ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A63F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A63F |
---|---|
管理番号 | 1193602 |
審判番号 | 不服2006-24809 |
総通号数 | 112 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-11-02 |
確定日 | 2009-03-05 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第322405号「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-137776〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成9年11月8日の出願であって、平成18年9月27日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月2日付けで本件審判請求がされるとともに、同月30日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成18年11月30日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正内容 本件補正は特許請求の範囲の補正を含んでおり、請求項数は2としたままで、請求項1の記載のみを次のように補正するものである(下線部が補正箇所)。 「外周面に複数のシンボルが表された複数個のリールと、全てのリールを始動させるための始動レバーと、各リールを停止させるためのリール毎の停止釦スイッチと、前記始動レバーの操作によるスタート信号を受けて全てのリールを始動させる始動制御と各リールについて回転が一定の回転速度に達した後その一定の回転速度で回転させる定常制御と前記停止釦スイッチの操作によるストップ信号を受けて対応するリールの回転を停止させる停止制御とを実行する制御手段とを備えたスロットマシンにおいて、 全てのリールの回転速度をそれぞれのリールの1回転毎に検出する回転速度検出手段を備え、前記制御手段は、各リールを一定の回転速度で回転させる前記定常制御を実行している最中にいずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき、前記回転速度検出手段によるリールの回転速度の検出値と所定のしきい値とを比較し、前記検出値がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を前記一定の回転速度に維持させて次のストップ信号に待機し、前記検出値がしきい値より大きいとき、前記ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる前記停止制御を実行するようにしたスロットマシン。」 2.補正目的 「制御」の前に「始動」、「定常」及び「停止」との文言を付加することは、各制御に対する単なる命名であり、特許請求の範囲を減縮するものではない。 「各リールを」を「各リールについて回転が一定の回転速度に達した後その」と補正する点については、「一定の回転速度で回転させる制御」は「各リールについて回転が一定の回転速度に達した後」でなければ実行できないから、これも特許請求の範囲を減縮するものではない。 「対応するリール」を「そのリール」と補正することも、特許請求の範囲を減縮するものではない。 以上の補正事項については、明りようでない記載の釈明と解する余地はあるが、明りようでない旨の拒絶理由は通知されていないから、厳密にいうと補正目的違反であるが、このことをもって本件補正を却下するのはあまりにも杓子定規にすぎるので不問に付す。 「少なくともひとつのリールの回転速度を検出」を「全てのリールの回転速度をそれぞれのリールの1回転毎に検出」と補正すること、及び「そのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」を「いずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」と補正することは特許請求の範囲の減縮に当たる。そのため、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)については、独立特許要件の判断を行う。 「前記一定の回転速度に」との文言を追加すること、及び「対応するリール」を「前記ストップ信号を受けたリール」と補正することについては次項で述べる。 3.補正目的違反、新規事項追加又は独立特許要件の判断その1 (1)「前記一定の回転速度に」との文言追加 願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、「リールの回転速度が低下した状態で停止釦スイッチ15a,15b,15cが操作されても、その操作は無効となるため、リールは回転を続け、異物によるブレーキが解除されると、リールはもとの回転速度に復帰する。」