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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A61F |
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管理番号 | 1194132 |
審判番号 | 無効2006-80158 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-08-25 |
確定日 | 2009-02-16 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2799061号「使いすてカイロならびにその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成19年5月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成19年(行ケ)第10218号、平成19年10月30日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2799061号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 (1)特許第2799061号に係る発明についての出願は、平成2年9月28日に出願され、平成10年7月3日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。 (2)これに対し、日本カイロ工業会(以下、「請求人」という。)は、平成18年8月25日に請求項1,2に係る発明について特許無効審判(以下、「本件無効審判」という。)を請求した。 (3)特許権者である金山和生(以下、「被請求人」という。)は、平成18年11月13日付けで答弁書及び訂正請求書を提出し、同年11月22日付けで同訂正請求書についての手続補正書を提出した。 (4)平成19年2月15日に口頭審理が行われ、口頭審理当日、請求人は口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は口頭審理陳述要領書及びその追補を提出した。なお、請求人は平成19年2月19日に証拠差出書を提出した。 (5)口頭審理において、上記(3)の訂正請求書による訂正請求に対して、口頭で両当事者に訂正拒絶理由を通知し、被請求人は平成19年3月2日に訂正拒絶理由に対する意見書を提出し、請求人は同年3月19日に弁駁書を提出した。 (6)その後、平成19年5月11日付けで請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。 (7)これに対し、被請求人は、平成19年6月20日に審決の取消しを求める訴え(平成19年(行ケ)第10218号)を知的財産高等裁判所に提起し、その後90日の期間内である同年9月12日に特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判(訂正2007-390106)を請求したところ、当該裁判所は、平成19年10月30日付けで、特許法181条2項の規定を適用して審決の取消しの決定をした。 (8)その後、特許法134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正請求書が提出されなかったので、同法134条の3第5項の規定により上記(7)の訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用した「訂正の請求」がされたものとみなされることとなり、これに対し、請求人は、平成20年2月15日付けで弁駁書を提出した。 (9)平成20年5月28日付けで審理終結通知をしたところ、被請求人は上記(8)の弁駁書に対して平成20年6月2日付けで上申書を提出した。 第2 訂正の可否に対する判断 1.訂正の内容 上記「第1、(8)」の訂正請求書に添付された訂正明細書によると、訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次のような内容のものである。 すなわち、設定登録時の特許請求の範囲の記載、 「【請求項1】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロにおいて、該収納袋のシール部の外側周辺部を模様状に、内側部分を無地にシールしたことを特徴とする使いすてカイロ。 【請求項2】鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロの製造において、シールエッヂに相当する部分が無地の回転式ヒートシールバーを用い、該収納袋のシール部の外側周辺部を模様状に、内側部分を無地にシールすることを特徴とする使いすてカイロの製造方法。」を、 「【請求項1】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロにおいて、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールしたことを特徴とする使いすてカイロ。 【請求項2】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロの製造において、シールエッヂに相当する部分が無地の回転式ヒートシールバーを用い、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールすることを特徴とする使いすてカイロの製造方法。」 と訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。 この訂正は、言い換えれば、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に、 「該収納袋のシール部の外側周辺部を模様状に」とあるのを、 「該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に」と訂正する(以下、「訂正事項a」という。)とともに、 「内側部分を無地に」とあるのを、 「内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地に」と訂正する(以下、「訂正事項b」という。)ものである。 2.当審の判断 (1)訂正の目的 訂正事項aは、請求項1及び2に記載された発明の構成に欠くことのできない事項である「模様状」について、「該収納袋の正常な前送りに寄与する」との限定を付加したものであり、また、訂正事項bは、同じく「無地」について、「該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する」との限定を付加したものである。 