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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1193629
審判番号 不服2007-10365  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-12 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 特願2001-239562「交流発電機のコンデンサ装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月21日出願公開、特開2003- 52158〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成13年8月7日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年10月23日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「第1のモールディング樹脂を用いてモールド成形され、発電機ケースに取り付けられるリヤプレートと、上記リヤプレートにインサート成形された正極側端子および負極側端子と、上記正極側端子および負極側端子に電気的に接続されるコンデンサ正極端子およびコンデンサ負極端子を有し、バッテリ端子側とアースとの間に設置されるコンデンサ素子とを備え、上記コンデンサ素子が、少なくとも上記コンデンサ正極端子およびコンデンサ負極端子の先端部を露出するように、第2のモールディング樹脂を用いてプリモールドされて、上記リヤプレートに埋設されるように該リヤプレートに一体にモールディングされていることを特徴とする交流発電機のコンデンサ装置。」

2.引用例
(1)これに対して、当審における、平成20年8月22日付で通知した拒絶の理由に引用した特開2000-209824号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0004】・・・コンデンサ素子30は、発電機正極と負極間に並列接続されており、電圧調整器21の電圧調整により発生するサージを吸収し、オーディオ及びプロワファン等の車両電気負荷装置へのノイズ伝播を防止する。」

・「【0012】
【発明の実施の形態】実施の形態1.図1および図2は本発明の実施の形態1であって、図1は図2をA-A線に沿い切断した断面図、図2はコンデンサ装置を示す正面図である。図2において、40は前述した発電機ケース1の内部に設置されるコンデンサ装置の第1樹脂部品15に相当する第1樹脂部品であって、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂により、下部中央にスリンガ部16と、スリンガ部16より上方にブラシホルダ部17と、ブラシホルダ部17の後側に電圧調整機能搭載部20と、スリンガ部16の一側にコンデンサ収容部41とを備えた形態に成形されている。よって、第1樹脂部品40はコンデンサ収容部41の付加されたことが前記第1樹脂部品15と異なる。コンデンサ収容部41は、スリンガ部16とブラシホルダ部17とより側方に板状に突出した基部26に配置される。
【0013】図1にも示すように、コンデンサ収容部41の形態は、基部26の前面側に開口され、開口部42より基部26の後方に膨出した、一端開口有底筒状である。コンデンサ収容部41の一端が開口された内部空間は、前述のコンデンサ素子30に相当するコンデンサ素子50よりも大きな形状に形成される。開口部42周辺の基部26には2つの樹脂側端子43,44が相対峙した位置に設けられる。1つの樹脂側端子43は正極であり、もう1つの樹脂側端子44は負極として用いられる。正極である樹脂側端子43にあっては、中央屈曲部が基部26に第1樹脂部品40の成形時に埋め込まれ、基部26の後部側で屈曲部より水平に延びた一端部が基部26の外側面より突出し、基部26の前側で屈曲部より一端部と逆方向へ水平に延びた他端部が基部26の前面に形成された凹部45に敷設される。負極である樹脂側端子44にあっては、中央屈曲部が基部26に第1樹脂部品40の成形時に埋め込まれ、基部26の後部側で屈曲部より水平に延びた一端部が基部26の後面に敷設され、基部26の前側で屈曲部より一端部と逆方向へ水平に延びた他端部が基部26の前面に形成された凹部46に敷設される。
【0014】コンデンサ素子50は、棒のような形状であって、棒状の両端のそれぞれに1つづ素子側端子51,52を有する。これらの素子側端子51,52は、コンデンサ素子50と直交する方向に相対峙する形態で平行に延びており、それぞれの先端部が互いに反対方向に折り曲げられて樹脂側端子43,44と対応する位置まで延びている。1つの素子側端子51は正極であり、もう1つの素子側端子52は負極として使用される。そして、コンデンサ素子50はコンデンサ収容部41の開口部42より内部空間に横置き状に挿入され、素子側端子51,52が樹脂側端子43,44に挿入方向より重ね合わされる。その状態において、半田54が樹脂側端子43,44と素子側端子51,52との接触面に付けられて、樹脂側端子43,44と素子側端子51,52とが接合される。また、コンデンサ収容部41とコンデンサ素子50との隙間には開口部42より溶融状態のエポキシ樹脂である充填樹脂53がコンデンサ素子50と素子側端子51,52の一部とが埋没する程度まで充填される。この充填された充填樹脂53が固化することにより、コンデンサ素子50がコンデンサ収容部41に充填樹脂53により支持される。前記樹脂側端子43,44と素子側端子51,52との接合作業と、充填樹脂53の充填作業とは、どちらを先に行っても良いが、接合作業を先に行った方が作業性の観点より最良である。
【0015】実施の形態1の構造によれば、コンデンサ収容部41への充填樹脂53の注入方向と、素子側端子51,52を樹脂側端子43,44に半田54で付ける半田付け方向とが、第1樹脂部品40の前面側である一方向となり、組立作業性が良い。また、コンデンサ素子50が第1樹脂部品40と一体であるコンデンサ収容部41に充填樹脂53により支持されたので、コンデンサ装置を有する車両用交流発電機が自動車のエンジンに取付けられ、振動がエンジンから車両用交流発電機に伝達された場合でも、第1樹脂部品40がコンデンサ収容部41の重量とコンデンサ素子50の重量と充填樹脂53の重量とを負担し、樹脂側端子43,44と素子側端子51,52との接合部に掛かる振動負荷が軽減できる。よって、樹脂側端子43,44と素子側端子51,52との接合が適切に維持できる。」