(段落【0034】)との記載があり、同記載によれば、リールの回転速度の検出値がしきい値を下回った場合に、停止釦スイッチ操作を無効とするだけであり、それ以外に何の処理も施さない。 これに対して、本件補正後の請求項1には「前記一定の回転速度に」との文言が追加されており、同文言は一定の回転速度に維持させるための何らかの処理(トルクの増加、加速等)を施すことを想起させるが、そのような技術的事項は当初明細書に記載されていないから、新規事項追加に当たる。 「前記一定の回転速度に」との文言が追加されても、何の処理も施さない趣旨であるとするならば、この文言追加は特許請求の範囲を減縮するものではないだけでなく、特許請求の範囲をかえって不明りようにするものであるから、平成14年法律24号による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。 また、上記のとおり何の処理も施さない趣旨であるとすれば、本件補正後の請求項1の記載は、「前記一定の回転速度に」との文言があるがために著しく不明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (2)「対応するリール」を「前記ストップ信号を受けたリール」と補正する点 「前記ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる」が「いずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」のリールを、他のリールに先んじて停止させる趣旨ならば新規事項追加に当たる。 「前記ストップ信号を受けたリール」が「いずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたときの回転を停止させる」のリールと無関係であり、検出値がしきい値より大きいときの「ストップ信号を受けたリール」の趣旨であるならば、「前記」との文言があるがために、著しく不明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 「前記ストップ信号を受けたリール」が「いずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」のリールと同一であり、他のリールとの停止順は関係なく、いずれ停止させる趣旨ならば、記載するまでもない事項であるが、わざわざ記載したために、著しく不明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (3)上記2点に関する結論 以上の理由により、本件補正は平成14年法律24号による改正前の特許法17条の2第3項の規定及び平成18年法律55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反する。 4.補正発明の認定 「前記一定の回転速度に」及び「前記ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる」については、前項で述べた問題があるから、「前記一定の回転速度に」との文言はないものとして、また「前記ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる」は「ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる」の趣旨であるとして、補正発明を次のように認定する。 「外周面に複数のシンボルが表された複数個のリールと、全てのリールを始動させるための始動レバーと、各リールを停止させるためのリール毎の停止釦スイッチと、前記始動レバーの操作によるスタート信号を受けて全てのリールを始動させる始動制御と各リールについて回転が一定の回転速度に達した後その一定の回転速度で回転させる定常制御と前記停止釦スイッチの操作によるストップ信号を受けて対応するリールの回転を停止させる停止制御とを実行する制御手段とを備えたスロットマシンにおいて、 全てのリールの回転速度をそれぞれのリールの1回転毎に検出する回転速度検出手段を備え、前記制御手段は、各リールを一定の回転速度で回転させる前記定常制御を実行している最中にいずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき、前記回転速度検出手段によるリールの回転速度の検出値と所定のしきい値とを比較し、前記検出値がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機し、前記検出値がしきい値より大きいとき、ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる前記停止制御を実行するようにしたスロットマシン。」 5.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-104285号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?シの記載が図示とともにある。 ア.