収納袋の正常な前送りやエッヂ切れの防止は、収納袋の厚みや材質、収納袋と回転式ヒートシールバーとの相互関係(摩擦係数、押圧条件、温度条件、回転式ヒートシールバーの回転数や収納袋の送り速度)、無地部分と模様状部分の割合等の諸条件を適正な値に設定することによってはじめて実現できるものである。それゆえ、単に「模様状に」「シール」する、あるいは「無地にシール」するという、訂正前の請求項1及び2の記載では、前送りに支障をきたしたりエッヂ切れを防止できないものも含まれ得ることから、それらを排除する目的で、訂正後の請求項1及び2は、「模様状に」「シール」する点を「収納袋の正常な前送りに寄与する」ものだけに、また、「無地にシール」する点を「収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する」ものだけに限定にしたものと解される。 したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無 願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)には、訂正事項a及びbに関して、次のような事項が記載されている。 (a)「〔問題点を解決するための手段〕 上記問題点を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入するに際し、充填機の回転式ヒートシールバーのエッヂ部分、特に袋を形成するエッヂ部分を無地にしてシール加工することにより、エッヂ切れのないカイロを製造できることを見い出し本発明を完成した。すなわち、ヒートシールバーの全面を無地にした場合、エッヂ切れは起こらないものの、回転バー上で袋材がすべりやすく袋材の前送りが不完全となって製造工程上不適であったが、本発明の方法によれば、製造工程のトラブルがなくエッヂ切れの問題を解消できることが明らかとなった。本発明は、かかる方法で製造されたエッヂ切れのない品質のすぐれた使いすてカイロ、ならびにその有用な製造方法に係るものである。」(本件特許公報3欄5?19行) (b)「図中、3は、回転式ヒートシールバーの無地部分でシールしたヒートエッヂ部分を示し、一方、4は、ヒートシールバーの模様状部分でシールした部分を示す。通常、3の巾は0.5mm?8mmが適当で、製造工程上、袋材の前送りに支障をきたさない限り巾広く設定するのが好ましい。」(同3欄45?50行) (c)「(試験例) 鉄粉30g活性炭3g、塩類3g、保水剤4g及び水14gからなる発熱組成物を、ブレスロン(日東電工製)の袋材に収納して使いすてカイロを調製した。製造工程の状況ならびに製造品の性能は、次のとおりであった。 ・・・「表」は省略・・・ 試験の結果、シールバーを前面無地にすることによってエッヂ切れは起こらなかったが、袋材の正常な送りができず、本来の形状と異なるカイロが多くみられ、不適であった。一方、本発明の方法によれば、エッヂ切れ解消され、袋材の送りも正常で、製造品の性能にも問題はなく、本発明の有用性が確認された。」(同4欄12?34行) (d)上記(c)において省略した表には、幅10mmのヒートシールバーを用いて比較試験を行った結果が示されている。この表によれば、2mmのエッヂ部と残りが格子柄模様のヒートシールバーを用いた本発明例においては、エッヂ切れが100個中全く発生せず、しかも、袋材の送りも正常であったことが示されている。これに対し、全面格子柄模様のヒートシールバーを用いた比較例においては、袋材の送りは正常であったが、エッヂ切れが100個中10個発生し、また、全面無地のヒートシールバーを用いた比較例においては、エッヂ切れは生じなかったものの、袋材の送りに異常が生じ、形状異常の製造品が多く発生したことが示されている。 これらの記載事項によれば、全面模様状のヒートシールバーを用いた場合には、袋材の前送りは正常に行われるが、全面無地のヒートシールバーを用いた場合には、袋材の前送りに異常が生じるのであるから、ヒートシールバーの模様状部分が袋材の正常な前送りに寄与することは明らかである。また、全面模様状のヒートシールバーを用いた場合には、エッヂ切れを生じるが、全面無地のヒートシールバーを用いた場合には、エッヂ切れが発生しないのであるから、ヒートシールバーの無地部分がエッヂ切れを防止することも明らかである。さらに、全面無地のヒートシールバーを用いた場合には、袋材の前送りに異常が生じるものの、無地部分と模様状部分とからなるヒートシールバーを用いた場合には、無地部分の巾を適当に選べば、袋材の前送りに支障をきたさないことも明らかである。 そうすると、ヒートシールバーの模様状部分は、袋材の正常な前送りに寄与し、ヒートシールバーの無地部分は、袋材の正常な前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する機能を果たすということができる。 そして、「模様状」のシール部は、ヒートシールバーの模様状部分によってシールされた部分であるから、「収納袋の正常な前送りに寄与する」部分であることは自明であり、また、「無地」のシール部は、ヒートシールバーの無地部分によってシールされた部分であるから、「収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する」部分であることも自明である。 したがって、訂正事項a及びbに係る訂正は、ともに特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるということができる。 また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に該当し、また、特許法第134条の2第5項において準用する同法126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 よって、本件訂正を認める。 第3 請求人の主張 1.請求の趣旨 請求人は、本件特許第2799061号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、下記2.の証拠方法を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 2.証拠方法 (1)請求人は、審判請求書において以下の証拠方法を提出している。 甲第1号証:特開昭62-183759号公報 甲第2号証:実公昭61-7149号公報 甲第3号証:特開平1-308703号公報 甲第4号証:特開昭53-71997号公報 甲第5号証:特開平1-164593号公報 (2)袋材をシールするときのエッジ切れを防止する技術が本願出願前より公知であることを立証するため、以下の証拠方法を提出している。 