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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1194344
審判番号 不服2007-20307  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-20 
確定日 2009-03-11 
事件の表示 特願2005-271564号「ねじ付きアルミニウム缶およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 62755号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年11月21日を国際出願日とする特願平8-517046号(優先権主張1994年11月22日 米国)の一部を平成17年9月20日に新たな特許出願としたものであって、平成19年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成19年7月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
2-1.本件補正
本件補正は、【特許請求の範囲】の【請求項1】の
「厚さが薄いハードテンパー金属から製られた軽量の再密閉可能な金属缶(90,104,106)であって、該金属缶は、
金属缶(90,104,106)の製造に使われるべき、缶本体(91)の底部(95)を有し、
前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁(93)の下部に続いており、
前記側壁が、切頭円錐形部(94)に一体に続いており、
前記切頭円錐形部(94)は、上部に缶本体(91)よりも直径の小さい円筒部(97)に一体に続いており、
切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さは、側壁(93)の下部より厚く形成されており、
金属缶(90,104,106)は、金属缶の上端部に形成したビード(100)と、
該ビード(100)下方の円筒部(97)に形成され、クロージャを受けとめて缶(90,104,106)を密閉する様になっているねじ(99)と、
ねじ(99)の下方に配置された環状ビード(101)、
とを有している再密閉可能な金属缶。」

「厚さが薄いハードテンパー金属から製られた軽量の再密閉可能な金属缶(90,104,106)であって、該金属缶は、
金属缶(90,104,106)の製造に使われるべき、缶本体(91)の底部(95)を有し、
前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁(93)の下部に続いており、
前記側壁が、切頭円錐形部(94)に一体に続いており、
前記切頭円錐形部(94)は、上部に缶本体(91)よりも直径の小さい円筒部(97)に一体に続いており、
切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さは0.17?0.22mmであり、側壁(93)の下部は0.11?0.17mmであり、
金属缶(90,104,106)は、金属缶の上端部に形成したビード(100)と、
該ビード(100)下方の円筒部(97)に形成され、クロージャを受けとめて缶(90,104,106)を密閉する様になっているねじ(99)と、
ねじ(99)の下方に配置された環状ビード(101)、
とを有している再密閉可能な金属缶。」
とする補正を含んでいる。(下線部分は補正により追加・変更された記載を示す。)
この補正は、補正前の請求項1に記載された「切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さ」について「0.17?0.22mm」と限定するとともに、補正前の請求項1に記載された「側壁(93)の下部」について、「0.11?0.17mm」と限定するものであって、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて新規事項を追加するものではなく、かつこのような補正により産業上の利用分野や発明が解決しようとする課題に変更が生じないことは明白であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するものということができる。
そこで、上記補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2-2.本願補正発明
補正後の本願の請求項1に係る発明は、上記補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】
厚さが薄いハードテンパー金属から製られた軽量の再密閉可能な金属缶(90,104,106)であって、該金属缶は、
金属缶(90,104,106)の製造に使われるべき、缶本体(91)の底部(95)を有し、
前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁(93)の下部に続いており、
前記側壁が、切頭円錐形部(94)に一体に続いており、
前記切頭円錐形部(94)は、上部に缶本体(91)よりも直径の小さい円筒部(97)に一体に続いており、
切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さは0.17?0.22mmであり、側壁(93)の下部は0.11?0.17mmであり、
金属缶(90,104,106)は、金属缶の上端部に形成したビード(100)と、
該ビード(100)下方の円筒部(97)に形成され、クロージャを受けとめて缶(90,104,106)を密閉する様になっているねじ(99)と、
ねじ(99)の下方に配置された環状ビード(101)、
とを有している再密閉可能な金属缶。」

