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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1195266
審判番号 不服2006-23381  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-16 
確定日 2009-04-01 
事件の表示 特願2003-385573「フォトニッククリスタルの構造を用いた2×2光スイッチ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月17日出願公開、特開2004-170976〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年11月14日(パリ条約による優先権主張 2002年11月15日、大韓民国)に特許出願したものであって、平成18年6月22日付けで手続補正がなされた(以下「本件第1補正」という。)後、平成18年7月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされた(以下「本件第2補正」という。)が、当審において、平成20年5月29日付けで本件第2補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月3日付けで手続補正がなされた(以下「本件第3補正」という。)ものである。

2 平成20年5月29日付け拒絶理由通知の概要
平成20年5月29日付け拒絶理由通知の概要は、以下のとおりである。

(1)本件出願当初の本願明細書又は図面には、本件第1補正後の請求項1に係る発明(以下「本願第1補正発明」という。)が記載されていたものとは認められず、本願第1補正発明が、本件出願当初の明細書又は図面に記載した事項から当業者が自明に理解できるものともいえない。
したがって、本件第1補正は、本件出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
(2)本願明細書(本件第1補正後のもの。)の記載では、請求項1に係る発明及びこれを引用する各請求項に係る発明がどのようにして実施されるのか不明であり、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(3)請求項7ないし請求項9に係る発明が明確でなく、また、発明の詳細な説明が、当業者が上記各請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件出願は、特許法第36条第6項第2号及び第4項に規定する要件を満たしていない。

3 特許法第17条の2第3項について
(1)本件第1補正の内容
本件第1補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「 向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、
前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、
前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端と、
前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路と、を備え、前記第1及び第2の光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイドと、
外部からの経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御するスイッチ調節部と、
を含み、前記スイッチ調節部は、フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、前記経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含むことを特徴とするフォトニッククリスタル構造を用いた2×2の光スイッチ装置。」
に補正する内容を含むものである。

(2)本件第3補正の内容
本件第3補正は、本件第3補正前の特許請求の範囲(本件第1補正後のもの。)の請求項7ないし請求項9を削除するものであって、その請求項1ないし請求項6の内容に変更はないものと認められるので、請求項1に係る上記(1)の本件第1補正の内容が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるかについて、以下検討する。

(3)本件第1補正後の請求項1に係る発明
本件第1補正後の請求項1に係る発明(以下「本願第1補正発明」という。)は、上記3(1)のとおりのものであるところ、これを分説すると、次のとおりである。

A 向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、
前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、
前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端と、
B 前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路と、を備え、前記第1及び第2の光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイドと、
C 外部からの経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御するスイッチ調節部と、を含み、
D 前記スイッチ調節部は、フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、前記経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含む
E ことを特徴とするフォトニッククリスタル構造を用いた2×2の光スイッチ装置。

(4)本願出願当初の明細書及び図面の記載内容
ア 本願出願当初の明細書には、
「 【0014】
図1は、本発明にかかる2×2光スイッチ装置の概念図である。同図を参照すると、本2×2光スイッチ装置は、入力端A_(1)、A_(2)、出力端B_(1)、B_(2)、導波路10、20、30、40を備える光ガイド1及びスイッチ調節部100から構成される。・・・」
との記載がある。
また、同じく図1には、略長方形の光ガイド1の向かい合う短辺に、それぞれ、入力端A_(1)及びA_(2)、及び、出力端B_(1)及びB_(2)が設けられ、光ガイド1は、入力端A_(1)と出力端B_(1)とを結ぶ第1の導波路10、第1の入力端A_(1)と第2の出力端_(2)とを結ぶ第2の導波路導波路20、第2の入力端A_(2)と第2の出力端B_(2)とを結ぶ第3の導波路30、第2の入力端A_(2)と第1の出力端B_(1)とを結ぶ第4の導波路40に加えて、スイッチ調節部100を備えた様子が記載されているものと認められる。
なお、図1は、次のとおりのものである。