甲第6号証:特開昭55-154118号公報 (3)回転式ヒートシールバーによりフィルムを送りながら封止する際、滑りを防止する観点から、フィルム等の素材特性及びシールロールの表面との摩擦係数、温度条件、押圧圧力等の諸条件を選定することが、本願出願前より周知の技術であることを立証するため、以下の証拠方法を提出している。 甲第7号証:実開昭59-69102号公報 甲第8号証:特公昭55-19820号公報 甲第9号証:実公昭36-8480号公報 甲第10号証:特開昭60-228218号公報 (4)甲第2号証又は甲第3号証に記載のラミネートフィルムによっても使いすてカイロが製造されていることが、本願出願前より公知であることを立証するため、以下の証拠方法を提出している。 甲第11号証:実公昭59-29794号公報 甲第12号証:特開平1-223960号公報 (5)本件特許発明と同じ構成である、乾燥剤、脱酸素材、鮮度保持剤、脱剤等に使用される包材に、使いすてカイロと同じような密度を有する材料を充填するに当たり、「エッジ切れ」を防止する課題が本願出願前より公知であることを立証するため、以下の証拠方法を提出している。 甲第13号証:特開昭61-167号公報 なお、甲第6号証ないし甲第10号証は口頭審理陳述要領書において提出されたものであり、また、甲第11号証及び甲第12号証は平成19年2月19日付け証拠差出書において、そして、甲第13号証は平成19年3月19日付け弁駁書において提出されたものである。 第4 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件訂正の請求をするとともに、概略、次のように主張している。 1.技術分野の相違 (1)甲第2、3号証の密封袋は、内容物を取り出すべくシール部を引き裂いて開封する外装袋である。これを当業者が甲第1号証に適用しようとしても、非通気性の袋4の中に収容された内容物に相当する保温具自体に適用することを想起することはできない。甲第2、3号証の引き裂いて開封する密封袋と、甲第1号証の開封することのない通気性を有する保温具本体とは、そもそも技術分野が相違するからである。 (2)甲第2、3号証は完全密封するための袋であるが、甲第1号証の使いすてカイロは、収納袋の通気性が特に重要なものであり、液体等を完全密封する袋とは、用途および技術的な目的課題が大きく相違する。この点からも、甲第2、3号証の密封袋を甲第1号証の保温具に組み合わせることは困難である。 2.技術思想の相違 甲第2,3号証の格子状凹凸シール部は、内容物を取り出すために密封袋を引き裂きやすくするためのものである。本件発明の模様状部分のような正常な送り動作に寄与するという技術的思想は、甲第2,3号証にはない。甲第2,3号証の無地部分は、正常な前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止するものでもない。エッジ切れ防止を図ることと、収納袋の前送り動作を正常にすることとを同時に実現するという技術的思想は、甲第2,3号証には開示も示唆もされていない。 3.阻害要因の存在 使いすてカイロの収納袋のシール部は容易に引き裂けるようにするべきではない。容易に引き裂いて開封させるための技術である甲第2,3号証の凹凸シール部を、甲第1号証の保温具のシール部に適用することには、阻害要因がある。 4.まとめ 以上のように、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証とは技術分野が相違し、本件訂正後の特許発明と甲第1?3号証とは技術的思想が相違し、かつ、甲第1号証に甲第2号証及び甲第3号証を適用するにあたり技術的阻害要因も存在するから、本件訂正後の特許発明は、当業者が甲第1?3号証に基づいて容易に想到することができたものではない。 したがって、本件特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものではなく、同法123条第1項第2号の規定に該当するものではない。 第5 本件特許発明 上記「第2 訂正の可否に対する判断」で示したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」「本件特許発明2」という。)は、上記「第1(8)」の訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロにおいて、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールしたことを特徴とする使いすてカイロ。 【請求項2】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロの製造において、シールエッヂに相当する部分が無地の回転式ヒートシールバーを用い、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールすることを特徴とする使いすてカイロの製造方法。」 第6 甲第1号証ないし甲第5号証 1.甲第1号証 甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a)「[従来の技術] 鉄粉等の発熱剤を通気性の被覆で覆い、これを非通気性の袋に収納し、使用時には上記非通気性の袋を破って揉み合わせることにより、上記鉄粉を酸化せしめ、その際発生する酸化熱を利用して使い捨ての懐炉等の保温具としたものは公知であり、火を使わずに安全であるため広く普及している。」(第1頁左下欄12?19行) (b)「第1図中、1は発熱剤、2は上記発熱剤1を収納する通気性の被覆としての超微孔性通気フィルム(本明細書中に於て単に「通気フィルム」という。)、3は上記通気フィルムに密着して設けられたレーヨン不織布、4は非通気性の袋である。 使用の際は、包装を兼ねた非通気性の袋4を破り、通気フィルム2及びレーヨン不織布3に収納された発熱剤1を必要に応じて軽く揉んだ後、懐炉として使用する場合には衣服の下などに納めるものである。 発熱剤1は、例えば鉄粉、NaCl(触媒)及び湿り気を与える程度のH_(2)Oから成り、使用時に上記通気フィルム2及びレーヨン不織布3を通じて侵入してくる空気中の酸素と鉄粉が反応し、その酸化反応熱によって発熱する。 レーヨン不織布3は、懐炉として使用する場合の肌ざわりと適宜の断熱性を確保するためのものである。 ・・・中略・・・ 而して、上記の如き超微孔を有するフィルムを作製するには、例えばポリエチレンにBaSO_(4 )粉末を添加し、これを延伸してフィルムとすれば良い。」(第2頁右上欄5行?