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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1193068
審判番号 不服2006-14403  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-06 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 平成 9年特許願第298993号「パチンコ機」拒絶査定不服審判事件〔平成11年5月18日出願公開、特開平11-128494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成9年10月30日を出願日とする特許出願であって、平成17年6月7日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月17日付けで最後の拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成18年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月4日付けで手続補正がなされたものである。
なお、当審において、平成20年6月18日付けで審査官による前置報告書の内容を添付して審尋を行ったが、請求人からの回答書提出はなかった。

2.平成18年8月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)平成18年8月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)における特許請求の範囲の記載
【請求項1】 遊技内容を制御するマスターユニットとしての遊技制御ユニットと、遊技制御ユニットからの指示により賞球に相当する球を払い出すスレーブユニットとしての払出ユニットとが設けられ、遊技制御ユニットが入賞センサと遊技制御回路基板とを備え、入賞センサが遊技盤に設けられた複数の全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた始動口や大入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられかつ始動口以外および大入賞口以外で遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられ、払出ユニットが払出制御回路基板と払出機構部とを備え、入賞センサが1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号を検出信号として遊技制御回路基板に出力するごとに、遊技制御回路基板は1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果をカウント記憶し、カウント記憶が存在すれば、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送し、カウント記憶が複数有る場合、遊技制御回路基板はインターバル時間をおいて賞球払出指示の転送を行い、払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令に応じて払出機構部を作動し、払出機構部が賞球としての球を払い出すことを特徴とするパチンコ機。
【請求項2】 遊技内容を制御するマスターユニットとしての遊技制御ユニットと、遊技制御ユニットからの指示により賞球に相当する球を払い出すスレーブユニットとしての払出ユニットと、遊技制御ユニットと無関係に単独で動作する独立ユニットとしてのプリペイドカードユニットとが設けられ、遊技制御ユニットが入賞センサと遊技制御回路基板とを備え、入賞センサが遊技盤に設けられた複数の全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた始動口や大入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられかつ始動口以外および大入賞口以外で遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられ、払出ユニットが払出制御回路基板と払出機構部とを備え、プリペイドカードユニットは払出ユニットに指令を出力する形態であって球貸制御回路基板と球貸釦とを備え、入賞センサが1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号を検出信号として遊技制御回路基板に出力するごとに、遊技制御回路基板は1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果をカウント記憶し、カウント記憶が存在すれば、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送し、カウント記憶が複数有る場合、遊技制御回路基板はインターバル時間をおいて賞球払出指示の転送を行い、球貸制御回路基板は球貸釦からの指令により球貸処理を実行して球貸要求の指令を払出ユニットに出力し、払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令または球貸制御回路基板から転送された貸球払出の指令により払出機構部を作動し、払出機構部が賞球としての球を払い出し、払出機構部が賞球または貸球としての球を払い出し、賞球払出処理中に球貸制御回路基板から球貸要求の指示があった場合、払出制御回路基板は処理中の1回の賞球の払出処理が終了した時点から球貸の払出処理を開始することを特徴とするパチンコ機。
【請求項3】 払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令をカウント記憶し、カウント記憶が存在すれば、払出制御回路基板はその存在するカウント記憶に応じて払出機構部を作動することを特徴とする請求項1または請求項2記載のパチンコ機。
【請求項4】 スレーブユニットとして、払出ユニットの他に、遊技の進行状況に応じた情報を可変表示する表示ユニット、遊技者の操作に応じた遊技球を遊技盤の遊技領域に発射する発射ユニット、遊技の進行状況に応じた楽曲や音声等の音を発生する音声ユニットのうちの1つ又は複数又は全部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載のパチンコ機。
(下線部は補正によって変更された箇所)

