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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1195259
審判番号 不服2006-11984  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-12 
確定日 2009-04-01 
事件の表示 特願2001-370919「プロセス制御システムにおける冗長装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開、特開2002-237823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成13年12月5日の出願(パリ条約による優先権主張2000年12月5日、米国)であって、平成18年3月7日付けで拒絶査定され、同年6月12日に審判請求がなされたものであるところ、
本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願当初明細書および図面の記載からみて、次のとおりのものと認める。

(本願発明)
「 それぞれが固有のアドレスを有する複数の装置を備えたプロセス制御ネットワークにおける通信のためのプロセス制御システムであって、
バスと、
第1の固有のアドレスを有し、前記バスに通信可能に接続されており、仮想発行アドレスを含むメッセージを前記バスに発行するようプログラムされた第1の冗長装置と、
第2の固有のアドレスをもち、前記バスに通信可能に接続されており、前記バスに発行された仮想発行アドレスをもつメッセージを発行するようプログラムされた第2の冗長装置と、
前記バスに通信可能に接続されており、前記バスに発行された仮想発行アドレスをもつメッセージを処理するようプログラムされた少なくとも1つの受信装置と
を備え、
前記第1冗長装置がアクティブモードで動作して、前記少なくとも1つの受信装置へのバス上でメッセージの送信を行い、前記第2冗長装置がバックアップモードで動作して、バス上でメッセージの送信を行わないプロセス制御システム。」

なお、本願当初明細書の請求項1の4?5行にある「仮想公開アドレス」は、発明の詳細な説明の記載を含め本願当初明細書の他の部分には該当する標記は見あたらず、明細書および図面の記載全体を参酌して、「仮想発行アドレス」の誤記と認め、上記のように認定した。


2.引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平10-320323号公報(以下、「引用例」という。)には、「サーバコンピュータ、サーバコンピュータの制御方法、およびサーバコンピュータを制御するためのプログラムを記録した記録媒体」として、図面と共に次の記載がある。

