義であると解されるので、引用文献記載の発明の備える「回転数徐変手段」は、本願発明の備える「噴射量切換手段」及び「噴射量徐変手段」に相当する。
また、本願の課題からみて、本願発明における、車両の発進時のエンジン回転数の制限解除時の燃料噴射量は、エンジン回転数の制限時の噴射量制限値(上限値)に等しいものであるから、引用文献記載の発明における「回転数徐変手段の初期値を、車輌の発進制御中の回転制限値Kの値とすること」は、本願発明における「噴射量徐変手段の初期値を、エンジン回転数の制限解除時の燃料噴射量とすること」に対応している。
また、引用文献記載の発明における「車輌の発進制御中における回転制限値Kから算出できるコントロールラックの位置MPがリミットラック位置の値LPを超えるまで」は、本願発明における「エンジン回転数の制限時における燃料噴射量からドライバー要求噴射量に至るまで」に相当する。
そうすると、本願発明と引用文献記載の発明とは、
「エンジン回転数,アクセル開度と燃料噴射量との対応関係を予め格納したガバナテーブルを参照することにより、検出されたエンジン回転数と検出されたアクセル開度とからドライバー要求噴射量を求めるドライバー要求噴射量算出手段を有し、電子ガバナに燃料噴射量の信号を出力する噴射量制御手段と、
前記噴射量制御手段に接続され、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサと、
前記噴射量制御手段に接続され、アクセル開度を検出するアクセル開度センサと、
車両の発進時、エンジン回転数の制限を行なう噴射量制限手段と
車両の発進時のエンジン回転数の制限を解除する噴射量制限解除手段と、
前記噴射量制限解除手段によるエンジン回転数の制限の解除の終了時点から、アクセル開度による燃料噴射を中断する噴射量切換え手段と、
前記噴射量切換え手段の実行中、エンジン回転数の制限の時における燃料噴射量からドライバー要求噴射量に至る間まで、燃料噴射量に関する値を所定の勾配で増加させて前記噴射量制御手段に送る噴射量徐変手段とを備え、
前記噴射量切換え手段は、エンジン回転数の制限の解除の終了時点から、アクセル開度による燃料噴射を中断し、
前記噴射量徐変手段は、ドライバー要求噴射量算出手段で求めたドライバー要求噴射量から、エンジン回転数制限時の実噴射量を要求噴射量の初期値として、要求噴射量の信号を噴射量制御手段に送信し、
噴射量制御手段は、噴射量徐変手段から入力した今回の要求噴射量から実噴射量を求めて燃料噴射量を制御し、
実噴射量がドライバー要求噴射量に達しない場合、前記噴射量徐変手段は、前回の要求噴射量に加算噴射量を加えて今回の要求噴射量を算出していくことで、エンジン回転数の制限時における燃料噴射量から前記ドライバー要求噴射量に至る間まで、燃料噴射量に関する値を所定の勾配で増加させて前記噴射量制御手段に送る車両の自動変速装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
(1)アクセル開度による燃料噴射を中断する点に関して、本願発明においては、「噴射量制限解除手段によるエンジン回転数の制限の解除の終了時点から、アクセル開度による燃料噴射を中断する噴射量切換え手段」を備え、「ドライバー要求噴射量算出手段は、回転数の制限解除の終了時点からアクセル開度による燃料噴射を一時中断する」のに対し、引用文献記載の発明においては、「前記制限値計算手段による車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点から、アクセル信号ACによる燃料噴射を中断する回転数徐変手段」を備え、「前記回転数徐変手段は、車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点からアクセル信号ACによる燃料噴射を回転制限値Kに相当する量に抑え」る点(以下、「相違点1」という。なお、下線部は、理解の一助のため、当審で付した。)。

(2)噴射量徐変手段が、燃料噴射量に関する値を所定の勾配で増加させることに関して、本願発明においては、「前回の要求噴射量に加算噴射量を加えて今回の要求噴射量を算出していく」のに対し、引用文献記載の発明においては、「前回の回転制限値Kに変化量ΔKを加えて今回の回転制限値Kを算出していく」点(以下、「相違点2」という。)。


第4.当審の判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
本願発明において、「噴射量切換え手段」と、「ドライバー要求噴射量算出手段」の2つの手段によって、アクセル開度による燃料噴射を中断するごとく記載されているが、本願の明細書を参酌すると、「噴射量切換え手段」が「ドライバー要求噴射量算出手段」に命令を出力して、アクセル開度による燃料噴射を中断するのであるから、結局、1つの手段によりアクセル開度による燃料噴射を中断するのと同じことである。
そうすると、引用文献記載の発明において、「前記制限値計算手段による車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点から、アクセル信号ACによる燃料噴射を中断する回転数徐変手段」を備え、「前記回転数徐変手段は、車輌の発進制御中の機関回転速度の制限の解除の終了時点からアクセル信号ACによる燃料噴射を回転制限値Kに相当する量に抑え」るものと、本質的に相違しないものである。
なお、変速時等の車両の運転状態の切換え時に、エンジンのアクセル開度による燃料噴射を一時的に中断して、他のパラメータによる燃料噴射を行う噴射量切換え手段を設けることは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例、特開平4-71935号公報の特許請求の範囲等、特開平5-338471号公報の特許請求の範囲等参照。)でもある。
したがって、相違点1に係る本願発明のように特定することは、引用文献記載の発明に基づいて、当業者が格別困難なく想到できたことであり、また、引用文献記載の発明に、前記周知技術1を適用することによって、当業者が容易に想到できたことでもある。
そうすると、相違点1に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用文献記載の発明において、回転制限値Kは、コントロールラック2aの位置MPに対応しており、コントロールラック2aの位置は、燃料噴射量に対応していることから、回転制限値Kは、燃料噴射量に対応しているといえる。
ゆえに、引用文献記載の発明において、回転制限値Kに変化量ΔKを加算してK+ΔKとすることは、本願発明において、前回の燃料噴射量に加算噴射量を加えて今回の燃料噴射量を算出していくことに対応しているといえる。
また、車両の運転状態の切換え時に、「燃料噴射量」を所定の勾配で増加させて噴射量制御手段に送る噴射量徐変手段は、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例、特開平3-111649号公報の特許請求の範囲等、特開平11-236840号公報の特許請求の範囲等参照。)である。
したがって、「燃料噴射量に関する値を次第に増加させる制御」として、「回転制限値の値を所定の勾配で増加させる」制御に換えて、同じ車両の燃料噴射制御の技術分野に属する、前記周知技術2を適用することは、当業者が容易に想到できたことである。
また、その際、噴射量制限手段、噴射量制限解除手段、噴射量切換え手段等の手段と、前記周知技術2を組み合わせることも、両者が同じ車両の燃料噴射制御の技術分野に属する技術であることを考慮すると、当業者にとり格別困難なこととは認められない。
そうすると、相違点2に係る本願発明のように特定することは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

第5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-19 
結審通知日 2008-11-25 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願2002-92018(P2002-92018)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河端 賢  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 金澤 俊郎
森藤 淳志
発明の名称 車両の自動変速装置  
代理人 古谷 史旺  

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