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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1193156
審判番号 不服2007-6478  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-02 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 平成10年特許願第118975号「害虫防除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 9日出願公開、特開平11-308955〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年4月28日の出願であって、平成19年1月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月2日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成19年4月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年4月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の概要
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項を含んでいる。
(補正前)
「収納空間中で、衣類用害虫防除成分を含有する薬剤を担体に保持した薬剤保持材をファンによる気体の流れに接触させることにより、該保持材から前記害虫防除成分を気体中にリリースさせて収納空間の害虫を防除する衣類用害虫防除方法であって、送風期間と送風休止期間を交互に設定し、送風期間においては、前記害虫防除成分を、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達しめるに十分な大きさの単位時間当りの揮散量で気体中にリリースさせ、送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くすることを特徴とする衣類用害虫防除方法。」
(補正後)
「収納空間中で、衣類用害虫防除成分を含有する薬剤を担体に保持した薬剤保持材をファンによる気体の流れに接触させることにより、該保持材から前記害虫防除成分を気体中にリリースさせて収納空間の害虫を防除する衣類用害虫防除方法であって、運転当初には収納空間全体における気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまで連続的に送風を行って、前記害虫防除成分を気体中にリリースさせ、その後送風休止期間として送風を停止し、気中薬剤濃度が低下した後、送風期間として気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまでの時間送風し、前記害虫防除成分を、連続運転の場合よりも単位時間当りの揮散量が大きい揮散量で気体中にリリースさせ、送風期間と送風休止期間を交互に設定し、送風期間においては、送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くすることを特徴とする衣類用害虫防除方法。」

2.補正の目的についての判断
上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定する送風期間と送風休止期間について、「運転当初には収納空間全体における気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまで連続的に送風を行って、前記害虫防除成分を気体中にリリースさせ、その後送風休止期間として送風を停止し、気中薬剤濃度が低下した後、送風期間として気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまでの時間送風し」との事項を追加するものである。
ここで、「気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまで連続的に送風を行って」、「気中薬剤濃度が低下した後」、「気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達するまでの時間送風し」とは、気中薬剤濃度を測定しその測定値に応じて、送風又は送風休止期間を設定するものと解されるが、これと、「送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くする」こと、すなわち送風期間と送風休止期間とを「時間」により予め設定することとは、送風期間と送風休止期間の設定手段が異なっており、上記補正事項により、本願発明を特定する「送風期間と送風休止期間を交互に設定」する手段が不明りょうとなっている。
したがって、上記補正事項は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められず、また、同条第1号の請求項の削除、第3号の誤記の訂正、又は第4号の明りょうでない記載の釈明の何れの事項を目的とするものにも該当しない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成19年4月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成18年11月27日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「収納空間中で、衣類用害虫防除成分を含有する薬剤を担体に保持した薬剤保持材をファンによる気体の流れに接触させることにより、該保持材から前記害虫防除成分を気体中にリリースさせて収納空間の害虫を防除する衣類用害虫防除方法であって、送風期間と送風休止期間を交互に設定し、送風期間においては、前記害虫防除成分を、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達しめるに十分な大きさの単位時間当りの揮散量で気体中にリリースさせ、送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くすることを特徴とする衣類用害虫防除方法。」