2-3.引用文献
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前である昭和59年1月18日に頒布された実願昭57-101726号(実開昭59-7156号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「流通時の密封性を保持し開封時の容易さとその後の繰り返し使用における密閉及び開放を可能とするためには、ネジ式封かん蓋の使用が望まれる。ネジ式封かん蓋は、ガラス製ビンにおいて既に用いられている。即ち、酒類又は清涼飲料等のビンの開口にネジを付しておき、ビン内容物を充填後アルミニウム薄板製キヤツプを該開口部に被せ、その外側面よりビン開口のネジにならつてキヤツプに圧力を加えてネジ蓋とし同時に封かんするものである。」(第2頁第12行から第3頁第2行)
(b)「第1図は本考案による金属製容器と蓋との組合せの部分断面図である。容器1は金属製であればその材質は特に制限されないが、・・・。容器1の開口にはオネジが形成されている。また、蓋2は金属薄板製であり、特にアルミニウム薄板であるのが好ましい。該蓋2は封かん蓋であり、容器1に適用される前は第2図に示される如き断面形状であり、ガラス製ビンの場合と同様にして容器1の開口のネジにならつて加圧されネジ式封かん蓋とされたものである。」(第4頁第8?20行)

ここで、第1図より、容器1は上部に容器本体よりも直径の小さい円筒部を一体に有しており、該円筒部の上端には、蓋2と当接するビートが形成され、その下方にネジが形成され、ネジ下方には蓋2のミシン目4付近で蓋2と当接する環状ビードが形成されているものと認めることができる(この構成は周知のものであって、下記引用例4の第2図にも記載されている。)。
よって、以上の記載及び第1図ないし第3図によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認めることができる。
「厚さが薄い金属から製られた軽量の再密閉可能な容器1であって、該容器1は上部に容器1の本体よりも直径の小さい円筒部を一体に有しており、容器の上端部に形成したビードと、該ビード下方の円筒部に形成され、蓋2を受けとめて容器を密閉する様になっているネジと、ネジの下方に配置された環状ビード、とを有している再密閉可能な金属製容器。」

(2)同様に、本願の優先権主張日前である平成5年9月7日に頒布された特開平5-229545号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「【0011】円筒状罐又は容器は、深引き可能な、又は押し出し成型可能なアルミニウム合金の平らな通常は円形の部分から、深引き、深引き及び追加的延伸、或いは押し出しにより公知の態様で製造される。」
(b)「【0014】次の2つの段階B及びCで、各容器は段階的に引き抜き成型される。そして、容器の直径、好ましい容器の形状及び使用する材料に関連して上記の2つの段階は、種々のツールを使用しての種々の有効な引き抜き段階を構成することができる。最初の引き抜き段階Bの工程中で、収斂した肩部と実質的に円筒状の第1ネック部10とが容器に形成され、一方、第2の引き抜き段階Cの工程中で、より狭い実質的に円筒状の第2のネック部2aが第1ネック部10に連結して形成される。第1ネック部10の外径d1は、実質的に、形成されるねじ山の山径に対応し、一方、第2のより狭いネック部20の外径d2は形成されるねじ山の谷径d3より幾分小さい。」
(c)「【0016】次の段階Dではねじ山30が、第1ネック部10又は第2ネック部20に面した第1ネック部上にロール形成される。」

ここで、第1図及び第5図より、容器は底部を有し、前記底部が、成型された側壁の下部に続いており、前記側壁が、切頭円錐形部に一体に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に容器本体よりも直径の小さい円筒状の第1ネック部10に一体に続いており、前記第1ネック部にねじ山30が形成されていると認められる。
よって、以上の記載及び第1図及び第5図によれば、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認めることができる。
「厚さが薄い金属から製られた軽量の容器であって、該容器は、容器の製造に使われるべき、容器本体の底部を有し、前記底部が、成型された側壁の下部に続いており、前記側壁が、切頭円錐形部に一体に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に容器本体よりも直径の小さい円筒状の第1ネック部10に一体に続いており、前記第1ネック部にねじ山30が形成された金属容器。」

