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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する H04J
管理番号 1195710
審判番号 訂正2009-390009  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-02-04 
確定日 2009-04-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3436742号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3436742号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件は,パリ条約による優先権主張(優先権主張日,平成9年10月10日,米国)を伴った,平成10年10月9日付けの国際出願であり,平成15年6月6日に特許第3436742号発明として設定登録になったものであって,本件審判の請求の要旨は,その明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記(1)(2)のとおり訂正することを求めるものである。

(1)
請求項1,4,14,の「妨害イベントに相当し」を「妨害イベントに対応し」と訂正する。
(2)
請求項5,6,7,17,18,21,22の「妨害イベントに相当する」を「妨害イベントに対応する」と訂正する。

2.当審の判断
そこで,これらの訂正事項について検討する。
(1)について
訂正前の請求項1において,「妨害イベントに相当し」の主語は「第2のチャネル制御テーブル」であって,その役割は,同請求項の記載によれば,「第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる」ためのもであるから,「第2のチャネル制御テーブルは,妨害イベントに相当し」との記載は,日本語として,明りょうとはいいがたい。
一方,本願の発明の詳細な説明の段落【0030】には,「特定の実施例として,二次チャネル制御テーブルにおける多数の異なるビット割り当てセットは,一次チャネル制御テーブルにおける対応するビット割り当てセットの異なるパーセンテージ(サブチャネルにわたって一定のまたは変動する)として決定され得る。各二次ビット割り当てセットは,例えば電話ハンドセット,ファクシミリ機,などの特定の装置または装置の分類によって一般にもたらされる影響であって,そのような装置での繰り返しの測定により決定される影響に対応し,従って,例えば特定のタイプの加入者回線配線を用いる,中央局からの所与の範囲にある,などの通信条件の範囲にわたるその装置の予想される影響を表すと考えられ得る。・・・」と記載されており,これによれば,「各二次ビット割り当てセット」が「二次チャネル制御テーブル」を構成するものであって,「電話ハンドセット,ファクシミリ機,などの特定の装置または装置の分類によって一般にもたらされる影響」が妨害イベント(妨害事象)であることは明らかでから,第2の(二次)チャネル制御テーブルは,妨害イベント(妨害事象)に対応していると,当然理解できる。その他,段落【0025】?【0026】,【0030】【0034】【0044】【0075】【0091】【0092】等にも類似の記載がなされている。
してみると,「妨害イベントに相当し」を「妨害イベントに対応し」と訂正することは,日本語として明りょう性を欠く記載を,より明りょうなものにしたということができる。
また,請求項4,14,の「妨害イベントに相当し」を「妨害イベントに対応し」と訂正することも同様である。
(2)について
請求項5,6,7,17,18,21,22の「妨害イベントに相当する」を「妨害イベントに対応する」と訂正することも,「相当し」は「相当する」との動詞の活用形上の単なる語尾変化にすぎないから,上記「(1)について」と同様に,日本語として明りょう性を欠く記載を,より明りょうなものにしたものにすぎない。

したがって,訂正事項である(1)(2)は,明りょうでない記載の釈明に該当し,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおりであるから,上記訂正は,特許法第126条第1項第3号に揚げる事項を目的とし、第2項ないし第4項の規定に適合するので,当該訂正を認める。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スプリッタレス多搬送波モデム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の離散したサブチャネルに亘ってデータを通信するモデムであって、該サブチャネルの各々は、該サブチャネルを介して通信を行うための対応するサブチャネルに亘るビットの割り当てを規定するビット割り当てパラメータにより特徴づけられており、
第1の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第1のチャネル制御テーブルを格納する手段と、
第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第2のチャネル制御テーブルを格納する手段とを備え、
該第2のチャネル制御テーブルは、妨害イベントに対応し、
該第1および第2のチャネル制御テーブルは、該サブチャネルの通信能力が決定される初期化セッション中に決定され、
該第1のチャネル制御テーブルは、干渉シグナリング状態が存在しない状態で決定される、モデム。
【請求項2】
前記第2のチャネル制御テーブルは、前記第1のチャネル制御テーブルの関数として決定される、請求項1に記載のモデム。
【請求項3】
前記第2のチャネル制御テーブルのビット割り当てが、前記第1のチャネル制御テーブルのビット割り当ての百分率として決定される、請求項2に記載のモデム。
【請求項4】
複数の離散したサブチャネルに亘ってデータを通信するモデムであって、該サブチャネルの各々は、該サブチャネルを介して通信を行うための対応するサブチャネルに亘るビットの割り当てを規定するビット割り当てパラメータにより特徴づけられており、その改良点として、
第1の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第1のチャネル制御テーブルを格納する手段と、
第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第2のチャネル制御テーブルを格納する手段であって、該第2のチャネル制御テーブルは、妨害イベントに対応し、該第2のチャネル制御テーブルは、対応する複数のイベント生成ソースによって生成される複数のシグナリングイベントに応答して決定された複数のチャネル制御テーブルから選択され、該複数のイベント生成ソースの各々は、所与のソースに特定のチャネル制御テーブルを規定する、手段と、
該ソースがイベントを生成すると、該第2のチャネル制御テーブルとして用いるために、該複数のチャネル制御テーブルから一つを選択する手段と、を備える、モデム。
【請求項5】
複数のサブチャネルから形成されるアップストリーム通信チャネルおよびダウンストリーム通信チャネルの両方を有するループを介して、非対称的デジタル加入者ライン通信に用いられるモデムであって、該ループは、音声通信およびデータ通信の両方を搬送可能に構成されており、
第1の通信状態における、該モデムと該ループに接続された第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第1のテーブルを格納する手段と、
第2の通信状態における、該モデムと該第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第2のテーブルを格納する手段であって、該第2のテーブルは、妨害イベントに対応する、手段と、
該モデムによる該ループへの送信の戻り特性を調査するために、該ループ中にテスト信号を発する手段と、
該調査された戻り特性に応じて該送信の出力レベルを制限する手段であって、該調査は規定された振幅および周波数の複数のトーンを含み、該調査された戻り特性は、該トーンを発するのに応答して該モデムに返された信号の振幅および周波数を含む群より選択される少なくとも1つの特性を含む、手段とを備える、モデム。
【請求項6】
複数のサブチャネルから形成されるアップストリーム通信チャネルおよびダウンストリーム通信チャネルの両方を有するループを介して、非対称的デジタル加入者ライン通信に用いられるモデムであって、該ループは、音声通信およびデータ通信の両方を搬送可能に構成されており、
第1の通信状態における、該モデムと該ループに接続された第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第1のテーブルを格納する手段と、
第2の通信状態における、該モデムと該第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第2のテーブルを格納する手段であって、該第2のテーブルは、妨害イベントに対応する、手段と、
該サブチャネルの送信特性を等化する等化器であって、該第1および第2のテーブルは、
(1)時間ドメイン等化器の係数と、
(2)周波数ドメイン等化器の係数と、
(3)デジタルエコーキャンセラの係数とのうちの少なくとも1つを規定する、等化器とを備える、モデム。
【請求項7】
複数のサブチャネルから形成されるアップストリーム通信チャネルおよびダウンストリーム通信チャネルの両方を有するループを介して、非対称的デジタル加入者ライン通信に用いられるモデムであって、該ループは、音声通信およびデータ通信の両方を搬送可能に構成されており、
第1の通信状態における、該モデムと該ループに接続された第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第1のテーブルを格納する手段であって、該第1のテーブルは、選択されたイベントの不在時における初期化プロセス中に決定される、手段と、
第2の通信状態における、該モデムと該第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第2のテーブルを格納する手段であって、該第2テーブルは、妨害イベントに対応する、手段とを備える、モデム。
【請求項8】
前記第2のテーブルは、選択されたイベントの存在時における初期化プロセス中に決定される、請求項7に記載のモデム。
【請求項9】
前記第2のテーブルは、選択されたイベントの発生に応答して再決定される、請求項8に記載のモデム。
【請求項10】
前記再決定された第2のテーブルを表すデータは、休止状態において、所与のモデムから該モデムが通信する他のモデムへ送信される、請求項9に記載のモデム。
【請求項11】
第1および第2の、複数の離散周波数サブチャネルを用いて、アップストリームチャネルおよびダウンストリームチャネルを介してワイヤライン上でデータ伝送を行う方法であって、
少なくとも2つの異なる通信状態の下で、該チャネルを介するデータ通信を規定する、少なくとも第1および第2のパラメータセットを格納するステップと、
優勢な通信状態に応じて、通信において使用されるパラメータセットを選択するステップと、
該選択されるべきパラメータセットを識別する信号を該ラインを介して伝送するステップとを包含し、
該信号は、該アップストリームチャネルとダウンストリームチャネルとの間の中間帯域のサブチャネル上を伝送される、方法。
【請求項12】
第1および第2の、複数の離散周波数サブチャネルを用いて、アップストリームチャネルおよびダウンストリームチャネルを介してワイヤライン上でデータ伝送を行う方法であって、
少なくとも2つの異なる通信状態の下で、該チャネルを介するデータ通信を規定する、少なくとも第1および第2のパラメータセットを格納するステップと、
優勢な通信状態に応じて、通信において使用されるパラメータセットを選択するステップと、
該選択されるべきパラメータセットを識別する信号を該ラインを介して受け取るステップとを包含し、
該信号が、該アップストリームチャネルおよびダウンストリームチャネルの中間のサブチャネル上で受け取られる、方法。
【請求項13】
第1および第2の、複数の離散周波数サブチャネルからのアップストリームチャネルおよびダウンストリームチャネルを介してワイヤライン上でデータ伝送を行う方法であって、
