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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1194888
審判番号 不服2008-10705  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-28 
確定日 2009-03-26 
事件の表示 平成11年特許願第 10066号「除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月28日出願公開、特開2000-206293〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は平成11年1月19日の出願であって、平成19年8月17日付け拒絶理由通知によって拒絶理由が通知され、それに対して同年10月15日付けで意見書の提出ならびに手続補正がなされたものの、平成20年3月28日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月28日付けで手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成20年10月17日付けで審尋がなされ、その審尋に対して同年12月18日に回答書が提出された。

II.平成20年5月28日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年5月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1.本件補正の目的
本件補正は、明細書を補正するものであって、特許請求の範囲に係る補正は、補正前(平成19年10月15日付け手続補正によって補正。以下、同じ。)の請求項1について、
「【請求項1】 原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物に除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収し、金属イオンが回収された除染液は再び前記除染対象物に導入される化学除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法であって、前記イオン交換樹脂塔に樹脂排出ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続することを特徴とする除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法。」なる記載を、
「【請求項1】 原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物に除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収し、金属イオンが回収された除染液は再び前記除染対象物に導入される化学除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法であって、
前記イオン交換樹脂塔の底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続することを特徴とする除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法。」(下線は補正箇所を示す。)と補正するとともに、補正前の請求項3を削除し、それに伴って補正前の請求項4ないし請求項9の項番を繰り上げて、補正後の請求項3ないし請求項8とするものである。
最初に、請求項1に係る補正について検討する。
請求項1に係る補正は、「イオン交換樹脂塔」について、補正前の「イオン交換樹脂塔に樹脂排出ノズルを設け」を、「イオン交換樹脂塔の底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設け」と補正するものであって、補正前の「排出ノズル」の配設位置を「(イオン交換樹脂塔の)底部」と限定するとともに、「(イオン交換樹脂塔の)上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズル」が設けられているとの限定をさらに付加するものであるので、請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次いで、請求項3ないし請求項8に係る補正について検討すると、当該補正が請求項の削除を目的とすることは明らかである。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か、を以下に検討する。

2.本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物に除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収し、金属イオンが回収された除染液は再び前記除染対象物に導入される化学除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法であって、
前記イオン交換樹脂塔の底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続することを特徴とする除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法。」

3.引用文献(以下の摘記中の下線は、当審で付加した。)
(3-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平1-196599号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(ア)第1頁左下欄第16行?同右下欄第9行
「(産業上の利用分野)
本発明は原子力発電施設内における放射能汚染機器および配管の化学除染廃液の処理方法に関する。
(従来の技術)
原子力発電施設内では機器、配管への放射性物質の付着によって作業員の被曝が生じる恐れがある。そこで、これらの放射性物質を取り除き被曝低減を図る手段として化学除染が行われており、この化学除染により発生した廃液の処理方法としては、除染剤濃度が数%と高い場合は除染剤を単独に濃縮および固化しており、また除染剤濃度が低い場合はイオン交換樹脂による除染廃液の処理が行われている。」
(イ)第1頁右下欄第10行?第2頁右上欄第12行(要部のみ抜粋。)
「(発明が解決しようとする課題)
ところで、現在我国で行われている化学除染は小規模のものであるが、今後大規模に行なうとするといくつかの問題点が生じる。
……
第3図は希薄除染廃液処理方法の例であるCANDECON法の廃液処理の系統図である。図において、除染対象機器30を除染した廃液はクーラ34で冷却されながらアニオン樹脂塔32及びカチオン樹脂塔33を経て再び除染剤タンク31に戻される。アニオン樹脂塔32では除染剤等の低線量ながら大量のものが回収される。カチオン樹脂塔33では放射能を有する高線量のものが回収される。このCANDECON法では二次廃棄物としてイオン交換樹脂が発生するので、この処理がめんどうである。
第4図は希薄除染廃液処理方法の他の例であるLOMI法の廃液処理の系統図である。この第4図のLOMI法も前記CANDECON法と同様な処理が行われる。すなわち、除染対象機器30を除染した廃液はアニオン樹脂塔32により除染剤のアニオン成分を回収し、またカチオン樹脂塔33により放射能及び除染剤カチオン成分(高濃度低レベル)が回収されるが、CANDECON法と同様に2次廃棄物としてイオン交換樹脂が発生するので、この処理が非常にめんどうである。」
(ウ)第3図、第4図
第3図、第4図は、「希薄除染廃液処理方法を示す系統図」であって、除染剤タンク31に除染対象機器、配管系30ならびにアニオン樹脂塔32、カチオン樹脂塔33が接続されるとともに、除染対象機器、配管系30ならびにアニオン樹脂塔32、カチオン樹脂塔33から除染剤タンク31に至る経路が矢印で示されている系統図が図示されている。

