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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1193588
審判番号 不服2006-6268  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-05 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 平成 8年特許願第237620号「中空成形体容器及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月27日出願公開、特開平 9-136391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月9日(優先権主張平成7年9月14日)の出願であって、平成17年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年2月28日付けで拒絶査定がされ、同年4月5日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年4月28日付けで手続補正がされ、平成19年11月28日付けで審尋がされ、平成20年1月30日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年4月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成18年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「少なくとも、(A)液晶ポリエステル56?99重量%および(B)エポキシ基を有する熱可塑性樹脂44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層と、熱可塑性樹脂(但し、液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル樹脂組成物を除く)からなる層とを有する積層構造体から構成され、ブロー成形で得られることを特徴とする中空成形体容器。」
を、
「少なくとも、(A)液晶ポリエステル56?99重量%および(B)下記の(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層と、熱可塑性樹脂(但し、液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル樹脂組成物を除く)からなる層とを有する積層構造体から構成され、ブロー成形で得られることを特徴とする中空成形体容器。
(a)エチレン単位が50.0?99.9重量%
(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1?30.0重量%
(c)エチレン系不飽和エステル単位が0?49.9重量%」
とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(B)エポキシ基を有する熱可塑性樹脂」について「(B)下記の(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体」、「(a)エチレン単位が50.0?99.9重量%
(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1?30.0重量%
(c)エチレン系不飽和エステル単位が0?49.9重量%」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、対応する明細書を「本願補正明細書」という。)が、本件出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-177796号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平1-193351号公報(以下、「引用例2」という。)及び特開平6-306261号公報(以下、「引用例3」という。)には、次のとおり記載されている。

