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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1195164
審判番号 不服2007-11784  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-24 
確定日 2009-04-02 
事件の表示 特願2004- 56296「電線ケーブル保持具」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開,特開2005-253133〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年3月1日の特許出願であって,平成19年3月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年5月22日付けで図2について手続補正がなされたものである。さらに,平成20年9月25日付けで審尋がなされ,回答書が同年12月18日付けで請求人より提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は,その明細書および図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたものであると認められ,その請求項4に係る発明は,次のとおりである。

「【請求項4】板状体1が横長のもので、横方向に連続する基底11部分から上方に向かって突出し、互いに対向する複数対の各支柱12,13間に、上端側に幅狭のケーブル挿入用切り目3を備えたケーブル保持穴2が形成され、各対の隣り合う支柱13,12が被保持ケーブルFの厚みtよりも広い空間aを隔てて配置形成され、かつ、これら各ケーブル保持穴2の一部が被保持ケーブルFの厚みtよりも小幅4に形成されている電線ケーブル保持具。」(以下,「本願発明」という。)

第3 引用刊行物およびその記載事項
本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-329275号公報(以下,「引用例」という。)には,「ケーブル間隔保持具」について,図面とともに次の事項が記載されている。

(1-イ)
「【請求項1】吊杆部材の長手方向に沿って配される基盤と、この基盤を吊杆部材に着脱自在に連結する連結部とを有し、基盤に略直交する複数本のケーブルを一定の間隔をおいて挟着支持する複数の支持片を、基盤の盤面に立設したことを特徴とするケーブル間隔保持具。
【請求項2】基盤の長さをL形支持金具の水平部に装着する長さとし、L形支持金具の水平部両端に位置する垂直部に係合する係合突起を基盤の両端に突設した請求項1記載のケーブル間隔保持具。
【請求項3】基盤の両端に、隣接する他の基盤相互と接合する接合部を設けた請求項1記載のケーブル間隔保持具。
【請求項4】支持片に挟着支持したケーブルの外れを防止する係止部を、支持片の先端部に設けた請求項1乃至3いずれか記載のケーブル間隔保持具。
【請求項5】ケーブルを挟着支持する一対の支持片で挟着体を形成し、ケーブル挟着時に、隣接する挟着体相互が接触しないように、挟着体を基盤の長手両側縁に交互に沿って連設した請求項1乃至4いずれか記載のケーブル間隔保持具。」

(1-ロ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吊りボルトやL形支持金具に、複数本のケーブルを支持固定するケーブル間隔保持具に関する。」

(1-ハ)
「【0002】
【従来の技術】例えば、金属製天井下地内の電気工事でケーブル配線をする際に、既設の吊りボルトにケーブル支持具を取り付けてケーブル支持を行なったり、あるいは、インサートに直接ケーブル支持具を取り付けてケーブル支持を行なっている。このようなケーブル支持具を使用した配線では、複数本のケーブルを配線する場合にケーブルが纏められ、ケーブル相互が接触した状態になるので、ケーブルの温度が上昇する。特に、内側に包まれたケーブルは放熱が妨げられるので、温度の上昇も著しい。このケーブル温度の上昇が原因でケーブルの許容電流値について制限を受けた場合は、ケーブルのサイズを一回り大きくする必要が生じる。その結果、ケーブルやケーブル支持具のコストが上がり、また、配線工事費がかさむと共に、作業自体も手間がかかる不都合があった。」

(1-ニ)
「【0007】そこで本発明は、上述の課題を解消すべく創出されたもので、ケーブル相互の間隔を一定に保持してケーブルの放熱効果を促進し、しかも、ケーブルの装着作業が極めて容易に行なうことができ、種々の使用態様に適応できるケーブル間隔保持具の提供を目的とするものである。」

(1-ホ)
「【0021】図7は、支持片3の他の実施例を示したものであり、支持片3の間に係止するケーブルQの形状に合わせて形成したものである。すなわち、同図(イ)は断面楕円形状のケーブルQを係止するもの、(ロ)は断面円形状のケーブルQを係止するもの、(ハ)は断面楕円形状のケーブルQを上下に係止するものを夫々示している。」

(1-ヘ)
「【0023】図9は、基盤1の上面に支持片3を交互に突設した状態を示している。すなわち、ケーブルQを挟着支持する一対の支持片3で挟着体6を形成し、ケーブルQ挟着時に、隣接する挟着体6相互が接触しないように、挟着体6を基盤1の長手両側縁に交互に沿って連設している。挟着体6をこのように配設することにより、サイズの異なるケーブルQを支持することが可能になる。」