少なくとも2つの異なる通信状態の下で、該チャネルを介するデータ通信を規定する、少なくとも第1および第2のパラメータセットを格納するステップと、優勢な通信状態に応じて、通信において使用されるパラメータセットを選択するステップであって、該パラメータセットは、サブチャネル周波数ドメイン係数、時間ドメイン係数、およびエコーキャンセル係数を含む群からの少なくとも1つのパラメータセットを含む、ステップとを包含する、方法。
【請求項14】
複数の離散したサブチャネルに亘ってデータを通信する方法であって、該サブチャネルの各々は、該サブチャネルを介して通信を行うための対応するサブチャネルに亘るビットの割り当てを規定するビット割り当てパラメータにより特徴づけられており、
第1の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第1のチャネル制御テーブルを格納するステップと、
第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第2のチャネル制御テーブルを格納するステップとを包含し、
該第2のチャネル制御テーブルは、妨害イベントに対応し、
該第1および第2のチャネル制御テーブルは、該サブチャネルの通信能力が決定される初期化セッション中に決定され、
該第1のチャネル制御テーブルは、干渉シグナリング状態が存在しない状態で決定される、方法。
【請求項15】
前記第2のチャネル制御テーブルが、前記第1のチャネル制御テーブルの関数として決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のチャネル制御テーブルのビット割り当てが、前記第1のチャネル制御テーブルのビット割り当ての百分率として決定される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
複数の離散したサブチャネルに亘ってデータを通信する方法であって、該サブチャネルの各々は、該サブチャネルを介して通信を行うための対応するサブチャネルに亘るビットの割り当てを規定するビット割り当てパラメータにより特徴づけられており、
第1の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第1のチャネル制御テーブルを格納するステップと、
第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第2のチャネル制御テーブルを格納するステップであって、該第2のチャネル制御テーブルは、妨害イベントに対応する、該第2のチャネル制御テーブルは、対応する複数のイベント生成ソースによって生成される複数のシグナリングイベントに応答して決定された複数のチャネル制御テーブルから選択され、該複数のイベント生成ソースの各々は、所与のソースに特定のチャネル制御テーブルを規定する、ステップと、該ソースがイベントを生成すると、該第2のチャネル制御テーブルとして用いるために、該複数のチャネル制御テーブルから一つを選択するステップとを包含する、方法。
【請求項18】
複数の離散したサブチャネルに亘ってデータを通信する方法であって、該サブチャネルの各々は、該サブチャネルを介して通信を行うための対応するサブチャネルに亘るビットの割り当てを規定するビット割り当てパラメータにより特徴づけられており、第1の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第1のチャネル制御テーブルを格納するステップと、第2の通信状態中に該サブチャネルへビットを割り当てる第2のチャネル制御テーブルを格納するステップであって、該第2のチャネル制御テーブルは、妨害イベントに対応する、ステップと、
第1のモデムが該通信状態のいずれかにあるときに、該第1および第2のチャネル制御テーブルのいずれかのチャネル制御テーブルを再決定するステップと、
該第1のモデムと通信状態となるように、該サブチャネルに接続された第2のモデムに、該再決定されたチャネル制御テーブルを表すデータを送信するステップとを包含する、方法。
【請求項19】
前記再決定されたチャネル制御テーブルを表す前記データは、前記離散したサブチャネルから選択された専用サブチャネルを介して送信される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記再決定されたチャネル制御テーブルのタイプを識別する情報を前記第2のモデムに通信するステップをさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
複数のサブチャネルから形成されるアップストリーム通信チャネルおよびダウンストリーム通信チャネルの両方を有するループを介して非対称的デジタル加入者ライン通信のための方法であって、該ループは、音声通信およびデータ通信の両方を搬送可能に構成されており、
第1の通信状態における、第1のモデムと該ループに接続された第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第1のテーブルを格納するステップと、
第2の通信状態における、該第1のモデムと該第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第2のテーブルを格納するステップであって、該第2のテーブルは、妨害イベントに対応する、ステップと、
該サブチャネルの送信特性を等化するステップであって、該第1および第2のテーブルは、
(1)時間ドメイン等化器の係数と、
(2)周波数ドメイン等化器の係数と、
(3)デジタルエコーキャンセラの係数とのうちの少なくとも1つを規定する、ステップとを包含する、方法。
【請求項22】
複数のサブチャネルから形成されるアップストリーム通信チャネルおよびダウンストリーム通信チャネルの両方を有するループを介して非対称的デジタル加入者ライン通信のための方法であって、該ループは、音声通信およびデータ通信の両方を搬送可能に構成されており、
第1の通信状態における、第1のモデムと該ループに接続された第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第1のテーブルを格納するステップであって、該第1のテーブルは、選択されたイベントの不在時における初期化プロセス中に決定される、ステップと
第2の通信状態における、該第1のモデムと該第2のモデムとの間のデータ通信を規定する、第2のテーブルを格納するステップであって、該第2のテーブルは、妨害イベントに対応する、ステップとを包含する、方法。
【請求項23】
前記第2のテーブルは、選択されたイベントの存在時における初期化プロセス中に決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のテーブルは、選択されたイベントの発生に応答して再決定される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
休止状態において、所与のモデムから該モデムが通信する他のモデムへ前記再決定された第2のテーブルを表すデータを送信するステップをさらに包含する、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、本願の発明者の1人以上によって出願された以下の出願に幾分か基づいている。
【0002】
1997年10月10日出願の、「Splitterless Multicarrier Modulation For High Speed Data Transport Over telephone Wires」と題された、Richard Gross、John Greszcuk、Dave Krinsky、Marcos Tzannes、およびMichael Tzannesの米国仮特許出願シリアル番号第60/061,689号、1998年1月16日出願の、「Dual Rate Multicarrier Transmission System In A Splitterless Configuration」と題された、Richard GrossおよびMichael Tzannesの米国仮特許出願シリアル番号第****号、1998年1月21日出願の、「Dual Rate Multicarrier Transmission System In A Splitterless Configuration」と題された、Richard Gross、Marcos Tzannes、およびMichael Tzannesの米国仮特許出願シリアル番号第***号、1998年1月26日出願の、「Multicarrier System With Dynamic Power Levels」と題された、Richard Gross、Marcos Tzannes、およびMichael Tzannesの米国仮特許出願シリアル番号第***号。
【0003】
本明細書において、上記出願の開示全体を参考として援用する。
【0004】
(発明の背景)
A.発明の分野
本発明は、電話通信システムに関し、具体的には、離散的マルチトーン変調を用いてデジタル加入者回線を介してデータを伝送する電話通信システムに関する。
【0005】
B.従来技術
公衆交換電話網(PSTN)は、ほとんどの個人および企業に、最も広く利用可能な形態の電子通信を提供する。PSTNの容易な利用可能性と、代替の設備を提供するのにかかるかなりのコストとのため、PSTNは、かなりのデータ量を高いレートで伝送することへの拡大する需要を受け入れることがますます求められている。PTSNは、元々音声通信を提供するために構成され、その結果として狭いバンド幅の要求を有しており、サービス需要を満たすために、ますますデジタルシステムに頼っている。
【0006】
高レートのデジタル伝送を実現する能力の主要な制限因子は、電話中央局(CO)と加入者の家屋との間の加入者ループであった。このループは、最も一般的には、単一のより線対を含む。このより線対は、0?4kHzのバンド幅がかなり適している低周波数音声通信の搬送には非常に適しているが、通信のための新しい技術を採用しなければ、広帯域通信(即ち、数百キロヘルツ以上のオーダのバンド幅)には容易に適応しない。
【0007】
この問題点に対する1つのアプローチは、離散的マルチトーンデジタル加入者回線(DMT DSL)技術、およびその変形である離散的ウェーブレットマルチトーンデジタル加入者回線(DWMT DSL)技術の開発であった。以下、離散的マルチトーンデジタル加入者回線技術(ADSL、HDSLなど)の上記およびその他の形態を、一般に「DSL技術」と総称するか、または、しばしば単に「DSL」と呼ぶ。離散的マルチトーンシステムの動作と、離散的マルチトーンシステムのDSL技術への適用とは、「Multicarrier Modulation For Data Transmission:An Idea Whose Time Has Come」、IEEE Communications Magazine、May,1990、pp.5-14に、より完全に説明されている。
【0008】
DSL技術では、中央局と加入者の家屋との間のローカル加入者ループを介する通信は、多数の離散的周波数搬送波上に伝送されるデータを変調することにより達成される。これらの離散的周波数搬送波は、一緒にまとめられ、そして次いで、加入者ループを介して伝送される。これらの搬送波は、個々には、制限されたバンド幅の離散的な重ならない通信サブチャネルを形成し、集合的には、これらの搬送波は、事実上広帯域通信チャネルであるものを形成する。受信器端で搬送波が復調され、そしてこれらの搬送波からデータが回復される。
【0009】
各サブチャネルを介して伝送されるデータ記号は、サブチャネルの信号対雑音比(SNR)に依存してサブチャネルごとに異なり得る多数のビットを有する。特定の通信条件下で達成することができるビット数は、サブチャネルの「ビット割り当て」として知られており、サブチャネルの測定SNRと、このSNRに関連するビット誤り率との関数として、各サブチャネルについて、公知の態様で計算される。
【0010】
それぞれのサブチャネルのSNRは、様々なサブチャネルを介して参照信号を伝送し、そして受け取られた信号のSNRを測定することにより決定される。ローディング情報は、典型的には、加入者回線の受信または「ローカル」端(即ち、中央電話局から加入者への伝送の場合は加入者の家屋であり、加入者の家屋から中央局への伝送の場合は中央局)で計算され、そして他方(送信または「リモート」)端に伝達され、そのため、互いに通信している各送信器-受信器対は、同じ情報を用いて通信する。ビット割り当て情報は、通信対リンクの両端で格納され、特定の受信器にデータを伝送する際にそれぞれのサブチャネル上で使用されるビット数を規定する際に使用される。サブチャネルを規定する助けにするために、サブチャネルゲイン、時間および周波数ドメイン等価器係数、ならびにその他の特性、などのその他のサブチャネルパラメータもまた格納されてもよい。
