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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01R
管理番号 1195282
審判番号 無効2006-80222  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-31 
確定日 2009-04-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3279294号発明「半導体装置のテスト方法、半導体装置のテスト用プローブ針とその製造方法およびそのプローブ針を備えたプローブカード」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第3279294号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成11年8月27日(優先日平成10年8月31日)に出願され、平成14年2月22日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

2 1次無効審判(無効2004-80105号)
審判請求日:平成16年7月16日
審判請求の趣旨:「本件特許の請求項2、3及び7に係る特許を無効とする。」(特許法第29条第2項違反)
訂正請求日:平成16年10月4日
審決日:平成17年4月18日
審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」
1次審決取消訴訟提起日:平成17年5月27日(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10503号、請求の趣旨:「特許庁が無効2004-80105号事件について平成17年4月18日にした審決を取り消す。」)
1次判決:判決言渡日平成18年3月1日、判決主文「原告の請求を棄却する。」
上告受理申立て:平成18年3月13日
上告審決定:決定日平成18年6月20日、決定主文「本件を上告審として受理しない。」

3 2次無効審判(無効2005-80177号)
審判請求日:平成17年6月7日
審判請求の趣旨:「本件特許の請求項2及び3に係る特許を無効とする。」(特許法第36条第6項第1号および第2号違反)
審決日:平成18年12月22日
審決の結論:「本件審判の請求は、成り立たない。」
2次審決取消訴訟提起日:平成19年1月17日(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10024号、請求の趣旨:「特許庁が無効2005-80177号事件について平成18年12月22日にした審決を取り消す。」)
2次判決:判決言渡日平成19年10月30日、判決主文「原告の請求を棄却する。」(その後、2次判決は確定した。)

4 本件無効審判(無効2006-80222号)
審判請求日:平成18年10月31日
請求の趣旨:「本件特許の請求項2、3及び7に係る特許を無効とする。」(平成14年改正前特許法第36条第4項違反)
答弁書提出:平成19年1月22日
弁駁書提出:平成19年3月14日
請求人上申書提出:平成19年3月26日

第2 本件特許の請求項2、3及び7に係る発明
本件特許の請求項2、3及び7に係る発明(以下、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明7」という。)は、上記1次無効審判請求手続における訂正請求により訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項2、3及び7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針は側面部と先端部から構成され、上記先端部は球状の曲面であり、上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、 表面粗さを0.4μm以下としたことを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針。
【請求項3】先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針の先端部の形状は,上記押圧による電極パッドとの接触により当該電極パッドにせん断を発生させる球状曲面形状であって、かつ、表面粗さは0.4μm以下であることを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針。
【請求項7】複数のプローブ針を上下動して、半導体装置の電極パッドに当接させ、上記半導体装置をテストするプローブカードにおいて、上記プローブ針は、請求項2乃至5のいずれかに記載の半導体装置のテスト用プローブ針であることを特徴とするプローブカード。」

第3 請求人の主張の概要
1 請求人の主張する無効理由:特許法第36条第4項第1号違反
(1)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、半導体装置のテスト用プローブ針の、
i)先端部の球状の曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、
ii)表面粗さを0.4μm以下、
としたことによって、
「コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」(段落【0057】)
という効果を奏するとされる発明であるが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、上記効果を確認することができず、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、半導体装置のテスト用プローブ針の、
i)先端部の形状を球状曲面形状とし、かつ、
ii)表面粗さを0.4μm以下、
としたことによって、
「凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」(段落【0060】)
という効果を奏するとされる発明であるが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、上記効果を確認することができず、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(3)請求項7に係る発明について
