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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1194143
審判番号 不服2005-24439  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-19 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 平成7年特許願第59587号「相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂配合物を含有してなる押出可能な熱可塑性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成8年2月6日出願公開、特開平8-34917〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年3月20日〔パリ条約による優先権主張1994年3月25日、(DE)ドイツ連邦共和国〕の出願であって、平成16年12月24日付で拒絶理由が通知され、平成17年7月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年9月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月19日に審判請求がなされるとともに、平成18年1月17日に手続補正書が提出され、同年3月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたが、同年9月11日付で前置報告がなされ、当審において平成19年7月18日付で審尋がなされ、この審尋に対して平成20年1月24日に回答書が提出され、さらに同年2月18日付で審尋がなされ、その指定期間内に応答が無かったものである。


2.本願発明
本願請求項1?9に係る発明は、平成18年1月17日付の手続補正書により補正された明細書の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】 相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂配合物を含有してなる押出可能な熱可塑性樹脂組成物であって、上記ポリフェニレンエーテルがトルエン中で25℃かつ100ml当たり0.6gの濃度で測定して少なくとも50ml/gの固有粘度を有するとともに上記ポリアミドがISO規格307に従って硫酸中で測定して少なくとも190ml/gの換算粘度を有するポリアミド6,6であることを特徴とする組成物。」


3.原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成16年12月24日付で通知された拒絶理由は、以下の理由を含むものである。
「【理由1】この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
【理由1、2】
・請求項 1-10
・引用文献等 1-6
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平04-227754号公報
2.特開平02-158661号公報
3.特開平03-84062号公報
4.特開平05-70683号公報
5.特開平03-163164号公報
6.特開平03-45652号公報 」
なお、この拒絶理由は、願書に最初に添付した明細書における特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明に対して通知されたものである。


4.刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献1(特開平04-227754号公報;以下、「刊行物1」という。)及び引用文献2(特開平02-158661号公報;以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されている。