(3)同様に、本願の優先権主張日前である昭和59年9月14日に頒布された特開昭59-163148号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「第1図において、1は生ビール大型樽罐等の薄肉金属容器である。薄肉金属容器1は、大径の胴部2と、その先端に小径の抽出口部(首部)3を有する。・・・。抽出口部3は容器素材を折返して同心状に二重になっており、かつその重なり部分4にスレッド5が形成されている。」(第2頁右上欄第13?20行)
(b)「この様なクロージング・マシンはすべて従来から使用されているものをそのまま使用し得るが、その場合でも、重なり部分4の形成によって抽出口部3が補強されているから、薄肉金属容器についても、ガラス瓶と同様に、そのままキャップをロール・オンすることができ、抽出口部3がネジローラーの圧力で圧壊することはない。」(第3頁右上欄第15行から左下欄第1行)
第1図、第4図ないし第6図から容器の胴部2と円筒状の抽出口部3の間には切頭円錐形部が存在するので、以上の記載及び第1図ないし第6図によれば、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認めることができる。
「側壁が、切頭円錐形部に一体に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に胴部2よりも直径の小さい円筒状の抽出口部3に一体に続いており、前記抽出口部3の厚みを増やすことで抽出口部3が圧壊しないよう補強した、薄肉金属容器。」

(4)同様に、本願の優先権主張日前である昭和61年3月28日に頒布された特開昭61-60439号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「金属製容器本体の比較的細い口頸部に、外周にキャップを螺着するためのねじ部を有するプラスチック筒状体が外挿された容器が知られている。このようなプラスチック筒状体を外挿するのは、口頸部に直接ねじ部を形成した場合、口頸部に精度の高いねじ部を形成するのが困難であったり、あるいは口頸部が比較的薄肉の場合は剛性不足となって、ロールオン式キャップを係合するさい、キャップに満足なねじを形成することができなかったりして、密封不良を生ずるおそれがあるからである。」(第1頁右欄第15行から第2頁左上欄第5行)
(b)「例えば容器本体2がアルミニウム合金よりなり、その上部体5の肩部5bの肉厚が0.23mm、下部体6の胴壁部6bの肉厚が0.144mmの場合、口頸部3に110kgの軸荷重が加わると肩部5bが先ず座屈する。ところがピルファプルーフキャップ12のロールオン方式による打栓時に、口頸部3に加わる最大軸荷重は通常約200kgである。従って保持リング15が設けられていない場合は、肩部5bおよび下部体6の肉厚を、上記値よりも遙かに大きくしなければならないが、容器1の場合は、軸荷重を保持リング15が支えて、肩部5bより下方の部分には実質的に軸荷重が加わらない。従って肩部5bおよび胴壁部6bの肉厚が上記の如く比較的薄くても、打栓時に座屈することがない。
しかしながら、肩部5bおよび胴壁部6bが比較的厚肉で、例えば肩部が0.32mm以上、胴壁部が0.15mm以上で、打栓時に口頸部13に加わる軸荷重、例えば約200kgの軸荷重によって座屈するおそれがない場合は、必ずしも保持リング15を設ける必要がない。」(第3頁左下欄第9行から右下欄第8行)
第1図より、容器本体2の胴壁部6bと筒状体4の間には切頭円錐形の肩部5が存在するので、以上の記載及び第1図及び第2図によれば、引用例4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認めることができる。
「側壁が、切頭円錐形部に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に容器本体2よりも直径の小さい筒状体4に一体に続いており、切頭円錐形部の壁厚さは側壁の下部より厚く形成されており、口頸部3にプラスチック筒状体を外挿して補強した金属製容器。」

