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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B62J |
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管理番号 | 1195333 |
判定請求番号 | 判定2008-600043 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2008-10-21 |
確定日 | 2009-03-23 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4007733号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面及びその説明書に示す「乗り物用シートの表皮」は、特許第4007733号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨・手続の経緯 本件判定請求は、平成20年10月21日になされ、平成21年1月13日付け回答書において、判定請求書の修正(補正)を行ったものである。その請求の趣旨は、平成21年1月13日付け回答書に添付された修正判定請求書の記載からみて、同回答書に添付されたイ号図面及びイ号説明書に示す「乗り物用のインストルメントパネルのシートの表皮」(以下「イ号物件」という。)は、特許第4007733号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 なお、当審は、平成21年1月19日付け(平成21年1月23日再送)で、判定請求書副本及び回答書副本を被請求人に送付し、期間を指定して答弁の機会を与えたが、被請求人は何ら応答をしなかった。 第2 本件発明 本件発明は、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると、次のとおりである。 A.合成樹脂よりなる表皮主体(1)と、 B.その表皮主体(1)に分散する赤外線反射顔料(7)とを有する C.乗り物用シートの表皮であって、 D.その表皮の表面は、皮膚による熱いという感覚を鈍くするために複数の凹、凸部(4,5)を有する粗面で形成され、前記凹、凸部(4,5)における凸部(5)の高さhが0.05mm以上で且つ0.35mm以下であることを特徴とする、 E.乗り物用シートの表皮。 (以下、順に「構成要件A」?「構成要件E」という。) 第3 イ号物件の特定 イ号物件は、平成21年1月13日付け回答書に添付されたイ号図面説明書に記載されたとおりの次のものと認める。 「イ号図面に示す表皮の構造について、 1)着色層の表皮(表皮の表面)は、イ号図面に示すように皮革状の表面形状、表面形態を有する凹凸(型)押しで形成される皮革状の表面形状、形態を有する皮絞模様が形成されており、凹、凸部における凸の高さが10μm、20μm、100μm、及び150μmの各部位を有している。 2)反射層の厚みは0.35mm、着色層の厚みは0.35mmである。 3)着色層には、表1に示すようにBASF社製のペリレンブラックFK4281(赤外線反射顔料)がポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対し、5.9重量部含有されている。 4)基布は100%ナイロン布である。 5)イ号物件は、上記の4層積層体を皮革状の表面形状、表面形態を有する凹凸押し(型押し)によってその表面に皮革模様が形成される。 6)イ号物件の用途は、乗り物用のインストルメントパネルのシートの表皮に用いられる。」 これを、平成21年1月13日付け回答書に添付された「本件特許発明とイ号物件との対比表」をも参酌して、本件発明の記載ぶりに合わせると、イ号物件の構成は以下のとおりのものであるということができる。 「a.ポリ塩化ビニール樹脂よりなる着色層と、 b.着色層に分散するペリレンブラックFK4281(赤外線反射顔料)とを有する c.乗り物用のインストルメントパネルのシートの表皮であって、 d.その表皮の表面は、皮革状の表面形状、表面形態を有する凹凸(型)押しにより複数の凹、凸部を有する粗面で形成され、前記凹、凸部における凸部(5)の高さが10μm、20μm、100μm、及び150μmである、 e.乗り物用のインストルメントパネルのシートの表皮。」 (以下、順に、「構成a」?