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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1195264 |
審判番号 | 不服2006-20992 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-09-21 |
確定日 | 2009-04-01 |
事件の表示 | 特願2001-214607「射出成形機の型締装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月29日出願公開、特開2003- 25398〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年7月16日の出願であって、平成16年11月2日付けで拒絶理由が通知され、平成17年1月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年8月10日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成18年9月21日に審判請求がなされ、同年10月23日に手続補正書が提出され、同年12月6日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成19年3月29日付けで前置報告がなされ、当審において平成20年6月30日付けで審尋がなされ、同年9月8日に回答書が提出されたものである。 第2.平成18年10月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1.補正の却下の決定の結論 平成18年10月23日付けの手続補正を却下する。 2.理 由 (1)補正の内容 平成18年10月23日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、審判請求の日から30日以内にされた補正であり、平成17年1月11日付けの手続補正により補正された明細書をさらに補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の、 「【請求項1】 (a)固定金型及び可動金型を備える金型装置と、 (b)前記可動金型を支持する可動金型支持部材と、 (c)クロスヘッドを備え、基端部がトグル機構支持部材に取り付けられ、先端部が前記可動金型支持部材に取り付けられるトグル機構と、 (d)前記クロスヘッドを移動させる駆動源と、 (e)前記可動金型支持部材を前進させて型締を行う時に、前記可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させる制御装置とを有することを特徴とする射出成形機の型締装置。 【請求項2】 前記制御装置は、前記駆動源の型締力を複数段階に分けて低下させる請求項1に記載の射出成形機の型締装置。 【請求項3】 前記制御装置は、前記駆動源の型締力を可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させる請求項1に記載の射出成形機の型締装置。 【請求項4】 前記制御装置は、前記駆動源の型締力をトグル倍率の逆数となるように低下させる請求項1に記載の射出成形機の型締装置。 【請求項5】 (a)駆動源を作動させてクロスヘッドを前進させてトグル機構を作動させ、 (b)該トグル機構の先端に取り付けられた可動金型を支持する可動金型支持部材を前進させ、 (c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させることを特徴とする射出成形機の型締方法。 【請求項6】 前記駆動源の型締力は、複数段階に分けて低下させる請求項5に記載の射出成形機の型締方法。 【請求項7】 前記駆動源の型締力は、前記可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させる請求項5に記載の射出成形機の型締方法。 【請求項8】 前記駆動源の型締力は、トグル倍率の逆数となるように低下させる請求項5に記載の射出成形機の型締方法。」 との記載を、 「【請求項1】 (a)固定金型及び可動金型を備える金型装置と、 (b)前記可動金型を支持する可動金型支持部材と、 (c)クロスヘッドを備え、基端部がトグル機構支持部材に取り付けられ、先端部が前記可動金型支持部材に取り付けられるトグル機構と、 (d)前記クロスヘッドを移動させる駆動源と、 (e)前記可動金型支持部材を前進させて型締を行う時に、前記可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させる制御装置とを有するとともに、 (f)該制御装置は、前記駆動源の型締力をトグル倍率の逆数となるように低下させることを特徴とする射出成形機の型締装置。 【請求項2】 (a)固定金型及び可動金型を備える金型装置と、 (b)前記可動金型を支持する可動金型支持部材と、 (c)クロスヘッドを備え、基端部がトグル機構支持部材に取り付けられ、先端部が前記可動金型支持部材に取り付けられるトグル機構と、 (d)前記クロスヘッドを移動させる駆動源と、 (e)前記可動金型支持部材を前進させて型締を行う時に、前記可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させる制御装置とを有するとともに、 (f)前記制御装置は、前記駆動源の型締力を可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させることを特徴とする射出成形機の型締装置。 