ア 引用例1の記載事項
(ア-1)「熱可塑性樹脂を主体とする少なくとも1種の層と実質的に下記化1
【化1】


(化1中Arは1,4-フェニレン基または2,6-ナフチレン基を表す。)で表される構成単位(1)、下記化2
【化2】


で表される構成単位(2)、下記化3
【化3】


で表される構成単位(3)からなり、構成単位(1)と構成単位(2)を実質的に等しいモル数で含み、構成単位(1)および構成単位(2)の合計量が15?90モル%、構成単位(3)の量が10?85モル%である熱液晶ポリエステルの層との積層体からなることを特徴とする多層容器。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(ア-2)「このような状況に鑑み、本発明者等は、従来の熱液晶ポリマーからなる容器が達成し得ない優れたガスバリヤー性と成形加工性を兼ね備えたポリエステル多層容器を提供すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。」(段落【0011】)
(ア-3)「なお、本明細書において用いられる用語「容器」とは主として飲食品、医薬品等の包装用途に適する成形物品を意味する。このような成形物品は本発明の多層ポリエステルからなるシートおよびフィルム、さらにはボトル、トレイ、カップ、袋等の有底容器も含む。」(段落【0018】)
(ア-4)「熱可塑性樹脂を主体とする層を形成する樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)170℃以下の熱可塑性樹脂が好適に使用される。そのうち特にTg150℃以下の熱可塑性樹脂が好ましい。なおここで、TgとはDSC(昇温速度10℃/分で測定)によって得られる値である。疎水性樹脂、とくにポリオレフィン系樹脂が代表的なものとしてあげられる。ポリオレフィン系樹脂としては、高密度、中密度あるいは低密度のポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、あるいはブテン、ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィン類を共重合したポリエチレン、アイオノマー樹脂、ポリプロピレンホモポリマー、エチレンをグラフト共重合したポリプロピレン、あるいはエチレン、ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィン類を共重合したポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、あるいは上述のポリオレフィンに無水マレイン酸などを作用させた変性ポリオレフィン、さらにはエチレン-ビニルアルコール共重合体などを含んでいる。この中でポリプロピレン(PP)類は本発明の目的に好適である。
さらに熱可塑性樹脂を主体とする層を形成する樹脂としては、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンテレフタレート/イソフタレート)などに代表されるポリエステル系樹脂やポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体などのポリスチレン系樹脂またはポリカーボネート系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/12共重合体、ナイロン6/6,6共重合体などのポリアミド系樹脂があげられる。
さらに、熱可塑性樹脂を主体とする層を形成する樹脂は上記樹脂を単独で用いてもまた2種類以上配合して使用しても構わない。また成形性が損なわれない範囲でタルク、マイカ、クレー、セリサイト、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、ケイ酸、チタンなどの無機フィラーを添加しても構わない。」(段落【0038】?【0040】)
(ア-5)「本発明において上記熱可塑性樹脂を主体とする少なくとも1種の層と該ポリエステルの層からなる多層積層体および該多層積層体を使用した密封容器は従来公知の方法で製造が可能であり、特に加熱延伸多層積層体に好適に使用される。共押出法においては、各樹脂層に対応する押出機で溶融混練後、T-ダイ、サーキュラーダイなどの多層多重ダイスを通して所定の形状に押出す。また、共射出法においては、各樹脂層に対応する射出機で溶融混練後、金型中に射出し、多層の容器または容器用のプリフォームを製造する。ドライラミネート法においては、本発明中のポリエステル樹脂を押出機で溶融混練後、T-ダイ、サーキュラーダイなどの成形ダイより押出成形して得られたフィルム、シートと熱可塑性樹脂を主体とするフィルム、シートとを積層することにより多層積層体が製造される。」(段落【0042】)
(ア-6)「本発明の多層容器の層を共押出法によって作成する場合には、熱可塑性樹脂を主体とする少なくとも1種の層と該ポリエステルの層の間に接着性樹脂の層をはさんで積層する通常の方法が採用される。」(段落【0043】)
(ア-7)「ドライラミネート法を採用する場合は、ドライラミネート用接着剤としては層間接着力が充分であれば特に限定されるものではない。例えばポリウレタン系、ポリエステル系のドライラミネート用接着剤が挙げられる。」(段落【0044】)
(ア-8)「これらの方法により製造された該積層体はシート、フィルム、パリソン、プリフォーム等の形をとり、該積層体は真空圧空成形、二軸延伸ブロー成形などにより、所定の温度で再加熱し延伸操作を行う方法、あるいは該多層積層体(シート、フィルム)を二軸延伸機に供し、加熱延伸操作を行う方法、さらには共射出法で得たパリソン、プリフォームを延伸ブローする方法により所定の形状の容器に形成される。」(段落【0045】)
(ア-9)「ガスバリヤー性、熱成形性、耐熱水性および耐レトルト性が優れている。」(段落【0107】)

イ 引用例2の記載事項
(イ-1)「下記構造式( I )?(III)から選ばれた構造単位からなり、異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル100重量部に対して、オレフィン系重合体0.1?60重量部を含有せしめてなる芳香族ポリエステル組成物。






」(特許請求の範囲第(1)項)
(イ-2)「オレフィン系重合体がα-オレフィン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体である特許請求範囲第(1)項に記載の芳香族ポリエステル組成物。」(特許請求の範囲第(2)項)
(イ-3)「本発明者らは先に成形品厚みが厚い場合でも高弾性率成形品を得るためには多層複合成形が有効であることを見出しているが、これらの液晶ポリマの多くは層間の溶融接着性が悪く、高弾性率の多層複合成形品が得られないことがわかつた。よつて本発明は、異方性溶融相を形成する芳香族ポリエステルの有する優れた流動性、耐熱性を損なうことなく機械物性とりわけ面衝撃性を改良するとともに層間接着力の大きい高弾性率多層複合成形品を得ることを課題とするものである。」(第2頁左下欄第8?19行)
(イ-4)「また本発明において使用できるオレフィン系重合体のうちα-オレフィン類とα、β不飽和酸のグリシジルエステルからなる共重合体におけるα-オレフィンとはエチレン、プロピレン、ブテン-1などであるが、エチレンが好ましく使用される。またα、β-不飽和酸のグリシジルエステルとは、一般式


