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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01N
管理番号 1195694
審判番号 無効2005-80225  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-20 
確定日 2009-03-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3162450号「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」の特許無効審判事件についてされた平成18年6月14日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10482号 平成19年7月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3162450号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許3162450号発明は、平成3年12月12日(国内優先権主張 平成3年4月27日。以下、「優先日」という。)に出願され、平成13年2月23日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。
審判請求:平成17年7月20日
答弁書 :平成17年10月7日
訂正請求:平成17年10月7日
弁駁書 :平成17年12月9日
口頭審理陳述要領書(被請求人):平成18年2月16日
上申書(請求人):平成18年3月2日
口頭審理:平成18年3月2日
上申書(被請求人):平成18年3月23日
審決(起案日):平成18年6月14日
(以下、この審決を「1次審決」という。)
1次審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。」

1次審決取消訴訟提起:平成18年10月23日
(平成18年(行ケ)10482号)
判決言渡:平成19年7月12日(この判決を、以下「本件判決」という。)
判決の主文:「特許庁が無効2005-80225事件について平成
18年6月14日にした審決中,『本件審判の請求は,成り立たない。
』との部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」
判決確定:平成19年11月22日

訂正請求申立書(被請求人):平成19年11月27日
訂正請求のための指定期間通知(起案日):平成19年11月30日
訂正請求書(被請求人):平成19年12月10日(以下、この訂正請求
書に係る訂正を「本件訂正」という。)

第2 訂正の適否
1.本件訂正の請求は、本件特許明細書を平成19年12月10日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおり訂正することを求めるもので、その訂正内容は以下のとおりである。
訂正事項1:請求項1を削除する。
訂正事項2:請求項2に「工芸素材類が木材及び木質合板類であるところの 請求項1に記載の害虫防除剤」とあるのを、「1-(6-クロ ロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジ ンを有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合 板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害 虫防除剤」と訂正する。
訂正事項3:請求項3に「工芸素材類をシロアリ類」とあるのを、「木材及 び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリ」と訂正する 。
訂正事項4:明細書段落【0014】の3行(特許公報3162450号公 報3頁左欄46?47行)における「ヤマトシロアリ(Deucote rmes speratus)」を「ヤマトシロアリ(Leucotermes speratus) 」と訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許法134条の2第1項1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、今回の訂正により請求項1が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項1に従属していた請求項2を独立形式で記載するとともに、本件特許明細書の段落【0014】の記載に基づき、削除された請求項1に記載されていた「シロアリ類」を、その下位概念である「イエシロアリ又はヤマトシロアリ」に限定するものであるから、特許法134条の2第1項3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものと、特許法134条の2第1項1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、「工芸素材類」を「木材及び木質合板類」と訂正する部分については、訂正前の本件特許明細書の段落【0010】の記載に基づき、本件訂正前の請求項3に記載されていた「工芸素材類」を、その下位概念である「木材及び木質合板類」に限定するものであるから、特許法134条の2第1項1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「シロアリ類」を「イエシロアリ又はヤマトシロアリ」と訂正する部分については、本件特許明細書の段落【0014】の記載に基づき、本件訂正前の請求項3に記載されていた「シロアリ類」を、その下位概念である「イエシロアリ又はヤマトシロアリ」に限定するものであるから、これも、特許法134条の2第1項1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、ヤマトシロアリの学名が「Leucotermes speratus」である(平成19年12月10日付け訂正請求書に添付された参考資料1、及び参考資料3参照。)ことに基づき、本件訂正前の本件特許明細書に「ヤマトシロアリ(Deucotermes speratus)」と記載されていたものを「ヤマトシロアリ(Leucotermes speratus)」と訂正するものであるから、特許法134条の2第1項2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(5) そして、訂正事項1?訂正事項4に係る訂正は、何れも、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6) 結論
したがって、本件訂正は、特許法134条の2第1項、及び同条5項において準用する同法126条3項及び4項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
平成19年12月10日付けの訂正は上記のとおり認められるから、本件請求項1、請求項2に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。(以下、請求項1、請求項2に係る発明を、それぞれ、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」といい、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。)。

「【請求項1】1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。
【請求項2】1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを土壌処理することにより、木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリの侵襲から保護する方法。」

第4 請求人の主張する、特許を無効とすべき理由の要点
1 請求人は、本件特許3162450号の(本件訂正前の)請求項1?3に係る発明の特許を無効にする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の審決を求める無効審判を請求し、証拠方法として甲第1号証?甲第10号証を提出して、大略以下のような無効理由を主張している。
(本件訂正前の)請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前(優先日前)に頒布された刊行物である甲第1号証、又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法123条1項1号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証 「ブライトン農作物保護会議-害虫および病気-1990年」(「BRIGHTON CROP PROTECTION CONFERENCE-Pests and Diseases-1990」)配布資料
甲第2号証 特開昭61-267575号公報
甲第3号証 特開昭63-122601号公報
甲第4号証 特開平3-95104号公報
甲第5号証 「FINDING ALTERNATIVES TO PERSISTENT ORGANIC POLLUTANTS(POPs) FOR TERMITE MANAGEMENT」; UNITED NATIONS ENVIRONMENT PROGRAMME
甲第6号証 African Crop Science Journal,Vol.9,No.2,411-419頁(2001)「THE EFFECT OF MAIZE STOVER USED AS MULCH ON TERMITE DAMAGE TO MAIZE AND ACTIVITY OF PREDATORY ANTS」(http://www.bioline.org.br/request?cs01023(2005/12/08))
甲第7号証 Project Abstracts-Crop Protection:「Control of fungus-growing termites in maize and sorghum」(http://www.arc.agric.za/institutes/gci/main/projects/abstracts/cropprotection0304/m131_13.htm(2005/12/08))
甲第8号証 「Termite control through non-pesticide approach -DAWN-Business; October 17,2005(http://www.dawn.com/2005/12/07/ebr5.htm(2005/12/07))
甲第9号証 Tropical Pest Management,Vol.26,No.3,241-253頁(1980)「Termite Damage and Crop Loss Studies in Nigeria-a Review of Termite(Isoptera) Damage to Maize and Estimation of Damage,Loss in Yield and Termite(Microtermes) Abundance at Mokwa」
甲第10号証 特許第1807569号特許登録原簿の写し

第5 被請求人の主張
1 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、証拠方法として乙第1号証?乙第13号証の2、答弁書に添付した参考資料、及び本件訂正請求書に添付した参考資料1?4を提出して、請求人の主張する本件特許の無効理由のいずれにも理由がない旨の主張をしている。

2 被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証 実験成績証明書(イミダクロプリド関連化合物のイエシロアリに対する効果試験(速報),2005年5月23日,結城中央研究所 加本美穂子作成)
乙第2号証 日本におけるシロアリ防除剤としてのイミダクロプリドの販売実績の推移のグラフ
乙第3号証 日本におけるシロアリ防除剤の売上げ推移のグラフ
乙第4号証 「農林有害動物・昆虫名鑑」(日本応用動物昆虫学会編,昭和62年12月27日,社団法人日本植物防疫協会発行)146?147頁
乙第5号証 「日本農業害虫大事典」(梅谷献二・岡田利承編,2003年5月8日,株式会社全国農村教育教会発行)74?85頁
乙第6号証 「原色野菜病害虫百科」(農文協編,1999年6月10日,社団法人農山漁村文化協会発行)23?24頁及び425?442頁
乙第7号証の1 「URBAN ENTOMOLOGY PROGRAM」:Centre for Urban and Community Studies University of Tronto(トロント大学都会及び地域社会研究センター「都会昆虫学綱領」)(http://www.utronto.ca/forest/termite/termite.htm)
乙第7号証の2 「Termites of the World by Continent(大陸ごとの世界のシロアリ)」のアフリカのシロアリ類のページ(http://www.utronto.ca/forest/termite/afr-dist.htm#African)
乙第7号証の3 「Illustrated Termites of North America(北アメリカのシロアリ類)」の「Higher Termites:Termitidae」のページ(http://www.utronto.ca/forest/termite/term_hig.htm)
乙第7号証の4 「Illustrated Tremites of North America(北アメリカのシロアリ類)」の「Subterranesn Termites:Rhinotermitidae」のページ(http://www.utoronto.ca/forest/termite/term_sub.htm)
乙第8号証 昆虫の系統分類(http://epp.eps.nagoya-u.ac.jp/~seicoro/bio/insecta.html)
乙第9号証 バイエルクロップサイエンス株式会社坪井眞一氏の私見(平成18年3月14日作成、弁理士川口義雄宛)
[添付書類として、以下の資料が付属している。
1 バイエルの農薬製品カタログ-2005「みどりの手引」表紙、索引、159?161頁、奥付
2 「試験例1 かんきつの鱗翅目害虫に対する効果」というタイトルの試験結果報告
3 「試験例2 茶樹の鱗翅目害虫に対する効果」というタイトルの試験結果報告
4 「農林有害動物・昆虫名鑑」(日本植物防疫協会、昭和62年12月27日発行)表紙、目次、30頁、奥付]
答弁書に添付した参考資料 THE MERCK INDEX 第12版(1996)、Phoximの項及びCh1orpyrifosの項
乙第9号証 平成18年(行ケ)第10482号判決
乙第10号証 古河晴男監修「昆虫の事典」(昭和56年9月10日、東京堂出版発行)42?44頁及び252?253頁
乙第11号証 「家屋害虫」(昭和63年10月10日、日本家屋害虫学会発行)79?80頁
乙第12号証 「衛生害虫防除の手引き」(平成13年9月、日本防疫殺虫剤協会発行)8?9頁及び11頁
乙第13号証の1 「ハチクサン^(R)FL T-893^(R)野外試験(Vol.1)」(平成15年10月Bayer CropScience社発行)
乙第13号証の2 「ハチクサンニュース2004」(平成16年3月Bayer CropScienc社発行)
参考資料1 「恐竜博2005」と題する文書(http://www.mus-nh.city.osaka.jp)
参考資料2 「原色昆虫大図鑑 第3巻」(昭和44年11月10日四版発行,株式会社北隆館)目次、及び64頁.
参考資料3 「日本応用動物昆虫学会誌」(昭和38年9月),Vol.7, No.3.,207?213頁、奥付
参考資料4 「知的財産権 その形成と保護 -秋吉稔弘先生喜寿記念論文集-」103?120頁

