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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1193598
審判番号 不服2006-22552  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 特願2002- 14455「静電潜像現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月30日出願公開、特開2003-215846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成14年1月23日の出願であって、平成18年1月12日付けの拒絶理由の通知に対し、平成18年3月20日付けで明細書に係る手続補正がなされたのを受けて、平成18年4月7日付けで最後の拒絶理由通知がなされたのに対して、平成18年6月9日付けで明細書に係る手続補正がなされたが、平成18年8月31日付けで、該平成18年6月9日付けの手続補正が却下されると共に、同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年11月6日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。
その後当審において、平成20年9月10日付けで審尋したところ、審判請求人から平成20年11月13日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成18年11月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年11月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
上記、手続の経緯に示したとおり、平成18年6月9日付けの手続補正は却下されたから、本件補正の対象となる明細書は、平成18年3月20日付けの手続補正により補正された明細書である。
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「 結着樹脂を用いた非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、金属酸化物からなる黒色無機顔料を1種又は2種以上を含有し、カーボンブラックを含まないことを特徴とする静電潜像現像用トナー。」
から
「 結着樹脂を用いた体積平均粒子径が6.0?7.0μmの非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料を含有し、カーボンブラックを含まず、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂にスチレンをグラフト重合した樹脂であり、離型剤が、酸化型ポリエチレン樹脂であり、前記黒色無機顔料が、Cu、Fe、Mn、Oを含み、粒子径が50nm?100nmの複合酸化物黒色顔料であり、全トナー中に5?40wt%含有する、ことを特徴とする静電潜像現像用トナー。」
とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トナー」について、その体積平均粒径を、「6.0?7.0μm」の範囲のものに限定し、「結着樹脂」について、「ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂にスチレンをグラフト重合した樹脂」であるものに限定し、静電潜像現像用トナーに通常含有されている「離型剤」について、「酸化型ポリエチレン樹脂」であるものに限定し、さらに、「金属酸化物からなる黒色無機顔料」について、「Cu、Fe、Mn、Oを含み、粒子径が50nm?100nmの複合酸化物黒色顔料であり、全トナー中に5?40wt%含有する」ことに限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
(1)刊行物に記載された発明
(刊行物1について)
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-24314号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。なお、原文の下線は省略した。)

(1-a)「【請求項1】 Mn_(2)O_(3)からなり、比表面積が5?25m^(2)/gの範囲内であることを特徴とするトナー用黒色顔料。
【請求項2】 Mn_(2)O_(3)を主成分として、これに酸化物を含む混合物からなり、比表面積が5?25m^(2)/gの範囲内であることを特徴とするトナー用黒色顔料。
【請求項3】 Mn_(2)O_(3)を主成分として、これにシアン化合物を含む混合物からなり、比表面積が5?25m^(2)/gの範囲内であることを特徴とするトナー用黒色顔料。
【請求項4】 Mn_(2)O_(3)を主成分として、これに酸化物およびシアン化合物を含む混合物からなり、比表面積が5?25m^(2)/gの範囲内であることを特徴とするトナー用黒色顔料。
【請求項5】 前記酸化物は、TiO_(2)、Al_(2)O_(3)、BaTiO_(3)、SrTiO_(3)、CuO、Fe_(2)O_(3)、Fe_(3)O_(4)よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または請求項4に記載のトナー用黒色顔料。
【請求項6】 前記シアン化合物は、NaFe[Fe(CN)_(6)]、NH_(4)Fe[Fe(CN)_(6)]よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のトナー用黒色顔料。
【請求項7】 着色剤として請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のトナー用黒色顔料を2?15重量%の範囲で含有することを特徴とする電子写真用トナー。」(【特許請求の範囲】)

(1-b)「本発明のトナー用黒色顔料の構成成分として用いられるMn_(2)O_(3)、酸化物、および、シアン化合物は、公知の製法により得られたものでよく、Mn_(2)O_(3)を含む酸化物の場合は、固相法、共沈法、熱分解法等により生成したものを用いることができ、また、シアン化合物の場合は、共沈法により得られたものを用いることができる。
電子写真用トナー
本発明の電子写真用トナーは、着色剤として本発明のトナー用黒色顔料を2?15重量%の範囲で含有する非磁性あるいは磁性の電子写真用トナーであり、高品質の画像形成が可能な電子写真用トナーである。本発明のトナー用黒色顔料の含有量が2.0重量%未満では、複写または印字されたトナー画像色彩である黒色が弱くなってしまう。また、本発明のトナー用黒色顔料の含有量が15.0重量%を超える場合、複写または印字された画像の白地部にトナーかぶりが発生する。」(段落【0023】)

