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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1194986
審判番号 不服2006-23830  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-20 
確定日 2009-03-23 
事件の表示 特願2000-352496「磁気ディスク装置及びその駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月31日出願公開、特開2002-157850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略

本願は、平成12年11月20日の出願であって、平成17年12月12日付け拒絶理由の通知に応答して平成18年1月27日付けで手続補正がなされたが、同年9月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年10月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月27日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成18年10月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成18年10月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正

本件補正は、明細書についてするもので、そのうち特許請求の範囲の請求項1についてみれば、

-本件補正前-
「【請求項1】 リードヘッドとライトヘッドとを備えたロータリーアクチュエーター構造の磁気ディスク装置であって、マイクロアクチュエーターとプロセッサとを有し、
マイクロアクチュエーターは、固定電極および可動電極を有し、
マイクロアクチュエーターの固定電極は、前記ライトヘッドに固定して設けられ、
マイクロアクチュエーターの可動電極は、固定電極に対して摺動可能に組み込まれ、可動電極にリードヘッドを連携させてリードヘッドをライトヘッドに対して記録媒体の半径方向に相対移動可能に配置し、
リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとは、スライダーに一体に組み付けられ、
プロセッサは、記録媒体から読み込んだサーボ情報に基いて前記リードヘッドの移動指令を発し、前記ライトヘッドに対して前記リードヘッドを記録媒体の半径方向に移動させ、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正するようマイクロアクチュエーターを駆動するものであることを特徴とする磁気ディスク装置。」を、

-本件補正後-
「【請求項1】 リードヘッドとライトヘッドとを備えたロータリーアクチュエーター構造の磁気ディスク装置であって、マイクロアクチュエーターとプロセッサとを有し、
リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを、この順に隙間なく積み重ねて一体化し、ライトヘッド側をスライダーに固定して構成するものであって、
マイクロアクチュエーターは、固定電極および可動電極を有し、
マイクロアクチュエーターの固定電極は、前記ライトヘッドに固定して設けられ、
マイクロアクチュエーターの可動電極は、固定電極に対して摺動可能に組み込まれ、可動電極にリードヘッドを連携させてリードヘッドをライトヘッドに対して記録媒体の半径方向に相対移動可能に配置し、
プロセッサは、記録媒体から読み込んだサーボ情報に基いて前記リードヘッドの移動指令を発し、前記ライトヘッドに対して前記リードヘッドを記録媒体の半径方向に移動させ、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正するようマイクロアクチュエーターを駆動するものであることを特徴とする磁気ディスク装置。」と、上記下線部について補正しようとするものである。

2.本件補正の目的

上記-本件補正後-の請求項1における「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを」「一体化し、」「スライダーに固定して構成するものであって、」との事項は、-本件補正前-における「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとは、スライダーに一体に組み付けられ、」に相当すると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正は、上記事項の記載位置を変更し、且つ、リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとからなる組について、「この順に隙間なく積み重ねて一体化し、ライトヘッド側をスライダーに固定して」との事項を追加するものである。
上記下線部分の記載位置の変更は実質的な補正ではないが、リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとからなる組についての上記事項の追加に関しては、発明を特定するために必要な事項を限定するもので特許請求の範囲の減縮と認められるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものと認める。

3.独立特許要件

そこで、上記-本件補正後-の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平9-22519号公報(以下、「引用例」という。)には、磁気ディスク装置に関して図面とともに次の事項が記載されている。(なお下線は当審で付与した。)