イ.「【請求項1】 同一のサービスを提供できる複数のサーバを実現するための複数のサーバコンピュータを有し、前記サービスを提供すべき動作モードである稼動モードのサーバが前記サービスを提供できない状態となった場合に、前記サービスを提供することなく待機している動作モードである待機モードのサーバを稼動モードへと遷移させることにより高可用性を実現したネットワークシステムであって、インターネットプロトコルに基づきネットワーク層でのIPアドレスによって通信相手を指定するとともに、IPアドレスに対応するデータリンク層でのアドレスであるMACアドレスを得るために該ネットワーク内のコンピュータ間でARPリクエストとARPリプライとを送受するプロトコルであるARPを利用しつつ分散処理を行うネットワークシステムにおける前記複数のサーバを構成するサーバコンピュータにおいて、
ARPリクエストを受信すると、該ARPリクエストで指定されたIPアドレスに対応するサーバが稼動モードである場合にARPリプライを送信し、該ARPリクエストで指定されたIPアドレスに対応するサーバが待機モードである場合には前記ARPリクエストを無視してARPリプライを送信しないARP処理手段を備えることを特徴とするサーバコンピュータ。」(2頁1欄)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高可用性を実現するために、稼動系のサーバに加えて同一のサービスを提供できる待機系のサーバを備えたネットワークシステムにおいて使用されるサーバコンピュータに関する。
【0002】
【従来の技術】ネットワークシステムは、OSI(Open System Interconnection)の参照モデルに基づき階層構造を有するものとしてモデル化することができ、例えばインターネットプロトコル(Internet Protocol)を用いてコンピュータ間で通信を行うシステムは、図5に示すような階層構造を有するものとしてモデル化することができる。このモデルにおいてインターネットプロトコルはネットワーク層に対応し、コンピュータ上で動作するアプリケーションプロセスが通信を行う際には、そのアプリケーションプロセスは、通信相手を特定するためにネットワーク層のアドレスであるIPアドレス(Internet Protocol Address)を指定する。このIPアドレスは、下位の層であるデータリンク層に渡され、ここで通信相手のIPアドレスに対応するデータリンク層でのアドレスであるMACアドレスが獲得される。このMACアドレスが通信路としての物理媒体上を流れるアドレスであり、転送すべきデータを含むパケットがこのMACアドレスを指定して物理層に渡され、通信相手のコンピュータに送られる。
【0003】このようなコンピュータ間の通信では、IPアドレスとMACアドレスとの対応を得るために、ARP(Address resolution Protocol)というプロトコルが使用されている。すなわち、パケットの送信元のコンピュータは、通信相手のIPアドレスを指定したARPリクエスト(ARP reqest)をブロードキャストの形で送信し、これを受け取ったコンピュータは、そのARPリクエストで指定されたIPアドレスが自己に割り当てられているものである場合に、ARPリプライ(ARPreply)を返すことにより、そのIPアドレスに対応するMACアドレスを送信元に通知する。このようにしてIPアドレスとMACアドレスとの対応を示す情報が得られると、送信元のコンピュータは、その情報を内部に設けられたARPキャッシュに格納しておき、以降の通信においてIPアドレスに対応するMACアドレスを獲得する際にはこのARPキャッシュを参照する。
【0004】ところで、コンピュータを接続して構成されるネットワークシステムにおいて、クライアント・サーバモデルに基づいて分散処理を行う際に、システムの高可用性を確保するために、同一のサービスを提供できるサーバコンピュータをネットワークシステム内に複数台備えるという構成が採用されている。この場合、その複数台のサーバコンピュータのうち1台が稼動系サーバとして動作し、他は待機系のサーバとなっている。
【0005】このような高可用性システムが上述のインターネットプロトコルを用いたネットワークにより実現されている場合、クライアントの立場からは、同一のサービスを提供するサーバコンピュータには同一のIPアドレスが割り当てられていることが望ましい。しかし、IPアドレスが或る時点において重複して割り当てられると、一つのIPアドレスに対して複数のMACアドレスが対応することになり、送信元はどのMACアドレスを指定してパケットを送るべきかが決定できない。そこで、従来の上記高可用性ネットワークシステムでは、図6に示すように、ネットワークに接続され同一のサービスを提供できる二つのサーバコンピュータA、Bのうち稼動系サーバ(稼動モードのサーバコンピュータ)AにはIPアドレスを割り当てるが、待機系サーバ(待機モードのサーバコンピュータ)Bには同一IPアドレスを割り当てないようにしている。もしくは、同一IPアドレスの場合、ネットワークインタフェース(ドライバ)を非活性の状態にしている。そして、稼動系サーバAがシステムダウンや通信不能となる等によりクライアントに対してサービスを提供できない状態になると、待機系サーバBはこの状態を後述のハートビート通信により認識し、稼動系サーバAのシステムダウンなどの後にそのIPアドレスを引き継いで自己のIPアドレスとして設定する。以後、サーバBは、前記サービスを提供するためのアプリケーションプロセスを起動し、稼動系サーバとして動作するようになる。このような方式はコールド・スタンバイ方式と呼ばれている。この方式では、サーバコンピュータが待機状態にある間は、ネットワークドライバが活性化されず、したがって前記サービスを提供するためのアプリケーションプロセスも起動されない。このため、稼動系サーバAのシステムダウンなどによって必要となるサーバ切替に要する時間が長くなり、その分だけ、サービスを要求したクライアントに対する応答が遅れることになる。
【0006】これに対し、図7に示すように、稼動系サーバAと待機系サーバBとに異なるIPアドレスを割り当てておき、前記サービスを提供するためのアプリケーションプロセスを稼動系サーバAと稼動系サーバBの双方で同時に動作させるという方式が考えられる。しかし、この方式では、稼動系サーバAがシステムダウンなどにより前記サービスを提供できなくなったときには、クライアントがそれを認識し(例えば稼動系サーバAからの応答が返ってこないことをタイムアウト機構などにより認識する)、待機系サーバBのIPアドレスを指定して通信を行わなければならない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明では、上記問題を解決すべくなされたものであって、高可用性を確保するために待機系サーバを有しているネットワークシステムにおいて稼動系のサーバによるサービス提供が不可能となった場合に、クライアントに対して透過的にかつ短時間でサーバの切替を可能とするサーバコンピュータや、そのためのサーバコンピュータの制御方法、および、その制御方法を実施するためのプログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。」(3頁3欄?4頁5欄)

