• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1193482
審判番号 不服2007-4663  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2009-03-06 
事件の表示 平成11年特許願第 56066号「超電導軸受を用いたフライホイール式エネルギー貯蔵装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月14日出願公開、特開2000-253599〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年3月3日の出願であって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年3月19日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「浮上用磁石と該浮上用磁石と対向して位置する超電導体から構成される超電導軸受と、該超電導軸受により回転可能に支持された円環形状又はリング形状のフライホイールを含む固有の危険速度においても回転安定性を有する回転体と、エネルギーの入出力を行う発電電動機を備えたエネルギー貯蔵装置であって、フライホイールを含む回転体の回転軸が鋼製材料で、フライホイールがCFRP材料で構成されており、かつフライホイールを含む回転体の回転対称軸のまわりの慣性モーメントが、フライホイールを含む回転体の回転対称軸に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメントよりも大きいことを特徴とするフライホイール式エネルギー貯蔵装置。」

2.引用例
(1)これに対して、当審における、平成20年8月19日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平5-49191号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0004】
【解決しようとする課題】本発明の目的は、機械的な軸受を不要とし、もって維持管理が容易な電力貯蔵装置とすることにある。」

・「【0015】
【実施例】図1および図2を参照するに、電力貯蔵装置10は、非磁性材料製のフライホィール12と、該フライホィールを支持する非磁性材料製の支持体14と、フライホィール12に対しエネルギーの受け渡しをする発電電動機16と、フライホィール12を支持体14に対し磁気的に浮上させることによりフライホィール12を支持体14に回転可能に支持させる複数の磁気浮上装置18,20とを含む。
【0016】フライホィール12は、円板状のフライホィール部22と、該フライホィール部に結合された一対の軸部24とを有する。両軸部24は、フライホィール部22に関し互いに反対の方向へ伸びる。支持体14は、フライホィール12を収容する空間26を有する。図示の例では、フライホィール12および支持体14は、フライホィール12の回転軸線28が上下方向となるように据付けられている。しかし、回転軸線28が水平方向へ伸びるように、フライホィール12および支持体14を据付けてもよい。空間26は、フライホィール12の断面形状と相似形の断面形状を有する。フライホィール12の回転抵抗を低下させるべく、空間26を真空に維持するか、またはヘリウムガス、水素ガスのような気体を空間26に充填することが好ましい。
【0017】各磁気浮上装置18は、図3および図4に示すように、フライホィール12を支持体14に対して浮上させる磁場の発生器として作用する環状の磁石30と、円板状の超電導体32とを備える。磁石30は、これの軸線がフライホィール12の回転軸線28と一致するように軸部24の端面に固定されている。これに対し、超電導体32は対応する磁石30からの磁束を受けるべく対応する磁石30と対向するように、支持体14の対応する部位に固定されている。なお、磁石30を軸部24の端面に配置し、超電導体32を支持体14に配置する代りに、磁石30を支持体14に配置し、超電導体32を軸部24の端面に配置してもよい。
【0018】各磁気浮上装置20は、図5に示すように、フライホィール12を支持体14に対して浮上させる磁場の発生器として作用する環状の磁石34と、円板状の複数の超電導体36とを備える。磁気浮上装置20は、各軸部24、フライホィール部22の上下の各面、およびフライホィール部22の外周面と、支持体14の対応する部位とに配置されている。図1および図2に示す例では、磁石34はフライホィール12の側に配置されており、各超電導体36は支持体14の側に配置されている。各磁石34は、回転軸線28を中心とする仮想的な線に沿って伸びるように配置されている。これに対し、各超電導体36は、対応する磁石34からの磁束を受けるべく対応する磁石34と対向するように、対応する磁石34に沿って順次配置されている。磁石34をフライホィール12の側に配置し、各超電導体36を支持体14の側に配置する代りに、磁石34を支持体14の側に配置し、各超電導体36をフライホィール12の側に配置してもよい。また、各磁気浮上装置20において、円板状の複数の超電導体36を用いる代りに、環状の超電導体を用いてもよく、この場合環状の超電導体は対応する磁石と対向しかつ対応する磁石に沿って伸びるように配置される。さらに、板状または棒状の磁石をフライホィールの回転方向において同極となるように環状に配置してもよい。」