同頁左下欄17行) (c)第2図には、発熱剤1を封入して収納袋をヒートシールしたと推定されるシール部が図示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「鉄粉、NaCl(触媒)及び湿り気を与える程度のH_(2)Oからなる発熱剤1を、微細気孔を有する、ポリエチレン等から成る通気フィルム2にレーヨン不織布3を積層した収納袋に封入した使い捨て保温具。」 2.甲第2号証 甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a)「本発明は外側を非低温溶融性シート、内側を低温溶融性シートとしたラミネートフイルムよりなる密封袋の改良に係るものである。」(第1頁第1欄17?19行) (b)「従来外側をアルミ箔、セロハン等の非低温溶融性シート、内側をポリエチレン等の低温溶融性シートとしたラミネートフイルムよりなる密封袋は、第4図に示す如くフイルム内面のポリエチレンが押圧により薄くなり、余剰部が次第に内方に押され遂にはシール部の基部に隆起部を形成し、これがフイルム上面のナイロンまたはアルミ箔等の内部にくい込んで該部を薄くするので極めて破れ易く、ピンホールも生じ易く漏洩、亀裂の原因となつた。」(第1頁第1欄20行?29行) (c)「また例えば、特公昭40-2219号公報の如く単にヒートシールロールの圧接面に細凹凸条を形成し互にその凹凸条を噛み合せるようにしてフイルムの熱圧着を行うようにしたものもあつたが、これによると噛み合せるための調整が面倒であり、若し凸と凸が当接するとフイルムにミシン目が入つたようになりすぐ切れてしまい、また第5図の如くフイルムが細く屈曲されるので屈曲部が脆弱となり、この場合も第4図の場合と同様シール基部に隆起部が形成されるという欠点があった。」(第1頁第1欄29行?同頁第2欄9行) (d)「1はポリエチレン等の低温溶融性フイルム2の表面にナイロンまたはアルミ箔等適宜の材料からなる非低温溶融性シート3をラミネートしたラミネートフイルムで、2つ折りとなつている。4,4および5はその上下の平行斜状横方向重合端および縦方向重合端に形成された熱接着による所定巾のベタシール部、6,6は前記上下の平行斜状横方向ベタシール部4,4の表裏両外面に対称的に数条の横方向に所定間隔をもつて平行して隆起状に突出形成された低温溶融性フイルムの溶融余剰肉による横方向隆起凸条、7は縦方向ベタシール部5の外側縁8に形成された所定巾の格子状凹凸シール部、9は内容物封入部、10は液体、粘稠物等の内容物である。 本考案は叙上のような構成からなるものであるから、内容物封入部9の周囲は上下の平行斜状横方向ベタシール部4,4および縦方向ベタシール部5によつて形成されており、然も前記横・縦のベタシール部4,4および5の熱圧着により生じた低温溶融性フイルム2の溶融余剰肉は上下の平行斜状横方向ベタシール部の表裏両外面に対称的に数条の横方向に所定間隔をもつて平行して隆起状に突出せる横方向隆起凸条6,6を形成するようになつているので、前記余剰肉が非低温溶融性シート3の内部にくい込んで該部を薄くすることなく、従つて従来の如くシール基部(内容物封入部9の周囲)が破損したり、ピンホールができたりすることがなく、シール部全体を極めて強固とし、液洩れ等を全くなくすことができるものであるとともに、縦方向ベタシール部5の外側縁8を所定巾の格子状凹凸シール部7となすことによつてこの部分を前記横・縦方向ベタシール部4,4および5に比して薄肉となし、フイルムを引裂き易くすると同時にこの部分に開封用のノツチ11を設けることによつて容易に開封を行うことができるようにしたものである。」(第1頁第2欄13行?第2頁第4欄3行) (e)上記(d)及び特に第1図、第3図を参酌すれば、ラミネートフイルムの縦方向に沿うシール部は、その外側周辺部を格子状凹凸シール部7によりシールし、内側部分を縦方向ベタシール部5によりシールしたものであるといえる。 (f)第4図には、ベタシール部だけでシールされたシール部の断面図が図示されている。 したがって、これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ポリエチレン等の低温溶融性フイルム2の表面にナイロンまたはアルミ箔等適宜の材料からなる非低温溶融性シート3をラミネートしたラミネートフイルムをヒートシールロールによりシールした液体密封袋(の製造方法)において、シール部の外側周辺部を格子状凹凸シール部7により、内側部分を縦方向ベタシール部5によりシールしたラミネートフイルム製液体密封袋(の製造方法)。」 3.甲第3号証 甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a)「[産業上の利用分野] 本発明はポリエチレン等の低温溶融性フィルムの上面にナイロン又はアルミ箔等の非低温溶融性フィルムをラミネートしたフィルムシートを2つ折りにして供給し、2つ折りにされたフィルムシートの重合端側を長さ方向に沿って縦方向に、外側縁を格子状凹凸シール部として、内側縁をベタシール部として溶着させると共に、各密封包装体毎に横方向の溶着を順次行うラミネートフィルムで形成された密封包装体の連続シール方法及び連続シール装置に関するものである。」(第1頁右下欄14行?第2頁左上欄4行) (b)「[問題点を解決するための手段] 前記従来例の問題点を解決する具体的手段として本発明は、ラミネートされたフィルムシートを2つ折りにして供給し、そのフィルムシートの重合する端部を長さ方向に沿って外側縁を薄肉状の所定巾の格子状凹凸シール部に、内側縁を所定巾のベタシール部に連続して縦シールすると共に、各密封包装体毎に横シールする方法において、前記ベタシール部に、シール圧の強、弱変化を目視できる隆起凸条を縦方向に連続して形成することを特徴とするラミネートフィルムで形成される密封包装体の連続シール方法並びにラミネートされたフィルムシートを2つ折りにして供給し、そのフィルムシートの重合する端部を長さ方向に沿って外側縁を薄肉状の所定巾の格子状凹凸シール部に、内側縁を所定巾のベタシール部に連続して縦シールすると共に、各密封包装体毎に横シールするシールロールを備えた包装装置において、前記縦シールを行うシールロールに所定巾の格子状凹凸シール部形成面と所定巾のベタシール部形成面とを設け、該ベタシール部形成面にシール圧の強、弱変化を目視できる隆起凸条を縦方向に連続して形成するための溝部を設けたことを特徴とするラミネートフィルムで形成される密封包装体の連続シール装置を提供するものであり、前記隆起凸条の形成によって、包装作業中にシールロールのシール圧の強、弱変化を目視により簡単にして確実に発見でき、それによって包装作業中であってもシールロールのシール圧の強、弱を速かに確実に調整することができるのである。」(第2頁右上欄16行?