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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1194238
審判番号 不服2007-2224  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2009-03-12 
事件の表示 特願2001-283196「電子写真ベルト部材及び電子写真装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月21日出願公開、特開2002-174933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年9月18日(優先権主張 平成12年9月19日)の出願であって、以下の手続がなされたものである。
平成18年6月22日付けで拒絶理由の通知。
平成18年8月10日付けで手続補正書の提出。
平成18年8月29日付けで最後の拒絶理由の通知。
平成18年10月30日付けで手続補正書の提出。
平成18年11月27日付けで、平成18年10月30日付けの手続補正を却下決定し、拒絶査定。
平成19年1月18日付けで審判請求。
平成19年2月16日付けで手続補正書の提出。
平成20年10月2日付けで、平成19年2月16日付けの手続補正を却下決定し、拒絶理由を通知。
平成20年12月5日付けで意見書及び手続補正書の提出。

そして、本願の請求項1,2に係る発明は、平成20年12月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】中間転写ベルト若しくは転写搬送ベルトに用いられる、環状ダイスから押出し成形して形成した、チューブ状の単層の電子写真ベルト部材であって、
(a)ポリフッ化ビニリデンを25?90質量%と、
(b)導電剤としてのポリエーテルエステルアミドを2?25質量%と、
(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛を2?50質量%と、
を含有し、
該ポリフッ化ビニリデン、該ポリエーテルエステルアミド及び該酸化亜鉛以外の成分の含有量が11質量%以下であり、
かつ体積抵抗が9×10^(5)Ω以上2×10^(10)Ω以下であることを特徴とする電子写真ベルト部材。」


2.引用例の記載
これに対して、当審において平成20年10月2日付けで通知した拒絶理由に引用した、本願優先日前に頒布された引用例は、以下のとおりである。(なお下線は当審で付した。)

(1)引用例1
特開平8-50419号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

ア.「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンター等の電子写真方式を用いた画像形成装置に係り、詳しくは中間転写ベルト等の中間転写体を介在させて一、二次転写工程を伴う中間転写方式を用いた画像形成装置に関するものである。」

イ.「【0007】また、上記中間転写体の経時抵抗変化の要因は使用される転写体材料(樹脂材料)、及び抵抗制御剤によって異なる。例えば、転写体主材料としてエラストマーが使用されている場合は分散されている無機系抵抗制御剤等の充填剤(以下、フィラーという)のチェーン構造が経時的に切断され抵抗増加の傾向を示し、転写体材料に対しフィラーの分散性が乏しい場合は、経時におけるフィラー凝集や転写電界等電気的ハザードによるフィラーが凝集により、経時的に抵抗低下する傾向を示す。」

ウ.「【請求項16】像担持体上に形成される可視の現像画像を無端状に走行する中間転写体上に一次転写し、該中間転写体上の一次転写画像を転写材に二次転写する中間転写方式の画像形成装置に用いられる該中間転写体であって、
比抵抗が1×10^(8)?1×10^(14)Ω・cmの範囲にあり、かつ、上記中間転写体中に少なくともポリフッ化ビニリデン及び比抵抗が1×10^(12)Ω・cm以下のポリマーを含有することを特徴とする中間転写体。」

エ.「【0052】請求項16の発明においては、中間転写体の体積を制御するのに、従来のように導電性フィラーを分散させるのと異なり、抵抗制御剤として1×10^(12)Ω・cm以下の比抵抗を有するポリマーを使用することにより、従来のフィラー分散による抵抗制御の問題点、即ち、抵抗の経時変化やベルト内抵抗ばらつきによる画像品質の低下を回避する。このように1×10^(12)Ω・cm以下の比抵抗を有するポリマーが、中間転写体の抵抗制御剤として好適であるという事実は、本発明者らの研究により見出されたものであり、1×10^(13)Ω・cm以上のポリマーでは十分な抵抗制御ができないことも見出された。
【0053】また、この抵抗制御ポリマーをポリフッ化ビニリデンに分散させることにより、フッ素樹脂の持つ多くの長所、例えば表面の離型性、温度、湿度に対する電気特性の安定性、屈曲性、難燃性等も同様に付与することが可能になる。このうち表面の離型性が良好であるという長所が中間転写体表面でも生かされ、該表面へのトナー付着を抑制できる。
【0054】また、ポリフッ化ビニリデン及びポリマーの組み合わせにより、材料の均質性が高められて、抵抗のばらつきがなくなり、また、相溶性、親和性により、経時での抵抗の変動が少なくなる。よって、これらの材料の組み合わせにより、画像形成の経時安定性を図ることができる。
【0055】また、中間転写体の比抵抗を1×10^(8)?1×10^(14)Ω・cmの範囲に設定することにより、転写チリやポジ残などによる画像品質の低下を防止することができる。これは、転写チリやポジ残などの異常画像に関する検討の結果判った、次の事実に基づくものである。すなわち、(イ)中間転写ベルトの体積抵抗(R_(bulk))が1×10^(6)Ω以下であると転写チリの影響で画像品位が低下する、(ロ)一方、中間転写ベルトの体積抵抗(R_(bulk))が1×10^(13)Ω以上ではポジ残が発生し、また、1次転写バイアスが高バイアスとなるため、周辺部材との放電等、副作用が生じ、画像品質を損なうことから実用的でない。そして、実用的な中間転写ベルト膜厚が100?500μm程度であることを考慮すると、中間転写ベルトの望ましい比抵抗(ρv)の最適域は、1×10^(8)?1×10^(14)Ω・cmとなる。」

