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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F22B
管理番号 1194333
審判番号 不服2006-20382  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-14 
確定日 2009-03-11 
事件の表示 平成10年特許願第347846号「ボイラ缶水中の水処理剤の濃度管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月16日出願公開、特開2000-161605〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年11月20日の出願であって、平成18年7月20日付けで拒絶査定がなされ(同年8月15日発送)、同年9月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

そして、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年5月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「有機酸またはその塩および糖類のうちの少なくともいずれか一つを含む水処理剤を添加するボイラにおけるボイラ缶水中の水処理剤の濃度管理方法であって、ボイラ給水またはボイラ缶水に前記有機酸またはその塩および前記糖類のうちの少なくともいずれか一つと反応する酵素を添加し、この酵素反応の前後の吸光度を比較することによって前記ボイラ給水または前記ボイラ缶水中の前記水処理剤の濃度を測定し、その測定値に基づいて、前記水処理剤の濃度を所定濃度に調節することにより、前記有機酸またはその塩のボイラ缶水中における濃度を5?2000ppmとなるように管理し、また前記糖類のボイラ缶水中における濃度を10?3000ppmとなるように管理することを特徴とするボイラ缶水中の水処理剤の濃度管理方法。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開平6-153990号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分を含み、水系に添加して使用する水処理用薬剤の濃度測定方法であって、上記有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分に作用する酵素を測定試料に添加し、この酵素反応の前後の吸光度を比較することによって、測定試料中の水処理用薬剤の濃度を測定することを特徴とする水処理用薬剤の濃度測定方法。」(特許請求の範囲の【請求項1】)

イ.「【産業上の利用分野】この発明は、主として、ボイラ、冷却塔等の水系に添加する水処理用薬剤の濃度の測定方法であって、有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分を含んだ水処理用薬剤の濃度測定方法に関するものである。
【従来の技術】周知のように、ボイラや、冷却塔等の冷熱機器用の水系には、不純物による障害を回避し、装置を効率的に運転するために、腐蝕防止剤、スケール防止剤等の、各種水処理用薬剤が添加されている。この種水処理用薬剤は、その対象とする水質に応じた濃度となるようにその添加量を調節して用いられるが、送水量の変動や薬注装置の不具合等によって、濃度が適正値になってない場合がある。そこでこれらの水処理用薬剤の添加量を管理をするために、水を採取し、その試料中の水処理用薬剤の濃度を迅速に測定する必要が生じる。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、そのような濃度の測定方法は水処理用薬剤によって確立していないものがあり、若しくは測定できるものの中には操作が煩雑であったり時間の要するものがある。例えば、上記のような水処理用薬剤は、数十?数百ppm 程度の低濃度で用いらており、亜硫酸塩、クロム酸塩等の無機塩やヒドラジン等を用いた水処理用薬剤では、上述のような低濃度での測定方法が確立しており(JISで規定)、容易に短時間で測定できる。一方、近年、水質汚染等に関する諸問題が重要視される中、上記のような水処理用薬剤においても安全性に対する要求が高く、有機酸や糖類を主成分として用いたものが多くなってきており、このような成分の水処理用薬剤では、液体クロマトグラフィー等のような測定に長時間を要する測定器を用いるしかなかった。
また、一方では、種々のトレーサを用いて水処理用薬剤の濃度を管理する方法が提案されているが、薬剤中のトレーサにより用水が着色されたり(トレーサとして染料を用いる場合)、測定装置が高価であったり、又その場で迅速に測定できない等の欠点があり、また、水処理用薬剤に新たに成分を追加することでコストが上昇するという問題も生じる。」(段落【0001】?【0004】)

ウ.「先ず、測定しようとする水を採取し、吸光度を測定する。」(段落【0010】)

エ.「【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分を含んでなる水処理用薬剤の濃度を測定するに当たり、上記有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分に作用する酵素を測定試料に添加し、この酵素反応の前後の吸光度を比較することによって測定試料中の水処理用薬剤の濃度を測定するため、従来の液体クロマトグラフィー等の高価な測定器を用いる必要がなく、酵素の特異性、並びに、反応の迅速性により、確実に、しかも、迅速に、試料中の水処理用薬剤の濃度を測定することができる。このことは、ボイラ、冷却塔等の熱機器の水管理を行う上で、水処理用薬剤の投入装置の不具合等により規定量が投入されないといった問題を解消することができる。」(段落【0017】)

また、
摘示事項イの【従来の技術】として「この種水処理用薬剤は、その対象とする水質に応じた濃度となるようにその添加量を調節して用いられるが、送水量の変動や薬注装置の不具合等によって、濃度が適正値になってない場合がある。そこでこれらの水処理用薬剤の添加量を管理をするために、水を採取し、その試料中の水処理用薬剤の濃度を迅速に測定する必要が生じる。」の記載、
摘示事項イの【発明が解決しようとする課題】として「種々のトレーサを用いて水処理用薬剤の濃度を管理する方法が提案されているが、」の記載、
摘示事項ウの【発明の効果】として「確実に、しかも、迅速に、試料中の水処理用薬剤の濃度を測定することができる。このことは、ボイラ、冷却塔等の熱機器の水管理を行う上で、水処理用薬剤の投入装置の不具合等により規定量が投入されないといった問題を解消することができる。」の記載によれば、
引用例において、迅速に水処理用薬剤の濃度測定を行うのは、水系の水処理用薬剤の濃度が適正値となるように添加量を調節し管理するためであることが示唆されているといえる。
してみれば、引用例には、ボイラの水系の水処理用薬剤の濃度の測定値に基づいて、ボイラの水系の水処理用薬剤の濃度を適正な濃度となるように添加量を調節するボイラの水系中の水処理用薬剤の濃度管理方法が実質的に記載されているといえる。