同頁右下欄5行) (c)「このような縦シール部6を形成する一対の縦シールロール5,5の熱シール部5aには第2図に示したように、夫々前記格子状凹凸シール部6aを形成するための格子状凹凸を有するシール部形成面14とベタシール部6bを形成するベタシール部形成面15とを有し、且つこのベタシール部形成面15に隆起凸条6Cを形成するための溝部16が形成してある。 [動作の説明] 前記した縦シールロール5,5および横シールロール7,7を用いて本発明の主要部である実際のシール動作について説明する。前記フィルムシート1の供給は従来行っている2つ折りの供給装置又は手段がそのまま使用され、縦シールロール5,5により縦シール部6が連続的に行われ、横シールロール7,7により横シール部8が間欠的に行われる。この縦シール部6にあっては、前記したように所定巾の格子状凹凸シール部6aとベタシール部6bとが連続的に形成されることになるが、縦シールロール5,5によってフィルムシート1が両面から加熱されて内側に位置する低温溶融性フィルム2が溶融し、且つ押圧されて接着するものであり、この溶融・押圧によって、内側の低温溶融性フィルム2が順次溶着し、余剰分が押し出される作用を受けるが、その余剰分は前記溝部16によって外側の非低温溶融性フィルム3に形成される隆起凸条6c内に押し込められ、全体として余剰分が吸収されてしまうので、シール部分における無理が解消され、この部分を薄くすることなく、シール基部(内容物の充填スペース13の周囲)が破損したり、ピンホールができたり、商品価値を低下させるシワ又はひだ等の発生がなく、シール部全体が極めて強固となるのである。しかも前記縦シール部6の外側縁を薄肉状の格子状凹凸シール部6aとすることにより密封包装体bを引裂き易くすることができる。」(第3頁右上欄10行?同頁右下欄5行) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ポリエチレン等の低温溶融性フィルム2の表面にナイロンまたはアルミ箔等の非低温溶融性フィルム3をラミネートしたフィルムシート1をシールロールによりシールした密封包装体(の製造方法)において、前記フィルムシート1の重合する端部の内側縁をベタシール部6bにより、外側縁を格子状凹凸シール部6aによりシールした密封包装体(の製造方法)。」 4.甲第5号証 甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a)「また、例えば鉄粉などの酸化反応熱を利用した化学カイロの包装袋の場合には、この化学カイロを人体に装着する際に包装袋の先鋭な隅角部が人体の肌着を通して皮膚を刺激したり損傷を与えるなどの恐れがある。」(第2頁左上欄5?9行) (b)「2枚の包装材10がそれぞれロール12からテンションローラ14を介してダイロール16に供給される。ダイロール16には2枚の包装材10を所望の大きさの包装袋の形状に製袋するためのヒートシール部18が外周に凸状に形成され、このヒートシール部18は包装材10の内側にラミネートされている熱可塑性樹脂が接着可能な温度まてヒータなどにより熱せられている。これにより、一対のダイロール16が回転することにより2枚の包装材10はその四方がシールされた包装袋として製袋され、下方に流れてゆく。この製袋工程において充填材かシュート20を通って落下し、製袋された袋の中に充填される。」(第2頁右下欄18行?第3頁左上欄10行) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲第5号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「2枚の包装材10をヒートシール部18により製袋した化学カイロ(の製造方法)。」 第7 当審の判断 1.本件特許発明1について (1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比 本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における「鉄粉、NaCl(触媒)及び湿り気を与える程度のH_(2)Oからなる発熱剤1」は、その技術的意義や構成などからみて、本件特許発明1の「鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物」に相当し、同様に、「微細気孔を有する通気フィルム2にレーヨン不織布3を積層した収納袋」は「微細気孔を有する収納袋」に、「使い捨て保温具」は「使いすてカイロ」に、それぞれ相当する。 そして、甲第1号証の第2図の図示内容(第6 1.(c)参照)や本願出願時点の技術水準及び甲第5号証発明等をも参酌すれば、甲第1号証発明においても、微細気孔を有する通気フィルム2にレーヨン不織布3を積層したものを収納袋とするに当たり、常套手段であるヒートシールロール等によりシールされていることは明白である。 してみると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致し、 〈一致点〉 「鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロにおいて、該収納袋をシールした使いすてカイロ。」 そして、次の点で相違する。 〈相違点a〉 収納袋をシールするに当たり、本件特許発明1においては、「収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールした」のに対して、甲第1号証発明においては、どのようにシールを行うかについて特定されていない点。 (2)相違点についての検討及び判断 そこで、上記相違点aについて検討する。 上記「第2 2.(1)」に記載したとおり、訂正後の請求項1は、「模様状に」「シールした」点を「該収納袋の正常な前送りに寄与する」ものだけに、また、「無地に」「シールした」点を「該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する」ものだけに限定したものである。そして、収納袋の前送りや、模様状のシール、あるいは無地のシールは、いずれも回転式ヒートシールバーによって行われるものであることを考慮すると、本件特許発明1の「該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に」「シールした」とは、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する回転式ヒートシールバーの模様状形成面によって模様状にシールした、という意味であると解される。