オ.「【0115】次に、更に他の本実施例に係る中間転写ベルト19について説明する。本実施例の中間転写ベルト19は、比抵抗が1×10^(8)?1×10^(14)Ω・cmの範囲にあり、かつ、上記中間転写体中に少なくともポリフッ化ビニリデン及び比抵抗が1×10^(12)Ω・cm以下のポリマーを含有することを特徴とするものである。表5に示した3種類の各種樹脂100重量部それぞれとポリエーテルアミド(ベレスタット6000:商品名.三洋化成)20重量部(1×10^(12)Ω・cm以下の比抵抗を有するポリマーに相当する。)とを組み合わせて3種類の材料を用意し、これらの材料をそれぞれ所定条件で2軸混練押出し機を用いて混練後、押出し成型機で150μm厚の中間転写ベルトを3種類作製した。これらの中間転写ベルトについて、次の各種特性を評価した。
【0116】
【表5】

※※1:カイナー460(商品名:ペンウォルト社)
※※2:パンライト1300(商品名:帝人社)
※※3:トヨラック(商品名:東レ社)
【0117】(イ)、クラック試験
外部空廻し機に中間転写ベルトを装着し、10万回回転後のベルトクラックを観察した。この結果、クラックを発生せず良好な結果を得たのは、表6に示すように、ポリフッ化ビニリデンと上記所定のポリマーを含有させた材料を用いたものだけであった。
【0118】(ロ)、フィルミング試験
リコー機フルカラー複写機(プリテール550:商品名)に本例にかかる中間転写ベルトを装着して、1万枚、複写後、ベルト表面をエアーブローする。表面に付着したトナーテープ転写して、マクベス濃度計でその濃度を測定した。
【0119】この結果、良好とされる0.05以下の値を示したのは、表6に示すように、ポリフッ化ビニリデンを含有させた材料を用いたものだけであった。
【0120】従って、これらの結果から、中間転写ベルトの材料中に、ポリフッ化ビニリデンと上記所定のポリマーを含有させることが有益であることがわかる。
【0121】なお、上記比抵抗が1×10^(12)Ω・cm以下のポリマーとしては、少なくともポリエーテルユニットが組み込まれているものを用いることが望ましい。ポリエーテルユニットが組み込まれたポリマーを具体的に挙げるとすれば、ポリエチレンオキサイド、ポリエーテルエステルアミド、エピクロルヒドリンゴム、ポリエーテルアミドイミド等である。
【0122】ポリフッ化ビニリデンに対するポリエーテルユニットを組み込んだポリマーの含有量は、ポリフッ化ビニリデン100重量部に対して5重量部から100重量部が好ましい。5重量部未満だと比抵抗が十分に下がらず、100重量部を超えるとポリフッ化ビニリデン特有の特性、即ち、表面の離型性、温度、湿度に対する電気特性の安定性、屈曲性、難燃性等が損なわれる。
【0123】ポリフッ化ビニリデンとポリエーテル化合物の混練には、通常の樹脂混練方法を用いることができる。例えば2本ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等による混練である。
【0124】表6に示した各種抵抗制御剤とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を所定条件で2軸混練押出し機を用いて混練後、押出し成型機で150μm厚中間転写ベルトを作製した。この中間転写ベルトについて、次の各種特性を評価した。
【表6】


カ.「【0147】請求項16あるいは18の発明によれば、中間転写体の比抵抗が経時的に変動することがなくなり、かつ、任意の部位間での比抵抗のばらつきが小さくなることから、画像品質の低下を回避することができる。また、中間転写体中にポリフッ化ビニリデンを含有させたので、ベルト表面のトナーフィルミングやクラックが発生しない中間転写体を提供することができる。」

キ.「【0037】請求項5の発明においては、上記中間転写体の最上部層を少なくともポリマー成分、エピクロルヒドリンゴム及び抵抗制御剤で構成し、かつ該抵抗制御剤をカーボンとしたので、エピクロルヒドリンゴムとカーボンとはそれぞれ抵抗制御剤として使用可能な物質であり、それぞれは一方が他方に対する代替物となる性質を有していることから、カーボン添加によりエピクロルヒドリンゴムの添加量を抑制できる。また、上述したフィラー凝集による経時的な抵抗(バルク抵抗)低下は、中間転写体膜厚方向のフィラーパスが凝集により何本も形成されることによる。従って、フィラーの含有率が低下するにしたがってフィラーパスの形成確率は低下するはずである。よって、この系においては無機フィラーとしてのカーボンの添加量を小量にすれば、上記フィラーパスの形成確率は低下し、従来問題とされた経時抵抗変化を防止できる。」

