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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1195183
審判番号 不服2007-35089  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2009-04-02 
事件の表示 平成11年特許願第241672号「よう素吸着材の固化処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 66396〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本件出願は平成11年8月27日の出願であって、平成19年6月18日付けで拒絶理由が通知され、それに対して平成19年8月24日付けで意見書の提出ならびに手続補正がなされたものの、同年11月19日付けで拒絶査定がなされ、この査定に対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成20年1月25日に手続補正がされたものである。
その後、当審において、平成20年10月17日付けで審尋がなされ、その審尋に対して同年12月19日に回答書が提出された。

II.平成20年1月25日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年1月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1.本件補正の目的
本件補正は、明細書を補正するものであって、本件補正中、特許請求の範囲についてする補正は、補正前(平成19年8月24日付け手続補正によって補正。以下、同じ。)の請求項1の、
「【請求項1】よう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程と、このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をオゾンガスによる酸化処理によりよう素酸イオンに調整するよう素酸イオン調整工程と、このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程とを有することを特徴とするよう素吸着材の固化処理方法。」なる記載を、
「【請求項1】硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理によってよう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程と、このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をよう素酸イオンにオゾンガスによる酸化処理により調整するよう素酸イオン調整工程と、このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程とを有し、前記混練固化工程のセメント系固化材料は、重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含むことを特徴とするよう素吸着材の固化処理方法。」(下線は補正箇所を示す。)と補正するとともに、補正前の請求項2,6,7を削除し、それに伴って、補正前の請求項3,4,5をそれぞれ請求項2,3,4とする請求項の番号を繰り上げたものであって、請求項1に係る前記補正は、「よう素脱離工程」、「よう素酸イオン調整工程」ならびに「セメント系固化材料」を、それぞれ、「硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理」によること、「よう素酸イオンにオゾンガスによる酸化処理」によること、ならびに「重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含む」と限定するものであるから、請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、他の請求項に係る補正は、同条同項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かを、以下に検討する。

2.本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理によってよう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程と、このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をよう素酸イオンにオゾンガスによる酸化処理により調整するよう素酸イオン調整工程と、このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程とを有し、前記混練固化工程のセメント系固化材料は、重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含むことを特徴とするよう素吸着材の固化処理方法。」

3.引用文献
