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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800139 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  A01N
審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A01N
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A01N
審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A01N
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01N
審判 一部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A01N
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A01N
管理番号 1195698
審判番号 無効2006-80125  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-05 
確定日 2009-03-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3586207号「ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法」の特許無効審判事件についてされた平成20年1月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10066号 平成20年9月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項2?4を削除する訂正を認める。 明細書についてする訂正のうち、段落【0015】?【0017】を削除する訂正を認める。 特許第3586207号の請求項1に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3586207号に係る発明についての出願は、平成13年3月19日の出願であって、平成16年8月13日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より、請求項1?4に係る発明について本件無効審判の請求がなされた。以後の手続の経緯は以下のとおりである。
・審判請求書 平成18年7月5日
・答弁書 平成18年9月8日
・口頭審理陳述要領書(請求人提出) 平成18年11月29日
・口頭審理陳述要領書その2(請求人提出) 平成18年11月29日
・口頭審理陳述要領書(被請求人提出) 平成18年11月29日
・第2口頭審理陳述要領書(被請求人提出) 平成18年11月29日
・第3口頭審理陳述要領書(被請求人提出) 平成18年11月29日
・口頭審理 平成18年11月29日
・上申書(請求人提出) 平成18年12月6日
・上申書(被請求人提出) 平成18年12月6日
・上申書(被請求人提出) 平成18年12月20日
・上申書(被請求人提出) 平成19年1月10日
・審決 平成19年2月7日
・知的財産高等裁判所へ提訴 平成19年(行ケ)10102号
平成19年3月20日
・訂正審判請求 訂正2007-390056号 平成19年5月9日
(訂正審判の請求は、特許法第134条の3第4項の規定により、取り下げられたものとみなされた。)
・知的財産高等裁判所決定 平成19年6月5日
「主文
1 特許庁が無効2006-80125号事件について平成19年2月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は原告の負担とする。」

・訂正請求書 平成19年6月27日
・弁駁書 平成19年8月6日
・上申書(請求人提出) 平成19年8月9日
・訂正拒絶理由通知 平成19年8月29日 ・職権審理結果通知 平成19年8月29日
・意見書(被請求人提出) 平成19年10月1日
・上申書(被請求人提出) 平成20年1月17日
・審決 平成20年1月25日
・知的財産高等裁判所へ提訴 平成20年(行ケ)10066号
平成20年2月27日
・知的財産高等裁判所判決 平成20年9月29日判決言渡
(以下、単に「判決」という。)
「主文
1 特許庁が無効2006-80125号事件について平成20年1月25日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。」

第2 訂正請求について
1. 訂正請求の内容
本件訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、「特許第3586207号の明細書を本件請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりのものである。
(1)訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1の「アルコール系を主成分とするゼリー」を「アルコール系を主成分とする粘性を有するゼリー」に訂正する。
(2)訂正事項b.特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項c.特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項d.特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項e.特許請求の範囲の請求項5について、その請求項番号を請求項2に繰り上げ、その「請求項1ないし4のいずれか」を「請求項1」に訂正する。
(6)訂正事項f.特許請求の範囲の請求項6について、その請求項番号を請求項3に繰り上げ、その「請求項1ないし5のいずれか」を「請求項1又は請求項2」に訂正する。
(7)訂正事項g.特許請求の範囲の請求項7について、その請求項番号を請求項4に繰り上げ、その「請求項1ないし6のいずれか」を「請求項1ないし3のいずれか」に訂正する。
(8)訂正事項h.特許請求の範囲の請求項8について、その請求項番号を請求項5に繰り上げ、その「請求項1ないし7のいずれか」を「請求項1ないし4のいずれか」に訂正する。
(9)訂正事項i.特許請求の範囲の請求項9について、その請求項番号を請求項6に繰り上げ、その「請求項1ないし8のいずれか」を「請求項1ないし5のいずれか」に訂正する。
(10)訂正事項j.特許請求の範囲の請求項10について、その請求項番号を請求項7に繰り上げ、その「請求項1ないし9のいずれか」を「請求項1ないし6のいずれか」に訂正する。
(11)訂正事項k.特許請求の範囲の請求項11について、その請求項番号を請求項8に繰り上げ、その「請求項1ないし10のいずれか」を「請求項1ないし7のいずれか」に訂正する。
(12)訂正事項l.明細書【0014】の記載を
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が、アルコールを主成分とする粘性を有するゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるので、体液漏出防止材の流動性が高く、鼻孔、耳穴等の狭い体腔であっても充填されやすく、注入器で圧入しても飛散することがない。その上、ゼリーにポリマーが分散しているので、ポリマーが吸水性能を維持しており、このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し、外部へ漏出することを防止する。」に訂正する。
(13)訂正事項m.明細書【0015】の記載を削除する。
(14)訂正事項n.明細書【0016】の記載を削除する。
(15)訂正事項o.明細書【0017】の記載を削除する。
(16)訂正事項p.明細書【0018】の記載を
「請求項2の発明は、請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材において、ゼリーがエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、グリセリンの少なくとも1種からなる構成であり、ゼリー状の中に粉体を分散して保持できる。」に訂正する。
(17)訂正事項q.明細書【0019】の記載を
「請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載のゼリー状体液漏出防止材において、ゼリーは、アクリル酸重合体、中和剤が含まれる構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持できる。」に訂正する。
(18)訂正事項r.明細書【0020】の記載を
「請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、アルコール系主成分100重量部に対し、アクリル酸重合体が0.01?1.0重量部、中和剤が0.03?0.7重量部含まれる構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持できる機能に優れている。」に訂正する。
(19)訂正事項s.明細書【0021】の記載を
「請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000?40,000CPである構成であり、ゼリーの流動性が良いので、耳孔、鼻孔、肛門、女性の膣・尿道などの狭い体腔通路もスムーズに投入でき、適確に封止できる。」に訂正する。
(20)訂正事項t.明細書【0022】の記載を
「請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、ゼリー状体液漏出防止材のPHが7?9である構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持でき、体液漏出防止機能に優れている。」に訂正する。
(21)訂正事項u.明細書【0023】の記載を
「請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、該体液漏出防止材に薬液が含まれる構成であり、異臭を吸収したり、作業中に作業者が病原菌に感染することを防止できる。」に訂正する。
(22)訂正事項v.明細書【0024】の記載を
「請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材を注入シリンダに入れ、注入シリンダの先端に取り付けた注入管の先端を体腔に投入し、注入シリンダ内のゼリー状体液漏出防止材を、注入管を介して体腔の所定位置に投入し、ゼリー状体液漏出防止材が体液を吸収することで体液漏出を防止する方法であり、滑らかに体腔に体液漏出防止材を装填でき、かつ漏出する体液を十分に吸収できる。また、体腔に注入する際に、ゼリーが飛散しないし、漏出もしないので周辺を汚す恐れもない。」に訂正する。