イ(ア)また、本願出願当初の明細書には、
「 【0016】
スイッチ調節部100は、図2a及び図2bに図示されたように、分割された形態の4つのスイッチ調節セグメント110、120、130、140からなり、それぞれのスイッチ調節セグメント110、120、130、140は4つの導波路10、20、30、40の互いに重ならない4つの領域にそれぞれ配される。図面を参照すると、4つのスイッチ調節セグメントは、第1対110、130及び第2対120、140のように対をなして経路選択制御信号に応じて選択的に動作する。
【0017】
スイッチ調節部100は、入射した第1及び第2の光信号が経路信号選択制御信号に応じて第1の出力端B_(1)あるいは第2の出力端B_(2)のうち相異なる何れか1つをそれぞれ選択して誘導されるようにスイッチングする。つまり、スイッチ調節部100により第1の光信号が第1の出力端B_(1)にスイッチされる際に、第2の光信号は第2の出力端B_(2)にスイッチングされる。一方、スイッチ調節部100によって第1の光信号が第2の出力端B_(2)にスイッチングされる時、第2の光信号は第1の出力端B_(1)にスイッチングされる。
【0018】
図2aのステート1においては、第1対110、130のスイッチ調節セグメントが作動し、第1の入力端A_(1)に入射した第1の光信号は第1の導波路に沿って第1の出力端B_(1)に、第2の入力端A_(2)に入射した第2の光信号は第3の導波路に沿って第2の出力端B_(2)にガイドされているのが示される。
一方、図2bのステート2にては、第2対120、140のスイッチ調節セグメントが作動し、第1の入力端A_(1)に入射した第1の光信号は第2の導波路に沿って第2の出力端B_(2)に、第2の入力端A_(2)に入射した第2の光信号は第4の導波路に沿って第1の出力端B_(1)にガイドされているのが示される。
【0019】
スイッチ調節部100は、PBGの制御が可能なフォトニッククリスタル及び屈折率可変部を備える。
フォトニッククリスタルは、誘電定数が相異なる物質を周期的に配列して電磁気波のエネルギースペクトルにPBGが形成されるようにした人工結晶のことを指し、PBG内に属する波長を有する電磁気波が入射する際、媒質内に電波されず反射されるため効果的な反射ミラーとなる。言い換えれば、一般の結晶が自然状態で原子のオングストローム(angstrom)単位での周期的な配列から得られる自然結晶であれば、フォトニッククリスタルはナノ/マイクロメートル単位(nano/micro meter scale)からバルク(bulk)単位の物質を周期的に配列して得られた人工結晶である。かかるフォトニッククリスタルは光に対して禁止された帯域が存在する構成とすることができ、これをフォトニックバンドギャップまたはPBGで表す。つまり、フォトニッククリスタルは誘電物質を周期的に配列して形成されたものであって、屈折率と周期、周期的な構造の形態に従ってPBGのサイズや位置が可変する。このような特性によりフォトニッククリスタルは分岐フィルター、光導波管、光遅延素子、レーザーなどのような光機能素子に使用される。
【0020】
前述のような特性を有するフォトニッククリスタルを用いた本発明のスイッチ原理を説明すれば次の通りである。フォトニッククリスタルの内部媒質の屈折率を周りの媒質の屈折率と同一に変化させPBGを形成させなかったり、あるいは屈折率を変化させPBGの位置が入力光信号の波長領域から外れるようにすると、フォトニッククリスタルは入射光信号を通過させ、屈折率を変化させなければPBGがそのまま維持されるため、フォトニッククリスタルは入射光信号を反射して通過させないようにすることによってスイッチング効果が得られる。
【0021】
フォトニッククリスタルの内部構成媒質の屈折率を可変する方法には、媒質の温度を可変する方法、媒質に電場を形成させる方法、媒質に光学的な信号を印加する方法及び機械的な方法などがある。
図3は、図2bのスイッチ調節セグメント110を温度によるスイッチ調節する場合の実施形態でより詳細に示す図面である。同図を参照すると、媒質の温度を可変することにより媒質の屈折率を可変する実施形態につき説明する。
【0022】
スイッチ調節セグメント110は、フォトニッククリスタル115、加熱器116a、116b及び温度制御部117を備え、加熱器116a、116bは及び鈍度制御部117は屈折率可変部を備える。
温度制御部117は、経路選択制御信号に対応してフォトニッククリスタル115の内部媒質の温度を可変するための温度制御信号を出力し、前記出力信号に応じて加熱器が作動して前記内部媒質の温度を変化させる。
【0023】
前記フォトニッククリスタル115の内部媒質の温度変化に応じて誘電物質から形成されたフォトニッククリスタル115の内部媒質の屈折率が変化する。フォトニッククリスタルの内部媒質の屈折率を周りの媒質と同一に変化させてPBGを形成させなかったり、屈折率を変化させてPBGの位置が使用する波長から外れるようにすると、フォトニッククリスタルは入射光を通過させ、屈折率を変化させなければPBGがそのまま維持されるため、フォトニッククリスタルは前記PBGに相応する波長領域の入射光を反射する。
【0024】
フォトニッククリスタルの屈折率の制御方法が電場である場合、温度制御部117を電場制御部に、加熱器116a、116bを電極板に置き換えることによって、前述のような効果が得られる。
さらに、フォトニッククリスタルの屈折率の制御方法が光量である場合、温度制御部117を光量制御部に、加熱器116a、116bを光源に置き換えることによって前述のような効果が得られる。」
との記載がある。