[刊行物1]
(A1) 「 【請求項1】固有粘度(η_(A))が0.4dl/g以上1.0dl/g以下である高粘度ポリフェニレンエーテル(A)と固有粘度(η_(B))が0.25dl/g以上0.4dl/g未満である低粘度ポリフェニレンエーテル(B)とが、重量比(A)/(B)が10/90?90/10の割合の混合物であるポリフェニレンエーテルを、(A)、(B)及び下記(C)の合計100重量部に対して30?60重量部、相対粘度(η)が1.0?8.0のポリアミド(C)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して40?70重量部、同一分子内に不飽和基と極性基を併せ持つ化合物(F)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して0.1?10重量部及びミネラル充填剤及び/又はガラス繊維(G)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して5?100重量部からなり、280℃、5kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR5)と280℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR2)との比で表されるフローレシオ(FR=MFR5/MFR2)が2.5以上で、MFR5が30以上である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物に、該組成物中の高粘度ポリフェニレンエーテル(A)、低粘度ポリフェニレンエーテル(B)及びポリアミド(C)の合計100重量部に対して、アルケニル芳香族化合物重合体(D)0.1?20重量部及び/又は耐衝撃改良剤(E)0.1?50重量部を配合した熱可塑性樹脂組成物。」〔特許請求の範囲〕
(A2) 「【0006】すなわち、本発明は固有粘度(η_(A))が0.4dl/g以上1.0dl/g以下である高粘度ポリフェニレンエーテル(A)と固有粘度(η_(B))が0.25dl/g以上0.4dl/g未満である低粘度ポリフェニレンエーテル(B)とが、重量比(A)/(B)が10/90?90/10の割合の混合物であるポリフェニレンエーテルを、(A)、(B)及び下記(C)の合計100重量部に対して30?60重量部、相対粘度(η)が1.0?8.0のポリアミド(C)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して40?70重量部、同一分子内に不飽和基と極性基を併せ持つ化合物(F)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して0.1?10重量部及びミネラル充填剤及び/又はガラス繊維(G)を、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して0.1?10重量部からなり、280℃、5kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR5)と280℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR2)との比で表されるフローレシオ(FR=MFR5/MFR2)が2.5以上で、MFR5が30以上である熱可塑性樹脂組成物である。」〔段落【0006】〕
(A3) 「【0015】本発明で使用するポリフェニレンエーテル(I)は、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度が0.25?1.0dl/gである。このうち、ポリフェニレンエーテル(A)の固有粘度は0.4?1.0dl/g、また同(B)の固有粘度は0.25dl/g以上0.4dl/g未満であり、好ましくは(A)の固有粘度が0.45?0.70dl/g、特に好ましくは0.46?0.56dl/gであり、(B)の固有粘度は0.25?0.35dl/gが好ましく、特に好ましくは0.30?0.35dl/gである。ここで(A)の固有粘度が1.0dl/gを超えると流動性が極端に悪化し、更にポリアミド中のポリフェニレンエーテル分散が粗くなり機械的強度の低下を招来する。更に(B)の固有粘度が0.25dl/g未満では同様にポリアミド中のポリフェニレンエーテル分散が粗くなり、機械的強度が極端に低く実用的価値がない。」〔段落【0015】〕
(A4) 「【0016】次に、成分(C)のポリアミドは、ポリマー主鎖に─CONH─結合を有し、加熱溶融できるものである。その代表的なものとしては、ナイロン-4、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-4,6、ナイロン-12、ナイロン-6,10、その他、公知の芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸等のモノマー成分を含む結晶性又は非晶性のポリアミドを用いることができる。ここで非晶性ポリアミドとは、示査走査熱量計(DSC)により測定した結晶化度が実質的に存在しないものをいう。
【0017】好ましいポリアミド(C)は、ナイロン-6,6、ナイロン-6及び非晶性ポリアミドである。
【0018】本発明で使用するポリアミド(C)は、相対粘度が1.0?8.0(25℃、98%濃硫酸中で測定、JIS K 6810)であり、好ましくは1.7?3.2である。相対粘度が1.0未満のものは機械的強度が低い他に、成形中に低分子ポリアミドが揮散し金型汚染をもたらし、成形品表面の商品価値を低下させる。また、相対粘度が8.0を超えるポリアミドを使用しても混練中もしくは成形中に可逆的に分子量低下をもたらし、分解により発生した水分、劣化物により製品外観の低下をもたらすので好ましくない。このポリアミド(C)は、高粘度ポリアミドと低粘度ポリアミドを併用したものが好ましい。
【0019】相対粘度が4.0を超えるものを高粘度ポリアミド、4.0以下を低粘度ポリアミドとして、両者を併用する。高粘度ポリアミトと低粘度ポリアミドの配合割合は重量比で90:10?10:90、好ましくは80:20?20:80、特に好ましくは70:30?30:70の割合である。・・・・」〔段落【0016】?【0019】〕


[刊行物2]
(B1) 「(1)30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が、0.35?0.75dl/gの範囲からなるポリフェニレンエーテルと、相対粘度(ηr)(JIS K6810、98%硫酸中で測定)が、2.5以上であるポリアミドと、耐衝撃性改良剤と、相溶化剤と、溶融張力改良剤とを配合してなる、メルトフローレート(MFR)が0.01?5dg/分、溶融張力(MT)が4g以上である樹脂組成物。
(2)耐衝撃性改良剤が、スチレン含量が10重量%以上のスチレン-ブチレン-スチレントリブロック共重合体またはその水素化物、およびα,β不飽和カルボン酸で変性されたエチレン-プロピレンゴムまたはエチレン-ブテンゴムの少なくとも1種もしくは2種以上の組み合わせからなる、請求項第1項記載の組成物。
(3)溶融張力改良剤が、0.07重量%以上のオキシラン酸素を有するエポキシ化液状ポリブタジエンである、請求項第1項記載の組成物。
(4)溶融張力改良剤が、エチレンとグリシジル基を1重量%以上有するグリシジルメタクリレートの二元共重合体、もしくはこれらとエチレンと共重合し得る第3成分モノマーとの三元共重合体である、請求項第1項記載の組成物。」〔特許請求の範囲〕
(B2) 「〔産業上の利用分野〕
本発明は、押出・中空成形性に優れた新規なポリフェニレンエーテル系樹脂組成物およびそれから製造された成形体に関するものである。」〔第1頁右下欄第9?12行〕
(B3) 「(A)ポリフェニレンエーテル
本発明で使用されるポリフェニレンエーテルとは、一般式:


