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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1194337 |
審判番号 | 不服2006-27895 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-12-11 |
確定日 | 2009-03-11 |
事件の表示 | 特願2004-125361「カドヘリン物質および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-254702〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成5年4月19日に国際出願された特願平5-518666号(優先権主張1992年4月17日、米国)の一部を、平成15年2月20日に新たな特許出願とした特願2003-042086号の一部を、平成16年4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成18年9月8日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年12月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年1月10日に願書に添付した明細書について手続補正がなされ、さらに平成19年12月21日付で審尋がなされ、平成20年6月25日に回答書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成19年1月10日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明1」という。) 「【請求項1】 配列番号:58に記載のアミノ酸配列で表されるカドヘリン-11をコードする精製および単離されたポリヌクレオチド。」 3.原査定の理由 本願発明1と同一である、平成19年1月10日の手続補正前の請求項1に係る発明を含む、当該補正前の請求項1?19に係る発明について、原審の平成17年11月2日付の拒絶理由通知書は、以下の拒絶の理由を指摘している。 理由4: 引用文献1(Cell Regulation,1991,2,p.261-270)の記載および本優先権主張日前の周知技術を基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.理由4(特許法第29条第2項の要件)についての判断 (1)引用例 引用例1(Cell Regulation,1991,2,p.261-270)には、以下のような記載がある。 (a)「カドヘリンファミリーの多様性を考察するため、我々は、脳及び網膜cDNA調製物から、PCR法を用いて、cDNAを単離した。得られた産物は、3つの既知のカドヘリンのうち2つと、さらに8つの異なるカドヘリンのcDNAも含んでおり、その推定アミノ酸配列は、既知のカドヘリンの配列とかなり類似していた。この8つのうち6つに対応する、より長いcDNAクローンが、ヒトcDNAライブラリーから単離された。その推定アミノ酸配列はこれらの分子の全体の構造が、既知のカドヘリンと非常に類似しており、これらの分子がカドヘリンファミリーの新規なメンバーであることを示している。我々は、暫定的に、これらのカドヘリンをカドヘリン-4から-11と名付けた。この新しい分子は、カドヘリン-4を除き、既にクローン化されているカドヘリンから、グループとして区別される特徴を示し、カドヘリンの新たなサブファミリーに属するものであろう。ノーザンブロット分析は、これらのカドヘリンの多くが主に脳で発現しているが、いくつかは、他の組織でも同様に発現していることを示した。これらの発見は、接着分子のカドヘリンファミリーが、従来考えられていたよりもかなり大きいことを示し、新しいカドヘリンが中枢神経系における細胞間の相互作用において、重要な役割を演じているであろうことを示唆する。」(261頁要約) (b)「PCR法が新規カドヘリンに対するcDNAの単離において用いられた。2つの高度に保存された細胞質領域のアミノ酸配列が、種々のカドヘリンの比較により選択され、対応する縮重オリゴヌクレオチドが合成された(第1図)。PCRは、混合オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、ラット脳及びラット網膜cDNA調製物をテンプレートとして使用して行われた。