【請求項3】 前記制御装置は、前記駆動源の型締力を複数段階に分けて低下させる請求項1又は2に記載の射出成形機の型締装置。 【請求項4】 (a)駆動源を作動させてクロスヘッドを前進させてトグル機構を作動させ、 (b)該トグル機構の先端に取り付けられた可動金型を支持する可動金型支持部材を前進させ、 (c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次、前記駆動源の型締力は、トグル倍率の逆数となるように低下させることを特徴とする射出成形機の型締方法。 【請求項5】 (a)駆動源を作動させてクロスヘッドを前進させてトグル機構を作動させ、 (b)該トグル機構の先端に取り付けられた可動金型を支持する可動金型支持部材を前進させ、 (c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次、前記駆動源の型締力は、前記可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させることを特徴とする射出成形機の型締方法。 【請求項6】 前記駆動源の型締力は、複数段階に分けて低下させる請求項4又は5に記載の射出成形機の型締方法。」 とする、特許請求の範囲に係る補正を含むものである。 この特許請求の範囲に係る補正により、請求項1又は2を引用する本件手続補正後の請求項3に係る発明は、射出成形機の型締装置において、「(f)該制御装置は、前記駆動源の型締力をトグル倍率の逆数となるように低下させ、さらに、前記制御装置は、前記駆動源の型締力を複数段階に分けて低下させる」との発明を特定するために必要な事項(以下、単に「発明特定事項」という。)を備えるものか、又は「(f)前記制御装置は、前記駆動源の型締力を可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させ、さらに、前記制御装置は、前記駆動源の型締力を複数段階に分けて低下させる」との発明特定事項を備えるものとなった。(以下、「補正事項1」という。) また、同様に、この特許請求の範囲に係る補正により、請求項4又は5を引用する本件手続補正後の請求項6に係る発明は、射出成形機の型締方法において、「(c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次、前記駆動源の型締力は、トグル倍率の逆数となるように低下させ、さらに、前記駆動源の型締力は、複数段階に分けて低下させる」との発明特定事項を備えるものか、又は「(c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次、前記駆動源の型締力は、前記可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させ、さらに、前記駆動源の型締力は、複数段階に分けて低下させる」との発明特定事項を備えるものとなった。(以下、「補正事項2」という。) (2)本件手続補正の適否について 本件手続補正が、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるかどうかについて検討する。 (2-1)当初明細書及び図面の記載事項 補正事項1で特定された「駆動源の型締力を複数段階に分けて低下させる」及び補正事項2で特定された「駆動源の型締力は、複数段階に分けて低下させる」との事項に関して、当初明細書及び図面には、次のとおり記載されている。 ア.「図1は本発明の第1の実施の形態における射出成形機の型締方法を示す図である。」(段落【0054】) イ. 「 」 (【図1】) ウ.「図において、グラフ(a)における曲線A1は可動金型型締力と可動プラテン位置との関係を表し、グラフ(b)における線B1はクロスヘッド21に加えられる駆動源型締力と可動プラテン位置との関係を表している。横軸において、oは前記型開位置であり、aは型締力を低下させる第1段階低圧型締開始点、bは型締力を更に低下させる第2段階低圧型締開始点、cは型締力を上昇させる高圧型締開始点、kは前記型閉位置である。」(段落【0055】) エ.「なお、本実施の形態においては、駆動源型締力を2段階に分けて低下させる例について説明したが、前記駆動源型締力を3段階以上に分けて低下させることもできる。この場合、前記第1段階低圧型締開始点aと高圧型締開始点cとの間に複数の低圧型締開始点が設定される。例えば、前記駆動源型締力を3段階に分けて低下させる場合、前記第1段階低圧型締開始点aと高圧型締開始点cとの間を3等分して、第2段階低圧型締開始点及び第3段低圧型締開始点を設定することができる。そして、前記駆動源型締力を分けて低下させる段階数が多くなるほど、可動金型型締力の値の変動を少なくすることができる。」(段落【0066】) (2-2)当審の判断 まず、補正事項1及び2における「トグル機構のトグル倍率」は、当初明細書の段落【0005】に規定のとおり、「可動プラテンの移動量に対するクロスヘッドの移動量の比」であることから、トグル機構を有する射出成形機の型締装置又は型締方法においては、「トグル機構のトグル倍率の逆数」が、通常、連続的に変化するものであることは、当業者にとって自明の事項であると認められる。