で表される繰り返し構造単位を有し、式中1つの単位のエーテル酸素原子は次の隣接単位のベンゼン核に結合しており、Qはそれぞれ独立に水素、ハロゲン、三級α-炭素原子を含有しない炭化水素基、ハロゲン原子とフェニル核との間に少なくとも2個の炭素原子を有するハロ炭化水素基、炭化水素オキシ基およびハロゲン原子とフェニル核との間に少なくとも2個の炭素原子を有するハロ炭化水素オキシ基からなる群より選択した一価置換基を示し、それぞれのQは互いに同じであっても異なっていてもよい。
また、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールと2,3,5,6-テトラメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジエチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体などの共重合体を挙げることもできる。
・・・・
本発明に使用されるポリフェニレンエーテルは、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が0.35?0.75dl/gの範囲のものが好ましい。固有粘度が0.35dl/g未満の場合は組成物の衝撃強度が乏しく好ましくない。また、固有粘度が0.75dl/gを越えるものは、ゲル分が多く、成形品の外観が悪化するので好ましくない。」〔第2頁左下欄第19行?第3頁左上欄第19行〕
(B4) 「(B)ポリアミド
本発明に使用されるポリアミドとは、ヘキサメチレンジアミン、……等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジアミンとアジピン酸、……等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジカルボン酸との重縮合によって得られるポリアミド、……、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等のラクタムから得られるポリアミド……等が例示される。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、……等が挙げられる。これらの中では、融点が比較的高く剛性等が優れ、かつ比較的経済的なナイロン6、ナイロン66が使用される。また、分子量は、通常、相対粘度(ηr)(JISK6810、98%硫酸中で測定)が、2.5以上のポリアミドが用いられる。2.5以下であるとメルトフローレート(MFR)が5(dg/分)以上になり成形性が低下するので好ましくない。相対粘度が4.0以上のものは溶融パリソンのドローダウンが小さく、パリソン長さが1mを越えるような中・大型製品も安定して成形可能であり好ましい。
本発明の組成物におけるポリアミドの配合量もとくに限定されるものではないが、ポリフェニレンエーテルと相俟ってポリマーアロイを構成する基本材料であるので、それなりの量は必要である。好ましい量は前記のように、ポリフェニレンエーテル10?60重量部に対しポリアミド90?40重量部である。」〔第3頁右上欄第6行?同頁右下欄第5行〕
(B5) 「実施例 1
30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が、0.5dl/gのポリ2,6-ジメチルフェノール、および98%硫酸中で測定した相対粘度(ηr)がそれぞれ6.8のナイロン6と4.0のナイロン66、およびスチレン含量が15重量%のスチレン-ブチレン-スチレントリブロック共重合体、および無水マレイン酸、およびオキシラン酸素量が7.5重量%で分子量が約1000であるエポキシ化液状ポリブタジエン(アデカアーガス社製、BF-1000)を、表1に示した割合で均一に混合し、二軸押出機を用いて設定温度280℃で溶融混練を行い、ペレット状の試料を得た。これを乾燥後、表1中にしめす物性試験、成形試験および製品試験の各項目について評価した。その結果を表1に示す。



〔第6頁右上欄第2?17行及び第7頁の表1〕
(B6) 「〔発明の効果〕
本発明は上記のような構成からなる組成物であるので、ポリフェニレンエーテルおよびポリアミドのポリマーアロイの好ましい性質である耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性等を維持しながら、従来の課題であった成形加工性、とくに押出し成形、中空成形における成形性を向上させることができる。」〔第8頁左下欄第1?7行〕
(B7) 「(D)相溶化剤
相溶化剤は、ポリフェニレンエーテルとポリアミドとを相溶化し得るものであればよく、日本特許特公昭60-11966あるいは特開昭56-49753に記載されているものが好ましい。」〔第4頁右上欄第8?12行〕