(2)補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1、2に記載した発明を特定するために必要な事項である「入賞センサ」について、
「遊技盤に設けられた複数の全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた始動口や大入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられかつ始動口以外および大入賞口以外で遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられ」るものであることを限定し、
同じく、「入賞口に入賞した入賞球を検出した電気信号」について、
「1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号」と限定し、
同じく、「出力し」を「出力するごとに」と限定し、
同じく、「入賞センサからの検出信号を受けた検出結果」について、
「1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果」と限定したものであって、
平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-115612号公報(以下「引用文献A」という。)には、図面とともに、
【0016】なお、この実施例では、入賞球分離検出装置180として集合樋159で集合された入賞球の流下経路に臨むストッパ182とそれを駆動するソレノイド(以下、セーフソレノイドと称する)183とからなり検出器(セーフセンサと称する)181で入賞球を1つ検出する毎にストッパ182をソレノイド183で駆動して入賞球を1つ流下させるように構成した電気式のものを用いているが、先端にストッパを、また後端に錘を有するシーソー式の球鞘とマイクロスイッチとから構成された機械式のものを用い、入賞球数は排出制御装置600内に電気的に記憶させるようにしても良い。
【0023】図4には、パチンコ遊技機100の制御系の一実施例が示されている。この制御系は大きく分けると、主としてパチンコ遊技機100の遊技盤に関する制御を司る遊技盤制御装置400と、カードリーダや操作パネル121等の制御を司る玉貸し制御装置500と、上記球排出装置170の制御を司る排出制御装置600とにより構成されている。
【0024】上記制御装置のうち遊技盤制御装置400は、パチンコ遊技機の遊技盤102に設けられている各種入賞球検出器から検出信号を受けて役物の駆動信号を形成したり、パチンコ遊技機の裏機構盤に設けられている入賞球分離検出装置180内の検出器(セーフセンサ)181からの信号を受けて入賞球分離用のセーフソレノイド182を作動させたり、スピーカ190に対する駆動信号を形成する。・・・
【0025】排出制御装置600は、上記玉貸し制御装置500または遊技盤制御装置400からの排出指令信号に基づいて上記球排出装置170内の2条の案内樋710の途中に設けられた一対のストッパ745を作動させる排出ソレノイド741a,741bを励磁して排出を開始し、・・・
【0028】図5には上記遊技盤制御装置400の構成例が示されている。すなわち、この実施例の遊技盤制御装置400は、排出制御装置600との間の信号の送受信を行なう光通信手段410と、遊技盤102の賞球別入賞検出器からの検出信号を計数し保持する2つの入賞記憶手段411,412と、各入賞記憶手段411,412に対応した賞球数を記憶する賞球数記憶手段430と、上記入賞記憶手段411,412の記憶内容に基づいて排出すべき賞品球数を決定する賞球数制御手段420と、・・・とにより構成されている。
【0030】一方、上記賞球数制御手段420は、光通信手段410から信号により排出制御装置600から賞球数データの要求があったことを知ると、上記入賞記憶手段411,412の記憶内容に基づいて賞球数記憶手段430から排出すべき賞品球数を読み出して決定し、決定された賞球数データを光通信手段410に渡して排出制御装置600に対し賞球数データを送信させる。これとともに、賞球数制御手段420は、賞球数データを一回送信すると入賞記憶手段411または412の記憶内容を「1」だけ減らす機能を備えている。
【0031】図6には上記遊技盤制御装置400を汎用のICを使って構成する場合の実施例が示されている。すなわち、遊技盤制御装置400はマイクロプロセッサCPUと、読出し専用メモリROMと、随時読出し書込み可能なメモリRAMと、シリアル通信用のシリアルインタフェースSIFと、ゲートアレイからなる入出力バッファBFFと、・・・とから構成される。