また、射出成形機の型締装置又は型締方法において、「可動金型支持部材の移動する距離」が、通常、連続的に変化するものであることも、当業者にとって自明の事項であると認められる。 そして、上記摘示のとおり、当初明細書及び図面には、「駆動源の型締力を(は)複数段階に分けて低下させる」態様に関して、「本発明の第1の態様」として、上記摘示ア.ないしエ.のとおりに開示されているだけであり、摘示イ.の【図1】におけるB1で示されるとおり、各段階における「駆動源の型締力」自体は一定のものである。 してみれば、補正事項1に係る、「駆動源の型締力」を「トグル倍率の逆数となるように低下させること」かつ「複数段階に分けて低下させること」とする態様は、当初明細書及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、また、補正事項1に係る、「駆動源の型締力」を「可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させること」かつ「複数段階に分けて低下させること」とする態様も、当初明細書及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。同様に、補正事項2に係る、「駆動源の型締力」を「トグル倍率の逆数となるように低下させること」かつ「複数段階に分けて低下させること」とする態様、及び「駆動源の型締力」を「可動金型支持部材の移動する距離に比例して低下させること」かつ「複数段階に分けて低下させること」とする態様についても、当初明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものともいえない。 よって、補正事項1及び2は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 (3)まとめ 以上のとおり、補正事項1及び2を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本件審判請求について 1.本願発明 平成18年10月23日付けの手続補正は、上記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年1月11日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「(a)駆動源を作動させてクロスヘッドを前進させてトグル機構を作動させ、 (b)該トグル機構の先端に取り付けられた可動金型を支持する可動金型支持部材を前進させ、 (c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させることを特徴とする射出成形機の型締方法。」 なお、本願発明は、当初明細書の特許請求の範囲の請求項6を引用する請求項10に係る発明に、「可動金型の型締力が一定以上の抵抗によって可動金型部材が停止する範囲となるように」との発明特定事項を付加することにより、上記請求項を減縮したものに相当すると認められる。 2.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、「本願は、平成16年11月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」であり、同拒絶理由通知書における拒絶の理由2.の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開昭52-69467号公報 引用文献2以下は略 3.引用文献1の記載事項 引用文献1(以下、単に「引用例」という。)には、次のとおり記載されている。 a.「方向切換弁を介し油圧ポンプにつながれた型締シリンダと、型締シリンダのヘッド側に方向切換弁を介しつながれた蓄圧器とよりなり、油圧ポンプで発生する圧油を蓄圧器に蓄圧でき、かつ可動金型による型閉め中任意の位置で型締めシリンダへの圧油原を蓄圧器に切換え低圧型締を可能としたことを特徴とする低圧型締装置。」(特許請求の範囲、第1項) b.「本発明は低圧型締装置に関する。 射出成形機、射出吹込成形機等における低圧型締装置として、減圧弁、リリーフ弁、補助シリンダ等が採用されている。」(第1頁左下欄下から2行?右下欄2行) c.「本発明はトグル機構の倍力作用と蓄圧器内の圧力低下作用とを組合せたもので以下添付図面を参照して実施例について説明する。」(第2頁左上欄2?4行) d.「第1図は、その低圧型締用油圧回路で、1は蓄圧器、2は型締シリンダ、3,4は方向切換弁である。油圧ポンプPより吐出された圧油はスロツトル弁5によつて油量を制御し、方向切換弁3に送り込まれる。方向切換弁3のソレノイドbが励磁されると、圧油がPポート→Bポートに流れ、型締シリンダ2のピストンが前進し、型閉じが行われる。型閉じ中は蓄圧器内に規定の圧油が充されている。型閉じ中方向切換弁3のソレノイドbを消磁すると、同時に方向切換弁4が励磁する。その結果油圧ポンプPよりの圧油が方向切換弁3で止まり、蓄圧器1内の圧油が方向切換弁4のB→Pポートを通り、型締シリンダ2内に流入して型閉じ動作が続行される。しかし、型閉じが進むにつれて、蓄圧器1内の圧力が低下するので、型締力が小さくなる。」(第2頁左上欄4?20行) e. 「 」(第4頁、第1図) f.