ハ.「【0016】
【発明の実施の形態】以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
<実施形態1>図1は、本発明の一実施形態(以下「実施形態1」という)であるサーバコンピュータを用いて構築されたネットワークシステムの構成を示す機能ブロック図である。このネットワークシステムでは、同一のサービスを提供できる2台のサーバコンピュータA、Bと、それらのいずれかのコンピュータに対してサービスの提供を要求するクライアントのコンピュータCとがローカルエリアネットワーク(LAN)100で接続された構成となっている。サーバーコンピュータA、Bは、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、LAN100に対する制御を含むオペレーティングシステム(OS)の機能および監視プロセス20を実現するとともに、クライアントにサービスを提供するアプリケーションプロセスを実現している。また、このネットワークシステムでは、前述の従来例(図6、図7)と同様、図5に示したモデルに基づきインターネットプロトコルを用いてコンピュータ間で通信が行われ、通信相手を特定するためのIPアドレスに対応するMACアドレスを獲得するためにARPが使用されており、OS10には、このARPに関する処理を行うARPハンドラ12も含まれている。さらに、サーバコンピュータAとBの間にはLAN100とは別に両者を直接に接続する通信路110が設けられている。サーバコンピュータAとBは、この通信路を用いて所定期間毎に常時通信し合うことにより、すなわち、いわゆる「ハートビート通信」を行うことにより、互いに相手の動作状態を把握する。このハートビート通信のための通信路110は、例えばRS232Cなどのシリアル回線やLAN100とは別のLANによって実現されるが、サーバコンピュータAとBにハードディスクなどの外部記憶装置を共有させることにより実現してもよい。一方、クライアントコンピュータCは、ARPによってIPアドレスとMACアドレスとの対応を示す情報が得られた場合にその情報を格納するためにARPキャッシュ30と呼ばれる対応表を有している。
【0017】図1に示したネットワークシステムが動作している状態では、2台のサーバコンピュータA、Bのうち1台は、クライアントに対してサービスを提供する動作モードである稼動モードで動作しており、他の1台は、サービスを提供することなく待機している動作モードである待機モードで動作している。ただし、待機モードにおいても、ネットワークドライバ(ARPハンドラ12を含む)は活性化されており、前記サービスを提供するためのアプリケーションプロセスは起動された状態となっている。なお、サーバコンピュータA、Bは、電源がONされて立ち上がった直後は、動作モードが未定である(動作モードが未定の状態を以下「初期状態」という)。
【0018】本ネットワークシステムにおいて、稼動モードのサーバコンピュータがシステムダウンなどによりサービスの提供ができなくなった場合には、図6に示した従来例と同様、待機モードのサーバコンピュータは、これをハートビート通信によって認識し、稼動モードへと遷移する。すなわち、サーバの切替が行われる。このようにサーバを切り替えてネットワークシステムとしての可用性を向上させるために、各サーバコンピュータは図2のフローチャートに示すような処理を行う。すなわち、本実施形態のサーバコンピュータを用いた分散処理を制御するために、各サーバコンピュータは以下のように動作する。」(5頁8欄?6頁9欄)