【0011】
言うまでもなく、情報は、加入者回線を介していずれの方向にも伝送され得る。加入者へのビデオ、インターネットサービスなどの送達、などの多くの応用の場合、中央局から加入者への要求されるバンド幅は、加入者から中央局への要求されるバンド幅の何倍ものバンド幅である。そのような能力を提供する最近開発された1つのサービスは、マルチトーン非対称デジタル加入者回線(DMT ADSL)技術に基づいている。このサービスの1つの形態では、各サブチャネルが4312.5Hzのバンド幅である256個までのサブチャネルが、下流への(中央局から加入者の家屋への)通信専用にされ、各サブチャネルが同様に4312.5Hzのバンド幅である32個までのサブチャネルが、上流への(加入者の家屋から中央局への)通信を提供する。通信は、データおよび制御情報の「フレーム」による。ADSL通信の現在使用されている形態では、68個のデータフレームと、1つの同期フレームとが、伝送の間中繰り返される「スーパーフレーム」を形成する。データフレームは、伝送されるデータを有する。同期または「sync」フレームは、送信および受信モデムを同期するために使用される公知のビットシーケンスであって、さらに、とりわけ信号対雑音比(「SNR」)などの伝送サブチャネル特性の決定を容易にするビットシーケンスを提供する。
【0012】
そのようなシステムは、実際に、データ通信のための大幅に増加されたバンド幅を提供するが、広帯域データが搬送されているときに同時に加入者回線を介して起こっている可能性のある普通の音声通信および関連する信号伝達への干渉と、この普通の音声通信および関連する信号伝達からの干渉とを避けるために、特別な予防策が必要とされる。信号伝達アクティビティは、一般に、例えば、リンギング信号、ビジートーン、オフフック表示、オンフック表示、ダイアリング信号、などの伝送と、例えば電話をオフフックでとる、電話をオンフックに戻す、ダイアルするなどの、一般にそれらに伴う動作とを含む。これらの音声通信と、音声通信に関連する信号伝達とは、一般に「プレーンオールドテレフォンサービス」またはPOTSと呼ばれ、現在、データ通信をPOTSに使用される周波数よりも高い周波数に変調することにより、データ通信から分離されている。その後、データ通信およびPOTS信号は、適切な復調およびフィルタリングにより別個に取り出される。データ通信とPOTSとを分離するフィルタは一般に、「POTSスプリッタ」と呼ばれる。
【0013】
音声とデータ通信とは、中央局および加入者の家屋の両方で分離されなければならず、従って、POTSスプリッタは、両方の場所に設置されなければならない。中央局の単一のモデムは多数の加入者を扱うことができ、そして技術者は通常中央局で利用できるため、中央局での設置は概して重大な問題ではない。顧客の家屋での設置は問題である。典型的には、訓練を受けた技術者が、必要な設置を行うために、この技術を使用したいと考えるすべての加入者の家屋を訪問しなければならない。これに関して、ADSL装置の所望の場所に依存して、大規模な再配線を行わなければならない場合がある。これには費用がかかり、DSL技術の使用を広範囲にわたって妨げる。
【0014】
DSLシステムはまた、隣接する電話回線上のその他のデータサービス(ADSL、HDSL、ISDN、またはTIサービスなど)からの妨害を受ける。これらのサービスは、対象のADSLサービスがすでに開始された後に開始し得、インターネットアクセスのためのDSLが、常時サービス中として想像されるため、これらの妨害の影響を、対象のADSLトランシーバによって改善しなければならない。
【0015】
(発明の要旨)
A.発明の目的
従って、本発明の目的は、改良されたデジタル加入者回線通信システムを提供することである。
【0016】
さらに、本発明の目的は、既存の音声通信サービスに適合し、且つ、POTSスプリッタの使用を必要としないデジタル加入者回線通信システムを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、音声通信の同時搬送に関連するランダムな中断、または、隣接する電話回線上での同時のデータサービスから起こる妨害に拘わらず、データ通信を効率的に扱う改良されたデジタル加入者回線通信システムを提供することである。
【0018】
B.発明の概説
スプリッタレス動作
本明細書に記載される本発明は、離散的マルチトーンデジタル技術(DMT)を用いて、音声通信およびその他の妨害の存在下でデジタル加入者回線(DSL)を介してデータを通信するシステムにおいて、通信の精度および信頼性を高めることに向けられる。参照を簡単にするために、以下、本発明の装置および方法を、まとめて単にモデムと呼ぶ。一方のそのようなモデムは、典型的には、家または会社などの顧客の家屋に配置され、モデムが通信する中央局から「下流」にある。他方は、典型的には中央局に配置され、顧客の家屋から「上流」にある。業界の慣習と一致して、モデムを、本明細書においてしばしば「ATU-R」(「ADSLトランシーバユニット、リモート」、即ち、顧客の家屋に配置される)および「ATU-C」(「ADSLトランシーバユニット、中央局」)と呼ぶ。各モデムは、データを伝送するための送信器部と、データを受け取るための受信部とを含み、そして各モデムは、離散的マルチトーンタイプである。即ち、各モデムは、制限されたバンド幅の多数のサブチャネルを介してデータを伝送する。典型的には、上流またはATU-Cモデムは、一般により高い周波数のサブチャネルであるサブチャネルの第1の組を介して、下流またはATU-Rモデムにデータを伝送し、そして、一般により低いサブチャネルであるサブチャネルの第2の通常はより小さい組を介して、下流またはATU-Rモデムからデータを受け取る。
【0019】
これまで、そのようなモデムは、音声およびデータの両方を搬送する回線上で使用される場合、POTSスプリッタを必要としていた。本発明によれば、本出願人は、音声およびデータ通信を同時に搬送し、且つ、POTSスプリッタにより提供される特別なフィルタリングなしで動作する離散的マルチトーン通信システムにおいて使用されるデータモデムを提供する。従って、これらは、「スプリッタレス」モデムである。本明細書で「妨害事象」と呼ばれ、以下により完全に説明されるある特定の妨害がない場合、本発明のモデムは、そのような妨害を考慮せずにシステムの伝送能力によって決定されるレートでデータを伝送する。好ましくは、これは、その他の考慮事項により課され得る最大ビット誤り率、最大信号電力などの予め規定された制約を条件として特定の通信サブチャネルに提供することができる最大のデータレートである。しかし、通信チャネル上で妨害事象が起こると、本発明のモデムは、その事象を検出し、そしてすぐに、その後の通信動作を改変する。その他の応答の中で、モデムは、サブチャネルの間でのビット割り当て(および従って、おそらく、対応するビットレート)とサブチャネルゲインとを変えて、音声通信アクティビティへの干渉および音声通信アクティビティからの干渉を制限するか、または、干渉信号を回線に結合するのに十分に対象の加入者回線に近いその他のサービスまたはソースからの妨害を補償する。ビット割り当ておよびサブチャネルゲインは、いずれの方向の通信の場合にも変更され得る。即ち、上流、下流、またはその両方の通信の場合に変更され得る。事実上、これにより、サブチャネル能力が、選択されたデータレートと一致し、予め特定されたビット誤り率を越えないことを確実にする。妨害事象が停止すると、システムは、その初期状態である高レート状態に再調整される。
【0020】
妨害事象
本発明にとって特に重要なのは、リンクを介するデータ伝送と同時にデータリンクを介する音声通信アクティビティが起こることから生じる妨害事象である。これらのアクティビティは、音声通信自体、または、そのような通信に関連する信号伝達などのアクティビティを含むとともに、電話をオフフックでとる、または電話をオンフックにするなどの、そのようなアクティビティへの応答を含む。妨害事象はまた、例えばその他のDSLサービス、ISDNサービス、TIサービスなどの存在により引き起こされる隣接する電話回線からの干渉、などのその他の破壊的妨害を含む。妨害事象の停止自体も、妨害事象を含み得る。例えば、電話などの音声通信装置を「オンフック」から「オフフック」状態に変えることは、本明細書に説明されるように補償されない限り、または、そうでなければ、これまで行われていたようにPOTSスプリッタによってモデムから分離されない限り、モデムでの通信をひどく混乱させ得る。従って、これは、対処しなければならない妨害事象である。しかし、そのような装置を「オンフック」状態に戻すこともまた、チャネル特性を大幅に変え得るため、同様に、対処しなければならない妨害事象である。本明細書に記載される本発明は、上記およびその他の妨害事象に効率的に取り組む。
【0021】
チャネル制御パラメータセット
本発明によれば、ビット割り当ての変更は、モデムによるサブチャネルを介するデータ通信を規定する1つ以上のチャネル制御パラメータを含む格納されたパラメータセットの間で切り換えることにより、迅速且つ効率的に達成される。パラメータセットは、好ましくは、モデムの初期化時に決定され、そしてモデム自体のレジスタまたはその他のメモリ(例えば、RAMまたはROM)に格納されるが、その代わりに、モデムの外部にあり且つモデムと通信している、例えばパーソナルコンピュータ内、ディスクドライブ上、などの装置に格納されてもよい。
【0022】
本発明の1つの実施形態によれば、チャネル制御パラメータセットは少なくとも、一次チャネル制御テーブルに格納され、音声通信アクティビティまたはその他の妨害がない場合に通信を規定するチャネル制御パラメータの一次セットと、二次チャネル制御テーブルに格納され、1つ以上の妨害事象に応答してデータ通信を規定するチャネル制御パラメータの1つまたは複数の二次セットと、を含む。以下、一次チャネル制御テーブルの制御下で通信しているとき、モデムは、「一次」状態であるとして記載される。以下、二次チャネル制御テーブルの制御下で通信しているとき、モデムは、「二次」状態であるとして記載される。モデムは、妨害事象の発生および停止に応答して、一次状態でのパラメータセットと二次状態でのパラメータセットとの間で切り換えられるとともに、1つの妨害事象から別の妨害事象への変化に応答して、二次テーブルのパラメータセットの間で切り換えられる。パラメータセットは、予め格納され、従って妨害事象時に交換する必要がないため、切り換えは迅速に行われ、妨害事象が検出されそして典型的にはせいぜい第2のモデムなどの通信に参加している他方のモデムに信号伝達される速度によってのみ本質的に制限される。これは、別の方法であれば典型的には6秒から10秒にわたるモデムの完全な再初期化と、それに関連する交換チャネル制御パラメータとによって必要とされるであろう通信の中断を大きく減らす。
【0023】
以前に述べたように、DSL通信では、情報伝送は、典型的には両方向に起こる。即ち、上流またはATU-Cモデムは、サブチャネルの第1の組を介して、ATU-Rモデムに下流へ伝送し、そして下流またはATU-Rモデムは、サブチャネルの第2の異なる組を介して、ATU-Cモデムに上流へ伝送する。従って、各モデムの送信器および受信器は、そのモデムが通信対を形成する他方のモデムにデータを伝送する際および他方のモデムからデータを受け取る際にこれらの送信器および受信器によって使用される対応するチャネルテーブルを維持する。時間および周波数ドメイン等化器係数およびエコーキャンセラ係数などのある特定のパラメータは、これらのパラメータが関連する受信器に対して「ローカル」であり、従って、その受信器でのみ維持されればよい。ビット割り当ておよびチャネルゲインなどのその他のパラメータは、所与のモデムが通信している他方のモデム(「モデム対」)と共有され、従って、両方のモデムに格納される。そのため、所与の通信セッション中、一方のモデムの送信器は、他方のモデムの受信器と同じ共有パラメータの値のセットを使用し、そしてその逆の場合も同様である。
【0024】