5.刊行物記載の発明
刊行物2の特許請求の範囲の請求項1には、
「30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が、0.35?0.75dl/gの範囲からなるポリフェニレンエーテルと、相対粘度(ηr)(JIS K6810、98%硫酸中で測定)が、2.5以上であるポリアミドと、耐衝撃性改良剤と、相溶化剤と、溶融張力改良剤とを配合してなる、メルトフローレート(MFR)が0.01?5dg/分、溶融張力(MT)が4g以上である樹脂組成物。」
が記載されており〔摘示事項(B1)〕、そのポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン66が好ましいことが具体的に開示されている〔摘示事項(B4),(B5)〕。また、該組成物が押出成形性に優れることも記載されており〔摘示事項(B2),(B6)〕、ポリアミドの相対粘度が4.0以上のものは溶融パリソンのドローダウンが小さく、パリソンの長さが1mを超えるような中・大型製品も安定して成形可能であることも示唆されている〔摘示事項(B4)〕。そして、実施例では、固有粘度が0.5dl/gのポリフェニレンエーテルと、相対粘度4.0のナイロン66とを、耐衝撃性改良剤としてのスチレン-ブチレン-スチレントリブロック共重合体、相溶化剤としての無水マレイン酸、溶融張力改良剤としてのエポキシ化液状ポリブタジエンとともに配合してなる組成物が開示されている〔摘示事項(B5)〕。
そうすると、刊行物2には、
「30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が、0.35?0.75dl/gの範囲からなるポリフェニレンエーテルと、相対粘度(ηr)(JIS K6810、98%硫酸中で測定)が、2.5以上であるナイロン66と、耐衝撃性改良剤と、相溶化剤と、溶融張力改良剤とを配合してなる、メルトフローレート(MFR)が0.01?5dg/分、溶融張力(MT)が4g以上である、押出成形性に優れた樹脂組成物。」
の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると言える。


6.対比・判断
刊行物発明の「ポリフェニレンエーテル」、「ナイロン66」、「押出成形性に優れた樹脂組成物」は、それぞれ、本願発明の「ポリフェニレンエーテル」、「ポリアミド6,6」、「押出可能な熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
これを踏まえた上で、本願発明と刊行物発明とを対比すると、両者は、次の一致点及び一応の相違点1?3を有するものである。
[一致点]
「ポリフェニレンエーテルとポリアミド6,6との樹脂配合物を含有してなる押出可能な熱可塑性樹脂組成物」の点。
[相違点1]
ポリフェニレンエーテルの粘度について、本願発明では、「トルエン中で25℃かつ100ml当たり0.6gの濃度で測定して少なくとも50ml/gの固有粘度を有する」と規定しているのに対して、刊行物発明では、「30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度〔η〕が、0.35?0.75dl/gの範囲からなる」と規定している点。
[相違点2]
ポリアミド6,6の粘度について、本願発明では、「ISO規格307に従って硫酸中で測定して少なくとも190ml/gの換算粘度を有する」と規定しているのに対して、刊行物発明では、「相対粘度(ηr)(JIS K6810、98%硫酸中で測定)が、2.5以上である」と規定している点。
[相違点3]
本願発明では、「相溶化された」ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂配合物と規定しているのに対し、刊行物発明ではこれについての規定が無い点。

