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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1195061
審判番号 不服2006-13565  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-28 
確定日 2009-03-30 
事件の表示 特願2004-305853「垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法、ならびに磁気記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月11日出願公開、特開2006-120224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成16年10月20日の出願であって、平成17年12月22日付けで通知した拒絶の理由に対し、平成18年2月27日付けで手続補正がなされたが、平成18年5月26日付けで拒絶査定され、これに対し平成18年6月28日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、本願の請求項1ないし5に係る発明は、前記平成18年2月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであると認める。そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「磁束を発生させる薄膜コイルと、
媒体進行方向に移動する記録媒体に対向する記録媒体対向面から後方に向かって延在し、前記薄膜コイルにおいて発生した磁束に基づいて前記記録媒体をその表面と直交する方向に磁化させるための磁界を発生させると共に、前記記録媒体対向面において前記記録媒体の記録トラック幅を規定する幅を有する磁極層と、
前記磁極層の前記媒体進行方向側において前記記録媒体対向面から後方に向かって延在することにより、その記録媒体対向面に近い側においてギャップ層により前記磁極層から隔てられ、かつ、遠い側においてバックギャップを通じて前記磁極層に連結され、前記記録媒体対向面において前記記録トラック幅を規定する幅よりも大きな幅を有すると共に、前記ギャップ層に隣接しながら前記記録媒体対向面から後方の第1の位置まで延在する第1の磁気遮蔽層部分と、その第1の磁気遮蔽層部分に部分的に乗り上げながら前記記録媒体対向面から後方の少なくとも前記バックギャップまで延在する第2の磁気遮蔽層部分と、を含む磁気遮蔽層と、
前記ギャップ層に隣接しながら前記第1の位置から後方に向かって延在し、前記第1の磁気遮蔽層部分と共に平坦面を構成すると共に前記第1の位置に基づいてスロートハイトを規定し、無機絶縁性材料を含んで構成された第1の絶縁層部分と、その第1の絶縁層部分のうちの前記平坦面に隣接しながら前記第1の位置よりも後退した第2の位置から後方に向かって延在し、前記薄膜コイルを被覆すると共に、加熱時に流動性を示す材料を含んで構成された第2の絶縁層部分と、を含む絶縁層と、を備えた
ことを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。」

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2004-281017号公報(平成16年10月7日公開。以下、「引用例1」という。)には、垂直磁気記録ヘッドについて、以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。

ア.「【0043】
図1に示す垂直磁気記録ヘッドH1は記録媒体Mに垂直磁界を与え、記録媒体Mのハード膜Maを垂直方向に磁化させるものである。」

イ.「【0045】
スライダ21はAl_(2)O_(3)・TiCなどの非磁性材料で形成されており、スライダ21の対向面21aが記録媒体Mに対向し、記録媒体Mが回転すると、表面の空気流によりスライダ21が記録媒体Mの表面から浮上し、またはスライダ21が記録媒体Mに摺動する。図1においてスライダ21に対する記録媒体Mの移動方向はA方向である。」

ウ.「【0058】
磁極層30の上と第2絶縁性材料層32の上には、アルミナまたはSiO_(2)などの無機材料によって、第3絶縁性材料層33が設けられている。第3絶縁性材料層33上には、パーマロイなどの強磁性材料によって、リターンパス層34が形成されている。
【0059】
リターンパス層34の前端面34aは、記録媒体との対向面H1aに露出している。また、対向面H1aよりも奥側で、リターンパス層34の接続部34bと磁極層30及びヨーク層28とが接続されている。これにより、リターンパス層34、磁極層30及びヨーク層28、磁極層30を結ぶ磁路が形成されている。
【0060】
接続部34bの周囲において、コイル絶縁下地層35が形成されている。このコイル絶縁下地層35の上にCuなどの導電性材料によりコイル層36が形成されている。このコイル層36はフレームメッキ法などで形成されたものであり、接続部34bの周囲に所定の巻き数となるようにスパイラル(螺旋)状にパターン形成されている。コイル層36の巻き中心側の接続端36a上には同じくCuなどの導電性材料で形成された底上げ層37が形成されている。
【0061】
コイル層36および底上げ層37は、レジスト材料などの有機材料のコイル絶縁層38で被覆されている。図示はしないが、コイル絶縁層38が、さらにAl_(2)O_(3)などの無機絶縁層で覆われていてもよい。」

