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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1193711
審判番号 不服2006-13494  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-27 
確定日 2009-03-04 
事件の表示 特願2000-402640「シリコン単結晶の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月16日出願公開、特開2002-201094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成12年12月28日の出願であって、平成18年2月10日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成18年2月14日)、平成18年4月17日付けで意見書・手続補正書が提出され、平成18年6月1日付けで拒絶査定され(発送日は平成18年6月5日)、その後、平成18年6月27日に査定不服の審判請求がなされたものであって、その請求項1?4に係る発明は、平成18年4月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
育成炉を備えたシリコン単結晶製造装置を用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶引上げ終了後の該育成炉の降温を、該育成炉の内部に不活性ガスを流通させることなく密封した状態で行い、かつ前記育成炉を密封する不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用いることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物である特開平9-202694号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある。
(1)「本発明は・・・・・・チョクラルスキー(CZ)シリコン成長工程において使用される結晶成長システムを冷却する方法に関する。」(【0001】)
(2)「【従来の技術】・・・・・・引き上げが完了した後、結晶、炉、および関連部材を約200℃に冷却するのを補助するためにアルゴン流が継続される。・・・・・・冷却が必要である。冷却後に、炉を開けて別の結晶を成長させる準備ができるように、内圧をほぼ大気圧に増加させるために炉の中にアルゴンを流入させてもよい。この方法の欠点は、冷却が比較的ゆっくりで、一般に2?5時間を要することである。システムを開くのに充分な程度に冷却されるまで、次の結晶成長操作のために結晶引き上げ装置を準備することができないので、生産性が落ちる。
【発明が解決しようとする課題】本発明のいくつかの目的および特徴の中で注目されるのは、従来の方法よりも速くCZ炉を準備することを可能にする急速冷却操作を特徴とするCZシリコン結晶成長法;向上した生産性を特徴とするCZ結晶成長法;より急速な冷却を促進し、向上した生産性を提供するCZ結晶成長装置を提供することである。」(【0002】?【0003】)
(3)「本発明の他の目的および特徴は、一部が明白であり、一部が下記に指摘される。・・・・・・図1を参照すると、本発明によって使用されるCZ結晶成長装置が例示されている。真空室1内に、抵抗加熱ヒーター5で囲まれたルツボ3が存在する。・・・・・・貯水槽35から冷却水を供給される室冷却ジャケット33が真空室を囲んでいる。次に冷却水が、冷却水戻しマニホールド37に排出される。・・・・・・シリコン単結晶を成長させるために、ある量のポリシリコンがルツボ3に装填され、電流をヒーター5に流して、その装填材料を溶融させる。・・・・・・結晶引き上げ操作中の真空室内の圧力は、約10?約20トル・・・・・・種結晶15が降下されて、メルトと接触し、次にゆっくりとメルトから引き上げられ、シリコンが種結晶上で凝固して単結晶の成長が生じる。」(【0011】?【0013】)
(4)「成長操作が完了すると、・・・・・・アルゴン流が停止され、ルツボを収容する室が真空ポンプ31によって排気されて、約1トル未満・・・・・・の圧力にされる。次にヘリウムが・・・・・・室に導入される。本明細書において「ヘリウム」と称されるが、ヘリウムまたはヘリウム含有ガスのいずれの使用も有効である。・・・・・・全てのガスがヘリウムでない場合、ネオンおよび/またはアルゴンが好ましい残りの成分である。例示的なガスとしては、90He/10Ar、80He/20Ar、および70He/30Arが含まれる。・・・・・・少なくとも約50トル、好ましくは約50?約760トル、より好ましくは約50?約300トル、最も好ましくは約200トルの圧力に、室がヘリウムで満たされるように、真空の適用が停止される。・・・・・・ヘリウムの所望量がシステムに流され、所望される圧力に達すると、ヘリウム流が停止される。」(【0015】?【0018】)
(5)「使用されるガスは、ヘリウム含有ガスであっても代替ガスであっても、結晶と反応しない、または結晶を汚染しないという点において、結晶に対して不活性である。」(【0021】)
(6)「本発明に関して使用されるガスの熱伝導率は、800°Kにおいて少なくとも約55x10^(-5)g.cal./(秒・cm^(2))(℃/cm)・・・・・・である。・・・・・・ヘリウムと混合してもよいアルゴンの熱伝導率は、800°Kにおいて約8.8x10^(-5)g.cal./(秒・cm^(2))(℃/cm)である。」(【0021】)
(7)「図2は、冷却の間システムをアルゴンでパージする/満たす従来工程と、これら2つの例示的工程との比較を示す。図2に示すように、本発明に従って冷却の間にヘリウムで満たす方法を用いることによって、引き上げ装置内を約180℃に冷却する時間が、約120分から約90分へと、約25%も驚異的に減少した。このようにして冷却時間を減少することによって、引き上げ装置をより速く次の結晶成長操作のために準備することができ、それによって生産性を高めることができる。」(【0024】)
上記(1)?(5)の記載事項を検討する。
(あ)上記(1)の結晶成長システムは、上記(2)及び(3)のCZ結晶成長装置を指すといえ、チョクラルスキー法に使用するものである。
(い)上記(3)の記載によれば、CZ結晶成長装置は、真空室を有しており、この「真空室」内には「ルツボ」があり、このルツボの中にはポリシリコンが溶融し、種結晶を上で凝固してシリコン単結晶が成長、すなわち、製造されているといえる。
