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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1193057
審判番号 不服2006-6643  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-07 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 特願2001-215672「全流フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 8日出願公開、特開2002-126412〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年7月16日(パリ条約による優先権主張2000年7月14日、米国)の出願であって、平成18年1月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月7日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成18年4月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「軸方向に延びるハウジングとひだ付きフィルタ要素を含む全流フィルタであって、該ひだ付きフィルタ要素は円筒形状であり、この環状ループ内に複数のひだを備えて、複数の外側のひだの先端部によって定められる外周縁と複数の内側のひだの先端部によって定められる内周縁を有し、この際、
前記環状ループは前記軸方向に沿って延びる中空室を有し、前記ひだは前記内側と外側のひだの先端部の間に蛇行するように延びる壁部分を形成し、前記壁部分は上流及び下流端部の間で軸方向に延びかつこれらの間に軸方向の流路を定め、前記壁部分の上流端部は交互に互いにシールされて前記上流端部で開口する流路の第1セットと、そして該流路の第1セットと互いに組み合わされかつ前記上流端部で閉口する流路の第2セットを定め、さらに前記壁部分の前記下流端部は交互に互いにシールされて、前記流路の第1セットの下流端部は閉口し、かつ前記流路の第2セットの下流端部は開口するため、流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記ハウジング内で、前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に、流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れることを特徴とする全流フィルタ。」
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ひだ付きフィルタ要素」について「該ひだ付きフィルタ要素は円筒形状であり」との限定を付加し、同じく流体が「前記フィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に流れる」ことについて「前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に、流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成7年1月13日に頒布された特開平7-8735号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-a)「フィルタエレメント縦方向に延びる1連のひだを形成するように、半径方向に内側の周面と、半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成された中空の大体において円筒形のフィルタエレメントを備え、前記各ひだに、半径方向に外側の縦方向に延びる外縁部と、半径方向に内側の縦方向に延びる内縁部とを設け、・・・て成る高速エアフィルタ。」(【請求項1】)
(1-b)「空気をハウジング内に吸引し又は押込みこの空気を流れが充満するひだを付けたろ過材を持つフィルタユニットを通過させて空気中で運ばれる汚れたじんあい粒子及びその他の汚染物を除くようにしたエアフィルタはよく知られた装置である。このようにして実質的に清浄な空気を内燃機関のような使用場所に進ませることができる。」(段落【0002】)
(1-c)「図1には本発明による高速エアフィルタアセンブリを例示してある。・・・このエアフィルタアセンブリは、フィルタエレメント12を内部に取付けたハウジング10を備えている。」(段落【0009】)
(1-d)「フィルタエレメント12は、空気が最初にフィルタエレメント12を通過しないで空気出口20から出ることができないようにハウジング10の空気入口18及び空気出口20の間に挿入してある。」(段落【0010】)