請求項7に係る発明は、請求項2及び請求項3を引用するものであり、請求項2及び請求項3について述べたと同じ理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、少なくとも、請求項2又は請求項3を引用する部分において、請求項7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(4)証拠方法
甲第1号証:無効2004-80105(1次無効)の審決公報
甲第2号証:平成17年(行ケ)第10503号判決(1次判決)
甲第3号証:平成13年12月27日付け意見書
甲第4号証:平成16年10月4日付けの無効審判答弁書(1次無効)
甲第5号証:「広辞苑 第5版」1455頁『ずれ』の項目、1526頁『せんだん』の項目
甲第6号証:「金属塑性加工学」丸善株式会社発行、昭和46年6月25日、4?11頁
甲第7号証:特開2000-147004号公報(本件特許に係る出願公開公報)
甲第8号証:実験報告書(株式会社日本マイクロニクス PB技術統括部杉山正 作成)
甲第9号証:平成18年(ワ)第19307号 特許権侵害損害賠償等請求事件訴状
参考資料1:特開平5-273237号公報
参考資料2:特開平6-61316号公報
参考資料3:特開平7-637858号公報
参考資料4:特開平8-152436号公報
参考資料5:特開平8-166407号公報
参考図1?2
以下は、弁駁書で追加された証拠
甲第10号証:江口光一氏による「解説資料 プロービングとワイヤボンディング」
甲第11号証:「プローブライト社 プローブカード技術」フジアドバンス株式会社
甲第12号証:東芝マイクロエレクトロニクス株式会社の証明書「(株)日本マイクロニクス様向け評価用ベタウエハ断面構造図」
以下は、平成19年3月26日付け上申書で追加された証拠
甲第13号証:実験報告書(株式会社日本マイクロニクス PB技術統括部杉山正 作成)

2 請求人の主張の要点
(1)請求項2に係る発明について
ア 請求項2に係る発明の奏する効果
請求項2に係る発明は、適用される半導体装置の電極パッドの厚さにかかわらず、「コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」という効果を奏するとされる発明であると解される。
イ 効果を確認することができない理由
(ア)電極パッドの厚さが約0.8μmの場合
a 本件明細書段落【0041】及び図7に示された試験
(a)本件明細書段落【0041】には、「・・・電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えて同様の試験をした結果を図7に示すが、7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである。」と、プローブ針の曲率半径が「10≦r≦20μm」の範囲で、コンタクト寿命において好ましい結果が得られたことが記載されている。
(b)しかし、段落【0041】には、針圧及び試験に用いたプローブ針の先端部の表面粗さについて記載がなく、当業者は、表面粗さがいくらのプローブ針を用い、いくらの針圧をかけて試験が行われたのか知ることができない。
(c)したがって、当業者は、段落【0041】に記載された試験を追試して、曲率半径が「10≦r≦20μm」の範囲で、本件明細書の図7に示されるようなコンタクト回数を得ることができるのかどうかを確認することができない。
b 本件明細書段落【0045】及び図8に記載された試験
(a)本件明細書段落【0045】には、「・・・電極パッドの厚さ約0.8μmのDRAMに対して先端の曲率半径15μmのプローブ針を用いて試験をした結果」、表面粗さが「0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことがで」きることがわかった」ことが記載され、「これはプローブ針の先端に酸化物が付着しにくくなったためと推察」できること、また、「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」ことが記載されている。
(b)ここで、「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」との記載は、「電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えた場合にも、ほぼ同様の結果が得られた」ことを意味するものと解される。
(c)しかしながら、本件明細書の「実施の形態1」に記載されている曲率半径rの範囲としては、次のとおり5種類があり得るから、「電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えた場合」が、曲率半径rを「10≦r≦20μm」の範囲で変えた場合であると一義的に解釈することはできず、上記「実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」との記載に基づいて、本件第2発明の効果を確認することはできない。
i) 6t≦r≦30t(段落【0029】)
電極パッドtの厚さ約0.8μmの場合、4.8μm≦r≦24μmとなる。
ii) 8t≦r≦23t(段落【0029】)
電極パッドtの厚さ約0.8μmの場合、6.4μm≦r≦18.4μmとなる。
iii)7?30μm(段落【0041】)
iv) 10?20μm(段落【0041】)
v) 9t≦r1≦35t(段落【0042】)
電極パッドtの厚さ約0.8μmの場合、7.2μm≦r≦28μmとなる。
c 被請求人の意見書における主張
(a)被請求人は、平成13年10月23日付けの拒絶理由通知書に対する平成13年12月27日付け意見書(甲3号証)において、「参考図1」を提示して以下の主張を行った。
「また、本願発明の請求項3に係る発明は、上述のようなせん断変形を起こすプローブ針であり、先端の表面粗さが極小さいものであります。この表面粗さは、電極パッド厚さに比べ小さい必要があり、例えば本書に添付した【参考図1】に示すように、電極パッド厚さが0.8μm程度であると、半分以下の0.4μm以下の表面粗さを備えたプローブ針でなければ、せん断を起こせないことになります。この事実は出願当初の明細書の段落【0045】の記載、および【図8】により充分証明されています。」
