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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する A61C
管理番号 1195696
審判番号 訂正2009-390008  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-02-04 
確定日 2009-03-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4233949号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4233949号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨

本件審判の請求の要旨は、特許第4233949号(平成15年 7月28日〔パリ条約による優先権主張2002年12月 9日 アメリカ合衆国〕特許出願、平成20年12月19日設定登録)に係る明細書及び特許請求の範囲を、審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、すなわち、下記の訂正事項のとおり訂正することを求めるものである。

「訂正事項」
明細書の「【発明の名称】歯列矯正ブラケットおよびグリップ開放ツール」とあるのを「【発明の名称】歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツール」と訂正する。

2.当審の判断

上記訂正について検討する。
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書には「【発明の名称】歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツール」と記載されていたが、平成20年 8月25日付け拒絶理由通知に対する平成20年10月 3日付けの手続補正において「【発明の名称】歯列矯正ブラケットおよびグリップ開放ツール」と補正された。
これに対し、請求人は審判請求書において、明細書の全文補正に際してのタイプミスによる誤記である旨述べている。
そこで、【発明の名称】以外の明細書全体の記載及び特許請求の範囲の記載を参照すると、「グリップ開放ツール」なる用語は使われておらず、「クリップ開放ツール」の用語が使われていることが認められる。
そうすると、平成20年10月 3日付け手続補正における「【発明の名称】歯列矯正ブラケットおよびグリップ開放ツール」は誤記とみなすのが妥当であり、したがって上記訂正は請求人の主張のとおり誤記の訂正を目的とするものであるといえる。

そして、上記訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。

また、上記訂正後の請求項1乃至9に係る発明はいずれも、平成20年 8月25日付け拒絶理由通知において設定登録前の請求項8に係る発明及び請求項9に係る発明に対して引用された、米国特許5906486号明細書に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も発見しない。

3.むすび

したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項第2号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第3項乃至第5項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツール
【技術分野】
【0001】
本発明は歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツールに係り、特に不整歯列や捻転歯を矯正する歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯列を矯正するために歯列矯正ブラケットが使用されている。この歯列矯正ブラケットは、ベースにブラケット本体が設けられ、ブラケット本体にアーチワイヤを収容するアーチワイヤスロットが形成され、アーチワイヤの抜け出しを防止するクリップが設けられている。
【0003】
クリップは、U字状に湾曲され、上端部に設けられた係止端部が、ブラケット本体の係合部に潜り込むように係合可能に形成されている。
このクリップの上端部を係合部から外す手段として、以下のような技術が開示されている。
【0004】
例えば、米国特許4,698,017号公報には、棒状のツールでクリップを回動させてアーチワイヤスロットを開放する技術が示されている(特許文献1参照)。
また、米国特許5,562,444号公報には、タイウイングの回りに回動するクリップを、クリップの孔に差し込んだ棒状のツールで開放する技術が示されている。
さらに、この公報には、クリップの先端を特に指定しないツールで押し開く方法も開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