(あ)
「【請求項5】磁気ヘッドにより磁気ディスクの目的とする位置に情報を記録/再生する磁気ディスク装置において、
該磁気ヘッドが設けられた磁気ヘッドスライダであって、その主要部を構成するスライダ基材上に、記録及び再生の為の素子が夫々上下に設けられた磁気ヘッドが形成され、該磁気ヘッドは前記上位素子と前記下位素子を独立に形成する分離面を有し、前記上位素子を前記基材表面に平行に動かす移動手段を有する磁気ヘッドスライダと、該磁気ヘッドスライダを保持する磁気ヘッドアームと、
該磁気ヘッドアームを介して回転軸を中心に駆動して前記磁気ヘッドを前記磁気ディスク上の目的の位置に位置付けるアクチュエータと、を有したことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項6】前記磁気ディスク装置は、前記アクチュエータの回転駆動の状態及び/若しくは前記磁気ヘッドによって読みだされた位置情報により、前記磁気ヘッドの前記磁気ディスク上の半径位置を認識し、その認識された半径位置によって前記磁気ヘッドの前記上位素子を移動させる前記移動手段を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】前記磁気ヘッドスライダは前記上位素子が移動したことを検出するセンス手段を有し、前記制御手段は該センス手段からの出力によって前記上位素子を移動させる前記移動手段を制御することを特徴とする請求項6記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】前記磁気ヘッドの前記上位素子を、前記磁気ディスクの半径位置に応じて該基材面に対し平行移動させることを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク装置。」

(い)「【0011】更に本発明の目的は、ロータリーアクチュエータを有する磁気ディスク装置における高精度なトラック位置決めが可能な磁気ヘッドスライダを有する磁気ディスク装置を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】基材となる磁気ヘッドスライダに対し、記録素子と再生素子を上下方向に設け、上位素子と下位素子の相対的な運動が可能となるように上位素子と下位素子の間には分離面があり、素子の相対位置を変えられるように上位素子が固定されている。そして上位素子の下位素子に対する相対位置を変えるための、上位素子を基材表面に平行に動かす手段を設け、素子の磁気ディスク上の位置に関わらず、記録素子と再生素子の磁気ディスク上の半径位置が、ほぼ同一になるように相対位置を決定する。」

(う)「【0021】スライダ1の流出端2近傍に記録素子3、再生素子4が設けられている。記録素子3と再生素子4の間には隙間5が設けられている。記録素子3は下部コア6と上部コア7を有すインダクティブ形薄膜ヘッドであり、実質的な素子幅は上部コア7の幅で定まる。記録素子3は櫛歯形静電駆動の微動アクチュエ-タ8により駆動される可動部9に形成されており、可動部9はスライダ1と結合する梁10に支えられている。アクチュエータ8によって可動部9が左右に動作すると、梁10は左右にたわみ記録素子3も左右に動作する。梁10には歪ゲ-ジ11が設けられ、その出力信号により記録素子3と再生素子4の相対変位を検出することできる。
【0022】櫛歯形静電駆動を行う微動アクチュエ-タ8の可動部9を電気的にグランドに落しておき、固定部12に電圧を加えると、静電気力により可動部9は固定部12に引き付けられる。図1において記録素子3を右側に動かしたいときは右側の固定部12aに電圧を加え、左側に動かしたいときは左側の固定部12bに電圧を加えれば良い。
【0023】また、櫛歯形静電駆動の微動アクチュエ-タ8を使って可動部9を左右に動かす他の方法としては、可動部9にある一定のバイアス電圧を加えておき、2つの固定部12a、12bにバイアス電圧に対するオフセット電圧を同時に、同相で加えてもよい。この場合、前述に比べ同じ電圧で2倍の加速度を得ることができる。
【0024】図4は位置決め制御のブロック図の一例を示す。再生素子4は通常の磁気ディスク装置と同様の位置決めを行う。即ち、通常の磁気ディスク装置の位置決め処理は、データを再生する再生素子を用いて磁気ディスクに記憶されている位置決め信号を検出し、位置決め処理に用いることである。具体的には、再生素子4の位置情報14と目標位置情報13とから、目標位置に対する再生素子4の位置の差を再生素子位置決め用コントロ-ラ15に入力する。再生素子位置決め用コントロ-ラ15の出力が再生素子駆動用アクチュエ-タ16へ入力され、再生素子4の位置決めがなされる。
【0025】再生素子4の位置情報14は、再生素子4の位置検出器17によって再生素子位置決め用コントロ-ラ15の入力側にフィ-ドバックされる。再生素子4の位置検出器17は、あらかじめ磁気ディスク上に書かれた位置決め信号を再生素子4により検出し目標位置情報13と同一のディメンジョンに変換する。
【0026】記録素子3の再生素子4に対する位置決めは、再生素子4の位置情報14と目標位置情報13から得られる目標位置と再生素子4の位置との差をもとに、再生素子4の位置を電気的に作り出すシミュレ-タ18の出力と、目標位置13に対応する予め定められた再生素子4に対する記録素子3の目標位置19の和とから記録素子3の再生素子4に対する位置20をさし引いた信号を微動アクチュエ-タ用コントロ-ラ21に入力し、その出力信号を微動アクチュエ-タ8に入力し記録素子3の位置決めがなされる。
【0027】記録素子3の再生素子4に対する位置は歪ゲ-ジ11などの検出器によって微動アクチュエ-タ8用コントロ-ラ21の入力側にフィ-ドバックされる。シミュレ-タ18は一般の光ディスク装置のコ-スアクチュエ-タ用のシミュレ-タと同様なものでよい。また、予め定められた再生素子4に対する記録素子3の目標位置19、即ち、磁気ディスクの半径位置に応じた再生素子4に対する記録素子3のずれ量を、予め作っておいた参照デーブルから目標位置情報13に応じて出力すればよい。」