(イ)同じく、図2a及び図2bには、略正方形の光スイッチ1の向かい合う2辺の略中央部に各々入力端A_(1)及びA_(2)が、他の向かい合う2辺の略中央部に各々出力端B_(1)及びB_(2)が設けられ、ステート1においては、スイッチ調節セグメント110及び130自体が、第1の入力端A_(1)と第1の出力端B_(1)とを結ぶ第1の導波路10及び第2の入力端A_(2)と第2の出力端B_(2)とを結ぶ第3の導波路30の各々一部を構成し、ステート2においては、スイッチ調節セグメント120及び140自体が第1の入力端A_(1)と第2の出力端_(2)とを結ぶ第2の導波路導波路20及び第2の入力端A_(2)と第1の出力端B_(1)とを結ぶ第4の導波路40の各々一部を構成する様子が示されているものと認められる。
なお、図2a及び図2bは、次のとおりのものである。

a 図2a


b 図2b


(ウ)上記(ア)の記載においては、次の事項が記載されているものと認められる。

a フォトニッククリスタルを用いた光スイッチ装置のスイッチ原理は、フォトニッククリスタルの内部媒質の屈折率を変化させPBG(フォトニックバンドギャップ)を形成させなかったり、PBGの位置が入力光信号の波長領域から外れるようにすると、フォトニッククリスタルは入射光信号を通過させ、屈折率を変化させなければPBGがそのまま維持されるため、フォトニッククリスタルは入射光信号を反射して通過させないようにすることによってスイッチング効果が得られるというものである(【0019】【0020】)。

b スイッチ調節部100は、図2a及び図2bに図示されたように、分割された形態の4つのスイッチ調節セグメント110、120、130、140からなり、それぞれのスイッチ調節セグメント110、120、130、140は4つの導波路10、20、30、40の互いに重ならない4つの領域にそれぞれ配される(【0016】)。

c スイッチ調節部100は、PBGの制御が可能なフォトニッククリスタル及び屈折率可変部を備える(【0019】)。より詳細に説明すると、スイッチ調節セグメント110は、フォトニッククリスタル115及び屈折率可変部を備えており、フォトニッククリスタル115の内部媒質の屈折率を変化させPBGを形成させなかったり、PBGの位置が使用する波長から外れるようにすると、フォトニッククリスタルは入射光を通過させ、屈折率を変化させなければPBGがそのまま維持されるため、フォトニッククリスタルは前記PBGに相応する波長領域の入射光を反射する(【0021】?【0024】)。

d 図2aのステート1においては、第1対110、130のスイッチ調節セグメントが作動し、第1の入力端A_(1)に入射した第1の光信号は第1の導波路に沿って第1の出力端B_(1)に、第2の入力端A_(2)に入射した第2の光信号は第3の導波路に沿って第2の出力端B_(2)にガイドされているのが示される。
一方、図2bのステート2にては、第2対120、140のスイッチ調節セグメントが作動し、第1の入力端A_(1)に入射した第1の光信号は第2の導波路に沿って第2の出力端B_(2)に、第2の入力端A_(2)に入射した第2の光信号は第4の導波路に沿って第1の出力端B_(1)にガイドされているのが示される(【0018】)。

(5)判断
ア 前記(4)アによれば、出願当初の本願明細書及び図1には、「導波路10、20、30、40を備える光ガイド1」に加えて「スイッチ調節部100」を含む2×2光スイッチ装置が記載されているものと認められるが、同図に記載された光スイッチ装置は、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」(構成A)を含むものではなく、前記(4)アの記載をもって、本件出願当初の明細書又は図面に、構成Aないし構成Eを備える本願第1補正発明が記載されていたものということはできない。

イ(ア)上記(4)イ(イ)及び(ウ)に照らすと、図2a及び図2bに示される光ガイド1は、スイッチ調節部100を構成するスイッチ調節セグメント110ないし140が備えるフォトニッククリスタル115の内部媒質の屈折率を変化させてフォトニッククリスタル115が入射光を通過させるようにするものであって、スイッチ調節セグメント110ないし140が備えるフォトニッククリスタル115自体が導波路10ないし40の一部を構成するものと認められる。

(イ)他方、上記(3)によれば、本願第1補正発明は、「スイッチ調節部は、フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、前記経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含む」(構成D)ものであるところ、当該フォトニッククリスタルと第1ないし第4の導波路(構成B)との関係について特定されるところはないから、当該フォトニッククリスタルが第1ないし第4の導波路の一部を構成するものに限られないものと認められる(なお、本件第1補正後の請求項3において、「前記スイッチ調節部は、前記第1及び第3の導波路の内部の一領域に配される第1対のスイッチ調節セグメントと、前記第2及び第4の導波路の内部の一領域に配される第2対のスイッチ調節セグメントとを備え、」とされ、「スイッチ調節部」が「導波路の内部の一領域に配される」ものに特定されていることからみて、本願第1補正発明は、「スイッチ調節部」が「導波路の内部の一領域に配される」ものに限られないことが明らかである。)。
そうすると、本願第1補正発明は、「第1の入力端に入力される第1の光信号を第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路と、を備え、前記第1及び第2の光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイド」(構成B)に加えて、「フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタルの内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含む」(構成D)「外部からの経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御するスイッチ調節部」(構成C)を含む「フォトニッククリスタル構造を用いた2×2の光スイッチ装置」(構成E)であって、かかる光スイッチ装置が、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」(構成A)を含むものであってよいものと解される(むしろ、上記アのとおり、図1に「導波路10、20、30、40を備える光ガイド1」に加えて「スイッチ調節部100」を含む2×2光スイッチ装置が記載されていることに照らすと、請求項1の記載からは、構成Bの「第1ないし第4の導波路」に加えて、構成D及び構成Cの「スイッチ調節部」を含む「2×2光スイッチ装置」が想定されるところである。)。