第6 当審の判断
前述のように、請求人は、(本件訂正前の)請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張しているので、まず初めに、甲第2号証に記載された発明について検討する。
1 甲第2号証(特開昭61-267575号公報)の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第2号証(特開昭61-267575号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1) 「一般式:


式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Xはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アシルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロアルキルチオ基、ホルミル基、アルケニル基、アルキニル基及びハロアルケニル基よりなる群からえらばれた基を示し、lは0、1、2、3又は4を示し、そしてmは2、3又は4を示す、
で表わされるニトロイミノ誘導体。」(1頁、特許請求の範囲、請求項1)

(2) 「一般式:


式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Xはハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アシルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロアルキルチオ基、ホルミル基、アルケニル基、アルキニル基及びハロアルケニル基よりなる群からえらばれた基を示し、lは0、1、2、3又は4を示し、そしてmは2、3又は4を示す、
で表わされるニトロイミノ誘導体を有効成分として含有することを特徴とする殺虫剤。」(3頁、特許請求の範囲、請求項9)

(3) 「本発明者等はニトロイミノ誘導体の合成及びその生物活性について研究を行つてきた。その結果、前記式(I)で表わされる従来公知文献未記載のニトロイミノ誘導体の合成に成功し、更に、該ニトロイミノ誘導体は、予想外且つ驚くべきことには、後に、具体的に例示された生物試験から明らかなように、前記公知刊行物記載の類似の公知化合物(A)が、ほとんど殺虫作用を示さないのに対して、極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完壁な防除作用を現わす新規化合物であることを発見した。」(4頁左下欄下から9行?右下欄2行)

(4) 「本発明一般式(I)の化合物の具体例としては、特には、下記のものを例示することができる。・・・1-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-2-(ニトロイミノ)イミダゾリジン」(5頁右上欄6?12行)

(5) 「本発明の式(I)化合物は、強力な殺虫作用を現わす。従って、それらは、殺虫剤として、使用することができる。そして、本発明の式(I)活性化合物は、栽培植物に対し、薬害を与えることなく、有害昆虫に対し、的確な防除効果を発揮する。また本発明化合物は広範な種々の害虫、有害な吸液昆虫、かむ昆虫およびその他の植物寄生害虫、貯蔵害虫、衛生害虫等の防除のために使用でき、それらの駆除撲滅のために適用できる。そのような害虫類の例としては、以下の如き害虫類を例示することができる。昆虫類として、鞘翅目害虫、例えばアズキゾウムシ・・・;鱗翅目虫、例えば、マイマイガ・・・;半翅目虫、例えば、ツマグロヨコバイ・・・;直翅目虫、例えば、チャバネゴキブリ・・・;等翅目虫、例えば、ヤマトシロアリ(deucotermes speratus)、イエシロアリ(Coptotermes formosanus);双翅目虫、例えば、イエバエ・・・等を挙げることができる。」(14頁左上欄1行?左下欄19行)

(6) 「衛生害虫、貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は、石灰物質上のアルカリに対する良好な安定性はもちろんのこと、木材及び土壌における優れた残効性によって、きわだたされている。」(16頁左上欄11?15行)

(7) 「実施例3-ii

上記実施例3-iで合成された臭化水素酸塩(5.8g)を98%硫酸(30ml)に0℃で加え、続いて、攪拌しながら、0℃で発煙硝酸2mlを少しずつ加える。加え終わった後、0℃で2時間攪拌した後、内容物を氷水(100g)に注ぎ、ジクロロメタンで抽出する。抽出物よりジクロロメタンを減圧で留去すると、淡黄色の結晶が得られ、この結晶をエーテルで洗浄すると、1-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-2-(ニトロイミノ)イミダゾリジン(1.5g)が得られる。mp.136?139℃」(16頁右下欄下から4行?17頁9行)

(8) 「実施例5(生物試験)
有機リン剤抵抗性ツマグロヨコバイに対する試験
供試薬液の調製
溶剤:キシロール3重量部
乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル1重量部
適当な活性化合物の調合物を作るために活性化合物1重量部を前記量の乳化剤を含有する前記量の溶剤と混合し、その混合物を水で所定濃度まで希釈した。
試験方法:
直径12cmのポットに植えた草丈10cm位の稲に、上記のように調製した活性化合物の所定濃度の水希釈液を1ポット当り10ml散布した。散布薬液を乾燥後、直径7cm、高さ14cmの金網をかぶせ、その中に有機リン剤に抵抗性を示す系統のツマグロヨコバイの雌成虫を30頭放ち、恒温室に置き2日後に死虫数を調べ殺虫率を算出した。代表例をもって、その結果を第2表に示す。


実施例6(生物試験)
ウンカに対する試験)
試験方法:
・・・
代表例をもって、その結果を第3表に示す。


実施例7(生物試験)
有機リン剤、及びカーバメート剤抵抗性モモアカアブラムシに対する試験
試験方法:
・・・
代表例をもって、その結果を第4表に示す。

」(19頁左上欄4行?20頁左上欄)

2 対比、判断
(1) 化合物について
甲第2号証に記載された「化合物No.3」(1-(2-クロロ-5-ピリジルメチル)-2-(ニトロイミノ)イミダゾリジン、摘記(7)参照。)は、その化学構造式からみて、本件訂正発明の害虫防除剤の有効成分である「1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン」と同一の化合物であると認められ、以下、これらを統一して、その一般名である「イミダクロプリド」と呼ぶ。
なお、審判請求書において、「化合物I.1」と表記されている化合物は「化合物I.3」の誤記であり(第1回口頭審理調書参照。)、その化合物もイミダクロプリドと同一の化合物である。

(2) 甲2発明、及び甲2’発明
(ア) 甲第2号証には、イミダクロプリドを含む、摘記(1)及び(2)に示される一般式で表わされるニトロイミノ誘導体が記載され、また、その化合物群が種々の有害昆虫の殺虫剤として使用されるものであることも記載され(摘記(2)及び(5))、さらに摘記(1)及び(2)の一般式で表わされるニトロイミノ誘導体に包含されるイミダクロプリド(化合物NO.3)を含む、数種の化合物について、殺虫剤としての有効性がツマグロヨコバイ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ、セジロウンカ、モモアカアブラムシを対象とした生物試験により示されている(摘記(8))。

(イ) 以上によれば、甲第2号証には、「イミダクロプリドを有効成分として含有する殺虫剤」の発明(以下、「甲2発明」という。)、及び「イミダクロプリドを用いる殺虫剤」の発明(以下、「甲2’発明」という。)が記載されていると認められる。

(3) 本件訂正発明1について
(3-1) 本件訂正発明1と甲2発明との対比
甲2発明における「殺虫剤」は、本件訂正発明1における「害虫防除剤」に対応することを踏まえた上で本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、
「イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤。」
である点で一致するが、以下に示す相違点1、及び相違点2の点で相違すると認められる。
相違点1
害虫から保護する対象について、本件訂正発明1では「木材及び木質合板類」と規定しているのに対し、甲2発明では規定していない点、及び
相違点2
対象となる害虫が、本件訂正発明1ではイエシロアリ又はヤマトシロアリであるのに対し、甲2発明では特定されていない点。