(b)被請求人の上記主張によれば、本件明細書段落【0045】及び図8に示された試験結果は、厚さが約0.8μm程度の電極パッドに対しては、表面粗さが0.4μm以下のプローブ針でないと「せん断」を起こすことができないという事実を示すものでしかない。
よって、本件明細書の図8に示されるとおり、接触抵抗が1Ωを越えるコンタクト回数が表面粗さが0.4μm程度以下で急激に増えたとしても、それは、プローブ針の表面粗さを0.4μm程度以下とすることによって、電極パッドの「せん断」が起こるようになったことに起因するのであって、段落【0045】に記載されている「プローブ針の先端に酸化物が付着しにくくなったため」とはいえない。
(c)したがって、段落【0045】及び図8に示された試験結果は、プローブ針の先端部の曲率半径rを「10≦r≦20μm」とすることによって、「コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる」(段落【0057】)という請求項2に係る発明の効果を証明するものとはいえない。
(イ)電極パッドの厚さが約0.8μm以外の場合
a(a)本件明細書段落【0045】及び図8に示された試験は、「電極パッドの厚さ約0.8μmのDRAM」を用いて行われた試験ではあるが、「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた。」(段落【0045】)と記載されている。
(b)そして、この記載は、「電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えた場合のほかに、電極パッドの厚さを変えるとともにそれに応じて曲率半径を変化させた場合においても、表面粗さが0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことができるという結果が得られたことを意味する」ということができる(平成17年(行ケ)第10503号知財高裁判決(甲2号証)19頁下から2行?20頁5行)。
そして、「電極パッドの厚さを変えるとともにそれに応じて曲率半径を変化させた場合」とは、本件明細書【0042】に記載された「9t≦r1≦35t」という関係式に基づいて、電極パッドの厚さtに応じて、曲率半径rを変化させた場合のことを意味すると解するのが相当である(甲2号証の19頁16?18行)。
b(a)一方、電極パッドの厚さtに関して、本件明細書の「実施の形態1」には、「・・・DRAM等の一般的なロジック系集積半導体装置では厚さ0.8μm程度のAl-Cu膜である。電力用等特殊用途の半導体装置では、パッド厚さが2?3μmのものもある。・・・」(段落【0025】)との記載があり、それ以外のパッド厚さについての記載はないから、電極パッドの厚さtに関して、実施の形態1で示した範囲内は0.8μmから3μmまでの範囲と考えるのが妥当である。
(b)電極パッドの厚さtが0.8μmを超えて1μm、2μm又は3μmと電極パッドの厚さtを変化させた場合を想定すると、それぞれの場合における曲率半径rの範囲は、「9t≦r1≦35t」という関係式に基づけば、それぞれ以下のとおりとなる。
i) t=1μmの場合9μm≦r≦35μm
ii) t=2μmの場合18μm≦r≦70μm
iii)t=3μmの場合27μm≦r≦105μm
(c)上記いずれの場合も、曲率半径rの範囲は、本件第2発明の「10≦r≦20μm」の範囲とはかけ離れており、これらの場合において、仮に「表面粗さが0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことができるという結果が得られた」としても、それは、請求項2に係る発明の効果を裏付けるものではない。
c さらに、電極パッドの厚さtが0.8μm以外の場合については、本件明細書【0041】及び図7に示される試験に対応する試験の結果が本件明細書には全く記載されていないので、電極パッドの厚さtが「0.8μm」以外の場合において、(i)先端部の球状の曲面の曲率半径rを10≦r≦20μmとすることに加えて(ii)表面粗さを0.4μm以下としたことによって、「コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」(段落【0057】)という請求項に係る発明の効果が得られるかどうかを、発明の詳細な説明の記載に基づいて確認することは、到底できるものではない。
(ウ)検証試験
a 請求人は、段落【0041】及び図7に示された試験、及び、段落【0045】及び図8に記載ないしは示された試験を再現することができるかを検証すべく、検証試験を行ったので、その結果を実験報告書(甲8号証)として提出する。
b(a)検証試験は、先端部の曲率半径r及び表面粗さをそれぞれ異ならせた60本の試験用プローブ針を製造し、これらの試験用プローブ針を、実際に、電極パッドに相当する層としてAl-Cuを0.8μmの膜厚で蒸着したウエハに繰り返しコンタクトさせ、個々のプローブ針と電極パッドに相当するAl-Cu層間の接触抵抗を測定して、本件明細書の図7及び図8における試験と同様に、接触抵抗が1Ωを超えるまでのコンタクト回数をコンタクト寿命として求めることによって行われた。
(b)検証試験において被告が用いたウエハには,酸化シリコンとAl-Cuの蒸着膜との間に、阻止金属の層、具体的にはチタンの層が存在した。
(c)検証試験では、個々のプローブ針先端の表面粗さとして、本件明細書でいう表面粗さであるとされる最大高さではなく、十点平均粗さの値が用いられているが、これは被告が所有している実験設備(走査レーザー顕微鏡)の性能上の制約によるものである。
最大高さと十点平均粗さとの間には、一般に、最大高さが十点平均粗さの1.8倍を超えることはないとの関係があるから、表面粗さとして十点平均粗さを用いた乙31試験の結果によっても、本件明細書の図7及び図8に示された試験結果についての再現性の可否を検証することができる。
c(a)本件明細書段落【0041】及び図7に示される試験に対応するものとしては、実験報告書(甲8)の図5に示す結果が得られた。実験報告書(甲8)の図5に示すとおり、曲率半径rが、例えば約15μm?約20μmの範囲にあっても、コンタクト寿命は約6万回、約16万回、20万回以上と大きくばらついており、また、曲率半径rが25μmを超えても、コンタクト寿命が20万回を超えるプローブ針が存在し、プローブ針先端部の曲率半径rとコンタクト寿命との間に有意な相関関係は認められなかった。