得られた生産物は、160nt以下のサイズのものであって、単離後、M13ベクターにサブクローニングされた。約75のクローンが単離され、配列決定された。その配列によって、10の異なるタイプのcDNAクローンであって、別個のアミノ酸配列をコードするものが、既知のカドヘリンの細胞質領域と相同であることが判明した(第2図)。類似のcDNAをラットの肝臓、肺、腎臓、及び皮膚から単離しようとする試みによって、さらに、皮膚のcDNAから別個のクローン(クローン3)が得られた。相同なクローンが、クローン7及び9を除き、ヒト胎児及び成人の脳cDNA調製物から得られた。推定アミノ酸配列からみて、クローン1、2及び3は、ラットのN-、E-、及びP-カドヘリンに対応している。残りの8つのcDNAタイプで定義される分子は、これらの配列が、既知のカドヘリンの配列と強い相同性を示すが、別個のものであることから、新規なカドヘリンであろう。 新規カドヘリンと思われるものに対応する、より大きなcDNAを単離するために、我々は、ヒト胎児脳cDNAライブラリーを、PCRにより得られた短いcDNAをプローブとして用いてスクリーニングし、得られたクローンの配列を決定した。」(262頁左欄下から10行?右欄下から13行) (c)塩基配列5‘-GAATTCACNGCNCCNCCNTAYGA-3’からなるプライマーI、及び塩基配列5‘-AARTTYTTYRANCGNCTCTTAAG-3’からなるプライマーII(図1) (d)「残りの5つのカドヘリンと思われるものに対応するクローンは、該分子の部分配列のみを含んでいた。しかし、細胞外領域の配列が一部切り取られているにも関わらず、これらの配列は、カドヘリン細胞外領域の反復配列を、他のクローニングされたカドヘリンと同じ順序で含んでいることが明らかである(図4)。さらに、それらの細胞質領域は、その大きさにおいて類似しており、既に報告されているカドヘリンの配列と高い相同性を示す(図5)。これらの特徴は、該cDNAで定義される分子を、新規なカドヘリンファミリーとして位置づけるものである。…我々は、暫定的に、これら8つの分子をラットクローン4乃至11に対応して、各々、カドヘリン-4乃至-11と名付けた。」(263頁左欄下から2行?右欄下から7行) (e)ヒトカドヘリン-11の細胞外領域のアミノ酸配列(図4のEC3?EC5) (f)ヒトカドヘリン-11の膜貫通領域のアミノ酸配列(図5のTM) (g)ヒトカドヘリン-11の細胞質領域のアミノ酸配列(図5のCP) (h)「現在、我々は、前述の新規カドヘリンの全コーディング配列を含むcDNAを取得しようとしているところである。」(268頁右欄15?18行) (i)「ライブラリーのスクリーニングとDNAの配列決定 ヒト胎児cDNAライブラリ(ストラタジーン社、 ラホ-ヤ、CA)は、…32PでラベルされたcDNAプローブでスクリーニングされた。」(268頁右欄下から3行?269頁2行) (2)本願発明1に係る進歩性の判断 (2-1)本願発明1と引用例1に記載された技術的事項との対比 本願発明1と引用例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、両発明は、カドヘリン-11をコードするポリヌクレオチドであり、本願明細書の配列番号:58のアミノ酸配列のうちの269?796のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド部分を有している点で一致するが、後者が、そのN末端側の268アミノ酸が欠失した528アミノ酸からなる配列をコードするものであるのに対し、前者が、その全長796アミノ酸からなる配列をコードするものである点で相違している。 (2-2)判断 相違点について判断する。 引用例1には、本願の実施例1Bに記載されたプライマー1及び2と同じ配列からなるプライマーI及びIIを使用して、実施例1で使用したものと同様のライブラリーである、ラットの脳及び網膜のcDNAライブラリーにおいて、PCRを行い、カドヘリン-11を含む新しい8つのクローンを取得したことが記載されている(前記4(1)(a)?(c)の記載を参照)。そして、さらにこのプライマーI及びIIを用いてPCR法によって増幅された短いcDNAをプローブとして使用して、ストラタジーン社製のヒトの胎児脳cDNAライブラリーをスクリーニングして、ラットのカドヘリン-11に対応するポリペプチドをコードするヒトcDNAを単離したことが記載されており(前記4(1)(a)?(d)、(i)の記載を参照)、その方法は、まさに本願の発明の詳細な説明中に実施例2として記載された方法に他ならない。 