(え)「【0038】以上の実施例では再生素子4をスライダ1に固定して記録素子3を微動させていたが、スライダ1の長手方向の記録素子3と再生素子4の順序を逆にし、記録素子3をスライダ1に固定して再生素子4を微動させ、記録素子3と再生素子4を磁気ディスクの同一半径上に位置決めしても同様の効果がある。さらに再生素子4を微動させる場合には再生時の微小位置決めにも用いることができ、位置決め精度の向上が図れるという効果もある。」

(お)「【0039】
【発明の効果】本発明によると、素子の磁気ディスク円板上の半径位置に関わらず記録素子と再生素子が同一半径位置に位置決めするので、記録素子と再生素子の幅を同じにでき、かつ、トラック幅も小さくできるので、トラック密度の高い磁気ディスク装置用の磁気ヘッドを実現できる。」

(か)「微動アクチュエータ8」の「固定部12」(上記(う)【0022】【0023】,【図1】【図3】参照。)がスライダ1に固定して設けられるものであることは明らかであり、よって引用例には、
「微動アクチュエータの固定部は、スライダに固定して設けられ、」
の点が記載されている。

上記(え)の事項に特に留意しつつ上記各摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例には以下の発明が記載されていると認める。
「スライダ基材上に、記録素子及び再生素子が夫々設けられた磁気ヘッドが形成され、再生素子を基材表面に平行に動かす櫛歯形静電駆動の微動アクチュエータを有する磁気ヘッドスライダと、
磁気ヘッドによって読みだされた位置情報により、磁気ヘッドの磁気ディスク上の半径位置を認識し、その認識された半径位置によって磁気ヘッドの再生素子を移動させる微動アクチュエータを制御する制御手段を有し、
素子の磁気ディスク上の位置に関わらず、記録素子と再生素子の磁気ディスク上の半径位置が、ほぼ同一になるように相対位置を決定する、ロータリーアクチュエータを有する磁気ディスク装置であって、
記録素子をスライダに固定して再生素子を微動させ、
微動アクチュエータの固定部は、スライダに固定して設けられ、
微動アクチュエ-タにより駆動される可動部に再生素子が形成された、
磁気ディスク装置。」(以下、「引用例発明」という。)