(式中、Rは水素原子または低級アルキル基である。)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどであり、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は1?50モル%の範囲が適当である。」(第4頁右上欄第16行?同頁左下欄第10行)
(イ-5)「上記共重合体の配合量は芳香族ポリエステル100重量部に対して0.1?60重量部、とくに0.5?20重量部が好ましい。0.1重量部未満では本発明の効果が小さく、60重量部より多い場合は高弾性率、すぐれた成形流動性、耐熱性など異方性溶融相を形成する芳香族ポリエステルの長所が損なわれるためいずれの場合も好ましくない。本発明の組成物は多層複合射出成形を行つた場合良好な層間の溶融接着性を示すが、接着面を形成する2層は同一の種類であつてもまた異なつた種類であつてもよい。さらには他の液晶ポリマや熱可塑性樹脂との間にも良好な層間接着力を有している。」(第6頁左上欄第9行?同頁右上欄第2行)
(イ-6)「参考例1 p-アセトキシ安息香酸324重量部、クロルハイドロキノンジアセテート137重量部、フェニルハイドロキノンジアセテート162重量部および4,4′-ジフェニルジカルボン酸300重量部を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み脱酢酸重合を行つた。4,4′-ジフェニルジカルボン酸は化学量論量に対して3.5%過剰に仕込んだことになる。(省略)下記理論構造式を有する樹脂Aが得られた。(化学式、省略) またこのポリエステルを偏光顕微鏡の試料台にのせ昇温して光学異方性の確認を行つた結果261℃であり良好な光学異方性を示した。」(第6頁右下欄第7行?第7頁左上欄第8行)
(イ-7)「実施例5 参考例1で得た樹脂A100重量部に対してエチレン-メタクリル酸グリシジル(96/4モル)共重合体10重量部をドライブレンドし320℃に設定した単軸スクリュー押出機により溶融混合後ペレタイズした。得られたペレットを実施例1と同様の条件で成形し、落球衝撃試験を行つた。結果を表2に示す。またこのペレットを実施例1と同様の方法で複合成形し、三層からなる複合射出成形品を得た。さらに実施例1と同様の方法で層間の剪断接着強度を測定した。結果を表2に示す。」(第8頁左下欄第1?12行)
(イ-8)「〈本発明の効果〉 本発明の芳香族ポリエステル組成物は優れた耐面衝撃性を有する射出成形品を提供し、さらに本発明組成物の多層複合射出成形により得られた成形品は層間の接着性が優れていることがわかつた。」(第9頁右上欄第1?6行)

ウ 引用例3の記載事項
(ウ-1)「液晶性ポリエステル樹脂は優れた流動性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有するため高機能、エンジニアリングプラスチックとして広く利用されているが、その大部分は専ら射出成形により得られるものであった。」(段落【0002】)
(ウ-2)「本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は従来の液晶ポリエステル樹脂又はその組成物に比べて溶融張力が向上し、ブロー成形時のパリソンのドローダウンがなく、ブロー成形性、押出成形性が著しく改善されて、均一な肉厚、良好な外観を有する中空成形品を得ることができ、又、機械的物性、耐熱性等にも優れ、自動車のインテークマニホールド、エンジン周辺の吸排気部品、高温液体、化学薬品、溶剤用の容器、パイプ、フロート等の如き容器類、管状物(異形も含む)等、かなり苛酷な条件でも使用可能な中空成形品を提供することができる。」(段落【0018】)

