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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41C
管理番号 1195253
審判番号 不服2005-16981  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-05 
確定日 2009-04-01 
事件の表示 平成10年特許願第353089号「出力変動に対する補償を備えたダイオードレーザイメージング方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月14日出願公開、特開平11-245363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年12月11日(パリ条約による優先権主張1997年12月12日、米国)に出願したものであって、平成17年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成20年3月25日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年10月1日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年10月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 記録構造体にイメージングを行うための装置であって、
a.入力電力レベルとデューティサイクルに伴って変動する出力レベルを有する放射線ソースと、
b.放射線を記録構造体の表面に集束させるための手段と、
c.放射線ソースに結合され、入力電力を供給するための電源と、
d.各々が位置に関連しておりレーザの出力レベルを特定している一連のデータ値を受信するための手段と、
e.前記表面上にイメージに関連するスポットのパターンを生成させるために放射線ソースを作動させる作動手段と、及び
f.デューティサイクルの変動から生ずる出力レベルの変動を補償するために電源を調整するための調整手段とからなり、
前記調整手段が、現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する、装置。」

3.引用刊行物
当審の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平1-179961号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.「(産業上の利用分野)
本発明はレーザビームプリンタにおける像露光に用いる半導体レーザダイオードを制御する制御装置に係り、特に温度補正に関する。
〔従来の技術〕
電子写真式のレーザビームプリンタは、一様に帯電した光導電感光ドラムを記録すべき画像情報でオンオフ変調したレーザビームで走査露光して電荷潜像を形成し、この電荷潜像をトナー現像して可視像とするものである。高解像度、高画質の画像を記録するためにはレーザビームによる正確な露光が必要であり、このためには安定したパワーのレーザビームを得る必要がある。
半導体レーザダイオードによってレーザビームを得る場合、レーザ出力特性は接合部の温度によって変化する。」(第1頁右下欄第17行?第2頁左上欄第12行)
イ.「この実施例は、接合部の温度変化に応じてバイアス電流I_(b)の大きさを補正することによって一定のレーザ出力P_(o)を得ようとするものである。
第1図はこのような補正を加えて半導体レーザダイオードを制御する制御回路図である。パーソナルコンピュータのような上位システムから信号線1を介して入力されるビデオデータ信号はベース抵抗2を介して第1のトランジスタ3のベースに与えられる。この第1のトランジスタ3のコレクタはコレクタ抵抗4を介してプラス電源V_(+)に接続される。エミッタが前記第1のトランジスタ3と共通に接続され、ベースが接地された第2のトランジスタ5のコレクタはレーザダイオードユニット6内の半導体レーザダイオード6aを介して前記プラス電源V_(+)に接続される。2つのトランジスタ3,5のエミッタは可変定電流源10を介してマイナス電源V_(-)に接続される。このように2つのトランジスタ3,5のエミッタが可変定電流源10に接続されることにより、第1のトランジスタ3がオンのとき第2のトランジスタ5がオンとなり、第1のトランジスタ3がオフのとき第2のトランジスタ5がオフとなる。第2のトランジスタ5がオンのときに半導体レーザダイオード6aに流れる電流の大きさは可変定電流源10に設定された値であり、これがビデオデータ電流I_(o)である。そしてこの回路は、半導体レーザダイオード6aに流れるビデオデータ電流I_(o)を高速度でスイッチングするのに好適である。」(第3頁左上欄第15行?左下欄第2行)
ウ.「バイアス電流I_(b)とビデオデータ電流I_(o)を合成したレーザダイオード駆動電流I_(f)で発振するレーザ出力」(第3頁右下欄第2?4行)
エ.「次に、このようなことを基にバイアス電流I_(b)を変えて接合部の温度変化ΔT_(j)によるレーザ出力P_(o)の変化を抑制するための温度補正回路13を説明する。
