• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1194221
審判番号 不服2006-16804  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2009-03-12 
事件の表示 特願2002-379995「車載アンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月29日出願公開、特開2004-214821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,平成14年12月27日に特許出願したものであって,平成18年6月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月3日に拒絶査定に対する審判請求するとともに,同年9月4日付けで手続補正したものである。

第2 補正について
[補正却下の決定の結論]
平成18年9月4日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により,平成18年6月12日付け手続補正書に記された特許請求の範囲の請求項1である
「誘電体基板の車室内側の同一の表面上に設けられた放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記外縁部の周囲を囲む接地導体を備える車載アンテナであって,
前記放射素子は,前記誘電体基板の前記表面を露出させる中抜き部を備え,
前記放射素子の外径寸法は,前記放射素子に前記中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,小さく設定されていることを特徴とする車載アンテナ。」(以下,この請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)は,
「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けられた放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記外縁部の周囲を囲む接地導体を備える車載アンテナであって,
前記放射素子は,前記誘電体基板の前記表面を露出させる中抜き部を備え,
前記放射素子および接地導体の外径寸法は,前記放射素子に前記中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ小さく設定されていることを特徴とする車載アンテナ。」(以下,この請求項1に記載された発明を「補正発明」という。)と補正された。
なお,補正発明中の下線部は,補正された箇所である。

したがって,本件補正によれば,
誘電体基板に設けられた放射素子の位置に関して,「周縁部」であるとの構成を付加し,さらに,放射素子に加えて「接地導体」にも外径寸法上の条件を付加し,しかも,前記条件の規定ぶりについても,「共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ」小さく設定と,より具体化されたということができる。したがって,これら全ての補正事項は,本願発明を具体的に限定したものである。
そして,この補正に係る事項は,当初明細書等に開示されていることが明らかであって,特許法第17条の2第3項の規定を満足し,しかも,上記したように,本件補正により,発明がより限定されたということもできるから,特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
そこで,補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(2)引用発明
1.原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-21715号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア.「【0025】
【実施例】 以下,本発明の実施例を図1?図14を参照して説明する。図1は本発明による平面アンテナの一実施例を示す概略構成図である。図において,放射回路板1,第1の誘電体層2,給電回路板3,第2の誘電体層4,地導体板5の各構成は放射素子を除いて図15に示す従来と同様なため説明を省略する。本発明の特徴である放射素子1aは,中央に穴部1bを有する環状MSA素子から成っている。この放射素子の周囲には従来と同様に,環状スロット1cと,この環状スロット1cを包囲するように導体部分(上部地導体)1dが形成され,この上部地導体1dと給電回路板3の給電線3aと地導体板5とでトリプレート線路が構成されている。
【0026】図2は上記放射回路板1の拡大図であり,アルミニウムや銅などの金属箔を貼ったポリエステル,ポリイミド,テフロン(登録商標)などのフィルム基板をエッチングして放射素子1a,穴部1b,環状スロット1c,上部地導体1dが設けられている。この放射素子1aの中央に設けられた穴部1bは,放射素子1aの金属箔をエッチングなどで取り除いて形成されている。図3は給電回路板3の給電線3aを拡大した図である。図2及び図3に示す斜線部はエッチングの後に残った金属箔部分を示している。」(第5頁第7欄)

引用文献1の摘記事項及び関連する図面によれば,
「ポリエステル,ポリイミド,テフロン(登録商標)などのフィルム基板放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記外縁部の周囲を囲む地導体を備えるアンテナであって,
前記放射素子は,前記フィルム基板の前記表面を露出させる穴部を備えたアンテナ。」(以下,「引用発明1」という。)が開示されている。