(3)引用例1に記載された発明
引用例1には、「熱可塑性樹脂を主体とする少なくとも1種の層と実質的に構成単位(1)?(3)からなり、構成単位(1)と構成単位(2)を実質的に等しいモル数で含み、構成単位(1)および構成単位(2)の合計量が15?90モル%、構成単位(3)の量が10?85モル%である熱液晶ポリエステルの層との積層体からなることを特徴とする多層容器。」(摘示(ア-1))が記載され、「「容器」とは・・・ボトル、トレイ、カップ、袋等の有底容器も含む。」(摘示(ア-3))ものであり、また、「二軸延伸ブロー成形などにより、所定の温度で再加熱し延伸操作を行う方法、・・・さらには共射出法で得たパリソン、プリフォームを延伸ブローする方法により所定の形状の容器に形成される。」(摘示(ア-8))ものであるから、引用例1には、
「熱可塑性樹脂を主体とする層と、構成単位が特定のものである液晶ポリエステルの層との積層体からなるブロー成形で得られるボトル等の多層容器」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
引用発明における「熱可塑性樹脂を主体とする層」は、摘示(ア-4)の「さらに、熱可塑性樹脂を主体とする層を形成する樹脂は上記樹脂を単独で用いてもまた2種類以上配合して使用しても構わない。また成形性が損なわれない範囲でタルク、マイカ、クレー、セリサイト、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、ケイ酸、チタンなどの無機フィラーを添加しても構わない。」との記載からみて、熱可塑性樹脂を単独で用いる場合を含むから、本願補正発明における「熱可塑性樹脂からなる層」に相当し、また、引用発明が従来の熱液晶ポリマーからなる容器が達成し得ないポリエステル多層容器を提供することを目的としている(摘示(ア-2))ことや、摘示(ア-4)において、例示されている熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルでないことからみて、引用発明における「熱可塑性樹脂を主体とする層」は、液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル樹脂組成物ではないものと解される。また、本願補正発明の「液晶ポリエステルおよび(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層」も引用発明の「構成単位が特定のものである液晶ポリエステルの層」も「液晶ポリエステルを含む層」といえ、さらに、引用発明における「積層体」は本願補正発明における「積層構造体」に相当し、引用発明における「ボトル等の多層容器」は、中空成形体容器に他ならないから、本願補正発明と引用発明とは
「少なくとも、液晶ポリエステルを含む層と、熱可塑性樹脂(液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル樹脂組成物を除く)からなる層とを有する積層構造体から構成され、ブロー成形で得られる中空成形体容器」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(i)「液晶ポリエステルを含む層」を構成している「液晶ポリエステル」が、本願補正発明においては、単に「液晶ポリエステル」であるのに対し、引用発明においては、「構成単位が特定のものである液晶ポリエステル」である点
(ii)「液晶ポリエステルを含む層」が、本願補正発明においては、「液晶ポリエステル56?99重量%および(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層」であるのに対し、引用発明においては、単に「液晶ポリエステルの層」である点

(5)判断
ア 相違点(i)について
本願補正発明における液晶ポリエステルは、特にその構造は特定されていないうえに、本願補正明細書の段落【0014】に、「本発明における液晶ポリエステル樹脂組成物の成分(A)の液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルである。具体的には、(1)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、(2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸の組み合わせからなるもの、(3)芳香族ジカルボン酸と核置換芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、(4)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるものなどが挙げられ」と例示され、ここで例示された「(4)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの」とは引用例1の「構成単位(1)と構成単位(2)を実質的に等しいモル数で含」むものであって、また、上記例示において「芳香族ヒドロキシカルボン酸」とは引用例1の構成単位(3)のものであるから、本願補正発明における液晶ポリエステルは、引用発明における構成単位が特定のものを実質的に包含しているといえる。
したがって、相違点(i)は、実質的に相違するものとはいえない。

イ 相違点(ii)について
(ア)引用発明は、摘示(ア-5)?(ア-7)の記載からみると、その多層積層体の製造においては従来公知の方法で製造が可能であるところ、共押出法によって作成する場合には熱可塑性樹脂層と液晶ポリエステル層との間に接着性樹脂の層をはさんで積層することや、ドライラミネート法を採用する場合にはドライラミネート用接着剤を用いることが記載されており、このことから、液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層と熱可塑性樹脂層の間の接着性は、不十分であるものと解される。