また、同じく「内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールした」とは、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する回転式ヒートシールバーの無地形成面によって無地にシールした、という意味であると解される。 ところで、甲第2号証に記載されたシール部は、ヒートシールロールによって形成されることを前提としている(上記第6 2.(c)参照)から、格子状凹凸シール部7は、ヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面によって形成されたものであり、ベタシール部5は、ヒートシールロールのベタシール部形成面によって形成されたものであるということができる。そして、ヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面は、ベタシール部形成面に比べて摩擦係数が大きいことは明らかであるから、ラミネートフイルムの正常な前送りに寄与するものと解される。逆に、ヒートシールロールのベタシール部形成面は、格子状凹凸シール部形成面に比べて摩擦係数が小さいから、ラミネートフイルムの前送りに支障をきたす可能性があるが、それにも拘わらず、甲第2号証発明によれば、シール部全体を極めて強固にシールすることができたのであるから、ベタシール部形成面が結果としてラミネートフイルムの前送りに支障をきたさなかったものと解される。 そうすると、甲第2号証発明においては、ラミネートフイルムのシール部における外側の格子状凹凸シール部7は、ラミネートフイルムの正常な前送りに寄与するヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面によって格子状凹凸にシールされた部分であり、一方、ラミネートフイルムのシール部における内側のベタシール部5は、ラミネートフイルムの前送りに支障をきたさないヒートシールロールのベタシール部形成面によってベタにシールされた部分であるということができる。 また、甲第2号証によれば、上記第6 2.(b)に摘示したように、ベタシール部だけでシールした場合、シール基部に破れが生じていたところ、内側部分をベタシール部とし外側周辺部を格子状凹凸シール部とした甲第2号証発明においてはシール基部に破れが生じていない、つまり、縦方向ベタシール部5におけるシール基部に破れが生じていないのであるから、横方向隆起凸条6と共に縦方向ベタシール部5も、シール基部の破損を防止する上で寄与しているということができる。 そして、甲第3号証発明も、甲第2号証発明と同様、ポリエチレン等の低温溶融性フィルムの表面にナイロンまたはアルミ箔等の非低温溶融性シートをラミネートしたラミネートフィルムをヒートシールロールによりヒートシートするものであり、特に甲第2号証の第3図に図示されたベタシール部5と格子状凹凸シール部7、甲第3号証の第4図に図示されたベタシール部6bと格子状凹凸シール部6aを対比すれば、どちらも、ヒートシールロールを用い、シール部の外側周辺部を格子状凹凸模様に、内側部分を凹凸のない無地にシールしていることは明白であり、内側部分のベタシール部5あるいは6bが凹凸のない無地にシールされ、これによりシール基部の破損、シール部の破れ、ピンホールの発生を防止し、シール部全体を強固にするものである。 してみると、甲第2号証発明及び甲第3号証発明は、いずれも「収納袋(ラミネートフィルム)のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状(格子状凹凸)に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れ(破損等)を防止する無地(ベタ)にシールした」(かっこ内は甲第2号証及び甲第3号証で用いられている対応する用語を示す。)という、相違点aに係る本件特許発明1の構成に相当する構成を備えたものということができる。 そして、甲第1号証発明の使い捨てカイロは、上記したように内容物である発熱剤1を収納袋に充填してシール部をヒートシールすることにより封入するものであり、一方、甲第2号証及び甲第3号証発明も内容物を包装袋に充填してシール部をヒートシールすることにより封入するものであるから、これらは、内容物を充填する包装袋のシール部をヒートシールして内容物を封入するという同一技術分野に属するものである。しかも、甲第1号証発明、甲第2号証発明、及び甲第3号証発明は、いずれもポリエチレンを含むフィルムをヒートシールする点で共通しており、甲第1号証発明においても、甲第2号証発明や甲第3号証発明のように、シール部全体を強固にすることは、当業者にとって自明ともいうべき技術的課題であるから、甲第1号証発明に、甲第2号証発明又は甲第3号証発明を適用し、相違点aに係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本件特許発明1による効果も、甲第1号証発明ないし甲第3号証発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 2.本件特許発明2について (1)本件特許発明2と甲第1号証発明との対比 前述のとおり、甲第1号証発明において、通気フィルム2にレーヨン不織布3を積層したものを用いて収納袋を製造するに当たり、ヒートシール装置等を用いた製造方法を採用していることは明白である。 したがって、本件特許発明2と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、次の点で一致し、 〈一致点〉 「鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロの製造において、ヒートシール装置を用い、該収納袋をシールする使いすてカイロの製造方法。」 そして、次の点で相違する。 〈相違点b〉 収納袋をヒートシールするに当たり、本件特許発明2においては、「シールエッヂに相当する部分が無地の回転式ヒートシールバーを用い、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールする」のに対して、甲第1号証発明においては、どのようにシールを行うかについて特定されていない点。 (2)相違点についての検討及び判断 そこで、上記相違点bについて検討する。 上記「第2 2.(1)」に記載したとおり、訂正後の請求項2は、「模様状に」「シールする」点を「該収納袋の正常な前送りに寄与する」ものだけに、また、「無地に」「シールする」点を「該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する」ものだけに限定したものである。