(2)対比・判断

本願補正発明と引用例発明とを対比する。
(i)引用例発明における「再生素子」「記録素子」「ロータリーアクチュエータを有する磁気ディスク装置」「微動アクチュエータ」及び「磁気ディスク」は、本願補正発明における「リードヘッド」「ライトヘッド」「ロータリーアクチュエーター構造の磁気ディスク装置」「マイクロアクチュエーター」及び「記録媒体」に各々相当する。
(ii)引用例発明では、「素子の磁気ディスク円板上の半径位置に関わらず記録素子と再生素子が同一半径位置に位置決めする」のであって、「微動アクチュエータ」が「記録素子」に対して「再生素子」を微動させること、すなわち、「再生素子」と「微動アクチュエータ」と「記録素子」とを一つの組として構成するものであることは明らかである。そして、引用例発明は、「記録素子をスライダに固定」するものであるから、本願補正発明と、「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを」「ライトヘッド側をスライダーに固定して構成するもの」である点で共通する。
(iii)引用例発明における「固定部」は、本願補正発明における「固定電極」と、固定部である点で共通する。
(iv)引用例発明における「可動部」は、本願補正発明における「可動電極」と、可動部である点で共通する。
(v)引用例発明における「微動アクチュエ-タ」は、「微動アクチュエータの固定部」及び「微動アクチュエ-タにより駆動される可動部」との記載があるように、「固定部」及び「可動部」を各々有するのであるから、本願補正発明における「マイクロアクチュエーター」と、「固定[部]および可動[部]を有し、」の点で共通する。
(vi)引用例発明における「固定部」は、スライダに固定して設けられるものであるところ、「記録素子」もスライダに固定されるものであるから、スライダを介して記録素子に対して固定して設けられるものと言える。
よって引用例発明における「固定部」は、本願補正発明における「固定電極」と、(その固定の態様が直接的か間接的かはともかく)「ライトヘッドに[対して]固定して設けられ、」の点で共通する。
(vii)引用例発明における「可動部」は、固定部と合わせて微動アクチュエータを構成するものであるから、本願補正発明における「可動電極」と、「固定[部]に対して」「組み込まれ、」の点で共通する。
(viii)引用例発明における「可動部」は、「再生素子」が形成され、「記録素子と再生素子の磁気ディスク上の半径位置が、ほぼ同一になるように相対位置を決定する」微動アクチュエータを構成するものであるから、本願補正発明における「可動電極」と、「可動[部]にリードヘッドを連携させてリードヘッドをライトヘッドに対して記録媒体の半径方向に相対移動可能に配置し、」の点で共通する。
(ix)引用例発明における「磁気ヘッドによって読みだされた位置情報」は、「再生素子4の位置情報14は、再生素子4の位置検出器17によって再生素子位置決め用コントロ-ラ15の入力側にフィ-ドバックされる。再生素子4の位置検出器17は、あらかじめ磁気ディスク上に書かれた位置決め信号を再生素子4により検出し目標位置情報13と同一のディメンジョンに変換する。」(上記2.(う)【0025】)のであるから、本願補正発明における「記録媒体から読み込んだサーボ情報」に相当する。
そして、引用例発明は「素子の磁気ディスク上の位置に関わらず、記録素子と再生素子の磁気ディスク上の半径位置が、ほぼ同一になるように相対位置を決定する」ものであるから、本願補正発明における「前記ライトヘッドに対して前記リードヘッドを記録媒体の半径方向に移動させ、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正する」という機能を実質的に有するものであり、そうすると、引用例発明における「制御手段」は、「磁気ヘッドによって読みだされた位置情報により、磁気ヘッドの磁気ディスク上の半径位置を認識し、その認識された半径位置によって磁気ヘッドの再生素子を移動させる微動アクチュエータを制御する」のであるから、本願補正発明における「プロセッサ」と、「記録媒体から読み込んだサーボ情報に基いて前記リードヘッドの移動指令を発し、前記ライトヘッドに対して前記リードヘッドを記録媒体の半径方向に移動させ、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正するようマイクロアクチュエーターを駆動する」点で共通する。