(1-e)「空気入口18を図1に示すようにフィルタエレメント12の一端部にその縦方向軸線に沿って位置させた・・・。デフレクタ28は空気の流れをフィルタエレメント12の外部に沿い下方に各ひだ22の外面間に軸線方向に差向ける。空気は、フィルタエレメント12の側部を経てその内部に流れ次いで空気出口20を通過する。」(段落【0012】)
(1-f)【図1】(第6頁)には、「本発明のフィルタエレメントを使った高速エアフィルタアセンブリの縦断面図」として、上記記載事項(1-c)乃至(1-e)の技術的事項が図示され、「ハウジング10は縦方向軸線に沿って延びていること」が見て取れる。
(1-g)【図2】(第6頁)には、「図1の2-2線に沿う断面図」が示され、「フィルタエレメント12の一連の複数のひだは環状ループを形成している」ことが見て取れる。

引用例1の記載事項(1-a)には「フィルタエレメント縦方向に延びる1連のひだを形成するように、半径方向に内側の周面と、半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成された中空の大体において円筒形のフィルタエレメントを備え、前記各ひだに、半径方向に外側の縦方向に延びる外縁部と、半径方向に内側の縦方向に延びる内縁部とを設けて成るエアフィルタ」が記載され、記載事項(1-g)より、その一連のひだは環状ループを形成しているものである。そして、記載事項(1-c)乃至(1-f)より、前記エアフィルタは、更に、縦方向軸線に沿って延びるハウジングを備えており、ハウジングの内部にフィルタエレメントが取り付けられていることが明らかである。そして、記載事項(1-e)より、空気入口からエアフィルタ内に流入した空気は、フィルタエレメントの各ひだの外面間に軸線方向に流れ、フィルタエレメントの側部を経てその内部に流れ次いで空気出口を通過するものであるといえる。そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「縦方向軸線に沿って延びるハウジングと、ハウジングの内部に、縦方向に延びる1連のひだを形成し、複数のひだで環状ループを形成するように、半径方向に内側の周面と、半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成された中空の大体において円筒形のフィルタエレメントとを備え、前記各ひだに、半径方向に外側の縦方向に延びる外縁部と、半径方向に内側の縦方向に延びる内縁部とを設けて成るエアフィルタであって、空気入口からこのエアフィルタ内に流入した空気は、フィルタエレメントの各ひだの外面間に軸線方向に流れ、フィルタエレメントの側部を経てその内部に流れ、次いで空気出口を通過するものであるエアフィルタ。」

(2)また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である昭和62年9月5日に頒布された特開昭62-201621号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-a)「所定間隔でひだの折り目を有し、該折り目の1つおきの一方側端に山形の折り目を有し一方側端の表面および他方側端の裏面に接着剤を設けた矩形のシート状"ろ"(三水に戸)(以下、「濾」と記す。)紙を、前記折り目にそってひだ折り加工し両終端を接合して環状の傾斜型濾過体とし・・・たフィルタエレメント。」(特許請求の範囲)
(2-b)「本願は、たとえば内燃機関用エアクリーナに用いられるフィルタエレメントに関する。」(第1頁左下欄14行?15行)
(2-c)「〔発明が解決しようとする問題点〕
従来のフィルタエレメント10・・・。また、フィルタエレメント10の内周部は、外周部に比し小径となっており、ひだの密度が大となるので、吸入エア出口側での流通抵抗が高くなるという問題がある。」(第1頁右下欄17行?第2頁左上欄11行)
(2-d)「フィルタエレメント20は、第2図、第3図のように、矩形のシート状濾紙31をひだ折りしたもの両終端を接合して環状の濾過体32とし、・・・。矩形のシート状濾紙31は、所定間隔の、ひだの折り目36が設けられ、また一方側端38に山形の折り目37が設けられる。山形の折り目37は、その頂部がひだの折り目36の下端に連結しており、ひだの折り目36の一つおきに形成される。山形の折り目37のとなりの、ひだの折り目36の上端には、逆山形の折り目37aが設けられる。山形の折り目37の端部における幅は、山形の折り目37aの幅より大きく設定される。さらに、シート状濾紙の一方側端38の表面および他方側端39の裏面には、所定巾にわたり接着剤40が連続的に塗布されている。
このようなシート状濾紙31を折り目36、37にそってひだ折り加工すれば、第3図のように、上端径が小で下端径が大であって、ひだ41のひだ片a、bの上端が密着し、ひだ41の頂部の下方に山形の濾過壁42を有し、ひだ片bと該ひだ片にとなりあった他のひだ41のひだ片cとが下端で密着する構造が連続する還(「環」の誤記であることが明らかであるから、以下「環」と記す。)状の傾斜型濾過体が形成される。傾斜型濾過体の上端内周縁33および下端外周縁34には、弾性の「環」状シール体35、30が設けられフィルタエレメント20が形成される。このフィルタエレメント20は、各ひだ41、41の間が、上端において開放し下端において閉塞した構造のものとなる。」(第2頁左下欄7行?右下欄16行)