これらの記載からして、引用例1には、
「原子力発電施設内の除染対象機器および配管系に除染剤タンクから除染剤を供給し、除染した化学除染剤廃液中の放射能成分をイオン交換樹脂塔のイオン交換樹脂によって回収し、イオン交換樹脂塔を経た化学除染剤廃液を除染剤タンクに戻す、化学除染廃液の処理方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3-2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開昭57-74697号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(エ)第2頁左下欄第3?9行
「 本発明の目的は、原子力発電プラント用冷却水中のクラッドおよび塩類を微粉末状の陰陽両イオン交換樹脂を充填した脱塩式フイルターを使用して除去する方法において、クラッドおよび塩類を付着して除去性能の低下した微粉末状の陰陽両イオン交換樹脂を、再生して再使用する方法を提供することにある。」
(オ)第2頁右下欄第5行?第3頁左下欄第4行(要部のみ抜粋。)
「 本発明の具体例を第2図により説明する。第2図は本発明の実施例の一例を示す系統図で、脱塩式フイルターを複床で使用し、フイルターの充填物である微粉末状イオン交換樹脂を再生して再使用するものである。
すなわち、……、クラッドおよび脱塩を行う。複床として脱塩式フイルターI22と脱塩式フイルターII25が設置されている。脱塩式フイルターI22には微粉末状の陽イオン交換樹脂が、脱塩式フイルターII25には微粉末状の陰イオン交換樹脂がそれぞれ充填されている。この両脱塩式フイルター22,25でクラッドおよび陰陽の両イオンが交換され、イオン交換された濾過水36は、バックアップとしての脱塩器17を通って、その濾過水5は加熱後、給水ポンプで原子炉に循環される。
脱塩式フイルター22,25は、時間の経過と共にクラッド、塩類が付着して、性能が低下してくるがその場合並列に設置された他の脱塩式フイルター22A,25Aに濾過水3を切り換え給水し、脱塩式フイルター22,25内の微粉末状イオン交換樹脂の再生処理を行う。……
……。しかして、クラッドおよび陽イオンを分離された再生粉末樹脂32は脱塩式フイルターI22に戻される。そして、脱塩式フイルターII22Aの性能が劣化したら脱塩式フイルターI22に切り換える。脱塩式フイルターII22Aも脱塩式フイルターI22と同様に再生処理を行い、交互に切り換えて運転が行われる。
一方、……
……。しかして、クラッドおよび陰イオンを分離された再生粉末樹脂34は脱塩式フイルターII25に戻される。そして、脱塩式フイルターII25Aの性能が劣化したら脱塩式フイルターII25に切り換える。脱塩式フイルターII25Aも脱塩式フイルターII25と同様に再生処理を行い、交互に切り換えて運転が行われる。」

