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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1194150
審判番号 不服2006-9943  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-16 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 特願2004-33129「ゴムシート付き超高分子量ポリエチレン成形物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年8月25日出願公開、特開2005-224969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成16年2月10日の出願であって、平成18年1月25日付けで拒絶理由が通知され、同年4月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月14日に拒絶査定がされ、これに対し、同年5月16日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、同年5月30日付けで審判請求書についての手続補正書及び明細書についての手続補正書が提出された後、平成19年11月28日付けで審尋がされ、平成20年1月25日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年5月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年5月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年5月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、
「一面にゴムシート(水素添加アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、メタクリル酸、酸化亜鉛及び有機過酸化物を含有するゴム組成物および臨界表面張力γcが26?29ミリニュートン/メートルのゴムのいずれかからなるゴムシートを除く)を備え、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン成形物であって、成形金型に敷かれた未加硫状態のゴムシート上に該高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに充填し両者を押圧加重70kgf/cm^(2)以上100kgf/cm^(2)以下、加熱温度170℃以上200℃以下、加熱加圧時間2?16時間の条件で加熱加圧することにより成形され、該ゴムシートを備える側の超高分子量ポリエチレン成形物の一部が多数の不定形の突起物としてゴムシートの厚み方向に部分的にゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと超高分子量ポリエチレン成形物が相互に固着されていることを特徴とするゴムシート付き超高分子量ポリエチレン成形物。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1) 目的要件
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「加熱加圧する」を「押圧加重70kgf/cm^(2)以上100kgf/cm^(2)以下、加熱温度170℃以上200℃以下、加熱加圧時間2?16時間の条件で」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(2) 独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討すると、以下のとおり、本願補正発明は、その出願前頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとはいえない。

ア 刊行物及び刊行物に記載された事項
1 特開平9-85900号公報
2 特開平5-185564号公報
(以下、それぞれ、「刊行物1」、「刊行物2」という。)

(ア) 刊行物1(特開平9-85900号公報)
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(ア-1)「超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融体から形成された薄膜がゴム表面に存在し、この薄膜の一部がゴム中に食い込んで固定されていることを特徴とするゴムの表面構造。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(ア-2)「超高分子量ポリオレフィン粉体が、超高分子量ポリエチレン粉体であり、その平均粒径が20?300μmである請求項1記載のゴムの表面構造。」(特許請求の範囲の【請求項2】)
(ア-3)「本発明は、複写機の自動原稿搬送部(ADF)に使用される紙送りベルト,コンベアベルト,摺動ゴム等のゴム製品のゴムの表面構造およびその製法に関するものであり、詳しくは、ゴム本来の特性を低下させることなくゴム表面の摩擦を低減させたゴムの表面構造およびその製法に関するものである。」(段落【0001】)
(ア-4)「本発明において、超高分子量ポリオレフィンとは、分子量が50万?300万のものをいう。これに対し、一般のポリオレフィンの分子量は、1万?10万である。」(段落【0008】)
(ア-5)「そして、上記ゴムの表面構造は、本発明のゴムの表面構造の製法(請求項4)により作製することができる。すなわち、未加硫ゴム表面に上記超高分子量ポリオレフィン粉体を散布すると、粉体粒子の一部が未加硫ゴム中に食い込んだ状態となる。この状態で、上記超高分子量ポリオレフィン粉体等の融点以上の温度で上記未加硫ゴムを加熱加硫すると、粉体粒子相互が溶融連結するとともに、上記ゴム中に食い込んだ粉体粒子の一部がゴムの加硫により略完全に固定されるのである。この結果、ゴム表面に、超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融体の薄膜が、その一部がゴム中に食い込み固定された状態で形成される。」(段落【0010】)
(ア-6)「そして、上記未加硫ゴムを加熱して加硫する。この時の加硫温度は、散布した上記超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融温度以上である必要がある。溶融温度未満であると、溶融できず薄膜が形成されないからである。この加熱温度および加熱時間は、散布した超高分子量ポリオレフィン粉体の種類等により適宜決定されるが、通常、140?180℃×10?60分、好ましくは150?170℃×20?45分である。」(段落【0020】)
(ア-7)「【実施例1?4】前述の方法に準じ、サンプルを作製した。すなわち、超高分子量ポリオレフィン粉体(ミペロンXM221U,三井石油化学工業社製)とシート形状に成形した未加硫ゴム(SBR)とを準備し、上記超高分子量ポリオレフィン粉体を下記の表1に示す割合で上記未加硫ゴムの表面に散布した。そして、150℃×20分の条件で加熱加硫を行い、ゴム表面に溶融体の薄膜を形成しサンプルを作製した。」(段落【0023】)
(ア-8)「図1?図9に示すように、未加硫ゴムの表面に超高分子量ポリオレフィン粉体を散布したのち加熱加硫することにより、上記超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融体から形成された薄膜がゴム表面に形成され、その一部がゴム中に食い込んで固定されていることがわかる。また、散布割合を変えることにより、上記溶融体の薄膜の厚みが変化することがわかる。」(段落【0036】)