(ウ)しかるに、図2a及び図2bに示される光ガイド1は、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」(構成A)を備えるものであるとしても、「第1の入力端に入力される第1の光信号を第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路と、を備え、前記第1及び第2の光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイド」(構成B)に加えて、「フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタルの内部構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含む」(構成D)「スイッチ調節部」(構成C)を含む「2×2光スイッチ装置」(構成E)を示すものとは認められない。
したがって、前記(4)イ(ア)(イ)の記載をもって、本件出願当初の明細書又は図面に、「フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタル」が第1ないし第4の導波路の一部を構成するものに限られない、構成Aないし構成Eを備える本願第1補正発明が記載されていたものということはできない。

ウ 上記ア及びイによれば、本件出願当初の明細書又は図面に、「フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタル」が第1ないし第4の導波路の一部を構成するものに限られない、構成Aないし構成Eを備える本願第1補正発明が記載されていたものとは認められず、本願第1補正発明が、本件出願当初の明細書又は図面に記載した事項から当業者が自明に理解できるものともいえない。

(6)小括
以上の検討によれば、前記(1)の内容を含む本件第1補正は、本件出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、その内容は、本件第3補正に到っても変更はないから、本件第1補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

4 特許法第29条第2項について
(1)本願発明
本件第3補正後の明細書及び図面の記載からみて、その請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「 向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、
前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、
前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端と、
前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路と、を備え、前記第1及び第2の光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイドと、
外部からの経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御するスイッチ調節部と、
を含み、前記スイッチ調節部は、フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、前記経路選択制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含むことを特徴とするフォトニッククリスタル構造を用いた2×2の光スイッチ装置。」(以下「本願発明」という。なお、前記3(2)のとおり、本件第3補正は、本件第1補正後の請求項1の内容を変更するものではなく、「本願発明」は「本願第1補正発明」と同一内容のものである。)

(2)刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用した、特開2002-131715号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。