そうすると、上記摘示事項の記載からみて、引用例には、次の発明(以下「引用例発明」という。)が記載されている。

「有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分を含み、ボイラの水系に添加して使用する水処理用薬剤の濃度管理方法であって、上記有機酸又はその塩、糖類のうちの少なくとも一つの成分に作用する酵素をボイラの水系の測定試料に添加し、この酵素反応の前後の吸光度を比較することによって、ボイラの水系の測定試料中の水処理用薬剤の濃度を測定し、その測定値に基づいて、前記水処理用薬剤の濃度を適正な濃度となるように調節することにより、ボイラの水系中の前記水処理剤の濃度を管理するボイラの水系中の水処理用薬剤の濃度管理方法。」

3.対比
本願発明と引用例発明とを対比すると、引用例発明における「水処理用薬剤」は本願発明の「水処理剤」に相当する。
また、「ボイラ給水」及び「ボイラ缶水」は「ボイラの水系」に包含されるものであるから、引用例発明の「ボイラの水系」と、本願発明の「ボイラ給水」及び「ボイラ缶水」は、共に「ボイラの水系」といえる。

したがって、両者は、
「有機酸またはその塩および糖類のうちの少なくともいずれか一つを含む水処理剤を添加するボイラにおけるボイラ水系中の水処理剤の濃度管理方法であって、ボイラの水系に前記有機酸またはその塩および前記糖類のうちの少なくともいずれか一つと反応する酵素を添加し、この酵素反応の前後の吸光度を比較することによって前記ボイラの水系中の前記水処理剤の濃度を測定し、その測定値に基づいて、前記水処理剤の濃度を所定濃度に調節することにより、ボイラの水系中の前記水処理剤の濃度を管理することを特徴とするボイラの水系中の水処理剤の濃度管理方法。」で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
測定の対象が、本願発明では、ボイラ給水中またはボイラ缶水中の水処理剤の濃度であるのに対し、引用例発明ではボイラの水系中の水処理剤の濃度である点。

[相違点2]
本願発明では、有機酸またはその塩のボイラ缶水中における濃度を5?2000ppmとなるように管理し、また糖類のボイラ缶水中における濃度を10?3000ppmとなるように管理するボイラ缶水中の水処理剤の濃度管理方法であるのに対し、引用例発明では、このような濃度管理を行うかどうかは不明である点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点1について
「ボイラ給水」及び「ボイラ缶水」は「ボイラの水系」に包含されるものであり、引用例発明において、ボイラの水系であるボイラ給水中またはボイラ缶水中の水処理剤の濃度を測定することは単なる設計的事項にすぎない。

相違点2について
本願発明が、ボイラ缶水中の水処理薬剤濃度を相違点に係る濃度範囲に特定したのは、本願の明細書段落【0022】に「この濃度範囲内では、水処理剤としての効果が充分に発揮されるが、下限値未満では、水処理剤としての効果が充分発揮されない。また、上限値を超えると、ボイラ缶水の電気伝導度が過度に上昇して、キャリーオーバーという弊害が発生するとともに、水処理剤の注入量が必要量以上に増えて、経済的に好ましくない。」と記載されているような理由であるからと理解される。
しかし、ボイラにおいて、腐食防止やスケール付着防止の薬液を注入する場合に、少なくとも薬液としての効果が発揮できるように、かつ、キャリーオーバーが発生しないようにするとともに、薬液の注入量が必要量以上に増えて無駄にならないように、ボイラ缶水中の薬液を適正な濃度範囲に管理することは、本願出願前周知〔例えば、特公平5-54003号公報(3欄3行?4欄3行)、実公平7-11296号公報(2欄11行?3欄44行)、特公平6-58162号公報(3欄1行?4欄7行)等を参照〕の事項である。
してみれば、引用例発明において、水処理薬剤の効果が十分に発揮され、かつ、経済的であり、キャリーオーバーが起きないように、ボイラの水系のうちのボイラ缶水中の濃度を最適な範囲に管理することは当業者であれば当然考慮し得たことである。
また、相違点2に係る水処理剤の限定された濃度は、ボイラ水として通常用いられている濃度であり〔必要であれば、特開平3-47982号公報(3頁右下欄17行?4頁左上欄4行「(ロ)成分…クエン酸…リンゴ酸…」、4頁右上欄5?6行、9頁左下欄13?14行、表2等の(ロ)成分)、特開平6-108274号公報(請求項2の「ボイラ水中…糖類より選ばれる少なくとも1種以上の天然化合物を20?500mg/l」)等を参照〕、格別なものではない。
したがって、キャリーオーバーが起きないようにするため等の上記周知事項を勘案しつつ、引用例発明において、相違点2に係る水処理剤の限定された濃度範囲を選択することは、当業者であれば通常の創作力の範囲で適宜なし得た程度のことであると認められる。

そして、本願発明が奏する作用、効果は、引用例発明及び周知事項に基づいて、当業者が予測することができたものである。
したがって、本願発明は、引用例発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-06 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-26 
出願番号 特願平10-347846
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長浜 義憲
長崎 洋一
発明の名称 ボイラ缶水中の水処理剤の濃度管理方法  

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