エ.「【0064】
なお、第3絶縁性材料層33上であって、記録媒体との対向面H1aから所定距離離れた位置に、無機または有機材料によってGd決め層40が形成されている。記録媒体との対向面H1aからGd決め層40の前端縁までの距離で、磁気ヘッドH1のギャップデプス長が規定される。
【0065】
図1及び図2に示すように、対向面H1aには、リターンパス層34の前端面34a、および磁極層30の前端面30aが現れている。
【0066】
図1及び図2に示す磁気ヘッドH1では、リード層39を介してコイル層36に記録電流が与えられると、コイル層36を流れる電流の電流磁界によってリターンパス層34とヨーク層28に記録磁界が誘導される。図1に示すように、対向面H1aでは、磁極層30の前端面30aとリターンパス層34の前端面34aからの漏れ記録磁界が、記録媒体Mのハード膜Maを貫通しソフト膜Mbを通過する。
【0067】
図2に示すように、磁極層30の前端面30aの厚みHtは、リターンパス層34の前端面34aの厚みHrよりも小さく、磁極層30の前端面30aのトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法Wtは、リターンパス層34の前端面34aの同方向での幅寸法Wrよりも十分に短くなっている。その結果、対向面H1aでは、磁極層30の前端面30aの面積が、リターンパス層34の前端面34aでの面積よりも十分に小さい。
【0068】
従って、磁極層30の前端面30aに洩れ記録磁界の磁束φが集中し、この集中している磁束φにより前記ハード膜Maが垂直方向へ磁化されて、磁気データが記録される。」

オ.「【0074】
次に、図5に示すように、メッキ下地膜29の上にレジスト層Rを形成する。レジスト層Rをパターン露光して現像することにより、溝Raを形成する。この溝Raはトラック幅方向(図示X方向)に所定の内幅寸法W1を有し、また対向面H1aからの奥方向(ハイト方向;図示Y方向)へ所定の奥行き寸法L2を有するように形成する。」

カ.「【0091】
図7に示される工程の後、第3絶縁性材料層33、Gd決め層40、コイル絶縁下地層35、コイル層36、コイル絶縁層38、リターンパス層34、保護層41を形成すると、図1及び図2に示される磁気ヘッドを得ることができる。第3絶縁性材料層33、Gd決め層40、コイル絶縁下地層35、コイル層36、コイル絶縁層38、リターンパス層34、保護層41の材料は、既に図1及び図2を用いて説明しているので、ここでの説明は省略する。」

キ.「【0094】
図8は、磁極層30の下にスパイラル状のコイル層が形成される磁気ヘッドH2を示す縦断面図であり、図9は図8に示す磁気ヘッドを記録媒体との対向面側からみた正面図である。
【0095】
読取り部HRの構造は図1に示された磁気ヘッドと同じなので、設明を省略する。
【0096】
読み取り部HRの上には、Al_(2)O_(3)またはSiO_(2)などの無機材料による分離層27を介して、垂直磁気記録方式の記録用の磁気ヘッドH2が設けられている。」

ク.「【0098】
磁気ヘッドH2では、パーマロイ(Ni-Fe)などの強磁性材料がメッキされてリターンパス層60が形成されている。分離層27は、リターンパス層60の下(リターンパス層60と読取り部HRとの間)およびリターンパス層60の周囲に形成されている。そして図1に示すように、リターンパス層60の表面(上面)60aと分離層27の表面(上面)27cとは同一の平面上に位置している。」