そうすると,これらの記載と図面(特に図9)を総合すると,引用例には,次の発明が記載されていると認められる。

「吊杆部材の長手方向に沿って配される基盤1と,この基盤を吊杆部材に着脱自在に連結する連結部とを有し,基盤1の上面に支持片3を交互に突設され基盤1に略直交する複数本のケーブルQを一定の間隔をおいて挟着支持する複数の一対の支持片3で挟着体6を形成し,ケーブルQ挟着時に,隣接する挟着体6相互が接触しないように,挟着体6を基盤1の長手両側縁に交互に沿って連設したケーブル間隔保持具。」(以下,「引用発明」という。)

3 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・構造からみて,引用発明の「基盤1」および「複数の一対の支持片3で形成された挟着体6」は,それぞれ,本願発明の「板状体1」および「複数対の各支柱12,13」に相当することは明らかである。また,引用発明の「複数の一対の支持片3で形成された挟着体6」は,「ケーブルQ」を挟着するのであるから,「挟着体6」も本願発明と同様に,「ケーブル保持穴が形成され」るとともに「これら各ケーブル保持穴の一部が被保持ケーブルの厚みよりも小幅に形成されている」といえる。
そうすると,両者は,
(一致点)
「板状体が横長のもので,横方向に連続する基底部分から上方に向かって突出し,互いに対向する複数対の各支柱間にケーブル保持穴が形成され,これら各ケーブル保持穴の一部が被保持ケーブルの厚みよりも小幅に形成されている電線ケーブル保持具。」
点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
「ケーブル保持穴」について,本願発明では,「上端側に幅狭のケーブル挿入用切り目を備え」るのに対して,引用発明では,そのような構成を備えているか否か不明である点。

(相違点2)
「互いに対向する複数対の各支柱」について,本願発明では「各対の隣り合う支柱13,12が被保持ケーブルFの厚みtよりも広い空間aを隔てて配置形成され」るのに対して,引用発明では「ケーブルQ挟着時に、隣接する挟着体6相互が接触しないように、挟着体6を基盤1の長手両側縁に交互に沿って連設」されている点。

(2)相違点についての判断
まず,相違点1を検討するに,
ケーブル保持具において,「上端側に幅狭のケーブル挿入用隙間を備えるケーブル保持穴を設ける」ことは,本願出願前周知の技術事項であるといえる。
例えば,実公平1-40268号公報の2頁4欄13?21行には「・・・・・図示例では、内周に円筒状の溝を形成するように対向して上方に突出する一対の保持片5a,5bをクランプ1の上面に複数対突成して構成してある。1対の保持片5a,5bの先端部の間、すなわち上記溝に管4,4……等を下方に向けて押し込むと、この保持片5a,5bは強制的に押し拡げられた後、前記管4,4等を円筒状の内周面に密着状に抱き込むように弾性復帰してこれを保持する。なお、これらの管保持部は、保持すべき管の外径および本数により、前記溝の内径および個数を適宜選択すればよい。・・・・・」と記載されており,実公昭60-37530号公報の2頁3欄27?35行には「柔軟性と弾性を有する帯状のゴム又は樹脂板(バンド)7に間隔lを以って、一部開口部8を設けた円筒状9を前記帯状に沿って連続的に複数個突出し、又板状部にはテンションメンバー10を含み成形する。この成形された円筒状9内にファイバーコード3を挿入し保持すれば、その目的は達せられる。なお円筒状9とファイバーコード3の数によっては電気線11を同様に保持することもできる。」と記載され,実願昭59-107135号(実開昭61-22981号)のマイクロフィルムの明細書3頁9?14行には「(6)は一組のフィンガー部で配線・配管用固定部品(5)の1部を構成し、配線体(配管体)(3)をフィンガー部(6)に挿入するとフィンガー部(6)は一時的に広がり、配線体(3)を挿入後は元通りにしまり配線体(3)をクランプするようになっている。」と記載されており,実願昭56-142353号(実開昭58-47805号)のマイクロフィルムの明細書7頁7?9行には「第5図は、保持部材(40)の一面部(42)の面より以上に立上つた舌片部(43)(43)が両側より形成されて第4図と同様に先端が内方に傾斜している。」と記載されており,また,実願昭48-1467号(実開昭49-106900号)のマイクロフィルムの明細書5頁2?5行には「・・・・・弾性を有する結束本体の上面に形成せられた内拡状の係合溝に強制的にはめ込むことによりプラグ・コードを簡単かつ確実に結束することができる・・・・・」と記載されている。
そして,本願明細書の段落【0007】には「・・・・・個々の平形ケーブルは幅狭に形成してあるケーブル挿入用切り目を介して板状体の外周縁部分から各ケーブル保持穴内に容易に挿入配線することができる・・・・・」と,同段落【0013】には「参考までに、該実施例に示した板状体1の各部の寸法を例示すると、・・・・・ケーブル挿入用切り目3の幅=2mm・・・・・」と,また,同段落【0014】には「・・・・・図1に示したように、各ケーブル保持穴2に必要な本数の平形ケーブルFをケーブル挿入用切り目3からケーブル保持穴2内に押し込み挿入する。・・・・・」と記載されていることからみて,本願発明の「幅狭のケーブル挿入用切り目」と上記周知の「幅狭のケーブル挿入用隙間」とは技術的意義を同じくするものであって,実質的に差異はないといえる。
してみると,引用発明の「挟着体6」に,上記周知の技術事項を適用して,相違点1における本願発明の構成とすることは,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