(3-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である、「豊原尚実,「最近のバックエンド技術開発状況 -放射性よう素の固定化技術の開発-」,平成10年度「放射性廃棄物管理専門研究会」報告書,日本,京都大学原子炉実験所,1999年 1月,第71頁-第79頁」(以下、「引用例1」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(ア)第72頁第2?16行
「 またオフガス系では放射性よう素を回収するためにフィルタが使用されている。これは銀-シリカゲル系のものである。再処理施設で発生するよう素には各形態がある。元素状のよう素の場合にはAgIとAgIO_(3)の2つの化合物が生成する報告がある。……
I-129の半減期は1.57×10^(7)年と非常に長い。廃銀吸着材について直接地下埋設処分を考えた際に、処分環境が還元性雰囲気になる場合には銀からよう素が脱離し、放射性よう素はイオンの形態で放出されると考えられている。よう素イオンは地下水により移行するが、岩等への収着が小さいため、その遅延は期待し難い。……
我々は処分の安全性を高めるためには人工バリアによりよう素を閉じ込めることが必要と考えている。このような課題を解決するために、本報では廃銀吸着材の固化処理法について、当社の提案をまとめた。」
(イ)第72頁第23行?第73頁第33行
「 過去の研究において、硬化したセメント中の水和物の一部はよう素を収着する性質が報告されている。表1にその結果の概要を示す。ポルトランドセメントの主要な水和物のうちアルミン酸硫酸カルシウムがよう素を収着すると言われている。この化合物は2つが良く知られている。
一つはエトリンガイトと呼ばれる。これは断面が六角形の主に針状の結晶で、構造式は{Ca_(6)[Al(OH)_(6)]_(2)・24H_(2)O}(SO_(4))_(3)・2H_(2)Oで表される(略号ではC_(3)A・3CS・H_(32)、C:CaO、A:Al_(2)O_(3)、CS:CaSO_(4)、H:H_(2)O)。この中に存在するSO_(4)^(2-)の変わりにOH^(-)やCO_(3)^(2-)等の陰イオンが入ることが知られている。
もう一つはモノサルフェートがあげられる。これは板状の薄い結晶で六方対称であり、構造式は[Ca_(2)Al(OH)_(6)]_(3)(SO_(4))・6H_(2)Oで示される(略号は前出と同表記でC_(3)A・CS・H_(12))。この中の[ ]内はCa(OH)_(2)と似た構造でCa原子の一つがAlに置き換わっているため層全体が正に帯電している。この層が硫酸イオンと水分子をはさんで積み重なっており、硫酸イオンは種々の陰イオンと交換できる。
よう素の収着は、モノサルフェートやエトリンガイトの陰イオンが占める部分によう素がイオンとして入ることによると推定される。このようなことから、アルミン酸硫酸カルシウムを多く生成するセメントを作製することができれば、よう素の高い収着性を利用してその閉じ込め性に優れた固化体を開発できるものと考えた。
図2には、汎用のセメント材料の組成範囲とアルミン酸硫酸カルシウムの組成を、Al_(2)O_(3)-SiO_(2)-CaO三元系についてまとめた。ポルトランドセメントにはアルミニウム含有率は少なく、アルミン酸硫酸カルシウムの化学組成から大きく離れている。このためポルトランドセメントを使用した材料開発にはかなり工夫が必要であると考えられる。
一方、アルミナセメントはCaOとAl_(2)O_(3)からなるため、Caを添加すれば化学組成的にはアルミン酸硫酸カルシウムに近づけることができると考えた。
このようなことから、我々はアルミナセメントを利用して、硬化物中のアルミン酸硫酸カルシウムを増大させることを試みた。具体的には、アルミナセメントにカルシウム化合物を添加することにした。アルミナセメントは塩基性であり、セメントの水和により目標の水和物を作製することから、水和反応を妨害しないような物質を選んだ。具体的には、塩基性物資としてCa(OH)_(2)、中性物質としてCaSO_(4)・2H_(2)Oとした。」
(ウ)第73頁第34行?第74頁第1行
「 固化体を安全に処分するためには固化体に一定の強度が必要である。この値として地下埋設処分した場合を想定し、強度目標を20MPaとした。」
(エ)第75頁第1行?第76行第4行
「3.4結果
(1)固化材組成の選定
アルミナセメントに硫酸カルシウムおよび水酸化カルシウムを添加した場合について、よう素の分配係数の変動や生成する水和物を調べ、固化材の組成を検討した。
図3はアルミナセメントに水酸化カルシウムと硫酸カルシウムを添加した場合の分配係数変化をSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)(モル比)に関して示している。図からSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)が約0.12において分配係数は約1000(ml/g)になることがわかる。さらに、SO_(4)^(2-)/Ca^(2+)が0.12より大きい組成では分配係数は緩やかに低下する。
分配係数測定試験後の固相をXRDにより同定した結果、分配係数が最大の部分ではモノサルフェートが生成していることを確認した。SO_(4)^(2-)/Ca^(2+)を0.12より多くするとモノサルフェートとエトリンガイトが共存することもわかった。……
