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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1193613
審判番号 不服2006-29039  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-28 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 特願2003-550965「フィルム積層方法及び積層装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月19日国際公開,WO03/49925〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年12月10日(優先権主張 平成13年12月10日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって,平成18年5月15日付けで拒絶理由が通知され,同年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月20日付けで拒絶査定がされたものであるところ,同年12月28日に審判が請求され,平成19年1月26日に手続補正書が提出され,同年3月2日に審判請求書に対する手続補正書が提出され,同年7月6日付けで前置報告がされ,その後,当審において,平成20年7月7日付けで審尋がされ,同年9月1日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は,それぞれ,平成19年1月26日に提出された手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載される事項を発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)に備えるものであると認められ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「基板上にフィルムを積層するに際し,前記基板上に前記フィルムを配置して厚さ方向に0.1?1MPaで加圧すると共に,前記基板又は前記フィルムの少なくとも一方に所定の周波数を有する音波を与えるフィルム積層方法であって,前記基板が導電性金属層を備えるものであり,前記フィルムが樹脂及び分子内に少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物を含有する感光性樹脂組成物からなる層を備えるものであるフィルム積層方法。」

3.原査定の理由の概要
原査定の理由は,要するところ,本願発明は,引用文献1である特開2001-334575号公報に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである,という理由を含むものである。

4.引用文献1の記載
引用文献1には以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 可撓性シート3を付設した上部プレート1及び可撓性シート4を付設した下部プレート2が設置された真空チャンバー6を有する真空積層装置を使用して,該チャンバー内の上下プレート間で,凹凸を有する基板5aと,支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5bとからなる積層体5を圧締して積層を行うに当り,圧締を2回以上実施し,1回目の圧締温度T_(1)℃を,(T_(g)-20)℃≦T_(1)℃≦(T_(g)+10)℃〔T_(g):フィルム状樹脂層の樹脂組成物のガラス転移温度〕の条件で実施した後,2回目以降の圧締温度T_(n)℃を,(T_(1)+10)℃≦T_(n)℃≦(T_(1)+70)℃の条件で実施することを特徴とする積層方法。
【請求項2】 1回目の圧締時に積層体5にかける圧力が0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paであり,2回目以降の該圧力を1回目よりも0.1×10^(5)?20×10^(5)Pa高くすることを特徴とする請求項1記載の積層方法。
【請求項5】 上部プレート1,下部プレート2のいずれかに超音波振動装置を付設した積層装置を使用することを特徴とする請求項1?4いずれか記載の積層方法。」(特許請求の範囲の請求項1,2及び5)
イ: 「【発明の属する技術分野】本発明は,プリント回路基板の製造において,凹凸を有する基板にフィルム状樹脂層を積層する方法に関するものであり,更に詳しくはフィルム状樹脂層の追従性がよく,積層後の樹脂表面の平滑性に優れ,ビルドアップ工法に有用な積層方法に関するものである。」(段落【0001】)
ウ: 「【従来の技術】近年,電子機器の小型化,高性能化に伴いプリント回路基板の高密度化,多層化が進行している。かかるプリント回路基板の多層化においては,熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物を絶縁層として使用し,予め形成した内層回路の上に該熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物を塗布し,あるいは該熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物からなるフィルム状樹脂を積層する。」(段落【0002】)
エ: 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,ビルドアップ工法等で使用される凹凸を有する基板とフィルム状樹脂層を積層しようとする場合,特開平11-129272号公報開示技術では,該基板にフィルム状樹脂を追従させるためには,ラミネート温度や圧力を上げることが必要で,その場合,該基板とフィルム樹脂層との間にマイクロボイドが残り,回路線の絶縁破壊にいたる恐れがある。更には,該基板の凹凸が反映し,積層樹脂表面に凹凸が生じることもある。該積層樹脂表面の凹凸は,次工程の回路形成時に密着不良や追従性不良,外観不良等の問題が生じることになるので回避しなければならない。特に最近の基板の多層化を考慮すると,良好な追従性及び基板とフィルム状樹脂層間に生じるマイクロボイドの抑制が重要であり,更には積層後の表面平滑性が重要である。」(段落【0004】)
オ: 「1回目の圧締時には,空隙部10の圧力はほぼ常圧に戻したり,必要に応じて更に圧縮空気を入れて加圧し,空間部11は200Pa以下の減圧状態とすればよい。かかる圧力差により可撓性シート3は下方向に膨らみ,0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paの圧力で積層体5が圧締されるのである。」(段落【0011】)
カ: 「2回目の圧締時には,積層体5にかける圧力が1回目の圧締時よりも0.1×10^(5)?20×10^(5)Pa高くなるようにするのが好ましい。かかる圧力差が0.1×10^(5)Pa未満では,マイクロボイドを押しつぶせなくて排除できず,20×10^(5)Paを越えると可撓性シート4を壊す場合があり好ましくない。かかる2回目の圧締として具体的には,空隙部10に圧縮空気を入れて空隙部10の圧力を0.6×10^(5)?21.5×10^(5)Paに調整して,空間部11の圧力は200Pa以下の減圧状態に調整すればよい。」(段落【0014】)
キ: 「本発明の方法においては,更に,基板5aの表面パターン模様や回路の密集度によっては,フィルム状樹脂層の表面平滑性を上げるため,上部プレート1,下部プレート2のいずれかに超音波振動装置19を設置して,減圧状態にする時及び/又は圧締時に上部プレート1あるいは下部プレート2を超音波振動させることが好ましく,特には下部プレート2に内蔵することが好ましい。かかる超音波振動を行うに当っては,20kHz以上(更には25?100kHz)の発信周波数を用いることが好ましく,高周波数電力は200W以上(更には,300?600W)が好ましい。」(段落【0020】)
ケ: 「本発明で使用される凹凸を有する基板5aとしては,特には限定しないが,銅等のパターンを施したプリント基板が好ましく,ピルドアップ工法で用いられる多積層基板でも良い。かかる基板の厚みとしては特には限定しないが,0.1?10mm程度である。
また,フィルム状樹脂層5bは,樹脂組成物と,支持体フィルム(セパレーターフィルム)あるいは銅箔から構成されているものである。かかる樹脂組成物は,粘着性や絶縁性,接着性,ホットメルト性を持つもので,具体的には,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂等に安定剤,硬化剤,色素,滑剤等を配合した樹脂組成物である。」(段落【0021】,【0022】)
コ: 「その他の用途のフィルム状樹脂層5bとしては,ソルダーレジストマスクフィルム用樹脂層,コンフォーマスクフィルム用樹脂層,ドライフィルムフォトレジストフィルム用樹脂層が挙げられる。」(段落【0024】)