加えて、米国特許5,906,486号公報には、U字状のクリップをスライドさせて、アーチワイヤスロットを開放・閉鎖するセルフライゲーションブラケットについて、棒状のツールをクリップの孔に差し込み、クリップを開放する技術が示されている(特許文献3参照)。
【0006】
なお、セルフライゲーションブラケットとは、アーチワイヤスロット内からアーチワイヤが抜け出さないようにアーチワイヤスロットの開口を回動または摺動するクリップで閉塞したタイプのブラケットである。
【0007】
【特許文献1】米国特許4,698,017号公報
【特許文献2】米国特許5,562,444号公報
【特許文献3】米国特許5,906,486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、クリップの孔に差しこんだ棒状のツールでクリップを開放する際に、棒状のツールをテコのように作動させて押し開く必要があるため、クリップに過大な力がかかることになる。
このため、棒状のツールでクリップを開放する際にクリップが変形してしまうことがあった。
【0009】
また、クリップが変形してしまうと、クリップをクローズポジション(閉鎖位置)に復帰させても、変形したクリップではアーチワイヤを押さえることができないばかりか、アーチワイヤが外れて治療が続けられなくなってしまうことがあった。
さらに、棒状のツールを差し込む孔が、クリップの中ほどに形成されているので、クリップのばね性を損なうため、アーチワイヤを押さえる力が減少してしまうほか、応力集中によりクリップが変形しやすいという問題がある。
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリップを開放する際にクリップの変形を防止できる歯列矯正ブラケットおよびクリップ開放ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明は、請求項1に記載したように、歯列を矯正するために、歯牙に直接または間接的に固着可能なベースと、前記ベースの片面に設けられたブラケット本体と、前記ブラケット本体における近遠心方向に沿って溝状に形成され、かつ、アーチワイヤを収容可能なアーチワイヤスロットと、前記ブラケット本体および前記ベースのうちの少なくとも一方に形成され、かつ、前記アーチワイヤスロットに対して交差する歯軸方向に沿う案内部と、前記案内部に案内される帯状のクリップとを有し、前記アーチワイヤスロットにおける反ベース側の少なくとも一部を覆うように、前記クリップがU字状に湾曲され、かつ、前記クリップの上端部に設けられた係止端部が、前記ブラケット本体に支持された覆蓋部の下側に潜り込むように係合可能である歯列矯正ブラケットであって、前記クリップの上端部に、前記クリップの開放を行うクリップ開放ツールを係合可能な段差部を有することを特徴としている。
【0012】
ここで、本発明の歯列矯正ブラケットとしては、歯牙表面に接着可能な面状のベースにブラケット本体が固定されている形態や、あるいは歯牙に取り付けられるバンドにベースを介してブラケット本体が溶接される形態を含む。
このように構成された歯列矯正ブラケットにおいて、クリップの上端部に、クリップの開放を行うクリップ開放ツールを係合可能な段差部を備えた。クリップ開放ツールを係合させる部位を段差部とすることで、クリップを厚み方向に貫通させる孔を開ける必要がない。よって、U字状の幅の狭いクリップであっても、クリップの剛性を維持して、アーチワイヤを押さえるクリップのばね力を確保できる。
さらに、クリップに孔を開けずに段差部を設けたので、クリップの応力集中を減らして、クリップの変形を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明においては、請求項2に記載したように、前記段差部が、前記クリップの上端部に設けられて前記クリップを厚み方向に貫通しない凹部であることを特徴としている。
段差部を凹部とすることで、クリップをブラケット本体に押し付けながら開放することができるので、クリップの変形が生じない。また、比較的容易に段差部を形成することができる。
【0014】
そして、本発明においては、請求項3に記載したように、前記段差部が、前記クリップを厚み方向に沿って前記ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしであることを特徴としている。
【0015】
段差部を、ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしとすることで、比較的容易に段差部を形成することができる。また、専用ツールを用いてクリップをブラケット本体に押し付けながら開放することができる。
【0016】
さらに、本発明においては、請求項4に記載したように、前記段差部が、前記クリップの上端部に設けられたスリットを境界とする片側を厚み方向に沿って前記ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしであることを特徴としている。
【0017】