ニ.「【0024】いま、ネットワークシステムにおけるサーバコンピュータAを稼動モード、サーバコンピュータBを待機モードとし、図3に示すようにIPアドレスおよびMACアドレスが割り当てられているものとし、サーバコンピュータAがシステムダウンやネットワークボードの故障など何らかの理由で通信不能になったとする。この場合、まず、ハートビート通信によってサーバコンピュータBが、この通信不能を認識し、即座にIP=1.1.1.1に対するARPリクエストとARPリプライをブロードキャスト形式で送信する。このARPリプライには
「IP=1.1.1.1 は MAC=08000000002 に対応する。」
という情報が含まれている。またサーバコンピュータBは、ステップS24により稼動モードへと遷移し、これにより、以降のARPリクエストに対しては、上記と同じ情報を含むARPリプライを送信する。なお、ここでブロードキャスト形式で送信されたARPリクエストおよびARPリプライを受け取ったサーバコンピュータやルータ、ゲートウェイは、即座にそれらが有するARPキャッシュを
「IP=1.1.1.1 は MAC=08000000002 に対応する。」
ことを示すように書き直す。このようにして以降のIP=1.1.1.1宛のパケットは、MAC=08000000002のサーバコンピュータBに送られることになる。
【0025】図2のフローチャートに示された前述の処理は、サーバ切替のための処理の流れについては図6に示した従来例と同様である。しかし、待機モードへ遷移させるための処理(ステップS22)および稼動モードへ遷移させるための処理(ステップS24)の具体的内容が従来例と相違する。すなわち、各サーバコンピュータは、自己のIPアドレス(このIPアドレスは他のサーバコンピュータと同一)を指定したARPリクエストを受信すると、稼動モードの場合にはARPリプライを送信し、待機モードの場合にはそのARPリクエストを無視してARPリプライを返さない。このため、複数のサーバコンピュータに同一のIPアドレスが割り当てられていても、ARPリプライにより得られるMACアドレスは稼動モードのサーバコンピュータのMACアドレスであって、IPアドレスに対応するMACアドレスは各時点において一意的に決定される。そしてクライアントから同一のサービスを要求するために指定すべきIPアドレスは一つであってサーバの切替が生じても変わらないため、クライアントは稼動サーバの切替を認識する必要がない。すなわち、クライアントに対しサーバ切替は透過的となる。
【0026】また、上記のように待機モードの場合にはARPリクエストが無視されることから、待機モードのサーバコンピュータにおいても、ネットワークドライバを活性化しておき、サービスを提供するためのアプリケーションプロセスを起動した状態にしておくことが可能となっている(ステップS22参照)。その結果、サーバ切替に要する時間が短縮化されるため、稼動モードのサーバコンピュータのシステムダウンなどによって生じるクライアントへのサービス提供の遅れを防止することができ、従来よりも可用性の高いネットワークシステムの構築が可能となる。」(6頁10欄?7頁11欄)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず上記引用例には、
「複数のサーバコンピュータを有し、・・・(中略)・・・高可用性を実現したネットワークシステム」(上記イ.前段)、
「稼動系のサーバに加えて同一のサービスを提供できる待機系のサーバを備えたネットワークシステム」(上記ロ.【0001】)、
「このネットワークシステムでは、同一のサービスを提供できる2台のサーバコンピュータA、Bと、それらのいずれかのコンピュータに対してサービスの提供を要求するクライアントのコンピュータCとがローカルエリアネットワーク(LAN)100で接続された構成となっている。」(上記ハ.【0016】、図1)とあり、
これらの「サーバコンピュータA」、「サーバコンピュータB」、「クライアントのコンピュータC」は、「ローカルエリアネットワーク(LAN)100で接続され」て「複数のコンピュータを備えたネットワークシステム」を構成するものである。

また、これらの「コンピュータ」は、「インターネットプロトコルに基づきネットワーク層でのIPアドレスによって通信相手を指定するとともに、IPアドレスに対応するデータリンク層でのアドレスであるMACアドレスを得るために該ネットワーク内のコンピュータ間でARPリクエストとARPリプライとを送受する」(上記イ.中段)、
「インターネットプロトコルを用いてコンピュータ間で通信が行われ、通信相手を特定するためのIPアドレスに対応するMACアドレスを獲得するためにARPが使用されており」(上記ハ.【0016】中段)とあって、
対応する図1,図3、上記ニ.【0024】などの記載も参照すれば、
それそれの「コンピュータ」が「アドレス」を有するものであって、
「サーバコンピュータA」は、データリンク層でのアドレスである「MACアドレス」(図1の「MAC-A」、図3の「MACアドレス=08000000001」)を有しており、「LAN100」に『通信可能に接続されて』おり、
同様に、
「サーバコンピュータB」はデータリンク層でのアドレスである「MACアドレス」(図1の「MAC-B」、図3の「MACアドレス=08000000002」)をもち、「LAN100」に『通信可能に接続されて』いることを見て取ることができる。