5.引用文献1に記載された発明
引用文献1には,
摘示アの請求項1の「…凹凸を有する基板5aと,支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5bとからなる積層体5を圧締して積層を行うに当り,…積層方法」,並びに,摘示イの「本発明は,プリント回路基板の製造において,凹凸を有する基板にフィルム状樹脂層を積層する方法に関する」,及び,摘示ケの「本発明で使用される凹凸を有する基板5aとしては,特には限定しないが,銅等のパターンを施したプリント基板が好ましく,」との記載から,「銅等のパターンを施したプリント基板等の凹凸を有する基板5aと,支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5bとからなる積層体5を圧締して積層を行う」積層方法が記載されているものと認められ,
摘示アの請求項1の「…積層方法」及び請求項3の「上部プレート1,下部プレート2のいずれかに超音波振動装置を付設した積層装置を使用する」との記載,並びに,摘示キの「減圧状態にする時及び/又は圧締時に上部プレート1あるいは下部プレート2を超音波振動させることが好ましく,」との記載から,圧締時に上部プレート1又は下部プレート2のいずれかを超音波振動させる積層方法が記載されているものと認められ,
また,摘示アの請求項2の「1回目の圧締時に積層体5にかける圧力が0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paであり,2回目以降の該圧力を1回目よりも0.1×10^(5)?20×10^(5)Pa高くする」との記載,摘示オの「1回目の圧締時には,空隙部10の圧力はほぼ常圧に戻したり,必要に応じて更に圧縮空気を入れて加圧し,空間部11は200Pa以下の減圧状態とすればよい。かかる圧力差により可撓性シート3は下方向に膨らみ,0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paの圧力で積層体5が圧締される」との記載,及び摘示カの「2回目の圧締時には,積層体5にかける圧力が1回目の圧締時よりも0.1×10^(5)?20×10^(5)Pa高くなるようにするのが好ましい。…かかる2回目の圧締として具体的には,空隙部10に圧縮空気を入れて空隙部10の圧力を0.6×10^(5)?21.5×10^(5)Paに調整して,空間部11の圧力は200Pa以下の減圧状態に調整すればよい。」との記載からみて,「1回目の圧締」において積層体5にかける圧力が「0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Pa」であり,「2回目の圧締」においては,空隙部10の圧力を「0.6×10^(5)?21.5×10^(5)Pa」とすることが記載されていると認められるから,
結局,引用文献1には,
「可撓性シート3を付設した上部プレート1及び可撓性シート4を付設した下部プレート2が設置された真空チャンバー6を有する真空積層装置を使用して,該チャンバー内の上下プレート間で,銅等のパターンを施したプリント基板等の凹凸を有する基板5aと,支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5bとからなる積層体5を圧締して積層を行うに当り,
圧締を2回以上実施し,1回目の圧締温度T_(1)℃を,(T_(g)-20)℃≦T1℃≦(T_(g)+10)℃〔T_(g):フィルム状樹脂層の樹脂組成物のガラス転移温度〕,積層体5にかける圧力が0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paである条件で実施した後,2回目以降の圧締温度T_(n)℃を,(T_(1)+10)℃≦T_(n)℃≦(T_(1)+70)℃,0.6×10^(5)?21.5×10^(5)Paの圧力の条件で実施し,圧締時に上部プレート1あるいは下部プレート2を超音波振動させる,積層方法」の発明(以下,「引例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

