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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1193420
審判番号 不服2006-18724  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-25 
確定日 2009-02-25 
事件の表示 平成 9年特許願第516510号「ツーピースホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月 1日国際公開、WO97/15462、平成12年 7月25日国内公表、特表2000-509342号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】手続の経緯
本願は、1996(平成8)年10月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、1995年10月26日、ノルウェー国)を国際出願日とする出願であって、原審での拒絶理由通知に対して平成17年12月14日付けで意見書の提出と共に手続補正をし、更に、本願について拒絶査定がされたところ、拒絶査定不服の審判を請求するとともに、本件審判請求の日と同日の平成18年8月25日付けで手続補正(前置補正)をしたものである。

【第2】平成18年8月25日付け手続補正の却下について
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月25日付けの手続補正を却下する。
[補正却下の決定の理由]
1.平成18年8月25日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)の趣旨
(1)本件手続補正の前後における、それぞれの請求項1に係る発明は次のとおりである。
<本件手続補正前>の請求項1に記載された発明
「【請求項1】 少なくとも一つの環状溶接結合によって相互に結合されている中心パーツとリムパーツとからなる車両の軽金属製ツーピースホイールの製造方法において、前記溶接結合が、摩擦撹拌溶接によって提供される、微粒子構造を示す固相の溶接シームを形成し、その溶接シームに沿う熱影響領域が最小限であることを特徴とする軽金属製ツーピースホイールの製造方法。」
<本件手続補正後>の請求項1に記載された発明
「【請求項1】 二つ以上の環状溶接結合によって相互に結合されている中心パーツとリムパーツとからなる車両の軽金属製ツーピースホイールの製造方法において、前記各環状溶接結合を摩擦撹拌溶接によって提供し、微粒子構造を示す固相の平行でない溶接シームを形成すると共に、その溶接シームに沿う熱影響領域を最小限とすることを特徴とする軽金属製ツーピースホイールの製造方法。」(以下「本願補正発明」という。なお、下線は補正による限定箇所を明示するために当審で加入した。)
(2)上記の手続補正は、当該補正前の発明に対して、下線部の限定を加えるものであって、この補正は平成18年改正前の特許法17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)更に、本件手続補正が認められるためには、上記の本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合すること)が必要であるので、以下でこの要件の可否について検討する。