(b)実験報告書(甲8)の図7は、図5に示した結果を、プローブ針の先端部の表面粗さの範囲別に色分けして示した図であるが、表面粗さを加味しても、プローブ針先端部の曲率半径rとコンタクト寿命との間に有意な相関関係は認められなかった。
(c)検証試験では、本件明細書段落【0041】及び図7に示された「7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである」との結果は、傾向としてすらも確認することができなかった。
d(a)本件明細書段落【0045】及び図8に示される試験に対応するものとしては、実験報告書(甲8)の図6に示す結果が得られた。図6に示すとおり、十点平均粗さが約0.8μm程度から低下して約0.4μm程度になるまでは、コンタクト寿命は20万回以上と安定しているにもかかわらず、十点平均粗さが0.4μmを下回ると、コンタクト寿命は急激に低下するという結果が得られた。
(b)この結果は、本件明細書の図8に示される結果とは、全く傾向を異にし、検証試験では、本件明細書段落【0045】及び図8に示される効果を確認することはできなかった。
e さらに、実験報告書(甲8)の図9には、コンタクト寿命が20万回以上であったプローブ針の先端部の写真を示されているが、0.4μm以下であるプローブ針(図9の左端の写真)においても、プローブ針先端部にアルミニュームの凝着が認められた。
この結果は、表面粗さが0.4μm程度以下の場合に、急激にコンタクト回数を増やすことができた理由として、「これはプローブ針の先端に酸化物が付着しにくくなったためと推察」できるとする本件明細書段落【0045】の記載と相反する結果である。
(エ)以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)請求項3に係る発明について
ア 請求項3に係る発明の奏する効果
請求項3に係る発明は、「凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」(段落【0060】)という効果を奏するとされる発明である。
イ 効果を確認することができない理由
表面粗さとコンタクト回数との関係を調べた試験は、本件明細書段落【0045】及び図8に示されるものだけであるが、この試験においては、上記「(1)イ(イ)電極パッドの厚さが約0.8μm以外の場合」で述べたとおりプローブ針の先端部の曲率半径rは、電極パッドの厚さtに応じて所定の範囲に管理されている(具体的には、段落【0042】に記載された「9t≦r1≦35t」という関係式に基づいて管理されている)のであるから、仮に段落【0045】に記載されている「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」という記載が正しいものであるとしても、プローブ針の先端部の曲率半径rの如何に関わらず、表面粗さを「0.4μm以下」とすることによって、「凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」(段落【0060】)という請求項3に係る発明の効果を確認することはできない。

(3)請求項7に係る発明について
請求項7に係る発明は、請求項2又は3の半導体装置のテスト用プローブ針を引用するものであるから、上記(1)及び(2)の理由により、請求項2又は請求項3を引用する部分において、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

第4 当審の判断
1 本件明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。
(1)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば半導体集積回路の電気的特性確認のテスト(ウエハテスト)もしくは表示デバイスの表示テストまたは電子回路基板の動作テストを行うためのプローブ針とその製造方法およびそのプローブ針によってテストした半導体装置に関するものである。
【0002】【従来の技術】従来のプローブ針は、図13(a)に示すように、先端が鈎型に曲げられたプローブ針202を上下動するプローブカード201に取り付け、半導体集積回路のテストパッド(以下電極パッドと称する)に押し当てる際に電極パッド表面の酸化膜を破って電極パッド新生面に真接触(電気的接触)をさせてテスト(プロービング)を行っていた。
・・・
【0009】【発明が解決しようとする課題】従来のプローブ針は・・・、電気特性テスト時にプローブ針先端と電極パッドとの真の接触面積(電気的導通部分206)が極端に小さく、十分な導通が得られない場合があった。また、プロービングを繰り返すことで、針の先端200に酸化膜204が堆積していくため、電極パッドとの真の接触面積が少なくなり、導通が不安定になるという問題点があった。
【0010】さらに、先端部を球面状として応力の低減は図れても、酸化被膜の除去が不十分のためやはり真接触面積の確保ができなかった。すなわち、接触面積が大きくなっても球面直下のアルミニウム酸化被膜の残存が安定接触を妨げており、かつコンタクト回数の増加とともに先端部に付着するアルミニウム酸化物をある頻度で頻繁に除去する必要があった。
【0011】さらに、この酸化被膜残存の問題を解決するために提案された構造として、酸化被膜の剥離と真の接触の確保を異なる針先面で行う図15の場合、初期状態は良好な結果が得られたが、コンタクト数を重ねるに従って接触不良を発生する針が生じた・・・。第2の面にアルミニウムが付着しており、このアルミニウムが酸化することによって接触抵抗の増大をもたらす。・・・
【0012】また,針表面を研磨加工する、研磨傷に電極材料であるアルミニウムが食い込み、このアルミニウムが酸化して接触不良を起こすという問題があった。また、一般にタングステンプローブ針材料は焼結体であるため内部に空孔欠陥があり、アルミニウムがこの空孔に食い込み、このアルミニウムが酸化して接触不良を誘発し問題となっていることも判明した。
・・・
【0014】本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、プローブ針先端と電極パッドとの真の接触面積を大きくして、少ない針滑り量で確実な電気的接触が得られかつ生産性の高いプローブ針・・・を提供するものである。」
(2)「【0025】【発明の実施の形態】実施の形態1.本発明の実施の形態を図を用いて説明する。図1、 図2は本発明の実施の形態1によるプローブ針と電極パッドの状態を示す説明図である。・・・DRAM等の一般的なロジック系集積半導体装置では厚さ0.8μm程度のAl-Cu膜である。電力用等特殊用途の半導体装置では、パッド厚さが2?3μmのものもある。・・・」
