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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E03B
管理番号 1193157
審判番号 不服2007-6768  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-07 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 特願2003-321180「雨水利用装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日出願公開、特開2005- 89989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は、平成15年9月12日の出願であって、平成19年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月5日付けで手続補正がなされたものであって、当審にて、平成20年9月18日付けで拒絶理由を通知したところ、同年11月8日付けで手続補正がなされたものである。

【2】本願発明
1.本願発明
請求項1に係る発明は、平成20年11月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「雨水を貯留する遮光性貯留槽と、前記貯留槽の雨水流入口に接続された雨水流入管と、前記貯留槽に取り付けられ前記貯留された雨水を外部に取り出す自然落下用取出口と、前記貯留槽内部の下部に収納され前記貯留された雨水を加圧する加圧ポンプと、前記貯留槽に取り付けられ前記加圧された雨水を外部に取り出す加圧用取出口と、前記加圧ポンプを作動させるスイッチとを具備し、前記貯留槽下部には断面U字型形状部を有し、且つ前記U字型形状部の底部にはドレン部を有していることを特徴とする雨水利用装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平9-67837号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「雨水貯水装置」に関して、図1とともに以下の記載がある。

(1a)「【請求項1】家屋や倉庫などの建物の外側壁面に沿設状態で設置し得るタンク本体に、建物の屋根の軒先に沿って設けられる雨樋より垂設する排水用縦樋に連結し得る取水口を設けて、前記雨樋より集水される雨水や融雪水を取水口よりタンク本体内に貯水し得るように構成し、このタンク本体に止水・排水切り替え自在な注水口を設けたことを特徴とする雨水貯水装置。」

(1b)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、雨水を貯水しおいて地震や火災などの災害時に水源として役立てることのできる雨水貯水装置に関するものである。」

(1c)「【0010】
【実施例】本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0011】本実施例は、家屋や倉庫などの建物1の外側壁面に沿設状態で設置し得るタンク本体2に、建物1の屋根3の軒先に沿って設けられる雨樋4より垂設する排水用縦樋5に連結し得る取水口6を設けて、前記雨樋4より集水される雨水や融雪水を取水口6よりタンク本体2内に貯水し得るように構成し、このタンク本体2に止水・排水切り替え自在な注水口7を設けている。
【0012】図面のタンク本体2は、建物1の外側壁面に沿設状態で設置した際、この建物1の外側壁面より大きく突出して場所を取ることのない薄い厚さの方形状体に形成し、このタンク本体2の底部に設置用脚台8を付設して建物1の外側壁面に沿設状態で設置した場合を図示している。
【0013】本実施例は、ステンレス材でタンク本体2を構成し、錆び付かず、且つ軽量で扱い易い構成としている。
【0014】また、このタンク本体2の建物1の外側壁面に沿設している側面を後側面とし、この反対側面を前側面としてこの前後側面に隣接している側面を左右側面とした際、このタンク本体2の上面の右側部に開閉蓋9を形成している。この開閉蓋9を開口してタンク本体2内にモロコやクチボソやフナなどを投入しておくと、雨水に藻やボウフラが湧くことを防止できる。また、この際、開閉蓋9の開口部に網を張っておくと、タンク本体2内のモロコやクチボソやフナなどをねらって猫などがこのタンク本体2内に落ちるのを防止できることとなる。
(中略)
【0016】また、このタンク本体2の内側底面を左右方向の中間部が最も深くなるように底面をV字傾斜形状に形成し、このV字状底面2Aの最も深い底部谷部に泥抜き弁12を設けている。これにより貯水量が少量の時でもこのV字状底面2Aによって水が良好にはけ、後述する注水口7より良好に注水が行われると共に、このV字状底面2Aの最も深い谷部に泥などの沈殿物が溜まり、前記泥抜き弁12からこの沈殿物排出が良好に行われることとなる。
【0017】取水口6は、タンク本体2の上面の左寄り位置に形成され、この取水口6に雨樋4から垂設する既存の排水用縦樋5の途中部を切断して連結している。尚、本実施例では、既存の排水用縦樋5の途中部を切断し、この切断部を取水口6に連結した場合を図示しているが、排水用縦樋5として機能し得る導水管を取水口6に立設し、この導水管の先端を雨樋4に連結する構成でも良い。
(中略)
【0019】注水口7は、一般的な蛇口を採用して構成し、この注水口7を前述したV字状底面2Aの水はけが良好な最深部の側方部となるタンク本体2の前側面の下部中央位置に付設して、貯水量が少量の時でもこの注水口7より良好に注水が行われるようにしている。
【0020】従って、建物1の屋根3の軒先から、雨水や融雪水がこの屋根3の軒先に沿って設けられた雨樋4に流れ落ち、この雨樋4を通って排水用縦樋5に導水すると、排水用縦樋5が建物1の外側壁面に沿設状態で設置されているタンク本体2の取水口6に連結されているから、この取水口6を介してタンク本体2内に雨水や融雪水が自動的に集水して貯水されることとなり、このタンク本体2内に貯水された雨水や融雪水を注水口7としての蛇口から適宜注水して使用できることとなる。」