2. 訂正拒絶理由の概要
平成19年8月29日付けで通知した訂正拒絶理由は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項5?請求項11についてする訂正、及び、明細書の段落【0014】及び【0018】?【0024】についてする訂正は認めないというものである。

3. 本件訂正の適否の検討
本件訂正前(すなわち平成16年8月13日の設定登録時のもの)の請求項1ないし4に係る発明を、判決のとおり、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。
(1) 特許請求の範囲についてする訂正の適否
ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について
訂正事項aは、「ゼリー」を「粘性を有するゼリー」とするものである。
判決では、本件発明1における「ゼリー」について、文献を精査しても、「ゼリー」についての技術用語としての意味は一義的に定まらないことから、「本件発明1にいう「ゼリー」が「流動性を失ったかたまり状の弾性体」をいうのか「粘液状」のものをいうのかについては,特許請求の範囲の記載のみからはその意味が一義的に明確に理解することができ」【判決書72頁下から4行?下から1行】ず、「本件明細書・・・の発明の詳細な説明の記載をも参酌してその意味を判断する必要がある」【判決書73頁2行?4行】とし、本件明細書の発明の詳細な説明を検討し、「本件発明1の「ゼリー」とは,「流動性を失い,弾性的な固まりとなった状態」をいうのではなく,粘性を有し流動性を失っていない物質,すなわち「粘液」と解するのが相当である。」【判決書79頁2?4行】と判示した。さらに判決は、「ゼリー」は、「「粘性を有する」のであるから,「粘性を有する」という要件を付加することは,ゼリーが必然的に有する特性を重ねて付加するに過ぎないから,ゼリーの語義を明りょうにするものでもない。そして、「ゼリー」につき「粘性を有する」と付加することは,・・・「特許請求の範囲の減縮」にも「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しないことは明らかである。」【判決書64頁2?7行】と判示した。
以上のとおりであるから、訂正事項aは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
イ.訂正事項b(請求項2についてする訂正)について
訂正事項bは、請求項2を削除する訂正である。
ところで、請求項を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当するものということができるから、この訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項c(請求項3についてする訂正)について
訂正事項cは、請求項3を削除する訂正である。
ところで、請求項を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当するものということができるから、この訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
エ.訂正事項d(請求項4についてする訂正)について
訂正事項dは、請求項4を削除する訂正である。
ところで、請求項を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当するものということができるから、この訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
オ.訂正事項e(請求項5についてする訂正)について
訂正事項eは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項2においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項eは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項eの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項eは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
カ.訂正事項f(請求項6についてする訂正)について
訂正事項fは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項3においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項fは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項fの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項fは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
キ.訂正事項g(請求項7についてする訂正)について
訂正事項gは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項4においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項gは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項gの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項gは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ク.訂正事項h(請求項8についてする訂正)について
訂正事項hは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項5においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項hは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項hの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項hは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ケ.訂正事項i(請求項9についてする訂正)について
訂正事項iは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで訂正後の請求項6においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項iは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項iの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項iは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
コ.訂正事項j(請求項10についてする訂正)について
訂正事項jは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項7においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項jは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項jの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項jは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
サ.訂正事項k(請求項11についてする訂正)について
訂正事項kは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項番号を繰り上げるものである。
ところで、訂正後の請求項8においても、請求項1を引用して記載されていることから、訂正事項kは、訂正事項aと同じく、「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加するものであるから、訂正事項kの訂正の目的は「ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べたのと同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「特許請求の範囲の減縮」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項kは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。

(2) 特許請求の範囲についてする訂正の適否の小括
上記のとおりであるから、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項1、請求項5?請求項11についてする訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号の規定に適合しないものである。
また、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項2?請求項4についてする訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(3) 明細書についてする訂正の適否
シ.訂正事項l(段落【0014】についてする訂正事項)について
訂正事項lは、請求項1を訂正するのに伴って、訂正後の請求項1に明細書の記載を整合させるために、「ゼリー」を「粘性を有するゼリー」とするものである。
ところで、「ゼリー」を「粘性を有するゼリー」とする訂正は、訂正事項aと訂正する事項が同じであるから、訂正事項lは「第2 2.(1)ア.訂正事項a(請求項1についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項lは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ス.訂正事項m(段落【0015】についてする訂正事項)について
段落【0015】の記載を削除する訂正は、請求項2を削除する訂正をするのに伴って、明細書の記載を整合させるためにするものである。
そうすると、「明りょうでない記載の釈明」に該当するものであり、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、訂正事項mは、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
セ.訂正事項n(段落【0016】についてする訂正事項)について
段落【0016】の記載を削除する訂正は、請求項3を削除する訂正をするのに伴って、明細書の記載を整合させるためにするものである。
そうすると、「明りょうでない記載の釈明」に該当するものであり、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、訂正事項nは、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
ソ.訂正事項o(段落【0017】についてする訂正事項)について
段落【0017】の記載を削除する訂正は、請求項4を削除する訂正をするのに伴って、明細書の記載を整合させるためにするものである。
そうすると、「明りょうでない記載の釈明」に該当するものであり、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、訂正事項oは、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
タ.訂正事項p(段落【0018】についてする訂正事項)について
訂正事項pは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項eで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項eと同じに判断されるから、「第2 2.(1)オ.訂正事項e(請求項5についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項pは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
チ.訂正事項q(段落【0019】についてする訂正事項)について
訂正事項qは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項fで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項fと同じに判断されるから、「第2 2.(1)カ.訂正事項f(請求項6についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項qは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ツ.訂正事項r(段落【0020】についてする訂正事項)について
訂正事項rは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項gで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項gと同じに判断されるから、「第2 2.(1)キ.訂正事項g(請求項7についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項rは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
テ.訂正事項s(段落【0021】についてする訂正事項)について
訂正事項sは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項hで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項hと同じに判断されるから、「第2 2.(1)ク.訂正事項h(請求項8についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項sは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ト.訂正事項t(段落【0022】についてする訂正事項)について
訂正事項tは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項iで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項iと同じに判断されるから、「第2 2.(1)ケ.訂正事項i(請求項9についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項tは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ナ.訂正事項u(段落【0023】についてする訂正事項)について
訂正事項uは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項jで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項jと同じに判断されるから、「第2 2.(1)コ.訂正事項j(請求項10についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項uは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。
ニ.訂正事項v(段落【0024】についてする訂正事項)について
訂正事項vは、請求項2?請求項4を削除したことに伴い、請求項番号を繰り上げ、また、引用する請求項の番号を繰り上げるもので、訂正事項kで訂正する事項と同じ内容の訂正である。
そうすると、訂正事項kと同じに判断されるから、「第2 2.(1)サ.訂正事項k(請求項11についてする訂正)について」で述べた理由と同じ理由により、「明りょうでない記載の釈明」にも、「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しない。
以上のとおりであるから、訂正事項vは、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合しないものである。