具体的には、DSL通信において、主要なパラメータは、様々なサブチャネルを介して伝送されるビット数である。これは、それぞれのサブチャネルの「ビット割り当て」として知られており、一次および二次パラメータセットの主要な要素である。これは、サブチャネルのチャネルSNR、許容可能なビット誤り率、および雑音マージンに基づいて、各サブチャネルについて公知の態様で計算される。別の重要な要素は、各サブチャネルのゲインであり、従って、この要素もまた、好ましくは、一次および二次パラメータセットに含まれる。従って、各受信器は、一次チャネル制御テーブルと、二次チャネル制御テーブルとを格納し、各テーブルは、その受信器と、その受信器と通信している他方のモデムの送信器とによって使用されるサブチャネルビット割り当てを規定する1つ以上のパラメータセットを含む。そして各送信器もまた、一次チャネル制御テーブルと、二次チャネル制御テーブルとを格納し、各テーブルは、その送信器により他方の受信器への送信とその受信器での受信とのために使用されるサブチャネルビット割り当ておよびゲインを規定する。それらが通信する実際の回線に最も厳密に一致させるために、各受信器の一次および二次チャネル制御テーブルの部分であって、特定の受信器に伝送する際に使用されるパラメータを規定する部分は、好ましくは、本明細書に記載されるように、受信器が配置されるモデム(「ローカルモデム」)で決定されるが、そのようなテーブルがその他の方法で決定されてもよいことが本明細書の詳細な説明から理解される。
【0025】
加入者回線を介する通信が妨害事象によって損なわれないかぎり、モデムは、一次チャネル制御テーブルを用いて、サブチャネルを介する通信を規定する。しかし、妨害事象が起こると、事象を検出するモデム(本明細書では「ローカルモデム」として示され、典型的には、これは、加入者による音声通信装置の活性化の場合は特に、加入者モデムATU-Rである)は、他方のモデムに、二次チャネル制御テーブルに変わる必要があることを通知し、そして、1つよりも多くのビット割り当てセットおよび/またはゲインセットがある場合、二次テーブル中の特定のビット割り当てセットおよび/またはゲインセットを識別する。通知手順は、以下に、より詳細に説明される。その後、通信は、二次チャネル制御テーブルからの適切なパラメータセット(即ち、ビット割り当て、サブチャネルゲイン、およびおそらくその他のパラメータ)に従って続く。この状態は、新しい妨害事象が検出されるまで続き、新しい妨害事象が検出されると、モデムは、一次チャネル制御テーブルに戻る(妨害が、単に通信を混乱させる妨害または干渉の停止である場合)か、または、異なるパラメータセット二次チャネル制御テーブルに戻る(妨害事象が、通信を混乱させる別の妨害または干渉の発生である場合)。
【0026】
サブチャネルの間でのビット割り当ての変更と、サブチャネルゲインの変更とに加えて、時間ドメイン等化器係数、周波数ドメイン等化器係数、などの通信パラメータにさらなる変更がなされてもよい。これらのパラメータはまた、通信を制御する際に使用されるチャネル制御テーブルに格納されてもよく、別個のテーブルに格納されてもよい。さらに、上流または下流方向またはその両方の通信のための電力レベルの変更(ならびに、ビット割り当ておよびその他の通信パラメータの対応する変更)がなされてもよく、また、通信を制御する際に使用するために、これらの電力レベルで、制御パラメータのセットもまた規定されてもよい。これらの変更は、以下に、より十分に詳細に説明される。
【0027】
現在企図されているように、DSL回線の加入側の各モデムは、中央局側の対応する専用モデムと通信する。従って、各中央局モデム(ATU-C)は、特定の加入者だけの一次および二次テーブルを格納する必要がある。しかし、効率は、各加入者にいつでもサービスを提供することが必要でないときにはいつでも達成され得る。これらの環境下で、中央局モデムは、2人以上の加入者の間で共有され得るとともに、必要に応じて、これらの加入者の間で切り換えられ得る。そのような場合、ATU-Cは、ATU-Cがサービスする各加入者モデムについてのチャネル制御テーブルのセットを格納するか、またはそのチャネル制御テーブルのセットへのアクセスを有する。
【0028】
テーブル初期化
本発明の好適な実施形態では、一次および二次チャネル制御テーブルは、初期「訓練」セッション(「モデム初期化」)で決定される。このセッションでは、公知のデータが一方のモデムにより伝送され、他方のモデムによる受信時に測定され、そして、これらの測定値に基づいてテーブルが計算される。典型的には、訓練セッションは、モデムが最初に加入者の家屋または中央局に設置されるときに起こり、従って、手順は、モデムを、モデムが動作する環境に「特殊化」する。この環境は、対象のデータモデムに加えて、電話ハンドセット、ファクシミリ機、および、典型的には0?4kHzの範囲の音声周波数サブチャネルを介して通信するその他のそのような装置、などの1つ以上の音声通信装置を含む。少なくともサブチャネルビット割り当てのセットを含むパラメータセットであって、好ましくはサブチャネルゲインも含むパラメータセットを含む一次チャネル制御テーブルは、各装置が非活性である状態で計算される。1つ以上のビット通信パラメータセット(ビット割り当て、ゲインなど)を含む二次チャネル制御テーブルは、各音声通信装置を別個に活性化した状態で、および/または、装置のグループを同時に活性化した状態で計算される。そのように決定されたテーブルは次いで、一方のモデムの受信器で格納され、そしてさらに、他方のモデムの送信器に伝達され、そしてその送信器で格納され、その後の通信において両方のモデムによって使用される。
【0029】
別のアプローチは、一次チャネル制御テーブルからの計算により、二次チャネル制御テーブル(テーブルを含む1つ以上のパラメータセットを含む)を決定する。これは、最も単純には、例えば、パラメータの1つ以上(例えば、それぞれのサブチャネルを介する通信のために使用されるビット数を規定するビット割り当てパラメータ)を、対応する一次パラメータのパーセンテージであって、サブチャネルにわたって一定のまたは変動するパーセンテージとして考慮することによって達成されるか、または、それぞれのサブチャネルのSNRのパーセンテージであって、サブチャネルにわたって一定のまたは変動するパーセンテージに従う決定に応じて達成されるか、または、一次チャネル制御テーブルにおいて提供されるビット誤り率とは異なるビット誤り率に従う決定に応じて達成されるか、または、その他の技術によって達成される。
【0030】
特定の実施例として、二次チャネル制御テーブルにおける多数の異なるビット割り当てセットは、一次チャネル制御テーブルにおける対応するビット割り当てセットの異なるパーセンテージ(サブチャネルにわたって一定のまたは変動する)として決定され得る。各二次ビット割り当てセットは、例えば電話ハンドセット、ファクシミリ機、などの特定の装置または装置の分類によって一般にもたらされる影響であって、そのような装置での繰り返しの測定により決定される影響に対応し、従って、例えば特定のタイプの加入者回線配線を用いる、中央局からの所与の範囲にある、などの通信条件の範囲にわたるその装置の予想される影響を表すと考えられ得る。次いで、サブチャネルゲインもまた、再決定されたビット割り当てに基づいて調節され得る。そのようにして決定されたビット割り当ておよびサブチャネルゲインは、新しい二次パラメータセットを形成する。これらの新しい二次パラメータセットは、これらの新しい二次パラメータセットが特徴付ける妨害事象の検出に応答して使用され得るとともに、補償されている実際の妨害の測定に基づく二次ビット割り当ておよびゲインの決定の代用になる。
【0031】
あるいは、二次チャネル制御テーブルは、音声通信装置の活性化から、またはその他の妨害からの干渉に適応するのに十分な大きさの一次テーブルの各エントリについて計算に電力マージンを加えることにより決定され得る。これは、テーブルエントリのコンステレーションサイズを減らす効果を有する。そのアプローチが使用される場合のパーセンテージファクタと同様に、このマージンは、テーブルエントリにわたって均一であってもよく、テーブルエントリにわたって変化してもよい。各々が異なる電力マージンに基づく多数の二次ビット割り当てセットが、このアプローチによって規定され得る。
【0032】
変動するマージンの使用の1つの実施例は、クロストーク(近くにいるxDSLユーザのために容量結合された雑音であり、ここで、「x」は、ADSL、HDSLなどのDSLの可能な種類を示す)の変化に応答するものである。このクロストークは概して、音声通信に関連する信号伝達事象よりも予測可能である。xDSLソースのクロストークスペクトルは、十分に特徴付けられる。例えば、American National Standards Instituteにより刊行されたTI.413ADSL標準を参照されたい。一回の完全な初期化に関連する一次チャネル制御テーブルから、各ビット割り当てセットが異なるクロストークレベルに対応するビット割り当てセットの族を含む二次テーブルを計算することができる。xDSLシステム(および従って、クロストークレベル)の数が変わると、ADSLリンクは、これらの自動的に生成されたセットの1つに素早く切り替わることができる。
【0033】
本発明の二次チャネル制御テーブルはまた、例えばデータ通信中に各スーパーフレームの伝送情報に対して測定を行い、そしてこれらの測定をモニタして、チャネル性能が大幅に変わったときに、異なるビット割り当てセットおよびおそらく異なるゲインセットが使用されるべきであると決定することにより、動的に適合され得る。本出願人は、SNRが、必要とされるビット割り当ておよびゲインの容易に測定可能な信頼できるインジケータを提供することを発見した。
【0034】
具体的には、本出願人は、所与の通信条件または状態中の多数のサブチャネルにわたるSNRレベルの測定が、その状態中のその後の通信において使用されるビット割り当てのセットまたはゲインのセットなどのパラメータセットを迅速に選択するために確実に使用され得る「指紋」を提供することを発見した。これらの測定は、例えば、各スーパーフレームで起こるsyncフレームであって、より一般的には、参照フレームの伝送中に起こるsyncフレームに行われ得る。SNRが、通信中に規定量よりも多く変化すると、測定が行われるモデムは、格納されたパラメータセットを検索して、対応するサブチャネル上のSNRが測定SNRに最も近いセットを探し、そして、そのセットを選択して、その後の通信において使用する。規定された範囲内でパラメータセットが見つからなければ、システムは、デフォルト状態に切り換えられてもよく、あるいは、使用されるべきである、サブチャネルの幾つかまたはすべてにわたる規定されたSNRパターンに対応して、完全な再初期化が要求されてもよい。SNR測定はまた、信号自体を搬送するデータに行われ得る。即ち、決定指向型SNR測定である。
【0035】
上記のように多数の二次サブチャネル制御パラメータセットを使用する代わりに、単純化されたアプローチは、個々の装置のビット割り当てまたはその他の特性の複合物に基づいて、単一の二次セットを構成してそれを使用してもよい。1つの実施形態では、複合物は、各サブチャネルについて、そのサブチャネルの任意の装置により示される最小のビット割り当てか、または、その他の任意の妨害の最も重大な特性を選択することにより形成され、それにより、実際に存在する特定の装置または妨害に拘わらず、任意の装置が活性化されると使用され得る単一の「最悪の場合の」セットを形成する。あるいは、複合物は、すべての装置が実際にもしくは理論上同時に作動されるとき、または、すべての妨害が存在するとき、またはその両方が同時に起こるときの、回線の実際の容量または計算された容量として決定されてもよい。ビット割り当てセットはまた、そのような装置および妨害のサブセットの組み合わせについて決定されてもよい。同様のアプローチは、幾つかの装置が同時に活性化される状況に対処するために使用されてもよく、そして、クロストークなどのその他の妨害の影響もまた、複合セットに組み込まれてもよい。
【0036】
二次チャネル制御テーブルの特定のパラメータセットは、音声装置が活性であるセッションの持続時間の間、または、例えば別の音声装置が活性化されるもしくはその他の幾つかの妨害が起こるなど、別の状態変化が起こるまで、使用されたままである。これが起こると、ローカルモデムは、その識別手順を再開して、新しい条件についての適切なパラメータセットの決定を可能にする。音声装置が活性であるセッションの終わりで、装置は、非活性(即ち、「オンフック」)状態に戻り、そしてシステムは、最初の(「オンフック」)状態に戻る。この状態では、一次チャネル制御テーブルが、中央局と加入者との間の通信にもう一度使用される。
【0037】