(3-2) 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
甲第2号証には、「衛生害虫、貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は、・・・木材及び土壌における優れた残効性によつて、きわただされている。」(摘記(6))と記載されているから、甲2発明において、害虫から保護する対象として木材が想定されていることは明らかである。
また、甲第2号証には、対象となる害虫として、「ヤマトシロアリ(deucotermes speratus)、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)」が例示されている(摘記(5))ところ、イエシロアリ又はヤマトシロアリは木材類を食害する害虫として周知である[必要なら、例えば、甲第4号証(特開平3-95104号公報)、2頁左下欄9?15行、及び4頁左上欄5行?右上欄1行;更に必要なら、特開昭58-157709号公報、1頁左下欄10?16行;特開昭61-249904号公報、1頁右下欄11行?2頁左上欄6行参照。]。
したがって、甲2発明において、害虫から保護する対象について木材と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(イ) 相違点2について
(イ-1) 本件訂正発明の特許出願時においては、シロアリに対する防除効果が高く、かつ、安全性の高い防除剤の開発が求められていたことが認められることは、本件判決が示すとおりである。
すなわち、
「『様々な昆虫が,工芸素材類に被害をもたらすことが知られており,それによって引き起こされた深刻な被害のために,住環境への影響,更に工芸素材類からできた文化財建造物への影響が,社会的問題になると共に,その保護並びに有効な防除が強く望まれている。そして,これら有害生物のうち,シロアリは,特に重要な害虫として知られている。』(段落【0002】)
『近年,我が国に於いては,従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデンがその長期残留性及び環境への影響の点から,使用禁止となり,現今使用されている薬剤は,主に,ホキシム・・・,クロルピリホス・・・等の有機リン系殺虫剤,並びにパーメスリン・・・,デカメスリン・・・等のピレスロイド系殺虫剤である。』(段落【0003】)
『また,上記ピレスロイド系殺虫剤の外に,サイパーメスリン・・・,フェンバレレート・・・,シフルトリン・・・も,シロアリ防除活性を有している。然しながら,これとても薬剤の使用濃度,並びにその効果及び安全性,また木造家屋(住居)並びに文化財等の性質上,薬剤処理回数の制約等々の問題もあり,決して満足いくべきものではない。』(段落【0004】)
上記記載によると,工芸素材類に対する害虫,特にシロアリの被害が深刻であるばかりか,防除剤の使用による住環境への影響等が社会的問題となる中,従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデンが,その長期残留性及び環境への影響の点から,本件発明に係る特許出願時に近い時期に我が国において使用禁止となったこと,その後,クロルデンに代わるシロアリ防除剤としてピレスロイド系殺虫剤などが使用されているが,薬剤の使用濃度並びに効果及び安全性に問題があるほか,木造家屋(住居)並びに文化財等についてはその性質上薬剤処理回数が制約されるなどの問題と相まって,満足のいくべきものではなかったこと,このため本件発明の特許出願時においては,シロアリに対する防除効果が高く,かつ,安全性の高い防除剤の開発が求められていたことが認められる。」(審決注.ここでいう段落とは、本件特許明細書のものをいう。)

(イ-2) 甲第2号証には、先に指摘したように、摘記(1)?(8)の各記載があるが、これらの記載から、本件判決が示す以下の点が認められる。
すなわち、
「上記記載によると,甲2発明の特許請求の範囲に記載されたニトロイミノ誘導体が,強力な殺虫作用を現す殺虫剤として使用することができること,同化合物が広範な種々の害虫,有害な吸液昆虫,かむ昆虫及びその他の植物寄生害虫,貯蔵害虫,衛生害虫等の防除及び駆除撲滅のために適用できるものであること,その対象となる害虫類の一例として,ヤマトシロアリ(deucotermes speratus),イエシロアリ(Coptotermes formosanus)などの等翅目虫が明記されていること,同化合物は石灰物質状のアルカリに対する良好な安定性を示すほか,木材及び土壌において優れた残効性を示すものであること,上記ニトロイミノ誘導体の実施例として,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物が示されていることが認められる。
また,甲2の記載によると,甲2発明の一般式によって示される化合物は50種類以上に及ぶこと(17頁右欄12行目以下,第1表),製造実施例として5種の化合物が記載され,そのうちの1つ(実施例3-ii,化合物No.3)がイミダクロプリドを有効成分として含有する化合物であること(16頁左欄上段19行目から17頁右欄上段11行目),実施例5ないし7として,有機リン剤抵抗性ツマグロヨコバイ,トビイロウンカ,ヒメトビウンカ,セジロウンカ並びに有機リン剤及びカーバメート剤抵抗性モモアカアブラムシに対する3種類の生物試験が行われ,その結果として,実施例5においては3種,実施例6においては5種,実施例7においては6種の化合物によるものが代表例として示されているところ,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物である「化合物No.3」は,いずれの生物試験の代表例にも挙げられていること(19頁左欄上段3行目から20頁左欄上段4行目)が認められる。」

(イ-3) 上記(イ-1)で認定したところによると、木造家屋(住居)及び文化財の如き、木材を含む工芸素材類をシロアリから保護するための防除剤の開発に従事する当業者は、使用が禁止されたクロルデンに代わる物質を有効成分とする害虫防除剤で殺虫能力と残効性の高いものを速やかに発見しなければならないという課題に直面していたということができる。
そして、上記(イ-2)のとおり、甲第2号証には、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに、木材における優れた残効性を示すこと、さらに、同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして、等翅目虫のヤマトシロアリ、イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから、上記の課題に直面していた当業者が、同一技術分野に属する刊行物である甲第2号証に接したならば、イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。

(3-3) 本件訂正発明の奏する効果についての判断
次に、本件訂正発明が格別顕著な効果を奏するものであるか否かについて検討する。
(なお、本項目で示す内容は、本件訂正発明1と本件訂正発明2とで区別する必要が特にないので、本項目では両者を区別せず、「本件訂正発明」として記載し、検討を進めることにする。)

まず、本件訂正発明は、上記のとおり、その構成につき容易想到性が認められるが、構成につき容易想到性が認められる発明に対して、それにもかかわらず、それが有する効果を根拠として特許を与えることが正当化されるためには、その発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることを要するものというべきである。(平成11年(行ケ)第437号判決等。)
そして、本件訂正明細書の記載、及び本件審判において提出されたすべての証拠によっても、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることを認めるに足りる証拠はない。
以下、詳述する。
(3-3-1) ヤマトシロアリについて
(ア) まず、ヤマトシロアリについて、本件訂正発明の奏する効果を検討する。
本件訂正明細書、及び本件審判において提出されたすべての証拠には、そもそも、ヤマトシロアリについて、本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものは存在しない。
すなわち、本件訂正明細書において、本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものは、実施例8?11であるが、実施例8、及び実施例9において対象となる害虫はイエシロアリであり、実施例10において対象となる害虫はヒロトルプス バジュラス(Hylotrupes bajulus)の幼虫であり、実施例11において対象となる害虫はシロアリ種;レチクリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)である。
また、本件審判において提出された、本件訂正発明の奏する効果を裏付けることに関連する証拠をみても、乙第1号証において対象となる害虫はイエシロアリであり、乙第9号証である、平成18年3月14日付けの坪井眞一の作成になる「無効2005-80225号審判事件(第3162450)について」と題する書面に添付された試験例1において対象となる害虫はミカンハモグリガ、ミカンマルハキバガ、アゲハチョ3類であり、同試験例2において対象となる害虫はチャノホソガ、チャノコカクモンハマキであり、乙第13号証の1において対象となる害虫はイエシロアリである。
そして、ヤマトシロアリ以外のものについての効果をもって、ヤマトシロアリについて本件訂正発明の奏する効果を裏付けることができると認めるに足る根拠は見いだせない。

(イ) 被請求人は、平成19年12月10日付けの訂正請求書8頁下から10?3行において、「本件訂正明細書の実施例11には、本件のイミダクロプリドが8週間(約2ヶ月)の試験期間後においてさえも、木材あたり0.135g/m^(3)?1.344g/m^(3)の間というきわめて低い有毒閥値において、ヤマトシロアリと同じミゾガシラシロアリ亜科の属のものである「レチクリターメスサントネシス(Reticuliter messantonesis)」を殺滅し、木材に痕跡が残る程度の被害しかもたらさなかったことが示されている・・・(〔0051〕?〔0054〕段落)」(審決注.下線は審決による。)と述べている。
これによると、被請求人は、本件訂正明細書の実施例11がヤマトシロアリについて本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものと考えているようである。
しかしながら、先に指摘したように、本件訂正明細書の実施例11における害虫はシロアリ種;レチクリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)であって、明らかにヤマトシロアリ(Leucotermes speratus)(本件訂正明細書5頁9行)とは異なるし、しかも、レチクリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)についての効果をもって、ヤマトシロアリ(Leucotermes speratus)について本件訂正発明の奏する効果を裏付けることができると認めるに足る根拠は見いだせないから、本件訂正明細書の実施例11の記載が本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものとは認められない。
しかも、
(イ-1)本件訂正明細書の実施例11(第5表)においては、そもそも、比較例として「クロロホルム注入」及び「無処理」しか採用しておらず、第5表に示された試験結果をもって、本件訂正発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
ただ、実施例11では、別途、第6表として、Holz als Rohr- und Werkstoff,35(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等による公知の殺虫剤のデータを引用し、比較値として提示しているが、これとても、第6表に示されているのは、従来技術水準を構成する殺虫剤であるから、第6表に示されている実験データと比較することにより、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
この点につき付言すると、まず、甲第2号証には、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である」(摘示(3))と記載されており、その効果の裏付けも記載されているし(摘示(8))、また、駆除撲滅のために適用できる害虫の例としてヤマトシロアリが記載されている(摘示(5))ので、甲第2号証に記載されたイミダクロプリドが、ヤマトシロアリに対し、「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす」ことは予想されることである。
そして、本件において、イミダクロプリドが甲第2号証に記載されたものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには、比較の対象として、(「クロロホルム注入」、「無処理」は論外であるが、)第6表に示されたような従来技術水準を構成する殺虫剤を用いるのではなく、甲第2号証に記載された、イミダクロプリド以外の化合物と比較することが必要不可欠である。また、
(イ-2) 前述のように、実施例11では、第6表として、Holz als Rohr- und Werkstoff,35(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等による公知の殺虫剤のデータを併せて提示しているが、試験方法に関し、防除効果試験で用いた木材の種類や試験温度、更にはシロアリ種の種類や齢数等について、実施例11で採用した条件と、Holz als Rohr- und Werkstoff,35(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等が採用した条件とが同じであると認めるに足る根拠は見いだせないところ、試験方法の同一性が確認できない試験結果同士を対比しても効果の比較はできないので、実施例11により、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。