(4) 明細書についてする訂正の適否の小括
上記のとおりであるから、明細書についてする訂正のうち、段落【0014】、【0018】?【0024】についてする訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号及び第3号の規定に適合しないものである。
また、明細書についてする訂正のうち、段落【0015】?【0017】についてする訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(5) 本件訂正の適否の検討のまとめ
上記のとおりであるから、本件訂正についての判断は、下記「ア.」「イ.」のとおりである。
ア.本件訂正のうち、特許請求の範囲の請求項2?請求項4についてする訂正、及び、明細書についてする訂正のうち、段落【0015】?【0017】についてする訂正は認める。
イ.本件訂正のうち、特許請求の範囲の請求項1及び請求項5?請求項11についてする訂正、及び、明細書についてする訂正のうち、段落【0014】及び【0018】?【0024】についてする訂正は認めない。

第3 本件特許及び本件特許に係る明細書
本件訂正についての判断は、上記「第2 3.(5)」のとおりである。 したがって、本件特許は、設定登録時の特許請求の範囲に記載された請求項1及び請求項5?請求項11に係る発明(以下、請求項1及び請求項5?請求項11に係る発明をまとめて「本件特許発明」という。)についての特許であり、本件特許に係る明細書は、設定登録時の明細書の段落【0001】?【0014】及び【0018】?【0047】である(以下、「本件特許明細書」という。)。

本件特許発明
「【請求項1】遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が、アルコール系を主成分とするゼリ-の中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材。
【請求項5】ゼリーがエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、グリセリンの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項6】ゼリーは、アクリル酸重合体、中和剤が含まれることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項7】アルコール系主成分100重量部に対し、アクリル酸重合体が0.01?1.0重量部、中和剤が0.03?0.7重量部含まれることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項8】ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000?40,000CPであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項9】ゼリー状体液漏出防止材のPHが7?9であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項10】該体液漏出防止材に薬液が含まれることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項11】請求項1ないし10のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材を注入シリンダに入れ、注入シリンダの先端に取り付けた注入管の先端を体腔に投入し、注入シリンダ内のゼリー状体液漏出防止材を注入管を介して、体腔の所定位置に投入し、ゼリー状体液漏出防止材が体液を吸収することで体液漏出を防止することを特徴とする体液漏出防止方法。」

第4 無効審判請求人の主張
1. 主張の概要
無効審判請求人(株式会社アキシスインターナショナル)は、特許第3586207号の訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、
審判請求書に添付して甲第1号証を、
口頭審理陳述要領書に添付して甲第2?5号証を、
平成18年12月6日付け上申書に添付して甲第6?7号証及び参考資料1?4を、
弁駁書に添付して甲第8?10号証を、
平成19年8月9日付け上申書に添付して甲第11?12号証を提出し、
以下の無効理由1?3を主張し、本件の訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とするべきであると主張している。
(1)無効理由1
本件の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)無効理由2
本件の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)無効理由3
本件の発明の詳細な説明は、当業者がその請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(審決注:訂正前の請求項1に係る発明は本件発明1であり、請求項2?4に係る発明は訂正が認められたことにより削除されている。また、本件の特許法第36条の適用法規は、平成14年法律第24号による改正前の特許法に係るものである。したがって、以下の審決では、本件発明1について、無効理由1?3は特許法第36条第6項第2号、同項第1号、及び同条第4項に規定する要件を満たしていないものとして判断する。)

2. 主張の要点
(1)無効理由1:特許法第36条第6項第2号違反について
「「アルコール系」は物質として把握されるものであって、・・・どのような物質を意味するものか明らかでなく、本件特許発明の明細書の発明の詳細な説明にも「アルコール系」についての定義も説明も全く無い。従って、請求項1に記載の「アルコール系」及び「アルコール系を主成分とする」がなにを意味するものか明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」[審判請求書4?5頁]

(2)無効理由2:特許法第36条第6項第1号違反について
「一般に「アルコール」と言った場合、鎖式アルコールの低級アルコール(炭素数5以下)も高級アルコール(炭素数6以上)も含まれ、また脂環式アルコールも含まれるが、・・・高級アルコールについても、脂環式アルコールについても、発明の詳細な説明には一切記載はない。従って、請求項1に記載「アルコール系を主成分とする」については、明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を大幅に逸脱しており、発明の詳細な説明に記載されたものとは言えないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」[審判請求書5?6頁]

(3)無効理由3:特許法第36条第4項違反について
「本件特許発明の出願当時、室温で固体のアルコールがゼリーの粘液基材となるとも、また固体のアルコールを用いてどのようにゼリーを製造するかについても、当業者にとって自明であったものではない。従って、室温で固体のアルコールも含む広範な概念の「アルコール系を主成分とするゼリー」については、・・・当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項・・・に規定する要件を満たしていないことは明らかである。」[審判請求書6頁]

3. 証拠方法及び参考資料
・甲第1号証:玉虫文一外7名編、「岩波理化学辞典第3版増補版」、第3版増補版第3刷、株式会社岩波書店、1982年11月5日、第48、431、688及び725頁
・甲第2号証:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典5」、縮刷版第14刷、共立出版株式会社、昭和47年9月15日、第387頁
・甲第3号証:新村出編、「広辞苑第四版机上版」、第四版第一刷、株式会社岩波書店、1993年2月25日、第1997頁
・甲第4号証:株式会社アキシスインターナショナル 取締役 清水誠一郎作成、「特許第3586207号の発明に関する追試実験報告書」、平成18年10月30日
・甲第5号証:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典8 縮刷版」、縮刷版第14刷、共立出版株式会社、昭和47年9月15日、第466?467頁)
・甲第6号証:株式会社アキシスインターナショナル 取締役 清水誠一郎作成、「山口大学実験報告書(乙第18号証)に関する検証・追加実験報告書」、平成18年11月27日
・甲第7号証:長倉三郎外5名編、「岩波理化学辞典 第5版」、第5版第8刷、株式会社岩波書店、2004年12月20日、第810頁(審決注:平成18年12月6日付け上申書(請求人)の第8頁下から6行目には「第243頁」と記載されているが、当該上申書に添付された甲第7号証に記載されている実際の頁数からみて、「第810頁」の誤記と認められる。)
・甲第8号証:長倉三郎外5名編、「岩波理化学辞典 第5版」、第5版第8刷、株式会社岩波書店、2004年12月20日、第1024-1025頁
・甲第9号証:(株)三井化学分析センター作成、「結果報告書」(ゼリー状物質の粘弾性測定)、 2007年7月9日
・甲第10号証:新村出編、「広辞苑第五版」、第五版第一刷、株式会社岩波書店、1998年11月11日、第1508-1509頁
・甲第11号証:新村出編、「広辞苑第五版」、第五版第一刷、株式会社岩波書店、1998年11月11日、第848頁
・甲第12号証:日本薬局方の「製剤総則」
・参考資料1:甲第4号証の実験その2のNo.1及びNo.6について、高吸水性ポリマーを添加する前のゼリー状態を撮影した写真(写し)
・参考資料2:三洋化成工業株式会社作成、「Product Line 商品リスト 香粧品用商品版」(「サンノニックSS-120」(商品名)が記載されたカタログ)
・参考資料3:住友精化株式会社作成、「高吸水性樹脂 アクアキープ"○R"」(「アクアキープ10SH-P」(品種)が記載されたカタログ)(審決注:前記"○R"は、丸で囲まれたRを示す。以下、同様。)
・参考資料4:和光純薬工業株式会社作成、「Wako TECHNICAL BULLETIN ハイビスワコー"○R" (HIVISWAKO) -架橋型アクリル酸重合体-」(「ハイビスワコー104」(種類名)が記載されたカタログ)

