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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1194889
審判番号 不服2008-11134  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-01 
確定日 2009-03-26 
事件の表示 特願2006-285074「レンズ鏡筒およびレンズ鏡筒の組立方法およびカメラモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-310343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)10月19日(国内優先権主張、平成18年4月17日)に出願した特願2006-285074号であって、平成19年5月11日付けで拒絶理由通知がなされ、平成19年7月17日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、平成19年8月7日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、平成19年10月11日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、平成20年3月27日付けで平成19年10月11日付けの手続補正が却下され、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年5月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年5月29日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成20年10月23日付けで当審から請求人に審尋を行い、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

第2 平成20年5月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成20年5月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

1 本件補正について
平成19年10月11日付けの手続補正は、原審において既に却下されているため、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成19年7月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、
「2枚のレンズと、
上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠と、
上記2枚のレンズ間に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサと
を備え、
上記スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含むことを特徴とするレンズ鏡筒。」が、

「2枚のレンズと、
上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠と、
上記2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサと
を備え、
上記スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含み、
上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接すると共に、
上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定していることを特徴とするレンズ鏡筒。」と補正された。

2 補正目的の違反についての検討
この本件補正による、特許請求の範囲の請求項1における補正事項は、
(1)レンズ間のスペーサの配置について「周方向に等間隔」と特定する補正事項、
(2)「上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接する」ことを追加して特定する補正事項、
(3)スペーサの機能について「上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定している」ことを特定する補正事項、
からなる。
上記補正事項のうち、(1)及び(3)の補正事項は、それぞれ、スペーサの配置及びスペーサの機能について具体的に限定したものであるから、いわゆる限定的減縮を目的としたものであるということができ、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものということができる。
これに対して(2)の補正事項については、その補正により、本件補正前の請求項1の記載から想定し得る技術課題の他に、「スペーサが・・・内壁に位置決め用の構造物なしに当接する」という新たに付加された技術的事項に関連する技術課題も、本願の発明が解決しようとする技術課題加えられたことになる。そして、この技術課題は、上記の本件補正前の請求項1の記載からは想定し得る技術課題とは関連のない技術課題である。したがって、発明が解決しようとする課題は、本件補正の前後で変更されたということができ、本件補正は、請求項のいわゆる限定的減縮を目的とするものではなく、すなわち、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法第17条の2第4項第1,3,4号に掲げるいずれの事項をも目的とするものでもないから、同法第17条の2第4項に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件違反についての検討
念のため、仮に、上記の本件補正が、全体として平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合に、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(1)特許法第29条第2項(発明の進歩性)についての検討
ア 本願補正発明について
本願補正発明は、平成20年5月29日付け手続補正書でなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「2枚のレンズと、
上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠と、
上記2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサと
を備え、
上記スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含み、
上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接すると共に、
上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定していることを特徴とするレンズ鏡筒。」

イ 引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-318858号公報(以下、「引用例」という。)には、図面の記載とともに以下の事項が記載されている。(下記の「ウ 引用例に記載された発明の認定」において直接引用した箇所に下線を付した。)