段差部を、スリットを境界とする片側をブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしとすることで、比較的容易に段差部を形成することができる。また、これによりスリットを境に手前を凸部、奥を凹部とできるので、専用ツールでなくても、クリップをブラケット本体に向かって押さえながら開放できる。
【0018】
そして、本発明においては、請求項5に記載したように、前記段差部が、前記クリップの端部に設けられていることを特徴としている。
段差部を、クリップの端部に設けることで、クリップをより一層容易に形成することができる。また、専用のクリップ開放ツールの先端をより確実に、その位置にあてがうことができる。
【0019】
また、本発明においては、請求項6に記載したように、前記段差部が、半割ドーム形状であることを特徴としている。
段差部を、半割ドーム形状とすることで、半割ドーム形状の部位を利用してクリップ開放ツールを良好に段差部に係合させることができる。
【0020】
さらに、本発明においては、請求項7に記載したように、前記段差部の平面端部にV字状の切欠部が設けられていることを特徴としている。
【0021】
段差部に切欠部を設けることで、この切欠部で開放用のツールを保持して確実に段差部に係合させることができる。これにより、クリップを開放させる際に、クリップをより一層簡単に開放することができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
また、本発明においては、請求項8に記載したように、歯列を矯正するために、歯牙に直接または間接的に固着可能なベースと、前記ベースの片面に設けられたブラケット本体と、前記ブラケット本体における近遠心方向に沿って溝状に形成され、かつ、アーチワイヤを収容可能なアーチワイヤスロットと、前記ブラケット本体および前記ベースのうちの少なくとも一方に形成され、かつ、前記アーチワイヤスロットに対して交差する歯軸方向に沿う案内部と、前記案内部に案内される帯状のクリップとを有し、前記アーチワイヤスロットにおける反ベース側の少なくとも一部を覆うように、前記クリップがU字状に湾曲され、かつ、前記クリップの上端部に設けられた係止端部が、前記ブラケット本体に支持された覆蓋部の下側に潜り込むように係合可能である歯列矯正ブラケットの前記ブラケット本体に対して前記クリップを開放するためのクリップ開放ツールであって、V字状に配置された第1突起および第2突起を有し、前記第1突起が、前記クリップの上端部に設けられた段差部に係合可能とされ、前記第2突起が、前記段差部に対する前記第1突起の係合状態を規制するとともに、前記クリップを押さえることにより前記クリップの変形を防止可能であることを特徴としている。
【0027】
クリップ開放ツールにV字状に配置された第1、第2の突起を備えた。第1突起を、クリップの段差部に係合させ、第2突起で、段差部または係合切欠部に対する第1突起の係合状態を規制する。
さらに、第2突起でクリップを押さえることにより、クリップを開放する際に、クリップをめくり上げることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように、本発明によれば、請求項1に記載したように、クリップの上端部に、クリップの開放を行うクリップ開放ツールを係合可能な段差部を備えた。クリップ開放ツールを係合させる部位を段差部とすることで、クリップを厚み方向に貫通させる孔を開ける必要がない。よって、クリップの剛性を維持して、クリップのばね力を確保できる。
【0029】
さらに、クリップに孔を開けずに段差部を設けたので、クリップの段差部に応力が集中することを防止できる。
このように、クリップのばね力を確保し、クリップに応力が集中しないようにすることで、クリップの変形を防止できる。
【0030】
また、本発明によれば、請求項2に記載したように、段差部を凹部とすることで、比較的容易に段差部を形成することができる。よって、クリップを比較的容易に形成することができるので、コストアップを抑えることができるとともに、クリップの変形を防止でき、かつ、クリップのばね力を確保できる。
【0031】
そして、本発明によれば、請求項3に記載したように、段差部を、ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしとすることで、比較的容易に段差部を形成することができる。よって、クリップを比較的容易に形成することができるので、コストアップを抑えることができるとともに、クリップの変形を防止でき、かつ、クリップのばね力を確保できる。
【0032】
さらに、本発明によれば、請求項4に記載したように、段差部を、スリットを境界とする片側をブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしとすることで、比較的容易に段差部を形成することができる。よって、クリップを比較的容易に形成することができるので、コストアップを抑えることができるとともに、クリップの変形を防止でき、かつ、クリップのばね力を確保できる。
【0033】