「【0024】
【課題を解決するための手段】本発明は、固体材料よりなる電気光学基板中に形成された固体材料よりなるフォトニック結晶の両面に電極を配置して、これに電圧を印加することにより、電極で挟まれた領域のフォトニック結晶領域の基板の屈折率を変化させることにより光デバイスを実現するものである。
【0025】
【発明の実施の形態】従来技術は、フォトニック結晶の形状を機械的あるいは化学的に変えて、必要とされるフォトニックバンドを有するフォトニック結晶を作成していた。このため、従来技術により複雑な形状の光導波路からなる光集積回路を作成する場合、工程が複雑となるという問題点があった。
【0026】ところで、フォトニックバンド構造は、フォトニック結晶の母体となる材料の屈折率によっても変化する。これは、材料の屈折率が材料中を進行する光の波長に影響することから容易に理解できる。
【0027】そこで、本発明では、フォトニック結晶の両面に電極を配置して電圧を加えることにより、フォトニック結晶領域の基板の屈折率が、電気光学効果により変化させるようにするものであるから、一方の電極を共通電極としてフォトニック結晶を形成する基板の一つの面の全面に設け、他の電極をフォトニック結晶を形成する基板の他の面上に光デバイスに対応するパターンとして形成することにより、任意の光デバイスデバイスを容易に得ることができる。以下、全面に設けた電極を第1の電極、光デバイスに対応するパターンとして形成された電極を第2の電極ということにする。
【0028】本発明では、第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加することにより、第2の電極が設置してある2次元フォトニック結晶領域のフォトニックバンド構造を電気光学効果により変化させることができる。
【0029】第2の電極は、半導体素子作成に用いられるフォトリソグラフィー技術を用いて任意の形状にパターン形成できる。したがって本発明では、第2の電極形状を適宜設定することにより、光集積回路に必要なフォトニックバンド及び形状を有するフォトニック結晶を、電気光学効果により形成できる。
【0030】例えば、本発明により、光導波路として作用することを特徴とする光デバイスを作成することができる。このデバイスは、第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加した場合に、第2の電極が設置してある2次元フォトニック結晶領域のフォトニックバンドギャップが変化することを利用したものであり、電圧印加時に導波光が第2の電極が設置してある部分のみを透過するようにフォトニックバンドギャップを変化させることにより実現される。
【0031】この場合の光導波路形状は、第2の電極形状となるので、本発明によれば任意形状の光導波路を形成することができる。例えば、第2の電極形状を、直線形、L字形、S字形、およびT形とした場合には、それぞれ直線形、L字形、S字形、およびT字形の導波路が形成される。なお、本発明による光導波路では、フォトニック結晶導波路に特有な急峻曲がり導波が可能であり、導波光の進路を90度曲げることができる。
・・・
【0033】本発明によれば、電気光学スイッチとして作用する光デバイスを作成できる。本発明による上記導波路デバイスは、第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加した場合にのみ形成されるので、印加電圧を0とした場合には、導波路は消滅する。このように本発明の光導波路は、フォトニック結晶に電圧を印加した場合にのみ光を透過する電気光学スイッチとして作用する。
【0034】さらに、本発明によれば、光導波路および電気光学スイッチからなる光集積回路として作用することを特徴とする光デバイスを作成できる。この光デバイスは、電極上の単一の2次元フォトニック結晶表面上に複数の独立した第2のを連続的に設置し、第1と第2の電極の間に電圧を印加した場合に形成される光導波路の1部分が電気光学スイッチとして作用するようにすることにより実現される。
・・・
【0036】さらに、本発明によれば、交差型光スイッチとして作用することを特徴とする光デバイスを提供できる。このデバイスは、上記光導波路形成法により交差型光回路を形成し、交差部分のフォトニックバンドギャップを変化できるようにすることにより実現される。・・・
【0053】・・・
(第2の実施例)図9は直線型光導波路として作用する本発明の光デバイスの実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、5は第2の電極である。本実施例では、直線状の電極5を用いた。電極5の幅は空孔3の配列周期aの2倍よりやや大きくした。すなわち、本実施例で構成される導波路に導入される光の波長よりやや長いものとした。以下の実施例でも同様とする。電極1、5間の電圧印加により2次元フォトニック結晶領域4の内、電極5で覆われた領域は修飾された2次元フォトニック結晶領域となる。電極1、5間に電圧を印加することにより、修飾された2次元フォトニック結晶領域の屈折率が電気光学効果により増大するようにした。11と12は光ファイバーであり、それぞれが電気光学基板2の端面で、電極5で覆われた領域の部分と光学的に接続されるようにした。
・・・
【0055】電極1、5間に電圧を印加せずに、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を電極5で覆われた領域の電気光学基板2の端面に入射すると、入射光はフォトニックバンドギャップ中の光であるので(図3(a)参照)2次元フォトニック結晶領域4を透過できず、光ファイバー12へ光は出力されない。一方、電極1、5間に電圧Vを印加した場合、修飾された2次元フォトニック結晶領域のフォトニックバンド構造は図3(b)となるので、入射光は修飾された2次元フォトニック結晶領域を透過できるようになる。修飾された2次元フォトニック結晶領域を除く2次元フォトニック結晶領域4の部分のフォトニックバンド構造は印加電圧に関係なく図3(a)である。このため、入射光は修飾された2次元フォトニック結晶領域を除く2次元フォトニック結晶領域4に進行できず、修飾された2次元フォトニック結晶領域内部を導波して光ファイバー12へと出力される。このように、本実施例は、電極1、5間に電圧Vを印加した場合、直線型光導波路として作用する。
【0056】これに対して、電極1、5間に電圧を印加しない場合、本実施例は導波路として作用しない。従って、本実施例は、電極1、5間の電圧により6の光の透過状態をコントロールすることができる。即ち、電極1、5間に電圧を印加しない場合、光ファイバー11と光ファイバー12は光学的に接続されないが、電極1、5間に電圧Vを印加した場合には、光ファイバー11と光ファイバー12は修飾された2次元フォトニック結晶領域により光学的に接続される。このように、本実施例は、電極1、5間の電圧を変化させることにより、電気光学スイッチとして作用する。
・・・
(第3の実施例)図10はL字型光導波路として作用する本発明の実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、5は第2の電極である。本実施例3では、電極5をL字型とした点において実施例2と異なるのみで、他は同じである。本実施例でも、電極1、5に電圧が印加されると、2次元フォトニック結晶領域4の内、電極5に覆われた部分は修飾された2次元フォトニック結晶領域となり、第2の実施例と同様に、光ファイバー11から入射された光は光ファイバー12に出力される。このように、本実施例はL字型急峻導波路として作用し、フォトニック結晶構造の光導波路に特徴的な急峻曲がり導波が可能である。
【0058】電極1、5間に電圧を印加しない場合には、第2の実施例同様、本実施例3は光導波路として作用しない。従って本実施例3は、電極1、5間の電圧を変化させることにより、光ファイバー11と光ファイバー12の間の光学的接続状態を変えることができ、電気光学スイッチとして作用する。
(第4の実施例)図11はS字型光導波路として作用する本発明の実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、5は第2の電極である。本実施例4では、電極5をS字型とした点において実施例2、3と異なるのみで、他は同じである。
