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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1192934
審判番号 不服2006-20803  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-19 
確定日 2009-02-16 
事件の表示 特願2002-345847「無線LAN端末及び無線LAN基地局並びに無線通信方法及びローミング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日出願公開、特開2004-180121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年11月28日の出願であって、平成18年2月14日付けの拒絶理由通知に対し、同年4月17日付けの手続補正書が意見書とともに提出され、さらに、同年5月11日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月14日付けの手続補正書が意見書ととも提出されたところ、同年8月15日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月19日付け手続補正書により審判請求書の請求の理由が補充されたものである。

拒絶査定は、「この出願については、平成18年5月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」としているが、
・拒絶査定の備考欄では、平成18年2月14日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由が依然として解消されていないことが詳述されており、平成18年5月11日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由に関しては言及されておらず、
・さらに、拒絶査定の対象である平成18年7月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-4の記載内容を併せて勘案すると、
当該拒絶査定は、本来であれば「平成18年2月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」とすべきところを、誤って異なる日付の拒絶理由通知書を引用したことが明らかと認められる。

ここで、請求の理由(平成18年10月19日付け手続補正書)の記載についてみると、具体的な主張として、第2頁第24-44行には(平成18年2月14日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由について論じた)拒絶査定の備考欄の記載に対して逐一反論する形で本願発明が特許されるべき理由が記載されている一方、平成18年5月11日付け拒絶理由通知書の拒絶の理由に対しては具体的な主張はなされていない。
以上のような状況を踏まえると、審判請求人は、原査定が(正しい日付の拒絶理由通知書である)平成18年2月14日付け拒絶理由通知書に記載された理由が解消していないことをいうものであると認識した上で、これが解消していることを請求の理由とし、拒絶査定に対する審判の請求に及んでいるものと解せるので、以下、平成18年2月14日付け拒絶理由通知書に記載された理由に基づいて、その拒絶査定の内容を審理する。

2.本願発明
特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年7月14日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「他の無線LAN(Local Area Network)端末から無線LANパケットを受信する受信手段と、
他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケット及び自端末の上位層から受け取った無線LANパケットに自端末のMAC(Media Access Control)アドレスを送信元MACアドレスとして有し、無線LAN基地局のMACアドレスを宛先MACアドレスとして有するヘッダを付加することにより、他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケット及び自端末の上位層から受け取った無線LANパケットをOSI(Open Systems Interconnection)第2層においてカプセル化するカプセル化手段と、
カプセル化された他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケット及び自端末の上位層から受け取った無線LANパケットを前記無線LAN基地局に送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする無線LAN端末。」

3.引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願の日前の平成14年7月12日に公開された特開2002-198892号公報(以下、「引用例1」という。)には、「無線中継方式」として図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は無線通信におけるデータ伝送に関する。」
(第2頁第2欄、段落1)

イ.「【0004】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の無線中継方式は、端末を中継局として利用し、基地局までの中継ルートを設定することにより、中継局用装置の設計及び設置を不要にし、設備コストを低減したものである。即ち本発明の無線中継方式は、基地局と端末間を無線回線で接続し通信を行なう無線通信システムにおいて、前記端末の少なくとも1つを中継局として利用し、前記基地局までの中継ルートを設定したものである。」
(第3頁第3欄、段落4)