本発明によるサブチャネルパラメータセットの切り換えは非常に速い。この切り換えは、数フレームという短い間隔に達成され、従って、そうでなければ新しく決定されたセットの決定、通信および切り換えに伴うであろう長い(例えば、数秒の)遅延を回避する。さらに、この切り換えは、通信が損なわれており且つ誤り率が高いときに新しいパラメータセットの通信を回避する。従って、この切り換えは、妨害事象によって引き起こされる通信プロセスの混乱を最小限にする。
【0038】
妨害事象の検出
その後のデータ通信中、活性化される装置の識別は、多数の方法のうちの1つで達成される。本発明の1つの実施形態では、装置が活性化されると、特定の活性化信号が、装置から、加入者回線の装置と同じ側にあるモデム(本明細書では、「ローカルモデム」と呼ばれる)に伝送される。この信号は、装置およびローカルモデムが接続される通信回線を介して伝送されてもよく、あるいは、この信号は、装置とローカルモデムとの間の専用接続を介して送られてもよい。
【0039】
本発明の好適な実施形態では、ローカルモデムは、ローカルモデムおよび装置が接続される加入者回線をモニタし、そして、装置が活性化されると回線特性の変化を検出する。例えば、様々なサブチャネルの信号対雑音比(SNR)を、迅速に測定することができ、そして、活性化される特定の装置を識別するために使用することができる。装置またはその他の干渉によって引き起こされる多数の通信条件に対応する初期化の多数の組の間、各サブチャネルのSNR測定値は、追跡される条件(即ち、どの装置も活性化されていない、装置が別個に活性化される、2つ以上の装置が同時に活性化される、隣接するチャネルの干渉、など)の各々について決定され、そしてこれらの測定値は、これらの測定値が関連する単数または複数の特定のパラメータセットの識別とともに格納される。装置が活性化されると、SNR測定を用いて、活性化されている単数または複数の特定の装置を迅速に識別し、そしてその後、ローカルモデムが、適切な二次テーブルに切り替わることができる。
【0040】
妨害事象はまた、これらの事象に依存する選択された伝送特性をモニタすることにより、本発明に従って検出され得る。これらの妨害事象は、これらの妨害事象に伴う任意の特有のSNRに加えて、伝送に伴う巡回冗長符号(CRC)中の誤りおよびこの符号の誤り率の変化、サブチャネル上のパイロットトーンの振幅、周波数もしくは位相の変化、またはその他のそのような徴候、などの測定値を含み得る。順方向誤り訂正符号(FEC)は、典型的にはADSLトランシーバにおいて使用され、そして、誤りがいくつ起こったか、誤りがいくつ訂正されたか、誤りがいくつ訂正されていないかなどの、この符号の誤り率特性の変化は、妨害事象を検出する際に特に有用であり得る。
【0041】
これらの特性をモニタする際、本出願人は、電光またはその他のそのようなバースト雑音妨害、などの瞬間的または過渡的事象によって引き起こされる変化と、妨害事象に関連する変化とを区別する。後者は、かなりの間隔の間(例えば、数秒以上のオーダ)続く。具体的には、本発明に従ってCRC誤りまたは誤り率をモニタする実施形態では、1つのパラメータセットから別のパラメータセットへの切り換えは、誤りが多数のフレームにわたる場合、または、誤り率が、ある時間の間に、規定された最小値よりも多い規定された量だけ変化する場合に提供される。例えば、加入者ループを介するデータ通信への妨害の重大な形態であるオフフック事象が起こると、CRC誤り数が突然増加し、対処されるまで増加したレベルのままである。これは、システムが同期を失わなければ持続しないCRC誤りの瞬間的な増加を引き起こす電光打撃などの過渡的な妨害の発生と区別される。
【0042】
従って、本発明によれば、多数のフレームにわたる、規定されたしきい値を越えるCRC誤り率の初期変化の検出は、パラメータセットの切り換えという結果につながる妨害事象の検出の1つの実施例である。この特性に基づく妨害事象を検出するために、同様の手順が、サブチャネルの信号対雑音比の測定に応答して着手され得る。妨害事象が起こったかどうかについての決定は、単一のサブチャネルでの測定、多数のサブチャネルでの測定(例えば、規定された数よりも多くのサブチャネルが妨害事象を検出すると、パラメータセットを切り換える決定がなされる)、などに基づき得る。
【0043】
本発明に従って妨害事象を検出する別の技術は、例えばデータ伝送中に振幅、周波数、位相またはその他の特性がモニタされるパイロットトーン、などのモニタ信号の使用である。モニタされた特性の1つまたはそれ以上のフレームから別のフレームで突然変化し、その後に、その後のフレームで、より小さい変化が起こるか変化が全く起きない場合、これは、モデムが応答するべきである妨害事象を示す。モニタ信号は、サブチャネルの1つによって搬送される専用信号、別個の制御サブチャネル上で搬送される信号、妨害事象自体(例えば、リンギングトーン、ダイアルトーンの存在、または、その他の共通の電話信号)、またはその他の信号を含み得る。
【0044】
妨害事象の発生の伝達
妨害事象が検出され、そして、その事象に対応する適切なパラメータセットが識別されると、識別は、選択信号によりリモートモデムに伝達され、リモートモデムがまた、二次テーブルの対応するパラメータセットに切り替わることを可能にする。選択信号は、1つ以上のサブチャネルを介して伝送されるかまたは埋め込み動作チャネルのための所定のプロトコルを用いて伝送されるメッセージの形態であってもよく、あるいは、選択信号は、特定のパラメータセットを識別する1つ以上のトーンを含んでいてもよい。ADSLシステムは、上流および下流伝送に使用されるサブチャネルの組の間に、幾つかのサブチャネルの「防護帯域」を使用する。この防護帯域は、1つまたは複数の選択トーンを伝送するために使用され得る。指定されるパラメータセットが1つしかない場合、選択信号は、そのセットを選択するためにリモートモデムに送られる単純なフラグ(2つの状態しか有していない、即ち、オン/オフ、有/無、などしか有していない要素)を含み得る。
【0045】
本発明の別の実施形態では、DSLシステムにおいて一般に提供される、ATU-RおよびATU-Cモデムでのフレームカウンタが利用される。妨害事象を検出すると、ATU-Rモデムは、ATU-Cモデムに事象を通知し、そして、パラメータセットの変更、または、電力レベルの変更、または、それに付随するその他のパラメータの任意の変更が起こるフレームを特定する。この特定は、直接的であってもよく(即ち、通知は、二次テーブルへの変更がなされる特定のフレーム番号を指定する)、間接的であってもよい(即ち、通知を受け取ると、所定数のフレームの1つ、例えば、「0」もしくは「00」などで終わる次のフレーム番号、または、通知を受け取った後のn番目のフレームで、二次テーブルへの変更がなされ、ここで、nは、0よりも大きい何らかの数である)。指定されたフレームに達すると、両方のモデム(即ち、ATU-RおよびATU-C)が、新しいビット割り当てセット、電力レベル、およびその他の指定されたパラメータに切り替わる。
【0046】
あるいは、妨害事象を検出すると、モデムは、新しい動作条件下での通信を特徴付け且つ通信に使用される電力および/またはビット割り当てセットを決定するために、「高速再訓練」を行う。高速再訓練は、例えばビット割り当ておよびサブチャネルゲインの決定など、完全初期化手順の制限されたサブセットだけを行う。再訓練モデム(典型的には、再訓練を開始する、妨害に対してローカルであるモデム)は次いで、新しく決定されたパラメータセットを、以前に格納されたセットと比較する。新しく決定されたセットが、以前に格納されたセットと同じであれば、一方のモデムから他方のモデムにメッセージ、フラグ、またはトーンが伝達され、格納された二次割り当てセットのどれが使用されるかを指定する。そうでなければ、新しく決定されたセットが、通信に使用される。後者の場合、このセットは、通信対の他方のモデムに伝達されなければならず、そしてこれが起こっている間、通信は中断され得る。それにもかかわらず、パラメータセットの変更を必要とした事象が停止すると、システムは、そのセットを再伝達する必要なく、従って、通信をさらに中断せずに、単に一次パラメータセットに戻り得る。初期化において適切な注意がなされると、ほとんどの場合、ほとんどの妨害に応答するその後の再初期化の必要性を回避するのに十分なパラメータセットアレイが最初に規定されそして交換され得る。
【0047】
電力レベルの変更
妨害事象に応答してモデム内の1つ以上のパラメータセットを変えることに加えて、本発明の好適な実施形態によれば、確実な通信をさらに高めるために、好ましくは、上流または下流方向またはその両方の通信電力レベルを変える。典型的には、この変更は、音声通信への干渉を最小限にするため、および、下流信号へのエコーを減らすために、上流方向の電力レベルを減らすことであり、この変更は、本明細書において、そのように説明される。ただし、隣接するデータサービスからの干渉が、所望のデータレートまたはビット誤りレベルを維持するために、より高い電力レベルを必要とする場合など、電力レベルの増加が要求される場合もあり、そのような変更が、本発明により、減らす場合と同じ態様で達成されることが理解されるはずである。さらに、下流電力レベルを変更しなければ過剰な電力が上流モデムから下流チャネルに供給されるであろう程度に回線状態が変化すると、下流電力レベルの変更が要求され得る。
【0048】
理論的には、および、完全に線形のシステムでは、上流通信アクティビティは、同時に起こる音声通信に影響を及ぼしてはならない。なぜなら、2つのアクティビティが、別個の重ならない周波数帯域で起こるからである。しかし、電話システムは実際に、線形システムではなく、システムの非線形性は、上流サブチャネルから音声サブチャネルに、およびおそらく下流サブチャネルにも、画像信号を注入することができ、そして実際に注入し(即ち、エコー)、それにより、検出可能な干渉を引き起こす。本発明の別の局面によれば、この影響は、状態が指示するとき、例えば音声通信装置がオフフックであり、行われているデータ通信からの漏洩が音声通信を干渉するときに、上流電力レベル(加入者または下流モデムが中央局または上流モデムに伝送する電力レベル)を所与の量またはファクタだけ減らすことにより、好ましくないレベルよりも低いレベルに低減される。
【0049】
電力低減量は、前もって設定されてもよい。例えば、本出願人は、(典型的には、スプリッタを用いてデータとPOTS信号とを分離するADSLの応用で使用される電力に対して)この電力を9db低減することが、ほとんどの一般的に重要な場合に十分であることを発見した。これらの環境下で、システムは、いつでも2つの他の電力レベルの一方で動作する。あるいは、下流モデムは、妨害事象の結果として起こる、そのとき支配的である通信条件に基づいて、幾つかの異なる電力レベルのうち、使用される1つのレベルを選択し得る。例えば、下流モデムは、1つ以上の上流サブチャネルにテスト信号を送るため、および、例えばサブチャネル上のSNRによる決定に応じて1つ以上の下流サブチャネルへのこの信号の漏洩(即ち、エコー)をモニタするために、作動され得る。次いで、エコーの影響を最小限にするために、下流モデムが上流に伝送する電力レベルが、それに応じて調節され得る。一般に、下流伝送電力は、ATU-Rによって決定される。なぜなら、ATU-Rは、妨害事象の原因に最も近いからである。この場合、ATU-Rは、メッセージ、フラグ、またはトーンを用いて、ATU-Cに、伝送に使用される所望の電力レベルを知らせる。いずれの場合も、セッションの終わりで、電力レベルは、「オンフック」状態で使用される電力レベルに戻る。
【0050】
所望の電力レベルを選択する際、送信モデムは、通信対の受信モデムに、所望の変更(適切な場合には、幾つかの電力レベルの中からの特定の電力レベルの指定を含む)を信号で知らせ、そしてその後、その電力レベルに関連する新しいパラメータセットへの切り換えを含む、変更を実現する。本発明の別の実施形態では、受信モデムは、送信モデムでの電力レベルの変更を検出し、そして、その電力レベルに関連するパラメータセットに切り替わる。その後、妨害事象(例えば、オフフック状態など)が終了するまで、新しい電力レベルで上流通信(即ち、ATU-RからATU-Cへ)が行われる。
【0051】