(イ) 刊行物2(特開平5-185564号公報)
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(イ-1)「水素添加アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ゴム,メタクリル酸,酸化亜鉛及び有機過酸化物を含有するゴム組成物Aと、臨界表面張力γcが26?29ミリニュートン/メートルの原料ゴムを含有するゴム組成物Bとを、削り出し方式により作製した超高分子量ポリエチレンシート又は超高分子量ポリエチレン粉末Cにより接着一体化したゴム・ゴム接着複合体。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(イ-2)「このような本発明のゴム・ゴム接着複合体は、次のようにして製造することができる。まず、共に未加硫の水素添加NBRゴム組成物A及び汎用ゴム組成物Bを、それぞれプレフォーム成形してシート状又は板状等の任意の積層可能な形状を有するゴム材料にする。これらゴム材料はスチールコードのような金属コード、ナイロン、ポリエステル、アラミド等の各種有機繊維からなるコードにより補強したものであってもよい。プレフォームされたゴム材料の間に超高分子量PEシート又は粉末Cを介在させてプレス下に加熱し、超高分子量PEフィルム又は粉末Cを溶融すると同時に、水素添加NBRゴム組成物A及び汎用ゴム組成物Bを加硫させることにより接着一体化し、ゴム・ゴム接着複合体にすることができる。」(段落【0010】)
(イ-3)「【実施例】 …
…さらに削り出し方式により作製された分子量約500万のポリエチレンからなる厚さ50μmのフィルム状超高分子量PEシートCを用意した。
上記水素添加NBRゴム組成物Aと汎用ゴム組成物B-1,2,3,4とを、それぞれ超高分子量PEシートCを挟んで20kg/cm^(2) の加圧下、170℃で20分間加熱し、超高分子量PEシートCを溶融させると同時に、水素添加NBR含有ゴム組成物Aと汎用ゴム組成物B-1,2,3,4をそれぞれ加硫し、ゴム・ゴム接着複合体、A/C/B-1(比較例1)、A/C/B-2(実施例1)、A/C/B-3(実施例2)、A/C/B-4(比較例2)を製作した。」(段落【0011】?【0013】)

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融体から形成された薄膜がゴム表面に存在し、この薄膜の一部がゴム中に食い込んで固定されていることを特徴とするゴムの表面構造」(摘示(ア-1))に関し記載するものであって、その「ゴムの表面構造」は、「複写機の自動原稿搬送部(ADF)に使用される紙送りベルト,コンベアベルト,摺動ゴム等のゴム製品のゴムの表面構造」(摘示(ア-3))である。また、その「超高分子量ポリオレフィン」とは、「分子量が50万?300万のもの」(摘示(ア-4))であり、その「超高分子量ポリオレフィン粉体」は「超高分子量ポリエチレン粉体であり、その平均粒径が20?300μm」(摘示(ア-2))の態様を含む。そして、その「ゴムの表面構造」は、次のように形成される。すなわち、「未加硫ゴム表面に上記超高分子量ポリオレフィン粉体を散布すると、粉体粒子の一部が未加硫ゴム中に食い込んだ状態となる。この状態で、上記超高分子量ポリオレフィン粉体等の融点以上の温度で上記未加硫ゴムを加熱加硫すると、粉体粒子相互が溶融連結するとともに、上記ゴム中に食い込んだ粉体粒子の一部がゴムの加硫により略完全に固定されるのである。この結果、ゴム表面に、超高分子量ポリオレフィン粉体の溶融体の薄膜が、その一部がゴム中に食い込み固定された状態で形成され」(摘示(ア-5))、その未加硫ゴムは「加熱して加硫」(摘示(ア-6))される。その加硫の加熱温度及び加熱時間は、「散布した超高分子量ポリオレフィン粉体の種類等により適宜決定されるが、通常、140?180℃×10?60分、好ましくは150?170℃×20?45分」(摘示(ア-6))である。
そして、具体的な例を示す【実施例1?4】においては、「超高分子量ポリオレフィン粉体(ミペロンXM221U,三井石油化学工業社製)」を「シート形状に成形した未加硫ゴム(SBR)」の表面に散布した(摘示(ア-7))ことが記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「分子量が50万?300万の超高分子量ポリエチレン粉体の溶融体から形成された薄膜がゴム表面に存在し、この薄膜の一部がゴム中に食い込んで固定されていることを特徴とするゴム製品の表面構造であって、シート形状に成形した未加硫ゴム表面に上記超高分子量ポリエチレン粉体を散布し、140?180℃で10?60分加熱加硫することにより製造されたゴム製品の表面構造」
の発明が記載されているといえ、この発明を、本願補正発明の記載の仕方に則して記載すると、
「シート形状に成形したゴムの一表面に、分子量が50万?300万の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン薄膜を備えたシート形状のゴム製品であって、シート形状に成形した未加硫ゴム表面に上記超高分子量ポリエチレン粉体を散布し、両者を140?180℃で10?60分加熱することにより製造され、超高分子量ポリエチレンからなる薄膜の一部がゴム中に食い込んで固定されていることを特徴とする超高分子量ポリエチレンによって形成される薄膜を備えたシート形状のゴム製品」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