・「【0024】発電電動機16は、一方の軸部24の外周面に配置された回転子40と、支持体14に回転子40と対向して配置された固定子42とを備える。回転子42は、軸線28の周りに等角度間隔に配置された複数の超電導磁石からなるが、永久磁石を用いてもよい。これに対し、固定子42は、軸線の周りに複数巻きに巻かれたコイルからなる。
【0025】電力に余裕があるときは、発電電動機16を電動機として作用させるべく、余剰電力が固定子42のコイルに供給され、それによりフライホィール12が回転子40と固定子42との共同作用により回転される。その結果、余剰の電気エネルギーは、フライホィール12に回転エネルギーとして貯蔵される。これに対し、電力を供給するときは、発電電動機16を発電機として作用させるべく、固定子42のコイルから電力が取り出される。発電は、回転子40と固定子42との共同作用により行われる。その結果、フライホィール12の回転エネルギーは発電電動機16により電気エネルギーに変換される。」

また、図1には、フライホィールの軸方向の長さが、フライホィールの直径の半分程度となっている電力貯蔵装置の断面図が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「環状磁石と該環状磁石と対向するように配置されている超電導体とから構成される磁気浮上装置と、該磁気浮上装置により回転可能に支持された円板状のフライホィール部を有するフライホィールと、余剰電力をフライホィールに回転エネルギーとして貯蔵し、フライホィールの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電電動機を備えた電力貯蔵装置であって、フライホィール部を含むフライホィールの軸部及びフライホィール部が非磁性材料製であり、かつフライホィールの軸方向の長さが、フライホィールの直径の半分程度となっているとともに、フライホィール部の厚さと軸部の太さが略同一である電力をフライホィールに回転エネルギーとして貯蔵する電力貯蔵装置。」