ク.「【0109】上記色ずれや抵抗変化の発生等の問題は、抵抗制御剤をエピクロルヒドリンゴムと無機フィラーの2元系とすることで解決することができる。これはエピクロルヒドリンゴムと無機フィラーとはそれぞれ抵抗制御剤として使用可能な物質であり、それぞれは一方が他方に対する代替物となる性質を有しているため、無機フィラー添加によりエピクロルヒドリンゴムの添加量を抑制できたことによる。また、前述の実施例と同様、この系においても無機フィラーの添加量が少量で前述のフィラーパスの形成確率が低く、従来問題とされた経時抵抗変化等の問題も発生することがない。
【0110】なお、上記抵抗制御剤として使用可能な無機フィラーとしてはカーボン及び酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、ITO等の金属酸化物及び弗化タングステン等の金属弗化物が挙げられる。また、この場合使用可能なエピクロルヒドリンゴムとしては、上記例示化合物と同一である。」

これら記載、特に【表6】のNo.3の抵抗制御剤を用いる実施例からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「中間転写ベルト等の中間転写体に用いられる、2軸混練押出し機を用いて混練後、押出し成型機で作製した、電子写真用ベルト部材であって、
(a)ポリフッ化ビニリデンと、
(b)抵抗制御剤として、比抵抗が8×10^(10)Ω・cmのポリエーテルエステルアミドと
を含有し、
含有量はポリフッ化ビニリデン100重量部に対しポリエーテルエステルアミドが20重量部であり、
中間転写ベルトの比抵抗が3×10^(12)Ω・cmである、
電子写真用ベルト部材。」

(2)引用例2
特開平11-172064号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

「【請求項1】 フッ素樹脂100重量部に対して、無機フィラー0.1?200重量部、及びパーフルオロアルキルスルホン酸塩0.02?1.5重量部を含有するフッ素樹脂組成物。
【請求項2】 フッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項1記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】 無機フィラーが、炭素系フィラーである請求項1記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】 炭素系フィラーが、カーボンブラックである請求項3記載のフッ素樹脂組成物。」
「【0003】近年、フッ素樹脂が様々な用途に適用されるにしたがって、導電性、帯電防止性、耐摩耗性、機械的強度、色調などの要求性能を満たすために、カーボンブラックや炭素繊維、金属などの無機フィラーを配合する必要性が高まっている。例えば、電子写真方式の画像形成装置において、帯電ロールや現像ロールなどのトナーと接触する部材は、トナーが融着してフィルム化する現象が起こり易いが、フッ素樹脂からなる部材や被覆層は、この現象が起こりにくい。したがって、フッ素樹脂は、電子写真方式の画像形成装置において、例えば、帯電ロールや帯電ベルト、現像ロール、転写ロールなど帯電部材としての用途に好適であると期待されている。フッ素樹脂をこのような用途に適用するには、導電性フィラーを配合して、導電性を付与する必要がある。また、フッ素樹脂からなる成形品は、耐屈曲性などの機械的強度に優れていることが求められているが、そのために、各種無機フィラーを配合して機械的物性を改善することが求められている。ところが、フッ素樹脂は、それ自体の表面自由エネルギーが著しく低いため、無機フィラーとの親和性に劣るという問題点がある。したがって、フッ素樹脂に無機フィラーを配合した場合、無機フィラーの分散性が悪く、無機フィラーの凝集物が成形品の表面に現れて外観を損ねたり、成形品の機械的物性を低下させるなどの問題が生ずる。」
「【0009】(無機フィラー)本発明において使用する無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、フェライト、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ニッケル、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス粉、石英粉末、金属粉、カーボンブラック、黒鉛、無機顔料などの粒状また粉末状の無機フィラー;炭素繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリ繊維などの繊維状フィラー;などが挙げられる。これらの無機フィラーの中でも、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維などの炭素系フィラーを用いた場合に、本発明の効果が著しい。無機フィラーの配合割合は、フッ素樹脂100重量部に対して、0.1?200重量部、好ましくは3?50重量部、より好ましくは7?20重量部である。無機フィラーの配合割合が大きすぎると、フッ素樹脂組成物の溶融粘度が高くなりすぎて、成形加工が困難となる。無機フィラーの配合割合が小さすぎると、無機フィラーの添加による改質効果が小さくなる。」