そうすると、本願補正発明と引用例発明は次の点で一致する。
<一致点>
「リードヘッドとライトヘッドとを備えたロータリーアクチュエーター構造の磁気ディスク装置であって、マイクロアクチュエーターとプロセッサとを有し、
リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを、ライトヘッド側をスライダーに固定して構成するものであって、
マイクロアクチュエーターは、固定[部]および可動[部]を有し、
マイクロアクチュエーターの固定[部]は、前記ライトヘッドに[対して]固定して設けられ、
マイクロアクチュエーターの可動[部]は、固定[部]に対して組み込まれ、可動電極にリードヘッドを連携させてリードヘッドをライトヘッドに対して記録媒体の半径方向に相対移動可能に配置し、
プロセッサは、記録媒体から読み込んだサーボ情報に基いて前記リードヘッドの移動指令を発し、前記ライトヘッドに対して前記リードヘッドを記録媒体の半径方向に移動させ、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正するようマイクロアクチュエーターを駆動するものである磁気ディスク装置。」である点。

そして、次の点で相違する。
<相違点1>
本願補正発明では、「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを、この順に隙間なく積み重ねて一体化し、ライトヘッド側をスライダーに固定して構成する」とするのに対し、引用例発明では、そのような記載は無い点。
<相違点2>
本願補正発明では、マイクロアクチュエーターが、「固定電極」および「可動電極」を有するのに対し、引用例発明では、固定部および可動部に係る電極について特定されていない点。
<相違点3>
本願補正発明では、「固定電極は、前記ライトヘッドに固定して設けられ」るのに対し、引用例発明では、固定部が記録素子に対して固定して設けられる点。
<相違点4>
本願補正発明では、「可動電極は、固定電極に対して摺動可能に組み込まれ」るのに対し、引用例発明では、そのような記載は無い点。

上記相違点1ないし4について検討する。
まず相違点2に関し、櫛歯形の静電アクチュエータを構成する固定部及び可動部が各々電極であることは周知(特開平11-314834号公報,特開平11-346482号公報等参照。)であるところ、引用例発明における櫛歯形静電駆動の微動アクチュエータが有する「固定部」及び「可動部」は、「可動部9を電気的にグランドに落しておき、固定部12に電圧を加える」(上記2.(う)【0022】)等、各々電極としての機能を有するものであることは明らかであるから、引用例発明における「固定部」及び「可動部」を各々「固定電極」及び「可動電極」とすることは当業者が適宜なし得たものである。
そして、引用例発明において、固定部及び可動部は各々、「記録素子と再生素子の・・・相対位置を決定する」ことを目的とした櫛歯形静電駆動の微動アクチュエータを構成する要素であるが、2つの部材の相対位置を決定する櫛歯形の静電アクチュエータとして、固定部が一方の部材に固定して設けられ、一方の部材と静電アクチュエータと他方の部材とをこの順に隙間なく積み重ねて一体化するよう配置するものは周知(特開平11-314834号公報(【0042】【0043】ほか)等参照。)であることを考慮すると、引用例発明において、上記目的を達成する微動アクチュエータとして上記周知な静電アクチュエータを採用すること、すなわち、上記相違点1のように「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドとを、この順に隙間なく積み重ねて一体化し、ライトヘッド側をスライダーに固定して構成する」とし、且つ、相違点3のように、「固定電極は、前記ライトヘッドに固定して設けられ、」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
更に、静電アクチュエータにおいて可動電極が固定電極に対して摺動可能に組み込まれる設計は周知(例えば特開平2-114872号公報(3頁右上欄20行ないし左下欄7行ほか)等参照。)であることを考慮すると、引用例発明において、静電駆動アクチュエータに係る上記周知な設計を付加すること、すなわち、上記相違点4のように「可動電極は、固定電極に対して摺動可能に組み込まれ、」とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たものである。