・また、図1には、コンデンサ素子50が、少なくとも素子側端子51および素子側端子52の先端部を露出するように、充填樹脂53を用いてモールドされて、第1樹脂部品40に収容されるように該第1樹脂部品40に一体に支持されている構造が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「PPS樹脂により成形され、発電機ケース1の内部に設置される第1樹脂部品40と、上記第1樹脂部品40の成形時に埋め込まれた正極である樹脂側端子43および負極である樹脂側端子44と、上記正極である樹脂側端子43および負極である樹脂側端子44に電気的に接続される正極である素子側端子51および負極である素子側端子52を有し、発電機の正極と負極間に並列接続されるコンデンサ素子50とを備え、上記コンデンサ素子50が、少なくとも上記正極である素子側端子51および負極である素子側端子52の先端部を露出するように、エポキシ樹脂である充填樹脂53を用いてモールドされて、上記第1樹脂部品40に収容されるように該第1樹脂部品40に一体に支持されている車両用交流発電機のコンデンサ装置。」

(2)同じく、引用した特開平9-102365号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0010】
【発明の実施の形態】以下に、図面を参照して、本発明の電源プラグについて説明する。
【0011】電源プラグ1は、図1に示すように、2枚の端子板2,3と、これらの端子板2,3の接続された電線4,5と、これらの端子板2,3及び電線4,5の一部を覆うプラグ本体6とを備え、前記電線4,5には複数の装飾用電灯7が接続されている。
【0012】図2(a),(b)に示すように、前記端子板2,3間には、ヒューズ8及びコンデンサー9がこの順で直列に接続されている。そして、このコンデンサ9及びヒューズ8は端子板2,3の内端2a,3aよりも後方(すなわち、電線4,5側)に位置するように配置されている。
【0013】そして、前記プラグ本体6は、端子板2,3の内端2a,3a側、電線4,5の一部、ヒューズ8、コンデンサ9を2枚開きの金型(図示せず)内に挿入し、金型内に樹脂を射出するいわゆる樹脂モールド成形により、プラグ本体6を端子板2,3の一部、前記ヒューズ8及びコンデンサ9の全部を覆って一体形成されている。
【0014】樹脂モールドする際に、コンデンサ9が片側の金型に片寄って配置されて樹脂モールドされたプラグ本体6から露出することを防止するために、各金型から支持ピン(図示せず)が突出して配置され、これらの支持ピン間でコンデンサを金型間のキャビティの中央部に支持するようになっている。図2中の10は、支持ピンにより形成された孔を示す。
【0015】また、樹脂モールドされたプラグ本体6を金型から離型するには、前記各端子板2,3間に端子板2,3と平行に配置された離型ピン(図示せず)により押し出すようにしている。図2中の11は、離型ピンにより形成された孔を示す。コンデンサ9を端子板2,3の内端2a,3aよりも後方に配置しているので、コンデンサ9と離型ピンとが干渉することがない。
【0016】また、前記金型は、前記プラグ本体6の、前記端子板2,3とコンデンサ9との間に相当する外表面にくぼみ部6aが形成されるような形状となっている。くぼみ部6aがプラグ1を抜き差しする場合の指がかりとなるので、使い勝手が良い。なお、コンデンサ9が端子板2,3aの内端2a,3aよりも後方に配置されているので、コンデンサ9と干渉することなく、前記くぼみ部6aを容易に形成することができる。
【0017】本実施例の電源プラグによれば、コンデンサ9の作用により装飾用電灯7の点滅等による電気的なノイズが外部に流れることが防止される。」