ウ.「【0011】
【発明の実施の形態】本発明をIEEE802.11無線LANに適用した場合について、以下説明する。802.11は、無線LANの物理レイヤ、MAC(Media Access Control)レイヤについての規格であり、MACレイヤはOSI7レイヤのデータリンクレイヤの下層に対応するものである。図1は本発明の一実施例を示す端末及び基地局のブロック構成図である。図1に示す端末10の構成は、無線部11、変復調部12、ベースバンド処理部13、MAC処理部14、端末登録テーブル141、制御部15、パソコン等に接続する外部インタフェース部16より構成される。また、基地局19の構成も、同様に、無線部11、変復調部12、ベースバンド処理部13、MAC処理部14、端末登録テーブル141、制御部17、ネットワーク等に接続する有線インタフェース部18より構成される。ここで、MAC処理部14は無線区間のアクセス制御を、制御部15と17はMACレイヤより上位のプロトコル処理及び装置全体の制御を行なう。
【0012】端末10または基地局19が送信を行なう場合には、MAC処理部14は送信フレームを生成し、生成された送信フレームをベースバンド処理部13にて無線区間フォーマットへ変換後、変復調部12にて変調し、無線部11にて無線信号として送信する。一方、端末10または基地局19が受信を行なう場合には、無線部11にて無線信号を受信し、変復調部12にて受信信号を復調し、ベースバンド処理部13にて、無線区間フォーマットから受信フレームを復元し、MAC処理部14は受信フレームの処理を行なう。
【0013】端末10-基地局19間でやり取りされる信号には、MAC処理部14間の制御信号、制御部14-制御部17間の制御信号、外部インタフェース部16と有線インタフェース部18間での送受信データなどがある。外部インタフェース部16と有線インタフェース部18間での送受信の場合には、MAC処理部14が、外部インタフェース部16または有線インタフェース18から供給されるデータを入力としMACフレームを生成して送信し、また、MACフレームから元のデータを復元し、外部インタフェース部16または有線インタフェース部18にデータを供給する。制御部14-制御部17間の制御信号のやり取りも同様である。
【0014】IEEE802.11では、MACレイヤで定義されるフレームフォーマットはアドレスエリアを4つ持ち、パケットの送信元アドレスや宛先アドレスの他、無線区間での送信元アドレスや受信先アドレスを設定可能であり、MACレイヤでのパケット中継が可能な構成となっている。パケットの送信元アドレスと宛先アドレスは、上位層からのプリミティブにより設定されるが、無線区間での送信元アドレスや受信先アドレスの決定方法は規格の範囲外である。
【0015】図1?図3及び図10を用いて、本発明の一実施例の中継動作について説明する。図3は本発明の中継を行なう場合のMACフレームアドレス構成の一実施例を説明する図である。また、図10に基地局及び端末の端末登録テーブルの一実施例を示す図である。また、図2は本発明を適用するシステムの一実施例の構成図である。このシステムは、基地局A21、基地局B22と端末a23、端末b24、端末c25、端末d26、端末e27で構成される。基地局A21と基地局B22は有線ネットワーク28に接続され、楕円で囲まれたエリア201は基地局A-端末a間で通信可能なエリア、楕円で囲まれたエリア202は基地局B-端末e間で通信可能なエリア、楕円で囲まれたエリア203は端末a-端末b間で通信可能なエリア、楕円で囲まれたエリア204は端末b-端末d間で通信可能なエリア、楕円で囲まれたエリア205は端末b-端末c間で通信可能なエリアを示している。
【0016】図2で示されるように、端末a23は基地局A21と、端末e27は基地局B22と直接通信可能であるが、他の端末b24、端末c25、端末d26は基地局A21及び基地局B22とは直接通信できない。端末b24が通信を開始する場合、周辺の通信可能な端末をスキャンするため、端末b24のMAC処理部14(図1)がProb Request信号を生成して送信する。端末a23のMAC処理部14は、端末b24から送られてきたProb Request信号に対してProb Response信号を生成して応答する。また、この応答の時に、基地局A21または基地局B22への中継段数を同時に通知する。以下、信号はMAC処理部14で生成され、判別処理される。端末c25、及び端末d26も同様に、基地局A21または基地局B22への中継段数をProb Response信号応答時に通知する。
【0017】端末b24はProb Response信号を受信した端末の中から、最も基地局への中継段数が少ない端末a23を選択して、認証処理終了後、端末a23に帰属する。そして、帰属に際し、Association Request信号と同時に中継登録要求を行なう。端末a23は、端末b24から、Association Request信号と同時に中継登録要求を受信した場合、帰属する基地局A21に中継登録要求を行ない、端末b24のMACアドレスを通知する。端末a23からの中継登録要求を受信した基地局A21は、端末登録テーブルに、端末b24のMACアドレスと対応する中継端末となる端末a23のMACアドレスを登録する。図10(a)に示す図は、基地局A21の端末登録テーブルを示す。
【0018】基地局A21は、登録を完了すると、端末a23に対して中継登録応答で、登録の結果を通知する。端末a23は端末b24のMACアドレスを端末登録テーブルに登録し、登録結果をAssociation Response信号と同時に端末b24に通知する。図10(b)に示す図は、端末a23の端末登録テーブルを示す。上記の登録完了後、基地局A21は、端末b24宛のデータを受信した場合、端末登録テーブルを参照し、対応する中継端末a23に送信処理を行なう。また、端末a23は端末登録テーブルに登録されている端末からの送信データを基地局A21へ中継するよう動作し、中継機能を実現する。図3において、端末b24は、中継登録処理終了後、自局が帰属する端末a23のアドレスと自局の中継段数を、端末a23の中継段数+1に設定し、MAC処理部14に記憶する。図3のMACフレームアドレス31は、端末b24から端末a23に送信する場合のアドレス構成である。また、MACフレームアドレス32は、端末a23から基地局A21に送信する場合のアドレス構成である。」
(第3頁第4欄-第4頁第6欄、段落11-18)