これらから、引用例2には、フッ素樹脂に無機フィラー(酸化亜鉛が例示)を配合して機械的物性を改善することが記載されているといえる。

(3)引用例3
特開平6-228335号公報(以下「引用例3」という。)には、
以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 引張弾性率が10000(Kg/cm2 )以上でメルトフローレートが10g/10min以下の、ポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂組成物97?75重量%とカーボンブラック3?25重量%からなり且つ、シームレスベルトの表面および裏面の表面導電性が1×10^(0) ?1×10^(13)Ω/□であるシームレスベルト。」
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、電子写真式複写機、レーザープリンター等の装置、転写分離装置、搬送装置、帯電装置、現像装置等に使用される導電性のシームレスベルトに関し、特に難燃性が高く、耐久性に富みかつベルトが変形しにくいシームレスベルトに関するものである。」
「【0005】また、機能上2本以上のロールを用いて高張力下で長時間使用されるため、十分な強度および耐久性を有していなければならない。更に、中間転写装置等に使用されるベルトの場合には、ベルトが伸びると画像ズレの原因となるため、ベルトの伸びを防ぐ必要がある。さらには、ベルト表面にトナーが固着すると画像の鮮明さが損なわれてしまうために、ベルト表面にトナーが固着しないことが重要である。」
「【0008】【課題を解決するための手段】本発明の目的は、電子写真式複写機、レーザープリンター等の感光体装置、フルカラー中間転写装置、転写分離装置、搬送装置、帯電装置、現像装置等に使用されるシームレスベルトにおいて、難燃性が高く、耐久性に富みかつ伸びにくいシームレスベルトを提供することにある。」
「【0010】以下、本発明を具体的に説明する。
(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物
・・・(中略)・・・
【0012】・・・これらのポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には本発明の効果を著しく損なわない限り、上記以外に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種フィラーおよび添加剤等の付加成分を更に添加しても構わない。」
「【0013】・・・(中略)・・・各種フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム(重質、軟質、膠質)、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、ゼオライト、ウオラストナイト、けいそう土、ガラスビーズ、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、中空ガラス球、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化チタン、アルミニウム繊維、ステンレススチール繊維、黄銅繊維、アルミニウム粉末、木粉、もみ殻、グラファイト、金属粉、導電性金属酸化物、有機金属化合物、有機金属塩等のフィラーがあげることができる。
【0015】(2)カーボンブラック
本発明で使用されるカーボンブラックとして好ましいのは、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックである。その中でも、シームレスベルトの外観を損なわないために、分散性の良いアセチレンブラックが特に好ましい。」
「【0024】【実施例】
(実施例1?3、比較例1?2)表1に記載したように各成分を所定の割合にて押出成形機に供給し、混練し、ペレットを製造した。得られたペレットを、環状ダイ付き40φの押出機を用い、押出温度を230℃にて150φの環状ダイより下方に溶融チューブの状態で押出した。この溶融チューブを、環状ダイの同一軸線上に支持棒を介して装着された冷却マンドレル外表面に接触させ冷却固化し、120mmφで厚み150μmのシームレスチューブとした。」

これらから、引用例3には、カーボンブラック(導電性)以外に、効果を損なわない範囲で、フッ素樹脂に各種フィラー(酸化亜鉛が例示)を添加してよいことが記載されているといえる。
また、環状ダイから押し出してチューブ状の中間転写用ベルトを作成することも記載されているといえる。
さらに、中間転写装置等に使用されるベルトの場合には、耐久性に富みかつ伸びにくいベルトが必要であることも記載されている。

(4)引用例4
特開平10-100169号公報(以下「引用例4」という。)には、以下の記載がある。

「【請求項1】 (a) ポリエステル樹脂及び(b) 導電性フィラーを、比重1.0 以上及び沸点20?150 ℃のハロゲン化有機溶媒に溶解、分散させた後に、減圧下で遠心成形法によって成形したことを特徴とする半導電性ポリエステル樹脂製シームレスベルト。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、電子写真式複写機、レーザープリンター等に使用される半導電性シームレスベルトに関し、特に感光体基体用、中間転写用、紙搬送用、現像用、定着用等に使用する半導電性ポリエステル樹脂製シームレスベルトに関する。
【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来から電子写真式複写機等の中間転写装置、転写紙分離装置、帯電装置等に半導電性樹脂製のシームレスベルトを使用することが提案されている。このような半導電性シームレスベルトには、電気抵抗率の高精度の制御と厚み等の高い寸法精度、及び長期の使用に耐えうる機械的強度が要求される。」
「【0011】[B] 導電性フィラー
本発明で使用する導電性フィラーとして、ケッチェンブラック(コンダクティブファーネス系カーボンブラック)、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックの他、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化銀、チタン酸カリウム、インジウム錫オキサイド、二酸化錫、炭素繊維、表面に導電性皮膜を施した各種フィラー等が挙げられるが、中でもケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックが好ましい。
【0012】導電性フィラーの配合量は、ポリエステル樹脂100 重量部に対して、1?30重量部である。導電性フィラーの配合量が1重量部未満であると、シームレスベルトの導電性が不十分であり、また30重量部を超えるとシームレスベルトの機械的強度が低下する。好ましい導電性フィラーの配合量は5?15重量部である。」