上記のほとんどは、加入者モデムから中央局モデムへの上流通信の電力レベルの変更に関して説明されているが、反対方向の電力レベルの変更もときどき要求され得ることに注目されたい。これは、例えば、短い加入者ループ(例えば、1マイル未満)の場合にあてはまり得る。この場合、より中央局に近接する結果として起こる低減された回線損失の結果、中央局が最初に過剰な電力レベルで伝送し得る。そのような場合、中央局またはATU-Cモデムは、以前に加入者またはATU-Rモデムが果たしていた役割を果たし、そしてその逆の場合も同様である。そして、下流通信での電力レベルおよびその他のパラメータの変更は、上記のように行われ得る。さらに、電力変更は、最も一般的には、通信するために使用される電力レベルを低減する変更であると予想されるが、場合によっては、電力変更は、電力レベルを増加するものであってもよいことも、理解されるはずである。これは、例えば、隣接するサービスからのクロストークが、クロストークを補償するために、対象のサービスの電力レベルの増加を必要とする場合に起こる。
【0052】
その他のパラメータの変更
妨害事象の検出に応答して行われる別の重要な変更は、各サブチャネルに関連する周波数ドメイン等化器(「FDQ」)の変更である。これらの等化器は、サブチャネルを介する伝送中にデータが受ける様々な歪み(例えば、増幅器損失、位相遅延、など)を補償する。典型的には、これらの等化器は、複素数の係数を有する有限インパルス応答フィルタを含む。これらの係数は、モデムセットアップの「初期化」または「訓練」段階の間に設定される。これらの係数はその後、通信サブチャネルを介して伝送される参照フレームまたはsyncフレームの参照(既知の)データに基づいて調節され得る。本発明によれば、これらのフィルタは、妨害事象が検出されると、伝送された参照データに応答して調節される。係数の更新は、すべてのサブチャネルに対して行われてもよく、誤り率、信号対雑音比、またはその他の誤り徴候の変化が妨害事象を示すサブチャネルに対して選択的に行われてもよい。
【0053】
本発明の1つの実施形態によれば、妨害事象または妨害が無い場合(「一次FDQ係数」)と、そのような事象または妨害がある場合(「二次FDQ係数」)との両方の通信のための周波数ドメイン等化器の係数が、初期化または訓練期間中に計算され、そして格納される。その後、チャネル制御テーブルの場合と同様に、これらの係数は、妨害事象に応答して切り換えられ、そして、そのような事象が停止すると初期状態に戻される。
【0054】
本発明の別の実施形態によれば、FDQ係数は、妨害事象の検出に応答して再計算され、次いで、以前に格納された二次FDQテーブルの代わりに、通信セッションの残りの間中使用される。再計算は、既知の参照データがATU-RとATU-Cとの間で伝送される、短い「再訓練」セッションで達成される。受け取られたデータは既知のデータと比較され、そしてそれに応じて、新しいFDQ係数が決定される。周波数ドメイン等化器係数に加えて、時間ドメイン等化器係数およびエコーキャンセレーション係数もまた決定され得、そして格納され得る。そのような係数は、特定の受信器に対してローカルであり、従って、通信対の他方のモデムに伝達される必要がない。従って、いかなるそのような再訓練も非常に高速であり、結果として起こるいかなる通信の混乱も制限される。
【0055】
過剰な妨害
場合によっては、特定の装置は、本明細書に記載される方法によるその装置の補償が有用でないような、通信への妨害を引き起こし得る。これは、例えば、古い電話または特に複雑な家庭内配線で起こり得る。そのような場合、装置と加入者回線との間に単純なインラインフィルタを挿入することにより、そのような装置によって引き起こされる妨害を最小限にすることが望ましい。フィルタは、例えば、1立方インチ以下の体積の単純なローパスフィルタと、フィルタの一方側を装置に接続し且つ他方側を加入者回線に接続するRJ11コネクタなどの標準のコネクタの対とを含み得る。POTSスプリッタとは異なり、そのようなコネクタは、コネクタを設置するために、訓練を受けた技術者を必要とせず、従って、本明細書に記載されるようなADSLモデムの受け入れに、障害、コスト、またはその他を与えない。そのような装置は、装置が作動されるときに装置の非線形歪みを測定することによって検出され得る。これは、その装置によって引き起こされる、回線上のエコーをモニタすることにより行われる。
【0056】
低減されたレートの通信
本発明のモデムの動作のさらなる改良は、下流伝送のバンド幅を、ADSL通信で通常提供されるバンド幅のサブセットに制限することにある。これは、ローカル(即ち、中央局)およびリモート(加入者の家屋)モデムの両方に対する処理要求を減らし、それにより、顧客の非事業用の使用にもっと受け入れられる価格で加入者の家屋のモデムを提供することを容易にする。さらに、これは、データ伝送と音声通信との間の干渉をさらに最小限にする。例えば、モデムにより使用されるサブチャネルの数を256個ではなく128個に制限することにより、下流バンド幅を1.1MHzから約552kHzに減らす。モデムが、通常そのような通信のためにより多くの数のサブチャネルを提供するモデムとともに使用される場合、128個よりも多いサブチャネルのビット割り当ておよびゲインは、好ましくは、ゼロにされる。即ち、ゼロに設定される。
【0057】
本発明は、好ましくは、本明細書に記載される能力を有していないモデムとともに動作可能であるだけではなく、言うまでもなく、そのような能力を有するモデムとともに動作可能である。従って、本発明のモデムは、別のモデムとのデータ交換に先だって、好ましくは初期化中に、モデムの能力を識別する。本発明の好適な実施形態によれば、これは、好ましくは、通信に参加するモデム間で信号伝達することにより行われる。この信号伝達は、通信しているモデムのタイプと、通信セッションに対する重要なモデムの特性とを識別する。例えば、ADSLトランシーバの1つの形態は、低減された数のサブチャネル(典型的には、上流に32個のサブチャネルと、下流に128個のサブチャネル)を使用し、そして、より低いバンド幅の通信を提供する。次いで、低減されたレートのモデムに遭遇する、完全なADSL能力を有するモデムは、その低減されたレートのモデムと一致するように、その送信および受信パラメータを調節することができる。これは、例えば、そのような目的のために取っておかれるトーンを一方のモデムから他方のモデムに伝送することにより行われ得る。
【0058】
具体的には、本発明によれば、中央局のモデムと加入者の家屋のモデムとの間の通信が開始されると、これらのモデムは、これらのモデム自体を、「完全なレート」(即ち、256個のサブチャネルを介して通信している)または「低減されたレート」(例えば、幾らか少ない数のチャネル、例えば、128個のサブチャネル、を介して通信している)として識別する。通信は、フラグ(2状態、例えば、「オン/オフ」、「有/無」)、1つもしくは複数のトーン、メッセージ(n状態、n>2)、またはその他の通信形態を介して行われてもよく、そして、通信サブチャネルのいずれの端部で開始されてもよい。即ち、中央局の端部で開始されても、顧客の家屋の端部で開始されてもよい。
【0059】
(例示的な実施形態の詳細な説明)
以下の本発明の説明は、添付の図面を参照する。
【0060】
図1は、電話回線を介して伝送される音声通信とデータ通信とを分離するために「スプリッタ」を組み込む、これまで使用されていたタイプのADSL通信システムを示す。図1に示されるように、電話中央局(「CO」)10は、加入者回線またはループ14により、リモート加入者12(「CP:顧客の家屋」)に接続される。典型的には、加入者回線14は、より銅線対を含む。これは、電話加入者または顧客と中央局との間で音声通信を搬送するための伝統的な媒体であった。約4kHz(キロヘルツ)のバンド幅で音声通信を搬送するように設計されており、その用途は、DSL技術により大きく拡大されてきた。
【0061】
中央局は次に、デジタルデータを送受するためのデジタルデータ網(「DDN」)16に接続されるとともに、音声およびその他の低周波数通信を送受するための公衆交換電話網(「PSTN」)18に接続される。デジタルデータ網は、デジタル加入者回線アクセスマルチプレクサ(「DSLAM」)20を介して中央局に接続され、交換電話網は、ローカルスイッチバンク22を介して中央局に接続される。DSLAM20(または、データイネーブル式スイッチラインカードなどのその等化物)は、ADSLトランシーバユニット-中央局(「ATU-C」)26を介して、POTS「スプリッタ」24に接続する。ローカルスイッチ20もまた、スプリッタに接続する。
【0062】
スプリッタ24は、回線14から受け取ったデータおよび音声(「POTS」)信号を分離する。回線14の加入者端で、スプリッタ30が、同じ機能を果たす。具体的には、スプリッタ30は、回線14から、電話ハンドセット31、32などの適切な装置にPOTS信号を送り、そして、デジタルデータ信号をADSLトランシーバユニット-加入者(「ATU-R」)34に送り、パーソナルコンピュータ(「PC」)36などのデータ利用装置に付与する。トランシーバ34は、好ましくは、PC自体のカードとして組み込まれてもよい。同様に、トランシーバ26は、一般に、マルチプレクサ20のラインカードとして実現される。
【0063】
このアプローチでは、所与のバンド幅の通信チャネルは、多数のサブチャネルに分割される。各サブチャネルは、サブチャネルバンド幅の部分である。1つのトランシーバから別のトランシーバに伝送されるデータは、特定のサブチャネルの情報搬送能力に従って変調されて各サブチャネルに与えられる。サブチャネルの様々な信号対雑音(「SNR」)特性のため、サブチャネル上にロードされるデータ量は、サブチャネルごとに異なり得る。従って、各トランシーバが、そのトランシーバが接続される受信器に対して各サブチャネル上に伝送するビット数を規定するために、各トランシーバで「ビット割り当てテーブル」(トランシーバ26でテーブル40として示され、トランシーバ34でテーブル42として示される)が維持される。これらのテーブルは、初期化プロセス中に作成される。初期化プロセスでは、各トランシーバによって他方のトランシーバにテスト信号が伝送され、そして、それぞれのトランシーバで受け取られた信号を測定して、特定の回線上で一方のトランシーバから他方のトランシーバに伝送することができる最大ビット数を決定する。特定のトランシーバによって決定されたビット割り当てテーブルは次いで、デジタル加入者回線14を介して他方のトランシーバに伝送され、他方のトランシーバは、その特定のトランシーバ、または、回線14に接続される任意の同様のトランシーバにデータを伝送する際にこれを使用する。言うまでもなく、伝送は、回線が、通信を干渉し得る妨害を受けていないときに行われなければならない。これは、重大な制限であり、このアプローチの利用を限定する。
【0064】
次に図2を参照して、顧客の家屋の機器において使用されるようなビット割り当てテーブル42が、さらに詳細に示される。中央局で使用されるテーブル40は、構成および動作が本質的に同じであるため、これ以上説明されない。テーブル42は、2つの部分を有する。第1の部分42aは、それぞれのサブチャネルを特徴付ける、ビット割り当て能力などのある特定の通信パラメータと、サブチャネルゲインパラメータとを規定し、トランシーバ34の送信器部は、トランシーバ34が通信している他方のトランシーバ(26)に信号を伝送する際に、第1の部分42aを使用する。第2の部分42bは、トランシーバ34の受信器部が、他方のトランシーバから伝送される信号を受け取る際に使用するパラメータを規定する。通信は、複数のサブチャネルを介して起こり、ここでは、例示の目的のためだけに、送信器部ではサブチャネル「9」、「10」などとして示され、受信器部ではサブチャネル「40」、「41」などとして示される。完全なレートのADSLシステムでは、256個までのそのようなサブチャネルがあり、各サブチャネルのバンド幅は4.1kHzである。例えば、本発明の1つの実施形態では、上流通信(即ち、顧客の家屋から中央電話局へ)は、サブチャネル8?29で行われ、下流通信(中央局から顧客の家屋へ)は、サブチャネル32?255で行われる。サブチャネル30および31は、以下に説明されるような信号伝達のために使用され得る、上流通信と下流通信との間の防護帯域を形成する。
【0065】