2.同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-252520号公報(以下,「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。
イ.「【0004】一方において,US特許4063246号では,”COPLANAR STRIPLINE ANTENNA”が開示されている。すなわち,誘電体基板の片側の面に接地導体を設け,この反対の側の面にパッチ状の放射導体とこの放射導体の周囲に所定の間隔(ギャップとも言う)を成して形成した接地導体とを設けることを開示している。これによれば,誘電体基板の片側の面に,放射導体と接地導体が形成され,例えば同軸ケーブルの中心導体を放射導体と所定の位置で接続し,同軸ケーブルの外部導体を放射導体と同一の面に形成された接地導体と接続するので,給電を誘電体基板の片側の面で行うことができる。」(第2頁第1?2欄)
ウ.「【0013】
【発明の実施の形態】 以下,本発明の平面アンテナについて,添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0014】図1(a)および(b)には,本発明の平面アンテナの一実施形態である平面アンテナ10が示されている。図1(a)は,平面アンテナ10の平面図であり,図1(b)は図1(a)に示すA-A’線で切断した平面アンテナ10の断面図である。
【0015】平面アンテナ10は,図1(a)および(b)に示すように,誘電体基板であるガラス板12の少なくとも一方の面側に形成される平面アンテナであって,ガラス板12と,ガラス板12の面上に形成される,正方形状の本体部14aとこの本体部14aから突出したストリップ状の突出部14bとを有する島状導体14と,島状導体14と同一の面上に形成され,この島状導体14の全部を一定の距離離間して囲む導体16とを主に有して構成される。
【0016】突出部14bの端部には,給電部18が設けられ,図示されない表面実装型コネクタを介して,島状導体14と同一の面側で同軸ケーブルの中心導体と接続される。また,導体16は,アース接続された同軸ケーブルの外部導体と接続されて,常時アース接続されている。従って,平面アンテナ10においては,本体部14aは電波を放射する放射導体として,この放射導体を取り囲む導体16は接地導体として機能する。また,突出部14bは,接地導体である導体16とともに,ストリップ状の中心導体の両側に一定の距離を隔てて接地導体が形成される公知の伝送線路であるコブレナーウェーブガイド(CPW)を形成し,突出部14bはコブレナーウェーブガイドのストリップ状の中心導体として機能する。以降では,本体部14aを放射導体14aといい,突出部14bを伝送線中心導体14bといい,導体16を接地導体16という。」(第3頁第3?4欄)
エ.「【0035】実施例2は,・・・この平面アンテナ10を車両用窓ガラス板,例えば車両用フロントガラスに用いる場合,平面アンテナ10は,車両用フロントガラスの車室内側に形成されるのが,給電部18を介した給電のし易さや耐久性の点から好ましく,・・・
【0036】また,車両用フロントガラスは,合わせガラスが用いられるので,車両の室内側に平面アンテナを形成するとともに,・・・その際,平面アンテナ10は,視野の妨げにならないように,車両用フロントガラスの縁から100mm以内の範囲内に形成されるのが好ましく,さらに,車両用フロントガラスを車両に装着する際の左右方向の中心線を中心とする左右100mm以内の範囲に形成されるのが好ましい。例えば,運転者の視点から見て,ルームミラーの裏側となる位置が,視野の妨げにならない点およびデザイン上の点から特に好ましい。」(第5頁第8欄?第6頁第9欄)

摘記事項エの「車両用フロントガラスの縁から100mm以内の範囲内」は,周縁部といえ,島状導体は放射素子のことであるから,
引用文献2の摘記事項及び関連する図面によれば,
「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けられた放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記外縁部の周囲を囲む接地導体を備える車載アンテナ。」(以下,「引用発明2」という。)が開示されている。
(3)対比
そこで,補正発明と引用発明1とを比較する。
引用発明1の「ポリエステル,ポリイミド,テフロン(登録商標)など」は誘電体であるから,誘電体基板ということができ,
引用発明1の「地導体」と補正発明の「接地導体」は記載表現は異なるものの,その機能からしても,事実上同じものであり,
引用発明1の「穴部」は当然中抜き形状であるから,補正発明の「中抜き部」に相当する。
したがって,両者は,
「放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記外縁部の周囲を囲む接地導体を備えるアンテナであって,
前記放射素子は,前記誘電体基板の前記表面を露出させる中抜き部を備えたアンテナ。」の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明のアンテナは「車載」であり,「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けられた」ものであるのに対して,引用発明1のアンテナは,「車載」用でもないし,当然に,「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けられた」ものでもない。
(相違点2)
放射素子および接地導体の外径寸法に関して,補正発明は,「前記放射素子および接地導体の外径寸法は,前記放射素子に前記中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ小さく設定されている」と規定されているが,引用発明1の外形寸法は不明である。