ビデオデータ電流I_(o)のオンオフ時間差を検出するのは、アップダウンカウンタ13eとキャリー/ボロー禁止回路13fである。アップダウンカウンタ13eは、1本の走査線に含まれる全画素数を計数できるように12ビット程度のものを使用するのがよい。理想的には、1ペ一ジ記録分の全画素数を計数できるビット数をもつべきであるが、ビデオデータ電流が長期間に渡って連続してオンしているときには半導体レーザダイオード周辺の実装部材の温度も飽和状態に近ずくので、この点を考慮して経済性と見合ったビット数のものを使用すればよい。キャリー/ボロー禁止回路13fはアップダウンカウンタ13eの計数値の急変を避けるための回路で、具体的にはオンデータが連続してオーバフローしたときに$FFFの出力を維持し、オフデータが連続したときに出力が$000から$FFFに変化しないようにアップダウンカウンタ12eを制御するもので、信号線13lに出力されるキャリー/ボロー信号の状態と信号線1から与えられるビデオデータ信号の論理(アップ/ダウン信号)内容に応じてイネーブル信号線13kにイネーブル信号/ディセーブ信号を出力する。ビデオクロック信号に同期して信号線1に入力されるビデオデータ信号は信号線13qを介してアップダウン制御信号としてアップダウンカウンタ13eに与えられ、信号線14から入力されるビデオクロック信号はインバータ13dで反転し信号線13iを介して逆相クロック信号としてアップダウンカウンタ13eに与えられる。記録領域では信号線15を介して入力されるページ信号がアップダウンカウンタ13eのクリア信号線13hをアクティブレベルにするので、該アップダウンカウンタ13eはビデオデータ信号に応じて逆相クロック信号をアップ/ダウンカウントし、ビデオデータ電流I_(o)のオンオフ時間差に相当する計数値(12ビットデータ)を信号線13jに出力する。
信号線13jに出力されるアップダウンカウンタ13eの計数値はデータROM13aのアクセスアドレスとなる。このデータROM13aは、ビデオデータ電流I_(o)のオンオフ時間差による接合部温度変化に伴うレーザ出力の変化を補正するための補正データを記憶するメモリである。」(第4頁左下欄第6?第5頁左上欄第12行)
オ.「次に、第5図を参照して動作特性を説明する。
走査線方向の記録開始タイミングの基準情報であるビーム位置検出信号BDTが入力されると、これを基準に所定時間遅延後にビデオデータが与えられてビデオデータ電流が発生する。レーザダイオード接合部温度T_(j)はビデオデータ電流のオン期間に一定の傾きで上昇し、オフ期間に一定の傾きで下降する。これに対してしきい値電流I_(th)は指数関数的に変化する。アップダウン信号は、ビデオデータ電流がオンのときにアップ指令、オフのときにダウン指令となり、逆相クロック信号の立上りでアップダウンカウンタがインクリメント/デクリメントされる。アップダウンカウンタの計数出力がデータROMのアドレスとなるので、ROMアドレスはビデオデータ電流のオン期間にビデオクロック周期で大きくなり、オフ期間に小さくなる。補正データは、このROMアドレスでデータROMから読出したデータをアナログ表示したものである。バイアス電流を補正する補正電流信号はこの補正データを遅延回路で指数関数的に変えて作られる。」(第5頁右下欄第13?第6頁左上欄第13行)
カ.「更にまた、前記実施例はビデオクロック周期で補正動作を行うものであるが、アップダウンカウンタ13eの前にもう1段アップダウンカウンタを設けることにより補正感度を下げることができる。」(第6頁右上欄第7?11行)
キ.第2図は、半導体レーザダイオードの特性を示すものであって、駆動電流I_(f)のレベルに伴って出力レベルが変動することが看取できる。
ク.第5図の「(6)逆相ビデオクロック」の周期毎に「(2)ビデオデータ電流」に応じて「(8)補正データ」が増減されるとともに「(7)ROMアドレス」も異なる値が示され、「(7)ROMアドレス」の値に応じて「(4)レーザダイオードI_(th)変動」が変化していることが看取できる。

上記ア.に「レーザ出力特性は接合部の温度によって変化する」と記載されているから、上記刊行物記載の半導体レーザダイオード6aの出力レベルは、温度によって変化するものと認められる。
レーザプリンタにおいて、半導体レーザダイオードが発するレーザ光は、記録媒体の表面に収束されることは技術常識であるから、刊行物記載の「レーザビームプリンタ」がレーザ光を集束させるための手段を有しているものと認められる。
上記イ.に「パーソナルコンピュータのような上位システムから信号線1を介して入力されるビデオデータ信号」と記載されているから、「レーザビームプリンタ」がビデオデータ信号を受信するための手段を有しているものと認めらる。
上記「レーザビームプリンタ」が記録媒体の表面上にイメージに関連するスポットのパターンを生成させるために半導体レーザダイオード6aを作動させる作動手段を有していることは明らかである。
上記記載イ.から、温度補正回路13は、「一定のレーザ出力P_(o)を得ようとする」ものと認められ、上記エ.?カ.、ク.の記載から、温度補正回路13は、ビデオクロック周期で補正動作を行うものと認められる。
よって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「 レーザビームプリンタであって、
駆動電流I_(f)のレベルと温度に伴って変動する出力レベルを有する半導体レーザダイオード6aと、
レーザ光を記録媒体の表面に集束させるための手段と、
半導体レーザダイオード6aに結合され、入力電力を供給するためのプラス電源V_(+)及びマイナス電源V_(-)と、
ビデオデータ信号を受信するための手段と、
前記記録媒体の表面上にイメージに関連するスポットのパターンを生成させるために半導体レーザダイオード6aを作動させる作動手段と、及び