したがって、アルミナセメントに水酸化カルシウム、硫酸カルシウムを添加するとモノサルフェートが生成し、それによう素が収着することを確認することができた。なお、アルミナセメントに水酸化カルシウム、硫酸カルシウムを個別に添加しても、よう素が良く収着しモノサルフェートが生成することも確認している。
……
(2)よう素の形態および同属元素に対する収着性の検討
前項に示したように、廃銀吸着材中のよう素の化学形態はAgIとAgIO_(3)である。このため、IO^(3-)(よう素酸イオン)に対する収着性も調べた。一方、処分場の地下水は海水のような組成の場合も考えられる。この場合にはよう素と同属元素である塩素に対する評価も必要と考えられる。このため塩素イオンに対する分配係数も合わせて検討した。
なお、前項で述べたように、固相中にはモノサルフェートの他にエトリンガイトが生成するため、ここではこれら2種類の水和物について収着性を検討した。
その結果を図5に示す。よう素イオンの場合、モノサルフェートには良く収着するもののエトリンガイトへの収着性は小さい。一方よう素酸イオンの場合は、モノサルフェートのみならずエトリンガイトにも良く収着する。塩素イオンの場合、よう素イオンの場合と同じような傾向であり、得られた分配係数はモノサルフェートではよう素イオンの場合より小さいが、エトリンガイトでは逆になる。
以上の結果から、塩素イオンが共存する系では収着に対する妨害を考慮する必要があることがわかる。またよう素酸イオンについては塩素イオンの影響を最も受けにくいこと、モノサルフェート、エトリンガイトの両者に収着することから、固化に際して有利であると評価した。」
(オ)第78頁第4?15行
「(4)固化プロセスと固化体性能
以上のような試験結果から固化プロセスを選定した。海水成分が含まれた地下水条件においてもよう素の収着性を維持するために、廃銀吸着材中のよう素をよう素酸の形態に転換し、その後固化することを考えた。具体的には、我々は廃銀吸着材からよう素を脱離させ、選定した固化材で混練して固化するプロセスを提案する。使用する固化材には、廃銀吸着材から脱離したよう素を混練して固化できる組成として、アルミナセメントに硫酸カルシウムを添加したものを選定した。
表2に設定したプロセスによる固化体の特性を示す。廃棄物とセメント材料の混錬性、混練物の硬化特性は汎用のセメント材料と比較して相違が無く、我々が開発してきたセメント固化技術がそのまま適用できるものと評価した。固化体特性については、目標とする固化体圧縮強度を満足すること、固化体表面にはひび割れもなく良好であることを確認している。」
(カ)表1、図2、図3、図5、表2
そして表1、図2、図3、図5、表2から、以下の事項を読み取ることができる。
表1:セメント水和物に対する陰イオンの収着性について、アルミン酸硫酸カルシウム水和物の収着性は、他の水和物に比して高い。
図2:アルミナセメントのAl_(2)O_(3)/CaO重量比は約75/25?約55/45に分布し、エトリンガイト、モノサルフェートの同重量比は25/75、30/70程度である。
図3:固相中のSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比と分配係数の関係は、SO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比が約0.12においてピーク値(約1000(ml/g))を示し、0.12より大きい組成では分配係数は緩やかに低下する。
図5:よう素イオン、よう素酸イオン、塩素イオンに対するモノサルフェート、エトリンガイトの分配係数は、よう素酸イオンが最も大きい。
表2:固化体の一軸圧縮強度は222Kg/cm^(2)(30日後)である。

これらの記載からして、引用例1には、
「よう素を吸着した廃銀吸着材からよう素を脱離し、前記よう素をよう素酸イオンの形態に転換し、このよう素酸イオンをセメント中の水和物を利用し得る固化材料で混練固化するよう素の固化処理方法であって、前記混練固化に用いる固化材料が、アルミナセメントに水酸化カルシウムおよび/または硫酸カルシウムの2水和物からなるカルシウム化合物を添加し、1000ml/g程度の高い分配係数が得られるようにSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比を調整してモノサルフェート、もしくは、モノサルフェートに加えてエトリンガイトを生成させ、さらに、20MPaの目標強度が得られるようにしたものである、よう素の固化処理方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3-2)引用例2(以下の摘記中、下線は当審で付加した。)
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である、「GIUSEPPE MODOLO 他1名,“INVESTIGATIONS ON THE PARTITIONING OF ^(129)I FROM SILVER-IMPREGNATED SILICA IN PREPARATION FOR FUTURE TRANSMUTATION”,NUCLEAR TECHNOLOGY,米国,AMERACAN NUCLEAR SOCIETY,1997年 1月,Vol 117,NUMBER 1,第80頁-第86頁」(以下、「引用例2」という。)には、以下の技術的事項の記載(以下は、当審における邦訳。)がある。