そこで、上記相違点1?3について検討する。

[相違点1],[相違点2]について
刊行物1の記載内容を見ると、ポリフェニレンエーテルとポリアミドとの樹脂組成物において、ポリフェニレンエーテルのうち、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度が0.4dl/g以上1.0dl/g以下のものは「高粘度ポリフェニレンエーテル」とされており〔摘示事項(A1)?(A3)〕、また、ポリアミドのうち、相対粘度(25℃、98%濃硫酸中で測定、JIS K 6810)が4.0を超えるものは「高粘度ポリアミド」とされている〔摘示事項(A4)〕。ここで、刊行物1におけるポリフェニレンエーテルの固有粘度の測定法、ポリアミドの相対粘度の測定法は、いずれも、刊行物発明における測定法と同じである。
このことを踏まえて、刊行物発明が記載されている刊行物2を見ると、刊行物2には、実施例において、固有粘度0.5dl/gのポリフェニレンエーテルと、相対粘度4.0のナイロン66、相対粘度6.8のナイロン6を配合した組成物が開示されているところ〔摘示事項(B5)〕、この実施例で使用されているポリフェニレンエーテルは、その粘度の数値から見て「高粘度ポリフェニレンエーテル」であり、また、この実施例で使用されているナイロン6やナイロン66は、その粘度の数値から見て「高粘度ポリアミド」である。さらに、この刊行物2に開示された樹脂組成物は、パリソンを押出した際におけるドローダウン特性の改善が求められており、これを達成するために、相対粘度4.0以上のポリアミドの使用が示唆されているところ〔摘示事項(B4)?(B6)〕、この「相対粘度4.0以上」という範囲は、まさに、「高粘度」とされる範囲である。そうすると、刊行物発明が記載されている刊行物2には、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ともに「高粘度」のものを組み合わせた組成物が具体的に開示されていると言え、それゆえ、刊行物発明で言うところの組成物には、そのような「高粘度」のものを組み合わせた組成物も包含されていると言える。
一方、本願発明で言うところの組成物もまた、段落【0004】や段落【0039】において、「高粘度のポリフェニレンエーテル」と「高粘度のポリアミド」とを組み合わせることによってのみ、ダイスエリングを生起することなしに満足な溶融強度をもつ材料が得られる旨記載されているように、「高粘度」のものを組み合わせた組成物であると認める。
そうすると、本願発明と刊行物発明とは、ともに、ポリフェニレンエーテルとナイロン66(ポリアミド6,6)とを組み合わせた組成物であって、「高粘度」のポリフェニレンエーテルと、「高粘度」のナイロン66(ポリアミド6,6)とを組み合わせるという点において一致しており、本願発明で言うポリフェニレンエーテルの粘度と刊行物発明で言うポリフェニレンエーテルの粘度との間には、「高粘度」の領域として重複一致する範囲が存在していると推定され、また、本願発明で言うポリアミド6,6の粘度と刊行物発明で言うナイロン66の粘度との間においても、「高粘度」の領域として重複一致する範囲が存在していると推定される。
そして、上記二つの推定のうち、後者の推定について検討すると、審判請求人が平成20年1月24日に提出した回答書の【回答の内容】(3)の2)において、本願発明で言うポリアミドの「換算粘度」と、刊行物発明(引用文献2に記載の発明)で言うポリアミドの「相対粘度」との関係として、「ポリアミドの換算粘度の上限270ml/gは、相対粘度1.35に相当するものです。」と認めており、「換算粘度270ml/g」と「相対粘度1.35」とが等しいことからすれば、本願発明で言うポリアミド6,6に関しての「少なくとも190ml/gの換算粘度」が意味する範囲と、刊行物発明で言うナイロン66に関しての「相対粘度……が2.5以上」が意味する範囲とは、重複一致する範囲が存在していると言える。このように、後者の推定の正当性は裏付けられているものである。
さらに、上記二つの推定のうち、前者の推定については、平成20年2月18日付の審尋において回答するように求めたが、その指定期間内に応答は無く、この推定を覆すような反証は何も提示されなかった。
よって、本願発明と刊行物発明との間において、ポリフェニレンエーテルの粘度も、ナイロン66の粘度も、ともに重複一致する範囲が存在していると言わざるを得ず、それゆえ、相違点1,2については、実質的な相違点とはならない。

[相違点3]について
本願明細書には、「相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂配合物」という表現についての直接的な説明は無く、段落【0011】において、「相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド基剤樹脂」という表現についての説明が存在するので、その説明を見ると、「本明細書において、用語"相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド基剤樹脂"は前述したごとき相溶化剤を用いて物理的に又は化学的に相溶化されたかゝる組成物ならびに米国特許第3,379,792号明細書に教示されるごとくかゝる相溶化剤を使用することなしに物理的に相溶性を示すかゝる組成物を意味するものとする。」とある。
そして、刊行物発明で言う組成物においても、ポリフェニレンエーテルとポリアミドとを相溶化させるために、「相溶化剤」が使用されている〔摘示事項(B1),(B7)〕。
よって、この相違点3についても、実質的な相違点とはならない。


してみると、本願発明は、刊行物2に記載された発明である。


7.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-14 
結審通知日 2008-10-15 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願平7-59587
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次松岡 弘子  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 前田 孝泰
宮坂 初男
発明の名称 相溶化されたポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂配合物を含有してなる押出可能な熱可塑性樹脂組成物  
復代理人 千葉 昭男  
代理人 松本 研一  
復代理人 社本 一夫  
復代理人 富田 博行  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
復代理人 沖本 一暁  
復代理人 小林 泰  
復代理人 小野 新次郎  

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