半導体レーザダイオード6aを駆動するレーザダイオード駆動電流I_(f)(バイアス電流I_(b)とビデオデータ電流I_(o)を合成)のバイアス電流I_(b)を変え、一定のレーザ出力P_(o)を得ようとする温度補正回路13からなり、
前記温度補正回路13が、ビデオクロック周期で補正動作を行うものである、レーザビームプリンタ。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「レーザビームプリンタ」、「半導体レーザダイオード6a」、「レーザ光」、「記録媒体」、「プラス電源V_(+)及びマイナス電源V_(-)」は、それぞれ本願発明の「記録構造体にイメージングを行うための装置」、「放射線ソース」、「放射線」、「記録構造体」、「電源」に相当する。
引用発明の「駆動電流I_(f)のレベルと温度に伴って変動する出力レベル」と、本願発明の「入力電力レベルとデューティサイクルに伴って変動する出力レベル」とは、「入力電力レベルと他の要因に伴って変動する出力レベル」の点で共通する。
引用発明の「ビデオデータ信号」が、「各々が位置に関連しておりレーザの出力レベルを特定している一連のデータ値」を有していることは技術常識である。
引用発明の温度補正回路13は、「半導体レーザダイオード6aを駆動するレーザダイオード駆動電流I_(f)(バイアス電流I_(b)とビデオデータ電流I_(o)を合成)のバイアス電流I_(b)を変え、一定のレーザ出力P_(o)を得ようとする」ものであるから、出力レベルの変動を補償するために電源を調整するための調整手段と称することができる。
よって、両者は、
「記録構造体にイメージングを行うための装置であって、
入力電力レベルと他の要因に伴って変動する出力レベルを有する放射線ソースと、
放射線を記録構造体の表面に集束させるための手段と、
放射線ソースに結合され、入力電力を供給するための電源と、
各々が位置に関連しておりレーザの出力レベルを特定している一連のデータ値を受信するための手段と、
前記表面上にイメージに関連するスポットのパターンを生成させるために放射線ソースを作動させる作動手段と、及び
出力レベルの変動を補償するために電源を調整するための調整手段とからなる、装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]放射線ソースの出力レベルを変動させる他の要因に関し、本願発明は、「デューティサイクル」と特定されているのに対し、引用発明は、温度であって、本願発明のような特定がない点。
[相違点2]調整手段に関し、本願発明は、「デューティサイクルの変動から生ずる出力レベルの変動を補償する」、「現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する」と特定されているのに対し、引用発明は、本願発明のような特定がない点。

上記相違点1、2について検討する。
本願発明の「デューティサイクル」が何を意味しているのか必ずしも明らかではないが、本願請求項1の「デューティサイクルの変動から生ずる出力レベルの変動を補償するために電源を調整するための調整手段とからなり、前記調整手段が、現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する」という記載から、本願発明の「デューティサイクル」は、「現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する」調整手段で補償されるものであるから、調整手段がそのような特定のものであれば、上記相違点1、2は、充足されることになる。よって、以下、調整手段を「現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する」ものとすることの容易想到性について検討する。
刊行物のエ.?カ.、ク.の記載から、刊行物に記載の「補正データ」は、ビデオクロック周期でビデオデータに応じて増減されるものであるから、各クロックサイクルで次々に更新される複数のデータ値の状況に応答したものではあるものの、一定の範囲の過去のデータ値に応答したものであるか否かは明示されていない。しかしながら、引用発明の半導体レーザダイオード6aの発熱による温度上昇は、放熱等により時間が経つ程その影響が少なくなることは明らかである。そうであれば、出力レベルに影響を与える範囲である、現在から一定の範囲の過去のデータ値の状況に応答するべく、調整手段を「現在のデータ値、及び各クロックサイクルで更新される所定数の従前の複数のデータ値に応答する」ような構成にすることは、当業者が容易になし得る設計事項に過ぎない。そして、このことは、例えば、特開平9-314908号公報、段落【0041】に、直前のn個の画素に対する発行エネルギに基づいた重み付け量を算出することが記載されていることからも裏付けられる。
よって、上記相違点1、2のような構成は、当業者が容易になし得る程度のことである。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物記載の発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-18 
出願番号 特願平10-353089
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅藤 政明
江成 克己
発明の名称 出力変動に対する補償を備えたダイオードレーザイメージング方法及び装置  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  

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