すなわち、引用例1に記載された、ヒトカドヘリン-11の細胞外領域の一部が欠如した528アミノ酸からなるポリペプチドに対応するcDNAのクローニング方法は、本願明細書に記載されているヒトカドヘリン-11の全長796アミノ酸に対応するcDNAのクローニング方法となんら変わるところはない。そして、本願明細書の記載において、本願発明1のヒトカドヘリン-11をコードする全長のポリヌクレオチドのクローニングのために、引用例1とは異なる独自に工夫した点は認められず、どのような困難をいかなる手法により解決したのかは、全く明らかにされていない。 したがって、ヒトカドヘリン-11の全長796アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである本願発明1は、引用文献1に記載されたクローニング方法をそのまま実施することにより得られ、常法により、そのコードするアミノ酸配列を決定したものに過ぎないから、当業者が引用例1の記載に基づき容易に発明することができたものであるといわざるを得ない。 (3)審判請求書及び審尋回答書における請求人の主張について 請求人は、審判請求書の理由を補充する手続補正書、及び、平成19年2月15日付け審尋に対する平成19年8月20日回答書において、以下のように主張している。 (主張1)全長DNA配列の一般的なクローニングの困難性 一般的に、タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部分だけをもってして、特定の全長DNA配列とそれがコードするアミノ酸配列を容易かつ正確に取得することは非常に困難であり、換言すれば、カドヘリン-11を構成する全長ポリペプチドとそれをコードする全長ポリヌクレオチド配列のいずれもが、引例に開示されたカドヘリン-11を構成するアミノ酸配列の一部分からは予測できないものである。 また、遺伝コードの縮重などの予測不可能な要素の存在をも考慮すれば、たとえ当業者であっても、引例に開示されたカドヘリン-11のアミノ酸配列の一部分を再現できる可能性すら疑義があり、ましてや、本願発明のカドヘリン-11の全長ポリペプチドをコードする全長ポリヌクレオチドを再現することなどは到底おぼつかない。 (主張2)カドヘリン間の相同性が低いことによるクローニングの困難性 本願実施例3に記載のとおり、カドヘリン-11が、わずか約30%の配列相同性しか有しておらず、また、従来公知のカドヘリン(例えば、E-、N-、P-、T-およびV-カドヘリン)の全長アミノ酸配列とは、全体構造が明らかに相違している。 よって、引例の開示を頼りにする限りは、たとえ当業者であっても、公知のカドヘリンを構成するアミノ酸配列との間の低い相同性をも念頭に置きながら、さらに約300個ものアミノ酸を新たに推定または決定するという作業、つまりは、相応の試行錯誤が必要となり、本願発明の全長ポリヌクレオチドを容易かつ正確に取得することは不可能である。 しかしながら、(主張1)については、例えば優先日当時の技術常識を示す分子生物学の教科書の1つである Watson,J.D.著,ワトソン 遺伝子の分子生物学 第4版[下],(1990年),株式会社トッパン,p.611-613には、「あまり、大量に存在しないmRNAから合成したcDNAの同定は、さらにむずかしい。合成されるタンパク質を直接さがしだすとしたら、数百から数千ものクローンを調べる必要があり、こんな法外な費用のかかる仕事は企業にしかできない。しかし、対象とするタンパク質について部分的にもアミノ酸配列がわかっていれば、かなり大幅な簡略化が可能になる。アミノ酸配列がわかっていると、それに対応するmRNA(DNA)の塩基配列を推定できる。アミノ酸には1種を除いて複数のコドンがある(第15章参照)ので、アミノ酸配列から塩基配列を正確に決めることはできないが、出現頻度の少ないアミノ酸を主に含む配列に注目すれば、そのうちの1つが目的のDNA断片と正確な相補性をもつようなオリゴヌクレオチドをいくつか決めることができる(図19-18)。」と記載されているように、優先日当時にすでに、対象とするタンパク質について部分的にもアミノ酸配列がわかっていれば、cDNAの同定はかなり大幅な簡略化が可能になることは技術常識であった。 そして、優先日当時の技術常識を示す実験マニュアルの1つである M.A.イニス編, PCR実験マニュアル,1991年12月12日, HBJ出版局, p.41-46に記載されている、既知のアミノ酸配列をもとに、アミノ酸から考えられるあらゆるプライマーの組み合わせを作成しcDNAライブラリーのスクリーニング法を改善するMOPAC法は、優先日当時周知であったといえる。 