更に前記記載には、「インターネットプロトコルに基づきネットワーク層でのIPアドレスによって通信相手を指定する」、「インターネットプロトコルを用いてコンピュータ間で通信が行われ、通信相手を特定するためのIPアドレス」ともあって、
対応する図1,図3、上記ニ.【0025】の「各サーバコンピュータは、自己のIPアドレス(このIPアドレスは他のサーバコンピュータと同一)」との記載も参照すれば、
「サーバコンピュータA」、「サーバコンピュータB」ともに、同一の共通するネットワーク層でのアドレスである「IPアドレス」(図1の「IP-1」、図3の「IPアドレス=1.1.1.1」)が割り当てられていることを見て取ることができる。

また、インターネットプロトコルに基づく通信の技術常識を参酌すれば、送信されるIPパケット(メッセージ)に通信相手(宛先)及び送信元の自身のIPアドレスが含まれていることは自明であるとともに、
ARPプロトコルによる通信動作に関する引用例の記載(例えば上記ロ.【0003】、および上記ニ.【0024】中段の「このARPリプライには「IP=1.1.1.1 は MAC=08000000002 に対応する。」という情報が含まれている」との記載)によれば、この「ARPリプライ」もメッセージ発行元の「IPアドレス」(IP=1.1.1.1)を含むものであって、
これらの「IPパケット」、「ARPリプライ」を『メッセージ』と総称すれば、例えば引用例図2にあるように「コンピュータ」が「プログラム」に基づき動作するのも技術常識であるので、
「サーバコンピュータA」、「サーバコンピュータB」ともに代替動作可能なように、『(同一の)IPアドレスを含むメッセージをLAN100に発行するようプログラム』されたものであると言うことができる。

また、これらの「サーバコンピュータ」とインターネットプロトコルあるいはARPに基づく通信を行う「クライアントのコンピュータC」は、「サーバコンピュータ」と同様に「LAN100」に『通信可能に接続されて』いて、メッセージ受信の際に『LAN100に発行されたIPアドレスを含むメッセージを処理するようプログラムされた』ものであるということができる。

そして、これらの「サーバコンピュータ」の動作モードに関して、
「ARPリクエストを受信すると、該ARPリクエストで指定されたIPアドレスに対応するサーバが稼動モードである場合にARPリプライを送信し、該ARPリクエストで指定されたIPアドレスに対応するサーバが待機モードである場合には前記ARPリクエストを無視してARPリプライを送信しない」(上記イ.後段)、
「図1に示したネットワークシステムが動作している状態では、2台のサーバコンピュータA、Bのうち1台は、クライアントに対してサービスを提供する動作モードである稼動モードで動作しており、他の1台は、サービスを提供することなく待機している動作モードである待機モードで動作している。」(ハ.【0017】)、
「各サーバコンピュータは、自己のIPアドレス(このIPアドレスは他のサーバコンピュータと同一)を指定したARPリクエストを受信すると、稼動モードの場合にはARPリプライを送信し、待機モードの場合にはそのARPリクエストを無視してARPリプライを返さない。」(ニ.【0025】)の記載を参照すれば、
引用例記載の「システム」は、引用例図1,図3に図示された動作状態に於いて、
『サーバコンピュータAが稼動モードで動作して、クライアントのコンピュータCへのLAN100上でメッセージの送信を行い』、
『サーバコンピュータBが待機モードで動作して、クライアントのコンピュータCへのLAN100上でメッセージの送信を行わない』ものである。