・・・
【0060】第2、3の実施例同様、本実施例は光導波路として作用する。即ち、電極1、5間に電圧Vを印加して、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を入射させると、入射光は修飾された2次元フォトニック結晶領域を導波して光ファイバー12へと出力される。このように、本実施例は、フォトニック結晶構造の光導波路に特徴的な急峻曲がり導波を利用するS字型急峻導波路として作用する。
【0061】一方、電極1、5間に電圧を印加しない場合には、第2、3の実施例同様、本実施例は導波路として作用しない。従って本実施例4は、電極1、5間の電圧を変化させることにより、光ファイバー11と光ファイバー12の間の光学的接続状態を変えることができ、電気光学スイッチとして作用する。
(第5の実施例)図12はT字型光導波路として作用する本発明の実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、5は第2の電極である。本実施例5では、電極5をT字型とした点において実施例2-4と異なるのみで、他は同じである。
・・・
【0063】第2-4の実施例同様、本実施例は光導波路として作用する。即ち、電極1、5間に電圧Vを印加して、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を入射させると、入射光は修飾された2次元フォトニック結晶領域を導波し、T字交差部で分岐されて光ファイバー12、13へと出力される。このように、本実施例は、フォトニック結晶構造の光導波路に特徴的な急峻曲がり導波を利用するT字型急峻導波路として作用する。
【0064】一方、電極1、5間に電圧を印加しない場合には、第2-4の実施例同様、本実施例は導波路として作用しない。従って本実施例5は、電極1、5間の電圧を変化させることにより、光ファイバー11と光ファイバー12、13の間の光学的接続状態を変えることができ、電気光学スイッチとして作用する。
【0065】上述した第2?5の実施例で示したように、本発明は、2次元フォトニック結晶4中に第2の電極形状に対応した光導波路を形成でき、形成された導波路は電気光学スイッチとして動作可能である。本発明によれば、第2の電極形状を適宜変えることにより、任意形状のフォトニック結晶導波路及び電気光学スイッチを作成でき、複雑な光集積回路を作ることができる。
(第6の実施例)図13は、光導波路および電気光学スイッチからなる光集積回路として作用する本発明の実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、5および14は第2の電極である。本実施例6では、第2の電極を電極5と電極14に分割し、両者を間隔dだけ離して配置した点において実施例2-5と異なるのみで、他は同じである。・・・ここで、電極5と電極14の間隔dを2次元フォトニック結晶領域4の空孔周期aよりも小さくするとともに、その位置に2次元フォトニック結晶を形成する空孔3を含まないようにして、この領域が光を散乱あるいは反射しないようにされている。
【0066】本実施例6では、光ファイバー11-13が実施例5と同様に設けられているが、電極5と電極14とは分離されるとともに、これに加えられる電圧は独立して制御される。従って、光ファイバー11、12間は、電極1、5間に電圧Vを印加することにより、修飾された2次元フォトニック結晶領域を介して導波されるが、光ファイバー11、13間は、これだけでは、電極14に対応する領域が修飾された2次元フォトニック結晶領域とならないので、導波されない。電極1と電極5、及び電極1と電極14の間にともに電圧Vを印加し、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を、修飾された2次元フォトニック結晶領域に入射すると、入射光はこの領域を導波され、電極5のT字部で分岐され、光ファイバー12へ導かれるとともに、光ファイバー13へも導かれる。
【0067】このように、本実施例6は、電極5と電極14にかける電圧を独立に制御することにより、光ファイバー11から導入された光の透過を光ファイバー12のみ、あるいは光ファイバー12と13の両方のいずれかに制御することができる電気光学スイッチおよび光導波路からなる光集積回路として機能させることができる。・・・
【0068】・・・
(第8の実施例)図15は、交差型光スイッチとして作用する本発明の実施例の上面側から見た斜視図である。1は第1の電極、2は電気光学基板、3は空孔、4は電気光学基板2中の2次元フォトニック結晶領域、51,52は第2の電極、18は第3の電極である。本実施例8では、第2の電極を底部が対向したV字型の電極51,52に分割し、第3の電極18をV字型の電極51,52の対向した底部の間にそれぞれ間隔dだけ離して配置したこと、およびV字型の電極51,52の端部に光を授受するための光ファイバーを配置したことにおいて実施例2-6と異なるのみで、他は同じである。電極51,52に印加される電圧と電極18に印加される電圧は独立に制御される。ここで、電極51,52と電極18の間隔dを2次元フォトニック結晶領域4の空孔周期aよりも小さくするとともに、その位置に2次元フォトニック結晶を形成する空孔3を含まないようにして、この領域が光を散乱あるいは反射しないようにされていることは実施例6と同じである。
【0069】本実施例8においても、V字型電極5で覆われた領域は、電極1、51間、電極1、52間に電圧を印加されると、修飾された2次元フォトニック結晶領域となる。2次元フォトニック結晶領域4のフォトニックバンド構造および電圧印加による修飾された2次元フォトニック結晶領域のフォトニックバンド構造は、第1の実施例の場合と同じである(図3、4参照)。実施例2-6と同様、本実施例でも、修飾された2次元フォトニック結晶領域は光導波路として作用する。即ち、電極1、51間に電圧Vを印加して、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を入射させると、入射光は修飾された2次元フォトニック結晶領域を導波して光ファイバー12へと出力される。
【0070】ところで、本実施例8では、V字型の電極51,52の対向した底部の間には第3の電極18をそれぞれ間隔dだけ離して配置するとともに、電極51,52に印加される電圧と電極18に印加される電圧は独立に制御されるものとしたので、電極1、51間、電極1、52間にのみ電圧を印加して光ファイバー11により光エネルギーがAの光を入射させても、この光は光ファイバー12に導波されるのみである。なぜなら、電極18には電圧が印加されていないから、電極18に対応する2次元フォトニック結晶領域は、修飾された2次元フォトニック結晶領域とはならず、光導波路として機能しない。それゆえ、V字型の電極51に対応する2次元フォトニック結晶領域が、修飾された2次元フォトニック結晶領域となって光を導波しても、電極18に対応する2次元フォトニック結晶領域で、この光は阻止されてしまい、V字型の電極52に対応する修飾された2次元フォトニック結晶領域には伝播されないからである。
【0071】一方、電極1、51間、電極1、52間に電圧を印加するとともに、電極1、18間にも電圧Vを印加した場合には、電極51、電極52に対応する2次元フォトニック結晶領域が、修飾された2次元フォトニック結晶領域になるとともに、電極18に対応する領域も修飾された2次元フォトニック結晶領域になる。したがって、光ファイバー11により光エネルギーがAの光を入射されると、入射光は電極18に対応する領域を導波されて光ファイバー13、17に出力されることになる。
【0072】この機能は可逆的であり、光ファイバー13から光エネルギーがAの光が入射される場合においても同様である。すなわち、電極1、51間、電極1、52間にのみ電圧を印加した場合には、入射光は光ファイバー17にのみ伝播され、電極1、51間、電極1、52間に電圧を印加するとともに、電極1、18間にも電圧Vを印加した場合には、入射光は光ファイバー11、12にも伝播される。
【0073】このように、本実施例8は、電極1、18間への電圧印加を制御することにより光の出力状態を変化させることができ、バー状態、クロス状態を選択できる交差型光スイッチとして機能させることができる。・・・」