エ.「【0028】
【発明の効果】本発明によれば、以下の効果が期待できる。端末を中継局に使用できるので、専用中継装置の開発、設置は不要になり、設備コスト削減に有効である。基地局及び中継用端末は登録端末のアドレスと対応する中継用端末アドレスをメモリに登録しておけばよく、中継ルート全体の情報を記憶する必要がないため、少ないメモリと簡易な処理で中継機能が実現できる。既存の無線LANフレームフォーマットを拡張して中継機能が実現できるため、短期間の開発が期待できる。802.11フレームを拡張して中継機能を実現できるためシステム内にて802.11準拠動作と独自動作の混在が可能である。中継アドレスの決定をMACレイヤで行なうので、上位レイヤは中継処理を意識する必要がなく、既存の上位プロトコルをそのまま使用できる。中継用端末での折り返し通信が可能なので、システム全体のトラフィック低減に有効である。」
(第6頁第9欄、段落28)

(A)上記ウ.における端末aについて着目すると、その内部構成は図1に端末10として記載された、無線部11、変復調部12及びベースバンド処理部を含むものであり、上記ウ.の段落12の「…端末10または基地局19が受信を行う場合には、無線部11にて無線信号を受信し、変復調部12にて受信信号を復調し、ベースバンド処理部13にて、無線区間フォーマットから受信フレームを復元し…」の記載から、無線部11、変復調部12及びベースバンド処理部13は、それらが集合して「受信手段」を形成するものということができる。
そして、端末aは、他の端末bが基地局Aと直接通信できない場合(上記ウ.段落16の「…端末a23は基地局A21と…直接通信可能であるが、他の端末b24…は基地局A21…とは直接通信できない」を参照。)に、他の端末bからの送信データを基地局Aへ中継するように動作するもの(上記ウ.段落18の「…また、端末a23は端末登録テーブルに登録されている端末からの送信データを基地局A21へ中継するよう動作し、中継機能を実現する。…」を参照。)であることが読み取れる。ここで、他の端末bからの送信データは、上記ウ.の段落13の「…MACフレームを生成して送信し…」及び図4(a)の“一般のMACフレームフォーマット”の記載から、形式としてはMACフレームであるから、端末aが中継動作を行う時の前記「受信手段」は「他のLAN端末bからMACフレームを受信する」ものであるということができる。