第5 被請求人の答弁
1. 答弁の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判請求の費用は請求人の負担とする、
との審決を求め、証拠として、
答弁書に添付して乙第1?5号証を、
口頭審理陳述要領書に添付して乙第6?11号証を、
第2口頭審理陳述要領書に添付して乙第12?18号証を、
第3口頭審理陳述要領書に添付して乙第19号証を、
平成18年12月6日付け上申書に添付して乙第20?23号証を、
平成18年12月20日付け上申書に添付して乙第24?27号証を、
訂正請求書に添付して乙第28?44号証を、
意見書に添付して乙第45?55号証を、
平成20年1月17日付け上申書に添付して文献1、2を、
提出している。

2. 答弁の要点
(1)無効理由1:特許法第36条第6項第2号違反について
「「系」は、広辞苑によれば、「系統だった分類。また、その部門・・・」の意味で使用される・・・。従って、「アルコール系」が「アルコールに分類される化合物」を意味すること・・・明白である。このように、本件特許の請求項1の記載は正確であり、この請求項1から発明が明確に把握されるから、請求人の、本件特許に係る出願が特許法第36条第6項第2号に該当する、という主張には理由がない。」[答弁書2頁]

(2)無効理由2:特許法第36条第6項第1号違反について
「「ゼリー」が粘液を意味し、また「アルコール系」がそのゼリーの粘液基材であることは、段落【0026】の記載「本発明で使用するゼリーの粘液基材」、並びにこれに続く段落【0027】の記載「ゼリーとしては、粘液基材としてのアルコール系主成分・・・」から、明らかである。・・・そうして、・・・ゼリーは粘液であるから、その粘液の基材である「アルコール系」は、当然に液体(粘性を有するものを含む)でなければならない。・・・このように、請求項1でいう「アルコール系」が、液体のアルコールを意味し、固体のアルコールを含まないことは、本件特許発明の課題及び請求項1の記載から、当業者に自明である。・・・段落【0026】に記載した6種類のアルコールは、いずれも常温で液体のアルコールである。液体のアルコールであれば、低級であるか高級であるかを問わず、また、鎖式であるか鎖環式であるかを問わず、本件特許発明の課題を解決して、同じ作用効果を得ることができることは、・・・出願時の技術常識ないし自明事項である。・・・請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることなく、発明の詳細な説明に記載された具体例に対して拡張ないし一般化した記載としたものである・・・よって、請求人の、本件特許に係る出願が特許法第36条第6項第1号に該当する、という主張には理由がない。」[答弁書4頁]

(3)無効理由3:特許法第36条第4項違反について
「本件特許の請求項1でいう「アルコール系」には、固体のアルコールが含まれないのであるから、常温で固体のアルコールについての説明が発明の詳細な説明に記載されていないことは、特許法第36条第4項・・・に規定する要件に反するものではない。従って、請求人の当該主張には理由がない。」[答弁書5頁]