「図柄や記号等が付されたドラムの回転及び停止がゲーム毎に行なわれ、この停止時のドラムの位置による賞態様と、ゲームに賭けた遊戯媒体の数に応じて所定数の遊戯媒体を支払う遊戯機において、前記ドラムの停止操作を行なう停止操作手段と、この停止操作が行なわれたときにドラムの位置に応じて一定時間内にドラムを停止する手段とを設けたことを特徴とする遊戯機のドラム停止装置。」(1頁左下欄5?13行) イ.「本発明を図示のスロットマシンの実施例に基づいて説明する。」(2頁左下欄5?6行) ウ.「各ドラムユニットにおける回転ドラム4は、左右のユニット枠42A、42Bをネジ421により分離可能に一体化したユニットケース42内に納められ、回転可能に支承されている。」(4頁左上欄4?7行) エ.「ユニット化することにより、各々独立的に、駆動、検出、停止ができ、さらに故障の際にも1単位で交換や分解修理が可能である。また、各ユニット毎のパルスモータ44の使用により、例えば、回転スピードを任意に選択制御したり、ボーナス発生時において回転ドラム4を逆転させる制御等も可能となる。なお、パルスモータ44は、それぞれ1?4相の励磁コイルを持ち、1-2相励磁力式により回転される。」(4頁左上欄15行?右上欄3行) オ.「回転ドラム4の原位置(ホームポジション)を個別に検出するため、回転ドラム4の側面には、ボス部4Aからドラム円筒部4Cまでのフォーク部4Bに、検知片45を突設してあり、他方、右のユニット枠42Bには、この検知片45を検出するドラムセンサ46が設けてある。ドラム円前部4Cの外周面には、図示のような表示帯4Dの貼付や直接的な焼付けによって、連続的に複数個の符号(図形、記号、数字等)が付される。これらの符号はその順序が決まっているため、ホームポジションからのパルス数により、ゲーム表示部12に表示させるべき符号の静止位置を正確に把握できることになる。また、これによってデーム表示部12に表示される上段、中段、下段の計9個の図形等も特定できることになる。」(4頁右上欄4?18行) カ.「スタートスイッチ85を押すと、スタートランプ73が点灯し、3個の回転ドラム4が一斉に回転する。任意のストップスイッチ87を押すことにより、対応する1つの回転ドラム4が停止する。」(6頁左下欄末行?右下欄3行) キ.「スタートスイッチ85のONと同時に、1分タイマがスタートされ、各ドラム4の回転フラグ1?3が“1”(回転中を表す)に、面カウンタ1?3が“0”に、ステップカウンタ1?3が“0”にセットされ、さらに1Sタイマがセットされる(1.02?1.06)。」(11頁左下欄12?17行) ク.「1Sタイマは、スタートスイッチ85のONから1秒以内(ドラムの回転が安定するまでのウェイトタイム)はストップスイッチ87を無効にするためのタイマである。」(11頁左下欄末行?右下欄3行) ケ.「面カウンタ1?3は、各ドラム4の1周上の21の符号に対応する値を把握するカウンタで、そのカウント値は後述する判定ライン1上のものである。ステップカウンタ1?3は、その1周360°を適当数のステップで分割した場合にそのステップ位置を把握するカウンタである。この実施例では、1周360°を400ステップ(1ステップは0.9°)とし、ステップカウンタはパルスモータの励磁更新に同期して更新され、面カウンタはステップカウンタの19ステップにて更新される。また、ステップカウンタと面カウンタは第23図に示すようにドラムセンサ46のONによりクリアされる。なお、ドラムの符号は21面(面カウンタ0?20)だが、1ステップ余るので面カウンタは“21”まで進む。」(11頁右下欄4?18行) コ.「そして、スタートデータによる励磁が終了し、定常回転時の時間データ(第22図参照)が励磁タイマにセットされると共に(1.14)、当たり演出および面更新が行なわれる(1.15,1.16)。」(11頁右下欄19行?12頁左上欄3行) サ.「面更新では、第15図のように回転フラグ1?3が“1”のときパルスモータPM1?3の励磁更新を行い(3.01?3.06)、励磁更新では第16図のようにドラムセンサ1?3がONする毎に、ステップカウンタ1?3、面カウンタ1?3を“0”にクリアし(4.02?4.04)、定常運転時の時間データをセットした励磁タイマによりパルスモータPM1?3の1-2相励磁を行うと共に(4,07?4.11)、励磁タイマに時間データをセットする毎に、つまり励磁更新を行う毎にステップカウンタ1?3を+1する(4,12,4.13)。そして、ステップカウンタ1?3が19になると、“0”に戻されると共に、面カウンタ1?3を+1する(4.14?4.16)。」(12頁右上欄14行?左下欄7行) シ.「このようにしてカウントを行いつつ各ドラム4は定常回転するが、この場合面カウンタが22になったかどうかを調べ、22になったときは外力によってドラム4が強制的に停止されたものあるいは検出部等のエラーと判断して、ドラムエラーフラグ、判定不可フラグに“1”を立てると共に、不正ランプ92を点灯する(4.17?4.20)。そして、再びスタートデータを励磁タイマにセットしてリターンし(4.21,4.22)、4.23以下にてドラム4の再起動を行う。