(3)「【0026】・・・プローブ針1と電極パッド2の電気的導通部は、プロービングの際、電極パッド2の表面の酸化膜8をプローブ針1を滑らすことによって破り、電極パッド新生面と接触することで得られる。なお、プローブ針1は電極パッド2の面に対し垂直ではなく、ここでは8度の倒れ角度を有した場合を示しており、この角度によってプローブ針1と電極パッド2との相対すべりが発生する。また、プローブ針1・・・先端部は等高線が密となっている曲率r1の第1の曲面と、等高線が粗となっている曲率r2の曲面で構成されており、この2つの面は連続した球状の曲面となっている。」
(4)「【0029】針先の接線方向7の角度を変化させて行った実験によると、このようなせん断が起こりうる針先の接線方向7と電極パッド面の角度は15度?35度であり、安定してせん断が起こる角度は17度?30度である。よって、針先の接線方向ベクトル7が電極パッド表面となす角度が15度から35度、望ましくは17度から30度になるような針先形状であれば、電極パッド表面の酸化被膜8を破り、電極パッド新生面と接触することができ、十分な電気的導通が得られるようになる。上記の接線角度が得られる条件を針先の曲率半径rと電極パッドの厚さtの関係で表すとそれぞれ6t≦r≦30t、 8t≦r≦23tとなる。・・・」
(5)「【0032】・・・本発明では電極パッド表面と針の接触角度がすべりを発生させやすくかつ針の前面に新生面が形成され、ここが密着(針の長軸方向の力が加わる形状となっている)し、電気的接触面となる。ただし、この面にも従来例と同様にアルミニウムの凝着が発生するが、次のプロービング時に針の滑り方向に位置するため,大きな離脱力が加わり除去され、新生面との接触が常に確保できる。したがって、本発明ではアルミニウム凝着部が残存するのは電気的接触を必要としない第二の曲面の側面に近いところである。この針と従来のフラット針を用いて導通試験した結果を図5に比較して示すが、従来の(b)では500回程度で接触抵抗が1オームを越えてしまう接触不良が発生したのに対し、(a)に示す本発明の針では10000回を越える接触回数において、導通不良は起こっていない。」
(6)「【0041】また、同じ球面といえども前述したように電極パッドのせん断変形が容易に発生するか否かで接触の安定性は大きく異なる。DRAM等一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えて同様の試験をした結果を図7に示すが、7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである。7μm以下では曲率半径が小さすぎるため電気的導通面の第一の面に十分な力が加わらずかつ面積が小さいため問題となり、上限の20?30μmは、前述した電極パッドのせん断が発生する範囲の上限である24μmにほぼ一致している。
【0042】なお、電極パッド厚さが異なると、適正な曲率半径r1もそれに応じて変化するが、
9t≦r1≦35t
なる関係に基づいて同様な管理を行えばよい。」
(7)「【0045】実施の形態2.図8は本発明の実施の形態2によるプローブ針の表面粗さと接触抵抗が1オームを越えるコンタクト回数の関係を示すもので,電極パッドの厚さ約0.8μmのDRAMに対して先端の曲率半径15μmのプローブ針を用いて試験をした結果である。これより、表面粗さが1μmと粗い場合には20000回程度で寿命を迎えるが、電解研磨などにより面粗度を上げていくと、0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことができることがわかった。特に0.1μmにした場合には38万回に達し、表面粗さが1μmの場合の約20倍の寿命を達成できる。これはプローブ針の先端に酸化物が付着しにくくなったためと推察でき、上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた。」
(8)「【0057】【発明の効果】・・・また、本発明の第1の構成に係る半導体装置のテスト用プローブ針によれば、先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針は側面部と先端部から構成され、上記先端部は球状の曲面であり、上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、表面粗さを0.4μm以下としたので、コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」
(9)「【0060】また、本発明の第2の構成に係る半導体装置のテスト用プローブ針によれば、先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針の先端部の形状は、上記押圧による電極パッドとの接触により当該電極パッドにせん断を発生させる球状曲面形状であって、かつ、表面粗さを0.4μm以下にしたので、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」
(10)「【0064】また、本発明のプローブカードによれば、複数のプローブ針を上下動して、半導体装置の電極パッドに当接させ、上記半導体をテストするプローブカードにおいて、上記第1乃至4のいずれかの構成に係る半導体装置のテスト用プローブ針を備えたので、プローブ針先端の凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的試験を行うことができる。」

2 本件発明2について
(1)本件発明2に係る請求項2の記載を再掲すると、次のとおりである。
「【請求項2】先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針は側面部と先端部から構成され、上記先端部は球状の曲面であり、上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、 表面粗さを0.4μm以下としたことを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針。」