これらから、引用例4には、樹脂に対して導電性フィラー(カーボンブラック)の配合量を多くし過ぎると機械的強度が低下することが記載されているといえる。

(5)引用例5
特開平10-6411号公報(以下「引用例5」という。)には、以下の記載がある。

「【請求項1】 熱可塑性ポリマー、熱可塑性エラストマー及び導電性成分を含有する熱可塑性樹脂組成物を筒状に成形してなることを特徴とするシームレスベルト。」
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は導電性シームレスベルトに関する。更に詳しくは、耐折性に優れた導電性シームレスベルトに関する。該シームレスベルトは、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等に好適に使用される。」
「【0017】(導電性成分)導電性成分としてはシームレスベルトの用途に要求される性能を満たすものであれば特に制限はないが、カーボンブラックあるいは導電性フィラーを用いることができる。」
「【0020】導電性成分の配合量としては、シームレスベルトとしての機能を果たす限りにおいては特に制限はないが、導電性の観点から、熱可塑性ポリマー100重量部に対し3重量部以上が好ましく、安定的に導電性を発現するには5重量部以上が更に好ましい。また、あまり入れすぎると機械的物性が低下するので100重量部以下が好ましく、十分な耐折回数を得るには50重量部以下がさらに好ましい。」
「【0021】(付加成分)更に本発明では、本発明の効果を著しく損なわない範囲でこれらの成分の他に付加成分を配合することもできる。付加成分としては、各種フィラー、例えば、第二・第三の熱可塑性ポリマー、第二・第三の熱可塑性エラストマー、炭酸カルシウム(重質、軟質)、タルク、マイカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、ゼオライト、ウオラストナイト、けいそう土、ガラス繊維、ガラスビーズ、ベントナイト、モンモリナイト、アスベスト、中空ガラス玉、二硫化モリブデン、木粉、もみ殻、有機金属化合物、有機金属塩等のフィラーの他、・・・(中略)・・・を挙げることができる。」
「【0025】(抵抗率)導電性シームレスベルトの、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等への使用において、表面抵抗率、体積抵抗率それぞれの分布の最大値と最小値の差が大きいと、画像ムラを起こすことがあるので、画像品質の高さが要求される場合、表面抵抗率、体積抵抗率それぞれの分布の最大値と最小値の差は小さいことが好ましい。具体的には、該導電性シームレスベルト1本中の表面抵抗率の最大値を最小値で除した値が100以下であることが好ましく、10以下であればさらに好ましい。また5以下であれば実用上画像ムラに影響しないのでさらに好ましい。抵抗領域としては、表面抵抗率が10^(3) ?10^(14)Ω/□、体積抵抗率が10^(3)?10^(14)Ω・cmの範囲が好ましく、一般的に、感光体ベルトに使用する場合には表面抵抗の平均率が1×10^(3) ?1×10^(5) Ω/□、体積抵抗率の平均値が1×10^(3) ?1×10^(5) Ω・cm程度の導電性シームレスベルトが好ましく選択され、中間転写ベルトや搬送転写ベルトとしては表面抵抗の平均率が1×10^(7) ?1×10^(11)Ω/□、体積抵抗率の平均値が1×10^(7) ?1×10^(13)Ω・cm程度の導電性シームレスベルトが好ましく選択される。」
「【0030】(実施例1?4)表1に記載した配合量で各成分を二軸混練機を用いて溶融混練してペレット状の樹脂組成物とした。次にこの樹脂組成物を環状ダイつき40mmφの押出機により、環状ダイ下方に溶融チューブ状態で押し出す。押し出した溶融チューブを、環状ダイと同一軸上に支持棒を介して装着した冷却マンドレル外表面に接しめて冷却固化させて150μm厚のシームレスベルトとした。」

これらから、引用例5には、カーボンブラック又は導電性フィラー以外に、効果を損なわない範囲で、樹脂に対して各種フィラー(酸化亜鉛が例示)を添加してよいこと、及び、カーボンブラック又は導電性フィラーをあまり多く配合すると、機械的特性(耐折性)が低下することが記載されているといえる。また、環状ダイから押し出してチューブ状の電子写真用ベルトを作成することも記載されている。

(6)引用例6
特開平10-10880号公報(以下「引用例6」という。)には、以下の記載がある。

「【請求項1】 有機高分子材料に電気抵抗調整剤を配合し、成型して成る電子写真装置用中間転写ベルトであって、該電気抵抗調整剤がグラフトカーボンであることを特徴とする電子写真装置用中間転写ベルト。
【請求項2】 有機高分子材料に電気抵抗調整剤を配合し、成型して成る電子写真装置用中間転写ベルトであって、該有機高分子材料は重量平均分子量が2万のポリカーボネートと、重量平均分子量が4万のポリカーボネートとを含んで成ることを特徴とする電子写真装置用中間転写ベルト。」
「【0028】(実施例1)ポリカーボネートと、グラフトカーボン(スチレングラフトカーボン)とを予め100:25(重量比)の割合でブレンドし、2軸押出機により溶融混練して、ペレット状に造粒した。
【0029】続いて、このペレットを環状ダイ付の押出機でパイプ状に押出し、環状ダイと同一軸線上に装着された冷却マンドレルの外表面に接触させ、冷却・固化しながら引き取り、所定の長さに切断してシームレスベルトを得た。」
「【0032】(実施例4)重量平均分子量約2万のポリカーボネート(L-1250、帝人化成社製)と、重量平均分子量約4万のポリカーボネート(C-1400、帝人化成社製)とを1:1(重量比)の割合でブレンドした。このブレンド100部にアセチレンカーボンを添加混合し、押出機でベルト状に成型し、シームレスベルトを得た。得られたベルトの厚みは、150μmであった。得られたベルトの耐久性(耐屈曲疲労性およびベルト伸び)ならびにベルトを使用して転写した画像ムラについて評価した結果を表2に示す。」
「【0041】また本発明によれば、重量平均分子量が約2万のポリカーボネートと、重量平均分子量が約4万のポリカーボネートを有機高分子材料としてベルトに成型することにより、耐屈曲疲労性、耐伸長性、耐摩耗性において優れた中間転写ベルトが得られる。したがって、本発明の中間転写ベルトを用いた電子写真装置で複写を行うと、画像ムラのない鮮明な画像が、しかも長期間にわたって得ることができる。」