(3)引用発明
上記(2)によれば、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。

「固体材料よりなる電気光学基板中に形成された固体材料よりなるフォトニック結晶の一つの面の全面に第1の電極を、他の面に任意の形状の第2の電極を配置して、第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加した場合に、電極で挟まれた領域のフォトニック結晶領域の基板の屈折率を変化させて、電気光学基板2の端面に入射した入射光が第2の電極が設置してある部分を透過して出力される光導波路として作用するようにし、印加電圧を0とした場合に、フォトニックバンドギャップ中の光である入射光はフォトニック結晶領域を透過できないようにすることにより、電気光学スイッチとして作用する光デバイス。」(以下「引用発明」という。)

(4)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明は「固体材料よりなるフォトニック結晶」が「固体材料よりなる電気光学基板中に形成された」ものであって、「電気光学スイッチとして作用する光デバイス」であるから、「フォトニッククリスタル構造を用いた光スイッチ」である点において、本願発明と一致する。

b 引用発明は「電気光学基板2の端面に入射した入射光が第2の電極が設置してある部分を透過して出力される」光スイッチであるから、入力端及び出力端を備えることが明らかであり、入力端及び出力端を備える点において、本願発明と一致する。

c 引用発明は「固体材料よりなるフォトニック結晶」が「固体材料よりなる電気光学基板中に形成された」ものであって、「第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加した場合に、電極で挟まれた領域のフォトニック結晶領域の基板の屈折率を変化させて、電気光学基板2の端面に入射した入射光が第2の電極が設置してある部分を透過して出力される光導波路として作用する」ものであるから、入力端に入力される光信号を出力端にガイドする導波路を備えるフォトニッククリスタル光ガイドである点において、本願発明と一致する。
そして、引用発明の「入射光」は、「フォトニックバンドギャップ中の光である」から、引用発明は、「光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有する」点において、本願発明と一致する。