ケ.「【0101】
なお、メッキ下地膜61を形成せず、リターンパス層60そのものをメッキ下地として使用して、隆起層62をメッキで形成してもよい。」

コ.「【0106】
非磁性層69の上には、磁極層70がメッキ形成されており、磁極層70は接続層63の上で無機絶縁層68に開けられた開孔部68aを介して接続層63に接続されている。磁極層70は強磁性材料でメッキされたものであり、Ni-Fe、Co-Fe、Ni-Fe-Coなどの飽和磁束密度の高い材料で形成されている。」

サ.「【0109】
そして、ヨーク層71およびリード層72が保護層73に覆われている。なお、対向面H2aには、リターンパス層60の前端面60b、隆起層62の前端面62b、および磁極層70の前端面70aが現れているが、ヨーク層71の前端面71aは、保護層73内に埋没しており、対向面H2aには現れていない。
【0110】
図8及び図9に示す磁気ヘッドH2では、リード層72を介してコイル層65に記録電流が与えられると、コイル層65を流れる電流の電流磁界によってリターンパス層60とヨーク層71に記録磁界が誘導される。対向面H2aでは、磁極層70の前端面70aと隆起層62の前端面62aからの漏れ記録磁界が、記録媒体Mのハード膜Maを貫通しソフト膜Mbを通過する。【0111】
図9に示すように、対向面H2aでは、磁極層70の前端面70aの面積が、リターンパス層60の前端面60bの面積よりも十分に小さい。従って、磁極層70の前端面70aに洩れ記録磁界の磁束φが集中し、この集中している磁束φにより前記ハード膜Maが垂直方向へ磁化されて、磁気データが記録される。」

シ.「【0119】
上部シールド層26上には、Al_(2)O_(3)などからなる分離層27を介して、インダクティブヘッドH3の下部コア層80が積層されている。下部コア層80は、NiFeなどによって形成される。下部コア層80上には、Gd決め層81が形成され、Gd決め層81は例えば絶縁材料などで形成される。」

ス.図1には、磁極層30、第3絶縁性材料層33、リターンパス層34が記録媒体との対向面H1aから奥方向へ延びていることが図示されている。リターンパス層34は、磁極層30の記録媒体Mの移動方向Aの基端側に位置している。
また、第3絶縁性材料層33上の、Gd決め層40(【0091】では「Gd決め層40」とあり、図中の42及び【符号の説明】「42 Gd決め層」の42は、40の誤記と認め、図中の番号を「40」と認定した。)とコイル絶縁下地層35には、コイル層36とコイル絶縁層38が図示されている。コイル絶縁層38の前端縁は、Gd決め層40の上に部分的に乗り上げるように、Gd決め層の前端から少し奥側に変位した位置から奥方向へ延びていることが図示されている。

セ.図2には、リターンパス層のWrが磁極層30のWtより幅広に図示されている。

ソ.図8には、垂直磁気記録方式の記録用の磁気ヘッドH2について、磁極層70、非磁性層69、隆起層62、リターンパス層60、コイル層65からなる構成で図示されている。

タ.図9には、記録媒体Mの対向面H2a側から見た正面図で、磁極層70の前端面70a、非磁性層69、隆起層62の前端面62b、リターンパス層60の前端面60bからなる構成で図示されている。