(1-c)「本発明の電子写真用トナーは、着色剤として含有する本発明のトナー用黒色顔料の他に、結着樹脂、荷電制御剤、ワックス、または、磁性粉やその他の添加剤により構成されている。」(段落【0024】)

(1-d)「本発明の電子写真用トナーに使用する結着樹脂は、従来より電子写真用トナーに用いられている公知のものを用いればよく、スチレン系共重合樹脂やポリエステル樹脂が好適である。スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体との共重合反応により得られるものである。一方、ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分との縮重合反応により得られるものである。」(段落【0025】)

(1-e)「本発明の電子写真用トナーに使用するワックスは、トナー画像の定着時のオフセット防止対策として用いられるものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、脂肪酸金属塩、シリコンオイル等が用いられる。」(段落【0027】)

(1-f)「【実施例】以下、本発明の具体的な実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
Mn_(2 )O_(3) と、その他の酸化物としてTiO_(2 )、Al_(2) O_(3) 、BaTiO_(3) 、SrTiO_(3) 、CuO、Fe_(2) O_(3) 、Fe_(3) O_(4) 、シアン化合物としてNaFe[Fe(CN)_(6)]、NH_(4) Fe[Fe(CN)_(6)]を準備した。そして、Mn_(2) O_(3) からなるトナー用黒色顔料(顔料試料1)、および、準備した材料を下記の表1に示される組み合わせで所定の比率(重量%)として秤量し、これを乾式、あるいは、湿式混合して混合物であるトナー用黒色顔料(顔料試料2?9)を作製した。また、比較として、下記の表1に示される組み合わせで本発明の範囲外の試料として上記同様の混合方式によりトナー用黒色顔料(比較顔料試料1?3)を作製した。
上記のように作製した各トナー用黒色顔料について、それぞれ0.5gをホルダーに入れBET1点法により比表面積を測定し、結果を表1に示した。」(段落【0031】?【0033】)

(1-g)表1(段落【0034】)として、


(1-h)「次に、上記のように作製した各トナー用黒色顔料(顔料試料1?9、比較顔料試料1?3)を用いて、下記の所定の組成となるように秤量後、ヘンシェルミキサーで混合し、これを加圧式ニーダーで溶融混練し、ジェットミルで粉砕を行った後、風力分級機で微粉分級し、さらに後添加としてシリカを下記の所定量加え、風力分級機で粗粉分級を行うことにより、平均粒子径が8.5?9.5μmの電子写真用トナー(トナー試料1?9、トナー比較試料1?3)を得た。また、トナー用黒色顔料として従来使用のカーボンブラックを用いて、下記の組成となるように同様の製法により、電子写真用トナー(トナー比較試料4、5)を得た。」(段落【0034】)

(1-i)「電子写真用トナー(トナー試料1)
・結着樹脂(スチレン-ブチル・アクリレート) … 84.0重量%
・ワックス(ポリプロピレン) … 4.0重量%
・荷電制御剤(アゾ系金属錯体染料) … 1.0重量%
・着色剤(顔料試料1:Mn_(2)O_(3)) … 10.0重量%
・流動化剤(シリカ)(後添加として) … 1.0重量%

・・・(略)・・・

電子写真用トナー(トナー試料6)
・結着樹脂(ポリエステル) … 81.5重量%
・ワックス(ポリプロピレン) … 2.5重量%
・荷電制御剤(アゾ系金属錯体染料) … 1.0重量%
・着色剤 … 15.0重量%
(顔料試料6:Mn_(2)O_(3)-TiO_(2)-Al_(2)O_(3))
・流動化剤(シリカ)(後添加として) … 1.0重量%

・・・(略)・・・

このように得られた各電子写真用トナー(トナー試料1?9、トナー比較試料1?5)を評価することにより、電子写真用トナーの着色成分であるトナー用黒色顔料の優劣を求めた。」(段落【0035】)

(1-j)表2(段落【0053】)として、



トナー試料6に関して、上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「結着樹脂を用いた体積平均粒子径が8.84μmの非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料を含有し、カーボンブラックを含まず、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂であり、ワックスが、ポリプロピレンであり、前記黒色無機顔料が、Mn、Ti、Al、Oを含む混合酸化物黒色顔料であり、該黒色無機顔料を全トナー中に15重量%含有する、静電潜像現像用トナー」