(5)同様に、本願の優先権主張日前である昭和63年3月5日に頒布された特開昭63-52721号公報(以下「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「その一種として缶胴の開口端側に向かって缶胴径より小径の縮径部を備えるツーピース変形缶は知られている。このツーピースの変形缶の製造方法としては、まず第5図A示のように第1工程で例えばアルミニウム材のような金属薄板を円形状に打抜きして缶胴材aを成形する。次に第2工程で第5図B示のように絞りポンチと絞りダイスとからなる缶胴成型装置((図示せず)を用いて板状の缶胴材aに絞り加工を施して、径が比較的大径で、高さが低い有底筒状体bを成形する。更に第3工程で第5図C示のように缶胴成型装置(図示せず)を用いて有底筒状体bに深絞り加工を施して、径が比較的小径で高さが高い有底筒状体cを成形する。続いて第4工程で第5図D示のようにしごきポンチとしごきダイスから成るしごき加工装置(図示せず)を用いて有底筒状体cの胴部dに数回のしごき加工を施して胴部dより厚い肉厚部eを有する開口端部fを備える有底筒状の缶胴gを成形し、次いで開口端部fの端縁fxに第5図Dの点線示のようにトリミング加工を施して所定高さhの缶胴gを得る。更に第5工程で第5図E示のように絞込加工装置(図示せず)を用いて缶胴gの開口端部fに絞込加工を施して缶胴径iより小径の胴径jを有する縮径部kを成形すると共に、フランジ加工を施してフランジ部lを成形するものである。そして、この缶胴gの開口端部fに縮径部kを形成する際の絞込加工時における缶胴gの座底(座屈の誤りと認める)防止、およびフランジ部lを形成する際のフランジ加工時におけるフランジ部l割れ防止のために、第4工程でのしごき加工の際に第5図D示のように開口端部fの厚さt1を胴部dの厚さt2に比して相当肉厚となるように形成するものである。
しかしながら、前記しごき加工に続く縮径部fを形成するための絞込加工の際、絞込加工装置の工具の開口端部fへの絞込みにより第5図E示のように該開口端部fの厚さはその最下端部分f’ではほとんど変化はないが缶胴gの開口端側に向つて次第に厚みを増し、最下端部分f’の厚さt1に対して最上端部分f”の厚さt3は更に厚く形成される。」(第1頁右欄第4行から第2頁右上欄第5行)
(b)「また第2図実線示から仮想線示のようにフランジ形成部(5)或はその近傍(5a)で屈曲してフランジ部(12)を形成する際にフランジ割れ等もなく、その後に行われる内容物の充填後の缶蓋との巻締も良好に行うことができる。」(第3頁右上欄18行から左下欄第2行)
(c)「また厚さ0.32mmの金属薄板から成る缶胴材を用いて有底筒状の缶胴(1)を製造した時開口端部(3)の肉厚部(4)の厚さT2は0.14ないし0.23mmが好適であり、更に肉薄部(6)の最上端部分の厚さT3は0.14ないし0.23mmが好適である。」(第3頁右下欄第3?7行)
(d)また、第4頁左上欄の表の従来方法の欄には缶胴の胴部の厚T1(従来方法を示した図5(D)で対応する厚さはt2)を0.125mmとし、缶側の開口端部の肉厚部の厚さT2及び肉薄部の厚さT3(同じく、対応する厚さはt1)を共に0.18mmとした場合、縮径部形成後最上端部分の厚さT4(同じく、対応する厚さはt3)は0.195mmとなることが示されている。
ここで、胴部dは絞り加工され、且つしごき加工されて形成された缶側壁の下部に位置し、第5図(E)より、その上部が切頭円錐状に縮径されて、缶本体よりも小径の円筒部である開口端部fが形成され、上記(a)および(d)より、当該切頭円錐形部及び円筒部の壁厚さは0.18ないし0.195mmとなるので、以上の記載及び第5図(A)ないし第5図(E)によれば、引用例5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認めることができる。
「厚さが薄い金属から製られた軽量の金属缶であって、該金属缶は、金属缶の製造に使われるべき、缶本体の底部を有し、前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁の下部に続いており、前記側壁が、切頭円錐形部に一体に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に缶本体よりも直径の小さい円筒部に一体に続いており、切頭円錐形部及び円筒部の壁厚さは0.18ないし0.195mmであり、側壁の下部は0.125mmである金属缶。」

(6)同様に、本願の優先権主張日前である昭和57年10月1日に頒布された特開昭57-159228号公報(以下「引用例6」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「使用金属材料は、アルミニウム合金、好ましくは合金3004H19であることを特徴とする特許請求の範囲第6項に記載の中空金属体。」(特許請求の範囲第7項)
(b)「本発明は、薄壁の一体中空金属体、特に圧力容器として有用なものを製造する方法および中空金属体に関する。」(第2頁左上欄第8?10行)
(c)第4頁右下欄の表1には出発シート厚0.6mmのものについて、薄壁厚0.23mm、底厚0.6mmに成形することが記載されている。
アルミニウム合金3004H19はハードテンパー金属なので(本願明細書段落【0027】参照)、以上の記載によれば、引用例6には、次の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されていると認めることができる。
「ハードテンパー金属を用いた、薄壁厚0.23mmの容器用一体中空金属体。」