(イ)ところで引用例2には、「異方性溶融相を形成する芳香族ポリエステルの有する優れた流動性、耐熱性を損なうことなく機械物性とりわけ面衝撃性を改良するとともに層間接着力の大きい高弾性率多層複合成形品を得ることを課題とする」発明について記載され(摘示(イ-3))、そのために「異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル100重量部に対して、オレフィン系重合体0.1?60重量部を含有せしめてなる芳香族ポリエステル組成物」としたものであって(摘示(イ-1))、そうすることにより、「本発明の組成物は多層複合射出成形を行つた場合良好な層間の溶融接着性を示すが、接着面を形成する2層は同一の種類であつてもまた異なつた種類であつてもよい。さらには他の液晶ポリマや熱可塑性樹脂との間にも良好な層間接着力を有している」(摘示(イ-5))ものとなったのであるから、引用例2には、異方性溶融相を形成する芳香族ポリエステルにオレフィン系重合体を含有せしめることで、同一の種類のものにでも異なった種類のものにでも、さらには他の液晶ポリマや熱可塑性樹脂にも、良好な層間接着力を有するものになったことが記載されているといえる。

(ウ)そこで、引用例2に記載された「異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル100重量部に対して、α-オレフィン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体であるオレフィン系重合体0.1?60重量部を含有せしめたもの」についてみると、重量部を重量%に換算すれば、「異方性溶融相を形成し得る芳香族ポリエステル、すなわち、液晶ポリエステル約62.5?99.9重量%、α-オレフィン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体であるオレフィン系重合体、すなわち、エチレン単位と不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位からなるエポキシ基含有エチレン共重合体約37.5?0.01重量%」であるといえ、この量割合は、本願補正発明における(A)と(B)の量割合と重複する。
また、引用例2には、エポキシ基含有共重合体の「α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は1?50モル%の範囲が適当である」ことが記載されている(摘示(イ-4))ところ、同記載中に好ましいとされているエチレン-メタクリル酸グリシジルの共重合体である場合について、モル%を重量%に換算すると、エチレン単位17.9?95.6重量%、メタクリル酸グリシジル単位4.4?82.1重量%となり、さらに、実施例(摘示(イ-6)?(イ-8))において用いられている、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体においては、エチレン96モルに対し、メタクリル酸グリシジルが4モルであるので、これを重量%に換算すると、エチレン単位84重量%に対し、メタクリル酸グリシジル16重量%であるから、これらの量割合は、本願補正発明における(a)?(c)の量割合と重複する。
そうしてみると、引用例2における、
「芳香族ポリエステル100重量部に対して、α-オレフィン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体であるオレフィン系重合体0.1?60重量部を含有せしめたもの」は、本願補正発明における、
「(A)液晶ポリエステル56?99重量%および(B)下記の(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物
(a)エチレン単位が50.0?99.9重量%
(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1?30.0重量%
(c)エチレン系不飽和エステル単位が0?49.9重量%」
と重複するものである。

(エ)ところで、引用発明においては、上記(ア)に示したように、液晶ポリエステルからなる層と熱可塑性樹脂層の間の接着性は、不十分であるものと解され、ここで用いている液晶ポリエステルもその化学構造からみて芳香族ポリエステルであって、異方性溶融相を形成し得るものであるから、引用発明における接着性を改善するために、引用例2に記載された「芳香族ポリエステル100重量部に対して、α-オレフィン類とα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体であるオレフィン系重合体0.1?60重量部を含有せしめたもの」、すなわち、「(A)液晶ポリエステル56?99重量%および(B)下記の(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物
(a)エチレン単位が50.0?99.9重量%
(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1?30.0重量%
(c)エチレン系不飽和エステル単位が0?49.9重量%」を用いることは、当業者が容易になし得るところといえる。
したがって、引用発明において、「液晶ポリエステルの層」として「液晶ポリエステル56?99重量%および(a)?(c)からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層」を用いることは当業者にとって容易である。