これらの記載事項(1a)乃至(1c)及び図面を参照すると、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認める。
「ステンレス材でタンク本体2を構成し、タンク本体2に取水口6、及び一般的な蛇口を採用して構成した注水口7を設け、排水用縦樋5として機能し得る導水管を取水口6に立設し、この導水管の先端を雨樋4に連結し、タンク本体2は薄い厚さの方形状体に形成し、このタンク本体2の内側底面を左右方向の中間部が最も深くなるように底面をV字傾斜形状に形成し、このV字状底面2Aの最も深い底部谷部に泥抜き弁12を設けた雨水貯水装置。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「タンク本体2」は本願発明の「貯留槽」に、以下同様に、「取水口6」は「雨水流入口」に、「排水用縦樋5として機能し得る導水管」は「雨水流入管」に、「一般的な蛇口を採用して構成した注水口7」は「自然落下用取出口」に、「タンク本体2の内側底面」は「貯留槽下部」に、「底部谷部」は「底部」に、「泥抜き弁12」は「ドレン部」に、「雨水貯水装置」は「雨水利用装置」に、それぞれ相当する。
刊行物1記載の発明の「V字状底面2A」と、本願発明の「断面U字型形状部」とは、「断面が谷状の形状部」で共通している。
ところで、刊行物1の前記記載事項(1c)の段落【0014】の「……タンク本体2の上面の右側部に開閉蓋9を形成している。この開閉蓋9を開口してタンク本体2内にモロコやクチボソやフナなどを投入しておくと、雨水に藻やボウフラが湧くことを防止できる。また、この際、開閉蓋9の開口部に網を張っておくと、タンク本体2内のモロコやクチボソやフナなどをねらって猫などがこのタンク本体2内に落ちるのを防止できることとなる。」という記載は、「開閉蓋9を開口してタンク本体2内にモロコやクチボソやフナなどを投入しておく」という使い方が可能であることを意味しているのであって、この使い方だけを想定しているとは解することができない。すなわち、開閉蓋9を開口したままで使用することは、使用者が任意に選択し得る程度のことであり、通常、開閉蓋9を閉じたままで使用することは、当然のことである。(【図1】に本実施例の使用状態を示す斜視図として開閉蓋9を閉じた状態の使用例が記載されている。)
ここで、本願発明の「遮光性」について検討するために本願明細書を見ると、「……(3)雨水貯留槽内に雨水を長期間貯留していると日光の影響を受けて貯留された雨水の水質劣化などが起こりやすい。……」(段落【0004】)、「……貯留槽に遮光性材料を用いており、その結果日光が貯留槽内部に入らないため貯留槽内雨水の水質劣化が従来のものよりも少なくなるので……」(段落【0008】)、「貯留槽に遮光性材料を用いているので、日光による水質劣化が従来のものより少なくなり……」(段落【0018】)等の記載があり、上記「遮光性」は、日光による水質劣化を減少させることを目的としたものである。そして、日光による水質劣化の具体例は記載されていないが、本願発明の実施例1が、屋根、樋を通ってきた雨水を利用する装置(段落【0015】より)である点、「ゴミ取りバスケット6」程度の濾過手段しか備えていない点(段落【0014】より)、及び、貯留槽内部には土埃や泥土が入り込む点(段落【0008】より)、などから考えて、上記水質劣化とは、光エネルギを必要とする藻類や微生物の繁殖を対象としていると考えられる。
それに対し、刊行物1の発明の詳細な説明の段落【0014】には、「タンク本体2内にモロコやクチボソやフナなどを投入しておく」際には、「この開閉蓋9を開口」することが条件として記載されていることから、刊行物1記載の発明の「タンク本体2」は、少なくとも開閉蓋9を閉じた状態においては、タンク内に積極的に光を取り込む構成でないことは明らかであって、開閉蓋9を閉じた状態で使用すれば藻類や微生物の繁殖を防止する程度の遮光性は有するものであるということができ、さらに遮光性材料であるステンレス材でタンク本体2は構成されていることから、本願発明の「遮光性貯留槽」に相当するものである。
なお、雨水貯留装置の分野において藻類等が発生することを防止するためにタンク内を遮光することは、例えば平成17年11月28日付け拒絶理由通知書の先行技術文献として提示された特開2001-279729号公報(特に、段落【請求項1】、【0005】、【0008】参照)や、その他特開2002-105995号公報(特に、【0024】)に見られるように、周知の技術であることを付言しておく。