・図2には、コンデンサ9がプラグ本体6に埋設されるように一体にモールディングされた状態が示されている。

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると、その機能・作用からみて、後者における「PPS樹脂により成形され、発電機ケース1の内部に設置される第1樹脂部品40」は前者における「第1のモールディング樹脂を用いてモールド成形され、発電機ケースに取り付けられるリヤプレート」に相当し、以下同様に、「第1樹脂部品40の成形時に埋め込まれた正極である樹脂側端子43および負極である樹脂側端子44」は「リヤプレートにインサート成形された正極側端子および負極側端子」に、「正極である素子側端子51および負極である素子側端子52」は「コンデンサ正極端子およびコンデンサ負極端子」に、それぞれ相当している。
次に、後者の「発電機の正極と負極間に並列接続されるコンデンサ素子50」と前者の「バッテリ端子側とアースとの間に設置されるコンデンサ素子」とは、「所定箇所の間に設置されるコンデンサ素子」との概念で共通している。
また、後者の「エポキシ樹脂である充填樹脂53を用いてモールドされ」ている態様と前者の「第2のモールディング樹脂を用いてプリモールドされ」ている態様とは、「第2のモールディング樹脂を用いてモールドされ」との概念で共通している。
さらに、後者の「第1樹脂部品40に収容されるように該第1樹脂部品40に一体に支持されている」態様と前者の「リヤプレートに埋設されるように該リヤプレートに一体にモールディングされている」態様とは、「リヤプレートに収納されるように該リヤプレートに一体に固着されている」との概念で共通している。
加えて、後者の「車両用交流発電機」は前者の「交流発電機」に相当する。

したがって、両者は、
「第1のモールディング樹脂を用いてモールド成形され、発電機ケースに取り付けられるリヤプレートと、上記リヤプレートにインサート成形された正極側端子および負極側端子と、上記正極側端子および負極側端子に電気的に接続されるコンデンサ正極端子およびコンデンサ負極端子を有し、所定箇所の間に設置されるコンデンサ素子とを備え、上記コンデンサ素子が、少なくとも上記コンデンサ正極端子およびコンデンサ負極端子の先端部を露出するように、第2のモールディング樹脂を用いてモールドされて、上記リヤプレートに収納されるように該リヤプレートに一体に固着されている交流発電機のコンデンサ装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。
[相違点1]
コンデンサ素子が設置される「所定箇所の間」に関し、本願発明が「バッテリ端子側とアースとの間」としているのに対し、引用発明は、「発電機の正極と負極間」である点。
[相違点2]
コンデンサ素子の第2のモールディング樹脂を用いた「モールド」に関し、本願発明が「プリモールド」としているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
コンデンサ素子が、リヤプレートに「収納」されるように「固着」された態様に関し、本願発明は、「埋設」されるように「モールディング」されたものであるのに対し、引用発明は、「収容」されるように「支持」されたものである点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

(1)相違点1について
本願明細書において、コンデンサ素子が設置される「バッテリ端子側とアースとの間」についての詳細な説明は何等記載されておらず、その一方で、【発明の実施の形態】の中の段落【0032】に「コンデンサ素子35は、発電機の正極と負極との間に並列接続されており」と記載されているところからすると、本願発明において、コンデンサ素子が設置される「バッテリ端子側とアースとの間」とは、実質的に「発電機の正極と負極との間」と等価のものとして捉え得るものと解される。
そうすると、相違点1は、実質的な相違点をなすものとはいえない。

(2)相違点2及び3について
例えば、引用例2にも開示されているように、ノイズ抑制のためのコンデンサ素子(「コンデンサ9」が相当)を樹脂成形部品(「プラグ本体6」が相当)に埋設されるように一体にモールディングすることは、各種電気機器に採用されている周知技術である。
また、一般に、「プリモールド」した部品を、さらに別の樹脂成形材でモールディングすること自体は、例えば、特開平11-345997号公報(【0024】及び【0025】の「一次モールド工程」と「二次モールド工程」の関係参照)、特開平9-197990号公報(【0009】の「電子部品の上部を覆うように樹脂材を塗布して硬化させ、さらに該樹脂材の周囲の基板上又は該樹脂材上に設けた接着剤層によって接着されるように前記基板上にモールド樹脂材を成形することによって電子部品埋設成形品を構成した」なる記載参照)、特開昭48-13852号公報(2頁左上欄18行?右上欄10行の「発泡樹脂等の圧力緩和層5」と「合成樹脂材6」の関係参照)等に開示されているように、樹脂成形の分野において広く採用されている慣用手段である。
そうすると、引用発明のノイズ抑制のためのコンデンサ素子に対して、上記周知技術を適用することにより、第2のモールディング樹脂を用いてモールドされたコンデンサ素子を、樹脂成形部品に「埋設」されるように一体に「モールディング」することは当業者にとって容易であり、その際に、前記第2のモールディング樹脂を用いたモールドが上記慣用手段の「プリモールド」に相当するものとなるのは当然のことである。

そして、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、上記周知技術及び上記慣用手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知技術及び上記慣用手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記周知技術及び上記慣用手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-25 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願2001-239562(P2001-239562)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三島木 英宏  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 片岡 弘之
田良島 潔
発明の名称 交流発電機のコンデンサ装置およびその製造方法  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 上田 俊一  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 古川 秀利  

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