そして、収納袋の前送りや、模様状のシール、あるいは無地のシールは、いずれも回転式ヒートシールバーによって行われるものであることを考慮すると、本件特許発明2の「該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に」「シールする」とは、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する回転式ヒートシールバーの模様状形成面によって模様状にシールする、という意味であると解される。また、同じく「内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールする」とは、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する回転式ヒートシールバーの無地形成面によって無地にシールする、という意味であると解される。 ところで、甲第2号証に記載されたシール部は、ヒートシールロールによって形成されることを前提としている(上記第6 2.(c)参照)から、格子状凹凸シール部7は、ヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面によって形成されたものであり、ベタシール部5は、ヒートシールロールのベタシール部形成面によって形成されたものであるということができる。そして、ヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面は、ベタシール部形成面に比べて摩擦係数が大きいことは明らかであるから、ラミネートフイルムの正常な前送りに寄与するものと解される。逆に、ヒートシールロールのベタシール部形成面は、格子状凹凸シール部形成面に比べて摩擦係数が小さいから、ラミネートフイルムの前送りに支障をきたす可能性があるが、それにも拘わらず、甲第2号証発明によれば、シール部全体を極めて強固にシールすることができたのであるから、ベタシール部形成面が結果としてラミネートフイルムの前送りに支障をきたさなかったものと解される。 そうすると、甲第2号証発明においては、ラミネートフイルムのシール部における外側の格子状凹凸シール部7は、ラミネートフイルムの正常な前送りに寄与するヒートシールロールの格子状凹凸シール部形成面によって格子状凹凸にシールされた部分であり、一方、ラミネートフイルムのシール部における内側のベタシール部5は、ラミネートフイルムの前送りに支障をきたさないヒートシールロールのベタシール部形成面によってベタにシールされた部分であるということができる。 また、甲第2号証によれば、上記第6 2.(b)に摘示したように、ベタシール部だけでシールした場合、シール基部に破れが生じていたところ、内側部分をベタシール部とし外側周辺部を格子状凹凸シール部とした甲第2号証発明においてはシール基部に破れが生じていない、つまり、縦方向ベタシール部5におけるシール基部に破れが生じていないのであるから、横方向隆起凸条6と共に縦方向ベタシール部5も、シール基部の破損を防止する上で寄与しているということができる。 そして、甲第3号証発明も、甲第2号証発明と同様、ポリエチレン等の低温溶融性フィルムの表面にナイロンまたはアルミ箔等の非低温溶融性シートをラミネートしたラミネートフィルムをヒートシールロールによりヒートシートするものであり、特に甲第2号証の第3図に図示されたベタシール部5と格子状凹凸シール部7、甲第3号証の第4図に図示されたベタシール部6bと格子状凹凸シール部6aを対比すれば、どちらも、ヒートシールロールを用い、シール部の外側周辺部を格子状凹凸模様に、内側部分を凹凸のない無地にシールしていることは明白であり、内側部分のベタシール部5あるいは6bが凹凸のない無地にシールされ、これによりシール基部の破損、シール部の破れ、ピンホールの発生を防止し、シール部全体を強固にするものである。 してみると、甲第2号証発明及び甲第3号証発明は、いずれも「シールエッヂに相当する部分が無地(ベタ)の回転式ヒートシールバー(ヒートシールロール)を用い、該収納袋(ラミネートフィルム)のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状(格子状凹凸)に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れ(破損等)を防止する無地(ベタ)にシールする」(かっこ内は甲第2号証及び甲第3号証で用いられている対応する用語を示す。)という、相違点bに係る本件特許発明2の構成に相当する構成を備えたものということができる。 そして、甲第1号証発明の使い捨てカイロは、上記したように内容物である発熱剤1を収納袋に充填してシール部をヒートシールすることにより封入するものであり、一方、甲第2号証及び甲第3号証発明も内容物を包装袋に充填してシール部をヒートシールすることにより封入するものであるから、これらは、内容物を充填する包装袋のシール部をヒートシールして内容物を封入するという同一技術分野に属するものである。しかも、甲第1号証発明、甲第2号証発明、及び甲第3号証発明は、いずれもポリエチレンを含むフィルムをヒートシールする点で共通しており、甲第1号証発明においても、甲第2号証発明や甲第3号証発明のように、シール部全体を強固にすることは、当業者にとって自明ともいうべき技術的課題であるから、甲第1号証発明に、甲第2号証発明又は甲第3号証発明を適用し、相違点bに係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本件特許発明2による効果も、甲第1号証発明ないし甲第3号証発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 3.まとめ したがって、本件特許発明1及び2は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第8 むすび 以上のとおり、本件特許発明1及び2は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条により被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 使いすてカイロならびにその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロにおいて、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールしたことを特徴とする使いすてカイロ。 【請求項2】 鉄粉、活性炭、塩類、保水剤等からなる発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入した使いすてカイロの製造において、シールエッヂに相当する部分が無地の回転式ヒートシールバーを用い、該収納袋のシール部の外側周辺部を該収納袋の正常な前送りに寄与する模様状に、内側部分を該収納袋の前送りに支障をきたさずエッヂ切れを防止する無地にシールすることを特徴とする使いすてカイロの製造方法。