そして、2次判決で、「上記請求項2の理解の在り方について検討するに,同請求項の記載自体から明らかなように,同請求項は、「先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し,上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて,半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、」とする前段部分(以下「請求項2の前段部分」という。)と「上記プローブ針は側面部と先端部から構成され,上記先端部は球状の曲面であり,上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm,表面粗さを0.4μm以下としたことを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針」とする後段部分(以下「請求項2の後段部分」という。)の2つの部分から成るところ、前段の「先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し,上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて,半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、」との部分は,「プローブ」又は「プローブ針」の用語が,測定あるいは検知用機器を示す技術用語として各種の技術分野で広く使用されている技術状況を踏まえ,本件発明に係る「プローブ針」の検査対象及び検査方法を規定することにより,本件発明に係る「テスト用プローブ針」の技術分野を「プローブ先端部を半導体の電極パッドに電気的接触させて半導体装置の動作をテストするプローブ針」に係る技術分野であることを明らかにするためにその技術的特徴を上記のとおり測定の対象及び方法により一般的に規定したに止まるものであって,本件発明2に係る「テスト用プローブ針」自体の構成を規定したものでないことはその記載文言,特に「・・・において、」との記載及びこれを受けて続く請求項2の後段部分の記載内容自体から明らかというべきである。その上で,請求項2の後段部分において「上記プローブ針は側面部と先端部から構成され、上記先端部は球状の曲面であり、上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm,表面粗さを0.4μm以下としたことを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針」と規定し、本件発明に係るプローブ針それ自体の構成,すなわち,側面部及び先端部から成る基本構成と先端部の球状の曲率半径及びその表面粗さを規定し,もって「物」としての本件発明2に係るプローブ針の構成を特定したものであることは請求項2の後段部分の記載から明らかというべきである。」と判示されたとおり、請求項2の前段部分の記載は、本件発明に係る「テスト用プローブ針」の技術分野を「プローブ先端部を半導体の電極パッドに電気的接触させて半導体装置の動作をテストするプローブ針」に係る技術分野であることを明らかにするためにその技術的特徴を測定の対象及び方法により一般的に規定したに止まるものであって、本件発明2に係る「テスト用プローブ針」自体の構成を規定したものでないから、したがって、請求項2の前段部分の記載において、本件発明2のプローブ針の押圧対象である電極パッドの厚さに限定がないからといって、本件発明2のプローブ針がすべての厚みの電極パッドに作用効果を奏することが必要なわけではない。

(2)そこで、上記1の、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、まず、上記1(2)の記載「図1、 図2は本発明の実施の形態1によるプローブ針と電極パッドの状態を示す説明図である。・・・DRAM等の一般的なロジック系集積半導体装置では厚さ0.8μm程度のAl-Cu膜である。」、1(5)の記載「この針と従来のフラット針を用いて導通試験した結果を図5に比較して示すが、従来の(b)では500回程度で接触抵抗が1オームを越えてしまう接触不良が発生したのに対し、(a)に示す本発明の針では10000回を越える接触回数において、導通不良は起こっていない。」、及び上記1(6)の記載「DRAM等一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さ約0.8μmに対して曲率半径を変えて同様の試験をした結果を図7に示すが、7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである。」によれば、一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さ約0.8μmに対し、プローブ針先端部の球状の曲面の曲率半径rを10≦r≦20μmとすることによりコンタクト寿命において良好な結果が得られたことが記載されている。
さらに、上記1(7)の記載「実施の形態2.図8は本発明の実施の形態2によるプローブ針の表面粗さと接触抵抗が1オームを越えるコンタクト回数の関係を示すもので,電極パッドの厚さ約0.8μmのDRAMに対して先端の曲率半径15μmのプローブ針を用いて試験をした結果である。これより、表面粗さが1μmと粗い場合には20000回程度で寿命を迎えるが、電解研磨などにより面粗度を上げていくと、0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことができることがわかった。・・・上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた。」によれば、一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さ約0.8μmに対し、プローブ針先端部の球状の曲面の曲率半径15μm、表面粗さが0.4μm以下では、急激にコンタクト回数を増やすことができることが記載されており、また、後段の記載「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」と実施の形態1に関する段落【0042】の記載「なお、電極パッド厚さが異なると、適正な曲率半径r1もそれに応じて変化するが、9t≦r1≦35tなる関係に基づいて同様な管理を行えばよい。」とによれば、曲率半径15μmの時と同様の結果を、実施の形態1で好ましいとされたプローブ針先端部の球状の曲面の曲率半径rの範囲10≦r≦20μmであって不等式9t≦r1≦35tなる関係を満たす範囲内の電極パッド厚さtに対しても得られることが読みとれる。