(刊行物2について)
当審からの審尋で引用した前置報告書において提示された特開平3-123361号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。)

(2-a)「【特許請求の範囲】
(1)結着樹脂と、荷電制御剤と、複合酸化物で構成された無機顔料とを含有する非磁性トナーであって、
さらにカーボンブラックを含み、前記カーボンブラックの重量をW_(CB)、複合酸化物で構成された無機顔料の重量をW_(PG)としたとき、重量比W_(CB)/W_(PG)が0.1?1.2であることを特徴とする電子写真用トナー。
(2)前記カーボンブラックの含有量が、0.1?2重量%であり、前記複合酸化物で構成された無機顔料の含有量が、0.5?2.5重量%である請求項1に記載の電子写真用トナー。
(3)前記電子写真用トナーの体積平均粒子径をD_(V)、個数平均粒子径をD_(N)としたとき、D_(V)/D_(N)が1?1.25であり、粒子径が5μm以下のトナーの個数が10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用トナー。
(4)請求項1ないし3のいずれかに記載の電子写真用トナーによって構成される非磁性1成分系の電子写真用現像剤。」

(2-b)「 〈発明が解決しようとする課題〉
本発明の目的は、流動性が高く、加えて、画像濃度、カブリ、ドット再現力、文字品質等につき優れた画像品質が得られる、特に、黒色の電子写真用トナーと、電子写真用現像剤とを提供することにある。」(第2頁右上欄第13?17行)

(2-c)「 本発明では、黒色の着色剤としてカーボンブラックと、顔料とを併用する。
そして、顔料としては、複合酸化物で構成された無機顔料を用いる。
この場合、有機顔料では、カーボンブラックと混合したとき、色調が異なり、真黒となりにくく、色補正が困難であり、良好な画像品質が得られない傾向にある。
なお、本発明には、複合酸化物で構成された従来公知の黒色の無機顔料は何れも用いることができる。
例えば、本発明に好適な無機顔料としては、ダイピロキサイド#9510(CuO-Cr_(2)O_(3)系),ダイピロキサイド#9550(CuO-Fe_(2)O_(3)-Mn_(2)O_(3)系)等の黒色顔料等が挙げられる。」(第4頁右下欄第11行?第5頁左上欄第6行)

(2-d)「 本発明のトナーは、体積平均粒子径をD_(V)、個数平均粒子径をD_(N)としたとき、D_(V)/D_(N)が1?1.25、特に、1.03?1.18程度であることが好ましい。
前記範囲をこえると流動性が低下し、ブロッキングの防止が困難であり、加えて、スリーブ上での搬送ムラが生じ易い傾向にある。
ただし、あまり小さくは製造上困難である。この場合、D_(V)は5.0?8.5μm、特に5.5?8.0μm程度であることが好ましい。
前記範囲未満では流動性が低下し、現像器内で凝集が起こり、スリーブ上の搬送不良を生じる傾向にある。
前記範囲をこえるとドット最高忠実性が劣化し、また文字品質も悪化する傾向にある。」(第6頁右下欄第2?18行)

(2-e)「実施例1
下記のトナー組成物をヘンシェルミキサーにて十分混合し、ついで熱溶解混線機にて、混練後、冷却し、ハンマーミルにて粗粉砕した。
その後、ジェットインパクトミルにて微粉砕を行った。
ついで、過剰の微粉域を風力分級機にて除去後、ヘンシェルミキサーにて、下記の外添剤を乾式ミキシングした。 そののちに過剰の粗粉域を風力分級機にて除去し、所定の粒子径分布のトナーを得た。
トナー
トナー組成物:
ポリエステル系樹脂 95.5重量部
[花王社製]
ポリプロピレン ビスコール 550P 2.5重量部
[三洋化成工業社製]
荷電制御剤(アゾ系色素のCr錯体) 0.5重量部
S-34 [オリエント化学社製]
カーボンブラック(CB)MA-100
[三菱化成工業社製]
顔料(PG1) :複合酸化物系無機顔料
CuO-Cr_(2)O_(3)系 ダイピロキサイド #9510
[大日本精化社製]
顔料(PG2) :複合酸化物系無機顔料
CuO-Fe_(2)O_(3)-Mn_(2)O_(3)系 ダイピロキサイド #9550 [大日本精化社製J
顔料(PG3) :アニリン系有機顔料
アニリンブラック
[I.C.I(英)社製]
なお、カーボンブラックの含有量と、顔料の種類、含有量は表1に示されるとおりである。」(第8頁左上欄第4行?左下欄第3行)