上記「ア.」ないし「カ.」、及び「シ.」ないし「セ.」の記載又は図示事項によれば、図1及び図2に示される垂直磁気記録ヘッドについて、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「フレームメッキ法などでスパイラル状に導電性材料により形成されているコイル層と、
移動する記録媒体の対向面より奥側でリターンパス層の接続部と接続し、記録媒体を垂直方向へ磁化させる磁束が集中するように記録媒体の対向面においてトラック幅方向の幅を有する磁極層と、
パーマロイなどの強磁性材料によって形成されているリターンパス層であって、磁極層の記録媒体の移動方向基端側において記録媒体の対向面から奥方向へ延び、記録媒体の対向面側で第3絶縁材料層により磁極層から隔てられ、第3絶縁材料層の奥側で磁極層に接続し、記録媒体の対向面において磁極層のトラック幅方向の幅よりも長い幅を有すると共に、記録媒体の対向面から所定距離離れた位置のGd決め層の前端縁まで延びている第3絶縁材料層上の部分と、奥側の磁極層に接続する接続部とを含むリターンパス層と、
第3絶縁性材料層の上に、記録媒体の対向面から所定距離離れた位置に前端縁を有して奥側に延びる無機または有機材料によって形成され、ギャプデプス長を規定するGd決め層と、コイル絶縁下地層と、Gd決め層上でGd決め層の前端から少し奥側に変位した位置から奥方向へ延びてコイル層を被覆するレジスト材料などの有機材料で形成されたコイル絶縁層と、
を備えた垂直磁気記録ヘッド。」

(2) 拒絶の理由に引用された、特開2001-155309号公報(以下、「引用例2」という。)には、薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法について、以下の記載と図面が示されている(下線は、当審で付した。)。

チ.「【0003】ところで、記録ヘッドの性能のうち、記録密度を高めるには、磁気記録媒体におけるトラック密度を上げる必要がある。このためには、記録ギャップ層を挟んでその上下に形成された下部磁極および上部磁極のエアベアリング面(媒体対向面)での幅、すなわちトラック幅を数ミクロンからサブミクロン寸法まで狭くした狭トラック構造の記録ヘッドを実現する必要があり、これを達成するために半導体加工技術が利用されている。」

ツ.「【0009】次に、図13に示したように、下部磁極層108の上に、絶縁膜、例えばアルミナ膜よりなる記録ギャップ層109を0.2μmの厚みに形成する。次に、磁路形成のために、記録ギャップ層109を部分的にエッチングして、コンタクトホール109aを形成する。次に、磁極部分における記録ギャップ層109の上に、記録ヘッド用の磁性材料よりなる上部磁極チップ110を、0.5?1.0μmの厚みに形成する。このとき同時に、磁路形成のためのコンタクトホール109aの上に、磁路形成のための磁性材料からなる磁性層119を形成する。