(B)端末aが基地局Aへ中継する際のMACフレームのヘッダ(アドレス構成)について着目すると、

(a)「…また、図3のMACフレームアドレス32は、端末a23から基地局A21に送信する場合にアドレス構成である。」(上記ウ.段落18)と記載され、第3図にはそのアドレス構成として「基地局A」「端末a」「宛先端末」及び「端末b」が記載されており、

(b)上記ウ.の段落14にはアドレスエリアとして、「パケットの送信元アドレス」「(パケットの)宛先アドレス」「無線区間での送信元アドレス」及び「(無線区間での)受信先アドレス」の4つのアドレスが示されており、端末aが基地局Aへ中継する際には、第3図のアドレス構成における「基地局A」「端末a」「宛先端末」及び「端末b」が、それぞれ「無線区間での受信先アドレス」「無線区間での送信元アドレス」「パケットの宛先アドレス」「パケットの送信元アドレス」に該当すると解することができ、

(c)「…基地局A21は、端末登録テーブルに、端末b24のMACアドレスと対応する中継端末となる端末a23のMACアドレスを登録する…」(上記ウ.段落17)という記載から、端末aが基地局Aへ中継するにあたりMACアドレスをたよりに中継することは明らかであるから、上記(b)の「無線区間での送信元アドレス(第3図「端末a」)」「無線区間での受信先アドレス(第3図「基地局A」)」は、両者ともにMACアドレスということができる。

(d)上記(a)?(c)の対応関係からすると、端末aを「自端末」とすれば、第3図のアドレス構成における「端末a」は、アドレスとしては、「自端末aのMACアドレス」であり、中継における「送信元MACアドレス」ということができる。同様に「基地局A」は、アドレスとしては、「基地局AのMACアドレス」であり、中継における「受信先(宛先)MACアドレス」ということができる。

(e)また、引用例1では、端末aが他の端末bから受信したMACフレームについて、どの部分を中継するかについて記載されていないが、少なくともMACフレームに含まれていたデータについて中継することは自明な事柄である。当該データを端末aが基地局Aへ中継するために上記(B)(詳細は上記(a)?(d))のようなMACフレームのヘッダと関連付けられることは明らかであり、これによるMACフレーム全体の構成は第4図(a)の“一般のMACフレームフォーマット”に準ずるものになると解せる。ここで、当該ヘッダは第4図(a)の“MACヘッダ”部分にあたるものと解することができ、端末aが他の端末bから受信したMACフレームに含まれていたデータは、MACレイヤ上の処理として、MACフレーム全体におけるペイロード部分(第4図(a)のMACフレームフォーマットにおいて、0?2312オクテットの長さを取り得る“Frame Body”の部分)に挿入されることは明らかである。

(C)上記ウ.の段落12には「端末10または基地局19が送信を行う場合には、MAC処理部14は送信フレームを生成し…」と記載されているから、上記(B)に示された、端末aが基地局Aへ中継する際のMACフレームの作成は、MAC処理部14が担うものである。

(D)上記(C)で作成されたMACフレームは、上記ウ.段落12の「…生成された送信フレームをベースバンド処理部13にて無線区間フォーマットへ変換後、変復調部12にて変調し、無線部11にて無線信号として送信する。」の記載から、ベースバンド処理部13、変復調部12及び無線部11が集合してなる「送信手段」によって送信されるということができる。

(E)引用例1における端末a及び端末bは無線LAN端末であり、基地局Aは無線LAN基地局であることは、上記ア.?エ.から明らかなことである。

上記(A)?(E)を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「他の無線LAN端末bからMACフレームを受信する受信手段と、
他の無線LAN端末bから受信した前記MACフレームに含まれるデータと、自端末aのMACアドレスを送信元MACアドレスとして有し、無線LAN基地局AのMACアドレスを宛先MACアドレスとして有するヘッダとの関連付けにより、他の無線LAN端末bから受信したMACフレームに含まれるデータをMACレイヤにおいてペイロードに挿入するMAC処理部と、
挿入された他の無線LAN端末bから受信したMACフレームに含まれる前記データを前記無線LAN基地局Aに送信する送信手段と、
を備える無線LAN端末。」