(2-f)表1(第9頁上段)として、


(2-g)表2(第10頁左下欄)として、


してみると、刊行物2には、下記の事項が記載されている。
・本願明細書において実施例に記載されている「ダイピロキサイド #9550」は、Cu、Fe、Mn、Oを含む複合酸化物黒色顔料であること。
・黒色非磁性トナーとして、体積平均粒径が6.73μmあるいは6.74μm程度のものを使用すること。

(2)対比
本願補正発明と、刊行物1発明とを対比する。
まず、刊行物1発明における「ワックス」は、本願補正発明における「離型剤」に相当するから、刊行物1発明における「ワックスが、ポリプロピレンであり」と、本願補正発明における「離型剤が、酸化型ポリエチレン樹脂であり」とは、「離型剤を含み」で一致する。
そして、刊行物1発明における「前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂であり」と、本願補正発明における「前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂にスチレンをグラフト重合した樹脂であり」とは、「前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂であり」で一致する。
また、刊行物1発明の「前記黒色無機顔料が、Mn、Ti、Al、Oを含む混合酸化物黒色顔料であり」と、本願補正発明における「前記黒色無機顔料が、Cu、Fe、Mn、Oを含み、粒子径が50nm?100nmの複合酸化物黒色顔料であり」とは、「黒色無機顔料が、Mn、Oを含む酸化物黒色顔料」である点で共通する。
さらに、刊行物1発明における「該黒色無機顔料を全トナー中に15重量%含有する」は、本願補正発明における「全トナー中に5?40wt%含有する」に相当する。

したがって、両者は、
「結着樹脂を用いた非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料を含有し、カーボンブラックを含まず、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂であり、離型剤を含み、前記黒色無機顔料が、Mn、Oを含む酸化物黒色顔料であり、全トナー中に5?40wt%含有する静電潜像現像用トナー」である点で一致し、下記の3点で相違する。

[相違点1]
トナーの体積平均粒子径について、本願補正発明では、6.0?7.0μmの範囲に限定するのに対して、刊行物1発明は、8.84μmの平均粒径のものを使用している点。

[相違点2]
離型剤として、本願補正発明が、酸化型ポリエチレン樹脂を使用するのに対して、刊行物1発明は、ポリプロピレンを使用している点。

[相違点3]
2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料について、本願補正発明が、「Cu、Fe、Mn、Oを含有する複合酸化物」であり、「粒子径が50nm?100nmの範囲である」のに対して、刊行物1発明では、「Ti、Al、Mn、Oを含有する混合酸化物」であり、粒子径の限定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
電子写真方式の画像形成装置に対する、画像の高解像度、高精細化の要請は、当業界における趨勢であって、その実現のために小粒径トナーを採用することは、有力な対応手段の一つとして、周知・慣用の事項である。
また、刊行物2には、「黒色非磁性トナーとして、体積平均粒径が6.73μmあるいは6.74μm程度のものを使用すること」が記載されているように、6.0?7.0μmの体積平均粒径の黒色非磁性トナーはよく知られている。
したがって、トナーの体積平均粒子径について、6.0?7.0μmの範囲を採用することは、当業者が適宜為し得た設計的事項に過ぎない。

(相違点2について)
トナーに混合する離型剤として、多種類のワックスが知られており、それらの中で酸化型ポリエチレン樹脂も、審尋において引用した審査前置報告書に示された特開2000-321813号公報、特開平10-268572号公報にも記載されているように、トナー用離型剤として周知である。
そして、本願明細書において、酸化型ポリエチレン樹脂を選択したことに基づく、特段の効果も認められない。
したがって、離型剤としてのポリプロピレンに代えて、酸化型ポリエチレン樹脂を選択し、適用することは、当業者が適宜おこなう、同効の材料の任意選択事項である。
したがって、この点も、当業者が適宜為し得た設計的事項に過ぎない。