そして、本発明によれば、請求項5に記載したように、段差部を、クリップの端部に設けることで、より一層容易に段差部を形成することができる。よって、クリップをより一層容易に形成することができるので、コストアップを抑えることができるとともに、専用のクリップ開放ツールの先端をより確実に、その位置にあてがうことができる
【0034】
また、本発明によれば、請求項6に記載したように、段差部を、半割ドーム形状とすることで、半割ドーム形状の部位を利用してクリップ開放ツールを良好に段差部に係合させることができる。これにより、クリップを開放させる際に、クリップをより一層簡単に開放することができる。
【0035】
さらに、本発明によれば、請求項7に記載したように、段差部に切欠部を設けることで、この切欠部クリップ開放ツールを保持して確実に段差部に係合させることができる。これにより、クリップを開放させる際に、クリップをより一層簡単に開放することができる。
【0036】
【0037】
【0038】
さらに、本発明によれば、請求項8に記載したように、クリップ開放ツールにV字状に配置された第1、第2の突起を備えた。第1突起を、クリップの段差部や係合切欠部に係合させ、第2突起で、段差部に対する第1突起の係合状態を規制する。
さらに、第2突起でクリップを押さえることにより、クリップを開放する際に、クリップをめくり上げることを防いで、クリップが変形することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、図1において説明した部材等については、図中に同一符号あるいは相当符号を付すことにより説明を簡略化あるいは省略する。
【0040】
ここで、以下に示す各実施形態においては、歯列矯正ブラケットとしてツインブラケット(覆蓋部を2個備えたブラケット)を例示するが、本発明はシングルブラケットにも適用可能であり、ツインブラケットに限定するものではない。
また、以下に示す各実施形態においては、ラビアル側(唇側面)に用いられる歯列矯正ブラケットについて例示するが、本発明はリンガル側(舌側面)に適用することも可能である。
さらに、本発明は、歯列矯正ブラケットとタイトルを付けたが、ここで言うブラケットは大臼歯に用いるバッカルチューブを含むものであり、前歯、小臼歯用の狭い意味でのブラケットではない。
【0041】
図1に示すように、本発明に係る第1実施形態である歯列矯正ブラケット10は、歯列を矯正するために、歯牙表面に固着可能な面状のベース11と、このベース11の片面に設けられたブラケット本体12と、このブラケット本体12に形成された溝状のアーチワイヤスロット13と、ブラケット本体12およびベース11のうちの少なくとも一方に形成され、かつ、アーチワイヤスロット13に対して交差する歯軸方向に沿う案内部14と、この案内部14に案内される略帯状のクリップ20とを有する。
アーチワイヤスロット13は、ブラケット本体12における近遠心方向に沿って形成されている。
【0042】
また、この歯列矯正ブラケット10は、アーチワイヤスロット13における反ベース側の少なくとも一部を覆うように、クリップ20が略U字状に湾曲され、かつ、クリップ20の長手方向に沿った上端部に設けられた一対の係止端部21が、ブラケット本体12に支持された覆蓋部15の下側の係止溝15Aに潜り込むように係合可能である。
ここで、反ベース側とは、一般にラビアル側(唇側)を示すが、リンガルブラケットの場合、リンガル側(舌側)を指す。
【0043】
クリップ20は、例えば板厚0.1mm?0.2mmの耐食性の高いばね用薄板で略U字状に形成されている。
クリップ20は、基部22が案内部14に差し込まれるとともに、係止端部21が覆蓋部15の下の係止溝15Aに潜り込むように係合することにより、ブラケット本体12にクローズ状態に取り付けられる。
この基端22には、クリップ20を開放した際に、基端22が案内部14から抜け出さないように、上方に突出したストッパ部23を備える。
【0044】
クリップ20には、一対の係止端部21間の上端部24に、クリップ20の開放を行うクリップ開放ツール30(図4?図7参照)を係合可能な段差部として凹部25が形成されている。
段差部を凹部25とすることで、クリップ20を厚み方向に貫通させる必要がない。よって、クリップ20のばね力を保つことができる。
【0045】
図2、図3(A)に示すように、クリップ20の凹部25は、クリップ開放ツール30のヒール部31を受け入れることができるように、ヒール部31より大きく形成されている。
よって、術者がクリップ開放ツール30のヒール部31を凹部25に差し込み、クリップ開放ツール30でクリップ20を移動することにより、クリップ20の係止端部21と覆蓋部15の係止溝15A(図1参照)との相互係合を一層確実、かつ、容易に解除できる。
【0046】
ここで、トウ部32は、凹部25に対するヒール部31の係合状態を規制するとともに、クリップ20を押さえることにより、クリップ20の変形を防止する役割を果たす。
すなわち、トウ部32は、クリップ20をブラケット本体12(図1参照)に押し付ける方向に作用する。これにより、従来技術で説明した棒状のツールのようにクリップ20をめくり上げることがないので、クリップ20を変形させることを防止できる。
【0047】