「【0009】
【課題を解決するための手段】このような要請に応えるために本発明に係るレンズ鏡筒は、複数枚のレンズと、これらのレンズを所定の間隔をおいてそれぞれのレンズ光軸を一致させて保持するレンズ枠とを備え、前記レンズのうちの少なくとも二枚のレンズ間にあって互いに向き合うレンズ面に当接するように鋼球を配設したものである。ここで、鋼球としては少なくとも三個用いるとよく、またこのような三個の鋼球を、レンズ光軸を中心とした同一円周上に鋼球中心が位置するように配設するとよい。さらに、鋼球を、レンズ枠に形成した最大内径部よりも小さい内径寸法を有する内周面の略三分割された部分に当接させて設ける構成とし、またこれらの鋼球の周方向および径方向での動きを規制する壁部を、レンズ枠の一部に設けるとよい。
【0010】本発明によれば、レンズ枠内でレンズ間を所定の間隔をおいて保持するための従来の間隔環に相当する部品として、少なくとも三個の鋼球を用い、かつこれらの鋼球をレンズの周方向において略三等分した等配位置に配置することにより、レンズ間の間隔を鋼球の径寸法によって所定の値に設定して組立てることができる。特に、一般に市販されている鋼球の外径寸法のばらつきは数μmであってしかも入手し易いため、容易にレンズ間の間隔の精度の誤差を数μm以内に設定でき、レンズ鏡筒におけるレンズ群による撮影光学系を所定の状態で組立てることが可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】図1および図2は本発明に係るレンズ鏡筒の一つの実施の形態を示すものであり、これらの図において、前述した図5以下と同一または相当する部分には同一番号を付して詳細な説明は省略する。
【0012】この実施の形態でのレンズ組立体1を構成するレンズ枠2は、前述した図5で説明した従来例と同様に、レンズ枠2の一側方(図1中右側)から、二枚のレンズ3,4を組込む構造であり、径の小さいレンズ3が収まる内径部2bと径の大きいレンズ4が収まる内径部2cとが形成されている。なお、径の小さい側の内径部2bの反組込み側の開口端にはレンズ3を係止する内径フランジ部2aが形成され、また径の大きい側の内径部2cの組込み側の開口端には、止め環6のねじ部6aが螺合するねじ部2dが形成されている。
【0013】
ここで、上述したレンズ3,4の互いに向かい合うレンズ曲面において、径の大きいレンズ4の曲面の曲率半径r1は、レンズ光軸上での径の小さいレンズ3の曲面の曲率半径r2に、間隔dを加えた値以上になっている。
【0014】10は鋼球で、レンズ3の曲面とレンズ4の曲面とに当接した状態で介在され両レンズ3,4の間隔を決定するためのものである。これらのレンズ3,4の互いに向かい合う曲面間の間隔は、それぞれの曲率半径r2,r1の関係からレンズ光軸に近づくほど間隔が狭くなるので、鋼球10は両レンズ3,4間でこれらのレンズ3,4の曲面により光軸方向において挾み込まれた状態で押さえられるとともに光軸から離れる方向に寄せられ、レンズ枠2の内周面2eに当接し、この状態を維持する。
【0015】ここで、この実施の形態では、図2に示すように三個の鋼球10を、レンズ3,4の周縁部分で周方向を略三等分した120°の間隔をおいた位置であって、径の小さいレンズ3を保持する内径部2bの周方向の三個所に凹設した凹部11に少なくとも一部を係合させた状態で配設されている。そして、これらの鋼球10は、これらの凹部11の底部による前記レンズ枠2でのレンズ4を保持している最大内径部2cよりも小さい内周面2eに当接した状態とされ、これによりレンズ光軸を中心とした同一円周上に各鋼球10の中心が位置するように配置されている。特に、内径部2b,2c、内周面2eは同一型で成形できるので、各内径部2b,2cや内周面2eの中心軸は一致する。したがって、このようなレンズ枠2に保持する各レンズ3,4での光軸のずれは生じない。
【0016】なお、このような凹部11は、レンズ枠2の内径部2bの等配した三個所に放射方向に向って凹設されており、その周方向両側の壁部11a,11aが鋼球10の周方向での動きを規制し、また凹部11の底部である内周面2eで鋼球10の径方向での動きを、前述したレンズ3,4の曲面の曲率半径の違いによる係止機能と協働して規制するように構成されている。
【0017】このような構成によれば、鋼球10は、レンズ枠2に同一円周面を構成する内周面2eを有する凹部11によって同一円周上に位置し、これによりこれらの鋼球10はレンズ3の曲面に接触する面を傾かない状態に保つことができる。また、このような凹部11に係合している鋼球10は、レンズ3,4間で周方向の略三等分した位置であってしかも可能な限り外周縁に寄った位置に動きを規制されて配置され、これによりレンズ枠2内にレンズ3,4をこれらの間隔を所定の誤差範囲内、たとえば数μm以内に保って設けることが可能となる。これは、一般に市販されている鋼球10の外径寸法のばらつきが数μmの範囲のものを入手できるためである。
【0018】なお、この実施の形態では、レンズ3,4の互いに向かい合う面が凸面と凹面との組み合わせによる場合を説明したが、これに限定されず、凸面と凸面との組み合わせによるレンズ間の間隔を確保するためにも用いることができる。この場合には、鋼球10の外径寸法をレンズ曲面の曲率半径に合わせて大きなものを選択すればよい。
【0019】図3および図4は本発明に係るレンズ鏡筒の第2の実施の形態を示す。この実施の形態は、レンズ枠2に保持するレンズ3,4の互いに向かい合うレンズ面が凹面と凹面とによる場合に、鋼球10を使いてレンズ間隔を決定している。ここで、レンズ枠2には、レンズ3が収まる内径部2bとレンズ4が収まる内径部2cが形成され、これら各レンズ3,4はレンズ枠2の図中両側から組込まれ、かつ止め輪8,6によって係止されて保持されるように構成されている。
【0020】このようなレンズ枠2において、光軸方向の中央部には内向きフランジ壁12がレンズ3,4での有効光線のけられを生じない範囲に形成され、この内向きフランジ壁12の周方向の略三等分した位置には、図4に示すように鋼球10が係合する保持孔13が設けられている。そして、これらの鋼球10は、レンズ3の凹面側のレンズ曲面とレンズ4の凹面側のレンズ曲面とに当接することにより、これらのレンズ3,4間に挾み込まれた状態で配置され、これによりレンズ3,4間の間隔を決定している。」