再起動が可能となり、以後ドラム4が定常回転に入ると、ドラムエラーフラグ、判定不可フラグがクリアされ、不正ランプ92がOFFされると共に(4.27,4.05,4.06)、ステップカウンタ、面カウンタは正常なカウントを始める。」(12頁左下欄8行?右下欄2行) 6.引用例1記載の発明の認定 記載ア?シを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「周上に21個の図柄が付された3つのドラムの回転及び停止がゲーム毎に行なわれ、この停止時の各ドラムの位置による賞態様と、ゲームに賭けた遊戯媒体の数に応じて所定数の遊戯媒体を支払うスロットマシンにおいて、 各ドラムはパルスモータにより回転され、スタートスイッチのONと同時に、各ドラムの面カウンタが“0”に、ステップカウンタが“0”にそれぞれセットされ、さらに1秒以内のストップスイッチを無効にするための1Sタイマがセットされ、励磁更新400回で1回転するものであり、 ステップカウンタは励磁更新を行う毎に+1され、ステップカウンタが19になると“0”に戻されると共に、面カウンタを+1するとるとともに、各回転ドラムの原位置に設けた検知片をドラムセンサが検出するとステップカウンタ及び面カウンタをクリアするように構成され、 面カウンタが22になると、ドラムエラーフラグ、判定不可フラグに“1”を立てると共に、不正ランプを点灯し、ドラムの再起動を行い、ドラムが定常回転に入ると、ドラムエラーフラグ、判定不可フラグがクリアされ、不正ランプをOFFするスロットマシン。」(以下「引用発明1」という。) 7.補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定 引用発明1の「周上に21個の図柄」、「3つのドラム」、「スタートスイッチ」及び「ストップスイッチ」は、補正発明の「外周面に複数のシンボル」、「複数個のリール」、「全てのリールを始動させるための始動レバー」及び「各リールを停止させるためのリール毎の停止釦スイッチ」にそれぞれ相当する。 引用発明1では「1秒以内のストップスイッチを無効にするための1Sタイマがセットされ」、1秒経過後は定常回転(補正発明の「一定の回転速度で回転」に相当)される。そうである以上、「前記始動レバーの操作によるスタート信号を受けて全てのリールを始動させる始動制御と各リールについて回転が一定の回転速度に達した後その一定の回転速度で回転させる定常制御」は引用発明1においても実行されている。さらに、「前記停止釦スイッチの操作によるストップ信号を受けて対応するリールの回転を停止させる停止制御」が引用発明1において実行されることは当然であるから、補正発明の「制御手段」にも備わっている。 以上のことから、「・・・スロットマシンにおいて、」の部分は、補正発明と引用発明1の一致点である。 引用発明1が「回転速度検出手段」を備えるとまではいえないかもしれないが、「面カウンタが22になる」のは、418回以上の励磁更新があったにもかかわらず、ドラムが1回転していない場合である。そして、定常回転時には、一定周期で励磁更新されることが明らかであるから、1回転に該一定周期の18倍以上の時間が余分にかかっていることを意味する。すなわち、「面カウンタが22になる」ことは、リールの回転速度がしきい値以下であることと等価であり、引用発明1では3つの面カウンタそれぞれについて、「面カウンタが22になる」かどうかを判定すると解されるから、補正発明の「前記検出値がしきい値以下のリールがあるとき」と同じ状況で、ドラムの再起動を行っている。また、再起動に際し、積極的にドラムを停止することは引用例1に記載されておらず、引用例1の第16図(26頁)にも、そのような処理ステップは示されていないから、定常回転中に面カウンタが22になった場合には、その回転を維持するものと解される。また、補正発明においても、「検出値がしきい値以下のリールがあるとき」既にリールが停止しておれば「リールの回転を維持させ」ることはできないから、リール回転中に「検出値がしきい値以下のリールがあるとき」を前提として「リールの回転を維持させ」ると解される。そうである以上、補正発明と引用発明1は「リールの回転速度がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機」する点において一致する。 さらに、引用発明1では再起動後、定常回転に入り、ドラムエラーフラグ、判定不可フラグクリアするのであるから、その後のストップスイッチを無効にはしない。定常回転までは当然無効にされるし、1秒経過後も面カウンタが22になれば、再び再起動されるから、リールの回転速度がしきい値より大きいときに限り、ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる前記停止制御を実行する。 