次に,相違点2を検討するに,
上記記載事項(1-ニ)から明らかなように,引用発明も本願発明と同様に,「ケーブル相互の間隔を一定に保持してケーブルの放熱効果を促進」するものであるといえる。そうすると,引用発明においては「ケーブル相互の間隔」の大きさが特定されていないものの,その大きさは,ケーブルの放熱効果を促進する大きさであると解するのが相当であり,ケーブルに流れる電流の大きさおよび許容されるケーブル保持具の幅(ケーブル設置スペース)に応じて,適宜変更されるものであるといえる。
また,その「ケーブル相互の間隔」を大きくすれば,ケーブルの放熱効果をより促進することは,当業者において自明の事項であるから,引用例1の図9に示されているケーブルの幅よりも小さい「ケーブル相互の間隔」の大きさは,一具体例に過ぎず,ケーブルに流れる電流の大きさに対してケーブルの放熱効果を促進するのに十分な大きさではないとすれば,該間隔を大きくする,例えば,ケーブルの幅よりも大きくすることに,何ら阻害要因も困難性もないといえる。
そして,本願明細書の記載からみて,本願発明において「被保持ケーブルFの厚みtよりも広い空間a」と特定し,「被保持ケーブルFの厚みt」を下限値としたことによる臨界的意義はなく,単に,従来より広い「空間a」を表現しているに過ぎないといえる。
してみると,引用発明において,よりケーブルの放熱効果を促進するために,相違点2における本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるというのが相当である。

そして,本願明細書に記載された効果も,引用例の記載および上記周知の技術事項から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものといえない。

したがって,本願発明は,引用発明および周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

なお,請求人は,平成20年12月18日に提出された回答書において,「引用文献1に記載のケーブル間隔保持具は、ケーブル相互の間隔を保持させるための支持片3の厚さが、ケーブルQの厚さの少なくとも半分以下の薄いものと認められるものでありますから、その従来技術とされる電線どうしを直接結束させていた手段と比較したとき、同文献1に記載のように、一応の放熱効果は達成できるとしましても、本件審判請求人が前回の補正で明瞭にしておりますように、『ケーブル相互の保持間隔をケーブルの厚みよりも広い間隔としたこと』を要件とした本願発明と対比したとき、その『放熱効果は比較に値しない程度の小さいもの』と言い得るものであります。また、引用文献1の実施例図のように、実質的に設けた配線間隔が1?2mm程度では、基盤1に差し込んだ箇所において電線間に支持片3の厚さ分だけ間隙を形成し得るだけのものであって、この支持片3から離れると、電線どうしは相互に接触し合い、所期の放熱効果を期待することはできないものとみるのが相当であります。」と主張している。
しかしながら,「ケーブル相互の保持間隔」をより大きくすれば,ケーブルの放熱効果をより促進することは当業者において自明なことであり,ケーブル保持具の幅が大きくなることが許されるならば,「ケーブル相互の保持間隔」をより大きくすることに何ら困難性はない。また,前掲の周知例の実願昭48-1467号(実開昭49-106900号)のマイクロフィルムの第1図,実公昭60-37530号公報の第2図,実願昭59-107135号(実開昭61-22981号)のマイクロフィルムの第3図あるいは実願昭55-121138号(実開昭57-44586号)のマイクロフィルムの第3図には,ケーブル相互の保持間隔をケーブルの直径よりも広い間隔とすることが示されていることことからみて,ケーブルを流れる電流の大きさあるいは設置場所に応じて,「ケーブル相互の保持間隔をケーブルの厚みよりも広い間隔」とすることも一般的にあり得るといえるから,前記請求人の主張は採用できない。
また,平成18年7月3日に提出された意見書に添付された実験成績書には,「ケーブル相互の間隔」が全くない場合と,「被保持ケーブルFの厚みtよりも広い空間」とした場合とのケーブルの温度が示されているものの,該空間が被保持ケーブルの厚みより小さい場合と大きい場合との相違を示すものではない。よって,該実験成績書は,「被保持ケーブルの厚み」を該「空間」の下限値とする臨界的意義,すなわち,本願発明が格別顕著な効果を奏することを立証するものとはいえない。

第4 まとめ
以上のとおり,本願の請求項4に係る発明は,本願出願前に頒布された引用例に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-27 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-17 
出願番号 特願2004-56296(P2004-56296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清田 健一  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
宮澤 浩
発明の名称 電線ケーブル保持具  
代理人 甲斐 寛人  
代理人 鹿島 義雄  
代理人 甲斐 寛人  
代理人 鹿島 義雄  
代理人 甲斐 寛人  

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