(2-e)「第1図において、吸入エアは、入口21から導入されフィルタエレメント20を流通して濾過され、出口22に向け流出する。フィルタエレメント20に流入する吸入エアは、フィルタエレメント20の上端のひだ41、41の間および外周のひだ41、41の間から矢印のように全体として出口側に向け方向を極端に変えることなく、流通する。フィルタエレメント20から流出する際、吸入エアは、フィルタエレメント20内周に加え下端からも流出することになる。」(第3頁左上欄12行?右上欄1行)
(2-f)「〔効果〕
本発明のフィルタエレメントは、ケーシング内に取付けられ使用された場合、吸入エアはフィルタエレメント流入後、極端な方向転換することなく、出口に向け流れるようになっているから、流通抵抗の小さなものとなる。また、吸入エアは、フィルタエレメントの内側だけでなく下端からも流出するので、出口面積が大となり流通抵抗が小となる。さらに、フィルタエレメントは、上端も吸入エアの入口面となり、フィルタエレメント外周とケーシング内壁との間の空隙を大きくすることなく従来と同等以上の流通抵抗性能が得られるので、エアクリーナの小型化を図ることができる。」(第3頁右上欄2行?15行)
(2-g)「第1図」(第3頁)には「本発明のフィルタエレメントを有するエアクリーナ断面図」が、「第2図」(第4頁)には「本発明のフィルタエレメントを得るためのシート状濾紙平面図」が、「第3図(イ)(ロ)」(第4頁)には「傾斜型濾過体の一部斜視図」が、それぞれ示され、上記記載事項(2-d)及び(2-e)の技術的事項が図示されており、第3図(イ)より傾斜型濾過体32はほぼ円筒形状であり、濾過体32の円筒形の中心に軸方向に延びる中空室が形成されていること」が見て取れる。

なお、以下の理由により、第3図(ロ)の「ひだ片a、b、c」の引き出し線の指し示す位置は誤記であり、正しくは「ひだ片a、b、c」の引き出し線の指し示す位置が一つずつずれている(bの引き出し線の位置が「ひだ片a」であり、cの引き出し線の位置が「ひだ片b」であり、その隣の何も引き出し線のない片が「ひだ片c」である)ことは明らかであるので、正しく記載されているものとして認定した。
すなわち、上記記載事項(2-d)の「シート状濾紙の一方側端38の表面および他方側端39の裏面には、所定巾にわたり接着剤40が連続的に塗布されている。」なる記載及び第2図の「シート状濾紙平面図」で上側に番号39、下側に番号38が付されていることから、第3図(ロ)に示されるシート状濾紙の下側の端の表面(「濾過壁42」が示されている側)および上側の端の裏面に接着剤が塗布されているといえ、同じく記載事項(2-d)の「ひだ41のひだ片a、bの上端が密着し、ひだ41の頂部の下方に山形の濾過壁42を有し、ひだ片bと該ひだ片にとなりあった他のひだ41のひだ片cとが下端で密着する」なる記載から、ひだ片a、bは一つのひだ41のそれぞれの片を指し、ひだ片cはとなりあった別のひだ41の片をさすことを併せ考えると、シート状濾紙の上側の端の裏面に塗布された接着剤によってひだ片a、bの上端が密着され、ひだ片bととなりあった他のひだ41のひだ片cとがシート状濾紙の下側の端の表面に塗布された接着剤によって密着されるためには、第3図(ロ)の「ひだ片a、b、c」の引き出し線の指し示す位置が一つずつずれていることは明らかである。

引用例2には、記載事項(2-a)及び(2-b)に、「内燃機関用エアクリーナに用いられるフィルタエレメント」において、「所定間隔でひだの折り目を有し、該折り目の1つおきの一方側端に山形の折り目を有し一方側端の表面および他方側端の裏面に接着剤を設けた矩形のシート状濾紙を、前記折り目にそってひだ折り加工し両終端を接合して環状の傾斜型濾過体としたフィルタエレメント」が記載され、このフィルタエレメントの構造について、記載事項(2-d)及び(2-g)には、「矩形のシート状濾紙31は、所定間隔の、ひだの折り目36が設けられ、また一方側端38に山形の折り目37が設けられる。山形の折り目37は、その頂部がひだの折り目36の下端に連結しており、ひだの折り目36の一つおきに形成される。・・・さらに、シート状濾紙の一方側端38の表面および他方側端39の裏面には、所定巾にわたり接着剤40が連続的に塗布されて」おり、「このようなシート状濾紙31を折り目36、37にそってひだ折り加工すれば、第3図のように、上端径が小で下端径が大であって、ひだ41のひだ片a、bの上端が密着し、ひだ41の頂部の下方に山形の濾過壁42を有し、ひだ片bと該ひだ片にとなりあった他のひだ41のひだ片cとが下端で密着する構造が連続する「環」状の傾斜型濾過体が形成される。・・・このフィルタエレメント20は、各ひだ41、41の間が、上端において開放し下端において閉塞した構造のものとなる。」