(ウ) 小括
以上のとおり、ヤマトシロアリについて、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるとは認められない。
そして、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることを認めるためには、特許請求の範囲に記載された本件訂正発明全体(すなわち、ヤマトシロアリ、及びイエシロアリの両方)について、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることが必要不可欠であるから、結局、本件訂正発明について、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとは認められない。

(3-3-2) イエシロアリについて
以上のように、本件訂正発明については、イエシロアリについて本件訂正発明の奏する効果を検討するまでもなく、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとは認められないが、以下、念のため、イエシロアリについても、本件訂正発明の奏する効果を検討しておくことにする。

(ア) 本件訂正明細書において、イエシロアリについて本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものは、実施例8、及び実施例9である。
しかしながら、実施例8、及び実施例9において、イミダクロプリドに対する比較化合物として用いられているものは「A: ホキシム(phoxim)」、及び「B: クロルピリホス(chlorpyriphos )」であって、本件全文訂正明細書の2頁5?10行に記載されているように、両者は、ともに、周知の有機リン系殺虫剤であるところ、イミダクロプリドが甲第2号証に記載されたものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには、比較の対象として、ホキシムやクロルピリホスの如き従来技術水準を構成する殺虫剤を用いるのではなく、甲第2号証に記載された、イミダクロプリド以外の化合物と比較することが必要不可欠である。
なぜならば、甲第2号証には、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である」(摘示(3))と記載されており、その効果の裏付けも記載されているし(摘示(8))、また、駆除撲滅のために適用できる害虫の例としてイエシロアリが記載されている(摘示(5))ので、甲第2号証に記載されたイミダクロプリドが、イエシロアリに対し、「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす」ことは予想されることであるから、比較の対象としてホキシムやクロルピリホスの如き従来技術水準を構成する殺虫剤を用いて、それらよりイミダクロプリドが優れた効果を奏することを明らかにしたとしても、そのことは予想されることにすぎないからである。
したがって、本件訂正明細書の記載に基づいて、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。

(イ) 次に、本件審判において提出された、本件訂正発明の奏する効果を裏付ける証拠のうち、対象となる害虫がイエシロアリであるものについて、以下検討する。

(イ-1) 乙第1号証について
乙第1号証は、甲第2号証に記載されたニトロイミノ誘導体のうち、イミダクロプリドを含む8種のニトロイミノ誘導体化合物を選んで、それらのニトロイミノ誘導体がイエシロアリに及ぼす効果を観察したものである。
そして、乙第1号証に示されたニトロイミノ誘導体のイエシロアリに対する効果を示す試験結果(Fig.1?Fig.7)に示された限りにおいては、甲第2号証に記載された8種のニトロイミノ誘導体化合物のうち、イミダクロプリドは、他の7種のニトロイミノ誘導体化合物と比較して、イエシロアリに対する効果が高いということはできる。
しかしながら、そもそも、乙第1号証で試験したわずか8種のニトロイミノ誘導体化合物の試験結果を示したところで、甲第2号証の一般式(摘示(1)及び(2))に包含される数多くのニトロイミノ誘導体化合物(例えば、甲第2号証の第1表には53種のニトロイミノ誘導体化合物が例示されている。)のうち、イミダクロプリドが特に優れた効果を示すということはできないし、しかも、乙第1号証に示された試験結果(Fig.1?Fig.7)をみても、イミダクロプリド>NO.1>NO.2の順で効果の程度が高いとはいえるとしても、これらニトロイミノ誘導体の奏する効果の差異は連続的に推移する程度のものであって、イミダクロプリドのイエシロアリに対する効果が、NO.1やNO.2のイエシロアリに対する効果と比較して、格段に異なるとまではいえない。

(イ-2) 乙第13号証の1について
乙第13号証の1には、以下の事項が記載されている。
(2頁に記載された試験結果)
対象虫をイエシロアリとし、ハチクサンFL(審決注.イミダクロプリドを有効成分として含有する製剤)を用いて1年目、3年目、10年目の食害試験をしたところ、無処理の場合には何れも食害があったのに対し、ハチクサンFLの処理濃度%(有効成分)が0.1の場合には、1年目、3年目、10年目の何れにおいても食害がなかったことが示されており、これについて、「この様に、ハチクサンFLは10年経過した時点では、優れた防除効力を示している。」(2頁14?15行)と結論づけている。(以下、2頁に記載された試験結果を「試験1」という。)
(3頁に記載された試験結果)
対象虫をイエシロアリとし、ハチクサンFL、及び市販の有機リンA乳剤及び有機リンB乳剤をもちいて10年目の食害試験を比較したところ、市販の有機リンA乳剤及び有機リンB乳剤の処理濃度%(有効成分)が1.0の場合には何れも食害があったのに対し、ハチクサンFLの処理濃度%(有効成分)が0.2、0.1の場合には何れも食害がなく、ハチクサンFLの処理濃度%(有効成分)が0.05の場合には食害があったことが示されており、これについて、「この様に、ハチクサンFLは10年経過した時点では、優れた防除効力を示している。」(2頁14?15行)と結論づけている。(以下、3頁に記載された試験結果を「試験2」という。)

ここで、被請求人が平成19年12月10日付け訂正請求書において、「乙第13号証は、本件イミダクロプリド(商品名『ハチクサン』:乙第13号証の2)の野外試験結果を示すものであるが、その第1頁の表にもあるように、イミダクロプリドは有効成分濃度0.1%程度の低濃度においても10年に渉って木材等をシロアリの食害から保護し続け、また同号証の第2頁では、その効果が、市販の有機リン酸系薬剤を1.0%(イミダクロプリドの10倍)使用したときよりも優れていることが示されている」(9頁4?10行)と主張していることも考慮すると、試験1及び試験2による被請求人の立証趣旨は、(1)イミダクロプリドは、有効成分濃度0.1%程度の低濃度においても、10年にわたって木材等をイエシロアリの食害から保護すること、及び(2)イミダクロプリドの有効成分濃度0.1%程度におけるイエシロアリに対する効果は、市販の有機リン酸系薬剤を1.0%(イミダクロプリドの10倍)使用した場合よりも優れていること、にあると認められる。
そこで、以下、上記(1)及び(2)について検討する。
・上記(1)について
まず、上記(1)については、そもそも、かかる効果は、本件訂正明細書の記載に基づくものではないから、参酌できない。
すなわち、本件訂正明細書には「本発明者等は、・・・下記式(I)で表されるニトロメチレン又はニトロイミノ化合物が、工芸素材類に対し、・・・残効性を有することを発見した。」(全文訂正明細書2頁下から4?1行)、「式(I)の化合物は、公知薬剤よりも低濃度で、シロアリに対し残効作用を示す」(同3頁10?11行)、「【発明の効果】本発明の害虫防除剤は、上記実施例で示される通り、シロアリに代表される通り、工芸素材類を害虫より保護するために、優れた防除効果を現すと共に、顕著な残効力を有する。」(同21頁1?4行)という記載はある。
しかしながら、本件訂正明細書に記載された試験期間をみると、実施例8が4日、実施例9が3週間、実施例10が12週間、実施例11が8週間であり、結局、最大でも実施例10の12週間であるから、本件訂正発明における「顕著な残効力」とは、せいぜい半年程度効果が継続することを意味しているとしか解せないし、しかも、本件訂正明細書に「近年、我が国に於いては、従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデンがその長期残留性及び環境への影響の点から、使用禁止となり、」(同2頁5?6行)と記載されているように、本願出願日(優先日)当時、当業者において、シロアリ防除剤の長期残留性は、好ましくない要因であると認識されていたこと、を考慮すると、イミダクロプリドが、10年以上というような、本件訂正明細書で「顕著な残効力」としている期間と比べて桁違いに長い期間の残留性を示すことは、本件訂正明細書の記載からは想定され得ないからである。
その点をひとまずおくとしても、甲第2号証には、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「木材及び土壌における優れた残効性によって、きわだたされている。」(摘記(6))、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である」(摘示(3))と記載されており、また、駆除撲滅のために適用できる害虫の例としてイエシロアリが記載されている(摘示(5))ので、甲第2号証に記載されたイミダクロプリドが、イエシロアリに対し、際立って優れた残効性を示すとともに、低薬量で完璧な防除作用を現わすことは予想されることである。
したがって、試験1に示された結果から、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
・上記(2)について
上記(2)についても、そもそも、かかる効果は、本件訂正明細書の記載に基づくものではないから、参酌できない。
理由は、先に「・上記(1)について」で示したとおりである。
また、その点をひとまずおくとしても、甲第2号証には、イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である」(摘示(3))と記載されており、その効果の裏付けも記載されているし(摘示(8))、また、駆除撲滅のために適用できる害虫の例としてイエシロアリが記載されている(摘示(5))ので、甲第2号証に記載されたイミダクロプリドが、イエシロアリに対し、「極めて卓越した殺虫作用を発現し、更には、低薬量で完璧な防除作用を現わす」ことは予想されることであるから、比較の対象として、従来技術水準を構成する市販の有機リン酸系薬剤を用いて、それらよりイミダクロプリドが優れた効果を奏することを明らかにしたとしても、そのことは予想されることにすぎないからである。
したがって、試験2に示された結果から、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。