(2)同じく、引用した特開平10-252832号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電力の貯蔵、その他に適用されるフライホイールに関する。
【0002】
【従来の技術】図2は従来のフライホイールの説明図である。図において、符号1は回転軸、2はリング、3はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の擬似等方性板で、従来のフライホイールにおいては支持ディスクに部分的に球面型をなすCFRP製の擬似等方性板3が使用されている。フライホイールは回転数の上昇に伴いリング2が半径方向に膨張するが、支持ディスクの中央部よりも外側が部分的な球面をなすことにより、この球面で支持ディスクが半径方向に伸びる変形をしてリング2の膨張に追随する構造になっている。回転軸1は鋼製で、支持ディスクはボルトにより回転軸1に取付けられている。リング2はCFRP製でCFRPの3層構造とすることにより、回転に伴って発生する半径方向の応力が低減するようになっている。リング2と支持ディスクとは接着材により接合されており、接合部では常に半径方向に応力が圧縮されるような構造にして接着部の剥離を防止している。」
・「【0005】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の一形態に係るフライホイールの説明図である。図において、本実施の形態に係るフライホイールは電力の貯蔵、その他に使用されるもので、図における符号1は回転軸、2はリング、4は支持ディスクを構成するCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の擬似等方性板である。本フライホイールは図に示すように、フライホイールの回転軸1とリング2とを接続する支持ディスクが単一の構造ではなく、球面型で上下対称の構造にすることでリング2の浮き上がる力を防止し、軽量化を可能としている。即ち、支持ディスクは上下に対称な凸状の球面型をなす擬似等方性板4で形成されており、この擬似等方性板4のリング2へ接合する位置にリング2の重心線を合わせ、リング2に支持ディスクを取付けている。回転軸1は鋼製、擬似等方性板4はCFRP製で、両者はボルトにより結合されている。リング2はCFRP製でCFRPの3層構造とすることにより、回転に伴って発生する半径方向の応力が低減するようになっている。CFRP製のリング2とCFRP製の擬似等方性板4とは接着材により結合されており、接合面には常に半径方向に押圧する圧縮力が作用して接着部の剥離を防止する構造になっている。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「リングを含むフライホイールの回転軸が鋼製で、リングがCFRP製である、電力の貯蔵に適用されるフライホイール。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、後者における「環状磁石」が前者における「浮上用磁石」に相当し、以下同様に、
「対向するように配置されている」態様が「対向して位置する」態様に、
「磁気浮上装置」が「超電導軸受」に、それぞれ相当する。
また、後者における「フライホィール部」及び「フライホィール」が、前者における「フライホイール」及び「回転体」にそれぞれ相当するから、後者の「該磁気浮上装置により回転可能に支持された円板状のフライホィール部を有するフライホィール」と前者の「該超電導軸受により回転可能に支持された円環形状又はリング形状のフライホイールを含む固有の危険速度においても回転安定性を有する回転体」とは、「該超電導軸受により回転可能に支持されたフライホイールを含む回転体」との概念で共通する。
更に、後者における「余剰電力をフライホィールに回転エネルギーとして貯蔵し、フライホィールの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する」態様が前者における「エネルギーの入出力を行う」態様に、
後者における「電力貯蔵装置」が前者における「エネルギー貯蔵装置」に、それぞれ相当している。
加えて、後者におけるフライホィールは、フライホィール部と軸部とを有しており、このフライホィール全体が非磁性材料製であること、フライホィールの軸方向の長さが、フライホィールの直径の半分程度となっているとともに、フライホィール部の厚さと軸部の太さが略同一であることから、当該フライホィールの軸部のまわりの慣性モーメントは、フライホィールの軸部に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメントよりも大きいことは明らかといえる。したがって、後者における「フライホィール部を含むフライホィールの軸部及びフライホィール部が非磁性材料製であり、かつフライホィールの軸方向の長さが、フライホィールの直径の半分程度となっているとともに、フライホィール部の厚さと軸部の太さが略同一である」態様と、前者における「フライホイールを含む回転体の回転軸が鋼製材料で、フライホイールがCFRP材料で構成されており、かつフライホイールを含む回転体の回転対称軸のまわりの慣性モーメントが、フライホイールを含む回転体の回転対称軸に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメントよりも大きい」態様とは、「フライホイールを含む回転体が所定の材料で構成されており、かつフライホイールを含む回転体の回転対称軸のまわりの慣性モーメントが、フライホイールを含む回転体の回転対称軸に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメントよりも大きい」との概念で共通する。
そして、後者における「電力をフライホィールに回転エネルギーとして貯蔵する」態様が、前者における「フライホイール式」である態様に相当している。

