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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1194245
審判番号 不服2007-6927  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2009-03-12 
事件の表示 特願2002-27826「軟質銅材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月15日出願公開、特開2003-226924〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年2月5日の出願であって、平成19年2月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年4月9日付けで手続補正がされたものである。

2.平成19年4月9日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年4月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正の内容
平成19年4月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、次の(1-1)から次の(1-2)のとおりに補正することを含むものである。

(1-1)
「潤滑液を供給しながら断面積が0.01mm^(2)以下になるように展延加工され、焼鈍調質された軟質銅材において、その軟質銅材中に存在する酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量が0.005重量%以下であるとともに、炭素と窒素の合計量が0.0015重量%以下であり、ビッカース硬度が50以下、上記ガス成分を除いた銅の含有量が99.98重量%以上の外径0.1mmφ以下の銅線であることを特徴とするボンディング線用軟質銅材。」

(1-2)
「潤滑液を供給しながら断面積が0.01mm^(2)以下になるように展延加工され、焼鈍調質された軟質銅材において、その軟質銅材中に存在する酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量が0.005重量%以下であるとともに、炭素と窒素の合計量が0.0015重量%以下であり、ビッカース硬度が50以下、銅純度が99.98重量%以上の外径0.1mmφ以下の銅線であることを特徴とするボンディング線用軟質銅材。」

(2)当審の判断
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記(1-2)のとおりであるところ、補正後の請求項1に記載された「銅純度」という補正事項は、補正前の請求項1に記載された「上記ガス成分を除いた銅の含有量」という事項を変更したものであるが、「銅純度」に関して、明細書の段落【0022】には、「純度が99.98重量%以上の銅」という記載があるものの、当該純度の定義については、記載されておらず、「純度」が「上記ガス成分を除いた銅の含有量」を意味するか否か不明である。
してみると、本件補正は、「上記ガス成分を除いた銅の含有量」という補正前の事項を不明瞭とするものであるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものとはいえない。
さらに、上記補正は、明らかに「請求項の削除」「特許請求の範囲の減縮」、または「誤記の訂正」を目的とするものともいえない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものとはいえないから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明についての審決
(1)本願発明
上記「2.」で示したように、平成19年4月9日付け手続補正は却下されたから、本願に係る発明は、平成18年12月28日付け手続補正書により補正された原査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものといえる。そうすると、請求項1に係る発明は、次のとおりの発明(以下「本願発明」という。)である。

「潤滑液を供給しながら断面積が0.01mm^(2)以下になるように展延加工され、焼鈍調質された軟質銅材において、その軟質銅材中に存在する酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量が0.005重量%以下であるとともに、炭素と窒素の合計量が0.0015重量%以下であり、ビッカース硬度が50以下、上記ガス成分を除いた銅の含有量が99.98重量%以上の外径0.1mmφ以下の銅線であることを特徴とするボンディング線用軟質銅材。」

(2)原査定の理由の概要
一方、原査定の理由の一つの概要は、「本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記刊行物1?3に記載された発明に該当するから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。」というものである。



1.特開昭62-78861号公報
2.特開昭62-104061号公報
3.特開平3-6033号公報

(3)刊行物とその主な記載事項
原査定の理由で引用された刊行物1及び刊行物2には、それぞれ、次の事項が記載されている。

(3-1)刊行物1:特開昭62-78861号公報
(1a)「高純度銅中の水素及び酸素の合計含有量を5ppm以下とすることであり、5ppmを越えると硬度が増してボンディング時にシリコンチップを損傷し、使用が不能となる。」(第2頁左上欄第1?4行)

(1b)表(1)には、99.999wt%のCuのガス含有量ppmと硬度(HV)が表示されており、ガス含有量ppmが、1,3,5 のものについて、それぞれ、硬度(HV)が、43,46,50 と表示されている。(第2頁右上欄表(1))