以上をまとめると引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「それそれがアドレスを有する複数のコンピュータを備えたネットワークシステムであって、
LAN100と、
MACアドレスMAC-Aを有し、前記LAN100に通信可能に接続されており、IPアドレスIP-1を含むメッセージを前記LAN100に発行するようプログラムされたサーバコンピュータAと、
MACアドレスMAC-Bをもち、前記LAN100に通信可能に接続されており、前記LAN100に発行されたIPアドレスIP-1をもつメッセージを発行するようプログラムされたサーバコンピュータBと、
LAN100に通信可能に接続されており、前記LAN100に発行されたIPアドレスIP-1を含むメッセージを処理するようプログラムされたクライアントのコンピュータCと
を備え、
サーバコンピュータAが稼動モードで動作して、クライアントのコンピュータCへのLAN100上でメッセージの送信を行い、
サーバコンピュータBが待機モードで動作して、クライアントのコンピュータCへのLAN100上でメッセージの送信を行わないシステム」


3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「コンピュータ」は、本願発明の「装置」の一種であり、
引用発明の「ネットワークシステム」は、ネットワークに於ける通信を行うシステムであるから『ネットワークに於ける通信のためのシステム』である。
また、引用発明の「LAN100」と本願発明の「バス」は、ともに通信のための『伝送路』である点に於いて一致し、
引用発明の「MACアドレスMAC-A」、「MACアドレスMAC-B」は、いずれも「アドレス」の一種であるから「第1のアドレス」、「第2のアドレス」ということができ、本願発明の「第1の固有のアドレス」、「第2の固有のアドレス」と対比した場合、両者は「第1のアドレス」、「第2のアドレス」である点で一致する。
また、引用発明の「IPアドレスIP-1」は、これも「アドレス」の一種であるから前記「第1のアドレス」、「第2のアドレス」と区別のためこれを「第3のアドレス」ということができ、本願発明の「仮想発行アドレス」と対比した場合、両者は「第3のアドレス」である点で一致する。
また、引用発明の「サーバコンピュータA」、「サーバコンピュータB」は、いずれも「装置」の一種であって、同一のサービスを提供するための冗長な構成であるから、本願発明の「第1の冗長装置」、「第2の冗長装置」に相当する。
また、引用発明の「クライアントのコンピュータC」は、これも「装置」の一種であって、発行されたメッセージを「処理」するとは「受信」することの他ならないから、本願発明の「受信装置」に相当し、このような「受信装置」(クライアントのコンピュータ)は複数存在することができるのは明らかであるから、そのうちの1つをさして「少なくとも1つの受信装置」ということができる点に於いて本願発明と一致する。
そして、引用発明「稼動モード」、「待機モード」が、本願発明の「アクティブモード」、「バックアップモード」に相当することは明らかである。

以上をまとめると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「それそれがアドレスを有する複数の装置を備えたネットワークにおける通信のためのシステムであって、
伝送路と、
第1のアドレスを有し、前記伝送路に通信可能に接続されており、第3のアドレスを含むメッセージを前記伝送路に発行するようプログラムされた第1の冗長装置と、
第2のアドレスをもち、前記伝送路に通信可能に接続されており、前記伝送路に発行された第3のアドレスをもつメッセージを発行するようプログラムされた第2の冗長装置と、
前記伝送路に通信可能に接続されており、前記伝送路に発行された第3のアドレスをもつメッセージを処理するようプログラムされた少なくとも1つの受信装置と
を備え、
前記第1冗長装置がアクティブモードで動作して、前記少なくとも1つの受信装置への伝送路上でメッセージの送信を行い、前記第2冗長装置がバックアップモードで動作して、伝送路上でメッセージの送信を行わないシステム。」

(相違点)
(1)「複数の装置」の「アドレス」に関し、本願発明は「それぞれが固有のアドレスを有する複数の装置」であるのに対し、引用発明は「それそれがアドレスを有する複数の装置(コンピュータ)」であって「固有の」という限定がない点。
(2)「第1のアドレス」、「第2のアドレス」に関し、本願発明は「第1の冗長装置」が「第1の固有のアドレス」を有し、「第2の冗長装置」が「第2の固有のアドレス」をもつのに対し、引用発明は「第1の冗長装置(サーバコンピュータA)」が「第1のアドレス(MACアドレスMAC-A)」を有し、「第2の冗長装置(サーバコンピュータB)」が「第2のアドレス(MACアドレスMAC-B)」をもつのみで、「固有の」という限定がない点。
(3)「第3のアドレス」に関し、本願発明は「仮想発行アドレス」であるのに対し、引用発明は「IPアドレスIP-1」である点。
(4)「システム」の点に関し、本願発明は「プロセス制御システム」であるのに対し、引用発明は単に「システム」である点、
および「ネットワーク」の点に関し、本願発明は「プロセス制御ネットワーク」であるのに対し、引用発明は単に「ネットワーク」である点。
(5)「伝送路」に関し、本願発明は「バス」であるのに対し、引用発明は「LAN100」である点。