【0045】次に、上述した遊技盤制御装置400によって行なわれる遊技盤全体の制御手順の一例を図11を参照して詳細に説明する。・・・
【0049】図12には、上記各種処理のうち賞球処理の制御手順の一例が示されている。この賞球処理では、先ずステップS801,S803で遊技盤102に設けられている2つの賞球別入賞検出器490(以下、賞球判別SW1,SW2と記す)がそれぞれオンされたか判定する。この実施例では、賞球判別SW1は1つの入賞球に対して7個の賞品球を与える入賞口に設けられ、賞球判別SW2は1つの入賞球に対して10個の賞品球を与える入賞口に設けられているものとする。上記ステップS801またはS803で賞球判別SW1またはSW2がオンされたと判定すると、ステップS805またはS807へ移行して7個賞球の入賞記憶または10個賞球の入賞記憶をそれぞれ「1」だけ増加させる。それから、ステップS809へ進んで、シリアルインタフェースSIF内のフラグを調べて、排出制御装置600から賞球数データの要求が入っているか判定し、データの要求がなければ賞球処理を終了する。
【0050】一方、ステップS809で“Yes”すなわち賞球数データの要求があると判定すると、ステップS811へ移行して上記ステップS805で加算される7個賞球の入賞記憶が「0」か否か調べ、「1」以上ならステップS813で送信バッファに賞球数データとして「7個排出」を設定し、7個賞球フラグを“1”にセットしてからステップS825へ移行して上記送信バッファに設定された賞球数データをシリアルインタフェースSIF内のレジスタに書き込んで終了する。また、上記ステップS811で7個賞球の入賞記憶が「0」と判定すると、ステップS813へ進み、上記ステップS807で加算される10個賞球の入賞記憶が「0」か否か調べる。そして、「1」以上ならステップS821で送信バッファに賞球数データとして「10個排出」を設定し、10個賞球フラグを“1”にセットして上記10個賞球の入賞記憶を「1」だけ減算してからステップS825へ移行して上記送信バッファに設定された賞球数データをシリアルインタフェースSIF内のレジスタに書き込んで終了する。
【0051】さらに、上記ステップS811,S815のいずれの判定でも“No”のときはステップS815で送信バッファに賞球数データとして「15個排出」を設定してからステップSステップS825へ移行して上記送信バッファに設定された賞球数データをシリアルインタフェースSIF内のレジスタに書き込んで終了する。・・・
【0176】さらに、上記実施例では、入賞球分離検出装置180内のセーフセンサ181の検出信号を排出制御装置600に入力して、排出制御装置600が入賞球を検出すると遊技盤制御装置400に対して賞球数データの要求を行なって受信した賞球数データに基づいて賞品球の排出を行なうようにしているが、この発明はそれに限定されず、例えばセーフセンサ181の検出信号を遊技盤制御装置400に入力して、遊技盤制御装置400が入賞球を検出すると排出制御装置600に対して賞球数データを送信し、賞品球の排出を行なわせるようにすることも可能である。つまり、信号の送信方向を遊技盤制御装置400から排出制御装置600に対する一方向のみとするようにしてもよい。
との記載が認められ、
摘記した上記の記載や図面等によれば、引用文献Aには、
「賞球判別SW1、賞球判別SW2及びセーフセンサ181と、遊技盤全体の制御を行う遊技盤制御装置400とを備え、
前記賞球判別SW1は1つの入賞球に対して7個の賞品球を与える入賞口に設けられ、前記賞球判別SW2は1つの入賞球に対して10個の賞品球を与える入賞口に設けられ、前記セーフセンサ181は集合樋159で集合された入賞球の流下経路に設けられ、
前記遊技盤制御装置400からの排出指令信号に基づいて賞品球の排出を行なう排出制御装置600と球排出装置170とを備え、
前記賞球判別SW1または前記賞球判別SW2がオンされたと判定すると、前記遊技盤制御装置400の入賞記憶手段411または412の入賞記憶をそれぞれ「1」だけ増加させ、
前記セーフセンサ181の検出信号が入力されると前記入賞記憶手段411または412の記憶内容に基づいて、前記遊技盤制御装置400は賞球数データを前記排出制御装置600に送信し、
前記賞球数データの送信は、前記遊技盤制御装置400のシリアル通信用のシリアルインタフェースSIFを介して行い、
排出制御装置600は遊技盤制御装置400からの排出指令信号に基づいて前記球排出装置170の排出ソレノイド741a,741bを励磁して賞品球の排出を行うパチンコ遊技機100。」
の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