(3-2)刊行物2:特開昭62-104061号公報
(2a)「1)銅純度が99.999重量%以上で、硫黄含有量が0.0005重量%以下の高純度銅から成ることを特徴とする半導体素子用ボンディング線。
2)銅純度が99.999重量%以上で、硫黄含有量が0.0005重量%以下の高純度銅を溶解鋳造し、その鋳塊を圧延した後、常温で伸線加工を行ない最終線径を200?15μmφの銅細線とし、連続焼鈍又は、バッチ焼鈍を施して銅細線の自己軟化を防止することを特徴とする半導体素子用ボンディング線およびその製造方法。」(第1頁左下欄の特許請求の範囲)

(2b)「実施例1
以下、第1発明の実施例と比較例および純金細線の従来例によって本発明を更に詳細に説明する。
第1表に示す化学成分の高純度銅を溶解鋳造し、その鋳塊を圧延した後、常温で伸線加工を行ない、最終線径を25μmφの銅細線とし、不活性ガス雰囲気で連続焼鈍(温度250?500℃、線速10?100m/分)して銅細線を軟質に調質する。
勿論、バッチ焼鈍を施してもよい。得られた銅細線と25μmφ純金細線の従来例とについて、それぞれ常温引張特性、ボンディング特性および銅電率を測定した結果を第2表に示す。
常温引張特性は引張試験によってその破断荷重を測定し、ボンディング特性におけるボールの形状、ボールの硬さ、ループ形状などの判定は、公知のボンディングマシンを使用して不活性のアルゴンガス雰囲気のもと、電気トーチ放電によって得たボールを走査電子顕微鏡(×500倍)で観察して行ない、ボールの硬さはケイ素半導体素子上の電極と外部リードとの圧着接続を行なった後、半導体素子の損傷の有無により判定し、更に接合強度はループの中央にフックをかけてその破断荷重を測定することにより行なった。
結果からわかるように、実施例No.1およびNo.2は、ボールの形状、ボールの硬さ、ループの形状とも従来例No.6(純金細線)と同一の挙動を示し、又、常温の引張特性とボンディング特性の接合強度においては従来例No.6よりすぐれていることがわかる。」(第2頁右下欄第17行目?第3頁右上欄第8行目)

(2c)第1表には、高純度銅の化学成分(%)が表示されており、実施例のNo.1には、S:4.8×10^(-4)、他の不純物:5×10^(-4)、Cu:残部と表示されている。(第4頁下欄第1表)

(2d)第2表には、ボンディング特性としてボールの硬さが表示されており、実施例のNo.1には、ボールの硬さがケイ素半導体に損傷を与えないボール硬さを表す○が表示されている。(第4頁下欄第2表)

(4)当審の判断
(4-1)引用刊行物に記載の発明
上記刊行物2の(2a)の「半導体素子用ボンディング線」という記載によれば、刊行物2には、ボンディング線について記載されているといえる。また、このボンディング線は、(2b)の「銅細線を軟質に調質する。」という記載によれば、軟質な銅細線といえるし、この軟質な銅細線は、軟質銅材と言い換えることができる。そして、この軟質銅材がボンディング線に用いられるといえるから、上記刊行物2には、ボンディング線用軟質銅材について記載されているといえる。
このボンディング線用軟質銅材は、(2b)の「最終線径を25μmφの銅細線」という記載によれば、外径は25μm、すなわち0.025mm、断面積は、円周率を3.14として計算すると、0.000491mm^(2) といえる。また、このボンディング線用軟質銅材は、(2b)の「高純度銅を溶解鋳造し、その鋳塊を圧延した後、常温で伸線加工を行ない、最終線径を25μmφの銅細線とし、不活性ガス雰囲気で連続焼鈍(温度250?500℃、線速10?100m/分)して銅細線を軟質に調質する。」という記載によれば、伸線加工され、焼鈍調質されたものといえる。更に、このボンディング線用軟質銅材は、(2a)の「銅純度が99.999重量%以上で、硫黄含有量が0.0005重量%以下の高純度銅から成ることを特徴とする半導体素子用ボンディング線。」という記載によれば、硫黄含有量、言い換えれば硫黄のガス成分量が0.0005重量%以下で、銅純度、言い換えれば銅の含有量が99.999重量%以上であるといえる。
以上の記載及び記載から認定した事項を本願発明の記載ぶりに則り整理すると、刊行物2には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「断面積が0.000491mm^(2)になるように伸線加工され、焼鈍調質された軟質銅材において、その軟質銅材中に存在する硫黄のガス成分量が0.0005重量%以下であり、銅の含有量が99.999重量%以上の外径0.025mmの銅線であるボンディング線用軟質銅材。」