ウ 引用例に記載された発明の認定
上記記載から、引用例には、レンズ鏡筒に関し、
「複数枚のレンズと、これらのレンズを所定の間隔をおいてそれぞれのレンズ光軸を一致させて保持するレンズ枠とを備え、前記レンズのうちの少なくとも二枚のレンズ間にあって互いに向き合うレンズ面に当接するように鋼球を配設し、鋼球としては少なくとも三個用いるとよく、またこのような三個の鋼球を、レンズ光軸を中心とした同一円周上に鋼球中心が位置するように配設するとよく、鋼球を、レンズ枠に形成した最大内径部よりも小さい内径寸法を有する内周面の略三分割された部分に当接させて設ける構成とし、
実施例においては二枚のレンズ3,4を組み込む構造であり、
鋼球は、レンズ3の曲面とレンズ4の曲面とに当接した状態で介在され両レンズ3,4の間隔を決定するためのものであり、
実施例においては、三個の鋼球10を、レンズ3,4の周縁部分で周方向を略三等分した120°の間隔をおいた位置に配設したレンズ鏡筒。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

エ 本願補正発明と引用発明の対比
ここで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明及び本願補正発明で「2枚のレンズ」を備えるものである点で一致している。

引用発明の「レンズを所定の間隔をおいてそれぞれのレンズ光軸を一致させて保持するレンズ枠」は、本願補正発明の「上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠」に相当する。

引用発明の「鋼球」は、レンズの間隔を決定するものであるから、本願補正発明の「スペーサ」に相当する。よって、引用発明の「三個の鋼球10を、レンズ3,4の周縁部分で周方向を略三等分した120°の間隔をおいた位置に配設した」ことは、本願補正発明の「上記2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサとを備え」ることに相当する。

引用発明の「鋼球」の鋼は磁性材料であるから、引用発明のスペーサが「鋼球」であることと、本願補正発明の「上記スペーサの、構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含」むこととは、「スペーサの、構成材料が磁性材料を含」むことで一致している。

引用発明の「鋼球を、レンズ枠に形成した最大内径部よりも小さい内径寸法を有する内周面の略三分割された部分に当接させて設ける」ことと、本願補正発明の「上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接する」こととは、「スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に当接する」ことで一致している。

引用発明の「鋼球は、レンズ3の曲面とレンズ4の曲面とに当接した状態で介在され両レンズ3,4の間隔を決定するためのものであ」ることは、本願補正発明の「上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定している」ことに相当する。

オ 本願補正発明と引用発明の一致点
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「2枚のレンズと、
上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠と、
上記2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサと
を備え、
上記スペーサの構成材料が磁性材料を含み、
上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に当接すると共に、
上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定していることを特徴とするレンズ鏡筒。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