各サブチャネル(「SC」)50について、フィールド52は、例えば測定された信号対雑音比(SNR)、所望の誤り率、などのサブチャネルの支配的な条件に従って、通信対またはモデム対の送信器によりそのサブチャネルを介して伝送され、且つ、その対の受信器によって受け取られるビット数(「B」)を規定する。カラム54は、サブチャネルの対応するゲイン(「G」)を規定する。テーブルの第1の部分42aは、トランシーバ34がトランシーバ26に「上流」に伝送する際に使用するビット割り当ておよびゲインを特定し、そして第2の部分42bは、トランシーバ34がトランシーバ26からの伝送を受け取る際に使用するビット割り当ておよびゲインを特定する。トランシーバ26は、テーブル42の鏡像である対応するテーブル40を有する。即ち、トランシーバ34による伝送について特定されるビット割り当ては、トランシーバ26による受信について特定されるビット割り当てと同じであり、トランシーバ34による受信およびトランシーバ26による送信についても、それに対応する。テーブルはまた、典型的には、特定のサブチャネルに関連するゲイン54を特定するフィールドを含んでいてもよい。
【0066】
上記のように、スプリッタ24、30は、スプリッタ24、30に付与されたデータおよび音声通信を結合して送信し、そして受信時にもう一度データおよび音声通信を互いに分離する。これは、低周波数の音声通信を高周波数のデータから分離するハイパスフィルタおよびローパスフィルタにより達成される。しかし、そのようなスプリッタを使用する必要性は、顧客によるDSL技術の幅広い採用に深刻な障害を与える。具体的には、加入者の家屋にスプリッタを設置するのに、訓練を受けた技術者が家屋まで行かなければならない。これにはかなりの費用がかかる可能性があり、ほとんどではないにしても多くの顧客がこの技術を利用することを思いとどまってしまう。通信装置自体にスプリッタを組み込むことも、実行可能な選択肢ではない。なぜなら、これは、そのような装置のコストを増大するだけでなく、すべての新しい装置の購入か、より古い装置の改造のいずれかを必要とするからである。この改造にも、達成するのに熟練した助けが必要である。本発明によれば、少なくとも顧客の家屋のスプリッタを無くし、それにより、熟練した技術者の介入なしで、エンドユーザによるDSLモデムの採用および使用を可能にする。しかし、これには、DSLトランシーバまたはモデムの構造および動作に大幅な変更が必要であり、本発明は、これらの変更に取り組んでいる。
【0067】
具体的には、図3は、本発明によるDSL伝送システムを示す。このシステムでは、中央局から加入者の家屋に伝送された複合音声-データ信号が、加入者の家屋のスプリッタを介在させずに、加入者の音声機器31、32と、データトランシーバまたはモデム34’との両方に送られる。図3では、図1と変わっていない構成要素は、同じ番号を有しており、改変されている構成要素は、右上のプライム符号で示されている。図1のトランシーバ26の単一のテーブル30の代わりに、図3のトランシーバ26’は、一次チャネル制御テーブル41と、二次チャネル制御テーブル43とを含む。同様に、図3のトランシーバ34’は、一次チャネル制御テーブル45と、二次チャネル制御テーブル47とを含む。図3では加入者側のスプリッタが無くなっていることにも注目されたい。次に、本発明でこれを行うことができる理由が詳細に説明される。図1の中央局スプリッタ20が図3の構成で保持されていることにも注目されたい。これは任意であり、強制的ではない。中央局のスプリッタを保持すれば、一般にいかなる場合でも技術者が利用可能である中央局自体での一回の設置しか必要とされないため、わずかなコストで性能を幾らか向上することができる。そうでない場合には、中央局でもスプリッタを無くしてもよい。
【0068】
次に図4を参照して、トランシーバまたはモデム34’が、より詳細に示される。モデム26’は、本発明の目的に対して本質的に同一であり、別途説明されない。示されるように、モデム34’は、送信器モジュール50、受信器モジュール52、制御モジュール54、一次チャネル制御テーブル45、および二次チャネル制御テーブル47を含む。一次チャネル制御テーブルは、図5Aに、より完全に示され、二次チャネル制御テーブルは、図5Bに、より完全に示される。
【0069】
図5Aでは、一次チャネル制御テーブル45は、DSL回線を介してリモート受信器に伝送する際に使用されるチャネル制御パラメータの一次セットを格納する送信器部45aと、リモート送信器からDSL回線を介して通信を受け取る際に使用されるチャネル制御パラメータの一次セットを格納する受信器部45bと、を有する。パラメータが適用するサブチャネルは、カラム45cに示される。送信器部45aのチャネル制御パラメータは、伝送中にそれぞれのサブチャネル上で使用される、ビット割り当て(「B」)45dの特定を少なくとも含み、好ましくは、ゲイン(「G」)45eの特定も含む。受信器部も同様に、ビット割り当ておよびゲインの特定を含み、好ましくは、とりわけ、周波数ドメイン等化器係数(「FDQ」)45f、時間ドメイン等化器係数(「TDEQ」)45g、およびエコーキャンセラ係数(「FEC」)45hの特定も含む。
【0070】
ビット割り当て、ゲイン、周波数ドメイン係数、時間ドメイン係数、などのパラメータは、まとめてパラメータセットを形成し、このパラメータセットの各要素もまた、セットである。例えば、各サブチャネルへのビットの割り当てを規定するビット割り当てセット、サブチャネルのゲインを規定するゲイン設定セット、などである。本発明の好適な実施形態によれば、一次チャネル制御テーブルは、少なくとも1つの要素、即ち、ビット割り当てセット、を有する単一のパラメータセットであって、好ましくはゲイン割り当てセットも有する単一のパラメータセットを格納する。このパラメータセットは、妨害事象が無い場合にシステムが戻るデフォルト通信条件を規定する。しかし、二次チャネル制御テーブルは、それぞれのモデムによって加入者回線を介して行われる送信および受信を制御するためのパラメータセットを、少なくとも2つ有し、典型的には、2つよりも多く有する。これらのセットは、デフォルト条件を変える様々な妨害事象の下での通信を規定する。
【0071】
具体的には、図5Bでは、二次チャネル制御テーブル47は、複数のパラメータセット47a、47b、47cなどを含む。例示の目的のために、これらのパラメータセットのうち3つのセットだけが示されている。各パラメータセットは、送信部47dおよび受信部47eを含む。各部分において、1つ以上のパラメータが特定される。例えば、送信部47dではビット割り当て47fおよびゲイン47gであり、受信部47eでは周波数ドメイン係数47h、時間ドメイン係数47i、およびエコーキャンセレーション係数47jである。係数の実際の値は、典型的には複素数であり、従って、これらの値は、図5Aおよび図5Bのチャネル制御テーブルでは、単に、例えば「a」、「b」などの文字で表される。パラメータセット47b、47cおよび残りのパラメータセットも、同様に構成される。一次チャネル制御テーブルの場合と同様に、各パラメータ(例えば、ビット割り当て)自体が、サブチャネルの少なくとも幾らかにわたる通信条件を規定する要素の集合であり、これらの要素は、これらのサブチャネルに適用するとともに、これらのサブチャネルを特徴付ける助けとなる。
【0072】
ビット割り当てパラメータセットを含む一次チャネル制御テーブルは、通常の態様で、即ち、初期化中に(典型的には、テストデータではなく「作業データ」の伝送よりも前の期間)生成され、対象のモデムがモデムのデフォルト条件を含むべき条件下で通信しているリモートモデムと、既知のデータが送受される。典型的には、これは、妨害する装置がすべて非活性化されている状態であり、そのため、最も高いデータレートを達成することができるが、実際の条件は、ユーザにより選択される。各モデムで受け取られたデータは、伝送されたことが分かっているデータと照合され、そしてそれに応じて、ビット割り当て、サブチャネルゲイン、などの一次チャネル制御パラメータが計算される。その後、回線を介する通信を混乱させる妨害事象によってシステムが妨害されないままである限り、このテーブルが使用される。
【0073】
二次チャネル制御テーブルは、一次テーブルと同じ態様で、初期化中に決定され得るが、この決定は、新しい条件下での通信に必要とされるチャネル制御パラメータを再決定するために、妨害事象を引き起こし得る装置を作動させて行われ得る。これらの装置が1つずつ作動され、二次パラメータ制御セットが、各装置について決定され、そして二次チャネル制御テーブルに格納されてもよく、あるいは、これらの装置が2つ以上の装置からなるグループ単位で作動され、そしてそれに応じてパラメータセットが決定されてもよく、あるいは、単一作動およびグループ作動の様々な組み合わせが行われて、そして対応するパラメータセットが決定されてもよい。二次パラメータセットも同様に、該当するモデムとの共通バインダでのxDSL伝送などの干渉源を用いた実際の測定から決定され、そして結果として得られたセットが二次テーブルに格納されてもよい。
【0074】
その他の二次テーブル決定方法が使用されてもよい。例えば、1つ以上の二次パラメータセットが、一次テーブルから得られてもよい。従って、二次テーブルの各サブチャネルのビット割り当ては、一次テーブルで規定される各サブチャネルのビット割り当てのパーセンテージであって、サブチャネルにわたって一定のまたは変動するパーセンテージとして考慮され得る。あるいは、ビット割り当ては、一次テーブルのデータと同じデータから計算され得るが、より大きいマージンを用いて計算される。一次テーブルを計算する際に使用される信号対雑音比のパーセンテージであって、サブチャネルにわたって一定のまたは変動するパーセンテージを用いるか、一次テーブルで考慮されたビット誤り率とは異なるビット誤り率を考慮するか、または、以前に説明された技術を含むその他の技術によって計算され得る。一次および二次の部分は、通信セッション中に再計算または改良され得、そして、後で使用するために格納され得る。計算または再計算は、一回の事象であってもよく、通信セッションの間中、周期的に起こるなど、繰り返して起こってもよい。
【0075】
さらに、二次チャネル制御テーブル中の多数のパラメータセットの使用は概して、実際のチャネル条件との最良の一致を提供し、従って、最適な通信条件にもっと近づくが、単一の複合パラメータセットを含む単純化された第2のテーブルが使用されてもよい。従って、図5Cは、サブチャネル49eの多数のビット割り当てセット49a?49dを示す。これは、これらのサブチャネルを介する通信に関連する対応する数の異なる通信装置または条件を表し得る。単一の複合パラメータセット49fは、例えば、サブチャネル49eの各々についてのセット49a?49dの中で最小のビット割り当てを各サブチャネルについて選択することにより、パラメータセット49a?49dの関数として形成され得る。そのようなセットは、セット49a?49dに関連する装置のいずれかの活性化のための「最悪の場合」の条件を表す。その他の最悪の場合のパラメータセットが、例えば選択された装置グループに対して形成されてもよく、それにより、幾つかの装置または妨害が同時に動作している場合に備える。
【0076】
妨害事象が無い場合、トランシーバ26’、34’は、一次チャネル制御テーブル41、45を用いて通信する。しかし、妨害事象の検出に応答して、トランシーバ26’、34’は、二次チャネル制御テーブル43、47のパラメータセットの1つに切り替わり、特定のパラメータテーブルによって特定される条件下で通信を続ける。これらの条件は、一次チャネル制御テーブルで提供されるビット誤り率と同じビット誤り率を維持しながら、低減されたビットレートを特定してもよく、あるいは、誤り率はより高いが、同じビットレートを特定してもよく、あるいは、対応して低減された電力レベルまたはマージンで、低減されたビットレートを特定してもよく、あるいは、特定のチャネル制御テーブルによって決定されるその他の条件であってもよい。切り換えを引き起こした妨害状態が終わると、トランシーバ26’、34’は、一次テーブル41、45の使用に戻る。
【0077】
典型的には、一次テーブルは、回線14を介して、通信チャネルの容量での通信または通信チャネルの容量に近い通信を提供する。二次テーブルは、低減されたレートでチャネルを介する通信を提供する。本発明による一次テーブルと二次テーブルとの間の切り換え(即ち、一次パラメータセットから二次パラメータセットへの切り換え)は高速である。この切り換えは、数フレームという短い間隔に達成することができ(現在のADSLシステムでは、各フレームは約250マイクロ秒である)、従って、そうでなければ決定、加入者回線を介する通信、および新しく決定されたビット割り当てテーブルの切り換え、に必要とされるであろう長い遅延(例えば、数秒のオーダ)を回避する。さらに、これは、通信が損なわれており、従って誤り率が高いときに、加入者回線を介するそのようなテーブルの通信を回避する。従って、本発明による予め格納されたパラメータセットの使用は、妨害事象によって引き起こされる通信プロセスの混乱を最小限にする。