【0010】次に、図14に示したように、上部磁極チップ110をマスクとして、イオンミリングによって、記録ギャップ層109と下部磁極層108をエッチングする。図14(b)に示したように、上部磁極部分(上部磁極チップ110)、記録ギャップ層109および下部磁極層108の一部の各側壁が垂直に自己整合的に形成された構造は、トリム(Trim)構造と呼ばれる。
【0011】次に、全面に、例えばアルミナ膜よりなる絶縁層111を、約3μmの厚みに形成する。次に、この絶縁層111を、上部磁極チップ110および磁性層119の表面に至るまで研磨して平坦化する。
【0012】次に、平坦化された絶縁層111の上に、例えば銅(Cu)よりなる誘導型の記録ヘッド用の第1層目の薄膜コイル112を形成する。次に、絶縁層111およびコイル112の上に、フォトレジスト層113を、所定のパターンに形成する。次に、フォトレジスト層113の表面を平坦にするために所定の温度で熱処理する。次に、フォトレジスト層113の上に、第2層目の薄膜コイル114を形成する。次に、フォトレジスト層113およびコイル114上に、フォトレジスト層115を、所定のパターンに形成する。次に、フォトレジスト層115の表面を平坦にするために所定の温度で熱処理する。
【0013】次に、図15に示したように、上部磁極チップ110、フォトレジスト層113,115および磁性層119の上に、記録ヘッド用の磁性材料、例えばパーマロイよりなる上部磁極層116を形成する。次に、上部磁極層116の上に、例えばアルミナよりなるオーバーコート層117を形成する。最後に、上記各層を含むスライダの機械加工を行って、記録ヘッドおよび再生ヘッドのエアベアリング面118を形成して、薄膜磁気ヘッドが完成する。
【0014】図16は、図15に示した薄膜磁気ヘッドの平面図である。なお、この図では、オーバーコート層117や、その他の絶縁層および絶縁膜を省略している。
【0015】図15において、THは、スロートハイトを表し、MR-Hは、MRハイトを表している。なお、スロートハイトとは、2つの磁極層が記録ギャップ層を介して対向する部分すなわち磁極部分の、エアベアリング面側の端部から反対側の端部までの長さ(高さ)をいう。また、MRハイトとは、MR素子のエアベアリング面側の端部から反対側の端部までの長さ(高さ)をいう。また、図15において、P2Wは、磁極幅すなわち記録トラック幅を表している。薄膜磁気ヘッドの性能を決定する要因として、スロートハイトやMRハイト等の他に、図15においてθで示したようなエイペックスアングル(Apex Angle)がある。このエイペックスアングルは、フォトレジスト層113,115で覆われて山状に盛り上がったコイル部分(以下、エイペックス部と言う。)における磁極側の側面の角部を結ぶ直線と絶縁層111の上面とのなす角度をいう。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】薄膜磁気ヘッドの性能を向上させるには、図15に示したようなスロートハイトTH、MRハイトMR-H、エイペックスアングルθおよび記録トラック幅P2Wを正確に形成することが重要である。」