カ 本願補正発明と引用発明の相違点
(ア)相違点1;
スペーサの構成材料に含まれる磁性材料が、本願補正発明においては「強磁性材料またはフェリ磁性材料」であるのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

(イ)相違点2;
スペーサがレンズ枠の円筒面である内壁に当接するための構造として、本願補正発明においては「位置決め用の構造物なしに」当接するのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。


キ 相違点についての検討断
次に、上記各相違点について検討する。

(ア)相違点1について
第1に、本願補正発明は、レンズ鏡筒という物を発明の対象とするものであるところ、レンズ組立後の物であるレンズ鏡筒においては、スペーサの構成材料に含まれる「強磁性材料またはフェリ磁性材料」の技術的意義は認められず、「強磁性材料またはフェリ磁性材料」と特定したことに格別の困難性は認められない。
第2に、「強磁性材料」及び「フェリ磁性材料」は、ともに磁性材料として周知の材料であり、該周知の材料を選択することは、当業者が必要に応じて容易になし得る事項である。
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得た事項である。

(イ)相違点2について
本願補正発明の記載においては、スペーサが「2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され」ることを担保するための具体的構造を特定することなく、「位置決め用の構造物なしに」であることを特定するものであるから、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、単に、「位置決め用の構造物なしに」スペーサが「2枚のレンズ間に周方向に等間隔に配置され」るという課題(願望)を特定したものに過ぎず、該特定により発明の進歩性が生じるものではない。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得た事項である。


(ウ)本願補正発明の効果について
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ク まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(2)特許法第36条第6項第1号についての検討
本件補正により補正された本願明細書には、発明が解決しようとする課題について、
「 【0014】
特に、図15に示すように、鋼球406を配置する面が平坦な場合においては、周方向にも径方向にも鋼球406の動きが規制されていないため、鋼球406を略三分割した等配位置かつレンズ枠403の内壁に接するように配置し、鋼球406が動かないようにその後の組立を行うことは非常に困難である。
【0015】
また、鋼球406を配置する面が凹面の場合においても、周方向にも径方向にも鋼球406の動きが規制されていないため、平坦面の場合と同様、その後の組立を行うことは困難となる。」
と問題点を指摘した上で
「 【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、この発明の課題は、レンズ間の間隔を高精度に保ちつつレンズ枠内におけるレンズの倒れを確実に防止できるレンズ鏡筒およびレンズ鏡筒の組立方法およびそのレンズ鏡筒を用いたカメラモジュールを提供することにある。」
と記載されており、本願補正発明の発明が解決しようとする課題は、鋼球(スペーサ)を略三分割した等配位置かつレンズ枠の内壁に接するように配置し、鋼球(スペーサ)が動かないようにすることにより、レンズ枠内におけるレンズの倒れを確実に防止することにあるといえる。
これに対して、本願補正発明においては、「スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含」むことが特定されているものの、発明の対象たる物の構造において磁石の構造が含まれていない以上、発明の対象たる物においては「スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含」むことは上記課題を解決する上で何らの技術的意義を有するものではない。
すなわち、本願補正発明の記載では、スペーサを略三分割した等配位置かつレンズ枠の内壁に接するように配置することを担保するための構造、及び、スペーサが動かないようにするための構造が特定されておらず、本願補正発明の発明特定事項からは、どのように上記課題を解決するのかが想定され得ない。
したがって、本願補正発明の記載と、本願の発明の詳細な説明の記載が整合しておらず、本願補正発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しており、本願補正発明は特許を受けることができない。

(3)特許法第36条第6項第2号についての検討
本願補正発明における「上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接する」の記載について、「位置決め用の構造物」がどのような範囲のものまで含むものか(すなわち、どのようなものが「位置決め用の構造物」ということができ、どのようなものは「位置決め用の構造物」といういことができないかの境界)が不明で、発明を明確に特定できない。
また、本願補正発明の記載では、スペーサが、どのように「位置決め用の構造物なしに」周方向に等間隔に配置された状態でレンズ枠の円筒面である内壁に当接するのか、そのための具体的構造が不明で、発明を明確に特定できない。
したがって、本願補正発明の記載では、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、本願補正発明は特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願補正発明の記載と、本願の発明の詳細な説明の記載が整合しておらず、本願補正発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しており、本願補正発明は特許を受けることができない。
さらに、本願補正発明の記載では、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、本願補正発明は特許を受けることができない。
したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、仮に、本件補正が、全体として平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合であっても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。