(4)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、
引用発明の「賞球判別SW1、賞球判別SW2及びセーフセンサ181」は、本願補正発明の「入賞センサ」に相当し、以下同様に、
「遊技盤制御装置400」は「遊技制御ユニット」に、
「排出制御装置600」は「払出制御回路基板」に、
「球排出装置170」は「払出機構部」に、
「入賞記憶」は「カウント記憶」に、
「賞球数データ」は「賞球払出指示」に、
「送信し」は「転送し」に、
「パチンコ遊技機100」は「パチンコ機」に、それぞれ相当する。
さらに、引用文献Aの記載等からみて、以下のことが言える。

a.引用文献Aには、「賞球判別SW1、賞球判別SW2及びセーフセンサ181」と「遊技盤制御装置400」とを備えたユニットについての記載はないが、本願補正発明においても図8や段落【0019】の記載から分かるように、遊技制御回路基板1aと入賞センサ1bを設けた球寄せカバー1nが遊技盤1mの裏面に取り付けられ、これらを一体化する旨の記載はなく一体化することが自明ということもできないから、引用文献Aの図5や段落【0024】、【0028】に記載された賞球別入賞検出器490とセーフセンサ181と遊技盤制御装置400から成る構成、すなわち引用発明の「賞球判別SW1、賞球判別SW2及びセーフセンサ181と、遊技盤全体の制御を行う遊技盤制御装置400」とからなる構成は、本願補正発明の「遊技制御ユニット」の構成と格別相違するものではない。
さらに、引用文献Aの段落【0176】の記載を参酌して認定した引用発明は、セーフセンサ181の検出信号も遊技盤制御装置400に入力され、信号の送信方向を遊技盤制御装置400から排出制御装置600に対する一方向のみとするものであるから、上記「賞球判別SW1、賞球判別SW2及びセーフセンサ181と、遊技盤全体の制御を行う遊技盤制御装置400」とからなる構成は、遊技内容を制御するマスターユニットとしての機能を有するものということができる。

b.引用発明において、賞球判別SW1または賞球判別SW2がオンされたと判定するのは、賞球判別SW1または賞球判別SW2が1つの入賞口への1つの入賞に対する検出信号を遊技盤制御装置400に出力するごとに行われることが、摘記した引用文献Aの段落【0028】、【0049】及び図12の記載等から明らかであるとともに、その検出信号が電気信号であることはいうまでもないことである。
また、引用発明において、「遊技盤制御装置400の入賞記憶手段411または412の入賞記憶をそれぞれ「1」だけ増加させ」ることは、本願補正発明の「遊技制御回路基板は1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果をカウント記憶」する構成に相当するものということができる。
したがって、引用発明は実質的に本願補正発明の「入賞センサが1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号を検出信号として遊技制御回路基板に出力するごとに、遊技制御回路基板は1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果をカウント記憶し」に相当する処理を行っているものということができる。

c.引用発明において「前記入賞記憶手段411または412の記憶内容に基づいて、前記遊技盤制御装置400は賞球数データを前記排出制御装置600に送信」することと、本願補正発明において「カウント記憶が存在すれば、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送」することとは、「カウント記憶に基づいて、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送」する点で共通している。

d.引用発明は賞球数データの送信をシリアル通信用のシリアルインタフェースSIFを介して行っているから、複数の賞球数データを送信する場合には、インターバル時間をおいて賞球数データを送信していることが明らかである。
したがって、引用発明は実質的に本願補正発明の「カウント記憶が複数有る場合、遊技制御回路基板はインターバル時間をおいて賞球払出指示の転送を行」うに相当する処理を行っているものということができる。