(ウ) 小括
以上のとおり、イエシロアリについても、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるとは認められない。
したがって、イエシロアリ、及びヤマトシロアリの何れについても、本件訂正発明について、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとは認められない。

(3-4) 「本件訂正発明1について」のまとめ
以上のとおり、上記各相違点は当業者が容易に想到することができたものであり、しかも、本件訂正発明1がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本件訂正発明1は、甲2発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4) 本件訂正発明2について
(4-1) 本件訂正発明2と甲2’発明との対比
甲2’発明における「殺虫剤」は、本件訂正発明2における「害虫防除剤」に対応することを踏まえると、甲第2号証には、
「イミダクロプリドを用いる害虫防除剤。」
に関する発明が記載されている。
そこで、本件訂正発明2と甲2’発明とを対比すると、両者は、
「イミダクロプリドを用いる」
点で一致するが、以下に示す相違点1?相違点3の点で相違すると認められる。
相違点1
イミダクロプリドの用途について、本件訂正発明2では「土壌処理することにより・・・侵襲から保護する方法」と規定しているのに対し、甲2’発明では「害虫防除剤」と規定している点。
相違点2
害虫から保護する対象について、本件訂正発明2では「木材及び木質合板類」と規定しているのに対し、甲2’発明では規定していない点、及び
相違点3
対象となる害虫が、本件訂正発明2ではイエシロアリ又はヤマトシロアリであるのに対し、甲2’発明では特定されていない点。

(4-2) 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
本件訂正発明2における防除の対象となる害虫は「イエシロアリ又はヤマトシロアリ」であるところ、イエシロアリやヤマトシロアリなどのシロアリを防除するために、シロアリ防除剤(害虫防除剤)により土壌処理することは周知である[必要なら、例えば、甲第3号証(特開昭63-122601号公報)、1頁右下欄4?10行;更に必要なら、特開昭58-157709号公報、3頁右上欄1?11行(特に、6行);特開昭61-249904号公報、5頁左上欄4行?右上欄9行参照。]。
また、「侵襲から保護する方法」と「防除剤」との相違は単なるカテゴリーの相違にすぎないし、しかも、イエシロアリやヤマトシロアリなどのシロアリ防除剤(害虫防除剤)を、イエシロアリやヤマトシロアリなどのシロアリなどの害虫による侵襲から保護するために用いることは自明である。
したがって、甲第2号証に記載された「イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤。」の発明に基づいて、「イミダクロプリドを土壌処理することにより、(イエシロアリ又はヤマトシロアリの)侵襲から保護する方法」の発明に想到することは当業者が容易になし得ることである。

(イ) 相違点2について
相違点2は、本件訂正発明1と甲2発明との相違点1と同じであるから、先に第6 2 (3-2)(ア)「相違点1について」で示したのと同じ理由で、甲2’発明において、害虫から保護する対象について木材と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(ウ) 相違点3について
相違点3は、本件訂正発明1と甲2発明との相違点2と同じであるから、先に第6 2 (3-2)(イ)「相違点2について」で示したのと同じ理由で、上記の課題に直面していた当業者が、同一技術分野に属する刊行物である甲第2号証に接したならば、イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。

(4-3) 本件訂正発明の奏する効果についての判断
先に第6 2 (3-3)「本件訂正発明の奏する効果についての判断」で示したのと同じ理由で、イエシロアリ、及びヤマトシロアリの何れについても、本件訂正発明について、本件訂正発明が現実に有する効果が、当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとは認められない。

(4-4) 「本件訂正発明2について」のまとめ
以上のとおり、上記各相違点は当業者が容易に想到することができたものであり、しかも、本件訂正発明2がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本件訂正発明2は、甲2’発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5) 被請求人の主張について
被請求人は、概略、以下のように、本件訂正発明の進歩性を主張している。
(5-1) 本件訂正発明のイミダクロプリドを有効成分とするシロアリ防除剤が商業上の卓越した成功を収めたことは、本件訂正発明の技術水準の高さを裏付けている。(審判事件答弁書、4頁下から6行?5頁下から6行;平成19年12月10日付け訂正請求書、9頁10?13行)
(5-2) 甲第2号証には、「衛生害虫、貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は、石灰物質上のアルカリに対する良好な安定性はもちろんのこと、木材及び土壌における優れた残効性によって、きわだたされている。」(摘記(6))と記載されているが、当該記載中、甲第2号証のニトロイミノ誘導体が木材及び土壌において優れた残効性を示すものであるというのは、「衛生害虫、貯蔵物に対する害虫」を対象とする場合のみをいうのであって、広範な種々の害虫全般に亘りおしなべて等しく木材及び土壌において優れた残効性があるとするものではない。
そして、本件訂正発明のイエシロアリ及びヤマトシロアリはかかる衛生害虫、貯蔵物に対する害虫の範疇には包含されない。
したがって、少なくとも当該「木材及び木質合板類」の保護という具体的な用途に関する訂正後の特許請求の範囲に記載の発明は、甲第2号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。(平成19年12月10日付け訂正請求書、6頁下から8行?10頁22行)
(5-3) 甲第2号証には、イミダクロプリドがシロアリに対して格別顕著な殺虫効果を現していることなど記載されておらず、本件訂正発明の進歩性は首肯されるべきである。(審判事件答弁書、9頁下から11?4行)
また、本件訂正発明は、当業者さえもが当然には予測し得なかったような格別顕著な効果を奏するから、選択発明として特許性を獲得することは明らかである。(平成19年12月10日付け訂正請求書、10頁23行?11頁21行)

しかしながら、被請求人の主張は採用できない。理由は以下のとおりである。
・被請求人の主張(5-1)について
商業的成功を収めるかどうかは、発明の内容のほか、製品の内容や価格、宣伝広告の方法などに左右されるところが大きいから、商業的成功を収めているからといって、必ずしも発明に進歩性があるということはできず、その有無の判断は、引用例との対比により、厳密になされるべきものである。そして、先に検討したとおり、本件訂正発明1及び2は、引用例たる甲第2号証との対比により、進歩性が認められないのであるから、被請求人の前記主張は当を得ないことに帰する。

・被請求人の主張(5-2)について
既に確定した本件判決において、「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。」という判断が下されている。
被請求人の主張は、上記判断に抵触するものであるから、被請求人の主張は採用できない。
付言すると、上記判断には「木材における優れた残効性を示すこと」も含まれているから、「工芸素材類」を「木材及び木質合板類」と訂正しても、上記判断は、本件訂正発明に対してもそのまま当てはまる。