第3 本願発明について
原査定において拒絶の理由とされた2つの理由について検討する。

1 特許法第29条第2項(発明の進歩性)についての検討
(1)本願発明
平成19年10月11日付けの手続補正は、原審において既に却下されており、平成20年5月29日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月17日付け手続補正書でなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「2枚のレンズと、
上記2枚のレンズを保持する筒状のレンズ枠と、
上記2枚のレンズ間に配置され、上記2枚のレンズの互いに向き合うレンズ面に当接する3つ以上のスペーサと
を備え、
上記スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含むことを特徴とするレンズ鏡筒。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成20年5月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(1)特許法第29条第2項(発明の進歩性)についての検討」の「イ 引用例」及び「ウ 引用例に記載された発明の認定」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明における、
ア レンズ間のスペーサの配置について「周方向に等間隔」と特定する補正事項、
イ 「上記スペーサが上記レンズ枠の円筒面である内壁に位置決め用の構造物なしに当接する」ことを追加して特定する補正事項、
ウ スペーサの機能について「上記スペーサは、上記2枚のレンズに当接した状態で上記2枚のレンズの間隔を決定している」ことを特定する補正事項
を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成20年5月29日付けの手続補正についての補正却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(1)特許法第29条第2項(発明の進歩性)についての検討」において記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 特許法第36条第6項第1号についての検討
平成19年7月17日付け手続補正書でなされた手続補正により補正された本願明細書には、発明が解決しようとする課題について、
「 【0014】
特に、図15に示すように、鋼球406を配置する面が平坦な場合においては、周方向にも径方向にも鋼球406の動きが規制されていないため、鋼球406を略三分割した等配位置かつレンズ枠403の内壁に接するように配置し、鋼球406が動かないようにその後の組立を行うことは非常に困難である。
【0015】
また、鋼球406を配置する面が凹面の場合においても、周方向にも径方向にも鋼球406の動きが規制されていないため、平坦面の場合と同様、その後の組立を行うことは困難となる。」
と問題点を指摘した上で
「 【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、この発明の課題は、レンズ間の間隔を高精度に保ちつつレンズ枠内におけるレンズの倒れを確実に防止できるレンズ鏡筒およびレンズ鏡筒の組立方法およびそのレンズ鏡筒を用いたカメラモジュールを提供することにある。」
と記載されており、本願発明の発明が解決しようとする課題は、鋼球(スペーサ)を略三分割した等配位置かつレンズ枠の内壁に接するように配置し、鋼球(スペーサ)が動かないようにすることにより、レンズ枠内におけるレンズの倒れを確実に防止することにあるといえる。
これに対して、本願発明においては、「スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含」むことが特定されているものの、発明の対象たる物の構造において磁石の構造が含まれていない以上、発明の対象たる物においては「スペーサの構成材料が強磁性材料またはフェリ磁性材料を含」むことは上記課題を解決する上で何らの技術的意義を有するものではない。
すなわち、本願発明の記載では、スペーサを略三分割した等配位置かつレンズ枠の内壁に接するように配置することを担保するための構造、及び、スペーサが動かないようにするための構造が特定されておらず、本願発明の発明特定事項からは、どのように上記課題を解決するのかが想定され得ない。
したがって、本願発明の記載と、本願の発明の詳細な説明の記載が整合しておらず、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反している。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願発明の記載と、本願の発明の詳細な説明の記載が整合しておらず、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しており、本願発明は特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-20 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-10 
出願番号 特願2006-285074(P2006-285074)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 森林 克郎
安田 明央
発明の名称 レンズ鏡筒およびレンズ鏡筒の組立方法およびカメラモジュール  
代理人 仲倉 幸典  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  

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