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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1194582 |
審判番号 | 不服2005-17565 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-09-14 |
確定日 | 2009-03-19 |
事件の表示 | 平成11年特許願第293716号「ヘッドアーム、ヘッド移動機構、ディスク装置及びヘッドアームの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年4月27日出願公開、特開2001-118344〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、平成11年10月15日の出願であって、その経緯は、概略次のとおりである。 拒絶理由通知:平成16年9月28日 手続補正:平成16年12月24日 最後の拒絶理由通知:平成17年1月21日 手続補正:平成17年4月11日 拒絶査定:平成17年8月12日 審判請求:平成17年9月14日 手続補正:平成17年9月14日 特許法164条3項の報告書:平成17年12月8日 特許法164条3項の報告書を活用した審尋:平成20年5月8日 回答:平成20年7月14日 当審拒絶理由通知:平成20年9月10日 手続補正:平成20年11月14日 そして、拒絶査定の理由は、上記平成17年1月21日付けで通知した最後の拒絶理由通知に記載した理由によるもので、その概要は、請求項1ないし5に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから特許法29条1項3号の規定に該当し、又は、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法29条2項の規定により、特許を受けることができず、また、本願の明細書は、記載に不備があり、特許法36条4項、6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないというものである。 また、当審から通知した拒絶理由は、請求項1及び4に意味不明な記載があり、同請求項に記載された発明の認定は困難と認められ、又、各請求項に記載された発明を特定する事項に基づく作用効果の根拠が不明であるから特許法36条4項及び6項に規定する要件を満たしていないというものである。 これに対し、請求人は平成20年11月14日付けで明細書について手続補正をするとともに、同日付けの意見書にて、概略、請求項1及び4の記載については、手続補正により拒絶理由が解消した旨主張し、また、前記作用効果の根拠については、審尋に対する回答を引用して釈明している。 以上の経緯を踏まえ、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成20年11月14日付けで手続補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「記録担体に対向する第1の面及び当該第1の面に対向する第2の面に貫通穴を有する本体と、 前記本体に接続され、駆動軸と接続可能な第1の接続部と、 前記本体に接続され、ヘッドと接続可能な第2の接続部とを有し、前記駆動軸の回りに揺動可能なヘッドアームであって、 前記駆動軸の中心と前記ヘッドとを結ぶ線と垂直であり、前記ヘッドアームが前記駆動軸の回りで揺動する範囲において前記本体が前記記録媒体の上を覆うことが可能な領域の面積を2分すると共に、前記領域の重心を通過する線を分割線とすると、前記貫通穴は前記分割線に関して一方の側にのみ形成されるヘッドアーム。」 以下、本願発明について、原査定の拒絶の理由が妥当なものであるか、検討する。 2.引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、特開平4-109468号公報(以下、「引用例1」という。)には、ディスク装置のヘッドアームについて、以下の記載がある(下線は、当審で付した。各引用例において同様である。)。 (a)「近年、ディスク装置は、データの転送速度の高速化に伴い、ディスクの回転速度を上げる傾向にある。このため、ディスクの回転によって発生する空気流の影響を考慮した設計が要望されている。」(1頁右下欄12?15行) (b)「ロータリアクチュエータの場合には、空気流に逆らってアクセスするので、空気流が乱流になると、アクセス制御の重大な外乱要因となり、制御が不安定になる問題点がある。 本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ディスク装置の消費電力を抑え、アクセス制御の安定化を図り、空気循環効率を向上できるディスク装置のヘッドアームを提供することにある。」(3頁左上欄15行?右上欄3行) (c)「第1図は本発明の原理図である。図において、21はディスク、22は先端部にヘッドが取り付けられ、ディスク21の目的のトラックへアクセスすることにより、ヘッドを用いて前記ディスク21に対してデータのリード/ライトを行うディスク装置のヘッドアームである。 そして、ヘッド-アーム22の断面形状は、ディスク21の回転により生じる空気流Sに対して略流線形状となっている。」