よって、引用例1に記載されているように、タンパク質を構成するアミノ酸配列の半分以上の部分が公知であれば、上述の周知技術を用いて本願発明1に係るポリヌクレオチドをクローニングすることに格別の困難性があったとはいえない。出願人による、「一般的に、タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部分だけをもってして、特定の全長DNA配列とそれがコードするアミノ酸配列を容易かつ正確に取得することは非常に困難」という主張は、その根拠を欠いている上、上記技術常識に照らし妥当なものでもない。 そして、一度クローニングに成功すれば、得られたポリヌクレオチドの配列決定をすることには何ら困難性はなく、核酸配列は得られたポリヌクレオチドの化学構造という属性に過ぎない。本願発明1に係るポリヌクレオチドが、部分配列を基に全長配列を予測することとは関係ない方法でクローニングできる以上、本願発明1に係るポリヌクレオチドの全長配列が、引用例1に記載の部分配列から予測できるか否かは、本願発明1が引用例1から容易になし得たかとは無関係である。 また、「遺伝コードの縮重などの予測不可能な要素の存在」は、出願前の技術常識である「アミノ酸から考えられるあらゆるプローブやプライマーの組み合わせ」を用いることによって、十分に克服可能であると認められる。 よって、出願人の(主張1)を採用することはできない。 また、(主張2)については、上述のとおり、すでに引用例1にカドヘリン-11の部分アミノ酸配列が明らかにされている以上、優先日当時の技術常識を用いて、アミノ酸から考えられるあらゆるプローブやプライマーの組み合わせを用いて、cDNAライブラリーのスクリーニングをすればよく、相同性が低いことが分かり切っている他のカドヘリンの配列に依拠してクローニングをする必要がそもそもないのである。 したがって、出願人の主張するような「引例の開示を頼りに」して、「公知のカドヘリンを構成するアミノ酸配列との間の低い相同性をも念頭に置きながら、さらに約300個ものアミノ酸を新たに推定または決定するという作業」は、優先日当時の技術水準からみて必要ではない。 よって、出願人の(主張2)も採用することはできない。 以上のとおりであるから、請求人のこれらの(主張1)乃至(主張2)はいずれも採用することができない。 (5)結論 したがって、本願発明1は、当業者が引用例1に記載された技術的事項並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4.付記 本出願の原出願である特願5-518666号の請求項1に係る発明は、当該出願の拒絶査定不服審判(不服2003-12775号、平成16年5月19日、請求不成立審決確定)の審判請求に伴い提出された平成15年8月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。(以下、「原出願発明1」という。) 「【請求項1】 配列番号:58に記載のアミノ酸配列からなるカドヘリン-11ポリペプチドをコードする、ことを特徴とする精製および単離されたポリヌクレオチド。」 したがって、すでに別の審判事件においてその特許性の審理が終了している原出願発明1と本願発明1とは、その構成に相違点はない。 本願は、平成5年4月19日に国際出願された原出願(特願平5-518666号)の一部を、新たな特許出願とした出願の一部を、新たな特許出願としたものであって、原出願と本願の出願日は同一であるから、原出願発明1及び本願発明1の同一の発明について同日に二以上の特許出願があったことになるため、特許出願人の協議が必要となるが、原出願については、平成16年1月6日付けで拒絶をすべき旨の審決がなされ、当該審決は確定しているため、協議をすることができない。 したがって、本願は平成6年改正前特許法第39条第2項の規定によっても特許を受けることができないものであることを付言する。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-10-03 |
結審通知日 | 2008-10-07 |
審決日 | 2008-10-23 |
出願番号 | 特願2004-125361(P2004-125361) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 潤也 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
鈴木 恵理子 上條 肇 |
発明の名称 | カドヘリン物質および方法 |
代理人 | 角田 嘉宏 |