ウ 本願補正発明と引用発明との対比
引用発明における「シート形状に成形したゴム」は、本願補正発明における「ゴムシート」に相当し、シート形状に成形したゴムと超高分子量ポリエチレンの薄膜からなるゴム製品を、ゴムに着目してゴム製品と呼ぶか、超高分子量ポリエチレンに着目して超高分子量ポリエチレン製品と呼ぶかは、単に呼び方の相違に過ぎないので、引用発明における「シート形状に成形したゴムの一表面に、分子量が50万?300万の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン薄膜を備えたシート形状のゴム製品」は、「一面にゴムシートを備え、分子量が50万?300万の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン製品」と言い換えることができる。また、引用発明における「超高分子量ポリエチレンからなる薄膜の一部がゴム中に食い込んで固定されている」は、「ゴムシートを備える側の超高分子量ポリエチレン薄膜の一部が多数の不定形の突起物としてゴムシートの厚み方向に部分的にゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと超高分子量ポリエチレン成形物が相互に固着されている」ことに他ならないし、さらに、引用発明の「超高分子量ポリエチレンによって形成される薄膜を備えたシート形状のゴム製品」は、言い換えると、「ゴムシート付き超高分子量ポリエチレン製品」といえる。そして、引用発明のゴムシートは、「水素添加アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、メタクリル酸、酸化亜鉛及び有機過酸化物を含有するゴム組成物および臨界表面張力γcが26?29ミリニュートン/メートルのゴムのいずれかからなるゴムシート」を除く他のゴムシートを包含するものであり、引用発明の超高分子量ポリエチレンの分子量は「50万?300万」であって本願補正発明の「100万以上」と重複する。
そして、それらの製品は、引用発明においては「シート形状に成形した未加硫ゴム表面に上記超高分子量ポリエチレン粉体を散布し、両者を140?180℃で10?60分加熱することにより製造」されるものであり、本願補正発明においては「成形金型に敷かれた未加硫状態のゴムシート上に該高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに充填し両者を押圧加重70kgf/cm^(2)以上100kgf/cm^(2)以下、加熱温度170℃以上200℃以下、加熱加圧時間2?16時間の条件で加熱加圧することにより成形」されるものであるが、ともに「未加硫状態のゴムシート上に超高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに置き、加熱することにより製造」するものであるといえる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「一面にゴムシート(水素添加アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、メタクリル酸、酸化亜鉛及び有機過酸化物を含有するゴム組成物および臨界表面張力γcが26?29ミリニュートン/メートルのゴムのいずれかからなるゴムシートを除く)を備え、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン製品であって、未加硫状態のゴムシート上に超高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに置き、加熱することにより製造され、ゴムシートを備える側の超高分子量ポリエチレン製品の一部が多数の不定形の突起物としてゴムシートの厚み方向に部分的にゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと超高分子量ポリエチレン製品が相互に固着されているゴムシート付き超高分子量ポリエチレン製品」
の点で一致し、次のA?Cの点において一応相違するといえる。
A 超高分子量ポリエチレン製品が、本願補正発明においては、「超高分子量ポリエチレン成形物」の一部がゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと「超高分子量ポリエチレン成形物」が相互に固着されている「超高分子量ポリエチレン成形物」であるのに対し、引用発明においては、「超高分子量ポリエチレンからなる薄膜」の一部がゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと超高分子量ポリエチレン薄膜が固着されている「超高分子量ポリエチレンによって形成される薄膜を備えたシート形状のゴム製品」である点
B 超高分子量ポリエチレン製品が、本願補正発明においては、「成形金型に敷かれた」未加硫状態のゴムシート上に高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに「充填」することにより「成形」されるものであるのに対し、引用発明においては、どこに敷かれたのか不明である、シート形状に成形した未加硫ゴムシート上に超高分子量ポリエチレン粉末を所定の高さに「散布」し、両者を「140?180℃で10?60分加熱」することにより「製造」されるものである点
C 超高分子量ポリエチレン製品の製造条件が、本願補正発明においては、両者を「押圧加重70kgf/cm^(2)以上100kgf/cm^(2)以下、加熱温度170℃以上200℃以下、加熱加圧時間2?16時間の条件で加熱加圧」するものであるのに対し、引用発明においては、両者を「140?180℃で10?60分加熱」するものである点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点A」、「相違点B」、「相違点C」という。)