.被請求人の主張(5-3)について
先に第6 2 (3-3)「本件訂正発明の奏する効果についての判断」で指摘したとおり、本件訂正発明1及び2が格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、被請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び2は甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、平成5年改正前特許法123条1項1号に該当する。
したがって、請求人が主張するその余の無効理由について検討するまでもなく、本件訂正発明1及び2は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤
(57)【特許請求の範囲】
1.1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。
2.1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを土壌処理することにより、木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤマトシロアリの侵襲から保護する方法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除技術に関する。詳しくは、本発明は、工芸素材類を加害する昆虫類を防除する薬剤としての公知ニトロメチレン化合物、又はニトロイミノ化合物の使用に関する。また、本発明は、工芸素材類を完璧に保護するに有用な、上記害虫防除のための組成物にも関し、ここで、該組成物は、工芸素材類を完璧に防除するに際しては、害虫はもとより、菌類、細菌、藻類に対しても、有用であり、またシロアリの侵襲に対して、工芸素材類を保護するための土壌処理にとって、有用なものである。本発明は、更に、工芸素材類を処理するための方法及びシロアリ侵襲に対する土壌処理方法にも関する。
従来の技術
ニトロメチレン化合物、又はニトロイミノ化合物、並びに、植物保護の分野に於ける該化合物の殺虫剤としての利用は、EP-A163,855及びEP-A192,060に示される通り、公知である。然しながら、上記刊行物には、該化合物類が工芸素材類を害虫から完璧に保護することや、またシロアリの侵襲に対し、土壌処理すること等については、全く記載されていない。様々な昆虫が、工芸素材類に被害をもたらすことが知られており、それによって引き起こされた深刻な被害のために、住環境への影響、更に工芸素材類からできた文化財建造物への影響が、社会的問題になると共に、その保護並びに有効な防除が強く望まれている。そして、これら有害生物のうち、シロアリは、特に重要な害虫として知られている。
近年、我が国に於いては、従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデンがその長期残留性及び環境への影響の点から、使用禁止となり、現今使用されている薬剤は、主に、ホキシム〔化学名:0-(α-シアノベンジリデンアミノ)0,0-ジエチルホスホロチオエート〕、クロルピリホス〔化学名:0,0-ジエチル3,5,6-トリクロロ-2-ピリジルホスホロチオエート〕等の有機リン系殺虫剤、並びにパーメスリン〔化学名:5-ベンジル-3-フリルメチル3-(2-メトキシ-カルボニル-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート〕、デカメスリン〔化学名:α-シアノ-3フェノキシベンジルd,l-シス-3-(2,2-ジブロモビニル)-2,2-ジメチル シクロプロパンカルボキシレート〕等のピレスロイド系殺虫剤である。
また、上記ピレスロイド系殺虫剤の外に、サイパーメスリン〔化学名:α-シアノ-3-フェノキシベンジル(±)シス、トランス-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート〕、フェンバレレート〔化学名:(RS)-α-シアノ-3-フェノキシベンジル(R,S)-2-(4-クロロフェニル)-3-メチルブチレート〕、シフルトリン〔化学名:シアノ-4-(フルオロ-3-フェノキシフェニル)メチル-3-(2,2-ジクロロエテニル)-2,2-ジメチル-シクロプロパンカルボキシレート〕も、シロアリ防除活性を有している。然しながら、これとても薬剤の使用濃度、並びにその効果及び安全性、また木造家屋(住居)並びに文化財等の性質上、薬剤処理回数の制約等々の問題もあり、決して満足いくべきものではない。
発明が解決しようとする課題及び手段
本発明者等は、この度、上記課題を解決するに足る薬剤を見い出すべく検討した結果下記式(I)で表されるニトロメチレン又はニトロイミノ化合物が、工芸素材類に対し、被害をもたらす昆虫類、特にシロアリに対し、極めて強い殺虫作用を示し、且つ残効性を有することを発見した。