上記各相違点の判断を総合しても、本願補正発明の奏する効果は引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が十分予測可能なものであって格別なものとは言えず、本願補正発明は、引用例及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものである。
したがって本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお請求人は、請求の理由において、
「(d)本願発明と引用発明との対比
1)本願発明と引用文献1に記載の発明とは、ヨー角の影響によるリードヘッドとライトヘッドとのトラックのずれを補正するという目的においては共通するが、本願発明は、上述のように、リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッドを、この順に隙間なく積重ねて一体化し、それをスライダーに固定して、リードヘッドとライトヘッドを相対移動させる構造を有している。これに対して、引用文献1は、上位素子を梁で支持し、一定の隙間を持たせて梁をスライダーに固定する構造を持つものであり、本願発明の構造は、引用文献1とは基本的に異なる技術思想に基づくものである。
2)本願発明によれば、引用文献1におけるような隙間の確保や梁を介した固定構造は不要となり、ライトヘッド(下位素子)の上に駆動手段としてのマイクロアクチュエーターを積み、その上にリードヘッド(上位素子)を積むことで作ることができるため、隙間を安定的に確保するということをなんら考慮することなく製造でき、かつ、構造に起因する特性のばらつきを低減できる利点がある。
3)また、引用文献1においては、梁のたわみを利用するものであるため、サーボ位置決めなどの精密な位置決めにおいて、梁の剛性の精度を確保することが困難であると考えられるのに対し、本願発明においては単なる積み重ね構造としているために、マイクロアクチュエーター単体としての特性を確保することで、安定的に位置決めのための品質が保証できるという効果を奏する。
4)また、本願発明においては、コイル部などを持たず質量の小さなリードヘッドをマイクロアクチュエーターにより駆動する構成とすることにより、俊敏な移動を可能としている。これに対して、引用文献1は、移動対象となる上位素子として、リードヘッドまたはライトヘッドのいずれでも採り得るとしており、位置補正動作の高速性に対して、充分な配慮が為されているとは言い難い。」と主張する。(当審注:当該主張における「本願発明」は本件補正後の発明であり、「引用文献1」は引用例である。)
上記主張における1)ないし3)に関し、引用例における記録素子と微動アクチュエータと再生素子との配置構造については、上記相違点1、3、4のように本願補正発明と引用例発明との相違点を当審は認めるものであり、その上で、当該相違点は当業者が容易に想到し得たものであり適宜なし得たものであると判断するものであることは、上述したとおりである。そして上記4)に関し、上記「リードヘッドをマイクロアクチュエーターにより駆動する構成」については、本願補正発明は「リードヘッドをライトヘッドに対して記録媒体の半径方向に相対移動可能に配置」等の構成を有するものであるが、本願補正発明における当該構成に相当する構成を引用例発明が有することは上述したとおりであって、引用例において再生素子を可動部に形成する実施例に係る効果としてヘッドの「位置補正動作の高速性」が(本願の当初明細書等において当該高速性について明記されていないのと同様に)明記されていない点をもって、本願補正発明が引用例発明とは異なる技術思想に基づくものとすることはできない。
よって請求人の上記主張は、本願補正発明が引用例発明から容易に発明をすることができたものではないとするための根拠として採用することはできないものである。

4.本件補正についてのむすび

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成18年10月27日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本件特許出願の請求項1ないし6に係る発明は、平成18年1月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明は上記「第2 1.」で-本件補正前-の請求項1として記載したとおりである。(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、上記「第2[理由]3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、本願補正発明から、「リードヘッドとマイクロアクチュエーターとライトヘッド」について、「この順に隙間なく積み重ねて一体化し、ライトヘッド側をスライダーに固定して」との上記下線部に係る特定事項を省いたものに、実質的に相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2[理由]3.(2)」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本願発明についてのむすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-23 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願2000-352496(P2000-352496)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 561- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 和俊松尾 淳一  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 吉川 康男
横尾 俊一
発明の名称 磁気ディスク装置及びその駆動方法  
代理人 菅野 中  

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