と記載されている。この記載のうち「各ひだ41、41の間が、上端において開放し下端において閉塞した構造のものとなる」とは、ひだ片a、bの上端が密着された「ひだ41」と、同様に上端が密着されたその隣の「ひだ41」との間が、上端において開放し、下端において閉塞した構造となっていることを意味しており、同時に、ひだ片を隔ててその裏側の空間は、上端が密着されて閉塞し、下端が濾過壁42の裏側の開放した空間となって濾過体32の中空室と繋がっている構造となっていることは、第3図(イ)(ロ)(記載事項(2-g))からみて明らかである。(以下、この「上端において開放し下端において閉塞した」「各ひだ41、41の間」に存在する空間を「各ひだの外周側」といい、その裏側の、上端が閉塞し、下端が開放されて中空室に繋がる空間を「各ひだの内周側」という。)また、「一方側端38の表面および他方側端39の裏面」なる記載と、第2図とを対応させると、一方側端が下端、他方側端が上端をさしていることは明らかである。
そして、記載事項(2-e)及び(2-g)より、フィルタエレメント20に流入する吸入エアは、フィルタエレメント20の上端のひだ41、41の間及び各ひだの外周側を通り、濾紙31からなるひだ片を内側に向けて透過し、各ひだの内周側に至り、濾過壁42の裏側の開放した空間の下端および中空室の下端から流出するものであるといえる。

そうすると、引用例2には、「所定間隔でひだの折り目を有し、該折り目の1つおきの一方側端に山形の折り目を有し一方側端の表面および他方側端の裏面に接着剤を設けた矩形のシート状濾紙を、前記折り目にそってひだ折り加工し両終端を接合して中心に中空室を有する環状の傾斜型濾過体としたフィルタエレメントであって、ひだ41のひだ片a、bの上端(他方側端)が密着し、ひだ41の頂部の下方に山形の濾過壁42を有し、ひだ片bと該ひだ片にとなりあった他のひだ41のひだ片cとが下端(一方側端)で密着する構造が連続して、各ひだ41、41の間の各ひだの外周側が、上端において開放し下端において接着剤による接着で閉塞した構造となっていると共に、その裏側の各ひだの内周側は上端が接着剤による接着で閉塞し下端が濾過壁42の裏側の開放した空間となって中空室と繋がっている構造となっており、流入する吸入エアは、フィルタエレメント20の上端のひだ41、41の間及び各ひだの外周側を通り、濾紙31からなるひだ片を内側に向けて透過し、各ひだの内周側に至り、濾過壁42の裏側の開放した空間の下端および中空室の下端から流出するものである、内燃機関用エアクリーナに用いられるフィルタエレメント」(以下、「引用例2フィルタエレメント」という。)が開示されていると認められる。

3.対比
本願補正発明と引用例発明とを対比すると、引用例発明の「縦方向軸線に沿って延びるハウジング」は、本願補正発明の「軸方向に延びるハウジング」に相当する。また、引用例発明の「縦方向に延びる1連のひだを形成し、複数のひだで環状ループを形成するように、半径方向に内側の周面と、半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成された中空の大体において円筒形のフィルタエレメント」は、本願補正発明の「ひだ付きフィルタ要素」に相当し、引用例発明の「フィルタエレメント」が「大体において円筒形」であり、「縦方向に延びる1連のひだを形成し、複数のひだで環状ループを形成するように」されていることは、本願補正発明の「ひだ付きフィルタ要素は円筒形状であり」「環状ループ内に複数のひだを備えて」いることに相当し、引用例発明のフィルタエレメントが「各ひだに、半径方向に外側の縦方向に延びる外縁部と、半径方向に内側の縦方向に延びる内縁部とを設けて成る」ことは、本願補正発明の「複数の外側のひだの先端部によって定められる外周縁と複数の内側のひだの先端部によって定められる内周縁を有し」ていることに相当するといえる。更に、引用例発明の「中空の」「円筒形のフィルタエレメント」が、複数のひだで形成されている環状ループの中心に空間を有していることは、【図1】及び【図2】(記載事項(1-f)及び(1-g))からも明らかであり、この環状ループの中心の空間が、本願補正発明の「中空室」に相当するといえ、引用例発明の「フィルタエレメント」が「縦方向に延びる1連のひだを形成し、複数のひだで環状ループを形成するように、半径方向に内側の周面と、半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成され」ていることは、本願補正発明の「前記ひだは前記内側と外側のひだの先端部の間に蛇行するように延びる壁部分を形成し、前記壁部分は上流及び下流端部の間で軸方向に延び」ていることに相当するといえる。
また、本願補正発明において「この際、」と記載されているのは、本願補正発明のフィルタ要素が「この際、」以下に規定される構成を更に併せ備えることを意味しているものと解されるが、引用例発明のフィルタエレメントも、環状ループの中心の空間を有していること、及び、半径方向に内側の周面と半径方向に外側周面との間に行きつ戻りつ延びるように折曲げたフィルタ材料で形成されているという構成を更に併せ備えているといえる。