2.刊行物及びその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物であるWO 96/04786(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「技術分野
本発明は、害虫防除方法に関するもので、さらに詳しくは常温で難揮散性の害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持してなる薬剤保持材を非加熱条件下、送風手段による気体の流れを利用して薬剤保持材から害虫防除成分をリリースさせることにより、特に飛翔性の害虫を防除する方法、そのための装置および薬剤保持材を構成する担体に関するものである。」(明細書1頁3?8行)、
(1b)「本発明においては、これらから選ばれた1種以上の害虫防除成分を担体に保持して薬剤保持材として用いることができる。
これらのうち、エンペントリン、プラメトリン、レスメトリン、エスバイオール、フラメトリンおよびテラレスリンが特に好ましい。」(同11頁23?26行)、
(1c)「本発明の装置は、図2に符号13で示す通気路及び通気口(図2では符号12で示す吸気口及び符号14で示す排気口である。)を有している。装置の通気路13に本発明の薬剤保持材を設置する場合、その通気路の少なくとも1ヶ所以上に固定される(図1では符号5で、図2では符号30で示す。)。」(同14頁20?23行)、
(1d)「ここでの気体の流れを図1及び図2で説明すると、例えば、装置内にモーターやぜんまい等の駆動手段とプロペラ(図1の6、図2の20で示される。)などの一般にファンとして認識されている形状、形態及び機能を有する通常送風器具と称されるものを設置し、該ファンを該駆動手段によって駆動させることで装置内に外部より吸気口を通じて気体を吸引する。そして吸引された気体はさらに通気路を経て排気口へと移動する。」(同15頁1?6行)、
(1e)「本発明で用いるファン式害虫防除用装置による有効性を試験するために、図6にみるように、その装置を空間が36m^(3)の容積をもつ室内床面中央に置き、リリースを開始する。リリース開始後、25リットルの一定量を20分間ずつ空気を吸引し、シリカゲルトラップで有効成分を捕集し、定量分析を行った。
捕集位置は室内の側壁から100cmで、高さを150cmとした。1m^(3)当たりの有効成分気中濃度は各経過時間の有効成分の捕集量から次の計算式より算出した。

この試験では、有効成分としてエンペントリンを使用した。
また、このファン式害虫防除用装置を用いてエンペントリンをリリースさせた場合を液体式電気蚊とり器を用いた場合と比較した。
空間容積24m^(3)の室内に、66×66×15mmのハニカム状の保持材にエンペントリン4.3g、イルガソックス1010を0.2g含浸させたものを取り付けたファン型害虫防除用装置を設け、3Vの定電圧運転で、1220?1250rpm、25℃の条件で揮散を行った。捕集は、前記と同じ25l/分で20分間、シリカゲルトラップを用いて吸引捕集し、その捕集量は500lとした。有効成分の気中濃度は、床面より150cm及び75cmの位置で捕集した場合の測定値の平均値とした。なお、液体式電気蚊とり器を用いて揮散させた場合を比較対象とした。揮散開始から12時間までの揮散状況を図7のグラフに示す。図7において、グラフ中の曲線における○印は、エンペントリンの揮散量(3V定電圧運転時)を示し、●印は、プラレトリンの揮散量(液体式電気蚊とり器)を示す。」(同17頁24行?19頁5行)、
(1f)「また、同じ実験系において、ファン式害虫防除用装置を長時間運転(12時間断続運転、30日間)した場合のエンペントリンのリリースを測定した。その時の開始から360時間までの状況を図8のグラフに示した。比較データとしては、図6に示した気中濃度測定装置により、ファン式害虫防除用装置の位置に液体式電気蚊とり器を置き加熱揮散させたものの状況を示した。図8において、グラフ中の曲線における○印は、エンペントリンの揮散量(3V定電圧運転時)を示し、△印は、プラレトリンの揮散量(液体式電気蚊とり器)を示す。
両図より、害虫防除装置は液体式電気蚊とり器より多い量の薬剤有効成分をリリースしており、かつ初期30分間以内に平衡揮散濃度に達し、均一で安定したリリースを360時間まで続けることがわかる。」(19頁6?15行)、
(1g)「また、ファン式害虫防除用装置において、気体の送風を断続することができるならば、送風制御によって薬剤のリリース量が制御でき、より均一で安定な揮散はもとより、事情によっては昼夜により揮散量の増減等の制御が可能となる。図9に示すような電源からの通電量を制御する回路を用いてファン式害虫防除用装置の送風の運転制御を行った。前記エンペントリンを試料として12時間の短期間の揮散状況について、連続送風した場合と、2時間送風10分間送風停止の制御を行った場合の比較を図10に示す。その結果より、送風期間を制御した場合でも有効成分の気中濃度を一定にできることがわかる。」(19頁16?23行)、
(1h)「害虫を駆除しうる場所は何ら制限を受けないが、好ましくは一定の空間として区切られた場所が好ましい。例えば、…タンス内においてはイガ、コイガ、カツオブシムシ等の衣類害虫、…等が例示される。」(同20頁20?26行)。