2-4.対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを比較すると、引用発明1の「容器1」は本願補正発明の「金属缶」に相当し、同様に「蓋2」が「クロージャ」に相当し、両者は、
「厚さが薄い金属から製られた軽量の再密閉可能な金属缶であって、該金属缶は上部に缶本体よりも直径の小さい円筒部を一体に有しており、金属缶の上端部に形成したビードと、該ビード下方の円筒部に形成され、クロージャを受けとめて缶を密閉する様になっているねじと、ねじの下方に配置された環状ビード、とを有している金属缶。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、金属缶の製造に使われるべき、缶本体の底部を有し、前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁の下部に続いており、前記側壁が、切頭円錐形部に一体に続いており、前記切頭円錐形部は、上部に缶本体よりも直径の小さい円筒部に一体に続いているのに対して、引用発明1は、金属缶がいかなる形状か、また側壁がどのように加工されたのか明確にされていない点。

[相違点2]
本願補正発明では、缶がハードテンパー金属から製られていて、切頭円錐形部及び円筒部の壁厚さは0.17?0.22mmであり、側壁の下部は0.11?0.17mmであるのに対して、引用発明1では、このような、金属、缶壁各部の厚さについての限定をしていない点。

2-5.当審の判断
[相違点1]について
厚さが薄い金属から製られた軽量の容器において、上部に容器本体よりも直径の小さい円筒部を設ける場合には、容器側壁と前記円筒部の間に切頭円錐部が形成されるのが一般的であり、引用発明2でも、金属材料をそのような形状に成形して容器を得ている。よって容器本体よりも小径の円筒部を有する引用発明1の金属容器においても、側壁と前記円筒部の間に、このような切頭円錐部が形成されているものと考えられ、この点は実質的な相違点とはいえない。また、缶本体の底部に続く側壁を絞り且つしごき加工して形成することは引用発明5にも記載されており、当業者にとって周知の技術にすぎないから、相違点1に係る本願補正発明の構成は、引用発明1及び引用発明2、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
一般に、容器を設計するに当たり、当該容器の内容物、使用形態及び形状等に応じて、容器全体及び各所に要求される強度が達成されるとともに、加工性やコストの観点をも総合して、容器素材として既に知られているものから、最適なものを選択し、かつ、当該素材の単位厚さ当たりの強度、延伸性等の材質特性に応じて、容器各所の厚さを必要最小限のものとすることは、当業者が当然考慮すべき程度の事項であり、当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎないというべきである。
以上を踏まえ、相違点2について検討すると、引用発明6には薄壁の容器の材料としてハードテンパー金属を用いるとともに、壁厚を0.23mmとすることが開示されており、同様にハードテンパー金属を用いた缶の壁厚を0.0045インチ(0.114mm)とすることも当業者が適宜なす事項(米国特許第3,730,383号明細書第5欄第54?64行参照)であって、金属製の容器をハードテンパー金属を用いて壁厚0.114?0.23mm程度に設計することは周知の事項にすぎない。
また、引用例1の記載(b)によれば、引用発明1の金属容器においては、蓋2が容器1の開口のネジにならって加圧されネジ式封かんされること、すなわちロールオンキャッピングが行われることが示されており、そうすると、蓋2に対する押圧力が作用する容器1上部の円筒部及びその下方部分が少なくともその押圧力に耐え得る強度となるよう、その材料及び厚さが選定されるものと解することができるところ、厚さが薄い金属から製られた軽量の金属缶においては、補強や、加工を容易にする目的で円筒部を肉厚化することが引用例3や引用例4に記載されたように当業者にとって周知の事項にすぎず、また、円筒部に続いている切頭円錐形部を肉厚化することも引用例4や引用例5に記載されており、当業者にとって、周知の事項にすぎないので、引用発明1の缶の円筒部や切頭円錐形部を肉厚化することも当業者が適宜なし得た設計にすぎない。
引用発明3や引用発明4ではスリーブや折り返し部を重ねているが、塑性加工品において、部品の一部分を、補強や、加工を容易にする目的で肉厚に成型することは当業者が適宜行う設計的な事項であり、引用発明5においても、絞込加工する縮径部や缶蓋と巻締するためにフランジ加工をする開口端部を、絞り且つしごき加工による側壁形成時に、胴部の厚さt2より厚いt1とすることが記載されている。引用発明1の円筒部や切頭円錐形部をこのような手法を採用して肉厚化することができないとする理由もなく、このような手法を採用することは、円筒部及び切頭円錐形部の肉厚化を図る当業者が引用発明5に基づいて容易なし得たことである。
以上を総合すると、引用発明1の缶をハードテンパー金属を用い、円筒部や切頭円錐形部を肉厚に成型するように設計することは、材料の選定と容器各所の厚さの設計において、通常行われる創作能力の発揮であって、当業者が容易になし得たものにすぎない。
また、本願補正発明において、具体的な材料特性や各部の寸法等、他の事項を特定せずに、単に壁厚のみを範囲限定したことに技術的意義は認められないが、前述のように、缶の材料としてハードテンパー金属を用いて、壁厚0.114?0.23mm程度に製造することが周知の事項であって、円筒部及び切頭円錐形部の壁厚を0.17?0.22mmの範囲内の値とするのに対応させて、側壁下部を0.11?0.17mmの範囲内の値とすることは引用発明5に記載されており、円筒部及び切頭円錐形部を肉厚とすることを考えれば、ハードテンパー金属を用いた場合でも、このような値を使用することは当業者が容易に想到し得たものである。
よって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明1及び引用発明5、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1ないし引用発明5及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