そして、本願補正発明の「全流フィルタ」についてみると、「全流フィルタ」という用語は日本語の技術用語として一般的なものとはいえないが、本願明細書の「全流フィルタ(full flow fluid filter)」なる記載(段落【0007】)から、”full flow fluid filter”の日本語訳であると認められる。ここで、”full flow fluid filter”とは、被処理流体を全量通過させる、所謂「全量濾過式のフィルタ」(全量濾過式とは、バイパスタイプやクロスフロー式のフィルタのように被処理流体の一部のみを通過させるフィルタと区別して使用される技術用語)を意味するものと解される。そうすると、引用例発明の「エアフィルタ」も記載事項(1-c)からみて、被処理流体の全量を通過させるフィルタであることは明らかであるから、その意味においては引用例発明の「エアフィルタ」も「全流フィルタ」であるといえる。
よって、両者は、
「軸方向に延びるハウジングとひだ付きフィルタ要素を含む全流フィルタであって、該ひだ付きフィルタ要素は円筒形状であり、この環状ループ内に複数のひだを備えて、複数の外側のひだの先端部によって定められる外周縁と複数の内側のひだの先端部によって定められる内周縁を有し、この際、
前記環状ループは前記軸方向に沿って延びる中空室を有し、前記ひだは前記内側と外側のひだの先端部の間に蛇行するように延びる壁部分を形成し、前記壁部分は上流及び下流端部の間で軸方向に延びる全流フィルタ」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>本願補正発明は、フィルタ要素が、そのひだの「壁部分は上流及び下流端部の間に軸方向の流路を定め、前記壁部分の上流端部は交互に互いにシールされて前記上流端部で開口する流路の第1セットと、そして該流路の第1セットと互いに組み合わされかつ前記上流端部で閉口する流路の第2セットを定め、さらに前記壁部分の前記下流端部は交互に互いにシールされて、前記流路の第1セットの下流端部は閉口し、かつ前記流路の第2セットの下流端部は開口する」ものであるのに対して、引用例発明におけるフィルタエレメントはそのような構成となっていない点。
<相違点2>本願補正発明は、「流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記ハウジング内で、前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に、流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」ものであるのに対して、引用例発明は、「空気は、フィルタエレメント各ひだの外面間に軸線方向に流れ、フィルタエレメントの側部を経てその内部に流れ、次いで空気出口を通過する」ように流れるものである点。

4.判断
<相違点1>について
引用例2に開示される「引用例2フィルタエレメント」の「各ひだの間の外周側が、上端において開放し下端において接着剤による接着で閉塞した構造となっていると共に、その裏側の各ひだの内周側は上端が接着剤による接着で閉塞し下端が開放した空間となって中空室と繋がっている構造となっている」ことは、相違点1にかかる本願補正発明のフィルタ要素が「前記壁部分の上流端部は交互に互いにシールされて前記上流端部で開口する流路の第1セット(外周側)と、そして該流路の第1セットと互いに組み合わされかつ前記上流端部で閉口する流路の第2セット(内周側)を定め、さらに前記壁部分の前記下流端部は交互に互いにシールされて、前記流路の第1セットの下流端部は閉口し、かつ前記流路の第2セットの下流端部は開口する」ことに相当するといえ、引用例2フィルタエレメントも、各ひだは上端と下端との間に軸方向の流路を定めているといえる。
ただ、引用例2フィルタエレメントは、環状の傾斜型濾過体と規定されているので、この「傾斜型」である点について検討すると、引用例2の記載事項(2-c)によれば、引用例2において傾斜型とする理由は、「従来の・・・フィルタエレメント10の内周部は、外周部に比し小径となっており、ひだの密度が大となるので、吸入エア出口側での流通抵抗が高くなるという問題」を解決するため、吸入エア出口側でのフィルタエレメントのひだの密度が入口側に比べて大きくならないようにするためのものと解され、具体的な方法として「山形の折り目37の端部における幅は、(逆)山形の折り目37aの幅より大きく設定する」ことにより「上端径が小で下端径が大」の傾斜型濾過体を形成している(記載事項(2-d))。しかしながら、第3図(イ)(記載事項(2-g))を見る限り傾斜型濾過体32はほぼ円筒形状であり、その傾斜の度合いは格別なものとはいえず、引用例2フィルタエレメントが「矩形のシート状濾紙をひだ折り加工し両終端を接合」したものであることからすると、矩形のシートの両終縁を接合すれば必然的に全体が円筒状とならざるをえないことは自明のことである。そして、フィルタエレメントを装着するハウジングの形状等に対応させて、山形の折り目37の端部における幅と、(逆)山形の折り目37aの幅とを同程度として、傾斜型ではない通常の円筒形状のフィルタエレメントを製造することが技術的に困難であるともいえない。してみると、引用例2には、フィルタエレメントを通常の円筒形状とすることも記載乃至示唆されているということができる。