(2)原査定の拒絶の理由で引用された特開平11-136257号公報(以下、「引用例2」という。)には、従来の無線式データ通信装置として、図面とともに以下の事項が記載されている。

オ.「【0002】
【従来の技術】図4において、無線式データ通信装置の1形態としての例えばPOSシステムは、パーソナルコンピュータ(PC)等からなる上位機10(10A,10B)に有線通信回線(例えば、有線LAN)1を介して複数の無線基地局20A,20B,…,20Nが有線通信接続され、かつ各無線基地局20A,20B,…,20Nが少なくても各1つの無線子局30(図4では、N台…30A1,30A2,…,30AN)と無線通信接続され、上位機10と各無線子局30との間で当該各無線基地局20を介してデータ通信するものと形成されている。各無線子局30には、有線通信回線(例えば、有線LAN)1を介して複数の電子キャッシュレジスタからなるターミナル機が有線通信接続されている。
【0003】ところで、有線通信回線(例えば、有線LAN)1上で動作する通信プロトコルには、インターネット等で使用されている周知のTCP/IP(論理通信アドレス)が採用される場合が多い。このTCP/IPを採用した通信では、各ノード(PC)の識別にIP(Internet Protocol)アドレスとMAC(Media Access Contorol)アドレスを使う。
【0004】通常、IPアドレスは、LAN管理者によって各PC(10)に固有として割り当てられる。PC上で動作するアプリケーションが相手方を指定する上で重要なものである。一方のMACアドレス(物理通信アドレス)は、LAN機器の製造時点に固定的に決められ、以後に変更されることは非常に少ない。むしろ、使用上は意識しなくてもよい。
【0005】ここに、TCP/IPの通信フレームは、図5に示すように、送信元および送信先のそれぞれについて上記2つのアドレス(IPアドレスおよびMACアドレス)を指定するものとされている。通常、各PC(10)のIP層では、図6に示すごとく、IPアドレスとMACアドレスとの対応をアドレス管理テーブル13Tで管理している。例えば、PC(10A)についてのIPアドレスが概念的に表わした“IP10A”でこれに対応するMACアドレスが“MAC10A”であり、無線基地局20Aの場合は“IP20A”と“MAC20A”とが対応する。
【0006】なお、アドレス管理テーブル13TにないIPアドレスのPC[10(30)]宛へ送信要求が発生した場合には、物理通信アドレスの解決プロトコルであるARP(Address Resolution Protocol)によってMACアドレスを取得し、アドレス管理テーブル13Tに新たに登録する。
【0007】無線基地局20と配下の無線子局30との間の無線通信は、例えばIEEE802.11で規格化され、有線LAN(1)上のフレームに無線区間に固有のヘッダーを付加するものとされている。図7にBSSID(無線セル番号)を含む無線通信フレームのヘッダーを示す。このBSSIDは、各無線基地局20に固有な識別子して用いられる。
【0008】例えば、各無線基地局20と当該各無線子局30との接続対応を図8に示すものとし、かつ各PC(10)のIPアドレスとMACアドレスの対応を図9に示すものとした場合、各PC(10)と各無線子局30との通信フレームは、図10に示すものとなる。BSSID,送信先MACアドレスおよび送信元MACアドレスが、無線ヘッターである。
【0009】ここに、各無線基地局20は、有線LAN(1)と無線子局30との橋渡しをするいわゆるブリッジ機能を有するので、有線LAN(1)上を流れるパケット(図5参照)は全て受信し、その送信先MACアドレスが配下の無線子局30を示しているか否かを判別する(図12のST30のYES、ST31のNO、ST36)。無線子局30である場合(ST36のYES)には、無線ヘッダーの送信先アドレスを有線フレームの送信MACアドレスにセット(ST37)して、当該無線子局30へ個別無線送信(ST38)する。」
(第2頁第2欄-第3頁第3欄、段落2-9)