2-6.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることのできないものであるので、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成19年7月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項7にかかる発明は、平成19年1月10日付けで補正された明細書の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
厚さが薄いハードテンパー金属から製られた軽量の再密閉可能な金属缶(90,104,106)であって、該金属缶は、
金属缶(90,104,106)の製造に使われるべき、缶本体(91)の底部(95)を有し、
前記底部が、絞り且つしごき加工された側壁(93)の下部に続いており、
前記側壁が、切頭円錐形部(94)に一体に続いており、
前記切頭円錐形部(94)は、上部に缶本体(91)よりも直径の小さい円筒部(97)に一体に続いており、
切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さは、側壁(93)の下部より厚く形成されており、
金属缶(90,104,106)は、金属缶の上端部に形成したビード(100)と、
該ビード(100)下方の円筒部(97)に形成され、クロージャを受けとめて缶(90,104,106)を密閉する様になっているねじ(99)と、
ねじ(99)の下方に配置された環状ビード(101)、
とを有している再密閉可能な金属缶。」

4.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載は、上記「2-3.引用文献」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記「2-2.本願補正発明」に記載した本願補正発明から、「切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さ」について「0.17?0.22mm」、及び「側壁(93)の下部」について、「0.11?0.17mm」との数値限定を省き、単に「切頭円錐形部(94)及び円筒部(97)の壁厚さは、側壁(93)の下部より厚く形成されており、」としたものであり、他の構成については、本願補正発明と差異がない。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2-4.対比」及び「2-5.当審の判断」に記載したように、本願出願前周知の技術的事項を考慮すれば、引用発明1ないし引用発明6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、本願出願前周知の技術的事項を考慮すれば、上記引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、本願出願前周知の技術的事項を考慮すれば、上記引用文献1ないし引用文献6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-01 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-23 
出願番号 特願2005-271564(P2005-271564)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B65D)
P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 村山 禎恒
熊倉 強
発明の名称 ねじ付きアルミニウム缶およびその製造方法  
代理人 丸山 敏之  
代理人 長塚 俊也  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 北住 公一  

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