d 引用発明は「第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加した場合に、電極で挟まれた領域のフォトニック結晶領域の基板の屈折率を変化させて、電気光学基板2の端面に入射した入射光が第2の電極が設置してある部分を透過して出力される光導波路として作用する」ものであるところ、電圧の印加は外部からの制御信号に応じたものであることは明らかであるから、引用発明は、「外部からの制御信号に応じて光信号が導波路の経路を介してガイドされるように制御するスイッチ調節部」を備える点において、本願発明と一致する。
そして、引用発明の「電極で挟まれた領域のフォトニック結晶領域」は、本願発明の「フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタル」に相当し、引用発明の「第1の電極と第2の電極」は、「制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部」である点において、本願発明の「屈折率可変部」と一致する。

e 以上によれば、両者は、
「 入力端と、
出力端と、
入力端に入力される光信号を出力端にガイドする導波路と、を備え、前記光信号の波長帯域にて完全フォトニックバンドギャップを有するフォトニッククリスタル光ガイドと、
外部からの制御信号に応じて前記光信号が前記導波路の経路を介してガイドされるように制御するスイッチ調節部と、
を含み、前記スイッチ調節部は、フォトニックバンドギャップ(photonic band gap)の制御が可能なフォトニッククリスタルと、前記制御信号に対応して前記フォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変する屈折率可変部とを含むことを特徴とするフォトニッククリスタル構造を用いた光スイッチ装置。」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

本願発明は、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」と、「前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路」とを備える「2×2の光スイッチ装置」であり、これに相応して、「スイッチ調節部」の制御信号が「経路選択」制御信号であって、「スイッチ調節部」は、「経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御する」ものであり、また、「スイッチ制御部」の「屈折率制御部」は、「経路選択」制御信号に対応してフォトニッククリスタル内部の構成媒質の屈折率を可変するものであるのに対し、引用発明は、光スイッチ装置であるが、本願発明のような入力端及び出力端と導波路とを備える「2×2」の光スイッチ装置ではなく、スイッチ調節部も「経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御する」ものでない点(以下「相違点」という。)。

(5)相違点についての判断
ア 「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」と、「前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路」とを備える「2×2の光スイッチ装置」は、本願の優先日当時に周知の技術である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用した、特開平6-18795号公報の【0006】?【0009】並びに図1及び図2、同じく特開平5-232390号公報の【0008】?【0012】及び図1?図3を参照。)
そうすると、引用発明に係る光スイッチを、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」と、「前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第1の出力端にガイドする第1の導波路と、前記第1の入力端に入力される第1の光信号を前記第2の出力端にガイドする第2の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第2の出力端にガイドする第3の導波路と、前記第2の入力端に入力される第2の光信号を前記第1の出力端にガイドする第4の導波路」とを備える「2×2の光スイッチ装置」とすることは、上記周知技術に基づいて当業者が適宜なし得る程度のことである。

イ しかるところ、引用発明において、第2の電極は任意の形状のものであり、引用発明が、第1の電極と第2の電極の間に電圧を印加する場合と印加電圧が0の場合とで、第2の電極が設置してある部分のフォトニック結晶領域を光導波路としたり、入射光が透過できないようにするものであることに照らすと、引用発明に係る光スイッチを、上記「2×2の光スイッチ装置」とする際に、第2の電極を適宜の形状のものとして、「スイッチ調節部」の制御信号を「経路選択」制御信号とし、「スイッチ調節部」が、「経路選択制御信号に応じて前記第1及び第2の光信号がそれぞれ前記第1及び第3の導波路の経路と、それぞれ前記第2及び第4の導波路の経路のうち何れか1つの経路とを介してガイドされるように制御する」ようになすことは、格別の困難性を要することなく、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。

ウ したがって、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

エ そして、前記相違点に係る本願発明の構成により生じる作用効果について検討するに、本願明細書には、入力端及び出力端の位置を本願発明のごとく定めることの技術的意義は何ら記載されておらず、「向かい合う所に位置する第1の入力端及び第2の入力端と、前記第1の入力端及び第2の入力端の間に位置する第1の出力端と、前記第1の出力端と向かい合う所に位置する第2の出力端」との間で光信号をガイドする導波路を切り替える「2×2の光スイッチ装置」として作用する点で、引用発明において生じる作用との相違が認められるものの、本願発明における、入力端及び出力端の位置及び第1ないし第4の導波路の構成は、上記周知技術と異なるものではなく、上記のような「2×2の光スイッチ装置」として作用する点は、上記周知技術においても同様であるから、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(6)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおり、本件第1補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
また、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2008-10-28 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願2003-385573(P2003-385573)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
P 1 8・ 55- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三橋 健二早川 貴之  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 西村 直史
稲積 義登
発明の名称 フォトニッククリスタルの構造を用いた2×2光スイッチ装置  
代理人 稲積 朋子  
代理人 小野 由己男  

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