したがって、これらの記載と、上記1(8)の記載「上記曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、表面粗さを0.4μm以下としたので、コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」によれば、本件発明2は、一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さに対し、プローブ針先端部の球状の曲面の曲率半径rを10≦r≦20μm、表面粗さが0.4μm以下としたことにより、コンタクト寿命を大幅にのばすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができるという作用効果を奏するものである。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきであり、特許法第36条第4項第1号に違反しているとする請求人の主張は採用できない。
なお、請求人は、甲第8号証の実験報告書によれば、「曲率半径rが、例えば約15μm?約20μmの範囲にあっても、コンタクト寿命は約6万回、約16万回、20万回以上と大きくばらついており、また、曲率半径rが25μmを超えても、コンタクト寿命が20万回を超えるプローブ針が存在し、」等と主張している。しかしながら、本件明細書の上記1(5)の記載「従来の(b)では500回程度で接触抵抗が1オームを越えてしまう接触不良が発生したのに対し、(a)に示す本発明の針では10000回を越える接触回数において、導通不良は起こっていない」及び1(6)の記載「7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである。」によれば、好ましくは10?20μmであるが、7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られているのであり、その良好な結果とは、従来500回程度のものが本件発明では10000回を超えても導通不良は起こっていないというものであるから、実験報告書におけるコンタクト寿命は約6万回、約16万回、20万回以上というのは、いずれも本件明細書にいう良好な結果であって矛盾するところはない。
また、甲第13号証の実験報告書によれば、電極パッドの厚さ1.12μmの場合、プローブ針先端の表面粗さとコンタクト寿命との間には、有意な関係は認められず、表面粗さが特定の値以下のときにコンタクト回数を急激に増やすことができたとする図8に示される実験結果と同様の結果は得ることができなかった旨主張している。しかしながら、甲第13号証の実験報告書の図5ないし8に示された測定点は、縦軸コンタクト寿命(万回)に関しては概ね1万回以上の位置にプロットされており、本件明細書の上記1(5)の記載「従来の(b)では500回程度で接触抵抗が1オームを越えてしまう接触不良が発生したのに対し、(a)に示す本発明の針では10000回を越える接触回数において、導通不良は起こっていない」及び1(6)の記載「7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られており、好ましくは10?20μmである。」によれば、好ましくは10?20μmであるが、7?30μmの曲率半径がコンタクト寿命において良好な結果が得られているのであり、その良好な結果とは、従来500回程度のものが本件発明では10000回を超えても導通不良は起こっていないというものであるから、甲第13号証の実験報告書の図面にプロットされたコンタクト寿命の殆どは、いずれも本件明細書にいう良好な結果であって矛盾するところはない。
したがって、甲第8号証の実験報告書及び甲第13号証の実験報告書に基づく請求人の主張は採用することができない。

3 本件発明3について
(1)本件発明3に係る請求項3の記載を再掲すると、次のとおりである。
「【請求項3】先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針の先端部の形状は,上記押圧による電極パッドとの接触により当該電極パッドにせん断を発生させる球状曲面形状であって、かつ、表面粗さは0.4μm以下であることを特徴とする半導体装置のテスト用プローブ針。」
そして、本件発明2と同じく、請求項3の前段部分の記載は、本件発明に係る「テスト用プローブ針」の技術分野を「プローブ先端部を半導体の電極パッドに電気的接触させて半導体装置の動作をテストするプローブ針」に係る技術分野であることを明らかにするためにその技術的特徴を測定の対象及び方法により一般的に規定したに止まるものであって、本件発明3に係る「テスト用プローブ針」自体の構成を規定したものでないから、したがって、請求項3の前段部分の記載において、本件発明3のプローブ針の押圧対象である電極パッドの厚さに限定がないからといって、本件発明3のプローブ針がすべての厚みの電極パッドに作用効果を奏することが必要なわけではない。
(2)そこで、上記1の本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、上記1(7)の記載「実施の形態2.図8は本発明の実施の形態2によるプローブ針の表面粗さと接触抵抗が1オームを越えるコンタクト回数の関係を示すもので,電極パッドの厚さ約0.8μmのDRAMに対して先端の曲率半径15μmのプローブ針を用いて試験をした結果である。これより、表面粗さが1μmと粗い場合には20000回程度で寿命を迎えるが、電解研磨などにより面粗度を上げていくと、0.4μm程度以下で急激にコンタクト回数を増やすことができることがわかった。・・・上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた。」によれば、一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さ約0.8μmに対し、プローブ針先端部の球状の曲面の曲率半径15μm、表面粗さが0.4μm以下では、急激にコンタクト回数を増やすことができることが記載されており、さらに、後段の記載「上記実施の形態1で示した範囲内で、電極パッドの厚さあるいはプローブ針の先端の曲率半径を変えてもほぼ同様の結果が得られた」と実施の形態1に関する段落【0042】の記載「なお、電極パッド厚さが異なると、適正な曲率半径r1もそれに応じて変化するが、9t≦r1≦35tなる関係に基づいて同様な管理を行えばよい。」とによれば、曲率半径15μmの時と同様の結果が、不等式9t≦r1≦35tなる関係を満たす範囲内の曲率半径及び電極パッド厚さtに対しても得られることが示されている。