(キ)第80頁左欄第1?16行
「再処理に関する現在の技術水準によれば、使用済み核燃料要素に含まれていた^(129)Iは、オフガス溶解装置に完全に転送され、AgNO_(3)に浸漬された珪酸(AC6120)上で効率的に吸収される。将来の変換のため、^(129)Iは、AC6120吸収マトリックスから再び選択的にできるだけ完全に(>99%)分けられるべきである。実証研究は、よう素の相当量の回収が、湿式化学・熱プロセスによって可能なことを示している。よう素を吸収したAC6120を用いた硫化ナトリウム溶液による抽出実験は、99±1%の回収率を提供する。水素を用いた500℃での還元では、ガス状のHIが遊離され、>99%の回収率を提供した。よう素分離の後、還元されたAC6120は、分子状よう素の吸収性物質として再使用することができる。」
(ク)第83頁左欄第6行?同右欄第15行
「硫化ナトリウム抽出によるAC6120からのよう素の脱離
シリカ担体上に固定された貧溶解性AgI(水中溶解度:9.2×10^(-9)mol/l)は、Na_(2)Sによる置換反応によって、より溶解性に劣るAg_(2)S(水中溶解度:1.1×10^(-17)mol/l)に変換され溶解性NaIを脱離させる: 2AgI+Na_(2)S→Ag_(2)S+2NaI (3)
図5は回分式の抽出実験の結果を示している。加えて、XRFによって測定された抽出済み試料の残余よう素含有量がプロットされている。このように、10mlの抽出用溶剤が、AgIに100%転換するに必要な画分に相当する。5倍の余剰の場合(50ml 0.26M Na_(2)S)に、全よう素の99%より多くが、よう化物として抽出される。この結果は繰り返し実験(n=5)で確認された。よう素酸塩はICによって検知されなかった。これは、よう素酸塩が硫化物によって減少したことを示唆する。これは、多硫化物形成による沈殿の析出ならびに黄色の上澄みによっても示された。余剰硫化物は窒素酸で沸騰することによりH_(2)Sとして放出された。したがって、PbI_(2)の形でよう素が析出されるとの予測は阻害されない。硫化物を含まない溶液についての引き続きの分析は、同様のよう素回収率を示した。溶液の蒸発によってNaIが得られ、これもまた、転換に適した最終形態である。」

(3-3)引用例3
また、拒絶査定の時に提示された、同じく本件出願前に頒布された刊行物である、「吉田直志 他1名,「高度浄水処理過程におけるハロゲンとそのオキソ酸の測定と挙動」,第7回日本オゾン協会年次研究講演会,日本,日本オゾン協会,1998年3月4日,第121-124頁」(以下、「引用例3」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(ケ)第121頁「論文要旨」の欄
「 ハロゲン族イオン(塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)とそのオキソ酸のイオンクロマトグラフ(IC)を用いた一斉分析を検討した。さらに、その一斉分析法を用いてオゾン処理を含む高度浄水処理過程においてハロゲン族イオン、及びそれらのオキソ酸の挙動を解明した。」
(コ)第123頁第22行?第124頁第10行
「3-2 臭化物イオン、ヨウ化物イオンのバッチ式オゾン処理
臭化物イオンが生成する反応は次のように表される。
……
O_(3)+Br・ → O_(2)+BrO・ (1)
……
(1)の反応について調べるため、pHを8に調整し0.2mg/lの臭化物イオンのオゾン処理を行った。……
図-8は同条件でヨウ化物イオンをオゾン処理した結果を表したものである。オゾン処理後すぐにヨウ素酸イオンが生成し、2分後にほぼ全量がヨウ素酸イオンとなった。」

4.本願補正発明と引用発明との対比
そこで、本願補正発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の「よう素を吸着した廃銀吸着材」が、本願補正発明の「よう素吸着材」に相当することは明らかであるので、引用発明の(a)「よう素を吸着した廃銀吸着材からよう素を脱離」することと、本願補正発明の(a’)「硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理によってよう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程」とは、「よう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程」である点で一致している。
また、引用発明の(b)「前記よう素をよう素酸イオンの形態に転換」することと、本願補正発明の(b’)「このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をよう素酸イオンにオゾンガスによる酸化処理により調整するよう素酸イオン調整工程」とは、「このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をよう素酸イオンに調整するよう素酸イオン調整工程」である点で一致する。