エ 相違点についての判断
(ア) 相違点Aについて
本願補正発明の「超高分子量ポリエチレン成形物」とは、その記載からは、いかなるものであるかが明らかであるとはいえないので、本件補正後の明細書(以下「補正明細書」という。)を参酌すると、補正明細書の段落【0003】において、『超高分子量ポリエチレンからなる板、ブロック、フイルム、丸棒、角棒、異型品、成形品等をひっくるめて「超高分子量ポリエチレン成形物」という。』と定義していることが認められる。
そうすると、本願補正発明の「超高分子量ポリエチレン成形物」には「フイルム」の態様も包含され、この態様の場合、本願補正発明の超高分子量ポリエチレン成形物」と引用発明の「超高分子量ポリエチレンからなる薄膜」とは実質的に異ならない。
よって、相違点Aは、両者の相違点とはいえない。
さらに、超高分子量ポリエチレンの「成形物」としては、フイルムのほか、板等の様々なものが広く使用されていることが知られているところ(必要であれば、例えば、特開平2003-25523号公報の段落【0002】【従来の技術】の項参照。)、刊行物1には、ゴム表面に散布する超高分子量ポリオレフィン粉体の「散布割合を変えることにより、上記溶融体の薄膜の厚みが変化する」(摘示(ア-8)参照)と、厚みを変化させることも記載されている。
そうすると、引用発明において、所要の成型物が薄膜より厚いもの(板)であるときは、超高分子量ポリエチレンの散布割合を変えて、厚みを増加させたもの(板)とすることは、当業者が容易になし得ることであるといえる。
そして、補正明細書を検討しても、この点により本願補正発明が、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、相違点Aは、両者の相違点ではないか、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ) 相違点Bについて
上記のとおり、超高分子量ポリエチレン製品は、本願補正発明においては、「成形金型に敷かれた」未加硫状態のゴムシート上に超高分子量ポリエチレンの粉末を所定の高さに「充填」することにより「成形」されるものであるのに対し、引用発明においては、どこに敷かれたのか不明であるところのシート形状に成形した未加硫ゴムシート上に超高分子量ポリエチレン粉末を所定の高さに「散布」して「製造」されるものである。しかし、このような製造方法において相違したとしても、両者はゴムシート付き超高分子量ポリエチレン製品という「物」としては実質的に異なるものとは認められない。よって、相違点Bは、両者の相違点とはいえない。
仮に上記製造方法に起因して「物」として異なる点があったとしても、引用発明において本願補正発明の製造方法とすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。すなわち、超高分子量ポリエチレン製品の製造法としては、両者とも、超高分子量ポリエチレン粉末が未加硫のゴムシート上に置かれ、その粉末が、その溶融温度以上に加熱され、溶融され、ゴムシート表面に溶融した超高分子量ポリエチレン樹脂が食い込み、その結果、未加硫のゴムシートが加硫されるとともに、超高分子量ポリエチレン樹脂と接合される方法である点において両者の製造方法は軌を一にするものである(前者、補正明細書段落【0021】、【0022】参照。後者、摘示(ア-5)、(ア-6)、(ア-7)参照)といえ、両者は、わずかに本願補正発明においてゴムシートを成形金型内に敷く点において相違するに過ぎなく、ゴムシートを成形金型内に敷く結果、超高分子量ポリエチレンはその成形金型内に「充填」されることになり、超高分子量ポリエチレンは成形金型内で「成形」されゴムシートと接合され、複合体が製造されることになる。
ところで、溶融した樹脂と素材とを接合してそれらの複合体を製造するに際して、成型金型に素材を置いて、その成型金型内に樹脂を充填し直接接合・成形を行うことは、その出願前に一般的に行われている方法であるから、引用発明の超高分子量ポリエチレン樹脂とゴムシート素材とを接合してそれらの複合体を製造するに際して、成形金型にゴムシートを置く(敷く)方法を適用し、そして、その上に超高分子量ポリエチレンを所要の樹脂の厚さ等に応じて充填し、超高分子量ポリエチレンを成形金型内で接合・成形することは、当業者にとって何ら困難なこととは認められない。
そして、補正明細書を検討しても、この点により本願補正発明が、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、相違点Bは、両者の相違点ではないか、当業者が容易に想到し得るものである。