6.本願発明と引例1発明との対比
本願発明(以下,「前者」という。)と引例1発明(以下,「後者」という。)とを対比すると,
後者における「銅等のパターンを施したプリント基板等の凹凸を有する基板5a」は,前者における「導電性金属層を備える」「基板」に相当すると認められ,
後者における「フィルム状樹脂層5b」は,前者における「フィルム」に相当すると認められ,
後者において「圧締時に上部プレート1あるいは下部プレート2を超音波振動させる」ことによって,前者における「前記基板又は前記フィルムの少なくとも一方に所定の周波数を有する音波を与える」状態が生じることは当業者に自明であると認められるから,
両者は,
「基板上にフィルムを積層するに際し,前記基板上に前記フィルムを配置して加圧すると共に,前記基板又は前記フィルムの少なくとも一方に所定の周波数を有する音波を与えるフィルム積層方法であって,前記基板が導電性金属層を備えるものであるフィルム積層方法」において一致し,
(1)音波を与える際の加圧に関して,前者が,「厚さ方向に0.1?1MPaで加圧」するのに対して,後者が,1回目の圧締においては,積層体5にかける圧力が0.5×10^(5)?1.5×10^(5)Paであり,2回目の圧締においては,0.6×10^(5)?21.5×10^(5)Paの圧力の条件である点(相違点1),及び,
(2)フィルムに関して,前者が,「樹脂及び分子内に少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物を含有する感光性樹脂組成物からなる層を備えるもの」であるのに対して,後者が,「支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5b」である点(相違点2),において相違する。

7.相違点についての検討
(1)相違点1についての検討
後者における圧力をMPaに単位換算すると,1回目の圧締においては,積層体5にかける圧力が0.05ないし0.15MPaであり,2回目の圧締においては,0.06ないし2.15MPaの圧力の条件であり,また,後者においても,圧力は「厚さ方向」の加圧でもあることは当業者に自明であるから,前者における加圧が,後者における「1回目の圧締」又は「2回目の圧締」のどちらに対応するのかにかかわらず,後者における加圧圧力は,前者における「厚さ方向に0.1?1MPaで加圧」と重複するものと認められる。
したがって,相違点1は実質的なものではない。

(2)相違点2についての検討
後者における「支持体フィルム又は金属箔上に樹脂組成物を積層してなるフィルム状樹脂層5b」において,「樹脂組成物」については,摘示ケの「フィルム状樹脂層5bは,樹脂組成物と,支持体フィルム(セパレーターフィルム)あるいは銅箔から構成されているものである。かかる樹脂組成物は,粘着性や絶縁性,接着性,ホットメルト性を持つもので,具体的には,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂等に安定剤,硬化剤,色素,滑剤等を配合した樹脂組成物である。」との記載から,「熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂等」の多様な樹脂を樹脂成分とする樹脂組成物である。
そして,摘示ウの「【従来の技術】近年,電子機器の小型化,高性能化に伴いプリント回路基板の高密度化,多層化が進行している。かかるプリント回路基板の多層化においては,熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物を絶縁層として使用し,予め形成した内層回路の上に該熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物を塗布し,あるいは該熱硬化性樹脂組成物又は感光性樹脂組成物からなるフィルム状樹脂を積層する。」との記載に照らすと,当業界においては,「フィルム状樹脂」として,熱硬化性樹脂組成物と感光性樹脂組成物とが同等に使用されることが知られていたと認められるところから,後者における「フィルム状樹脂層5b」を構成する樹脂組成物として,感光性樹脂組成物を採用することは当業者であれば容易に実施することができる程度のことである。
さらに,摘示コの「その他の用途のフィルム状樹脂層5bとしては,ソルダーレジストマスクフィルム用樹脂層,コンフォーマスクフィルム用樹脂層,ドライフィルムフォトレジストフィルム用樹脂層が挙げられる。」との記載からも,感光性樹脂に属することが当業者に明らかな「フォトレジストフィルム用樹脂」の層を「フィルム状樹脂層5b」として採用することは当業者であれば容易に実施することができる程度のことである。
そして,感光性樹脂組成物として,「分子内に少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物を含有する」組成物が典型的なものであることは,当業者に周知の技術的事項である。
また,本願明細書の実施例及び比較例を精査しても,本願発明が,相違点2を発明特定事項に備えることにより,予期できない顕著な効果を奏するものであると認めることもできない。
したがって,相違点2は,当業者が容易に想到しうる程度のことである。

8.本願発明についてのまとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引例1発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

9.むすび
請求項2ないし4について更に検討するまでもなく,本願は拒絶を免れない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-17 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願2003-550965(P2003-550965)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 113- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 祥吾  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 野村 康秀
山本 昌広
発明の名称 フィルム積層方法及び積層装置  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 長谷川 芳樹  

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