(3-3)引用例3
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開昭57-4598号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(カ)第1頁左下欄第17行?第2頁右上欄第2行
「 本発明は、復水中の不純物を除去し浄化された復水を原子炉側に供給する水処理装置に係り、特に復水中のクラッド除去効率の向上を図るのに好適な水処理装置に関する。
一般に原子力発電プラントにおける水処理装置は、復水を全量浄化する復水浄化系と、その廃樹脂を処分する廃棄物処理系とから構成されている。
まず、復水浄化系について、その原子力発電プラントにおける役割を第1図によって説明すると、原子炉1で発生した蒸気は、復水器2に送られてタービンを回転するために利用された後復水となる。この復水は、低圧復水ポンプ3によって復水浄化系4に送られる。この復水浄化系4の復水脱塩塔5に充填されているイオン交換樹脂(第2図参照)6によって復水中の溶解性金属イオン、不溶解性固形物(クラッド)、海中リーク時のCl^(-)等の不純物は浄化される。復水浄化系4を出た復水は、高圧復水ポンプ7によって給水熱交換器8に送られ、そこで加熱された後、給水ポンプ9によって前記原子炉に送られる。
前記復水浄化系4は、第2図に示すように複数個の復水脱塩塔5と再生系とで構成される。復水脱塩塔5は必ず予備塔を有し、順次切換運転をして連続的に復水全量を浄化する。イオン交換樹脂6が不純物を捕獲して復水浄化系4の差圧が高くなった場合またはイオン交換容量が飽和した場合には、その復水脱塩塔5は復水系より切離される。そしてイオン交換樹脂6は、弁10を開として樹脂出口11から再生系に運ばれる。再生系に運ばれた樹脂は、陽イオン樹脂再生塔12、陰イオン樹脂再生塔13および樹脂貯槽14によって物理的あるいは化学的に再生され、復水脱塩塔5に戻される。
次に、新樹脂の供給および使用済樹脂の廃棄について説明すると、イオン交換樹脂6を再生してもその交換性能を維持できなくなった場合には、性能劣化した樹脂を廃棄し、新樹脂に変えなければならない。新樹脂は、第2図に示すように新樹脂装荷装置15から陽イオン樹脂再生塔12および陰イオン樹脂再生塔13にそれぞれ供給され、化学再生し、さらに樹脂貯槽14で混合され、復水脱塩塔5の樹脂入口16より弁17を介して塔5内に装荷される。また性能劣化した樹脂は、弁10を閉、弁18を開とし樹脂出口11より排出され、使用済樹脂貯槽20に運ばれて貯蔵される。」
(キ)第1図、第2図
第1図には水処理装置の概略図、第2図には復水浄化系の概略図が示され、第2図には、内部にイオン交換樹脂6を有する復水脱塩塔5の底部に樹脂出口11が設けられ、上部に、新樹脂槽14と連結した樹脂入口16が設けられることが図示されている。

(3-4)引用例4
また、同じく本願出願前に頒布された刊行物であって、原査定の時に周知技術として提示された特開平10-123293号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(ク)段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、化学除染方法およびその装置に係わり、特に発電施設に設置された機器に付着した汚染物質を含む金属酸化物およびスケールを化学的に除染するための方法、およびその方法に用いる装置に関する。」
(ケ)段落【0024】?【0027】
「【0024】次に、本発明の化学除染方法を、発電施設の解体前実機に適用する実施例を示す。
【0025】この実施例においては、除染対象物(機器)を含む除染系統内に水を満たしこの水を昇温した後、還元剤である有機酸/有機酸塩を除染系統に導入し、還元剤水溶液をヒーターで所定の温度に昇温するとともに、ポンプにより除染系統内に循環させる。そして、酸またはアルカリの注入により除染液(除染剤水溶液)のpHを任意の値に制御し、除染対象物上の放射能を含む酸化皮膜を還元溶解する。
【0026】このとき除染液のpHが変化するので、pH計等で液のpHを測定し、有機酸塩またはアルカリの注入により、除染系統内を循環する除染液のpHが一定になるように制御する。除染液に含まれる還元剤である有機酸/有機酸塩により、除染対象物上の酸化皮膜が還元溶解される。
【0027】酸化皮膜の還元溶解により除染液中に溶出してくる金属イオンは、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂)塔の通過により、イオン交換樹脂中に捕集回収される。酸化皮膜の還元溶解途中に除染液のサンプリングを行なって、溶出する金属イオン濃度をチェックし、検出限界値以下に到達した時点で有機酸/有機酸塩による還元溶解を停止し、次の除染段階に移行する。」
(コ)段落【0033】?【0040】(要部のみ抜粋。)
「【0033】まず、図2に示すように、バルブ13、14、15をそれぞれ開き、バルブ16?24をそれぞれ閉じて、除染対象物1を含む除染系統の閉ループ(除染ループ)を形成した後、バルブ12を開き、除染対象物1を含む除染ループ内に、薬注ポンプ5から水を導入し、ヒータ-2により所定の温度に昇温しつつ循環ポンプ11により除染ループ内に循環させる。そして、還元剤であるシュウ酸およびシュウ酸ナトリウムを、全シュウ酸イオン濃度が 3? 5mmol/m^(3)になるように、薬注ポンプ5から除染ループ内に注入する。……
……このとき、酸化皮膜および炭素鋼などの母材が除染液に溶解し、除染液のpHが高くなるので、除染ループ内に設置されたpH計3により除染液のpHを監視し、pHが高くなった場合は、酸または酸の水溶液を薬注ポンプ5から添加し、除染液のpHを 2.8? 3.3に維持する。なお、pH調整のために添加する酸または酸の水溶液としては、シュウ酸等の有機酸が用いられ、また、pHの微調整のために、アルカリの水溶液を薬注ポンプ5から少量添加することもできる。さらに、除染液のpH制御においては、定期的にイオン交換樹脂塔7を通過させ、除染液に溶出した金属イオンを捕集回収する方法を採ることもできる。
【0034】そして、このようなpH制御された酸化皮膜の還元溶解工程において、図3に示すように、一時的にバルブ16、17、18をそれぞれ開いて、除染液をイオン交換樹脂塔7に通し、還元溶解した酸化皮膜および炭素鋼母材から溶出してくる金属イオンを、イオン交換樹脂に吸着回収させる。
……
【0035】次いで、循環している除染液中に含まれる放射能量が、検出限界値以下に達したとき、還元剤の分解を開始する。すなわち、図4に示すように、バルブ16?22をそれぞれ開き、バルブ13、14、15をそれぞれ閉じ、除染液が、イオン交換樹脂塔7を含む金属イオン回収ループ、および電解セル8と紫外線照射セル9とを含む還元剤分解ループ内を流れるようにする。
……
【0038】次いで、酸化剤を薬注ポンプ5から除染ループ内に注入し、除染対象物1上に残留したクロム成分を含む酸化皮膜を酸化処理する。……
【0039】こうして、除染対象物1上のクロム成分を含む酸化皮膜を酸化処理した後、還元剤であるシュウ酸/シュウ酸ナトリウムを添加して、除染液に含まれる過剰の過マンガン酸成分を還元して分解し、しかる後除染液に溶存する2価マンガンイオンをイオン交換樹脂により吸着回収する。それには、バルブ13を閉じるとともにバルブ16?18をそれぞれ開き、冷却器6およびイオン交換樹脂塔7を含む金属イオン回収ループに除染液を流す。除染液は、冷却器6により冷却された後イオン交換樹脂塔7を通過し、除染液に含まれる2価マンガンイオンが吸着除去される。
【0040】次に、バルブ16?18をそれぞれ閉じ、バルブ13を開いて、再び除染ループに除染液を流す。除染液は、循環ポンプ11によりヒータ-2に送られ、ここで所定の温度まで昇温された後、除染ループ内を循環する。……」
(サ)【図2】?【図4】
【図2】?【図4】には、化学除染装置の実施例が模式的に図示され、段落【0033】?【0040】の記載に即して、各バルブの開閉状態が示されている。