e.引用発明の「遊技盤制御装置400からの排出指令信号」は本願補正発明の「遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令」に相当し、同じく「排出指令信号に基づいて前記球排出装置170の排出ソレノイド741a,741bを励磁して」は「賞球払出指令に応じて払出機構部を作動し」に、また「賞品球の排出を行う」は「払出機構部が賞球としての球を払い出す」に、それぞれ相当しているから、引用発明は本願補正発明の「払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令に応じて払出機構部を作動し、払出機構部が賞球としての球を払い出す」に相当する構成を有しているものということができる。

以上を総合すると、両者は、
「 遊技内容を制御するマスターユニットとしての遊技制御ユニットが設けられ、
遊技制御ユニットが入賞センサと遊技制御回路基板とを備え、
入賞センサが設けられ、
払出制御回路基板と払出機構部とを備え、
入賞センサが1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号を検出信号として遊技制御回路基板に出力するごとに、遊技制御回路基板は1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果をカウント記憶し、
カウント記憶に基づいて、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送し、
カウント記憶が複数有る場合、遊技制御回路基板はインターバル時間をおいて賞球払出指示の転送を行い、
払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令に応じて払出機構部を作動し、払出機構部が賞球としての球を払い出すパチンコ機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は「遊技制御ユニットからの指示により賞球に相当する球を払い出すスレーブユニットとしての払出ユニットとが設けられ」ているのに対し、引用発明は「遊技盤制御装置400からの排出指令信号に基づいて賞品球の排出を行なう排出制御装置600と球排出装置170とを備え」てはいるものの、排出制御装置600と球排出装置170とは別体でユニット化されていない点。

[相違点2]
本願補正発明は「入賞センサが遊技盤に設けられた複数の全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた始動口や大入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられかつ始動口以外および大入賞口以外で遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられ」ているのに対し、引用発明では「賞球判別SW1は1つの入賞球に対して7個の賞品球を与える入賞口に設けられ、賞球判別SW2は1つの入賞球に対して10個の賞品球を与える入賞口に設けられ、セーフセンサ181は集合樋159で集合された入賞球の流下経路に設けられ」ており、賞球を検出するセンサの設けられている場所が異なる点。

[相違点3]
本願補正発明は「カウント記憶が存在すれば、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送し」ているのに対し、引用発明は「賞球判別SW1または賞球判別SW2がオンされたと判定すると、前記遊技盤制御装置400の入賞記憶手段411または412の入賞記憶をそれぞれ「1」だけ増加させ」、「入賞記憶手段411または412の記憶内容」が「1」以上ならば賞球数データを排出制御装置600に送信しているだけではなく、セーフセンサ181の検出信号が入力され、かつ、入賞記憶手段411,412の記憶内容が「0」のときに「15個排出」の賞球数データを排出制御装置600に対して送信するようになっている点(特に引用文献Aの段落【0049】?【0051】及び図12を参照)。
(当審注:引用発明は、15個の賞品球を与える入賞口への入賞記憶は入賞記憶手段に記憶されない構成となっている。)

(5)判断
[相違点1について]
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-328206号公報(以下「引用文献B」という。)には、図2、【請求項1】及び段落【0010】等の記載からみて、制御回路部(本願補正発明の「払出制御回路基板」に相当)とパチンコ玉を所定個数ずつパチンコ玉払出通路へ導く機能部分(本願補正発明の「払出機構部」に相当)を同一の本体ケースに設けてユニット化したパチンコ玉排出ユニットが記載されている。
そして、引用発明及び引用文献B記載のパチンコ玉排出ユニットともにパチンコ機の分野に属するものであるから、引用発明に引用文献Bに記載された技術を適用し、引用発明の排出制御装置600と球排出装置170をユニット化して相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、パチンコ機の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に想到し得る事項である。