式中、Xは、NH又はSを示し、Yは、CH又はNを示し、Zは、2-クロロ-5-ピリジル基又は2-クロロ-5-チアゾリル基を示し、R^(1)は、水素原子又はメチル基を示し、そしてnは、0又は1を示す。
本発明によれば、上記式(I)の化合物は、驚くべきことには、工芸素材類に被害をもたらす害虫に対し、極めて強力な殺虫作用を示し、そして該作用は、公知殺虫剤と比較しても、実質的に、極めて顕著な作用であると共に、公知薬剤のそれよりも、極めて低濃度であることから、環境面に於いても許容され得るものである。式(I)の化合物は、工芸素材類を害虫から保護するために使用することができる。
更に式(I)の化合物は、公知薬剤よりも低濃度で、シロアリに対し残効作用を示すことから、安全且つ的確な防除が可能であって、シロアリの被害をうける木造建築物に対し、有利に使用することができる。式(I)に於いて、好ましい例は、Xが、NH又はSを示し、Yが、CH又はNを示し、Zが、2-クロロ-5-ピリジル基を示し、R^(1)が、水素原子を示し、そしてnが、0又は1を示すところの化合物をあげることができる。
本発明で使用される式(I)の化合物の例として、好ましい例は、次の通りである;1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-イミダゾリジン、3-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-チアゾリジン、1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン、1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-テトラヒドロピリミジン、3-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-テトラヒドロ-2H-1,3-チアジン。
本発明の式(I)の活性化合物は、工芸素材類に被害をもたらす害虫に対し、強力な殺虫効果を示すことから、該害虫類を防除するために、また該工芸素材類を保護するために、殺虫用薬剤の活性成分として使用できる。また、それらは、シロアリの侵襲に対して、土壌処理としても、使用できる。
本発明の殺虫剤によって、保護される工芸素材類の個々の例としては、その定義も含めて、次のものが例示できる。木材、木質合板類(例えば、圧縮材、小片ボード、チップボード、ウェハーボード、プライウッド、積層木材、製材化角材・板材・引き材等々)、紙類、革、皮革製品、天然又は合成ポリマー類、織物類等々。上記、工芸素材類に於いて、その好ましいものは、木材または木質合板類を示す。
本発明の式(I)の活性化合物により攻撃防除され得る害虫類の個々の例としては、次のものがあげられる。
等翅目(Isoptera):マストターミチデ(Mastotermitidae)亜目、カロターミチデ(Kalotermitidae)亜目〔例えば、カロターメス種(Kalotermes spp.)、クリプトターメス種(Cryptotermes spp.)等〕、ターモプシデ(Termopsidae)亜目〔例えば、ズーターモプシス種(Zootermopsis spp.)等〕、ライノターミチデ(Rhinotermitidae)亜目〔例えば、レチクリターメス種(Reticulitermes spp.)、ヘテロターメス種(Heterotermes spp.)、コプトターメス種(Coptotermes spp.)等〕、ターミチデ(Termitidae)亜目〔例えば、アミターメス種(Amitermes spp.)、ナスチターメス種(Nasutitermes spp.)、アカントターメス種(Acanthotermes spp.)、ミクロターメス種(Mikrotermes spp.)等〕、
鞘翅目(Coleoptera):リクチデ(Lyctidae)亜目〔例えば、リクタス ブルネウス(Lyctus brunneus)等〕、ボストリチデ(Bostrychidae)亜目〔例えば、ボストリカス カプシナス(Bostrychus capucinus)、ジノデルス ミヌタス(Dinoderus minutus)等〕、アノビイデ(Anobiidae)亜目〔例えば、アノビウム パンクタタム(Anobium punctatum)、キシレチナス ペルタタス(Xyletinus peltatus)、ゼストビウム ルホビロサム(Xestobium rufovillosum)、プチリナス ペクチニコミス(Ptilinus pectinicomis)等〕、セラムビシデ(Cerambycidae)亜目〔例えば、ヒロトルプス バジュラス(Hylotrupes bajulus)、ヘスペロハナス シネレウス(Hesperophanuscinereus)、ストロマチウム フルバム(Stromatium fulvum)、クロロホラス ピロサス(Chlorophorus pilosus)等〕、エデメリデ(Oedemeridae)亜目、セロプルピデ(Serropulpidae)亜目、クルクリオニデ(Curculionidae)亜目、セオリチデ(Seolytidae)亜目、プラチポジデ(Platypodidae)亜目、
膜翅目(Hymenoptera):シンシデ(Sincidae)亜目〔例えば、シレックス種(Sirex spp.)、ウロセラス種(Urocerus)等〕、ホルミシデ(Formicidae)亜目〔例えば、カムポノタス種(Camponotus spp.)等〕、等々。
上記等翅目(Isoptera)に於いて、特に、本邦に於ける防除対象のシロアリの種類の例としては、
ヤマトシロアリ(Leucotermes speratus)、
イエシロアリ(Coptotermes formosanus)、
カタンシロアリ(Glyptotermes fucus)、
サツマシロアリ(Glyptotermes satsumensis)、
ナカジマシロアリ(Glyptotermes nakajimai)、
コダマシロアリ(Glyptotermes kodamai)、
アメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor)、
コウシュンシロアリ(Neotermes koshunensis)、
ダイコクシロアリ(Cryptotermes domesticus)、
オオシロアリ(Hodotermopsis japonica)、
アマミシロアリ(Reticulitermes miyatakei)、
タイワンシロアリ(Odontotermes formosanus)、
タカサゴシロアリ(Nasutitermes takasagoensis)、
ニトベシロアリ(Capritermes nitobei)等をあげることができる。
本発明の活性化合物は通常の製剤形態にすることができる。そして斯かる形態としては、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、粉剤、泡沫剤、ペースト、粒剤、エアゾール、活性化合物浸潤-天然及び合成物、マイクロカプセル等を挙げることができる。これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。斯かる方法は、例えば、活性化合物を、展開剤、即ち、液体希釈剤;液化ガス希釈剤;固体希釈剤又は担体、場合によっては界面活性剤、即ち、乳化剤及び/又は分散剤及び/又は泡沫形成剤を用いて、混合することによって行われる。展開剤として水を用いる場合には、例えば、有機溶媒はまた補助溶媒として使用することができる。
液体希釈剤又は担体としては、概して、芳香族炭化水素類(例えば、キシレン、トルエン、アルキルナフタレン等)、クロル芳香族又はクロル化脂肪族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン類、塩化エチレン類、塩化メチレン等)脂肪族炭化水素類〔例えば、シクロヘキサン等、パラフイン類(例えば鉱油留分等)〕、アルコール類(例えば、ブタノール、グリコール及びそれらのエーテル、エステル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はシクロヘキサノン等)、強極性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)そして水も挙げることができる。
液化ガス希釈剤又は担体、常温常圧でガスであり、その例としては、例えば、ブタン、プロパン、窒素ガス、二酸化炭素、そしてハロゲン化炭化水素類のようなエアゾール噴射剤を挙げることができる。固体希釈剤としては、土壌天然鉱物(例えば、カオリン、クレー、タルク、チョーク、石英、アタパルガイド、モンモリロナイト又は珪藻土等)、土壌合成鉱物(例えば、高分散ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等)を挙げることができる。粒剤のための固体担体としては、粉砕且つ分別された岩石(例えば、方解石、大理石、軽石、海泡石、白雲石等)、無機及び有機物粉の合成粒、そして有機物質(例えば、おがくず、ココやしの実のから、とうもろこしの穂軸そしてタバコの茎等)の細粒体を挙げることができる。
乳化剤及び/または泡沫剤としては、非イオン及びイオン性乳化剤〔例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル(例えば、アルキルアリールポリグリコールエーテル、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アリールスルホン酸塩等)〕、アルブミン加水分解生成物を挙げることができる。分散剤としては、例えば、リグニンサルファイト廃液、そしてメチルセルロースを包含する。固着剤も、製剤(粉剤、粒剤、乳剤)に使用することができ、斯る固着剤としては、カルボキシメチルセルロースそして天然及び合成ポリマー(例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコールそしてポリビニルアセテート等)を挙げることができる。
着色剤を使用することもでき、斯る着色剤としては、無機顔料(例えば酸化鉄、酸化チタンそしてプルシアンブルー)、そしてアリザリン染料、アゾ染料又は金属フタロシアニン染料のような有機染料そして更に、鉄、マンガン、ボロン、銅、コバルト、モリブデン、亜鉛のそれらの塩のような微量要素を挙げることができる。該製剤は、一般には、前記活性成分を0.001?95重量%、好ましくは0.5?90重量%含有することができる。
更に、本発明の式(I)活性化合物は、協力剤との混合剤としても、存在することもでき、斯かる製剤及び、使用形態は、商業上有用なものを挙げることができる。該協力剤は、それ自体、活性である必要はなく、活性化合物の作用を増幅する化合物である。本発明の式(I)活性化合物の商業上有用な使用形態における含有量は、広い範囲内で、変えることができる。本発明の式(I)活性化合物の使用上の濃度は、例えば0.0000001?100重量%であって、好ましくは、0.0001?1重量%である。本発明の式(I)活性化合物は、使用形態の適合した通常の方法で使用することができる。
上記の工芸素材類を完璧に保護するために、即ち、これらに被害をもたらす害虫類をはじめ、菌類、細菌、藻類より、守るために、該工芸素材類は、前記式(I)の活性化合物の少なくとも一種と、殺菌剤、殺バクテリア剤又は殺藻剤の少なくとも一種とを含む組成物で処理することができる。木材又は木質合板類は、好ましくは、前記式(I)の化合物またはそれの混合物の殺虫有効量と、下記群より選ばれる少なくとも一種の殺菌性化合物の殺菌有効量とを含む組成物で処理することができる;
(群)
トリハロスルフェニル系化合物、例えば、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)-N,N′-ジメチル-N-フェニルスルファミド(一般名:ジクロフルアニド dichlofluanide)、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)-N′,N′-ジメチル-N-p-トリルスルファミド(一般名:トリルフルアニド tolylfluanide)、N-(トリクロロメチルチオ)フタルイミド(一般名:フォルペット folpet)、N-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド(一般名:フルオルフォルペット fluorfolpet)等、
ヨード系化合物、例えば、3-ヨード-2-プロピニル-ブチルカーバメート(IPBC)、3-ヨード-2-プロピニル-ヘキシルカーバメート、3-ヨード-2-プロピニル-シクロヘキシルカーバメート、3-ヨード-2-プロピニル-フェニルカーバメート、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(一般名:アミカル48 amical48)等、フェノール系化合物、例えば、o-フェニルフェノール、トリブロモフェノール、テトラクロロフェノール、ペンタクロロフェノール等、
アゾール系化合物、例えば、1-(4-クロロフェノキシ)-3,3-ジメチル-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-2-ブタノン(一般名:トリアジメホン triadimefon)、β-(4-クロロフェノキシ)-α-(1,1-ジメチルエチル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-エタノール(一般名:トリアジメノール triadimenol)、±α-〔2-(4-クロロフェニル)エチル〕-α-(1,1-ジメチルエチル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-エタノール(一般名:テブコナゾール tebuconazol)、1-〔2-(2,4-ジクロロフェニル)-4-プロピル-1,3-ジオキソラン-2-イルメチル〕-1H-1,2,4-トリアゾール(一般名:プロピコナゾール propiconazol)、1-〔2-(2,4-ジクロロフェニル)-1,3-ジオキソラン-2-イルメチル〕-1H-1,2,4-トリアゾール(一般名:アザコナゾール azaconazol)、1-{N-プロピル-N-〔2-(2,4,6-(トリクロロフェノキシ)エチル〕カルバモイル}イミダゾール(一般名:プロクロラズ prochloraz)等、
スズ化合物、例えば、トリブチルスズオクチレート、トリブチルスズオレエート、ビス-トリブチルスズオキサイド、トリブチルスズナフテネート、トリブチルスズホスフェート、トリブチルスズベンゾエート等、チオシアネート系化合物、例えば、メチレンビスチオシアネート(MBT)、2-チオシアノメチルチオベンゾチアゾール(TCMTB)等、4級アンモニウム化合物、例えば、ベンジル-ジメチル-テトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジル-ジメチル-ドデシルアンモニウムクロライド等、
ベンズイミダゾール系化合物、例えば、2-(2′-フリル)-1H-ベンズイミダゾール(一般名:フベリダゾール fuberidazole)、メチルベンズイミダゾール-2-イルカーバメート(BCM)、2-(4′-チアゾリル)ベンズイミダゾール(一般名:チアベンダゾール thiabendazole)、メチル-(1-ブチルカルバモイル)-2-ベンズイミダゾールカーバメート(一般名:ベノミル benomyl)等、
イソチアゾリノン系化合物、例えば、N-メチルイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-N-メチルイソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-N-オクチルイソチアゾリン-3-オン、N-オクチルイソチアゾリン-3-オン等、モルホリン系化合物、例えば、C_(14)-C_(11)-4-アルキル-2,6-ジメチルモルホリン(一般名:トリデモルフ tridemorph)、ピリジン系化合物、例えば、1-ヒドロキシ-2-ピリジン-チオン及びそのナトリウム鉄塩、マンガン塩、亜鉛塩、テトラクロロ-4-メチルスルホニルピリジン等、
N-シクロヘキシルジアジニウムジオキシ系化合物、例えば、トリス-(N-シクロヘキシルジアジニウムジオキシ)アルミニウム、ビス-(N-シクロヘキシルジアジニウムジオキシ)銅等、ナフテン酸系化合物、例えば、ナフテン酸亜鉛等、キノリン系化合物、例えば、8-ヒドロキシキノリン銅塩等、ニトリル系化合物、例えば、1,2,3,5-テトラクロロ-4,6-シアノベンゼン等、ボロン化合物類、例えば、ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸塩等、ウレア化合物類、例えば、N′-(3,4-ジクロロフェニル)-N,N′-ジメチルウレア等、フラン誘導体、例えば、(N-シクロヘキシル-N-メトキシ)-2,5-ジメチル-3-フランカルボキサミド(一般名:フルメシクロックス)等。
これらの殺菌活性化合物は、木材又は木質合板類を、木材に被害をもたらす害虫類をはじめ、同様に被害をもたらす下記例示群の菌類から保護するために、前記組成物に加えることができる。
(群)
木材の退色をひき起こす菌類:アスコミセテス(Ascomycetes)〔例えば、カラトシスチス ミノル(Caratocystis minor)〕、ドイテロミセテス(Deuteromycetes)〔例えば、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アウレオバシジウム プルラウス(Aureobasidium pullulaus)、ダクチレウム フザリオイデス(Dactyleum fusarioides)、ペニシリウム バリアビレ(Penicilliumvariabile)、スクレロホマピチオヒラ(Sclerophomapithyophila)、スコプラリア ヒコミセス(Scopularia phycomyces)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ リグオラム(Trichoderma liguorum)〕、ジゴミセテス(Zygomycetes)〔例えば、ムコル スピノサス(Mucor spinosus)〕、及び/又は
木材を破壊する菌類:アスコミセテス(Ascomycetes)〔例えば、ケトミウム アルバ-アレヌラム(Chetomium alba-arenulum)、カエトニウム グロボサム(Chaetonium globosum)、フミコラ グリセア(Humicola grisea)、ペトリエラ セチヘラ(Petriella setifera)、トリクラス スピラリス(Trichurus spiralis)〕、バシジオミセテス(Basidiomycetes)〔例えば、コニオヘラ プテアナ(Coniophera puteana)、コリオラス ベルシコラ(Coriolus versicolor)、ドンビオポラ エクスパンサ(Donbiopora expansa)、グレノスポラ グラヒイ(Glenospora graphii)、グレオヒラム アビエンチナム(Gloeophyllum abientinum)、グレオヒラム アドラタム(Gloeophyllum adoratum)、グレオヒラム プロタクタム(Gloeophyllum protactum)、グレオヒラム トラベウム(Gloeophyllum trabeum)、グレオヒラム セピアリウム(Gloeophyllum sepiarium)、レンチナス シアチオホルメス(Lentinus cyathioformes)、レンチナス エドデス(Lentinus edodes)、レンチナス レピデウス(Lentinus lepideus)、レンチナス スクアブロロサス(Lentinus squavrolosus)、パキラス パノイデス(Paxillus pannoides)、プレウロタス オストレアタス(Pleurotus ostreatus)、ポリア プラセンタ(Poria placenta)、ポリア モンチコラ(Poria monticola)、ポリア バイランチ(Poria vaillantii)、ポリア バポリア(Poria vaporia)、セルプラ ヒマントイデス(Serpula himantoides)、セルプララクリマンス(Serpula lacrymans)、チロミセス パラストリス(Tyromyces palustris)〕、ドイテロミセテス(Deuteromycetes)〔例えば、クラドスポリウム ヘルブラム(Cladosporium herbarum)〕。
一般には、本発明の組成物は、下記の付加物の少なくとも一種を含むことができる。希釈剤、乳化剤、溶解剤、有機結合剤、補助溶媒、処理付加物、固着剤、可塑剤、紫外線-安定化剤又は安定増強剤、染料(水可溶性、水不溶性)、着色顔料、乾燥剤、腐食防止剤、抗沈澱剤、殺虫剤(例えば、カーバメート系、有機リン系、ハロゲン化脂肪族アルキル系、ピレスロイド系等)、皮膚荒れ防止剤等々。上記の付加成分、並びにその使用は、EP-A370665、DE-A3,531,257およびDE-A3,414,244に示されている。
本発明の組成物は、一般には、式(I)の殺虫性化合物を10^(-6)?30重量部、好ましくは0.0005?15重量部、より好ましくは、0.005?2重量部と、上記殺菌性化合物を0.01?90重量部、好ましくは、0.05?50重量部、より好ましくは、0.1?30重量部とから構成される。該組成物は、散布用プロダクツ又は濃縮物として、供給することができ、またそれを使用する際には、使用に先だって、希釈されることが必要である。該組成物は、塗布、散布、浸漬、真空薬剤注入等の公知方法で、施用することができる。また、該組成物は、公知の技術によって、調製することができる。
次に実施例により、本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるべきものではない。
実施例
実施例1
0.005% 1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン(一般名:イミダクロプリド)
5% ブチルグリコール
94.995% 石油スピリット
実施例2(浸み込用剤/下塗剤)
0.01% イミダクロプリド
0.5% ジクロフルアニド
1% テブコナゾール
9.7% アルキド樹脂
88.79% 石油スピリット
実施例3(木材着色塗料/含低濃度結合剤)
0.01% イミダクロプリド
0.5% ジクロフルアニド
1.2% テブコナゾール
21% アルキド樹脂
2% 顔料
4% 抗沈澱付加物、乾燥剤等
71.29% 石油スピリット
実施例4(木材着色塗料/含高濃度結合剤)
0.015% イミダクロプリド
0.6% ジクロフルアニド
1.5% テブコナゾール
40% アルキド樹脂
2% 顔料
4% 抗沈澱付加物、乾燥剤等
48.115% 石油スピリット
実施例5(土壌処理)
20% イミダクロプリド
8% エチレングリコール
3% 界面活性剤
0.25% 増粘剤等
68.75% 蒸留水
実施例6(木材塗布)
0.1% イミダクロプリド
1% 3-ブロモ-2,3-ジヨード-2-プロペニルエチルカルボナート
98.9% 有機溶剤
実施例7(木材塗布)
0.1% イミダクロプリド
1.5% 4-クロロフェニル-3-ヨードプロパルギルホルマール
98.4% 有機溶剤
実施例8
殺蟻試験
供試化合物
本発明活性化合物例
I.1:1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-イミダゾリジン
I.2:3-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロメチレン-チアゾリジン
I.3:1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジン
比較化合物
A:ホキシム(phoxim)
B:クロルピリホス(chlorpyriphos)
供試薬液の調整
溶剤:キシロール3重量部
乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル1重量部
適当な活性化合物の調合物を作るために活性化合物1重量部を前記量の乳化剤を含有する前記量の溶剤と混合し、その混合物を水で所定濃度まで希釈した。
試験方法:上記方法により所定濃度に希釈した薬液1mlを、直径9cmのガラスシャーレに敷いた濾紙に均一になるようピペットにて施用し1シャーレ当りイエシロアリ(Coptotermes formosanus)の職蟻10匹を放し、25℃の恒温器に収納した。4日後死虫数を数え、殺虫率を算出した。尚、この試験は2連制にて行った。その結果を第1表に示す。