以上のことから、本願発明と刊行物1記載の発明とは、
「雨水を貯留する遮光性貯留槽と、前記貯留槽の雨水流入口に接続された雨水流入管と、前記貯留槽に取り付けられ前記貯留された雨水を外部に取り出す自然落下用取出口とを具備し、前記貯留槽下部には断面が谷状の形状部を有し、且つ前記形状部の底部にはドレン部を有している雨水利用装置。」
で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明は、貯留槽内部の下部に収納され、且つ水中で動作して貯留された雨水を加圧する加圧ポンプと、前記貯留槽に取り付けられ前記加圧された雨水を外部に取り出す加圧用取出口と、前記加圧ポンプを作動させるスイッチとを具備しているのに対して、刊行物1記載の発明は、加圧ポンプ、そのスイッチ、加圧用取出口のいずれも具備していない点。

〔相違点2〕
貯留槽下部の、断面が谷状の形状部が、本願発明ではU字型の形状部であるのに対して、刊行物1記載の発明ではV字状の形状部である点。

4.判断
前記相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
雨水利用装置において、貯留槽の底部の水を上方の取出口から取り出すために、貯留槽内部の下部に収納され、且つ水中で動作して貯留槽に貯留された雨水を加圧する加圧ポンプと、前記貯留槽に取り付けられ前記加圧された水を外部に取り出す加圧用取出口とを具備したものは、例えば、実公平3-44842号公報(4欄25?30行、4欄41行?第5欄3行)、特開2000-303508号公報(段落【0026】【0027】、図4、図5)、特開2002-13166号公報(段落【0031】)に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。
また、水を貯留する貯留槽において、水の取出口を複数設けることは、例えば、特許第3016199号公報、特開2000-314155号公報、登録実用新案第3052407号公報、特開2002-180507号公報に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。
そして、これらの周知の技術と刊行物1記載の発明とは、水を貯留する貯留槽に関する技術である点で共通しているから、刊行物1記載の発明に前記周知の技術を適用して、貯留槽内部の下部に収納され、且つ水中で動作して貯留された雨水を加圧する加圧ポンプと、この加圧された雨水を貯留槽の上方から外部に取り出すために貯留槽に取り付けられる加圧用取出口とを付加することは、当業者が容易に想到し得ることである。その際、加圧ポンプを作動させるスイッチを雨水利用装置に具備させることは、当業者が当然に採用できる設計的事項にすぎない。

〔相違点2について〕
刊行物1記載の発明において貯留槽下部の断面形状をV字状とした点の技術的意義について、刊行物1を参照すると、前記記載事項(1c)の段落【0016】には、「V字状底面2Aの最も深い谷部に泥などの沈殿物が溜まり、前記泥抜き弁12からこの沈殿物排出が良好に行われることとなる」と記載されている。
このように沈殿物を溜めて排出するためには、貯留槽下部の断面形状が谷状であり、この谷状の形状部の底部にドレン部が形成されていれば足りるところ、このような谷状の形状として、V字状、U字状はともに周知であり、どちらを選ぶかは当業者にとって設計的事項にすぎないから、刊行物1記載の発明において、貯留槽下部の断面形状をU字型とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願発明の作用効果は、刊行物1記載の発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものということができない。
したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知の技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

【3】むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-25 
結審通知日 2008-12-26 
審決日 2009-01-08 
出願番号 特願2003-321180(P2003-321180)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 袴田 知弘深田 高義3L案件管理書架D  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 雨水利用装置  
代理人 竹村 壽  

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