これらの記載と、上記1(3)の記載「プローブ針1と電極パッド2の電気的導通部は、プロービングの際、電極パッド2の表面の酸化膜8をプローブ針1を滑らすことによって破り、電極パッド新生面と接触することで得られる。」、上記1(4)の記載「針先の接線方向7の角度を変化させて行った実験によると、このようなせん断が起こりうる針先の接線方向7と電極パッド面の角度は15度?35度であり、安定してせん断が起こる角度は17度?30度である。よって、針先の接線方向ベクトル7が電極パッド表面となす角度が15度から35度、望ましくは17度から30度になるような針先形状であれば、電極パッド表面の酸化被膜8を破り、電極パッド新生面と接触することができ、十分な電気的導通が得られるようになる。上記の接線角度が得られる条件を針先の曲率半径rと電極パッドの厚さtの関係で表すとそれぞれ6t≦r≦30t、 8t≦r≦23tとなる。」及び上記1の(9)の記載「本発明の第2の構成に係る半導体装置のテスト用プローブ針によれば、先端部を半導体装置の電極パッドに押圧し、上記先端部と上記電極パッドを電気的接触させて、半導体装置の動作をテストする半導体装置のテスト用プローブ針において、上記プローブ針の先端部の形状は、上記押圧による電極パッドとの接触により当該電極パッドにせん断を発生させる球状曲面形状であって、かつ、表面粗さを0.4μm以下にしたので、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができる。」によれば、本件発明3は、一般的な集積半導体装置の電極パッドの厚さに対し、プローブ針の先端部の形状は,上記押圧による電極パッドとの接触により当該電極パッドにせん断を発生させる球状曲面形状であって、かつ、表面粗さは0.4μm以下であることにより、コンタクト回数を増やすことができ、凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的導通を取るプローブ針を提供することができるという作用効果を奏するものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきであり、特許法第36条第4項第1号に違反しているとする請求人の主張は採用できない。

4 本件発明7について
(1)本件発明7に係る請求項7の記載を再掲すると、次のとおりである。
「【請求項7】複数のプローブ針を上下動して、半導体装置の電極パッドに当接させ、上記半導体装置をテストするプローブカードにおいて、上記プローブ針は、請求項2乃至5のいずれかに記載の半導体装置のテスト用プローブ針であることを特徴とするプローブカード。」
(2)本件発明7は、請求項2乃至5のいずれかに記載の半導体装置のテスト用プローブ針を引用して記載したプローブカードの発明であるところ、請求項4及び5に係る発明に関しては、発明の詳細な説明の記載不備は申し立てられておらず、請求項2及び3に係る発明については、上記2及び3に記載したごとく発明の詳細な説明は当業者が本件発明3及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。
そうすると、上記1(1)の記載「本発明は、例えば半導体集積回路の電気的特性確認のテスト(ウエハテスト)もしくは表示デバイスの表示テストまたは電子回路基板の動作テストを行うためのプローブ針とその製造方法およびそのプローブ針によってテストした半導体装置に関するものである。・・・従来のプローブ針は、図13(a)に示すように、先端が鈎型に曲げられたプローブ針202を上下動するプローブカード201に取り付け、半導体集積回路のテストパッド(以下電極パッドと称する)に押し当てる際に電極パッド表面の酸化膜を破って電極パッド新生面に真接触(電気的接触)をさせてテスト(プロービング)を行っていた。」及びの上記1(10)の記載「本発明のプローブカードによれば、複数のプローブ針を上下動して、半導体装置の電極パッドに当接させ、上記半導体をテストするプローブカードにおいて、上記第1乃至4のいずれかの構成に係る半導体装置のテスト用プローブ針を備えたので、プローブ針先端の凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的試験を行うことができる。」によれば、請求項2乃至5のいずれか記載の半導体装置のテスト用プローブ針を用いて、複数のプローブ針を上下動して、半導体装置の電極パッドに当接させ、上記半導体装置をテストするプローブカードとすれば、プローブ針先端の凝着が防止できることからさらに連続して安定に電気的試験を行うことができることが記載されていると認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきであり、特許法第36条第4項第1号に違反しているとする請求人の主張は採用できない。

5 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠によっては、本件の請求項2、3及び7に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-21 
結審通知日 2007-11-26 
審決日 2008-02-06 
出願番号 特願平11-241690
審決分類 P 1 123・ 536- Y (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 淳史  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
下中 義之
登録日 2002-02-22 
登録番号 特許第3279294号(P3279294)
発明の名称 半導体装置のテスト方法、半導体装置のテスト用プローブ針とその製造方法およびそのプローブ針を備えたプローブカード  
代理人 松永 宣行  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 安江 邦治  
代理人 村上 加奈子  
代理人 吉澤 憲治  
代理人 須磨 光夫  

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