テ.図15は、薄膜磁気ヘッドの断面図であり、スローハイトの長さの上部磁極110、フォトレジスト層115および磁性層119の上に、上部磁極層116が形成されている。

3 対比
(1)本願発明と引用例1発明とは、「垂直磁気記録ヘッド」に関する点で一致する。
(2)引用例1発明の「コイル層」は、磁束を発生させるために「フレームメッキ法などでスパイラル状に導電性材料により形成されている」明らかに薄膜の層であるから、本願発明の「磁束を発生させる薄膜コイル」に相当する。
(3)本願発明と引用例1発明とで共通する「磁極層」について比較する。
引用例1発明の「移動する記録媒体の対向面」は、本願発明の「媒体進行方向に移動する記録媒体に対向する記録媒体対向面」に、引用例1発明の「奥側」は、「記録媒体の対向面」からヘッドの内部に引っ込んだ側のことで、本願発明の「後方」に相当するから、引用例1発明の「磁極層」が「移動する記録媒体の対向面より奥側でリターンパス層の接続部と接続し」ていることは、少なくとも対向面より奥側に延びている点において、本願発明の「磁極層」が「媒体進行方向に移動する記録媒体に対向する記録媒体対向面から後方に向かって延在し」との構成に相当する。
同じく引用例1発明の「磁極層」が「記録媒体を垂直方向に磁化させる」ことは、コイル層に発生した磁束に基づいて記録媒体の表面と直交する方向に磁化させていることが明らかであるから、本願発明の「磁極層」が「薄膜コイルにおいて発生した磁束に基づいて記録媒体をその表面と直交する方向に磁化させるための磁界を発生させる」ことに相当する。
同じく引用例1発明の「磁極層」が「記録媒体の対向面においてトラック幅方向の幅を有する」ことは、本願発明の「磁極層」が「記録媒体対向面において記録媒体の記録トラック幅を規定する幅を有する」ことに相当する。
(4)引用例1発明の「リターンパス層」と本願発明の「磁気遮蔽層」とを比較する。
引用例1発明の「リターンパス層」が「磁極層の記録媒体の移動方向基端側において記録媒体の対向面から奥方向へ延び、記録媒体の対向面側で第3絶縁材料層により磁極層から隔てられ、第3絶縁材料層の奥側で磁極層に接続し」ていることは、本願発明の「磁気遮蔽層」が「記録媒体対向面から後方に向かって延在することにより、その記録媒体対向面に近い側においてギャップ層により前記磁極層から隔てられ、かつ、遠い側においてバックギャップを通じて前記磁極層に連結され」ていることに相当する。ここで、引用例1発明の「第3絶縁材料層」は、「磁極層」と「リターンパス層」とを記録媒体の対向面から所定距離離間している点で、本願発明の「ギャップ層」に相当する。
引用例1発明の「リターンパス層」が、「記録媒体の対向面において磁極層のトラック幅方向の幅よりも長い幅を有して」いることは、本願発明の「磁気遮蔽層」が「記録媒体対向面において記録トラック幅を規定する幅よりも大きな幅を有する」ことに相当する。
同じく引用例1発明の「リターンパス層」が「記録媒体の対向面から所定距離離れた位置のGd決め層の前端縁まで延びている第3絶縁材料層上の部分」を含むことは、本願発明の「磁気遮蔽層」が「ギャップ層に隣接しながら記録媒体対向面から後方の第1の位置まで延在する」「磁気遮蔽層部分」を含むことに相当する。
同じく引用例1発明の「リターンパス層」が「第3絶縁材料層の奥側で磁極層に接続し」ていることは、本願発明の「磁気遮蔽層」が「記録媒体対向面から後方の少なくともバックギャップまで延在する」「磁気遮蔽層部分」を含むことに相当する。
(5)引用例1発明の「Gd決め層」と、本願発明の「第1の絶縁層部分」とを比較すると、引用例1発明の「Gd決め層」が「第3絶縁性材料層の上に、記録媒体の対向面から所定距離離れた位置に前端縁を有して奥側に延びる」ことは、本願発明の「第1の絶縁層部分」が「ギャップ層に隣接しながら」「第1の位置から後方に向かって延在」することに相当する。
同じく引用例1発明の「Gd決め層」が「記録媒体の対向面から所定距離離れた位置に前端縁を有して」「ギャップデプス長を規定する」ことは、本願発明の「第1の絶縁層部分」が「第1の位置に基づいてスロートハイトを規定し」ていることに相当する。同じく引用例1発明の「Gd決め層」が「無機」の「絶縁性材料」を含んで構成されることは明らかである。
引用例1発明の「コイル絶縁層」と、本願発明の「第2の絶縁層部分」とを比較すると、引用例1発明の「コイル絶縁層」が「Gd決め層の上から奥側に向かって延び」ていることは、Gd決め層の前端縁よりも奥側の位置からさらに奥側に延びていることになるから、本願発明の「第2の絶縁層部分」が、「第1の絶縁層部分」「に隣接しながら第1の位置よりも後退した第2の位置から後方に向かって延在し」ていることに相当する。
同じく引用例1発明の「コイル絶縁層」が「コイル層を被覆する」ことは、本願発明の「第2の絶縁層部分」が「薄膜コイルを被覆する」ことに相当する。
同じく引用例1発明の「コイル絶縁層」が「レジスト材料などの有機材料で形成された」ことは、レジスト材料が加熱時に流動性を示すものであるから、本願発明の「第2の絶縁層部分」が、フォトレジストなど「加熱時に流動性を示す材料を含んで構成された」ことに相当する。
引用例1発明が少なくとも、「Gd決め層」及び「コイル絶縁層」の各絶縁層を有することは、本願発明が、「第1の絶縁層部分」と「第2の絶縁層部分」とを含む「絶縁層」を備えることに相当する。