ウ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0077】に記載されるように、「本発明により軽量で、強度があり、ガスバリア性、ガソリンバリア性、ガスホールバリア性に優れ、成形加工性も良好な中空成形体容器、特に燃料容器、自動車用燃料タンクを提供できる。」ものであるところ、引用発明もガスバリヤー性、熱成形性、耐熱水性および耐レトルト性が優れ、多層容器であること(摘示(ア-2)、(ア-9))が記載され、引用例2には「優れた耐面衝撃性を有する射出成形品を提供し、さらに本発明組成物の多層複合射出成形により得られた成形品は層間の接着性が優れている」(摘示(イ-8))と記載されており、本願補正明細書に記載された本願補正発明の効果は、引用発明の効果、あるいは、引用例2に記載された効果から当業者が予測し得るところといえる。
また、本願補正明細書の段落【0055】には、「本発明の積層構造体を構成する液晶ポリエステル樹脂層と熱可塑性樹脂層とは接着性が良好で、ブロー成形時の熱圧着により十分な接着強度が得られ、各層の間に接着剤層は不要であり、積層構造体の製造工程は、従来の多層ブローの方法より簡略化することが可能である。」と記載されているところ、中間層として接着層を用いなくてもブロー成形時の熱圧着により十分な接着強度が得られ、その結果、積層構造体の製造工程を従来の多層ブロー成形の製造方法より簡略化することができるということも、引用例2に記載されたものから当業者が予測し得るといえる。

エ まとめ
そうしてみると、本願補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(6)請求人の主張について
ア 請求人は、回答書「2.(1)」において、本願補正発明は、
「軽量で高強度であり、ガスバリア性、ガソリンバリア性、ガスホールバリア性に優れ、しかも成形加工性が良好な中空成形体を提供できるのみならず、本願発明における積層構造体を構成する液晶ポリエステル樹脂組成物層と熱可塑性樹脂層とは接着性が良好で、中間層として接着層を用いなくてもブロー成形時の熱圧着により十分な接着強度が得られ、積層構造体の製造工程を従来の多層ブロー成形の製造方法より簡略化することが可能になるという優れた特徴を有するものです」と主張する。

しかしながら、プラスチック成形品が金属成形品に比べて軽量であることは本出願前周知であり、引用発明の多層容器は、優れたガスバリヤー性と成形加工性を兼ね備えたものである(摘示(ア-2))ことが記載されており、また液晶ポリエステルは、機械的強度が優れていることが本出願前周知であるから(摘示(ウ-1))、引用発明に、相違点(ii)に係る本願発明の特定事項を適用した本願補正発明の中空成形品も、軽量で高強度であり、ガスバリア性に優れ、成形加工性に優れるという効果を奏することは当業者が予期し得ることである。
また、摘示(ウ-1)にあるように、従来液晶性ポリエステルは優れた流動性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有することが知られており、また、摘示(ウ-2)には、引用例3の発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が、「エンジン周辺の吸排気部品、高温液体、化学薬品、溶剤用の容器、パイプ、フロート等の如き容器類、管状物(異形も含む)等、かなり苛酷な条件でも使用可能な中空成形品を提供することができる」ことが記載されているように、液晶ポリエステル自体、耐薬品性に優れていることが本出願前周知であり、耐薬品性としては、化学薬品や溶剤用の容器、エンジン周辺の吸排気部品に用いられることから、引用発明に相違点(ii)に係る本願発明の特定事項を適用した本願補正発明の中空成形品は、液晶ポリエステル樹脂を含有する層を備えていることから、耐ガソリン性、耐ガスホール性に優れていることも当業者が予期し得ることである。
そして、発明の詳細な説明の項の記載からは、本願補正発明が格別顕著な効果を奏し得たものとも認められない。