2.引用例、その記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先権の主張の日前に頒布された刊行物である特開平3-174932号公報(以下「第1引用例」という。)には、第1?9図と共に、次のイ及びロの事項が記載されている。
イ 「アルミホイールを2ピースで作る場合にスチールホイールの製法を適用すれば、第7図に示すように、ディスク4とリム5をそれぞれ別体に形成しておいて両者を溶接接合することが考えられる。」(第1頁右下欄第9?12行)
ロ 「一方、近年、スチール製2ピースホイールにおいて、第8図に示すように、ディスク6自体の外周部6aに、従来のリム7の両端部のフランジのうち一方のフランジ形状を形成しておき、一端のみにリムフランジ7aを有するリムピースをディスク裏面に溶接接合する新しいホイールが開発されている。・・・このようなタイプのホイールをアルミで作ろうとすると、第7図の製法と第8図の製法とを組合せて、第9図に示すように、外周部8aにリムフランジ形状を有するディスク8と一端のみにリムフランジ9aを有するリム9とを溶接接合することが考えられる。・・・しかし、第9図の製法による場合は、溶接時に歪が発生して、既に最終形状に形成されているディスク8とリム9のタイヤ保持部8a、9aの形状寸法を狂わせ、ホイール完成品時のホイール振れ精度を悪くしてしまうという問題がある。」(第1頁右下欄第13行?第2頁左上欄第16行)
<第1引用例に記載されている発明>
上記の記載事項イに加えて、第1引用例の第7図には、二つの溶接部が示されており、当該二つの溶接部はそれぞれ環状をなすものと解されるから、これらの内容を総合すると、上記第1引用例には、
「アルミホイールを2ピースで作る場合に、ディスク4とリム5をそれぞれ別体に形成しておいて、両者を二つの環状をなす溶接部で溶接接合する2ピースアルミホイールの製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)同じく原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先権の主張の日前に頒布された刊行物である国際公開第95/26254号パンフレット(以下「第2引用例」という。)には、次の(a)?(c)の趣旨の事項が記載されている。 なお、原文の後の括弧{ }内は当審での訳文(第2引用例のファミリー文献である特表平9-508073号公報参照)である。
(a)「so-called friction stir welding,is known from W093/10935.A probe(third body)of a harder material than the treated workpieces is applied in the welding process.Friction stir welding is based on a relative cyclic movement between the probe and the workpieces,urging the probe and workpieces together to create a plasticised region in the workpiece region due to generated frictional heat,stopping the relative cyclic movement and allowing the plasticised material to solidify.」(第1頁第14?19行)
{「いわゆる摩擦攪拌溶接はW093/10935により知られている。処理されるワークよりも硬い材料のプローブ(サードボディ)が溶接過程で使用されている。摩擦攪拌溶接は該プローブと該ワークとの間で相対的に周期的に動かし、該プローブとワークを一緒にし発生した摩擦熱によりワーク領域内に可塑性の領域を作り、該相対的な周期運動を止め、該可塑性の材料を凝固させる事に基づいている。」}
(b)「The actual values of optimal pressure/welding speed are dependent on several factors,e.g.applied material of the joined members (Al-alloys),shoulder geometry etc.
Several welding trials conducted with probes of different diameters show that reduction of the probe shoulder’s diameter related to the actual wall thickness of the joined members has a beneficial effect on the quality of the provided joints/seams besides possibility of increasing the welding speed.・・・This is a combined result of decreased heat input and its focusing towards the vicinity of the formed seam allowing for increase of the welding speed and reduced downward force applied on the probe resulting in distortion free welded structures.」(第5頁第2?15行)
{「最適な圧力/溶接速度の実際の値は幾つかのファクタ、例えば接合部材の材料(Al-合金)、肩の形状等により左右される。
種々の直径を有したプローブで行った幾つかの溶接の試行により、接合部材の実際の壁の厚さに関係したプローブの肩の直径を少なくすることは溶接速度を増加させる可能性の他に、得られた接合/継ぎ目の品質に有益な効果を有していることが示されている。・・・これは熱の入力が減少したことと、溶接速度を増加させるため形成された継ぎ目の近くに向かい中心を合わせることと、歪みの無い溶接構造体に生じプローブの上に加えられる下向きの力が減少したことを組み合わせた結果である。」}
(c)「The material of the probe is harder than the workpieces/members to be joined.Typically for application on aluminium(alloy)members the material should exhibit a good strength at elevated temperatures,e.g.hot work steel, high speed steel or cermet material can be applied.・・・
Thus application of the new and improved tool design according to the present invention allows for increased welding speeds while ensuring sufficient generation of frictional heat.This effect is achieved due to an extended contact/heating time per volume unit of the welding material and closer localization of the generated heat along the welding line.」(第5頁第19行?第6頁第8行)
{「プローブの材料は接合されるワーク/部材より硬い。典型的にはアルミニウム(合金)に応用する場合、該材料は上昇した温度で良好な強度を示し、例えば熱間加工スチール、高速スチール又はサーメット材料を使用することができる。・・・
このように本発明による新奇で改善された道具のタイプを応用することにより摩擦熱を十分発生しながら溶接の速度を増すことができる。この効果は溶接材料の単位体積当りの接触/加熱時間が増えたこと、及び溶接ラインに沿って発生した熱の局所化が進んだことにより得られている。」}
(3)同じく原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先権の主張の日前に頒布された刊行物である国際公開第93/10935号パンフレット(以下「第3引用例」という。)には、次の(d)、(e)の趣旨の事項が記載されている。 なお、原文の後の括弧{ }内は当審での訳文(第3引用例のファミリー文献である特許第2712838号公報参照)である。
(d)「This method can be used to join workpieces along a common plane, as in butt joints by heating and disrupting a local zone formed between the components such that on cooling a common bond is established as the local active zone is translated along the joint.In particular the method generally results in a mix of the two abutting surfaces,often at temperatures below the true melting point of the materials to be joined.」(第3頁第8?15行)
{「この方法は、共通の面に沿って加工物を結合するために使用され得る。加工物の間の部分領域を離散的に加熱し、冷却すると、部分的な活性領域の移動に伴って共通の結合が達成される。特に、この方法は、2つの突き合わせ面の混合に帰着し、多くの場合、材料の真の融点より低い温度で行われる。」}
(e)「In one example of the method a substantially nonconsumable probe is inserted between the materials to be joined in say a butt joint configuration and rotated to produce frictional heating.With sufficient heating a layer of plasticised material is formed around the probe generally composed of both materials to be joined, such that on slowly traversing the rotating probe along the joint line,the plasticised material is spread along the joint.On cooling, the plasticised material bonds the components together as desired.」 (第3頁第28?37行)
{「その方法の一例として、実質的に非消耗のプローブが突き合わせ結合の形状での結合される材料の間に挿入され、そして摩擦熱を作るために回転される。十分に加熱すると、結合される両方の材料による塑性領域がプローブの周囲に形成され、回転プローブを結合線にそってゆっくりと横移動すると、塑性材が結合にそって拡散する。冷却すると、塑性材は加工物を所望のとおり結合する。」}

3.発明の対比
(1)本願補正発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明の「溶接接合」は、本願補正発明でいう「溶接結合」に相当し、以下同様に、「ディスク4」は「中心パーツ」に、「リム5」は「リムパーツ」に、「2ピースアルミホイール」は「軽金属製ツーピースホイール」に、「溶接部」は「溶接シーム」に、それぞれ相当している。
(2)上記の対比から、本願補正発明と引用発明との間の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「二つの環状溶接結合によって相互に結合されている中心パーツとリムパーツとからなる車両の軽金属製ツーピースホイールの製造方法において、前記各環状溶接結合は溶接によって溶接シームを形成する、軽金属製ツーピースホイールの製造方法。」である点。
[相違点1]
本願補正発明では、溶接結合を「摩擦撹拌溶接によって提供し、微粒子構造を示す固相」の溶接シームを形成すると共に、「その溶接シームに沿う熱影響領域を最小限とする」のに対して、引用発明では溶接の具体的な態様については言及されていない点。
[相違点2]
本願補正発明では、「平行でない」溶接シームを形成するのに対して、引用発明では、溶接シームが平行であるか否かは明確でない点。