4.本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の(a)「原子力発電施設内の除染対象機器および配管系」、ならびに、(b)「除染剤」が、本願補正発明の(a’)「原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物」、ならびに、(b’)「 除染液」に相当することは当業者に明らかである。
また、「原子力発電施設内の除染対象機器を除染した化学除染剤廃液中の放射能成分」が「金属イオン」であることは当業者の技術常識であるので、引用発明の(c)「除染剤を供給し、除染した化学除染剤廃液中の放射能成分をイオン交換樹脂塔のイオン交換樹脂によって回収」することは、本願補正発明の(c’)「 除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収」することに相当する。
そして、引用発明も本願補正発明も、「化学除染」に係る発明であることは明らかである。
してみると、両者は、「原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物に除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収する、化学除染方法。」という点で一致し、以下の点で相違する。

(4-1)相違点1
本願補正発明は、「金属イオンが回収された除染液は再び前記除染対象物に導入される」のに対し、引用発明は「イオン交換樹脂塔を経た化学除染剤廃液を除染剤タンクに戻す」点(以下、「相違点1」という。)。
(4-2)相違点2
本願補正発明は「イオン交換樹脂塔の底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続する」「除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法」であるのに対し、
引用発明は、イオン交換樹脂塔について具体的な構成の記載がなく、さらに、単なる「化学除染廃液の処理方法」にすぎない点(以下、「相違点2」という。)。

5.検討・判断
上記相違点1、2について検討する。
(5-1)相違点1について
引用発明の「除染剤」は、除染剤タンクから供給され、回収後、除染剤タンクに戻されることからして、引用発明の除染剤も繰り返し使用されるものであるということができる。
そして、発電施設機器に付着した汚染物質を含む金属酸化物やスケールを化学除染するに際し、除染液中の金属イオンをイオン交換樹脂によって回収した後、その除染液を除染対象物に再度導入して除染液を循環使用することは、引用例4に記載されているように(特に前記摘記(コ)の下線部参照)、当業者に周知の技術的事項にすぎない。
してみると、引用発明において、除染液を繰り返し使用するため、金属イオンを回収した除染液を一旦タンクに回収するに代えて、再び除染対象物に導入して循環使用するよう構成する程度のことは、当業者が格別の困難なくなし得る事項にすぎない。