イ また、請求人は、回答書「2.(2)」において、「引例1発明(審決注:「引用発明」に同じ。)が開示する、接着層によって液晶ポリエステル層と他の熱可塑性樹脂層との接着性を保持しているような多層容器からは、本願発明1は当業者が容易に導き出せるものではなく」と主張しているが、引用例2に、引用例2記載の芳香族ポリエステル組成物は接着力の大きいものである旨の記載があり、これを引用発明に組み合わせることが容易であることは、前記「2.(5)」に示したとおりである。

ウ さらに請求人は、回答書「2.(2)」において、「確かに引例3(審決注:「引用例2」に同じ。)発明の目的には「層間接着力の大きい」多層複合成形品を得ることが記載されているものの、かかる層間とは、引例3発明の芳香族ポリエステル組成物からなる層同士の層間を示すものであり、引例3発明が奏する層間接着力とは、本願発明1が目的とする、液晶ポリエステル樹脂組成物層と、それ以外の熱可塑性樹脂からなる層との層間接着性を示唆するものではないのです。」、「そもそも比較的成形体厚みの薄いものを指向する容器に係る引例1発明と、成形品厚みが厚い高弾性率成形品を指向する引例3発明とを組み合わせることは、当業者であっても容易に関連付けられるものではないと思料致します。」と主張している。
しかしながら、「層間接着力の大きい」における「層間」が、「引例3発明の芳香族ポリエステル組成物からなる層同士の層間を示すもの」に留まらないことは、前記「2.(5)イ(イ)」において示したとおりである。
また、引用例2には、「先に成形品厚みが厚い場合でも高弾性率成形品を得るためには多層複合成形が有効であることを見出しているが、これらの液晶ポリマの多くは層間の溶融接着性が悪く、高弾性率の多層複合成形品が得られないことがわかつた。」(摘示(イ-3))と記載されており、これは、「厚みが厚い場合は」ではなく「厚みが厚い場合でも」とされていることから、「厚みが薄い場合」はそれ以前に検討されていることを示唆する記載といえる。すなわち、「厚みが厚い場合でも」、引用例2に記載の芳香族ポリエステル組成物は有効なのであるから、「厚みが薄い場合は」当然に、引用例2に記載の芳香族ポリエステル組成物が有効であることを示唆しているといえる。
そうしてみると、「比較的成形体厚みの薄いものを指向する容器に係る引例1発明と、成形品厚みが厚い高弾性率成形品を指向する引例3発明とを組み合わせることは、当業者であっても容易に関連付けられるものではない」という主張も当を得ていない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(7)むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年4月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年2月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「少なくとも、(A)液晶ポリエステル56?99重量%および(B)エポキシ基を有する熱可塑性樹脂44?1重量%を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物からなる層と、熱可塑性樹脂(但し、液晶ポリエステルおよび液晶ポリエステル樹脂組成物を除く)からなる層とを有する積層構造体から構成され、ブロー成形で得られることを特徴とする中空成形体容器。」

(1)原査定の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献
1.特開平5-177796号公報
2.特開平1-121357号公報
3.特開平1-193351号公報
4.特開平3-269039号公報
5.特開平6-306261号公報
6.国際公開第95/23063号パンフレット
(特表平8-510701号公報)
7.特開平6-073239号公報

(2)引用例及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(「引用例1」に同じ。)、引用文献3(「引用例2」に同じ。)、引用文献5(「引用例3」に同じ。)の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりであり、引用発明は、前記「2.(3)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
前記「2.(1)」に示したように、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)?(5)」に記載したとおり、引用例1?3に記載された基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-26 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-21 
出願番号 特願平8-237620
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 杉江 渉
鈴木 紀子
発明の名称 中空成形体容器及びその製造方法  
代理人 中山 亨  

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