4.当審の判断
(1)上記の[相違点1]を検討すると、
上記第2及び第3引用例の(a)?(e)の記載からも明らかなように、摩擦撹拌溶接は、アルミやアルミ合金等の軽金属の溶接結合の手段として、一般的によく知られているものといえ、上記の記載中で「the plasticised material is spread along the joint」(塑性材が結合にそって拡散する)、「often at temperatures below the true melting point of the materials to be joined」(多くの場合、材料の真の融点より低い温度で行われる)、「This effect is achieved due to ・・・closer localization of the generated heat along the welding line」(この効果は・・・溶接ラインに沿って発生した熱の局所化が進んだことにより得られている)等とされているところから、「微粒子構造を示す固相」の溶接シームを形成すると共に、「その溶接シームに沿う熱影響領域を最小限とする」ことは、摩擦撹拌溶接にみられる通常の態様と解される。
そして、このような摩擦撹拌溶接は、アルミ等の軽金属の溶接にも普通に用いられて、「distortion free welded structures」(歪みの無い溶接構造)を実現するというのであるから、これをアルミホイールの製造に適用することに格別の工夫や創意を必要とするとは認め難い。
したがって、引用発明において、上記の第2及び第3引用例に示されたところに基づいて、上記相違点1で指摘した本願補正発明と同様の構成とすることは、当業者が容易に想到しうる程度のことといえる。
(2)次に、上記の[相違点2]を検討すると、
第1引用例の記載事項ロでも指摘されているように、ツーピースのアルミホイールといっても各種の形態のものがあるから、中心パーツとリムパーツとの接続関係やそれらの溶接位置も様々なものを想定することができ、二つの溶接シームを「平行でない」ものとすることも、当該想定の域から外れるものではない。
したがって、引用発明において、上記相違点2で指摘した本願補正発明と同様の構成とすることは、当業者が容易になしうる程度の設計事項といえる。
(3)更に、上記相違点1及び2で指摘した構成をあわせ備える本願補正発明の作用効果も、引用発明及び上記各引用例の記載事項から、当業者が容易に予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は引用発明及び上記各引用例の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張について
請求人は、当審よりの審尋に対する回答書(平成20年4月23日付け)において、前置報告書で新たに指摘された二つの文献(実願昭63-132858号(実開平2-54601号)のマイクロフィルム、 実願平1-147045号(実開平3-85201号)のマイクロフィルム)を引用した拒絶理由通知を望む旨を述べると共に、「予め組み立てられた両パーツをその中心線の周りに回転させて、固定された二組以上の摩擦撹拌溶接用回転工具を用いて形成し、」という構成を付加する手続補正をしたい旨を述べている。
しかし、上述のとおり、上記の新たな文献を挙げるまでもなく、本願補正発明は独立特許要件を欠くものといえるばかりでなく、仮に上記のような補正がされたとしても、被加工物を回転させて、二つ以上の溶接箇所を同時に溶接するという手法も既に公知のものといえるところから(特開昭63-140771号公報参照)、当該補正によって上述した当審の判断結果が覆るものではない。

6.独立特許要件の欠如に伴う本件手続補正の却下
上記検討から明らかなように、本願補正発明は、上記引用発明及び上記各引用例の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件手続補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反することになり、同第159条第1項において一部読み替えて準用する同第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

【第3】本願の発明について
1.本願の発明
平成18年8月25日付けの本件手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、平成17年12月14日付けの手続補正に係る明細書の、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】 少なくとも一つの環状溶接結合によって相互に結合されている中心パーツとリムパーツとからなる車両の軽金属製ツーピースホイールの製造方法において、前記溶接結合が、摩擦撹拌溶接によって提供される、微粒子構造を示す固相の溶接シームを形成し、その溶接シームに沿う熱影響領域が最小限であることを特徴とする軽金属製ツーピースホイールの製造方法。」(以下「本願請求項1の発明」という。)

2.引用例、その記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項及び引用発明は、上記【第2】の2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
上記の本願請求項1の発明と、上記の【第2】で検討した本願補正発明とを対比すると、上記【第2】の1.(2)で指摘したところから明らかなように、本願請求項1の発明の構成に、限定事項を加えたものが本願補正発明にあたる。
そうすると、本願請求項1の発明を更に限定した発明である本願補正発明が、上記【第2】の2.以下に記載したとおり、上記の引用発明及び上記各引用例の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項1の発明も本願補正発明と同じく、上記引用発明及び上記各引用例の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
上記のとおり、本願請求項1の発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願請求項2以下に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-24 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願平9-516510
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
P 1 8・ 575- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 中川 真一
岸 智章
発明の名称 ツーピースホイール  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  

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