なお、図3(A)においては、凹部25を円弧状に形成した例について説明したが、これに限らないで、例えば図3(B)に示すように、凹部25のうち、トウ部32側の部位26を深く形成することも可能である。
これにより、凹部25にヒール部31を差し込んだ際に、ヒール部31をより一層確実に凹部31に差し込むことができる。
【0048】
次に、クリップ開放ツール30を図4?図7に基づいて説明する。
図4に示すように、クリップ開放ツール30は、グリップ部33の左右の端部にそれぞれ左開放部34および右開放部35を備える。
図5(A),(B)に示すように、左開放部34は、略V字状に配置されたヒール部(第1突起)31およびトウ部(第2突起)32が縦向きに設けられている。ヒール部31は、クリップ20の上端部24(図1、図2参照)に設けられた凹部25に係合可能な部位である。
【0049】
トウ部32は、凹部25(図1、図2参照)に対するヒール部31の係合状態を規制するとともに、クリップ20(図1、図2参照)を押さえることによりクリップ20の変形を防止可能な部位である。
ヒール部31およびトウ部32を縦向きに設けることで、左開放部34を歯軸方向に平行な向きで使用することができる。
なお、ヒール部31とトウ部32とは同じ幅に形成されている。
【0050】
図6に示すように、右開放部35は、略V字状に配置されたヒール部(第1突起)37およびトウ部(第2突起)38が横向きに設けられている。ヒール部37は、クリップ20の上端部24(図1、図2参照)に設けられた凹部25に係合可能な部位である。
【0051】
トウ部38は、凹部25に対するヒール部37の係合状態を規制するとともに、クリップ20を押さえることによりクリップ20の変形を防止可能な部位である。
ヒール部37およびトウ部38を横向きに設けることで、奥歯などのように、手前に引けない部位において横から歯軸方向にクリップ20を開放することができる。
なお、ヒール部37は幅が狭く、トウ部38は幅が広く形成されている。
【0052】
図5(A),(B)および図6においては、左右の開放部34,35をヒール部31,37とトウ部32,38で構成した例について説明したが、これに限らないで、例えば図7(A)に示すように、開放部39Aを限定された高さの円柱を備えたものとすることも可能であり、また図7(B)に示すように、開放部39Bを限定された高さの半円柱を備えたものとすることも可能である。
以下、左開放部34を構成するヒール部31およびトウ部32を代表例として説明する。
【0053】
次に、歯列矯正ブラケット10およびクリップ開放ツール30の作用を図8(A),(B)に基づいて説明する。
図8(A)において、術者がクリップ開放ツール30のヒール部31を凹部25に差し込む。この際に、トウ部32は、凹部25に対するヒール部31の係合状態を規制する。
【0054】
このように、ヒール部31を凹部25に差し込んだ状態でクリップ開放ツール30を矢印の方向に移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ20を矢印の方向に移動する。
この際に、トウ部32でクリップ20を押さえることができるので、クリップ20をめくり上げることがないので、クリップ20が変形することを防止できる。
【0055】
図8(B)において、クリップ開放ツール30とともにクリップ20を移動することで、クリップ20の係止端部21が覆蓋部15の係止溝15Aから抜け出し、クリップ20を開放位置まで容易に移動させることができる。
この際、ブラケット本体12側においてクリップ20に設けられた凹部25が凸部となるため、ブラケット本体12に対してクリップ20が開放したときに、ブラケット本体12に設けられた段差状の受部12Aに凸部として凹部25が当接することにより、ブラケット本体12に対するクリップ20の開放位置を規制する。これにより、ブラケット本体12に対するクリップ20の過度な開放や、ブラケット本体12に対するクリップ20の脱落を防止できる。
【0056】
次に、歯列矯正ブラケットの第2?第6実施形態を図9?図15に基づいて説明する。
図9に示すように、本発明に係る第2実施形態であるクリップ40は、段差部として、クリップ40を厚み方向に沿ってブラケット本体12(図1参照)から離れる方向に隆起させた切り起こし41である点が第1実施形態のクリップ20と異なるだけでその他の構成は第1実施形態と同じである。
【0057】
図10(A)に示すように、切り起こし41は、クリップ40の上端部24に設けられたスリット42を境界とする一方(片側)を厚み方向に沿ってブラケット本体12(図1参照)から離れる方向に隆起させたものである。
ここで、スリット42を境界とする他方の部位43は、厚み方向に沿ってブラケット本体12に近付ける方向に隆起させられている。
【0058】
なお、図9および図10(A)においては、スリット42を境界とする他方の部位43を厚み方向に沿ってブラケット本体12に近付ける方向に隆起させた例について説明したが、これに限らないで、例えば図10(B)に示すように、スリットを境界とする他方の部位43を厚み方向に沿ってブラケット本体12に近付ける方向に隆起させなくても同様の効果を得ることができる。