上記相違点(1)、(2)の「固有の」アドレスについて検討する。
一般にネットワークに於ける通信に限らず、物理的な実体としての装置を各個に識別するために、各装置に固有の番号、識別子などを付与するのは通常に行われることであって、ネットワークに於けるアドレスも同様である。
特に、引用例の上記ロ.【0002】および図2にもあるように、階層構成を取るネットワークシステムに於いては、物理層に隣接するデータリンク層でのアドレスである「MACアドレス」が、原則として機器・装置に「固有の」アドレスであることは周知のことである。
(例えば、特開2000-59380号公報【0003】、特開平11-194913号公報【0002】、特開平11-187375号公報【0005】参照)
したがって、「複数の装置」それぞれが「固有の」アドレスを有するようになすこと(相違点(1))、「第1の冗長装置」、「第2の冗長装置」が「第1の固有のアドレス」、「第2の固有のアドレス」をもつこと(相違点(2))はいずれも格別のことではない。

上記相違点(3)の「第3のアドレス」について検討する。
上記検討で述べたような「MACアドレス」と異なり、物理層から離れたネットワーク層のアドレスである「IPアドレス」は、引用発明もそうであるように装置に固有のものではなく、2つの異なる「サーバコンピュータ」A、Bが、同一の「IPアドレスIP-1」をもつものであるから、これを抽象化された「仮想」のアドレスということもできるものであって、引用発明の認定でも述べたように「IPパケット」や「ARPリプライ」などの「メッセージ」に含まれるものとして「発行」されているから、「仮想発行アドレス」ということもできるものである。
したがって、相違点(3)も格別のことではない。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明中には、本願発明の実施例に於いて言及される「フィールドバスプロトコル」においては、「OSIの第3?6層に相当する構造は存在しない。」との記載(【0038】)も存在するが、本願発明の記載は「仮想発行アドレス」がネットワーク層(OSIの第3層)の「IPアドレス」であることを排除するものではなく、また仮に本願発明の「仮想発行アドレス」が「IPアドレス」と異なるものであるとしても、これを対応づけて引用発明より本願発明をなすのは上記のように当業者であれば容易なことと認められる。

上記相違点(4)について検討する。
「システム」の一種として、工場やプラントにおいてプロセスの制御を行う「プロセス制御システム」、およびそのようなシステムを「ネットワーク」として構成した「プロセス制御ネットワーク」は、本願出願前に既に周知のものである。
(例えば、特開2000-216847号公報、特表平3-500956号公報、特開昭62-88457号公報参照)
引用発明の「システム」、「ネットワーク」を、このような「プロセス制御システム」、「プロセス制御ネットワーク」に適用するのに特段の阻害要因は見あたらないから、引用発明より本願発明をなすことは当業者であれば容易になし得たことと認められ、相違点(4)も格別のことではない。

上記相違点(5)について検討する。
ネットワークを構成する「伝送路」の形態として、引用発明にあるような「LAN」(ローカルエリアネットワーク)が、「バス型LAN」と呼ばれるものを含むことは周知のことである。
(例えば、特開平9-102809号公報【0013】、特開平6-252928号公報【0002】、特開平4-261244号公報【0001】参照)
したがって、引用発明の「LAN100」は、これを「バス」とも呼べるものであるから、相違点(5)も格別のことではない。

そして、本願発明の効果も引用発明および周知技術から当業者が予測し得る範囲のものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-19 
出願番号 特願2001-370919(P2001-370919)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢頭 尚之  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 竹井 文雄
小宮 慎司
発明の名称 プロセス制御システムにおける冗長装置  
代理人 角田 嘉宏  

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