(う)上記(4)の記載によれば、シリコン単結晶の成長操作が終了すると、ルツボを収納する室(上記(3)の記載から真空室をいうことは明らかである)へヘリウムガスが導入され、「ヘリウムが満たされ真空の適用が停止される」といえ、さらに「ヘリウムの所望量がシステムに流され、所望される圧力に達すると、ヘリウム流が停止される」とも記載されているから、ヘリウム流が停止した後ヘリウムは真空室内に満たされているといえる。
(え)上記(5)の記載によれば、上記(う)で述べたヘリウムガスは不活性ガスである。
上記(1)?(5)の記載事項を上記(あ)?(え)の検討を踏まえて、本願発明の記載ぶりに則して記載すると、引用文献には、
「真空室を備えたCZ結晶成長装置を用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶の成長操作終了後の冷却を、該真空室内に不活性ガスとしてのヘリウムガスを導入しヘリウムガスを満たされるように真空の適用が停止されるシリコン単結晶の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(か)引用発明の「真空室」の中には上記(い)で検討したようにルツボがあり、シリコン単結晶を引き上げているから、本願発明の「育成炉」に相当する。
(き)引用発明の「CZ結晶成長装置」は、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶の製造をしているから、本願発明の「シリコン単結晶製造装置」に相当する。
(く)引用発明の「シリコン単結晶の成長操作終了」は、チョクラルスキー法では「シリコン単結晶の引き上げ終了」に他ならず、また、「冷却」とは冷やして温度を下げることであるから、本願発明の「降温」に相当する。
(け)本願発明の「育成炉の内部に不活性ガスを流通させることなく密封した状態」に関し、「不活性ガス」の「流通」とは、本願明細書【0038】の記載によれば、育成炉内の不活性ガスを炉外に排気していることを指しているといえるから、「不活性ガスを流通させることなく」とは育成炉内の不活性ガスを炉外に排気しないと解される。そうすると、引用発明の真空室が「ヘリウムガスを満たされるように真空の適用が停止される」状態とは、本願発明の「育成炉の内部に不活性ガスを流通させることなく密封した状態」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、共に、
「育成炉を備えたシリコン単結晶製造装置を用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶引き上げ終了後の該育成炉の降温を、該育成炉の内部に不活性ガスを流通させることなく密封した状態で行うシリコン単結晶の製造方法」である点で一致し、
育成炉を封止する不活性ガスにつき、本願発明はアルゴンガスを使用しているのに対して、引用発明はヘリウムガスを使用している点で相違している。
そこで、この相違点について検討する。
上記(4)には、不活性ガスとしてヘリウムガスの他にヘリウムガスにアルゴンガスを含有させてもよい旨の記載がなされているが、上記(6)には、アルゴンガスの熱伝導率は、引用文献で使用すべき不活性ガスの熱伝導率の下限値よりも低いことが記載されているから、引用文献には不活性ガスとしてアルゴンガスの単独使用はなされないものと解される。
ここで、引用文献において決定されている不活性ガスの熱伝導率の下限値の技術的意義について検討する。
この不活性ガスの熱伝導率の下限値は、上記(2)の記載によれば、引き上げが完了した後、炉などを冷却するためにアルゴンガスを流入させていたが、この冷却が比較的ゆっくりであったため、生産性を向上させるべく、熱伝導度の高いヘリウムガスを使ってこの冷却の速度を速くしてCZ結晶成長装置を速く準備するために決定されたものといえる。そして、上記(7)には、CZ結晶成長装置をアルゴンガスでパージ/満たす従来工程とヘリウムで満たす方法の両方が記載され、冷却時間はヘリウムで満たす方が短くなったことが記載されており、確かに冷却速度が向上しているといえる。
そうすると、引用文献において、生産性の向上を目的とし、所定の冷却速度を得るために、不活性ガスの熱伝導率の下限値は決められたといえる。
ところで、この冷却速度は、本願発明においても、引用発明においても、不活性ガスの熱伝導度の他に、生産性向上の程度、炉壁を流れる冷却水の水量や水温、冷却する温度範囲などの種々の冷却に係わる条件・因子により変化することは明らかである。この冷却に係わる条件・因子のうち、不活性ガスの熱伝導度以外の因子である、例えば、冷却温度範囲についてみると、引用発明では180℃までであり(上記(4)及び(7)を参照)、一方、本願発明では500℃以下までである場合を含むから(本願明細書の【0028】)、本願発明と引用発明とでは冷却温度範囲は異なる場合が含まれる。さらに、本願発明と引用発明とでは、生産性向上の程度、炉壁を流れる冷却水の水量や水温が同一などの冷却に係わる条件・因子が同一であると断言できるものは見当たらない。
そうすると、仮に冷却速度が同じであっても、不活性ガスの熱伝導度以外の冷却に係わる条件・因子が異なれば、不活性ガスの熱伝導度の下限値は異なり、また、冷却速度が変われば、望ましい不活性ガスの熱伝導度の下限値も変わるといえる。
してみると、本願発明と引用発明において、冷却速度が等しくても等しくなくても、引用文献の上記(6)の記載にかかわらず、冷却のための不活性ガスとしてアルゴンガスが用いられていることが記載されている引用文献に接した当業者は、あらゆる値の冷却速度やこの冷却速度を与える条件・因子の下でも常に望ましくないと認識するとはいえず、引用文献に記載された条件とは異なる冷却速度やこの冷却速度を与える条件・因子の下ではアルゴンガスを使用が可能であるという知見を得るものといえ、引用発明のヘリウムガスに代えてアルゴンガスを用いることは、当業者であれば困難なくなしえたものといえる。
よって、本願発明は引用発明に基づいて当業者であれば、容易になしえたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-08 
結審通知日 2009-01-09 
審決日 2009-01-21 
出願番号 特願2000-402640(P2000-402640)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 大工原 大二
木村 孔一
発明の名称 シリコン単結晶の製造方法  
代理人 石原 詔二  

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