(4)判断
そこで,上記相違点について検討する。
(相違点1)について
引用発明2は,引用発明1と同様のアンテナ構造を有しており,その設置部位は(自動車)車両であり,しかも「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けけられた」ものであるから,引用発明1のアンテナを,引用発明2の設置部位と同じ箇所に,設置する程度のことは,格別の創意工夫を要するものとはいえない。したがって,引用発明1のアンテナを「車載」用とし,「誘電体基板の周縁部の車室内側の同一の表面上に設けられた」ものとすることは,当業者であれば,容易になし得る。

(相違点2)について
アンテナには,要求される共振周波数が予め設定されており,また,共振周波数が主に形状と寸法によって決まることも技術常識である。そして,実際の寸法決めは,理論的解析や,シミュレーションの実行や,あるいは,実験の実施により,最終決定されることも技術常識である。
一方,引用発明1において,共振周波数を決める主たる要素は,放射素子,接地導体の寸法であるから,通常,これらの寸法値は,理論的解析や,シミュレーションの実行や,あるいは,試作実験を通して,必要な共振周波数が得られように当然決められるものである。
そこで,補正発明の「放射素子に前記中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ小さく設定され」との技術的事項について検討してみると,これらは,要求される共振周波数を実現するためのものであるから,必要な共振周波数を得るべく,理論的解析,シミュレーションの実行,試作実験を通して,決められた寸法との間には,具体的な寸法において実質的な差異はないというべきであって,同じ内容を異なった規定ぶりに変更したにすぎないということができる。
また,同一の共振周波数を得るためには,放射素子および接地導体の外径寸法が,放射素子に中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ小さくなること自体も,例えば,電子情報通信学会論文誌B,Vol.J83-B,No.8,pp.1178?1185,“穴付きパッチアンテナを用いたSelf-Diplexingアンテナ”,(特に,p1179,“2.穴付き方形パッチアンテナ”の項)の記載から明らかなように,穴付きパッチアンテナにおいて周知であること,及び,例えば,後藤 尚久著,“図説・アンテナ”,電子情報通信学会発行,平成13.6.1初版第4刷,pp197?198,図38に記載されているように,パッチアンテナと(円環)スロットアンテナの動作原理は基本的に同じものであること,等からして,当業者であれば,引用発明1においても,当然導きうる技術的事項にすぎないということもできる。
したがって,「前記放射素子および接地導体の外径寸法は,前記放射素子に前記中抜き部を設けない状態で設定した外径寸法と比較して,共振周波数の低下分を補う所定の寸法だけ小さく設定されている」との構成は,要求される共振周波数に基づいて,当然導出される,単なる寸法,形状の限定というべきである。

そして,補正発明に関する作用・効果も,引用発明,周知,慣用技術から当業者が予測できる範囲のものである。

してみると,補正発明は,引用発明1,引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(1)平成18年9月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成18年6月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,上記「第2 補正について」の項中の「(1)補正後の本願発明」の冒頭に記載した「本願発明」のとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献,及び,その記載事項は,上記「第2 補正について」の項中の「(2)引用発明」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,前記「第2 補正について」の項の「(1)補正後の本願発明」で検討したように,上記補正発明から当該補正に係る構成の限定を省いたものであるから,本願発明の構成要件にさらに限定要件である上記構成を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 補正について」の項中の「(4)判断」に記載したとおり,引用発明,周知,慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も,同様の理由により,引用発明1,引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして,本願発明に関する作用・効果も,引用発明1,引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1,引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-24 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-23 
出願番号 特願2002-379995(P2002-379995)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
P 1 8・ 575- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 賢司  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 柳下 勝幸
石井 研一
発明の名称 車載アンテナ  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  
代理人 西 和哉  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 鈴木 三義  
代理人 青山 正和  
代理人 西 和哉  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