(5-2)相違点2について
原子力発電プラントにおいて、イオン交換樹脂を用いて連続的に放射性物質を除去するとともに放射性廃棄物の量を減らすため、複数台のイオン交換樹脂塔を設置し、それぞれのイオン交換樹脂塔を、そのイオン交換能力が低下した際に、イオン交換能力が低下していない他のイオン交換樹脂塔に切り換えて使用し、能力の低下したイオン交換樹脂塔に充填されているイオン交換樹脂を取り出して再生・再利用するとともに、イオン交換樹脂の性能が劣化した際には、イオン交換樹脂のみを廃棄することは、引用例2、3に記載されているように、当業者に非常によく知られた事項である。さらに、引用例3には、イオン交換樹脂を、イオン交換樹脂塔の底部に設けた出口からから取り出し、イオン交換樹脂塔の上部に設けた入口から充填することも記載されている。
そして、原子力発電プラントにおいて、作業時間を短縮して被爆量の低減を図るとともに、放射性廃棄物の総量を減らすことは、プラント運転中に限らず、除染作業においても求められる事項であることは、当業者の技術常識に属する事項である。
そうすると、除染作業に用いた化学除染廃液をイオン交換処理するに際しても、作業時間を短縮して被爆量の低減を図るため、イオン交換処理を連続的に行うとともに、放射性廃棄物の総量を減らすため、イオン交換処理塔を複数基設置し、それぞれのイオン交換樹脂塔を、そのイオン交換能力が低下した際に、イオン交換能力が低下していない他のイオン交換樹脂塔に切り換えて使用し、能力の低下したイオン交換樹脂塔に充填されているイオン交換樹脂を取り出して廃棄し得るよう、イオン交換樹脂塔の底部に使用済みのイオン交換樹脂の出口を設け、イオン交換樹脂塔の上部に新イオン交換樹脂の入口を設けるよう構成すること、すなわち、「イオン交換樹脂塔の底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上部に新樹脂の充填ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続する」よう構成することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
また、イオン交換樹脂塔の上部に新樹脂の充填ノズルを設けるに際し、「イオン交換樹脂塔上蓋の中央部」に設けるよう構成することは、イオン交換樹脂塔内におけるイオン交換樹脂の均等分散性等々を考慮し、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明、引用例2、3に記載された技術的事項ならびに周知の技術的事項から、当業者が予測できる範囲のものである。
なお、請求人は「イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設ける」点について、明細書の記載を根拠に、新樹脂の充填を容易に行うことができる作用効果を主張するが、本願の明細書にはそのような作用効果に関する記載はなく、請求人の前記主張を採用する特段の事情を見出すことはできない。
よって、本願補正発明は、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項ならびに周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年5月28日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年10月15日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「原子力発電所内設備の配管または機器を対象とした除染対象物に除染液を流して化学除染処理し、化学除染作業時の除染液で溶解した放射能汚染を伴う金属イオンをイオン交換樹脂塔に収容されたイオン交換樹脂によって回収し、金属イオンが回収された除染液は再び前記除染対象物に導入される化学除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法であって、前記イオン交換樹脂塔に樹脂排出ノズルを設け、このイオン交換樹脂塔を少なくとも2基除染ラインに設置して、一方のイオン交換樹脂塔内の使用済イオン交換樹脂を前記樹脂排出ノズルから排出する作業を行う際に、他方のイオン交換樹脂塔により前記除染ラインの除染作業を継続することを特徴とする除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献および原査定の時に周知技術として提示された文献、ならびに、その記載事項は、前記「II.〔理由〕3.」の(3-1)ないし(3-4)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比、検討・判断
本願発明は、上記「II.〔理由〕2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「イオン交換樹脂塔」についての、「底部に使用済イオン交換樹脂の排出ノズルを設けるとともに、前記イオン交換樹脂塔の上蓋の中央部に新樹脂の充填ノズルを設け」という限定的事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加して限定したものに相当する本願補正発明が、「II.〔理由〕5.」に記載したとおり、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項ならびに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項ならびに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-26 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願平11-10066
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21F)
P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一山口 敦司  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 森林 克郎
安田 明央
発明の名称 除染作業時のイオン交換樹脂の処理方法  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 鹿股 俊雄  

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