したがって、両者は、
「浮上用磁石と該浮上用磁石と対向して位置する超電導体から構成される超電導軸受と、該超電導軸受により回転可能に支持されたフライホイールを含む回転体と、エネルギーの入出力を行う発電電動機を備えたエネルギー貯蔵装置であって、フライホイールを含む回転体が所定の材料で構成されており、かつフライホイールを含む回転体の回転対称軸のまわりの慣性モーメントが、フライホイールを含む回転体の回転対称軸に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメントよりも大きいフライホイール式エネルギー貯蔵装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
フライホイールの形状が、本願発明では「円環形状又はリング形状」であるのに対し、引用発明1では「円板状」である点。
[相違点2]
回転体が、本願発明では「固有の危険速度においても回転安定性を有する」ものであるのに対し、引用発明1では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
フライホイールを含む回転体の材料が、本願発明では「回転軸が鋼製材料で、フライホイールがCFRP材料で構成されて」いるのに対し、引用発明1では「軸部及びフライホィール部が非磁性材料製であ」る点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1、3について
引用発明2は、リング形状のフライホイール(「リング」が相当)を含む回転体(「フライホイール」が相当)であって、フライホイールを含む回転体の回転軸が鋼製材料で、フライホイール(リング)がCFRP材料で構成されているものである。
本願明細書等には、このような回転体を採用することによる作用効果について特段の記載はなく、引用発明1と引用発明2とは、フライホイールを用いた電力貯蔵装置という共通の技術分野に属しているから、引用発明1におけるフライホイールの形状及び材料として、公知の形状及び材料の中から引用発明2の形状及び材料を選択し、上記相違点1及び3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2について
フライホイール式エネルギー貯蔵装置の技術分野において、回転体の回転安定性を確保することは当然の課題であるから、固有の危険速度においても回転安定性を有するものとすることは、上記課題に基づいた望ましい形態として当業者が適宜考慮すべき設計的事項と認められる。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、出願人は審判請求書において、単一材料ではない回転体の回転安定性をIpとIrの大小関係により規定した本願発明には進歩性がある旨の主張をしているので、本願発明の構成である「フライホイールを含む回転体の回転対称軸のまわりの慣性モーメント(Ip)が、フライホイールを含む回転体の回転対称軸に直交し、かつ重心を通る軸まわりの慣性モーメント(Ir)よりも大きい」という規定の技術的意義について、以下考察する。当該規定について、本願明細書には以下のように記載されている。
「本実験結果から、フライホイール7を含む回転体が回転安定性を保てる条件は、フライホイール7を含む回転体の軸方向の長さがフライホイール7を含む回転体の最外直径よりも小さいということが分かる。」(【0034】参照)
「フライホイール7を含む回転体の軸方向の長さがフライホイール7を含む回転体の最外直径以下であるというフライホイール7を含む回転体が回転安定性を保てる条件は、慣性モーメントIpとIrの大小関係でも判断でき、Ip>Irとなる。例えば、直径D、高さHの中実円盤の場合、Ip>Irという条件は、H<0.87Dとなり、回転体の回転軸方向の長さが回転体の最外直径よりも小さいという条件とほぼ一致する。」(【0035】参照)
「フライホイール7を含む回転体の軸方向長さがフライホイール7を含む回転体の最外直径よりも若干小さいときには、請求項1の条件は満たすが、偏心による遠心力が回転体を傾けようとするモーメントが大きくなり、回転不安定性が生じる可能性が考えられる。このような場合には、慣性モーメントによる回転安定性の判断が重要になると考えられる。」(【0036】参照)

上記記載によれば、「Ip>Ir」という条件は、「回転安定性を保てる条件は、フライホイールを含む回転体の軸方向の長さが最外直径よりも小さいということ」を単に言い換えたに過ぎないと解釈される。
また、本願明細書には、IpとIrを比較することの技術的根拠や、Ip>Irを満たせば回転安定性を保てることを裏付ける実験データ等は、いずれも何等示されていない。
更に、回転体の軸方向の長さを最外直径に対して小さくして扁平な形状とすることが、回転体の安定な回転に寄与することは、当業者にとって技術常識といえるところ、引用発明1及び引用発明2も扁平な形状となっており、安定性を考慮したフライホイールのIpとIrを比較すれば通常はIp>Irという条件を満たしていると解するのが妥当といえる。
これらのことを総合的に判断すれば、回転安定性を保てる条件を、回転体の軸方向の長さと最外直径の大小関係により規定することと、IpとIrの大小関係により規定することとは、どちらも扁平な形状とすることを規定しているに過ぎず、扁平の度合(例えば、上記「H<0.87D」という条件の係数部分)は、実験等により当業者が適宜最適化し得る設計的事項というべきである。
したがって、単一材料ではない回転体の回転安定性をIpとIrの大小関係により規定した本願発明には進歩性があるという、請求人の主張を採用することはできない。

5.むすび
したがって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-17 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-22 
出願番号 特願平11-56066
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大河原 裕
小川 恭司
発明の名称 超電導軸受を用いたフライホイール式エネルギー貯蔵装置  
代理人 津波古 繁夫  
代理人 矢葺 知之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