3. 証拠方法及び文献
・乙第1号証:特許庁編、「特許・実用新案審査基準」、2003年10月版、第I部第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件、第1?6頁、及び特許庁のウェブページhttp://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htmの写しである目次、第1/2?2/2頁
・乙第2号証:新村出編、「広辞苑第四版」、第四版第五刷、株式会社岩波書店、1995年11月10日、「系」の項目
・乙第3号証:特許第2846530号公報
・乙第4号証:特許第2852954号公報
・乙第5号証:特許第2890205号公報
・乙第6号証:特開平8-133901号公報
・乙第7号証:株式会社アキシスインターナショナル作成、製品リーフレット「PMG PostMortem Gel」
・乙第8号証:特開平10-316531号公報
・乙第9号証:特開2001-26766号公報
・乙第10号証:化学工業日報社編、「11691の化学商品」、化学工業日報社、1991年1月23日、第288、289、852、796、858及び859頁
・乙第11号証:山口大学大学院理工学研究科応用化学領域教授 理学博士 大石勉外2名作成、「見解書」、平成18年11月13日
・乙第12号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「各種アルコール系物質を用いたゼリー状体液漏出防止剤の製造に関する実験報告書」、平成18年11月22日
・乙第13号証:和光純薬工業株式会社作成、「製品安全データシート」、2004年2月13日改訂、MSDS No.JW120022、「1-ドデカノール」の項目(ウェブページhttp://www.siyaku.comからの写し)
・乙第14号証:和光純薬工業株式会社作成、「製品安全データシート」、2004年2月13日改訂、MSDS No.JW042492、「1-デカノール」の項目(ウェブページhttp://www.siyaku.comからの写し)
・乙第15号証:和光純薬工業株式会社作成、「製品安全データシート」、2004年4月28日改訂、MSDS No.JW150013、「1-オクタノール」の項目(ウェブページhttp://www.siyaku.comからの写し)
・乙第16号証:和光純薬工業株式会社作成、「製品安全データシート」、2002年12月12日改訂、MSDS No.JW030506、「シクロヘキサノール」の項目(ウェブページhttp://www.siyaku.comからの写し)
・乙第17号証:和光純薬工業株式会社作成、「製品安全データシート」、2005年3月11日改訂、MSDS No.JW020127、「ベンジルアルコール」の項目(ウェブページhttp://www.siyaku.comからの写し)
・乙第18号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「サンノニックSS-120を用いた被請求人特許記載製品の製造に関する実験報告書」(審決注:平成18年11月29日の口頭審理において、「債権者」を「被請求人」と訂正して陳述。)、平成18年10月22日
・乙第19号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「各種アルコール系物質を用いたゼリー状体液漏出防止剤の製造に関する実験報告書(追加データ)」、平成18年11月24日
・乙第20号証:住友精化株式会社作成、「高吸水性樹脂 アクアキープ"○R"」(「アクアキープ10SH」(商品名)が記載されたカタログ(一部抜粋))
・乙第21号証:和光純薬工業株式会社作成、「Wako TECHNICAL BULLETIN ハイビスワコー"○R" (HIVISWAKO) -架橋型アクリル酸重合体-」(「ハイビスワコー104」(種類)が記載されたカタログ(一部抜粋))
・乙第22号証:山口大学工学部応用化学工学科教授 理学博士 大石勉外1名作成、「サンノニックSS-120関連報告書」、平成18年6月21日
・乙第23号証:乙第22号証の資料-5(「サンノニックSS-120」(商品名)の構造を明記したカタログ(一部抜粋)のクリヤコピー
・乙第24号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「単純で類推しやすい低分子アミンを中和剤とした本件特許記載製品の製造例」、平成18年12月13日
・乙第25号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「サンノニックSS-120を用いた特許記載製品の製造に関する追加実験報告書」、平成18年12月13日
・乙第26号証:「平成18年(ヨ)第20021号 特許権侵害差止等仮処分命令申立事件」 決定の写し、平成18年7月25日
・乙第27号証:山口大学大学院理工学研究科教授 理学博士 大石勉外2名作成、「株式会社アキシスインターナショナル実験報告書「検証3」に対する実験報告書」、平成18年12月13日
・乙第28号証:新村出編、「広辞苑」、第四版第五刷、株式会社岩波書店、1995年11月10日、第666頁、第863頁、第978頁、第1453頁
・乙第29号証:「粘滑・表面麻酔剤キシロカイン^(R)ゼリー」説明書、アストラゼネカ株式会社、2003年10月改訂(第4版)
・乙第30号証:「殺菌消毒剤(逆性石ケン液)ヂアミトール^(R)「マルイシ」50W/V%」説明書、丸石製薬株式会社、2005年4月改訂(第3版)、(ウェブページhttp://www.maruishi-pharm.co.jp/med/product/022/01.htmlからの写し)
・乙第31号証:花王ハイジーンソルーション2002創刊号、花王株式会社、2002年6月27日、第13頁?第17頁
・乙第32号証:「ゼリー状アロエベラ化粧水」説明書、(ウェブページhttp;//www.aloe‐webshop.com/shop/gelly.htmlからの写し)
・乙第33号証:「フェミニーナなめらかゼリー」説明書、小林製薬株式会社(ウェブページhttp://hint.kobayashi.co.jp/tamatebako/tam_0311/index.htmlからの写し)
・乙第34号証:Fターム説明(テーマコード”4C066”、観点”CC”に関するFタームの説明ページ)、特許庁
・乙第35号証:特許庁編、「特許・実用新案 審査基準」、社団法人発明協会、2001年10月15日改訂、第14頁?第20頁(特許法36条4項の審査基準)
・乙第36号証:特許第3090425号公報
・乙第37号証:特許第3121571号公報
・乙第38号証:特許第3138765号公報
・乙第39号証:特開平9-78057号公報
・乙第40号証:特開平9-77605号公報
・乙第41号証:独立行政法人 国立高等専門学校機構宇部工業高等専門学校 准教授 工学博士 山崎博人作成、「実験報告書(ゼリー状体液漏出防止材の製造)」、平成19年5月20日
・乙第42号証:川崎良一作成、「ゼリー状体液漏出防止材の製造実験報告書」、平成19年5月28日
・乙第43号証:工学修士 黒岩貞昭作成、「ゼリー状体液漏出防止材の製造実験報告書」、平成19年6月7日
・ 乙第44号証:(株)日本食品開発研究所 代表取締役 中塚正博作成、「特許第3586207号の製造実験報告書」、平成19年6月11日
・乙第45号証:新村出編、「広辞苑第四版」、第四版第五刷、株式会社岩波書店、1995年11月10日、第975頁、第976頁、第1253頁、第1842頁、第1999頁
・乙第46号証:特許第3652297号公報
・乙第47号証:特許第3247946号公報
・乙第48号証:特許第3208475号公報
・乙第49号証:特許第2871669号公報
・乙第50号証:特許第2662767号公報
・乙第51号証:特許第3891688号公報
・乙第52号証:特許第3870877号公報
・乙第53号証:特許第3405728号公報
・乙第54号証:西尾実外2名編、「岩波国語辞典第三版」、第3版第2刷、株式会社岩波書店、1980年7月1日、第519頁
・乙第55号証:貝塚茂樹外2名編、「角川漢和中辞典」、111版、株式会社角川書店,昭和46年1月20日、第689頁
・文献1:新村出編、「広辞苑第六版」、第六版第一刷、株式会社岩波書店、2008年1月11日、第9頁、第1584頁
・文献2:特許第4029106号公報

第6 当審の判断
以下、無効審判が請求されている本件発明1について、無効理由の検討を行う。
なお、無効理由1の、「「アルコール系」及び「アルコール系を主成分とする」がなにを意味するものか明確ではない」という審判請求人の主張を検討するに当たっては、無効理由2の検討結果を踏まえる必要があるので、まず無効理由2を検討する。

1. 無効理由2(特許法第36条第6項第1号違反)について
無効理由2は、判決において「取消事由3」として判断されているところ、「本件発明1は改正前特許法36条6項1号に規定された要件を満たすといえる。」と判示された【判決書86頁下から3行?下から2行】。
したがって、無効理由2は、理由がない。

2. 無効理由1(特許法第36条第6項第2号違反)について
(1) 審判請求人の主張
審判請求人は、上記「第4 2.(1)」に記載したように、「請求項1に記載の「アルコール系」及び「アルコール系を主成分とする」がなにを意味するものか明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と、主張している。

(2) 被請求人の答弁
これに対し、被請求人は、「第5 2.(1)」に記載したように、「「アルコール系」が「アルコールに分類される化合物」を意味すること・・・明白である。このように、本件特許の請求項1の記載は正確であり、この請求項1から発明が明確に把握されるから、請求人の、本件特許に係る出願が特許法第36条第6項第2号に該当する、という主張には理由がない。 」と答弁している。

(3) 判断
そこで、本件発明1の「アルコール系」について検討するに、判決において、「本件発明1でいう「アルコール系」については,いわゆる「アルコール」一般を指すものとは解されず,「高吸収性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」と解釈するのが相当である。」と判示されている【判決書85頁11行?14行】。
そうしてみると、「アルコール系」が明確であるから、「アルコール系を主成分とする」も明確であるといえ、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、特許を受けようとする発明が明確に記載されていないとはいえない。
したがって、無効理由1は、理由がない。