したがって、引用例6には、環状ダイから押し出してチューブ状の電子写真装置用中間転写ベルトを作成することが記載されている。
また、中間転写ベルトとして、耐屈曲疲労性、耐伸長性、耐摩耗性が必要であることも記載されている。


3.対比・判断
本願発明1と引用例1記載の発明を対比すると、
引用例1記載の発明の「中間転写ベルト等の中間転写体に用いられる」「電子写真用ベルト部材」は、それぞれ、本願発明1の「中間転写ベルト若しくは転写搬送ベルトに用いられる」「電子写真ベルト部材」に相当し、
引用例1記載の発明の「(b)抵抗制御剤として、比抵抗が8×10^(10)Ω・cmのポリエーテルエステルアミド」は、中間転写ベルトの比抵抗が3×10^(12)Ω・cmであることから、相対的にみて、導電剤として機能しているといえるので、本願発明の「導電剤としてのポリエーテルエステルアミド」に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「中間転写ベルト若しくは転写搬送ベルトに用いられる、電子写真ベルト部材であって、
(a)ポリフッ化ビニリデンと、
(b)導電剤としてのポリエーテルエステルアミドと
を含有し、
かつ抵抗が所定範囲又は所定値である、
電子写真ベルト部材。」

[相違点1]
本願発明1は、ポリフッ化ビニリデンと導電剤としてのポリエーテルエステルアミドに加えて、絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛を含有し、配合割合は、(a)ポリフッ化ビニリデンを25?90質量%、(b)導電剤としてのポリエーテルエステルアミドを2?25質量%、(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛を2?50質量%であり、さらに、該ポリフッ化ビニリデン、該ポリエーテルエステルアミド及び該酸化亜鉛以外の成分の含有量が11質量%以下であるのに対し、
引用例1記載の発明では、絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛を含有せず、ポリフッ化ビニリデン100重量部に対しポリエーテルエステルアミドが20重量部の割合である点。

[相違点2]
本願発明1は、電子写真用ベルト部材の体積抵抗が9×10^(5)Ω以上2×10^(10)Ω以下であるとしているのに対し、
引用例1記載の発明は、比抵抗の値3×10^(12)Ω・cmはあるが、体積抵抗の値がない点。

[相違点3]
本願発明1は、環状ダイスから押出し成形して形成した、チューブ状の単層のベルトであるのに対し、
引用例1記載の発明は、2軸混練押出し機を用いて混練後、押出し成型機で作製したベルトである点。

次に、上記相違点について検討する。

(相違点1について)
まず、一般に、電子写真装置の中間転写ベルトについて、長期使用にも対応できる耐折性やベルトの伸びにくさが求められることは、周知のことであり、引用例2?6にも記載されている。例えば、ベルトの伸びにくさが要求されることは、引用例3や引用例6を参照されたい。
そして、引用例1記載の発明においても、ベルトの伸びにくさ等は、当然に求められる課題であるといえる。

また、一般に、耐久性向上やベルトの伸びにくさ等を調整するために、主要成分による効果を損なわない範囲で、各種のフィラーを付加的に添加することは、周知の技術といってよい(例えば、特開平5-200904号公報の【0010】や、本願明細書【0048】で従来技術として示された特開平7-113029号公報の【0016】を参照)。
そして、そのような補助的フィラーとして、金属ドープをしていない、普通の酸化亜鉛(酸化亜鉛は抵抗率が高く絶縁性のフィラーといえる)を例示することができる(例えば、引用例3,5を参照)。