「第2図は、第1図における蓄圧器1の拡大詳細図である。蓄圧器1はシリンダチューブ10内にピストン7が嵌入され、両端はヘツドカバー12,12’で閉じられている。ピストン7の中央部にはピストンロツド9が同心のストツパー8によって取付けられている。片側(図の左)のヘツドカバー12とピストン7との空隙には圧油出入口19から圧油が出入りし、ピストン7を左右動させる。」(第2頁右上欄1?8行) g.「なお、ピストン7はコイルスプリング6によって常時左向き(ピストンロツド9が縮む方向)に付勢されており、蓄圧器内の圧力は、コイルスプリング6反発力を利用して発生するようになっている。」(第2頁右上欄14?18行) h. 「 」(第4頁、第2図) i.「しかし、蓄圧器1内の圧油は第2図で示すごとく、コイルスプリング6の反発力を利用して発生させる構造であるから、型閉じが進行するにつれて、油圧が低下してくる。そして可動金型17と固定金型18とが接触するときは(第4図)、非常に低い油圧になる。したがつて金型間の異物を検出する時の型締力も低くなる。」(第2頁右下欄5?11行) j. 「 」 (第4頁、第3図及び第4図。なお、図中、16は「トグルレバー」、24は「可動板」である。(第3頁左下欄第7行、第11行)) k.「第3図、第4図は、蓄圧器内の油圧と型締シリンダの動きの関係を示し、第3図は型締めの開始時、第4図は金型が接触した状態を示す。」(第3頁右上欄15?17行) 4.当審の判断 (1)引用例に記載された発明 上記摘示事項からみて、引用例には、トグル機構を有する射出成形機の低圧型締装置を用いた型締方法が記載されているものと認められる。 そして、型閉じ動作を開始した後に「油圧ポンプPよりの圧油が方向切換弁3で止まり、蓄圧器1内の圧油が方向切換弁4のB→Pポートを通り、型締シリンダ2内に流入して型閉じ動作が続行される」こと〔摘示d.及びe.〕及び「蓄圧器1内の圧力は、蓄圧器1内のピストン7がコイルスプリング6の『反発力』によって付勢されることによって生じる」こと〔摘示f.g.及びh.〕が記載されているものと認められる。 また、「蓄圧器1内の圧油」による型閉じ・型締め動作については、摘示iのとおり、「可動金型17と固定金型18とが接触するとき」まで行われることから、摘示j.及びk.における「トグル機構(トグルレバー16)が伸びきっておらず、可動金型17と固定金型18間に間隔がある状態(第3図)から、トグル機構(トグルレバー16)が殆ど伸びきっており、可動金型17と固定金型18とが接触する状態(第4図)」まで、トグル機構(トグルレバー16)の先端に取り付けられた可動金型17を支持する可動板24を移動・前進させることができる様に設定されているものと解される。 更に、引用例には、「型閉じが進むにつれて、蓄圧器1内の圧力が低下するので、型締力が小さくなる」こと〔摘示d.〕及び「蓄圧器1内の圧油は第2図で示すごとく、コイルスプリング6の反発力を利用して発生させる構造であるから、型閉じが進行するにつれて、油圧が低下してくる。そして可動金型17と固定金型18とが接触するときは(第4図)、非常に低い油圧になる。したがって、金型間の異物を検出する時の型締力も低くなる。」こと〔摘示i.〕も記載されている。 してみると、引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、次のとおりのものと認めることができる。 「射出成形機の型締めに際して、蓄圧器1内の圧油を型締シリンダ2に流入させ、トグル機構(トグルレバー16)を作動させて、トグル機構(トグルレバー16)の先端に取り付けられた可動金型17を支持する可動板24を、可動金型17と固定金型18とが接触するときまで前進させるとともに、型閉じが進行するにつれて、蓄圧器1内の油圧が漸次低下し、型締力を低下させる、射出成形機の型締方法。」 (2)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 両者は、射出成形機の型締方法である点で一致し、以下の相違点1?3で相違する。 相違点1:本願発明においては、「(a)駆動源を作動させてクロスヘッドを前進させてトグル機構を作動させ」なる事項を発明特定事項として備えているのに対して、引用発明においては、かかる事項について規定がない点 相違点2:本願発明においては、「(b)該トグル機構の先端に取り付けられた可動金型を支持する可動金型支持部材を前進させ」なる事項を発明特定事項として備えているのに対して、引用発明においては、かかる事項について規定がない点 相違点3:本願発明においては、「(c)該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように、前記駆動源の型締力を漸次低下させる」事項を発明特定事項として備えているのに対して、引用発明においては、かかる事項について規定がない点 (3)相違点についての判断 (3-1)相違点1について 上記認定のとおり、引用発明は、「蓄圧器1内の圧油を型締シリンダ2に流入させ、トグル機構(トグルレバー16)を作動させ」るとの事項を備えるものであり、引用発明における「蓄圧器」は本願発明における「駆動源」に相当し、引用発明における「圧油を型締シリンダ2に流入させ」は本願発明における「作動させ」に相当する。また、引用例においては「クロスヘッド」との語が明示されていないものの、本願発明における「クロスヘッド」が「前進することによりトグル機構を作動させるもの」であり、上記摘示j.