[相違点2、3について]
パチンコ機の分野において、入賞センサを遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設け、各入賞センサが検出した入賞球数をカウント記憶し、カウント記憶が存在すれば賞球払出を行うことは、例えば、原査定の拒絶の理由で周知例として提示された特開平8-323005号公報(特に段落【0066】?【0076】、図16及び図18?21)及び特開平9-149969号公報(特に【0020】)に記載されるように、従来周知の技術(以下「周知技術1」という。)である。
また、同じくパチンコ機の分野において、入賞センサを遊技盤に設けられた全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けることも、例えば、特開平5-337238号公報(特に段落【0047】)及び特開平9-56901号公報(特に【0031】)に記載されるように、従来周知の技術(以下「周知技術2」という。)である。
したがって、引用発明に周知技術1または2を適用し、全ての入賞口について重複検出がないよう個別に、あるいは適宜の系列群毎に入賞センサを設けるとともに、各入賞センサの出力を入賞記憶としてカウントさせ、いずれかの入賞記憶が「1」以上ならば賞球数データを排出制御装置600に送信するようにして、相違点2及び3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献Bに記載された技術及び周知技術1、2から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明、引用文献Bに記載された技術及び周知技術1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)平成17年8月8日付けの手続補正における特許請求の範囲の記載
平成18年8月4日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成17年12月26日付けの手続補正は平成18年6月2日付けで却下の決定がなされているので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年8月8日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 遊技内容を制御するマスターユニットとしての遊技制御ユニットと、遊技制御ユニットからの指示により賞球に相当する球を払い出すスレーブユニットとしての払出ユニットとが設けられ、遊技制御ユニットが入賞センサと遊技制御回路基板とを備え、払出ユニットが払出制御回路基板と払出機構部とを備え、入賞センサが遊技盤に設けられた入賞口に入賞した入賞球を検出した電気信号を検出信号として遊技制御回路基板に出力し、遊技制御回路基板は入賞センサからの検出信号を受けた検出結果をカウント記憶し、カウント記憶が存在すれば、遊技制御回路基板は賞球払出指示を払出制御回路基板に転送し、カウント記憶が複数有る場合、遊技制御回路基板はインターバル時間をおいて賞球払出指示の転送を行い、払出制御回路基板は遊技制御回路基板から転送された賞球払出指令に応じて払出機構部を作動し、払出機構部が賞球としての球を払い出すことを特徴とするパチンコ機。」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A及びその記載事項は、上記「2.(3)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記「2.(1)」及び「2.(2)」で検討した本願補正発明から、「入賞センサ」についての限定事項である
「遊技盤に設けられた複数の全部の入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられるかまたは遊技盤に設けられた始動口や大入賞口のそれぞれに対応して1個ずつ設けられかつ始動口以外および大入賞口以外で遊技盤に設けられた全部の入賞口を設定賞球払出数が同じである系列群に分けられた複数の入賞口毎に1個ずつ設けられ」るという限定を省き、
「1つの入賞口への1つの入賞に対する電気信号」を「入賞口に入賞した入賞球を検出した電気信号」と拡張し、
「出力するごとに」を「出力し」と拡張し、
「1つの入賞口への1つの入賞に対する入賞センサからの1つの検出信号に対応する1つの検出結果」を「入賞センサからの検出信号を受けた検出結果」と拡張するものである。
そして、本願発明の構成要件を全て含み、「入賞センサ」等の構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(5)」に記載したとおり、引用発明、引用文献Bに記載された技術及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、同様の理由により、引用発明、引用文献Bに記載された技術及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献Bに記載された技術及び周知技術1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項2?4に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-18 
結審通知日 2008-12-24 
審決日 2009-01-08 
出願番号 特願平9-298993
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 保  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 森 雅之
有家 秀郎
発明の名称 パチンコ機  
代理人 宮園 純一  

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