以上のことからすると、本願発明と引用例1発明は次の点で一致する。
<一致点>
「磁束を発生させる薄膜コイルと、
媒体進行方向に移動する記録媒体に対向する記録媒体対向面から後方に向かって延在し、前記薄膜コイルにおいて発生した磁束に基づいて前記記録媒体をその表面と直交する方向に磁化させるための磁界を発生させると共に、前記記録媒体対向面において前記記録媒体の記録トラック幅を規定する幅を有する磁極層と、
前記記録媒体対向面から後方に向かって延在することにより、その記録媒体対向面に近い側においてギャップ層により前記磁極層から隔てられ、かつ、遠い側においてバックギャップを通じて前記磁極層に連結され、前記記録媒体対向面において前記記録トラック幅を規定する幅よりも大きな幅を有すると共に、前記ギャップ層に隣接しながら前記記録媒体対向面から後方の第1の位置まで延在する磁気遮蔽層部分と、前記記録媒体対向面から後方の少なくとも前記バックギャップまで延在する磁気遮蔽層部分と、を含む磁気遮蔽層と、
前記ギャップ層に隣接しながら前記第1の位置から後方に向かって延在すると共に前記第1の位置に基づいてスロートハイトを規定し、無機絶縁性材料を含んで構成された第1の絶縁層部分と、その第1の絶縁層部分に隣接しながら前記第1の位置よりも後退した第2の位置から後方に向かって延在し、前記薄膜コイルを被覆すると共に、加熱時に流動性を示す材料を含んで構成された第2の絶縁層部分と、を含む絶縁層と、を備えた
垂直磁気記録ヘッド。」

一方、次の各相違点で相違する。
相違点(1)
本願発明では、磁気遮蔽層が、「磁極層の媒体進行方向側において」記録媒体対向面から後方に向かって延在すると特定されているのに対して、引用例1発明では、磁極層の移動方向基端側において後方に向かって延在している点。
相違点(2)
本願発明では、磁気遮蔽層が、「ギャップ層に隣接しながら前記記録媒体対向面から後方の第1の位置まで延在する第1の磁気遮蔽層部分と、その第1の磁気遮蔽層部分に部分的に乗り上げながら前記記録媒体対向面から後方の少なくとも前記バックギャップまで延在する第2の磁気遮蔽層部分と」を含むと特定されるのに対し、引用例1発明では、そのように特定されない点。
相違点(3)
本願発明では、第1の絶縁層部分が「第1の磁気遮蔽層部分と共に平坦面を構成すると共に」、第2の絶縁層部分が「平坦面」に隣接しながら第1の位置よりも後退した第2の位置から後方に向かって延在する」と特定されるのに対して、引用例1発明では、そのように特定されていない点。

4 当審の判断
相違点(1)について
磁気遮蔽層が磁極層の媒体進行方向側において後方に向かって延在する垂直磁気記録ヘッドは周知(特開2002-92820号公報の主磁極31とトレーリングエッジtwe側のリターンパス磁極32を備えた垂直記録用磁気ヘッド(図3,4)、特開2002-100005号公報の磁気ヨーク5と主磁極3を備えた薄膜単磁極型垂直磁気ヘッド(図1)及び【0039】の「媒体進行方向から見た主磁極と磁気ヨークのリーディング側、トレーリング側の関係は逆でもかまわない。」、特開2003-45008号公報の主磁極12とディスク回転方向側の上部シールド11の垂直記録用磁気ヘッド(図6)等参照。)であり、引用例1発明の垂直磁気記録ヘッドにおいて、磁気遮蔽層に相当するリターンパス層を磁極層の媒体進行方向側において奥側に延びた構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