引用例2の従来の無線式データ通信装置は、有線LAN(1)上を流れるパケットを、当該有線LAN(1)に接続された無線基地局20(送信局)が無線子局30(受信局)へブリッジ機能により無線送信するものであるが(上記オ.の段落9)、その際には、無線区間に固有のヘッダーを付加する(上記オ.の段落7)ものである。
引用例2第5図には有線LAN(1)上を流れるパケットが図示されており、第7図には当該パケットに付加される固有のヘッダーが図示されている。ここで、当該ヘッダーには“BSSID”と記載されているが、BSSIDが無線アクセスポイントのMACアドレスと変わらないものであることは技術常識だから、無線基地局20(送信局)が無線子局30(受信局)へ無線送信する場合には、当該“BSSID”は、無線基地局20(送信局)のMACアドレスであって、無線区間における「送信元MACアドレス」ということができる。また、当該ヘッダーにおける“送信先MACアドレス”は、無線子局30(受信局)のMACアドレスであって、無線区間における「宛先MACアドレス」ということができる。
また、引用例2第5図に図示された有線LAN(1)上を流れるパケットに対し、第7図に図示された固有のヘッダーが付加されることで、MACレイヤ上の処理として固有のヘッダーに続くペイロード部分に当該パケット全体が包みこまれた形となり(第10図、上記オ.の段落8参照)、無線区間においてはペイロード部分の中身は意識されずに専らMACアドレスをたよりに伝送が行われることは明らかだから(上記オ.の段落7「…IEEE802.11で規格化…」、段落9「…無線ヘッダーの送信先アドレスを有線フレームの送信MACアドレスにセット(ST37)して、当該無線子局30へ個別無線送信(ST38)する。」を参照。)、これをいわゆる“カプセル化”ということができる。
以上の引用例2の記載を勘案すると、引用例2において、中継されるデータ(ブリッジされるデータ)は、有線LAN(1)上を流れるパケット全体ということができ、無線送信局20(送信局)を自送信局とすれば、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「パケット全体を中継するものであって、当該パケットに自送信局のMACアドレスを送信元MACアドレスとして有し、受信局のMACアドレスを宛先MACアドレスとして有するヘッダを付加することにより、当該パケットをMACレイヤにおいてカプセル化する、送信局。」


(3)原査定の拒絶の理由で周知例として引用された特開2000-316023号公報(以下、「周知例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