そして、引用例1の記載事項(1-b)より、引用例発明も引用例2フィルタエレメントも共に内燃機関用エアクリーナに用いられるものであることから、「吸入エアは、フィルタエレメントの内側だけでなく下端からも流出するので、出口面積が大となり流通抵抗が小となる」(引用例2の記載事項(2-f))という引用例2フィルタエレメントの奏する効果に着目して、引用例2フィルタエレメントを引用例発明に適用することは当業者の容易に想到し得ることであり、その際、引用例発明のハウジングの形状に合わせて、引用例2フィルタエレメントの山形の折り目の幅と、(逆)山形の折り目の幅とを同程度として、通常の円筒形状とすることに格別の技術的困難性は認められず、当業者が適宜成し得ることである。

<相違点2>について
<相違点2>はフィルタ内での流体の流れ方に関するものであるが、まず、本願補正発明の<相違点2>に係る「流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記ハウジング内で、前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に」流れる流れ方について検討する。
前記「<相違点1>について」で検討したとおり、引用例2フィルタエレメントにおいて、各ひだは上端と下端との間に軸方向の流路を定めているといえ、「流入する吸入エアは、フィルタエレメント20の上端において開放するひだ41、41の間及び各ひだの外周側を通り、濾紙31からなるひだ片を内側に向けて透過し、各ひだの内周側に至り、濾過壁42の裏側の開放した空間の下端および中空室の下端から流出するもの」である。そして、引用例2フィルタエレメントを円筒形状として引用例発明のハウジング内に収納することに格別の技術的困難性は認められないところ、引用例1の記載事項(1-d)を踏まえて、引用例発明に円筒形状とした引用例2フィルタエレメントを適用したエアフィルタにおける、流体であるエアの流れについてみてみると、軸線に沿って延びるハウジングの空気入口から供給されたエアは、上端において開放するひだ41、41の間及び各ひだの外周側を通り、各ひだによって上端と下端との間に定められる軸方向の流路に沿って流れ、濾紙31からなるひだ片を内側に向けて透過し、各ひだの内周側に至り、濾過壁42の裏側の開放した空間の下端および中空室の下端から流出し、ハウジングの空気出口を通過するという流れ方となることは、当業者であれば容易に予測し得るものである。この流れ方は、本願補正発明の「流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記ハウジング内で、前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に」流れる流れ方と格別相違するものとは認められない。
したがって、「流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記ハウジング内で、前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に」流れる流れ方は、引用例2フィルタエレメントを適用することによって必然的に得られる流れ方であるといえる。

次に、本願補正発明が「流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」ものである点について検討すると、「流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」とは、平成18年4月7日付け審判請求書によれば「例えば、流体の流れる方向を反対方向に逆転して、出口側から流体を導入する」ことを意味すると解される。ここで、通常、フィルタエレメント(フィルタ要素)を構成する濾紙等の濾材自体は、複数の異なる素材を積層したものや半透膜のように異方性のものでない限り、均質な材質であることが普通であり、均質な材質の濾材の表側から被処理流体を通過させるのも裏側から通過させるのも同じである。均質な材質の濾材で形成されたフィルタエレメントであれば、フィルタエレメントの表側・裏側どちらから被処理流体を通しても原理的に濾過は可能である。そうすると、矩形のシート状濾紙を用いる引用例2フィルタエレメントは、濾紙についての特段の記載がないころから通常の濾紙を素材とするものといえ、引用例2フィルタエレメントを円筒形状として引用例発明に適用したエアフィルタについても、出口側からエアを導入して濾過を行うことが不可能であるとはいえない。