(4-2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「展延加工」は、段落【0012】の実施例によれば、伸線加工であるから、引用発明の伸線加工は展延加工といえる。そうすると、両者は、

「断面積が0.000491mm^(2)になるように展延加工され、焼鈍調質された軟質銅材において、銅の含有量が99.999重量%以上の外径0.025mmの銅線であるボンディング線用軟質銅材。」の点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点(イ):
展延(伸線)加工が、本願発明は、「潤滑液を供給しながら」されるのに対して、引用発明は、潤滑液を供給しながらであるか、否か不明である点

相違点(ロ):
軟質銅材中に存在するガス成分について、本願発明は、「酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量が0.005重量%以下であるとともに、炭素と窒素の合計量が0.0015重量%以下」であるのに対して、引用発明は、「酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量が0.005重量%以下であるとともに、炭素と窒素の合計量が0.0015重量%以下」であるか否かについて不明である点

相違点(ハ):
軟質銅材の硬さが、本願発明は、「ビッカース硬度が50以下」であるのに対して、引用発明は、不明である点

(4-3)相違点についての判断
次に、これらの相違点について検討する。
(4-3-1)相違点(イ)について
外径0.025mmの伸線加工を行うにあたり、潤滑液を供給しながら行うことは、本出願前当業者の技術常識といえるから、引用発明の軟質銅材も、潤滑液を供給しながら伸線加工されたものといえる。
してみると、上記相違点(イ)は、実質的なものとはいえない。

(4-3-2)相違点(ロ)について
引用発明の軟質銅材中に存在する硫黄のガス成分量が0.0005重量%以下である上記ガス成分、すなわち硫黄のガス成分を除いた銅の含有量が99.999重量%以上であるから、硫黄を含めて他の成分は、0.001重量%未満といえる。そうすると、酸素、炭素、窒素、硫黄のガス成分合計量は、最多でも0.001重量%未満であるから、明らかに0.005重量%以下といえる。
また、引用発明の具体例である(2c)の、No.1の軟質銅材には、Sが0.00048重量%含まれており、上述したように、硫黄を含めて他の成分は、0.001重量%未満であり、硫黄が0.00048重量%であるから、硫黄以外の他の成分は、0.00052重量%未満であるといえる。そうすると、炭素と窒素の合計量は、明らかに0.0015重量%以下といえる。
してみると、上記相違点(ロ)は、実質的なものとはいえない。

(4-3-3)相違点(ハ)について
引用発明の軟質銅材は、刊行物2の(2d)に、ボンディング特性としてボールの硬さは、ケイ素半導体に損傷を与えないボールの硬さであることが示されており、刊行物1の(1a)の「高純度銅中の水素及び酸素の合計含有量を5ppm以下とすることであり、5ppmを越えると硬度が増してボンディング時にシリコンチップを損傷し、」という記載、及び(1b)のガス含有量ppmが、1,3,5 のものについて、それぞれ、硬度(HV)が、43,46,50 という表示によれば、ケイ素半導体に損傷を与えないボールの硬さとは、Hv50以下といえるから、引用発明のケイ素半導体に損傷を与えないボールの硬さの軟質銅材の硬さも、Hv50以下といえる。
してみると、上記相違点(ハ)は、実質的なものとはいえない。

(4-4)小括
したがって、本願発明は、引用発明と同一といえる。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-07 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-26 
出願番号 特願2002-27826(P2002-27826)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (C22C)
P 1 8・ 113- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 真明鈴木 毅近野 光知  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 青木 千歌子
平塚 義三
発明の名称 軟質銅材  
代理人 鳥居 和久  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鳥居 和久  
代理人 鎌田 文二  
代理人 東尾 正博  
代理人 東尾 正博  

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