したがって、補正発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉 「外周面に複数のシンボルが表された複数個のリールと、全てのリールを始動させるための始動レバーと、各リールを停止させるためのリール毎の停止釦スイッチと、前記始動レバーの操作によるスタート信号を受けて全てのリールを始動させる始動制御と各リールについて回転が一定の回転速度に達した後その一定の回転速度で回転させる定常制御と前記停止釦スイッチの操作によるストップ信号を受けて対応するリールの回転を停止させる停止制御とを実行する制御手段とを備えたスロットマシンにおいて、 前記制御手段は、リールの回転速度がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機し、リールの回転速度がしきい値より大きいとき、ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる前記停止制御を実行するようにしたスロットマシン。」 〈相違点1〉 補正発明が「全てのリールの回転速度をそれぞれのリールの1回転毎に検出する回転速度検出手段を備え」、「前記回転速度検出手段によるリールの回転速度の検出値と所定のしきい値とを比較し、前記検出値がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機し、前記検出値がしきい値より大きいとき、ストップ信号を受けたリールの回転を停止させる」のに対し、引用発明1が「回転速度検出手段」を備えるとはいえず、面カウンタが22になるかどうかにより、リールの回転速度としきい値の関係を判定している点。 〈相違点2〉 「リールの回転速度がしきい値以下のリールがあるとき、そのリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機」に当たり、補正発明が「各リールを一定の回転速度で回転させる前記定常制御を実行している最中にいずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」にリールの回転速度がしきい値以下のリールがあるかどうか判定するのに対し、引用発明1ではストップ信号の有無に関係なく、リールの回転速度がしきい値以下のリールがあるかどうか判定する点。 8.相違点の判断及び補正発明の独立特許要件の判断その2 (1)相違点1について 引用発明1では、回転開始後1秒間ストップスイッチを無効としているが、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-312043号公報(以下「引用例2」という。)に、「図12の制御においては、・・・操作無効タイマが終了した順にストップ操作を有効化するようにしたが、これに限定されるものではなく、各リール駆動モータ7L?7Rが回転を開始した後、その回転速度が一定速度に達した後で、各リール6L?6Rのリール基準位置6La?6Raが検出された場合にストップ操作を有効化するようにしてもよい。」(段落【0080】)との記載があるとおり、「回転速度が一定速度に達」することを基準としてストップ操作を有効化してもよい。そのためには、回転速度を検出する必要があるところ、「面カウンタ」の数値は検知片検出後の時間を表すのだから、検知片検出から次の検出までの時間に相当するものを検出する手段(「回転速度検出手段」に相当)を備えることは当業者にとって何の困難性もない。 引用発明1の「面カウンタ」の数値(正確にはそれを19倍し、ステップカウンタの数値を加算したもの)は、検知片検出後の励磁更新数を意味し、定常回転中は一定周期で励磁更新すると解されるから、検知片検出後の時間と等価であり、正常時に1回転に必要な時間を超える数値に達するかどうかで判断するのが引用発明1であり、1回転に要した時間に基づき判断するのが補正発明であるが、前示のとおり回転速度検出手段を備えるのであれば、1回転に要した時間(現実の回転速度であり、補正発明の「回転速度検出手段によるリールの回転速度の検出値」)をもってリールの回転速度としきい値の関係を判定することにも何の困難性もない。 また、一定速度に達するまでは、「それぞれのリールの1回転毎に検出」することは当然であり、引用発明1では定常回転中、常に面カウンタが22になるかどうか判定しているから、リールの回転速度を判定の基礎とした場合にも、「全てのリールの回転速度をそれぞれのリールの1回転毎に検出」することも当然である。 以上のとおりであるから、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 (2)相違点2について 引用発明1では、いったん「面カウンタが22」になったとしても、その後に検知片をドラムセンサが検出すると、面カウンタがクリアされるから、ストップ信号を受けた時の面カウンタは22に達していない場合があり、面カウンタを判定基準とする限りでは、ストップ信号を受けてから判定することはできないだけでなく、そもそも「面カウンタが22」になれば再起動されるから、その直後にストップ信号を受けても無効になる。逆に、「面カウンタが22」にならない時点でストップ信号を受けた場合は、その直前に検知片を検出した時点までは、回転速度がしきい値を下回っていないから、ストップ信号を有効として別段問題はない。そのような状況にあるため、面カウンタの数値を判定基準としたままでは、相違点2に係る補正発明の構成を採用することはできない。 