【0059】
次に、クリップ40の作用を図11(A),(B)に基づいて説明する。
図11(A)において、術者がクリップ開放ツール30のヒール部31を切り起こし41に隣接させて配置する。これにより、ヒール部31が切り起こし41に接触する。
この際に、トウ部32は、他方の部位43に対するヒール部31の係合状態を規制する。
【0060】
この状態でクリップ開放ツール30を矢印の方向に移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ40を矢印の方向に移動する。
この際に、トウ部32でクリップ40を押さえることができるので、クリップ40をめくり上げることがないので、クリップ40が変形することを防止できる。
【0061】
図11(B)において、クリップ40の係止端部21が覆蓋部15の係止溝15Aから抜け出して、クリップ40を開放位置まで容易に移動することができる。
この際に、他方の部位43をストッパとして利用することができる。
すなわち、他方の部位43が中溝終端の壁44に当接してクリップ40が止まる。よって、クリップ40のスライド範囲を適性に制限してクリップ40が過大に開放することを防止できる。
これにより、クリップの過大な開放でクリップが変形することを防止できる。
加えて、第2実施形態のクリップ40においても第1実施形態のクリップ20と同様の効果を得ることができる。
【0062】
次に、第3実施形態について説明する。
図12に示すように、本発明に係る第3実施形態であるクリップ50は、段差部として、クリップ50を厚み方向に沿ってブラケット本体12(図1参照)から離れる方向に隆起させた切り起こし51である点が第1実施形態のクリップ20と異なるだけでその他の構成は第1実施形態と同じである。
【0063】
切り起こし51は、クリップ50の端部52に略半割ドーム形状に設けられたものである。
この切り起こし51にヒール部31(図2参照)を当接させた状態でクリップ開放ツール30を移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ50を開放することができる。
第3実施形態のクリップ50においても第1実施形態のクリップ20と同様の効果を得ることができる。
【0064】
次に、第4実施形態について説明する。
図13に示すように、本発明に係る第4実施形態であるクリップ60は、段差部として、クリップ60を厚み方向に沿ってブラケット本体12(図1参照)から離れる方向に隆起させた切り起こし61である点が第1実施形態のクリップ20と異なるだけでその他の構成は第1実施形態と同じである。
【0065】
切り起こし61は、クリップ60の端部62に略半割ドーム形状に設けられ、かつ切り起こし61の平面端部63に略V字状の切欠部64が設けられたものである。
この切り起こし61にヒール部31(図2参照)を当接させた状態でクリップ開放ツール30を移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ60を開放することができる。
【0066】
この際に、切り起こし61の平面端部63に略V字状の切欠部64を設けたので、ヒール部31を切欠部64で保持させて切り起こし61に確実に係合させることができるので、使い勝手をさらに高めることができる。
また、第4実施形態のクリップ60においても第1実施形態のクリップと同様の効果を得ることができる。
【0067】
次に、第5実施形態について説明する。
図14に示すように、本発明に係る第5実施形態であるクリップ70は、上端部24に、クリップ70の開放を行うクリップ開放ツール30のヒール部31(図2参照)を係合可能な略V字状の係合切欠部71が設けられている点が第1実施形態のクリップ20と異なるだけでその他の構成は第1実施形態と同じである。
【0068】
係合切欠部71は、幅Wが0.5?2.0mm、深さDが0.3?1.0mmに設定されている。
このように、係合切欠部71の幅Wを0.5?2.0mm、深さDを0.3?1.0mmに設定することで、クリップ20のばね力を近遠心方向に分かれて配置されたクリップ20の上端部24に設けられた係止端部21に効果的に伝えることができる。
【0069】
この係合切欠部71にヒール部31(図2参照)を当接させた状態でクリップ開放ツール30を移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ70を開放することができる。
このように、係合切欠部71を略V字状に形成したので、ヒール部31を係合切欠部71に確実に係合させることができるので、使い勝手をさらに高めることができる。
また、第5実施形態のクリップ70においても第1実施形態のクリップ20と同様の効果を得ることができる。
【0070】
次に、第6実施形態について説明する。
図15に示すように、本発明に係る第6実施形態であるクリップ80は、段差部として、クリップ80を厚み方向に沿ってブラケット本体12(図1参照)から離れる方向に隆起させた切り起こし81である点が第1実施形態のクリップ20と異なるだけでその他の構成は第1実施形態と同じである。
【0071】