3. 無効理由3(特許法第36条第4項違反)について
無効理由3は、判決において「取消事由4」として判断されているところ、「本件明細書(審決注:本件特許明細書に同じ)程度の記載があれば,当業者であれば本件発明1を容易に実施し得ると認められる」と判示された【判決書98頁18行?19行】。
したがって、無効理由3は、理由がない。

第7 総括
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?3は何れも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1の特許を無効とすることはできない。
また、本件発明1の特許を無効とすべきその他の理由もない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が、アルコール系を主成分とする粘性を有するゼリ-の中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材。
【請求項2】
ゼリーがエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、グリセリンの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項3】
ゼリーは、アクリル酸重合体、中和剤が含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項4】
アルコール系主成分100重量部に対し、アクリル酸重合体が0.01?1.0重量部、中和剤が0.03?0.7重量部含まれることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項5】
ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000?40,000CPであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項6】
ゼリー状体液漏出防止材のPHが7?9であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項7】
該体液漏出防止材に薬液が含まれることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材を注入シリンダに入れ、注入シリンダの先端に取り付けた注入管の先端を体腔に投入し、注入シリンダ内のゼリー状体液漏出防止材を注入管を介して、体腔の所定位置に投入し、ゼリー状体液漏出防止材が体液を吸収することで体液漏出を防止することを特徴とする体液漏出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の体腔に装填される体液漏出防止材及びその体液漏出防止材を使用した体液漏出防止方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人体は、死亡後に胃液、肺液、腹水、排泄物などの体液を漏出させることがある。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔にガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれている。また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。
【0003】
ガーゼ、脱脂綿等に代えて高吸水性の樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られている。例えば、特開平7-265367号公報では、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用することが知られている。また、特開平10-298001号公報のように、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填することが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に行なわれている遺体の口、鼻、耳等の体腔にガーゼ、脱脂綿等を装填する方法では、漏出体液が多い場合には、ガーゼ、脱脂綿等では不十分であって、体外に漏れ出たりしている。漏出した体液の処理時に病原菌に感染する恐れがあり、作業者からは嫌われている。また新しいガーゼ、脱脂綿等と交換する必要があり、煩わしいだけでなく、遺体体液を介して病原菌が感染する危険性があり、交換時にはその周辺に漏出体液の悪臭が残るなどの問題がある。
【0005】
特開平7-265367号公報のように咽喉部に高吸水性樹脂粉末を装填しようとしても、装填するための手段がなくては、狭い間隔の体腔例えば咽喉部、肛門等では装填することが困難である。
【0006】
特開平10-298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸収ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0007】
即ち、特開平7-265367号公報や特開平10-298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに、粉末をそのまま遺体に装填する場合には、体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出たり、又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。
【0008】
特に、粉末としては、体液を吸収して膨潤することに主眼が置かれ、各種の樹脂粉末の開発が行なわれている。いずれも親水性樹脂粉末であり、この種の樹脂粉末は体液を吸収して膨潤してゲル化する機能は優れている。しかし、この種の樹脂粉末は吸収量が多いとゾル状になり、更に進むと溶けるものが多い。また、体液が、胃酸などの強酸性体液や胆汁などのアルカリ性体液を含んでいると、ゲル状態を維持できないものが多い。
【0009】
また、粉体でなく、ゼリーを用いるものとして、特開平08-133901号公報のものが知られている。この公報では、消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリーにし、遺体の鼻腔の奥、口腔の奥、耳穴の奥に注入器等で圧入し充満させ、ゼリーで止血し、その外側に更に衛生綿で栓をするものである。
【0010】
この公報のものでは、ゼリーに消臭剤を混合して異臭を防止するようにし、ゼリー自体で栓をすることを狙いとしている。その上、ゼリーだけでは封止が十分でないので、衛生綿等で更に封止するようにしている。この公報のように、粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にすれば、流動性が良くなるので、鼻孔等の奥にも注入しやすく、注入器を使って注入しても、粉体のように飛散することも無く、注入管を伝って滑らかに注入できる。しかし、既に水に溶かしているために、本来ポリマーが有する給水性能はほとんどなくなっている。したがって、ゼリーは鼻孔の隙間を埋める栓としての機能でしか使われなく、鼻孔を十分に封止することができない。
【0011】
粉体では鼻孔等の体腔に充填しにくい、ゼリーでは吸水性能が不足し、体腔を封止できない。そのために、実際の現場では、相変わらずガーゼや脱脂綿で応急処置しているだけであり、ガーゼや脱脂綿に代わる体液漏出防止技術の実現が強く望まれている。
【0012】
本発明の第1の目的は、今までの樹脂粉末では遺体の体液漏出を防止できないので、新規な体液漏出防止材を開発したことを特徴とする。特に、ゼリーでありながら高い吸水性を有する体液漏出防止材を開発したことを特徴とする。
【0013】
第2の目的は、ポリマーが粉体の状態でゼリーの中に分散しているゼリー状の体液漏出防止材を使用して、体腔を封止することを特徴とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が、アルコールを主成分とする粘性を有するゼリ-の中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるので、体液漏出防止材の流動性が高く、鼻孔、耳穴等の狭い体腔であっても充填されやすく、注入器で圧入しても飛散することがない。その上、ゼリーにポリマーが分散しているので、ポリマーが吸水性能を維持しており、このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し、外部へ漏出することを防止する。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