なお、本願の当初明細書の【0046】には、絶縁性フィラーとして、酸化亜鉛だけでなく、種々の物質が例示されており、また、本願の実施例は、確かに酸化亜鉛を使用した例ばかりであるが、比較例も、酸化亜鉛を使用した例ばかりであり、酸化亜鉛と他の絶縁性フィラーとの比較がされていないから、他の絶縁性フィラーの使用が不適であることも、酸化亜鉛が優れていることも、具体的にはよくわからないものである。なお、平成18年8月10日付け手続補正により、【0046】における、種々の物質の例示は削除されてしまった。
また、「絶縁性フィラー」の意味については、本願の当初明細書の【0042】に「本発明において、絶縁性フィラーとは、本発明の樹脂組成物の体積抵抗(A)と、本発明の樹脂組成物から絶縁性フィラーを抜いた(配合しない)場合の体積抵抗(B)とを比較したときに、BよりAの値が小さくなった(体積抵抗が低下した)としても、その低下の度合いが1桁未満(B/A<10)となるフィラーを指す。なお、フィラー自体の抵抗が高い、いわゆる絶縁性フィラーを配合しても、該フィラーを配合することにより、樹脂組成物の抵抗が若干低下する場合がある。これは、該フィラーの吸着水分などの影響によるものと考えられる。本発明において、絶縁性フィラーをフィラー自身の抵抗値ではなく、上記のように定義しているのは、そのためである。すなわち、実質的にフィラーが樹脂組成物の抵抗低下に寄与しているか否かで絶縁か導電かを判断するものとした。」との記載があり、この記載からは、「絶縁性」とは、絶対的な意味ではなく、相対的な意味で使用されており、さらに、相対的といっても、若干の絶縁性があるということで、大きな絶縁性があるという意味ではないことが一応理解できる。しかし、この【0042】の記載は、今回の補正により、削除されてしまったが、請求人が、意見書で、「「酸化亜鉛」は、それが、金属がドープされたものであること、あるいは、導電性フィラーとしての使用の意図が明示されていない限り、日本工業規格(JIS)K1410で規定されているような、純度99.0%以上の純粋な酸化亜鉛であると解するのが至当であります。すなわち、本発明における絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛は、不可避的に含まれることのある不純物成分までをも排除しない範囲において純粋な、非導電性のものを指しています。」と述べており、金属ドープをしていない、普通の酸化亜鉛(酸化亜鉛は抵抗率が高く絶縁性のフィラーといえる)というようなものを、本願発明1の「(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛」として想定すれば、ここでは足りると考えられる。
つまり、「(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛」は、「絶縁性」とはいうもののその程度はベルトの体積抵抗を過大には低下させないもので、抵抗制御剤としての積極的な機能をほとんど期待しておらず、本願において「(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛」を添加する目的は、本願明細書の「【0013】そこで、本発明者らは、この新たな問題を解決するために、絶縁性フィラーを配合して、耐クリープ特性の悪化と、使用環境による周長変化を防止することを試みた。」「【0028】絶縁性フィラーが2質量%未満であると、フィラーによる補強効果がなくなる。」の記載どおり、耐クリープ性、周長変化防止、補強効果であることが理解される。

また、引用例1には、【0007】に「例えば、転写体主材料としてエラストマーが使用されている場合は分散されている無機系抵抗制御剤等の充填剤(以下、フィラーという)のチェーン構造が経時的に切断され抵抗増加の傾向を示し、転写体材料に対しフィラーの分散性が乏しい場合は、経時におけるフィラー凝集や転写電界等電気的ハザードによるフィラーが凝集により、経時的に抵抗低下する傾向を示す。」との記載や、【0052】に「請求項16の発明においては、中間転写体の体積を制御するのに、従来のように導電性フィラーを分散させるのと異なり、抵抗制御剤として1×10^(12)Ω・cm以下の比抵抗を有するポリマーを使用することにより、従来のフィラー分散による抵抗制御の問題点、即ち、抵抗の経時変化やベルト内抵抗ばらつきによる画像品質の低下を回避する。」との記載があり、無機系抵抗制御剤等の充填剤の使用は望ましくないことを窺わせるものであるが、
同じく引用例1には、引用例1記載の発明と、課題は共通するが、構成が異なる発明も記載されており、後者の発明について、「【0109】上記色ずれや抵抗変化の発生等の問題は、抵抗制御剤をエピクロルヒドリンゴムと無機フィラーの2元系とすることで解決することができる。これはエピクロルヒドリンゴムと無機フィラーとはそれぞれ抵抗制御剤として使用可能な物質であり、それぞれは一方が他方に対する代替物となる性質を有しているため、無機フィラー添加によりエピクロルヒドリンゴムの添加量を抑制できたことによる。また、前述の実施例と同様、この系においても無機フィラーの添加量が少量で前述のフィラーパスの形成確率が低く、従来問題とされた経時抵抗変化等の問題も発生することがない。」(摘記事項ク.)と記載されており、つまり「無機フィラーの添加が少量であれば、経時抵抗変化等の問題も発生することがない」ことが記載されており、引用例1記載の発明のポリフッ化ビニリデンではなく、エピクロルヒドリンゴムに関する記述とはいえ、合成樹脂に対し抵抗調整に関与する添加剤として無機フィラーを添加することに関する技術事項として、参考になる記載内容である。
また、一般的に、無機フィラーの添加が、主要な抵抗制御剤としてではなく、主要成分による効果を損なわない範囲での補助的な添加であるならば、経時抵抗変化等への影響が小さく抑えられることは自明のことでもある。

そうすると、引用例1記載の発明において、耐久性向上やベルトの伸びにくさ等を調整するために、各種のフィラーとして、金属ドープをしていない酸化亜鉛を選択して付加的に適量を添加することは、当業者であれば特に困難性はないというべきである。

そして、本願発明1では、「(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛を2?50質量%」とあるように、2質量%程度でもよく、それほど多い量でなく付加的な添加量という程度である。
ここで、例えば、引用例1記載の発明の「ポリフッ化ビニリデン100重量部に対しポリエーテルエステルアミドが20重量部の割合」に対し、補助的に3重量部程度の酸化亜鉛を添加したものが、ごく自然に想定されるが、これは、(a)ポリフッ化ビニリデン約84質量%、(b)導電剤としてのポリエーテルエステルアミド質量約14%、(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛約2質量%、その他成分0%、という割合になり、本願発明1に規定する割合の範囲内に入るものである。