(ウ) 相違点Cについて
超高分子量ポリエチレンの溶融物と未加硫のゴムシートとを接合するに際し、加熱に加え加圧をすることは、刊行物2摘示(イ-1)?(イ-3)に記載されるとおり、その出願前に知られたことである。そして、引用発明において超高分子量ポリエチレンの溶融物と未加硫のゴムシートとの接合時の条件は、上記のとおり、超高分子量ポリエチレンの粉末が、その溶融温度以上に加熱され、溶融され、ゴムシート表面に溶融した超高分子量ポリエチレン樹脂が食い込み、その結果、未加硫のゴムシートが加硫されるとともに、超高分子量ポリエチレン樹脂と接合されるような条件である。そうすると、引用発明において、超高分子量ポリエチレンの溶融物を未加硫のゴムシートにより食い込ませる等のため、加熱に加え加圧もすることは当業者が容易になし得ることである。
なお、加熱加圧の具体的条件は、刊行物2には、超高分子量ポリエチレンシートを用いる具体例において、20kg/cm^(2)、170℃、20分であること示される(摘示(イ-3))が、上記のような超高分子量ポリエチレン樹脂が溶融され未加硫のゴムシートと接合され、かつ未加硫のゴムシートが加硫されるような最適な圧力や加圧加熱時間は、超高分子量ポリエチレン粉体(分子量、粒径等)、超高分子量ポリエチレン成形物(厚さ、形状等)、ゴムシート(種類、厚さ等)、その他によって異なると認められ、それぞれに応じて当業者が適宜実験等により選定し得るものである。
また、本願補正発明においては何ら被接合材料等の詳細が規定されるものではなく、さまざま被接合材料等が包含されるものであるところ、補正明細書を検討しても、本願補正発明が、この特定の条件下において成型することによって、さまざま被接合材料等によらず格別顕著な効果を奏するものであると認めることもできない。
したがって、相違点Cは、当業者が容易に想到し得るものである。

オ まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない補正を含むものであるから、その余の補正について検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年4月3日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「一面にゴムシート(水素添加アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、メタクリル酸、酸化亜鉛及び有機過酸化物を含有するゴム組成物および臨界表面張力γcが26?29ミリニュートン/メートルのゴムのいずれかからなるゴムシートを除く)を備え、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンによって形成される超高分子量ポリエチレン成形物であって、成形金型に敷かれた未加硫状態のゴムシート上に該高分子ポリエチレンの粉末を所定の高さに充填し両者を加熱加圧することにより成形され、該ゴムシートを備える側の超高分子量ポリエチレン成形物の一部が多数の不定形の突起物としてゴムシートの厚み方向に部分的にゴムシートの中に入り込むことによってゴムシートと超高分子量ポリエチレン成形物が相互に固着されていることを特徴とするゴムシート付き超高分子量ポリエチレン成形物。」

2 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成18年1月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、その理由2は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明…に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、その「下記の刊行物」とは、
「1.特開平9- 85900号公報
2.特開平5-185564号公報」
である。

3 当審の判断
(1) 引用刊行物、刊行物に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由2に引用された上記各刊行物は、それぞれ、前記第2の2(2)の項のアに記載した刊行物1,2であり(以下、同様に「刊行物1」、「刊行物2」という。)、それらの刊行物1、2に記載した事項は、同項アの(ア),(イ)に記載したとおりである。
そして、刊行物1に記載された発明は、同項イに記載したとおりである(以下、同様に「引用発明」という。)。

(2) 対比・相違点についての判断
本願発明は、前記第2の2(1)の項で示したとおり、本願補正発明における「加熱加圧する」の限定事項である「押圧加重70kgf/cm^(2)以上100kgf/cm^(2)以下、加熱温度170℃以上200℃以下、加熱加圧時間2?16時間の条件で」との発明を特定するための事項がないものに相当する。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、加えて上記発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明は前記第2の2(2)の項に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明は、本願補正発明におけるのと同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができることは、明らかである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、その余の発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-07 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-26 
出願番号 特願2004-33129(P2004-33129)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 113- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
坂崎 恵美子
発明の名称 ゴムシート付き超高分子量ポリエチレン成形物およびその製造方法  
代理人 坂本 徹  
代理人 原田 卓治  

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