請求項2の発明は、請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材において、
ゼリーがエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、グリセリンの少なくとも1種からなる構成であり、ゼリー状の中に粉体を分散して保持できる。
【0019】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載のゼリー状体液漏出防止材において、
ゼリーは、アクリル酸重合体、中和剤が含まれる構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持できる。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、
アルコール系主成分100重量部に対し、アクリル酸重合体が0.01?1.0重量部、中和剤が0.03?0.7重量部含まれる構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持できる機能に優れている。
【0021】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、
ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000?40,000CPである構成であり、ゼリーの流動性が良いので、耳孔、鼻孔、肛門、女性の膣・尿道などの狭い体腔通路もスムーズに投入でき、適確に封止できる。
【0022】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、
ゼリー状体液漏出防止材のPHが7?9である構成であり、粉体の吸水性を維持した状態でゼリー状の中に分散して保持でき、体液漏出防止機能に優れている。
【0023】
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において、該体液漏出防止材に薬液が含まれる構成であり、異臭を吸収したり、作業中に作業者が病原菌に感染することを防止できる。
【0024】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材を注入シリンダに入れ、注入シリンダの先端に取り付けた注入管の先端を体腔に投入し、注入シリンダ内のゼリー状体液漏出防止材を、注入管を介して体腔の所定位置に投入し、ゼリー状体液漏出防止材が体液を吸収することで体液漏出を防止する方法であり、滑らかに体腔に体液漏出防止材を装填でき、かつ漏出する体液を十分に吸収できる。また、体腔に注入する際に、ゼリーが飛散しないし、漏出もしないので周辺を汚す恐れもない。
【0025】
本発明で使用する高吸水性ポリマーは、ゼリー中に粉体で分散混在しているが、体液を吸収して確実に漏出を防止するためには、ゼリーの中に5,000個以上/ml分散していることが好ましい。特に、高吸水性ポリマーが微粉体からなり、ゼリーの中に15,000個/ml?30,000個/ml分散していることが更に好ましい。その上更に、高吸水性ポリマー粉体が60?200メッシュの粉体からなり、ゼリーの中に18,000個/ml?25,000個/ml分散していると体液漏出効果が非常に高い。
【0026】
本発明で使用するゼリーの粘液基材としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、グリセリンの中から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。特に、グリコール系はアクリル酸系ポリマーを粉体の状態で分散して保持している状態が安定しており、好ましい。エチレングリコールが取り扱いが容易であって、半年以上放置しても、内部に分散している微粉体が溶けることなく、長期間安定して粉体の状態を維持することができた。
【0027】
ゼリーとしては、粘液基材としてのアルコール系主成分100重量部に対し、アクリル酸重合体が0.01?1.0重量部、中和剤が0.03?0.7重量部含まれることが好ましい。特に、アクリル酸は、安定したゼリーを生成するために必要であり、0.01重量部未満では粘度が不足する。一方1.0重量部より多くなると、粘度が飽和点に達し、それ以上は多くしても粘度は上がらない。
【0028】
中和剤はゼリーのPHを適正な値に維持するために必要であり、0.03重量部未満では、PHが下がり、その結果ゼリーの粘性が不足し、粘度の有効な範囲を外れる。一方、0.7重量部より多くなると、ゼリーの粘性が安定しなくなり、調整が困難となる。
【0029】
ゼリー状体液漏出防止材の粘度は8,000?40,000CPであることが好ましい。この値よりも粘度が低いとさらさらとなり、体腔には入りやすいが、所定位置に留まることがなく、封止効果が期待できない。一方、40,000CPよりも多すぎると粘性が高すぎて、体腔に注入することが難しくなる。
【0030】
ゼリー状体液漏出防止材のPHは7?9に調整することが好ましい。PHが7よりも少なくなると、ゼリーの粘性が不足し、粘度の有効な範囲を外れる。一方PHが9より高くなると、粘度が変動して不安定となり、体腔に注入することが難しくなるので、好ましくない。PHはゼリーの粘度を適正な値にするバロメーターとして使われる。
【0031】
該体液漏出防止材には、二酸化安定塩素、消臭剤、殺菌剤、防腐剤等の薬液を添加しても良い。
【0032】
本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材の製造方法を説明する。
攪拌機に粘液基材であるエチレングリコールを入れる。このエチレングリコールを攪拌しながら、アクリル酸重合体を少量づつ加えていく。2?8時間攪拌して、分散液を生成する。この分散液を攪拌しながら、中和剤を少量づつ滴下していく。これにより、ゼリーが生成される。このゼリーにゲル粉末である高吸水性ポリマーを加え、十分に攪拌する。これにより、ポリマーが分散したゼリーが生成される。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1により、本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材を鼻孔奥の咽喉部に充填する場合の充填方法を説明する。
ゼリー状の体液漏出防止材8を注入器1に入れる。注入器1は、その先端に保護キャップ3を被せた注入口2を備え、フイルムパック(図示せず)で包んでシールした状態にしておく。それと、咽喉部B等の体腔に挿入される挿入管4を用意しておく。挿入管4は、一端に注入器1の注入口2に接続される接続部5を有し、他端に鼻孔Aに挿入される開口部6を有する。挿入管4は挿入しやすいように先端が先細に形成され、開口部6を挿入方向及び側方に開口している。
【0034】
図1は、このようにして用意された体液漏出防止装置を遺体に使用する状態を示す。Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道、Fは頚椎である。使用時には、フイルムパックから注入器1を取り出し、注入器1の注入口2の保護キャップ3を取り外し、代わりに挿入管4の接続部5を被せて接続する。挿入管4の開口部6を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管4のストッパ部7が鼻先Bに当たった時点で挿入を中止する。そして、注入器1のピストン1aを押圧し、注入器1内のゼリー状の体液漏出防止材8を挿入管4を経由して咽喉部Bに注入する。挿入管4の開口部6は挿入方向先端だけでなく、側面にも開口しているので、一部開口部が詰まっても咽喉部Bに導入される。注入器1内の体液漏出防止材8を押出した後は、注入器1と挿入管4を鼻孔Aから取り除く。
【0035】
この実施例では、複数の開口部6から咽喉部Bに集中的に体液漏出防止材8が流し込まれる。特に、ゼリーの状態で流し込まれるので流動性が非常によく、軽い力で滑らかに充填できる。粉末のように拡散して鼻孔Aから飛び出たりすることがなく、この体液漏出防止材8が咽喉部Bに留まり、咽喉部Bが封止される。
【0036】
本発明のゼリーは、粉体と違って非常に流動性があるので、鼻奥の咽喉部でも細い挿入管4を介して必要部位に投入でき、耳孔の奥、肛門、女性の膣などにも楽に充填でき、体液の漏出を封止できる。また、充填時の音が比較的静かであり、作業者は周囲の人たちを気にせずに作業できる。