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、微細気孔を有する収納袋を用いてなる収納袋に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を封入した使いすてカイロならびにその製造方法に関するものである。 〔従来の技術ならびに本発明が解決しようとする問題点〕 鉄粉、水、保水剤及び酸化助剤等からなる発熱組成物は、点火を必要とせず空気と接触するだけで簡便に発熱する為、該発熱組成物を通気孔と有する袋に収納した使いすてカイロが広く普及している。現在、広く使用されている多くの使いすてカイロでは、不織布にシーラントとしてポリエチレンを重層した袋素材に、針穴を開けるという方法がとられているが、近年、微細気孔を有するフィルムを発熱組成物収納袋の袋材として利用できることも例示されている(特開平1-218447号)。しかし、このような微細気孔を有するフィルムを用いた袋材で製造したカイロは、袋材のシーラントが微細気孔を多数有しているために、シール時にエッヂ切れを起こし易いという欠点があり、その結果、製造品は発熱不良や収納袋の膨張、内容物の漏れを生じるという問題があった。 〔問題点を解決するための手段〕 上記問題点を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、発熱組成物を微細気孔を有する収納袋に封入するに際し、充填機の回転式ヒートシールバーのエッヂ部分、特に袋を形成するエッヂ部分を無地にしてシール加工することにより、エッヂ切れのないカイロを製造できることを見い出し本発明を完成した。すなわち、ヒートシールバーの全面を無地にした場合、エッヂ切れは起こらないものの、回転バー上で袋材がすべりやすく袋材の前送りが不完全となって製造工程上不適であったが、本発明の方法によれば、製造工程のトラブルがなくエッヂ切れの問題を解消できることが明らかとなった。本発明は、かかる方法で製造されたエッヂ切れのない品質のすぐれた使いすてカイロ、ならびにその有用な製造方法に係るものである。 〔実施例〕 以下、本発明を図面に従って説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 第1図は、本発明の使いすてカイロの一実施例の斜視図で、第2図はその断面図を示す。また、第3図、第4図は、それぞれ本発明の製造方法で使用される回転式横ヒートシールバー及び縦ヒートシールバーを示す。 図中、1は、発熱組成物を表し、通常、鉄粉、食塩などの酸化促進剤、水、活性炭及び必要に応じて木粉、パーライトなどの保水剤、高分子吸水剤あるいはメタケイ酸ナトリウム塩などの水素発生抑制剤が配合されるが、本発明においてはその組成はなんら限定されるものでない。 2は、発熱組成物1を収納する発熱組成物収納袋で、微細気孔を有する袋材が用いられる。微細気孔フィルムとしては、微細気孔を有するポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン又は、それらを柔軟に改質したプラスチック類及びゴム類等からなる熱可塑性のシート又はフィルムがあげられ、それらを単独で用いてもよく、また、補強のために不織布等を積層しても良い。市販品としては、タイペック(デュポン製)、セルポア(積水化学製)、NFシート(徳山曹達製)、オプセル(三和化工製)、ルビセル(東洋ポリマー製)等があり、不織布を積層したものとしては、ブレスロン(日東電工製)がある。 図中、3は、回転式ヒートシールバーの無地部分でシールしたヒートエッヂ部分を示し、一方、4は、ヒートシールバーの模様状部分でシールした部分を示す。通常、3の巾は0.5mm?8mmが適当で、製造工程上、袋材の前送りに支障をきたさない限り巾広く設定するのが好ましい。なお、第1図では、三方シールのカイロを例示したが、必ずしも三方シールである必要はなく、もちろん四方シールでもかまわない。 また、第3図、第4図には、本発明で使用される回転式横ヒートシールバー、縦ヒートシールバーが例示され、それぞれ、模様状部分5及び無地部分6から構成されている。なお、シールバーの形状、大きさはこれらに限定されるものでなく、シールバーに彫られる模様、デザインも全く任意である。第3図では、無地部分がヒートシールバーの両端に設けられているが、これは、シール加工後中央部で上下2個分に裁断するためである。 次に、試験例によって本発明の効果を説明する。 (試験例) 鉄粉30g活性炭3g、塩類3g、保水剤4g及び水14gからなる発熱組成物を、ブレスロン(日東電工製)の袋材に収納して使いすてカイロを調製した。製造工程の状況ならびに製造品の性能は、次のとおりであった。 ![]() 試験の結果、シールバーを前面無地にすることによってエッヂ切れは起こらなかったが、袋材の正常な送りができず、本来の形状と異なるカイロが多くみられ、不適であった。一方、本発明の方法によれば、エッヂ切れ解消され、袋材の送りも正常で、製造品の性能にも問題はなく、本発明の有用性が確認された。 〔発明の効果〕 本発明は、微細気孔を有する袋材を用いた使いすてカイロの製造において、発熱組成物充填機の回転式ヒートシールバーのシールエッヂ部分を無地にすることにより、エッヂ切れのない、品質のすぐれた使いすてカイロを提供するものである。 【図面の簡単な説明】 第1図は、本発明の使いすてカイロの一実施例の斜視図で、第2図は、その断面図を示す。また、第3図、第4図は、それぞれ本発明の製造方法で使用される回転式横ヒートシールバー及び縦ヒートシールバーを示す。 1……発熱組成物 2……発熱組成物収納袋 3……ヒートシール部(無地部分) 4……ヒートシール部(模様状部分) 5……回転式ヒートシールバーの模様状部分 6……回転式ヒートシールバーの無地部分 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2007-04-19 |
結審通知日 | 2007-04-24 |
審決日 | 2007-05-11 |
出願番号 | 特願平2-262158 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(A61F)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 鏡 宣宏 |
登録日 | 1998-07-03 |
登録番号 | 特許第2799061号(P2799061) |
発明の名称 | 使いすてカイロならびにその製造方法 |
代理人 | 藤原 唯人 |
代理人 | 伊藤 進 |
代理人 | 藤原 唯人 |