上記記載及び図面の記載並びに技術常識からみて、上記刊行物には、
「タンス内で、衣類用害虫防除成分を含有する薬剤を担体に保持した薬剤保持材をプロペラ20による気体の流れに接触させることにより、該保持材から前記害虫防除成分を気体中にリリースさせてタンス内の害虫を防除する衣類用害虫防除方法であって、送風時間と送風停止期間を交互に設定する衣類用害虫防除方法。」の発明(以下、「刊行物記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・判断
本願発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「タンス内」が本願発明の「収納空間」に相当し、以下同様に、「プロペラ20」が「ファン」に、「送風停止期間」が「送風休止期間」に、それぞれ相当する。
してみると、両者は、
「収納空間中で、衣類用害虫防除成分を含有する薬剤を担体に保持した薬剤保持材をファンによる気体の流れに接触させることにより、該保持材から前記害虫防除成分を気体中にリリースさせて収納空間の害虫を防除する衣類用害虫防除方法であって、送風期間と送風休止期間を交互に設定する衣類用害虫防除方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明が「送風期間においては、前記害虫防除成分を、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達しめるに十分な大きさの単位時間当りの揮散量で気体中にリリース」させたのに対し、刊行物記載の発明に、揮散量がこのようなものか不明な点。
(相違点2)
本願発明が「送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くする」のに対し、刊行物記載の発明は、このような限定はなされておらず、刊行物において収納空間ではなく室内に設置した実験では、12時間断続、あるいは2時間送風10分間送風停止の制御を行ったものであって、送風休止期間を送風期間より長くすることは示されていない点。

相違点1について検討すると、刊行物には、連続運転においても、送風時間と送風停止期間を交互に設定した場合においても、気中薬剤濃度を一定にできることが記載されている。そして、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達していなければ害虫を駆除することはできないので、一定にできる気中薬剤濃度が、気中有効薬剤濃度に達するように適切な揮散量を設定することは、当然考慮すべきことであり、その揮散量は、実験等に基いて当業者が容易に設定しうることであって、相違点1に係る本願発明の事項は、当業者が容易になし得ることである。

次に相違点2について検討する。
刊行物には、害虫防除装置を断続運転する場合に、一定の気中薬剤濃度が維持できるよう送風休止期間を設定することが示されている。そして、収容空間内の気中薬剤濃度の減少の程度は、収容空間の容積や、周壁の材質、扉の開閉頻度や、薬剤の種類等により異なるから、これらに応じて送風休止期間の長さを設定することは、当業者が当然考慮することである。
そして、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達しめるに必要な送風時間と、収容空間内の気中薬剤濃度の減少の程度との間には直接の関係はなく、揮散量を多くすれば、気中薬剤濃度が気中有効薬剤濃度に達しめるに必要な送風時間を短くすることができ、収容空間の容積を大きく、気密性を高くすれば、収容空間内の気中薬剤濃度の減少の程度を小さくし送風休止期間を長くできることは明らかである。
そうすると、刊行物記載の発明において、収納空間の気中薬剤濃度の変化を測定する実験により、送風時間と送風停止期間を設定することは適宜なしうることであり、ファンによる揮散量が多い場合や、収容空間内の気中薬剤濃度の減少の程度が小さい場合に「送風休止期間が送風期間よりも10?150倍長くする」ことも、当業者が適宜なしることである。
ちなみに、前置報告書において挙げた特開平7-51351号公報には、本願発明に使用するファンによる害虫防除装置ではないが、殺虫剤等の薬剤を蒸散させる蒸散装置において、空間の大きさと換気の程度に応じて、加熱動作時間(薬剤揮散時間)と加熱停止時間を設定すること、加熱停止時間を加熱動作時間(薬剤揮散時間)よりも長くしたものが記載されており(段落【0029】参照)、このことからも、送風休止期間を送風期間よりも長く設定することが、格別困難であるとはいえない。

そして、本願発明の作用効果は、全体として刊行物記載の発明から予測しうることであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-11 
結審通知日 2008-12-16 
審決日 2009-01-05 
出願番号 特願平10-118975
審決分類 P 1 8・ 57- Z (A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子南澤 弘明  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
草野 顕子
発明の名称 害虫防除方法  
代理人 小栗 昌平  
代理人 添田 全一  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  

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