(3頁右上欄6行?14行) (d)「第2図は本発明の第1の実施例の磁気ディスク装置を示す第3におけるC-C断面図、第3図は本発明の第1の実施例の磁気ディスク装置を示す図、第4図は第1の実施例における消費電力の一例を示す図、第5図は第1の実施例における塵埃パージ時定数を示す図、第6図は時間に対する集塵個数の変化を説明する図、第7図は第2の実施例を説明する図、第8図は第3の実施例を説明する図で、(a)は平面図、(b)は断面図である。」(3頁左下欄3?11行) (e)「このスピンドル32には複数枚の磁気ディスク33が取り付けられている。 次に、アクチュエータの説明を行う。34は磁気ディスク33の各記録面に対向するように配設されるヘッドアームである。このヘッドアーム34の先端にはスプリングアーム35を介して磁気ヘッド36が取り付けられている。 37はエンクロージャ31のベースに立設され、ヘッドアーム34の中間部に嵌合し、ヘッドアーム34を矢印III方向に揺動可能に支持するシャフトである。そして、ヘッド-アーム34の先端には、スプリングアーム35を介して磁気ヘッド36が取り付けられている。」(3頁左下欄19行?右下欄11行) (f)「第8図に示すように、ヘッドアーム54の一部に穴54aを設け、この穴にフィルタ55を配設する。このような構成にすると、第1の実施例の効果に加えて、ヘッドアーム54の上面をながれる空気流の一部は穴54aを介して、フィルタ55を通過する。」(4頁左下欄8?13行) (g)第1図「本発明の原理図」には、ヘッドアーム22の上下面とディスク21、21の間に空気流が矢印で図示されている。 また、第3図「本発明の第1の実施例の磁気ディスク装置を示す図」には、ヘッドアーム34上にシャフト37が図示されている。 第8図「第3の実施例を説明する図」の、平面図(a)及び断面図(b)には、穴54aの部分を流れる空気流Sが矢印で図示されている。穴54aはヘッドアームの上下面に垂直な断面に対して上から下へ傾斜して貫通していることが図示されている。 上記(a)ないし(g)の記載又は図面を参酌すると、引用例1には、特に第3の実施例の、上面から下面に貫通している穴を有するヘッドアームについて、次の発明が記載されている。 「複数枚のディスクの各記録面に対向するように配設され、上面から下面に貫通する穴を有するヘッドアームであって、 ヘッドアームを揺動可能に支持するシャフトに嵌合する部分と、 スプリングアームを介して取り付けられたヘッドとを有し、 シャフトに支持されて揺動可能である断面略流線形状のヘッドアーム。」 (以下、「引用例1発明」という。) (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭59-168274号(実開昭61-83167号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、磁気ヘッドアセブリについて、以下の記載と図面が示されている。 (h)「磁気記録再生を行なう磁気ヘツドを具備した支持アームの少なくとも一方の面の一部あるいは全面に可撓性シートを固着させたことを特徴とする磁気ヘツドアセンブリ。」(明細書1頁5?8行 「2.実用新案登録請求の範囲」) (i)「第2図は従来の磁気ヘッドアセンブリを示し、磁気ヘッド1を具備した支持アーム2は、軽量にするため一般にアルミニウム合金を用いはしご状に成形されていた。 (考案が解決しようとする問題点) 上述の従来の磁気ヘッドアセンブリでは、磁気ディスク装置のディスク板を高速回転させる回転系や、支持アームを移動させる位置決め系からの機械振動に支持アーム2が共振するため、支持アーム2に具備された磁気ヘッド1の浮上量の変動、あるいはトラックずれを発生させ、磁気ヘッド1による正しい情報交換が行なえない欠点があった。 しかも支持アーム2の形状を変更しても、アーム2の固有振動数が変化するだけで、振動振幅の大きさは変化しないため、振動抑制に有効な方法が見つからなかった。 本考案は、可撓性シートを支持アームに接着することにより、上記欠点を解決し、外部機械振動と共振しない磁気ヘッドアセンブリを提供することにある。」(明細書1頁16行?2頁20行) (j)第1図の本考案の一実施例の斜視図には、支持アーム2と可撓性プラスチックシート3とが図示されている。 第2図の従来の磁気ヘッドアセンブリには、はしご状の支持アーム2が図示されている。 3.対比 引用例1発明の「ヘッドアーム」は、本願発明の「ヘッドアーム」又はヘッドアームの「本体」に相当し、引用例1発明の「ディスク」は、本願発明の「記録担体」に相当する。 引用例1発明の「ヘッドアーム」の「上面」と「下面」は、複数枚のディスクの記録面に対向するヘッドの上下の面であるから、本願発明のヘッドアーム「本体」の「記録担体に対向する第1の面」と「第1の面に対向する第2の面」に相当し、引用例1発明の「上面から下面に貫通する穴を有する」との構成は、本願発明の「記録担体に対向する第1の面及び当該第1の面に対向する第2の面に貫通穴を有する」との構成に相当する。 引用例1発明の「シャフト」は、ヘッドアームを揺動可能に支持する機構要素であるから、本願発明の「駆動軸」に相当し、引用例1発明の「シャフトに嵌合する部分」では、ヘッドアームとシャフトが接続しているから、本願発明の「本体に接続され、駆動軸と接続可能な第1の接続部」を有し、「駆動軸の回りに揺動可能な」ことに相当する。 