カ.「【0027】次に、上記伝送装置1、1’を用いて実際にパケットを伝送する場合の実施形態を説明する。ここでは、図2に示すような通信形態を想定する。即ち、端末A、B、C、D及びFから伝送装置1及び伝送装置1’を介して端末A’、B’、C’、D’及びF’へとパケットを伝送する際に、端末A→A’間の通信品質要求がabps、端末B→B’間の通信品質要求がbbps、端末C→C’間の通信品質要求cbps、端末D→D’間における通信品質要求がdbpsであり、端末F→F’間については、通信品質要求がないものとする。
【0028】まず、図4に示したように、端末A、B、C及びFから端末A’、B’、C’及びF’へパケットを伝送する場合の手順を図3を参照して説明する。端末A、B、C及びFからパケットを受信すると、伝送装置1は、まず、パケット解析部121でそのパケットの解析及び分類を行い、通信品質要求メッセージが含まれているか否かを判定する(ステップS201:Yes,S202,S203)。端末A,B,Cからのパケットについては、通信品質要求メッセージが含まれているので、パケット解析部121は、これを通信品質要求部122へ送る。通信品質要求部122は、この通信品質要求メッセージを統合し、新付加情報を生成する(ステップS203:Yes、S204)。新付加情報の生成に際しては、カプセル化する前の通信品質要求メッセージが要求するパケット量を総和し、もしくはカプセル化する前のパケット量の総和+Δとして、新付加情報(a+b+c)bps乃至(a+b+c+Δ)bpsを生成する。Δは、カプセル化によるデータ長の増加や「通信品質を要求していない通信データのための余分な帯域割り当てを考慮したものであり、例えば伝送装置のユーザが決定する内容のデータである。
【0029】新付加情報の生成後、あるいはステップS203において通信品質メッセージが含まれていないパケット(端末Fからのパケット)の場合は(ステップS203:No)、新付加情報をもとに統合部123でこれらの各パケットを統合する(ステップS205)。具体的には、通信品質が要求されているパケットについては、個々のパケットを送信した各端末の通信品質要求メッセージにある通信品質の値(パケットサイズ)分を限度として、カプセル化のためのデータ(あるいはパケット)を取り出す。例えば端末A→A’間通信用の受信キューから最大abpsのデータ、端末B→B’間通信用の受信キューから最大bbpsのデータ、端末C→C’間の通信用受信キューから最大cbpsのデータを、それぞれ取り出す。このとき、新付加情報で規定される伝送量制限(a+b+c)bps乃至(a+b+c+Δ)bpsがカプセル化のためのデータ量よりも大きい場合、それが通信品質要求のないパケットのものであれば、差分を限度としてデータを取り出す。そしてこれらを統合して統合データを生成する。
【0030】カプセル化部124は、この統合データをカプセル化してカプセル化データを生成し、これを送信キュー132に格納する(ステップS206)。このカプセル化データは、データ送受信機構11から新付加情報と共に伝送路へ伝送される(ステップS207)。なお、送信キュー132の実装方式、例えばWFQ、CBQなどに関しては、上述の処理が可能なものであれば、どのような方式でも構わない。
【0031】カプセル化データを受け取った伝送装置1’は、そのカプセルを解き、元のパケット及び通信品質要求メッセージを取り出す。この処理は、上述の処理を逆方向に行うことで実現される。元のパケット及び付加情報は、伝送装置1’から各端末A’、B’、C’及びF’へと送られる。」
(第5頁第8欄-第6頁第9欄、段落27-31)

上記カ.の段落27の「…端末A、B、C、D及びFから伝送装置1及び伝送装置1’を介して端末A’、B’、C’、D’及びF’へとパケットを伝送する際に…」の記載からは、送信元が別々のパケットが発生することを読みとることができ、上記カ.の段落29及び30の「…そしてこれらを統合して統合データを生成する。…カプセル化部124は、この統合データをカプセル化してカプセル化データを生成し、これを送信キュー132に格納する(ステップS206)。このカプセル化データは、データ送受信機構11から新付加情報と共に伝送路へ伝送される(ステップS207)…」の記載から、これらのパケットがまとめてカプセル化されることを読みとることができる。
以上の周知例の記載からして、

「送信元が別々のパケットをまとめてカプセル化する方法。」

は周知技術と認められる。

4.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
本願発明の「無線LANパケット」は、引用発明1の「MACフレーム」に対応するものであるが、本願発明の「無線LANパケット」とは、例えば本願図5の無線LAN信号301や図7の無線LAN信号321に示されるように、MACアドレスをヘッダとしたものを概念化し「無線LANパケット」と称したものであることを勘案すると、結局のところ引用発明1の「MACフレーム」と実体上の差異はない。
本願発明のヘッダの「付加」と、引用発明1のヘッダの「関連付け」とを対比すると、ヘッダを「付加」することは、ヘッダを「関連付け」ることの一態様と見なせるから、両者は、ヘッダの「関連付け」を行う点において共通している。
本願発明の「OSI第2層においてカプセル化するカプセル化手段」と、引用発明1の「MACレイヤにおいてペイロードに挿入するMAC処理部」とを対比すると、引用発明1の「MACレイヤ」は、本願発明の「OSI第2層」に相当し、本願発明の「カプセル化」はペイロードに挿入する際の、挿入の一態様(パケット全体のデータを挿入すること)とみなせるから、両者は「OSI第2層においてペイロードに挿入する手段」である点で共通している。
また、中継されるデータについて、本願発明と引用発明1とを対比すると、本願発明では「無線LANパケット」、すなわちパケット全体のデータであるのに対し、引用発明1では「MACフレーム(無線LANパケット)に含まれるデータ」である。ここで、両者は少なくとも、「無線LANパケットを元に得られたデータ」という点で共通している。
よって、本願発明と引用発明1とは、