したがって、「流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」ことも、引用例2フィルタエレメントを適用することによって当然得られる流れ方であるといえる。

なお、<相違点2>に関して、請求人は、同審判請求書において、「引用文献1、2の発明は、いずれも、流体の流れる方向を反対方向に逆転することを可能とした、双方向流れ用のフィルタについて開示していない。」と主張している。確かに、引用例発明、引用例2フィルタエレメントとも流体の流れを逆転することを想定していない。しかしながら、前述のとおり、均質の濾材で形成されたフィルタエレメントはフィルタエレメントの表側・裏側どちらから被処理流体を通しても原理的に濾過は可能であり、ハウジングを含めて入口側(例えば右側)と出口側(同、左側)とで左右対称の構造のフィルタであれば、左右どちらを入口としてもよい双方向流れ用のフィルタとすることが可能であることは、技術常識から自明であるから、双方向流れ用のフィルタとして利用できるという本願補正発明の技術的意義も格別なものということはできない。

そして、前記<相違点1><相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することにより奏される「フィルタ要素内で流体を実質的にまっすぐに軸方向に流し、かつ流動パターンの方向上の湾曲または変化を最小にすることで、流通上の制限を抑制する」等の明細書記載の効果も、当業者であれば、引用例1、2の記載及び技術常識に基づいて予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年4月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「軸方向に延びるハウジングとひだ付きフィルタ要素を含む全流フィルタであって、該ひだ付きフィルタ要素は環状ループ内に複数のひだを備えて、複数の外側のひだの先端部によって定められる外周縁と複数の内側のひだの先端部によって定められる内周縁を有し、この際、
前記環状ループは前記軸方向に沿って延びる中空室を有し、前記ひだは前記内側と外側のひだの先端部の間に蛇行するように延びる壁部分を形成し、前記壁部分は上流及び下流端部の間で軸方向に延びかつこれらの間に軸方向の流路を定め、前記壁部分の上流端部は交互に互いにシールされて前記上流端部で開口する流路の第1セットと、そして該流路の第1セットと互いに組み合わされかつ前記上流端部で閉口する流路の第2セットを定め、さらに前記壁部分の前記下流端部は交互に互いにシールされて、前記流路の第1セットの下流端部は閉口し、かつ前記流路の第2セットの下流端部は開口するため、流体は前記流路の第1セットの開口する上流端部を抜けて流れ、そして前記壁部を抜けて流れ、さらに前記流路の第2セットの前記開口する下流端部を抜けて流れるように、前記フィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に流れることを特徴とする全流フィルタ。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2並びにその記載事項は、前記「第2 [理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「ひだ付きフィルタ要素」の限定事項である「該ひだ付きフィルタ要素は円筒形状であり」との発明特定事項を省き、流体が「前記フィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に流れる」ことについての限定事項である「前記円筒形状のフィルタ要素内を実質的にまっすぐ軸方向に、流体の流れる方向を反対方向に逆転することが可能なように流れる」との発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.[理由]4.」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものであり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-19 
結審通知日 2008-09-24 
審決日 2008-10-07 
出願番号 特願2001-215672(P2001-215672)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉岡 沙織服部 智森 健一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 小川 慶子
松本 貢
発明の名称 全流フィルタ  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 小野塚 薫  
代理人 中村 壽夫  

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