引用例1発明の「ヘッドアーム」が「スプリングアームを介して取り付けられたヘッドとを有し」との構成は、スプリングアームが一方でヘッドアームに接続され、他方でヘッドと接続可能であるから、本願発明の「本体に接続され、ヘッドと接続可能な第2の接続部とを有し」と構成に相当する。 以上のことからすると、本願発明と引用例1発明は次の点で一致する。 <一致点> 「記録担体に対向する第1の面及び当該第1の面に対向する第2の面に貫通穴を有する本体と、 前記本体に接続され、駆動軸と接続可能な第1の接続部と、 前記本体に接続され、ヘッドと接続可能な第2の接続部とを有し、 前記駆動軸の回りに揺動可能なヘッドアーム。」 一方、次の点で相違する。 <相違点> 本願発明では、ヘッドアームについて「駆動軸の中心とヘッドとを結ぶ線と垂直であり、ヘッドアームが駆動軸の回りで揺動する範囲において本体が記録媒体の上を覆うことが可能な領域の面積を2分すると共に、領域の重心を通過する線を分割線とすると、貫通穴は分割線に関して一方の側にのみ形成される」ことを特定しているのに対して、引用例1発明は貫通穴の形成される位置についてこのような特定がない点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 引用例2には、従来の磁気ディスク装置において、軽量にするためにはしご状の貫通穴を有するように成形された支持アームが、機械振動に共振して磁気ヘッドの浮上量が変動し、磁気ヘッドによる正しい情報が得られない欠点を有していたとして、当該欠点を改善するために、はしご状の支持アームに、最先端部のごく小さな貫通孔のみを残して、他の部分に可撓性プラスチックシートを接着し、外部の機械振動に共振しないようにすることが記載されている。 引用例1発明のヘッドアームにおいても、貫通孔を形成するにあたって、外部の機械振動に共振しないように設計することは当然であるから、貫通穴の形成される位置を、引用例2を参照して、アームのごく先端部分にのみ設けるようにすることは当業者が容易に想到しうるものである。 このように貫通孔を設けた場合には、貫通孔の位置は「シャフトの中心とヘッドとを結ぶ線を基準にし、シャフトの中心とヘッドとを結ぶ線と垂直であり、ヘッドアームがシャフトの回りで揺動する範囲においてヘッドアームがディスクの上を覆うことが可能な領域の面積を2分すると共に、領域の重心を通過する線」と想定できる仮想の「分割線」に対して、「貫通孔は前記分割線に関して一方の側にのみ形成される」こととなるのは当然の結果にすぎない。 なお、審尋に対する回答書で(4)に実験データが示されているが、当該実験データについては、 (i)穴自体についてのデータが示されていない。例えば、図面を参照すると「先端穴」と「根元穴」とは明らかに形状が異なっており、両者の面積も不明である。 (ii)「根元穴」は、面積分割線をまたがらないでヘッドアームの根元側にある穴を意図し、「先端穴」は、面積分割線をまたがる位置にある穴を意図したものと解される。しかしながら、実験データには、貫通穴が、面積分割線をまたがらない位置で、ヘッドアームの先端側のみにある場合について示されていない。 すると、実験データによるピークレベルの相違は、単に、穴の面積若しくは形状の相違によるものであるのか、又は、穴の位置がヘッドアームの先端寄りにある場合と根元寄りにある場合との差によるものか、等の区別がつかず、貫通穴を形成する位置を、「シャフトの中心とヘッドとを結ぶ線と垂直であり、ヘッドアームがシャフトの回りで揺動する範囲においてヘッドアームがディスクの上を覆うことが可能な領域の面積を2分すると共に、領域の重心を通過する線を分割線とすると、貫通穴が分割線に関して一方の側にのみ」としたことによる格別の作用効果は、依然として確認することができない。この点では、当審から通知した拒絶理由も依然として解消していないとも認められるところであるが、引用例2の図1に示される支持アームのように、アームのごく先端の部分に貫通孔が形成された場合には、当然、「シャフトの中心とヘッドとを結ぶ線と垂直であり、ヘッドアームがシャフトの回りで揺動する範囲においてヘッドアームがディスクの上を覆うことが可能な領域の面積を2分すると共に、領域の重心を通過する線を分割線とすると、貫通穴が分割線に関して一方の側にのみ」との構成を備えることになるから、貫通穴の形成位置については構成上特段異なるものでなく、貫通穴を十分小さくすることで、共振によるピークレベルも小さくなることは、機械設計において常識的に予測される効果にすぎないといえることから、回答書を参酌しても上記「4.」の判断は妥当なものである。 以上のことからすると、上記相違点は格別なものではなく、本願発明の奏する効果も当業者が当然に予測できる範囲内のものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-19 |
結審通知日 | 2009-01-20 |
審決日 | 2009-02-04 |
出願番号 | 特願平11-293716 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山崎 達也 |
特許庁審判長 |
山田 洋一 |
特許庁審判官 |
吉川 康男 江畠 博 |
発明の名称 | ヘッドアーム、ヘッド移動機構、ディスク装置及びヘッドアームの製造方法 |
代理人 | 藤元 亮輔 |