そして、引用発明の「セメント中の水和物を利用し得る固化材料」が本願補正発明の「セメント系固化材料」を意味することは明らかであるので、引用発明の(c)「このよう素酸イオンをセメント中の水和物を利用し得る固化材料で混練固化するよう素の固化処理方法」は、実質的に、本願補正発明の(c’)「このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程」に相当する。
次いで、引用発明の(d)「前記混練固化に用いる固化材料が、アルミナセメントに水酸化カルシウムおよび/または硫酸カルシウムの2水和物からなるカルシウム化合物を添加し、1000ml/g程度の高い分配係数が得られるようにSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比を調整してモノサルフェート、もしくは、モノサルフェートに加えてエトリンガイトを生成させ、さらに、20MPaの目標強度が得られるようにしたものである」ことと、本願補正発明の(d’)「前記混練固化工程のセメント系固化材料は、重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含む」ことを対比すると、両者は「前記混練固化工程のセメント系固化材料は、アルミナセメントに硫酸カルシウム2水和物を含むカルシウム化合物を添加したものである」点で一致する。
そうすると、両者は、
「よう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程と、このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をよう素酸イオンに調整するよう素酸イオン調整工程と、このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程とを有し、前記混練固化工程のセメント系固化材料は、アルミナセメントに硫酸カルシウム2水和物を含むカルシウム化合物を添加したものである、よう素吸着材の固化処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(4-1)相違点1
「よう素脱離工程」が、本願補正発明では、「硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理によって」行われるのに対し、引用発明は如何にして実施されるのか記載がない点。(以下、「相違点1」という。)
(4-2)相違点2
「よう素酸イオン調整工程」が、本願補正発明では、「オゾンガスによる酸化処理により」行われるのに対し、引用発明は如何にして実施されるのか記載がない点。(以下、「相違点2」という。)
(4-3)相違点3
「セメント系固化材料」の組成について、本願補正発明は、「重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含む」としているのに対し、引用発明には、SO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比と分配係数の関係ならびに目標強度について記載はあるものの、アルミナセメントとカルシウム化合物の重量比について記載がない点。(以下、「相違点3」という。)

5.検討・判断
上記相違点1ないし3について検討する
(5-1)相違点1について
放射性よう素吸着材に吸着されたよう素を、硫化ナトリウムを用いて脱離することは引用例2に記載されており(前記摘記(キ)、(ク)の下線部参照。)、前記摘記(ク)に記載された反応式から、硫化ナトリウムが還元剤として作用していることは明らかである。
してみると、よう素脱離工程を、「硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理によって」行うことは、当業者が容易に想到し得る事項である。
(5-2)相違点2について
オゾンガスは周知の酸化剤にすぎず、オゾンガスを用いてよう素イオンをよう素酸イオンに酸化することは、引用例3にも記載されている(前記摘記(ケ)、(コ)参照)のみならず、例えば、特開昭49-89099号公報にも記載されている(第2頁右上欄第7行?同左下欄第3行参照)ように、放射性廃棄物処理の技術分野においても古くから知られた周知の技術的事項にすぎない。
してみると、よう素酸イオン調整工程を、「オゾンガスによる酸化処理により」行うよう構成する点に、格別の創作性を見出すことはできない。
(5-3)相違点3について
引用発明のセメント系固化材料について検討するに、前記固化材料を、アルミナセメントに硫酸カルシウム2水和物を含むカルシウム化合物を添加したものとした意義は、よう素収着能に優れるアルミン酸硫酸カルシウムであるモノサルフェートあるいはエトリンガイトを得るためであって、その添加に際しては、それを固化材料として用いた場合のSO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比と分配係数の関係、ならびに、強度に配慮すべきであることを、前記摘記(イ)、(ウ)、(エ)から読み取ることができる。また。前記摘記(カ)の表2には、固化体特性として一軸圧縮強度をその特性の指標としていることがわかる。