【0037】
挿入抵抗を軽減するために、挿入管4に潤滑剤を塗布しても良い。挿入管4と注入器1とを接続して鼻孔Aに挿入したが、挿入管4を先に鼻孔Aに挿入し、それから挿入管4に注入器1を接続しても良い。注入器と挿入管とをいっしょにフイルムパックで包んでも良い。注入器と挿入管は初めから接続されたものでも、または一体に作られたものでも良い。ストッパの代わりにマークを付与したものでも、挿入位置のばらつきを防止できる。
【0038】
図2は第2実施例を示す。第1実施例と同様な体液漏出防止材8が充填された注入器を肛門に挿入される肛門封止部材10に使用する実施例である。肛門封止部材10は、射出成形樹脂材からなり、芯部材11、案内部材13及びストッパ部材16を備えている。芯部材11が中空の円筒形状であって、内部に前後方向に貫通する中空部12が形成されている。案内部材13は内部に中空部が形成され、この中空部を囲む筒部14が長手方向後方に延びて設けられている。筒部14の前方は挿入時の案内部15として曲線状に先細に形成されており、筒部14の外周に間隙17を開けて延長部18が前方から長手方向後方かつ外方に延びるように設けられている。芯部材11の前部が間隙17に挿入されるように、芯部材11の中空部12に案内部材13の筒部14が挿入嵌合される。ストッパ部材16の前部には、芯部材11の中空部12に嵌合される筒部19が設けられ、ストッパ部材16の後部には、幅広のフランジ形状の当て部材20が一体に形成されている。芯部材11の中空部12と案内部材13の筒部14、芯部材11の中空部12とストッパ部材16の筒部19との間には、互いに嵌り合う凸部21と凹部22が形成されている。
【0039】
芯部材11を包むように巻かれるゴム部材23が上記凸部21と上記凹部22で挟持されるようになっている。筒部14の外径が先端方向に向けて幅広になるようにテーパーになっており、芯部材11の前部の内径も同様にテーパーになっている。また、筒部19の外径は当て部材20方向に向けて幅広になるようにテーパーになっており、芯部材11の後部の内径も同様にテーパーになっている。このテーパーによりゴム部材23が巻き込まれた時にゴム部材23のたるみが少なくなるようになっている。
【0040】
芯部材11の外周に、小径の段部24が設けられ、そこに4つのスリット孔25が形成されている。この段部24にゴム製のバンド26が巻かれている。バンド26はスリット孔25を閉めるように、段部24の外径より少し小径のものが伸ばされて巻かれている。
【0041】
ストッパ部材16の筒部19の内部には導入通路27が貫通して形成されている。当て部材20は筒部19の途中から略直行する方向に滑らかな曲線で延びて、先端が楕円形状になるように設けられている。当て部材20の外周、即ち肛門周辺の皮膚と接触する面に接触面材28が貼り付けてある。接触面材28としては、スポンジ、フェルト、吸収剤層、ゲル剤層、接着剤層、接着テープ等が用いられる。当て部材20の内周には、筒部19の先端を覆うようにカバー部材29が貼り付けられている。このカバー部材29の中央部、即ちストッパ部材16の筒部19の先端に対面する部分には、十字形状の切込み30またはスリットが開けられており、注入器(図示せず)を筒部19の先端にセットする時には、妨げにならず、通常は筒部19の先端を隠すようになっており、見栄えを良くしている。
【0042】
可撓性部材として膨張するゴム部材23が、芯部材11の外周に調整室31を設けて芯部材11に被せられている。ゴム部材23は両方が開口した筒状部材であって、一方の開口部分が芯部材11の中空部12とストッパ部材16の筒部19との間で挟持され、他方の開口部分が芯部材11の中空部12と案内部材13の筒部14との間で挟持される。
【0043】
したがって、芯部材11の中空部12とストッパ部材16の導入通路27との連通がゴム部材23で塞がれることが無い。なお、この実施例では、筒状のゴム部材で説明したが、袋状のゴム部材いわゆるゴム風船であってもよい。
【0044】
この実施例では、互いに嵌り合う凸部21と凹部22は周方向には数個設けられているが、適当な数設ければよいものである。凸部21と凹部22は1列であるが、複数列にしても良く、凸部と凹部は反対に設けても良い。この実施例では4箇所にスリット孔25を設けているが、これに限られるものではなく、1個でもよく、又5個以上でも良い。また、スリット孔に限らず、機能を満足する連通孔であれば他の形状でも良い。これらの芯部材11、案内部材13及びストッパ部材16は射出成形樹脂材からなるので、安定した形状を量産でき、さらに、遺体といっしょに焼却する時でも有害成分の発生問題はない。
【0045】
作業時は、肛門封止部材10を肛門に押し込み、当て部材20の接触面材28が肛門周辺皮膚に当たるまで挿入する。その後、切込み30から注入器(図示せず)を筒部19の先端にセットし、注入器のピストンを押し込む。これにより、注入器内部の体液漏出防止材が導入通路27、芯部材11の中空部12、スリット孔25を通って、ゴム製バンド26を押し広げて調整室31に導入される。それによって、ゴム部材23が膨張し、体腔内壁に密着するようになる。
【0046】
図1では鼻孔から導入し、咽喉部を封止する実施例で本発明を説明したが、遺体の口腔、鼻孔そのもの、耳孔、尿道、肛門、女性の膣に適用しても良い。また、事故や手術後の遺体の傷口や開口部分にも適用しても良い。
【0047】
図示しないが、ゼリー状の体液漏出防止材8が水溶性フイルムに包まれて用意されているか、あるいはゼリー状の体液漏出防止材8を包むものが先端から滑らかな形状で膨らんで、その後後方に向けて滑らかに小径になったカプセル形状に形成され、その表面に潤滑剤が塗布されて用意されていることも可能である。特に肛門、女性の膣・尿道に対しては、座薬を挿入する感覚で装填でき、作業も比較的楽である。
【0048】
【発明の効果】
本発明では、内部に粉体が分散したゼリー状の体液漏出防止材であるので、この体液漏出防止材は流動性があり、滑らかに体腔内に注入でき、必要部位に集中的に充填し留めることができる。それと同時に体液漏出防止材内部に粉体を分散保持しているので、この粉体により、体内から出てくる体液を吸収でき、体液が体外に漏出することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明にかかわる体液漏出防止装置の使用状態を示す図である。
【図2】
(a)及び(b)は本発明の別の実施例を示す縦断側面図及び背面図である。
【符号の説明】
1 注入器
2 注入口
3 保護キャップ
4 挿入管
5 接続部
6 開口部
7 ストッパ部
8 両親媒性ゲル
A 鼻孔
B 咽喉部
C 舌
D 気管
E 食道
F 頚椎
10 肛門封止部材
11 芯部材
12 中空部
13 案内部材
14 筒部
15 案内部
16 ストッパ部材
17 間隙
18 延長部
19 筒部
20 当て部材
21 凸部
22 凹部
23 ゴム部材
24 段部
25 スリット孔
26 バンド
27 導入通路
28 接触面材
29 カバー部材
30 切込み
31 調整室
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-12-25 
結審通知日 2007-01-24 
審決日 2007-02-07 
出願番号 特願2001-78131(P2001-78131)
審決分類 P 1 123・ 851- YA (A01N)
P 1 123・ 536- YA (A01N)
P 1 123・ 855- YA (A01N)
P 1 123・ 841- YA (A01N)
P 1 123・ 853- YA (A01N)
P 1 123・ 832- YA (A01N)
P 1 123・ 852- YA (A01N)
P 1 123・ 854- YA (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
杉江 渉
登録日 2004-08-13 
登録番号 特許第3586207号(P3586207)
発明の名称 ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法  
代理人 嶋田 高久  
代理人 竹内 宏  
代理人 前田 弘  
代理人 前田 弘  
代理人 嶋田 高久  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  
代理人 竹内 宏  

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