また、引用例4,5の記載から、一般に、フィラーを添加し過ぎると、機械的特性(耐折性)が悪くなることは周知のことといえるので、機械的特性(耐折性)の観点から、「(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛」の添加量を制限することも当業者には自明といえる。

これらのことを勘案すると、引用例1記載の発明において、金属ドープをしていない酸化亜鉛を補助的なフィラーとして適量、添加して、相違点1に係る本願発明1のように構成することは、当業者がその通常の創作能力を発揮すれば容易になし得ることといわざるを得ない。

なお、本願発明1では、上記のように配合量を規定するが、その根拠は、意見書では『「該ポリフッ化ビニリデン、該ポリエーテルエステルアミド及び該酸化亜鉛以外の成分の含有量が11質量%以下」なる補正は、本願当初明細書の段落番号[0233]の表1中、実施例1、2、4、5、8、10及び11(補正後の実施例1?7)に係る電子写真用ベルト部材の成分(a)、(b)及び(c)以外の成分の含有量が11質量%以下であることに基づきます。』(平成20年12月5日付け意見書第3頁)と説明される。
しかしながら、成分(a)、(b)及び(c)以外の成分の含有量が11質量%という実施例はない。
すなわち、実施例の中から、成分(a)、(b)及び(c)以外の成分の含有量が0%でないもののみを書き出すと、次のとおりである。
実施例2:
G成分(電解質) 5%
L成分(シリコーン系内部離型剤)1%
合計は、6%。
実施例3:
K成分(40μmカーボンブラック)1.5%
実施例4:
C成分(ポリメタクリレート)14%
J成分(フェノール樹脂粒子)10%
M成分(リン系酸化防止剤) 1%
合計は、25%。
実施例6:
K成分(40μmカーボンブラック)8%
これら実施例には、合計して11質量%という例がないことは明らかであって、上限を11%とすることの根拠は明らかでなく、臨界的意義も認められない。
しかも、成分(a)、(b)及び(c)以外の成分といっても、実施例3のG成分(電解質)5%は、導電剤の範疇に含まれ、同じく導電剤の(b)ポリエーテルエステルアミド2%よりも、多く含有しているのである。
実施例4でも(これは、「その他成分」が合計で25%もあり、実施例といえないが、仮に実施例であるとして)、絶縁性フィラーの範疇に入るJ成分(フェノール樹脂粒子)10%は、(c)絶縁性フィラーとしての酸化亜鉛10%と同量も入っているばかりか、熱可塑性樹脂として、C成分(ポリメタクリレート)14%も入っているのである。
実施例6では、K成分(40μmカーボンブラック。これは通常、導電剤として使用される無機フィラーといえる。)を8%も含有しており、これが全体の性能に影響を与えないはずがない。
これらのことからわかることは、本願発明1では、「(a)、(b)及び(c)以外の成分」、すなわち「その他成分」の含有量が11質量%以下であると規定するのであるが、実際には、添加剤(b)(c)の作用効果に照らしてみた場合に単なる「その他成分」とはいえないものが、実施例には少なからずあるということである。したがって、本願発明1の規定は、その効果が必ずしも明確でないものが混じっていると考えられる。

(相違点2について)
本願発明1では、体積抵抗9×10^(5)Ω以上2×10^(10)Ω以下であるが、中間転写ベルトの厚さを100?300ミクロン程度とすると、体積抵抗率(比抵抗)Ω・cmに換算すると概略100倍大きい10^(8)?10^(12)Ω・cm程度の値になるところ、電子写真装置が備える中間転写ベルトの体積抵抗率を10^(8)?×10^(12)Ω・cm程度にすることは周知である。例えば、引用例4の表1、引用例5の【0025】を参照。また、引用例1の【0055】にも、体積抵抗率(比抵抗)から換算して体積抵抗1×10^(6)Ω?1×10^(13)Ωという範囲が示されている。
したがって、本願発明1のように、電子写真用ベルト部材の体積抵抗を9×10^(5)Ω以上2×10^(10)Ω以下とすることは、ベルトの用途や使用条件等に応じて、当業者が容易に設定し得ることである。

(相違点3について)
引用例1には、ポリフッ化ビニリデンとポリエーテルアミドを組合せた材料で中間転写ベルトを作成する例を示しているが(段落【0115】)、この例はベルトを単層にしたものということができる。
中間転写ベルトの作成において「ポリエーテルアミド」を「ポリエーテルエステルアミド」に代えた場合でもこれと同様に単層にすることは当業者が適宜なし得ることである。
また、引用例3,5,6には、環状ダイ(環状ダイス)から押し出してチューブ状のベルトを作成することが記載されている(なお、原審でも、審査官が文献を挙げており、この点は周知といえる。)。
そうすると、引用例1記載の発明において、本願発明1のごとく、環状ダイスから押出し成形して形成した、チューブ状の単層のベルトとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、引用例1?6に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?6に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-08 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-26 
出願番号 特願2001-283196(P2001-283196)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 泉 卓也  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 淺野 美奈
赤木 啓二
発明の名称 電子写真ベルト部材及び電子写真装置  
代理人 西山 恵三  
代理人 内尾 裕一  

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