切り起こし81は、クリップ80の端部82から離れた部位83に略半割ドーム形状に設けられたものである。
この切り起こし81にヒール部31(図2参照)を当接させた状態でクリップ開放ツール30を移動することで、クリップ開放ツール30とともにクリップ80を開放することができる。
第6実施形態のクリップ80においても第1実施形態のクリップ20と同様の効果を得ることができる。
【0072】
次に、クリップ開放ツールのその他の形態を図16?図18に基づいて説明する。
図16に示すように、クリップ開放ツール90は、グリップ部91の左端部に、例えば左開放部34(図4参照)を備え、右端部にワイヤー開放部92を備える。
図17に示すように、ワイヤー開放部92は、一対のロッド93の先端93Aにそれぞれ第1突起94および第2突起95が略V字状に設けられている。
【0073】
図18に示すように、一対のロッド93の先端93Aを、歯97に配置した歯列矯正ブラケット10の両側に配置する。一方のロッド93の第1、第2突起94,95間にアーチワイヤ98を配置するとともに、他方のロッド93の第1、第2突起94,95間にも同様にアーチワイヤ98を配置する。
これにより、クリップ開放ツール90を使用することで、アーチワイヤ98の調整などを簡単に行うことができる。
【0074】
次に、歯列矯正ブラケットの第7実施形態を図19に基づいて説明する。
図19に示す歯列矯正ブラケット100は、基本的に前述した第1実施形態の歯列矯正ブラケット10に用いられたブラケット本体12と同様なブラケット本体120と、第3実施形態において例示したクリップ50と同様なクリップ200とを備えている。
そして、この歯列矯正ブラケット100は、クリップ200に設けられた一対の当接部200Aと、ブラケット本体120に設けられて各当接部200Aがそれぞれ当接可能な一対の受部120Aとを有する点が前述した第1実施形態および第3実施形態と異なる。
【0075】
当接部200Aは、クリップ200の上端部に向かって平がるように形成された縁部に平面略クランク状の切欠として設けられている。一方、受部120Aは、ブラケット本体120の表面に設けられた段差であり、その平面形状が当接部200Aの平面形状に対応している(図19(C)参照)。
【0076】
従って、当接部200Aおよび受部120Aは、ブラケット本体120に対してクリップ200が所定位置まで開放したときに互いに当接し、これによりブラケット本体120に対するクリップ200の開放位置を規制するようになっている(図19(A)、(B)参照)。
【0077】
このような歯列矯正ブラケット100は、ブラケット本体120に対してクリップ200が開放したときに、各当接部200Aが各受部120Aに当接することにより、ブラケット本体120に対するクリップ200の開放位置を規制するため、ブラケット本体120に対するクリップ200の過度な開放や、ブラケット本体120に対するクリップ200の脱落を防止できる。
【0078】
その他、前述した各実施形態において例示したクリップ、クリップ開放ツール、ブラケット本体等の材質,形状,寸法,形態,数,配置個所,厚さ寸法等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る歯列矯正ブラケット(第1実施形態)を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図3】(A)は図2のA-A線断面図、(B)は第1実施形態の変形例を示す断面図である。
【図4】本発明に係るクリップ開放ツールを示す斜視図である。
【図5】図4のB部拡大図である。
【図6】図4のC部拡大図である。
【図7】(A),(B)は本発明に係るクリップ開放ツールの変形例を示す要部拡大図である。
【図8】本発明に係る第1実施形態の作用を説明する図である。
【図9】本発明に係る第2実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図10】(A)は図9のD-D線断面図、(B)は第2実施形態の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明に係る第2実施形態の作用を説明する図である。
【図12】本発明に係る第3実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図13】本発明に係る第4実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図14】本発明に係る第5実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図15】本発明に係る第6実施形態のクリップを示す斜視図である。
【図16】本発明に係るクリップ開放ツールの変形例を示す斜視図である。
【図17】図16のE部拡大図である。
【図18】本発明に係るクリップ開放ツールの使用例を説明する図である。
【図19】本発明に係る歯列矯正ブラケット(第7実施形態)を示す平面図および側面図である。
【符号の説明】
【0080】
10 歯列矯正ブラケット
11 ベース
12 ブラケット本体
13 アーチワイヤスロット