(相違点3について)
相違点3に関して、まず、本願補正発明が「Cu、Fe、Mn、Oを含有する複合酸化物」であるのに対して、刊行物1発明が「Ti、Al、Mn、Oを含有する混合酸化物」である点につき検討する。
ここで、刊行物1の記載を参酌すると、「トナー用黒色顔料の構成成分として用いられるMn_(2)O_(3)、酸化物、および、シアン化合物は、公知の製法により得られたものでよく、Mn_(2)O_(3)を含む酸化物の場合は、固相法、共沈法、熱分解法等により生成したものを用いることができ」(上記摘記事項エ.)とあり、固相法、共沈法、熱分解法等によりMn_(2)O_(3)を含む酸化物を生成すれば複合酸化物となることは明らかであるから、刊行物1には、「混合酸化物」に代えて「固相法、共沈法、熱分解法等により生成した複合酸化物」を採用することが示唆されているといえる。
さらに、刊行物1には、Cu、Fe、Mn、Oを含む酸化物黒色顔料も記載されている。(摘記事項ク.表1の「顔料比較試料2」参照。)
また、刊行物2には、2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料として、大日精化製(「大日本精化」は、誤記と認める。)「ダイピロキサイド #9550」を使用したことが記載されており、この「ダイピロキサイド #9550」は、本願明細書においても実施例1等に記載されているように、粒子径D_(50)が50nmの、Cu、Fe、Mn、Oを含む複合酸化物黒色顔料である。
刊行物2に加えて、例えば、特開昭63-157167号公報にも、複合酸化物系顔料である「ダイピロキサイド #9550」をトナーに用いることが記載されており、「Cu、Fe、Mn、Oを含み、粒子径が50nmの複合酸化物黒色顔料」をトナーに用いることは本願出願前によく知られていたというべきである。
以上のとおり、刊行物1には、「混合酸化物」に代えて「複合酸化物」を採用することが示唆されており、かつ、刊行物1に記載された「Mn_(2)O_(3)を主成分として、これにTiO_(2)、Al_(2)O_(3)、BaTiO_(3)、SrTiO_(3)、CuO、Fe_(2)O_(3)、Fe_(3)O_(4)よりなる群から選択される少なくとも1種である酸化物を含む」という組成範囲内の複合酸化物である「ダイピロキサイド #9550」は刊行物2等に示されるように公知であるから、刊行物1発明において、「混合酸化物」に代えて「ダイピロキサイド #9550」を採用することは、当業者が容易に為し得たことである。
そして、黒色無機顔料の粒子径を適宜の範囲とすることは、当業者が適宜為し得る設計的事項である。
したがって、上記相違点3は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に為し得たことである。

(本願発明が奏する効果に関して)
上記相違点によって本願発明が奏する、「トナーを小粒径化しても高隠蔽性を有し、画像カスレ、ザラツキ感のない画像が得られ、且つOPC感光体ドラムの膜削れが少なく、ドラムの長寿命化が達成でき、定着性の優れたトナーが提供できる」との効果については、刊行物1発明が奏する「画像白地部のトナーかぶりや感光体かぶりを生じることがなく、黒色色彩に優れた高品質の画像を形成することが可能」という効果や、刊行物2発明がの「画像濃度、カブリ、ドット再現性、文字品質等につき優れた画像品質が得られる」といった効果の延長線上にあるものであって、格別のものではない。

してみると、相違点1?3に係る構成の変更は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明及び周知の事項に基づいて適宜為し得たことである。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
以上述べたとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成18年11月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成18年3月20日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 結着樹脂を用いた非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、金属酸化物からなる黒色無機顔料を1種又は2種以上を含有し、カーボンブラックを含まないことを特徴とする静電潜像現像用トナー。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.2.(1)で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と、刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1には、
「結着樹脂を用いた体積平均粒子径が8.84μmの非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、2種類以上の金属の酸化物からなる黒色無機顔料を含有し、カーボンブラックを含まず、前記結着樹脂が、ポリエステル樹脂であり、ワックスが、ポリプロピレンであり、前記黒色無機顔料が、Mn、Ti、Al、Oを含む混合酸化物黒色顔料であり、該黒色無機顔料を全トナー中に15重量%含有する、静電潜像現像用トナー」とする発明が記載されているから、刊行物1に記載された発明は、本願発明の「結着樹脂を用いた非磁性の電子写真用静電潜像現像用トナーであって、該トナーを構成する成分に、金属酸化物からなる黒色無機顔料を1種又は2種以上を含有し、カーボンブラックを含まない」構成を備えている。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明と同一である。
なお、出願人は平成20年9月10日付け審尋に対する平成20年11月13日付け回答書において、本願特許請求の範囲の請求項1から離型剤の限定を削除する補正案を提示しているが、仮に当該補正案に基づいて補正がされたとしても、上記第2.で検討したとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-18 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-21 
出願番号 特願2002-14455(P2002-14455)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 113- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 淺野 美奈
中田 とし子
発明の名称 静電潜像現像用トナー  
代理人 平木 祐輔  

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