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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1193642
審判番号 不服2007-20732  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-26 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 平成8年特許願第8219号「水素吸蔵合金及び二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成9年7月31日出願公開、特開平9-199121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年1月22日の出願であって、平成19年6月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年8月27日付けで手続補正がされたものである。

2.平成19年8月27日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年8月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正の内容
平成19年8月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)のうち、特許請求の範囲についての補正は、請求項1の補正を含むものである。
そして、補正後の請求項1は、次のとおりのものである。

「ニッケルを5wt%以上含む水素吸蔵合金に、1A族から7B族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子を混合する工程と、真空または不活性ガスもしくは水素雰囲気下において前記混合して得た粒子に機械的に衝撃を与える処理を施す工程とを施して得られる水素吸蔵合金であって、最終的に得られる合金での酸素の含有量が0at%以上10at%以下であり、かつ粒径0.01μm以上30μm以下の、1A族から7B族の元素から選択される少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子が、体積比で0.01%以上50%以下分散していることを特徴とする水素吸蔵合金。」

(2)当審の判断
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記のとおりであり、「粒径0.01μm以上30μm以下の、1A族から7B族の元素から選択される少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子が、体積比で0.01%以上50%以下分散している」という事項を付加する補正事項を有するものであるから、該補正事項について、以下検討する。

この補正事項は、「1A族から7B族の元素から選択される少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子」として、「粒径0.01μm以上30μm以下」と限定し、「体積比で0.01%以上50%以下分散している」と限定するものであるが、かかる補正事項を有する水素吸蔵合金についての発明は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていたとすることができない。
前記補正事項に関し、本願の第3の発明、すなわち請求項3に係る発明について記載された、段落【0044】には、「本願の第3の発明は、粒径0.001μm以上100μm以下の、1A族から7B族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素、該元素から構成される合金、又は該元素の酸化物が、体積比で0.01%以上50%以下分散していることを特徴とする水素吸蔵合金である。」と記載され、引き続き第3の発明について記載された、段落【0048】?【0049】には「分散させる結晶の大きさは0.001μmより小さい場合には、吸蔵特性が向上せず、また100μmより大きい場合には合金の吸蔵速度が著しく減少する。それゆえ結晶の大きさの範囲は0.001μm以上100μm以下とする。より好ましい範囲は0.01μm以上30μm以下・・・分散量が体積比で0.01%未満であると吸蔵速度が増大せず、50%を越えると吸蔵量が減少する。より好ましい範囲は体積比で0.1%以上40%以下」と記載されているものの、請求項1に係る発明について「1A族から7B族の元素から選択される少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子」として、粒径0.01μm以上30μm以下であるものが、体積比で0.01%以上50%以下分散していることについては、当初明細書等に、記載されていたとすることができず、かかる補正事項が、当業者に自明の事項であるとすることもできないのであるから、「粒径0.01μm以上30μm以下の、1A族から7B族の元素から選択される少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子が、体積比で0.01%以上50%以下分散している」と限定する補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものということはできない。

以上の点で、本件補正は、当初の明細書等に記載された事項の範囲内でしたものとはいえない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明についての審決
(1)本願発明
上記「2.」で示したように、本件補正は却下されたから、本願に係る発明は、原査定時の明細書、すなわち平成18年2月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「ニッケルを5wt%以上含む水素吸蔵合金に、1A族から7B族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素から構成される粒子、該元素から構成される合金粒子、又は該元素の酸化物粒子を混合する工程と、真空または不活性ガスもしくは水素雰囲気下においてメカニカルな処理を施す工程とを施して得られる水素吸蔵合金であって最終的に得られる合金での酸素の含有量が0at%以上10at%以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。」

(2)原査定の理由の概要
一方、原査定の理由の一つの概要は、次のとおりのものである。

本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記刊行物1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



1.特開平5-343059号公報
2.特開平5-211063号公報

(3)刊行物とその主な記載事項
原査定の理由で引用された刊行物1には、次の事項が記載されている。

刊行物1:特開平5-343059号公報
(a)「【0010】ここで、上記構造の円筒型ニッケル-水素アルカリ蓄電池を、以下のようにして作製した。先ず、市販のMm(ミッシュメタルであって、希土類元素の混合物),Ni,Co,Al,及びMnを元素比で1:3.1:0.9:0.2:0.5の割合となるようにそれぞれ秤量した後、アルゴン不活性雰囲気のアーク炉内で溶解して溶湯を作成した。次に、上記溶湯を冷却することにより、MmNi_(3.1)Co_(0.9)Al_(0.2)Mn_(0.5) で示される水素吸蔵合金鋳塊を作成した。続いて、この水素吸蔵合金鋳塊の粒径が100μm以下となるように機械的に粗粉砕して水素吸蔵合金粉末を作製した。その後、この水素吸蔵合金粉末と5重量%の酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))とをボールミル内に充填し、更にボールミル内にアルゴンガスを封入し、室温下、回転数80rpmで20時間攪拌しメカニカルアロイング処理を施した。しかる後、メカニカルアロイング処理がなされた水素吸蔵合金粉末に結着剤としてのポリエチレンオキサイドを1重量%添加し、これらを均一に混合することによりペーストを作成した。この後、このペーストを、ニッケルメッキが施されたパンチングメタル芯体の両面に塗着し、室温で乾燥させ、更に所定の寸法に切断することより負極2を作製した。」