14 案内部
15 覆蓋部
20,40,50,60,70,80 クリップ
21 係止端部
24 クリップの上端部
25 凹部(段差部)
30,90 クリップ開放ツール
31,37 ヒール部(第1突起)
32,38 トウ部(第2突起)
41,51,61,81 切り起こし(段差部)
42 スリット
52,62 クリップの端部
71 係合切欠部
94 第1突起
95 第2突起
97 歯
98 アーチワイヤ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列を矯正するために、歯牙に直接または間接的に固着可能なベースと、前記ベースの片面に設けられたブラケット本体と、前記ブラケット本体における近遠心方向に沿って溝状に形成され、かつ、アーチワイヤを収容可能なアーチワイヤスロットと、前記ブラケット本体および前記ベースのうちの少なくとも一方に形成され、かつ、前記アーチワイヤスロットに対して交差する歯軸方向に沿う案内部と、前記案内部に案内される帯状のクリップとを有し、
前記アーチワイヤスロットにおける反ベース側の少なくとも一部を覆うように、前記クリップがU字状に湾曲され、かつ、前記クリップの上端部に設けられた係止端部が、前記ブラケット本体に支持された覆蓋部の下側に潜り込むように係合可能である歯列矯正ブラケットであって、
前記クリップの上端部に、前記クリップの開放を行うクリップ開放ツールを係合可能な段差部を有することを特徴とする歯列矯正ブラケット。
【請求項2】
前記段差部が、前記クリップの上端部に設けられて前記クリップを厚み方向に貫通しない凹部であることを特徴とする請求項1に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項3】
前記段差部が、前記クリップを厚み方向に沿って前記ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしであることを特徴とする請求項1に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項4】
前記段差部が、前記クリップの上端部に設けられたスリットを境界とする片側を厚み方向に沿って前記ブラケット本体から離れる方向に隆起させた切り起こしであることを特徴とする請求項3に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項5】
前記段差部が、前記クリップの端部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項6】
前記段差部が、半割ドーム形状であることを特徴とする請求項5に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項7】
前記段差部の平面端部にV字状の切欠部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載した歯列矯正ブラケット。
【請求項8】
歯列を矯正するために、歯牙に直接または間接的に固着可能なベースと、前記ベースの片面に設けられたブラケット本体と、前記ブラケット本体における近遠心方向に沿って溝状に形成され、かつ、アーチワイヤを収容可能なアーチワイヤスロットと、前記ブラケット本体および前記ベースのうちの少なくとも一方に形成され、かつ、前記アーチワイヤスロットに対して交差する歯軸方向に沿う案内部と、前記案内部に案内される帯状のクリップとを有し、
前記アーチワイヤスロットにおける反ベース側の少なくとも一部を覆うように、前記クリップがU字状に湾曲され、かつ、前記クリップの上端部に設けられた係止端部が、前記ブラケット本体に支持された覆蓋部の下側に潜り込むように係合可能である歯列矯正ブラケットの前記ブラケット本体に対して前記クリップを開放するためのクリップ開放ツールであって、
前記クリップ開放ツールの少なくとも一端部には、第1突起および第2突起を有し、
前記第1突起が、前記クリップの上端部に設けられた段差部に係合可能に形成されたことを特徴とするクリップ開放ツール。
【請求項9】
前記第2突起が、前記段差部に対する前記第1突起の係合状態を規制するとともに、前記クリップを押さえることにより前記クリップの変形を防止することを特徴とする請求項8に記載のクリップ開放ツール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2009-03-04 
出願番号 特願2003-280766(P2003-280766)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (A61C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 蓮井 雅之
鈴木 洋昭
登録日 2008-12-19 
登録番号 特許第4233949号(P4233949)
発明の名称 歯列矯正ブラケットおよびグリップ開放ツール  
代理人 内藤 照雄  
代理人 内藤 照雄  

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