(一致点)
「他の無線LAN(Local Area Network)端末から無線LANパケットを受信する受信手段と、
他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケットを元に得られたデータに自端末のMAC(Media Access Control)アドレスを送信元MACアドレスとして有し、無線LAN基地局のMACアドレスを宛先MACアドレスとして有するヘッダを関連付けることにより、他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケットを元に得られたデータをOSI(Open Systems Interconnection)第2層においてペイロードに挿入する手段と、
ペイロードに挿入された他の無線LAN端末から受信した前記無線LANパケットを元に得られたデータを前記無線LAN基地局に送信する送信手段
と、
を備える無線LAN端末。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
中継されるデータ(無線LANパケットを元に得られたデータ)について、本願発明は、「無線LANパケット」、すなわちパケット全体のデータであるのに対し、引用発明1では「MACフレーム(無線LANパケット)に含まれるデータ」である点。

(相違点2)
本願発明は、ヘッダの関連付けの態様が「付加すること」であり、ペイロードに挿入する手段の態様は「カプセル化するカプセル化手段」であるのに対し、引用発明1は、ヘッダの関連付けの態様は不明であり、ペイロードに挿入する手段の態様は「MAC処理部」である点、

(相違点3)
カプセル化に際し、本願発明は「自端末の上位層から受け取った無線LANパケット」も併せてカプセル化するのに対し、引用発明1はそのような構成は備えていない点。


5.当審の判断
相違点1及び相違点2について検討する。
再掲すると、引用例2には「パケット全体を中継するものであって、当該パケットに自送信局のMACアドレスを送信元MACアドレスとして有し、受信局のMACアドレスを宛先MACアドレスとして有するヘッダを付加することにより、当該パケットをMACレイヤにおいてカプセル化する、送信局。」の発明(引用発明2)が開示されており、引用発明1の中継機能を有する無線LAN端末に、引用発明2を適用することに阻害要因は認められない。
よって、引用発明1において中継されるデータを「無線LANパケットに含まれたデータ」に換えて、「パケット全体」、即ち「無線LANパケット」とし、さらに、ヘッダの関連付けを「付加すること」とし、ペイロードに挿入する手段の態様を「カプセル化するカプセル化手段」とし、相違点1及び相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

次に相違点3について検討する。
引用例1の端末aに関し、上記ウ.の段落11には「…制御部15と17はMACレイヤより上位のプロトコル処理及び装置全体の制御を行なう。」と記載され、一般に、端末(パソコン)がアプリケーション(上位層)を動作させて発生したデータを無線伝送することは極めて周知であることも踏まえると、引用発明1の無線LAN端末(端末a)が「自端末の上位層」から「無線LANパケット」を発生していることは示唆されているといえる。その際、「送信元が別々のパケットをまとめてカプセル化する方法。」という前記周知技術を勘案して、他の無線LAN端末からの無線LANパケットのみならず、「自端末の上位層から受け取った無線LANパケット」も併せてカプセル化して、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-12 
結審通知日 2008-12-15 
審決日 2009-01-05 
出願番号 特願2002-345847(P2002-345847)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽岡 さやか  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 柳下 勝幸
萩原 義則
発明の名称 無線LAN端末及び無線LAN基地局並びに無線通信方法及びローミング方法  
代理人 山下 穣平  
代理人 永井 道雄  

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