しかし、相違点1に係る補正発明の構成を採用した場合には事情が一変し、回転速度を常時把握し、これを判定基準とするのであれば、ストップ信号を受けてから判定することを妨げる要因は何もない。リールの回転速度がしきい値以下のリールの存在が問題となるのは、そのようなリールがある状態で、停止制御を実行する場合だけである。そして、停止制御は「各リールを一定の回転速度で回転させる前記定常制御を実行している最中にいずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」にしか実行されない。 そうであれば、リールの回転速度がしきい値以下のリールの存在が問題を解消するために、同問題が生じ得る状況である「各リールを一定の回転速度で回転させる前記定常制御を実行している最中にいずれかのリールについて前記ストップ信号を受けたとき」に、リールの回転速度がしきい値以下のリールがあるかどうか判定することは、相違点1に係る補正発明の構成を採用することを前提とした上での設計事項というべきであり、同構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 (3)補正発明の独立特許要件の判断 相違点1,2に係る補正発明の構成を採用する当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 すなわち、本件補正は平成18年法律55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反する。 [補正の却下の決定のむすび] 以上のとおりであるから、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年6月15日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「外周面に複数のシンボルが表された複数個のリールと、全てのリールを始動させるための始動レバーと、各リールを停止させるためのリール毎の停止釦スイッチと、前記始動レバーの操作によるスタート信号を受けて全てのリールを始動させる制御と各リールを一定の回転速度で回転させる制御と前記停止釦スイッチの操作によるストップ信号を受けて対応するリールの回転を停止させる制御とを実行する制御手段と備えたスロットマシンにおいて、 少なくともひとつのリールの回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、前記制御手段は、リールを一定の回転速度で回転させる制御を実行している最中にそのリールについて前記ストップ信号を受けたとき、前記回転速度検出手段によるリールの回転速度の検出値と所定のしきい値とを比較し、前記検出値がしきい値以下であるとき、対応するリールの回転を維持させて次のストップ信号に待機し、前記検出値がしきい値より大きいとき、対応するリールの回転を停止させる制御を実行するようにしたスロットマシン。」 2.本願発明の進歩性の判断 「少なくともひとつのリール」は「全てのリール」であってもよく、その場合「そのリール」は全てのリールのうちの「いずれかのリール」となる。「対応するリールの回転を維持させ」における「対応するリール」が「前記ストップ信号を受けた」リールであることは明らかであるが、「対応するリールの回転を停止させる」の「対応するリール」は必ずしも明らかでない。仮に、これが「前記ストップ信号を受けた」リールの趣旨であると、第2で述べたと同様の理由により新規事項追加に当たる。そのため、「次のストップ信号」を受けたリールの意味に解釈する。それ以外の意味であれば、合理的に解釈できず、その意味であれば、第2での解釈と同じである。 そうすると、補正発明として認定したものは、本願発明を限定的に減縮した発明にほかならず、補正発明が引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは第2で述べたとおりであるから、同様の理由により本願発明も引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといわざるを得ない。 すなわち、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-26 |
結審通知日 | 2009-01-06 |
審決日 | 2009-01-21 |
出願番号 | 特願平9-322405 |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(A63F)
P 1 8・ 537- Z (A63F) P 1 8・ 572- Z (A63F) P 1 8・ 121- Z (A63F) P 1 8・ 575- Z (A63F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鉄 豊郎 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
池谷 香次郎 伊藤 陽 |
発明の名称 | スロットマシン |
代理人 | 鈴木 由充 |