「構成e」という。) 第4 対比・判断 1 構成要件Aの充足性について イ号物件の「ポリ塩化ビニール樹脂」は「合成樹脂」であることは明らかであり、また、イ号物件の「着色層」も、回答書に添付されたイ号図面、イ号図面説明書及び本件特許発明とイ号物件との対比表からみて、「表皮主体」であることは明らかである。 したがってイ号物件の構成aは、本件発明の構成要件Aを充足する。 2 構成要件Bの充足性について イ号物件の「ペリレンブラックFK4281」は、回答書に添付されたイ号図面説明書からみて、「赤外線反射顔料」であることが明らかである。 したがって、イ号物件の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足する。 3 構成要件C、Eの充足性について イ号物件の構成c、eが本件発明の構成要件C、Eを充足するか否かについて、判定請求人は回答書に添付された修正判定請求書において充足するものと認めているが、以下に検討する。 (1)本件発明の構成要件C、Eの技術的意義について 本件発明の構成要件C、Eの「乗り物用シート」について、特許明細書を参酌すると、次の記載がある。 (a)「従来、例えば自動二輪車用シートの表皮は、デザイン上黒色のものが好まれており、合成樹脂、例えばポリ塩化ビニルよりなる表皮主体と、その表皮主体に分散する黒色顔料としてのカーボンブラックとより構成される。」(段落【0002】) (b)「前記従来の黒色表皮は安価であって、物性的にも安定している、といった利点を有するが、自動二輪車を炎天下に放置した場合、カーボンブラックの赤外線吸収により黒色表皮が熱くなることは避けられない。」(段落【0003】) (c)「本発明は、炎天下に放置されても熱くなることのない前記乗り物用シートの表皮を提供することを目的とする。」(段落【0004】) (d)「前記のように構成すると、赤外線反射顔料によって表皮の温度上昇が抑制されるので、炎天下においても、その表皮が熱くなるようなことはない。」(段落【0009】) (e)「また人間の皮膚による熱いという感覚は、表皮の表面が平滑面である場合よりも、複数の凹、凸部を有する粗面である場合の方が鈍くなる。そこで、表皮の表面は複数の凹、凸部を分散させた粗面に形成され、その凹、凸部における凸部の高さは0.05mm以上、0.35mm以下に設定される。即ち、前記高さが0.05mm未満では前記効果を得ることができず、一方、0.35mmを上回ると、特に、表皮の総厚が薄い場合凹部に透けが生じたり、ごみ等がたまり易くなる等の不具合を生じるが、本発明ではその不具合が回避される。このような表面を有する表皮としては、その表面を例えばスエード調に形成されたものを挙げることができる。」(段落【0010】) (f)「図1において、乗り物としての自動二輪車のシートに用いられる表皮1は、その背面側に接着剤層2を介してメリヤスよりなる基布3を貼付されている。」(段落【0013】) (g)「本発明によれば前記のように構成することによって、炎天下に放置されても熱くなることのない乗り物用シートの表皮を提供することができる。」(段落【0022】) 上記記載事項によれば、本件発明は、自動二輪車が炎天下に放置されても熱くなることのない乗り物用シートの表皮を提供することを目的・課題とするものである。 ところで、シートの意義については、(ア)席、座席(seat)と(イ)薄板や紙などの一枚(sheet)の2つの意義があると認められるところ、本件発明の「乗り物用シート」は上記目的・課題からみれば、(ア)席、座席(seat)であると解される。 (2)イ号物件の構成要件c、eについて 一方、イ号物件の「乗り物用のインストルメントパネルのシート」の「シート」とはインストルメントパネルに用いられるものであるから、(ア)席、座席(seat)ではなく、(イ)薄板や紙などの一枚(sheet)であることは明らかである。 (3)まとめ そうすると、イ号物件の構成c、eは、本件発明の構成要件C、Eを充足しない。 4 構成要件Dの充足性について (1)本件発明の構成要件Dの技術的意義について 本件発明の構成要件Dの「その表皮の表面は、皮膚による熱いという感覚を鈍くするために複数の凹、凸部(4,5)を有する粗面で形成され、前記凹、凸部(4,5)における凸部(5)の高さhが0.05mm以上で且つ0.35mm以下であること」について、検討する。 