相違点(2)について
引用例2には、上部磁極が、上部磁極チップ、磁性層及び上部磁極層で形成され、上部磁極チップは記録ギャップ層に隣接し、上部磁極チップのエアベアリング面側の端部から反対側間での距離をスロートハイト長さとする誘導型の薄膜磁気ヘッドの構成が記載されている。
また、引用例2には、薄膜磁気ヘッドは半導体加工技術を利用して製造されるもので、先ず、スロートハイト長さを規定する上部磁極チップが形成され、次に、アルミナ膜からなる絶縁層が形成され、絶縁層の表面を上部磁極チップと共に平坦面に構成すること、絶縁層上に薄膜コイルを形成することが記載されている。
引用例1発明と、引用例2に記載された発明とは、いずれも半導体加工技術を利用して製造される薄膜磁気ヘッドに関するものである点で、きわめて近接した技術分野に属するものであり、引用例1には、図8,図9に、引用例1発明の実施形態として、隆起層(第1の磁気遮蔽層部分)とリターンパス層(第2の磁気遮蔽層部分)とに分離形成したものが記載されている(上記「2.引用例 (1)」の「キ.」ないし「サ.」、「ソ.」及び「タ.」参照。)から、引用例2に示される薄膜型磁気ヘッドの構造を適用することに、格別困難な事情は認められない。
すると、引用例1発明の垂直磁気記録ヘッドにおいて、引用例2の上部磁極が、磁極チップと上部磁極層とからなる構造を適用して、「ギャップ層に隣接しながら前記記録媒体対向面から後方の第1の位置まで延在する第1の磁気遮蔽層部分と、その第1の磁気遮蔽層部分に」「乗り上げながら前記記録媒体対向面から後方の少なくとも前記バックギャップまで延在する第2の磁気遮蔽層部分と」からなる構造とすることは当業者が容易に想到しうるものである。
ここで、第2の磁気遮蔽層部分が、第1の磁気遮蔽層部分に「部分的に」乗り上げながら、と特定される点については、スロートハイトが「磁極チップ」によって規定される以上、磁極チップに乗り上げる上部磁極層を磁極チップの後端側と揃える必要も、スロートハイトよりもさらに微小な寸法に形成すべき必要もないことが明らかであるから、引用例1のGd決め層のすぐ上部でリターンパス層が奥側に張り出している位置関係と同様に、上部磁極の記録媒体対向面からの寸法を磁極チップより大きくして、磁極チップに「部分的に」乗り上げる形態とすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。

相違点(3)について
「相違点(2)について」と同様に、引用例2に示される薄膜型磁気ヘッドの構造を適用することに、格別困難な事情は認められない。
すると、引用例2の磁極チップの奥側にアルミナ膜よりなる絶縁層を形成して磁極チップとともに平坦面が形成され、当該平坦面に隣接しながら奥方向に延びるコイル絶縁層を形成することを適用して、「第1の磁気遮蔽層部分と共に平坦面を構成すると共に」第1の絶縁層部分と、「平坦面」に隣接しながら」「後方に向かって延在する」第2の絶縁層部分とを形成することは当業者が容易に想到しうるものである。
ここで、第2の絶縁層部分が、「第1の位置よりも後退した第2の位置から」後方に向かって延在する点は、すでに、「3.対比 (5)」において、引用例1発明の「Gd決め層」と「コイル絶縁層」との位置関係と一致する旨示したところであるが、念のため、第1の絶縁層部分と第2の絶縁層部分を上記のように形成した場合についても検討すると、「相違点(2)について」で検討した、第2の磁気遮蔽層部分が、第1の磁気遮蔽層部分に「部分的に」乗り上げる点と同様であって、第1の磁気遮蔽層がスロートハイトを規定する以上、コイル絶縁層の前端をアルミナ膜よりなる絶縁層の前端と揃える必要も、アルミナ膜よりなる絶縁層の前端よりさらに前方に出す必要も、ないことが明らかであるから、第1の絶縁層部分と第2の絶縁層部分を上記のように形成した場合であっても、引用例1発明のコイル絶縁層の前端がGd決め層の前端よりも奥側に変位している位置関係を維持して、第2の絶縁層部分を「第1の位置よりも後退した第2の位置から」後方に向かうようにすることは当業者が適宜なし得ることにすぎない。

以上のとおりであるから、上記各相違点は格別なものではなく、また、上記相違点を総合的に検討しても本願発明の奏する効果は当業者が当然に予測しうる範囲内のものである。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-28 
結審通知日 2009-01-29 
審決日 2009-02-16 
出願番号 特願2004-305853(P2004-305853)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 眞富澤 哲生  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 江畠 博
吉川 康男
発明の名称 垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法、ならびに磁気記録装置  
代理人 藤島 洋一郎  
代理人 三反崎 泰司  

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