実施例9
残効試験
実施例8と同様に希釈された薬液に2cm×2cm×2cmのアカマツ辺材を1分間浸漬し、風乾した後、40℃の恒温器に入れ4週間保存した。4週間後、直径10cmのポリカップに、各々、150mlの砂壌土(含水量:20%)と共に薬剤処理したアカマツ辺材を入れ、1カップ当りイエシロアリの職蟻200匹と兵蟻20匹を放し3週間後、アカマツ辺材の食害程度と生虫数を調査し、殺虫率を算出した。尚、これらの試験は25℃、2連制にて行った。その結果を第2表に示す。
食害度
0:食害なし
0.5:表面から1mm程度のあさい食痕が1?2ヶ所ある
1:表面から1?2mm程度のはっきりした食痕が1?2ヶ所ある
2:3ヶ所以上のはっきりした食痕または2mm以上の深い食痕が1ヶ所以上ある
3:3ヶ所以上の深い食痕がある
4:はっきりした食痕が材の表面積の1/3程度まである
5:はっきりした食痕が材の表面積の1/3以上にわたる

実施例10
ヒロトルプス バジュラス(Hylotrupes bajulus)の幼虫に対する防除効果試験
実施例8で供試した活性化合物I.3の1.44×10^(-5)%、1.44×10^(-4)%、7.2×10^(-3)%、及び1.44×10^(-2)%の有効成分濃度のクロロホルム溶液で予め処理された木材片標本を用い、ヒロトルプス バジュラスの幼虫に対する防除効果試験が、DIN EN47〔1990年 Beuth Verlag GMBH発行「DIN Taschenbuch Holzschutz」記載〕(Hylotrupes bajulusの幼虫に対する有毒値を決定するための、木材保護に関するヨーロッパ標準化委員会により規定されたヨーロッパ標準法)に詳記される方法に従って、行なわれ、効果を判定した。
試験の概要は、次の通りである。予め真空薬剤注入された木材片(5×2.5×1.5cm)を5標本用意し、夫々に6ケの穴をあけ、1穴当り、1頭の幼虫を入れる。4週間後に標本片を順に割り、幼虫の生死を判定する。判定に際しては、生存幼虫の確認の時点で、残りの標本片の割裂をせずに、更に8週間試験を継続し、計12週間後に、幼虫の生死の判定を行なう。この試験から、活性化合物I.3の木材吸収濃度のヒロトルプス バジュラスの幼虫に対する有毒閾値は1.08g/m^(3)と10.8g/m^(3)の間であった。試験結果を第3表に示す。

実施例10の比較として、次のデータを例示する。
比較値〔Holz als Roh-und Werkstoff,35(1977),233-237,表6,236頁;W.Metzner等〕

実施例11
シロアリ種;レチクリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)に対する効果試験
実施例10と同じ濃度の活性化合物I.3のクロロホルム溶液を用い、レチクリターメス サントネシスに対する防除試験が、DIN EN117(Reticulitermes santonesisに対する有毒値を決定するための、木材保護に関するヨーロッパ標準化委員会によって規定されたヨーロッパ標準法)に詳記される方法に従って、行なわれ、効果を判定した。
試験の概要は、次の通りである。予め真空薬剤注入された実施例10と同様の木材片を3標本用意し、一試験区当り250頭の職蟻、一頭の兵蟻及び1頭の幼生を供し、8週間さらした後、生死を判定する。この試験から、活性化合物I.3の木材吸収濃度のレチクリターメス サントネシスに対する有毒閾値は0.135g/m^(3)と1.344g/m^(3)の間であった。
評価は下記の基準で行なわれた。
評価値
0:被害なし
1:被害痕跡
2:被害小程度
3:被害中程度
4:被害甚大、サンプル木材破砕
試験結果を第5表に示す。

実施例11の比較として、次のデータを例示する。
比較値〔Holz als Rohr-und Werkstoff,35(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等〕

発明の効果
本発明の害虫防除剤は、上記実施例で示される通り、シロアリに代表される通り、工芸素材類を害虫より保護するために、優れた防除効果を現すと共に、顕著な残効力を有する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-05-26 
結審通知日 2006-05-31 
審決日 2006-06-14 
出願番号 特願平3-350751
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01N)
最終処分 成立  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
鈴木 紀子
登録日 2001-02-23 
登録番号 特許第3162450号(P3162450)
発明の名称 工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤  
代理人 川口 義雄  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大野 聖二  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  
代理人 坪倉 道明  
代理人 金山 賢教  
代理人 田中 玲子  
代理人 金山 賢教  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  

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