(4)当審の判断
(4-1)引用刊行物に記載の発明
引用刊行物1の(a)に「メカニカルアロイング処理がなされた水素吸蔵合金粉末」と記載されており、この「水素吸蔵合金粉末」からは、「水素吸蔵合金」をも把握できるから、引用刊行物1には、「水素吸蔵合金」について記載されているといえる。
そして、この「水素吸蔵合金」について、(a)には、「次に、上記溶湯を冷却することにより、MmNi_(3.1)Co_(0.9)Al_(0.2)Mn_(0.5) で示される水素吸蔵合金鋳塊を作成した。続いて、この水素吸蔵合金鋳塊の粒径が100μm以下となるように機械的に粗粉砕して水素吸蔵合金粉末を作製した。その後、この水素吸蔵合金粉末と5重量%の酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))とをボールミル内に充填し、更にボールミル内にアルゴンガスを封入し、室温下、回転数80rpmで20時間攪拌しメカニカルアロイング処理を施した。しかる後、メカニカルアロイング処理がなされた水素吸蔵合金粉末」と記載されており、ここで、機械的に粗粉砕した水素吸蔵合金粉末の「水素吸蔵合金」のNi含有量は、(a)の「MmNi_(3.1)Co_(0.9)Al_(0.2)Mn_(0.5) で示される水素吸蔵合金鋳塊を作成した。・・・機械的に粗粉砕して水素吸蔵合金粉末を作製した。」という記載によれば、仮にMm(メッシュメタル、すなわち希土類元素の混合物)の原子量相当量157(希土類元素の原子量の最小のもの、すなわちLaの139と、最大とのもの、すなわちLuの175との算術平均値)として概算すると、43wt%程度(3.1×59/(1×157+3.1×59+0.9×59+0.2×27+0.5×55)×100)といえるし、また、水素吸蔵合金粉末とともに、ボールミル内に充填する酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))は、水素吸蔵合金粉末とともに、ボールミル内に充填されてメカニカルアロイングされるものであるから、明らかに粒子であるといえるし、水素吸蔵合金粉末と混合されるものといえる。更にアルゴンガスが、ボールミル内に封入され、このボールミル内でメカニカルアロイング処理が施されるのであるから、メカニカルアロイング処理は、アルゴンガス雰囲気下において施されるといえる。

以上の記載及び記載から認定した事項を本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ニッケルを43wt%程度含む水素吸蔵合金に、アルミニウムの酸化物粒子を混合する工程と、アルゴンガス雰囲気下においてメカニカルアロイング処理を施す工程とを施して得られる水素吸蔵合金」

(4-2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、43wt%程度は、明らかに5wt%以上であり、引用発明のアルミニウムの酸化物粒子、アルゴンガス、及びメカニカルアロイング処理は、それぞれ、1A族から7B族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物粒子、不活性ガス、及びメカニカルな処理といえるから、両者は、
「ニッケルを5wt%以上含む水素吸蔵合金に、1A族から7B族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物粒子を混合する工程と、不活性ガス雰囲気下においてメカニカルな処理を施す工程とを施して得られる水素吸蔵合金」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点:
最終的に得られる合金での酸素の含有量が、本願発明は、「0at%以上10at%以下」と限定されているのに対して、引用発明は、不明である点

(4-3)相違点についての判断
次に、この相違点について検討する。
刊行物1の(a)に「市販のMm(ミッシュメタルであって、希土類元素の混合物),Ni,Co,Al,及びMnを元素比で1:3.1:0.9:0.2:0.5の割合となるようにそれぞれ秤量した後、アルゴン不活性雰囲気のアーク炉内で溶解して溶湯を作成した。次に、上記溶湯を冷却することにより、MmNi_(3.1)Co_(0.9)Al_(0.2)Mn_(0.5) で示される水素吸蔵合金鋳塊を作成した。続いて、この水素吸蔵合金鋳塊の粒径が100μm以下となるように機械的に粗粉砕して水素吸蔵合金粉末を作製した。その後、この水素吸蔵合金粉末と5重量%の酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))とをボールミル内に充填し、更にボールミル内にアルゴンガスを封入し、室温下、回転数80rpmで20時間攪拌しメカニカルアロイング処理を施した。」と記載されているように、アルゴン不活性雰囲気での溶湯の作成及びアルゴンガスを封入したボールミル内でのメカニカルアロイングという製造工程を用いていることからみると、酸素が混入しないようにして水素吸蔵合金が製造されているといえるから、最終的に得られる合金に酸素は、実質的に含まれていないといえる。たとえ含まれるとしても、10at%を越えるような多い量で含まれるようなことは、自然なこととはいえないから、10at%以下といえる。そうすると、引用発明の水素吸蔵合金の最終的に得られる合金での酸素の含有量は、本願発明の範囲内といえる。
してみると、上記相違点は、実質的なものとはいえない。

以上のように、本願発明と引用発明との一応の相違点は、実質的なものとはいえない。

(4-4)小括
したがって、本願発明は、引用発明と同一であるといえる。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-19 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願平8-8219
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 561- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 徹小川 進井元 清明  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 平塚 義三
青木 千歌子
発明の名称 水素吸蔵合金及び二次電池  
代理人 波多野 久  
代理人 関口 俊三  

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