上記「3 構成要件C、Eの充足性について」の「(1)本件発明の構成要件C、Eの技術的意義について」中で摘記した摘記事項(e)には、「人間の皮膚による熱いという感覚は、表皮の表面が平滑面である場合よりも、複数の凹、凸部を有する粗面である場合の方が鈍くなる。そこで、表皮の表面は複数の凹、凸部を分散させた粗面に形成され、その凹、凸部における凸部の高さは0.05mm以上、0.35mm以下に設定される。即ち、前記高さが0.05mm未満では前記効果を得ることができず…」と記載されていることから、本件発明の構成要件Dの「その表皮の表面は、皮膚による熱いという感覚を鈍くするために」は、「凹、凸部(4,5)における凸部(5)の高さh」のすべてあるいはほとんどが「0.05mm以上」であることが必要であると解される。 (2)出願経過の参酌 また、本件特許の出願経過を参酌すると、被請求人は、平成19年5月18付けで通知された出願当初の明細書の特許請求の範囲1?10についての拒絶理由に対する、平成19年7月23日付け意見書において、「しかしながらこれら引用文献1?4には、本願発明が特徴とする乗り物用シートの表皮の前記具体的構成、特に「表皮(上層)の表面が、皮膚による熱いという感覚を鈍くするために複数の凹、凸部を有する粗面で形成され、前記凹、凸部における凸部の高さhが0.05mm以上で且つ0.35mm以下である」構成が何処にも記載されておらず、示唆もされておりません。尚、引用文献3には表皮材に凹凸を形成することが記載されていますが、その凹凸は、型押しで形成される単なる装飾的なしぼ模様であって、本願発明が解決しようとする『皮膚による熱いという感覚を鈍くする』という技術的課題やその解決手段を何等示唆するものではありません。」と主張している。 したがって、本件特許の出願経過に照らせば、被請求人(出願人)が本件発明のように補正した主旨は、本件発明は、拒絶理由通知書における引用文献3(特開平6-2280号公報)に記載される「型押しで形成される単なる装飾的なしぼ模様」ではなく、「皮膚による熱いという感覚を鈍くする」という技術的課題を解決するために、「凹、凸部における凸部の高さhが0.05mm以上で且つ0.35mm以下である」と特定したものであることを明確にし、さらに、本件発明の構成要件Dにより引用文献3との相違点を明確にしたものであると認められる。 (3)イ号物件の構成d ところで、イ号物件の構成dは、複数の凹、凸部を有する粗面で形成されているといえるものの、 回答書に添付されたイ号図面説明書に記載されているとおり、単なる装飾的なしぼ模様である「皮革状の表面形状、表面形態を有する凹凸(型)押しで形成される皮革状の表面形状、形態を有する皮絞模様」を形成するための凹凸であり、また、イ号図面からみて、その凹凸の高さも「10μm、20μm、100μm、及び150μm」と、「0.05mm(50μm)以上で且つ0.35mm(350μm以下」の範囲外の「10μm、20μm」の高さの凸部も皮絞模様を形成するために多く含むものである。 (4)まとめ したがって、イ号物件の構成dは、本件発明の構成要件Dを充足しないものというべきである。 第5 まとめ 以上のとおり、イ号物件は、本件発明の構成要件C、E及び構成要件Dを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものである。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2009-03-10 |
出願番号 | 特願平11-297441 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(B62J)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐野 健治 |
特許庁審判長 |
唐木 以知良 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 杉江 渉 |
登録日 | 2007-09-07 |
登録番号 | 特許第4007733号(P4007733) |
発明の名称 | 乗り物用シートの表皮 |
代理人 | ▲ぬで▼島 愼二 |
代理人 | 仁木 一明 |
代理人 | 仁木 一明 |
代理人 | 仁木 一明 |
代理人 | 落合 健 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | ▲ぬで▼島 愼二 |
代理人 | 西元 勝一 |
代理人 | ▲ぬで▼島 愼二 |
代理人 | 落合 健 |
代理人 | 落合 健 |
代理人 | 中島 淳 |