一方、本願補正発明において、セメント系固化材料を「重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含む」と定めたのは、本願明細書の段落【0022】?段落【0023】、段落【0044】?段落【0051】の記載からして、セメント水和鉱物であるモノサルフェートまたはエトリンガイト中によう素を固定化して、モノサルフェート型化合物またはトリサルフェート型化合物とすることができるようにするとともに、前記化合物とするに際して、それを固化材料として用いた場合の分配係数と一軸圧縮強度を勘案した結果であると認められる。
ところで、化合物の組成を定める際、必要とされる特性をパラメータとし、そのパラメータを用いて組成の最適化を図ることは当業者が通常行うことであって、前記必要とされる特性が知られているならば、それをパラメータとして利用することは当業者が格別の創作性を発揮することなくなし得る事項にすぎない。
そうすると、引用発明に開示されている必要とされる特性である、分配係数、一軸圧縮強度をパラメータとして利用しつつ、SO_(4)^(2-)/Ca^(2+)モル比に代え、直接的な配合比である重量比を用いて最適化を図る程度のことは当業者が容易になし得る事項にすぎない。
また、アルミナセメントの組成(CaOとAl_(2)O_(3)の比)には様々なものが存在することは当業者の技術常識であって(引用例1の図2においても、アルミナセメント中のAl_(2)O_(3)/CaOは75/25?55/45に分布していることが示されている。)、アルミナセメントの組成を特定することなく重量比を特定したとしても、様々な組成のセメント系組成物を含むこととなり、その重量比を採用したことによる格別の臨界的意義を見いだすこともできない。

そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明、引用例2、3に記載された技術的事項、ならびに、周知の技術的事項から、当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項、ならびに、周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年1月25日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年8月24日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 よう素吸着材からよう素を脱離するよう素脱離工程と、このよう素脱離工程で脱離したよう素の形態をオゾンガスによる酸化処理によりよう素酸イオンに調整するよう素酸イオン調整工程と、このよう素酸イオン調整工程で調整したよう素酸イオンをセメント系固化材料で混練固化する混練固化工程とを有することを特徴とするよう素吸着材の固化処理方法。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献と拒絶査定の時に提示された文献、および、その記載事項は、前記「II.〔理由〕3.」の(3-1)ないし(3-3)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比、検討・判断
本願発明は、上記「II.〔理由〕2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、「よう素脱離工程」、「よう素酸イオン調整工程」ならびに「セメント系固化材料」に関する限定事項である、「硫化ナトリウムを還元剤として使用した還元処理」、「よう素酸イオンにオゾンガスによる酸化処理」ならびに「重量比で、アルミナセメント100 重量部に対し、硫酸カルシウムまたは硫酸カルシウム2水和物から選ばれた少なくとも一種からなるカルシウム化合物を15?30重量部含む」との限定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、「II.〔理由〕5.」に記載したとおり、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項、ならびに、周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用発明および引用例2、3に記載された技術的事項、ならびに、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-27 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-16 
出願番号 特願平11-241672
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21F)
P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一山口 敦司  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 森林 克郎
安田 明央
発明の名称 よう素吸着材の固化処理方法  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 鹿股 俊雄  

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