からみて、引用発明においても「クロスヘッド」を有することは明らかである。してみれば、相違点1、すなわち、本願発明における(a)に係る事項を発明特定事項として備えていることは実質的な相違点とはいえない。 (3-2)相違点2について 引用発明における「可動金型17を支持する可動板24」が、本願発明における「可動金型を支持する可動金型支持部材」に相当することは明らかであり、しかも、両者は共に、「トグル機構の先端に取り付けられ」、「前進させ」るものであることから、相違点2、すなわち、本願発明における(b)に係る事項を発明特定事項として備えていることも実質的な相違点とはいえない。 (3-3)相違点3について 本願発明における(c)に係る事項について、「該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記駆動源の型締力を漸次低下させる」との事項と「前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように」前記駆動源の型締力を漸次低下させる事項とに分けて、検討する。 まず、本願発明の(c)に係る「該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記駆動源の型締力を漸次低下させる」との事項について検討する。 かかる事項における「トグル機構のトグル倍率」とは、上記のとおり、「可動プラテンの移動量に対するクロスヘッドの移動量の比」である。そして、本願明細書の段落【0005】に記載されるように、「トグル機構の動作の特徴として、前記可動プラテンが後方に位置し、前記可動金型が固定金型から離れている時は、クロスヘッドの移動量に対して可動プラテンの移動量の方が大きい増速状態である。そして、前記可動プラテンが前進して可動金型と固定金型との距離が所定の値以下になると、クロスヘッドの移動量と可動プラテンの移動量との関係が逆転して、可動プラテンの移動量に対してクロスヘッドの移動量の方が大きい減速状態になる」ことは、トグル機構の持つ特性からみて、トグル機構を有する射出成形機の型締装置においては、当業者に周知の技術的事項であると認められる。 したがって、上記(c)に係る工程における「該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間」とは、型締め(型閉じ)に際し、可動金型と固定金型とが一定間隔以下に近接し、そして接触するに至る区間であると解される。 してみると、引用発明における「可動板24を、可動金型17と固定金型18とが接触するときまで前進させるとともに、型閉じが進行するにつれて、蓄圧器1内の油圧が漸次低下し、型締力を低下させる」との事項は、上記(c)に係る事項における「該可動金型支持部材の位置が前記トグル機構のトグル倍率が上昇する区間に進入すると、前記駆動源の型締力を漸次低下させる」事項に相当すると認められる。 次に、本願発明の(c)に係る事項において、「前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上、かつ、一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲となるように」前記駆動源の型締力を漸次低下させる事項について検討するに、引用例にかかる事項は明記されていない。しかしながら、引用発明においては、可動板24を、可動金型17と固定金型18とが接触するときまで前進させるものであり、かかる状態は型閉じの完了を意味すると解される。してみると、蓄圧器1内の油圧が漸次低下することに伴い型締力は低下するものの、引用発明においても、型閉じの完了まで可動金型を前進させることが可能であるから、「前記可動金型の型締力が最低可動型締力以上」との事項を満たすべきものであることは明らかである。一方、上記「一定以上の抵抗によって前記可動金型支持部材が停止する範囲」との事項については、引用例における「金型間の異物を検出する(摘示i.)」との記載、及び「可動金型支持部材が、タイバーの異常、金型面上の固い異物の存在等の一定以上の抵抗によって金型支持部材が停止する」との当業者にとっての自明の事項に基いて、可動金型支持部材が停止する範囲の下限として、「一定以上の抵抗」とする程度のことは、当業者であれば、容易に想到し得た程度の事項であり、また、そうしたことによる特段の効果も認められない。 (3)まとめ したがって、相違点1ないし3、すなわち、本願発明に係る上記(a)ないし(c)に係る事項を発明特定事項として備えている点については上記検討のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、請求項1?4及び6?8に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-16 |
結審通知日 | 2009-01-27 |
審決日 | 2009-02-09 |
出願番号 | 特願2001-214607(P2001-214607) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大島 祥吾 |
特許庁審判長 |
渡辺 仁 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 山本 昌広 |
発明の名称 | 射出成形機の型締装置及び方法 |
代理人 | 羽片 和夫 |