【0078】
チャネル制御テーブルは、高速のアクセスおよび取り出しのために、記憶装置またはメモリに格納される。好ましくは、この記憶装置は、モデム自体に組み込まれるランダムアクセスメモリ(「RAM」)であるが、例えばスタンドアロンメモリ内、パーソナルコンピュータ(「PC」)などのコンピュータ内、ディスクドライブ内、またはその他のエレメント内など、モデムにアクセス可能なその他の構成要素内に配置されるそのようなメモリも含む。さらに、この記憶装置は、リードオンリメモリ(「ROM」)など、メモリのその他の形態の部分を含み得る。
【0079】
チャネル制御テーブル45および47へのアクセスに加えて、図4の制御モジュール54はまた、好ましくは、二次制御テーブルが一次チャネル制御テーブルに基づいて計算される場合、二次制御テーブルの形成を制御する。さらに、最も一般的な場合にそうであるように、モジュール54は、加入者回線14上のSNRをモニタし、そして、一次および二次チャネル制御パラメータセットが回線の実際の条件の測定に基づく場合、これらのセットを計算する。この目的で、制御モジュールは、本明細書に記載される機能に特殊化された専用デジタルコンピュータまたは「DSP」チップとして実現されると有利である。あるいは、当業者に理解されるように、制御モジュールは、言うまでもなく、汎用コンピュータとして、または、その他の態様で実現されてもよい。
【0080】
本発明によれば、加入者回線上の妨害事象は、その結果によって、電光インパルスなどの過渡的な事象から区別される。具体的には、オフフック信号またはオンフック信号などの信号伝達事象は、典型的には、再初期化せずにさらに通信することを妨げるように十分な混乱を引き起こす。この事象には、この混乱の間中ずっと持続するエラーコード表示、データを搬送する物理的信号またはパイロットトーンの振幅および位相の変化、回線へのかなりの電圧の印加、ならびに、その他の徴候が伴う。事象を検出するために、加入者回線をモニタして、これらの特性の1つ以上の発生があるかどうかを調べる。
【0081】
図6は、本発明に従って妨害事象を検出する1つの態様を示す。好ましくは制御モジュール54に含まれる検出器70は、回線14から信号を受け取り、そして信号に関連するエラーコード(例えば、CRC誤りまたはFEC誤りカウント)をモニタして(ステップ72)、誤りを示すものの発生があるかどうかを調べる。誤りが検出されなければ(ステップ74)、検出器は、それ以上活動せずに、モニタリングモードのままである。エラーコードによって誤りが示されると、カウンタが増分され(ステップ76)、次いで、カウントが所定のしきい値と比較される(ステップ78)。カウントがしきい値を越えていなければ(ステップ78、「>N?」)、システムは、モニタリングモードのままであり、検出されたいかなる誤りをも蓄積し続ける。カウントがしきい値を越えると(ステップ78、Y)、検出器は、「妨害事象」検出信号を出す(ステップ80)。この検出信号は、検出器70が配置されるトランシーバに、二次テーブルの適切なパラメータセットに切り替わるプロセスを開始させる。これが起こると、カウントがリセットされる(ライン81)。
【0082】
エラーコードをモニタして特性挙動(即ち、連続するフレームにわたって繰り返される誤り)があるかどうかを調べる代わりに、本発明によれば、サブチャネルを介してデータを伝送する物理的信号の振幅および位相、または、モデム間で伝送されるパイロットトーンの振幅および位相をモニタしてもよい。妨害事象が発生すると、物理的信号の振幅および位相は、大幅な変化を受ける。即ち、振幅は突然減少し、そして位相は突然新しい値に変わる。その後、振幅および位相は、連続するフレームの間、ほぼその新しい値を維持する。この挙動は、図7に示されるようにモニタされ得る。ここでは、モニタ100は、例えば、回線14上のデータ信号またはパイロットトーンの振幅をモニタし、そして、所定のしきい値よりも大きい振幅の変化を検出すると、フリップフロップ102を「活性」状態(「Q」)に設定する。フリップフロップ102は、新しいフレームがモデムに送られるかまたはモデムによって受け取られるときにはいつでも、フレームカウンタ106からカウントパルスを受け取るように接続されるカウンタ104をイネーブルする(入力「E」)。これらのカウントパルスはまた、しきい値カウンタ108にも付与される。しきい値カウンタ108は、カウントが規定されたカウントに達するまで、しきい値カウンタ108に付与されたカウントを蓄積し、次いで、結果として得られたカウントを比較器110に付与する。比較器110で、このカウントが、カウンタ104のカウントと比較される。カウンタ104および108の内容が等しければ、比較器110は、出力(「Y」)を提供する。この出力は、トランシーバに、適切なテーブルに切り替わるプロセスを開始させる。これはまた、カウンタ104、108およびフリップフロップ102をリセットする。カウンタ104、108、およびフリップフロップ102はまた、カウンタ104および108のカウントが一致しない場合にも(比較器110の「N」出力)リセットされる(入力「R」)。
【0083】
上記のようなデータ信号またはパイロットトーンの位相変化のモニタリングに基づいてテーブル切り換え信号を生成するために、同様の手順が使用され得る。さらに、図8の事象検出器の動作は、大部分はハードウェアに関して説明されているが、本明細書に記載されるエレメントのほとんどがそうであるように、この事象検出器の動作が、ソフトウェアでも、または、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせでも容易に実現され得ることが理解される。
【0084】
妨害事象を検出するさらに他のアプローチは、妨害事象を直接モニタすることである。例えば、オフフックまたはオンフック信号の場合、48ボルトのdcステップ電圧が加入者回線に印加される。この信号は、単に回線をモニタしてこの大きさのステップ電圧があるかどうかを調べ、そしてその後その電圧の検出に応答してテーブル切り換え信号を生成するだけで容易に直接検出可能になるよう、その他の信号とは十分に異なっている。別のアプローチは、「sync」フレームをモニタすることにより、1つ以上のサブチャネル上のSNRをモニタすることである。隣接する電話回線上のデータソースからの妨害の存在は、サブチャネルSNRの変化として現れる。通信を妨害する装置の活性化または非活性化によって引き起こされる妨害事象をモニタする直接的な方法は、これらの事象のいずれかが発生すると、装置とローカルモデムとの間で直接信号を伝達することである。図3に示されるように、例えば、信号伝達線35、37は、ローカルモデム34’と、それに関連する装置31、32との間に直接延ばされて、これらの装置の活性化(「オフフック」)または非活性化(「オンフック」)などの、これらの装置の変化を直接信号で伝達するようにしてもよい。
【0085】
妨害事象に応答して制御テーブルを変えることに加えて、上流伝送によって引き起こされる音声通信への干渉を最小限にするため、および、これらの伝送が下流信号に漏れること(「エコー」)を減らすために、上流送信電力レベルを低減することが望ましい。これらの干渉は、回線に結合される電話などの装置によって引き起こされる非線形性であって、電話がオフフックであるときに特に引き起こされる非線形性から起こる。干渉を許容可能にするために必要とされる電力低減量は、電話ごとに変わる。本発明の好適な実施形態では、必要とされる上流送信電力の低減を決定するためにプローブ信号が使用される。具体的には、電話の活性化もしくは非活性化、または、通信を混乱させ得るその他のソースからの干渉、などの妨害事象を検出した後、ATU-Rの送信器部(「上流送信器」)は、変化する電力レベルで加入者回線を介してテスト信号を伝送し、そして、ATU-Rの受信器部(「下流受信器」)でエコーを測定する。結果として得られる測定は、下流受信器でのエコーを最小限にする上流送信電力レベル、または、エコーを少なくとも許容可能にする上流送信電力レベルを決定するために使用される。新しい電力レベルは、言うまでもなく、典型的には、チャネル制御パラメータの対応する新しいパラメータセットに関連する。
【0086】
妨害事象に応答してビット割り当ておよびゲインパラメータを変えることに加えて、サブチャネル等化器(即ち、時間ドメイン等化器または周波数ドメイン等化器)およびエコーキャンセラの一方または両方を変えることが概して必要である。これらのパラメータの適切なセットは、ビット割り当ておよびチャネルゲインと同じ態様で前もって形成され得(即ち、予備訓練セッションにおいて、加入者回線に接続された様々な装置を活性化させた状態で、回線を介してテスト通信を送り、結果として得られた通信条件を測定し、そして測定に基づいて様々なパラメータを決定する)、そして、必要に応じて呼び戻すまたは使用するために二次チャネル制御テーブルに格納され得る。あるいは、これらのパラメータの適切なセットは、妨害事象の検出後の再訓練動作中に、通信を過度に混乱させることなく迅速に再決定され得る。なぜなら、これらのパラメータは、受信器に対してローカルであり、従って、通信対の他方のモデムに伝送される必要がないからである。
【0087】
具体的には、本発明の好適な実施形態によれば、妨害事象を検出すると、トランシーバは、図8にさらに詳細に示されるように、「高速再訓練」段階に入る。一般的な妨害事象は、電話をオフフックでとること、または、電話をオンフックに戻すことであり、これは一般に、ATU-Rで検出される。高速再訓練プロセスは、そのような事象について示されているが、高速再訓練プロセスはこれに限定されず、再訓練は、通信のいずれの端部においても、いかなるタイプの妨害事象についても開始され得ることが理解される。従って、そのような事象(図8、事象200)を検出すると、ATU-Rは、ATU-Cに、高速再訓練モードに入るよう通知する(ステップ202)。通知は、好ましくは、特定のトーンをATU-Cに伝送することにより行われるが、メッセージ、または、その他の通信形態も含み得る。この通知を受け取ると(ステップ204)、ATU-Cは、その後の通信に使用される電力レベルについてのATU-Rからの通知を待つ。これは、少なくとも上流電力レベルを含み、そして、下流電力レベルも含み得る。なぜなら、上流電力レベルを変えると、下流通信にある程度影響を及ぼし得るからである。完全さの目的のために、これらの電力レベルの両方が変えられると仮定するが、多くの場合、上流電力レベルだけが変えられることが理解される。
【0088】
使用される新しい電力レベルは、ATU-Rによって決定される(ステップ208)。ATU-Rは、上流トランシーバにチャネルプローブテスト信号を送り、そして下流受信器で、結果として得られたエコーを測定する。次いで、ATU-Rは、下流信号へのエコーを最小限にするように上流電力レベルを設定し、そしてまた、上流送信器で上流伝送が下流伝送に漏れることの影響を最小限にするように下流電力レベルを設定し得る。次いで、ATU-Rは、例えば電力レベルのロバスト伝達を確実にするために2値PSK(位相シフトキーイング)信号によって変調された1つ以上のトーンを上流トランシーバに伝送することによって、選択された上流および下流伝送レベルをATU-Cに伝達する(ステップ210、212)。電力レベルは、直接特定されてもよく(例えば「-30dbm」として)、間接的に特定されてもよい(例えば、所定のレベルグループの「レベル3」として)。この特定は、電力レベルの実際の値を識別してもよく、単に、実施される電力レベルの変化を識別するだけでもよい。
【0089】
ATU-R(ステップ214)およびATU-C(ステップ216)は次に、等化器およびエコーキャンセラを再訓練する目的で、新しい電力レベルでの伝送を開始する。好ましくは、新しい電力レベルへの変更は、送信器と受信器とを整合させるためにDSLシステムで使用されるフレームカウンタの使用により同期されるが、同期は、その他の手段によって(例えば、トーンまたはメッセージを伝送することによって、または、単にフラグを送ることによって)達成されてもよく、あるいは、同期されないままにされてもよい。訓練伝送に基づいて、ATU-RおよびATU-Cは、新しい電力レベルに適した時間および周波数ドメイン等化器パラメータと、適切なエコーキャンセラ係数とを決定する(ステップ218、220)。決定は、係数を決定するために、これらの測定に基づく計算を含んでいてもよく、測定は、ATU-RおよびATU-Cでそれぞれ格納された1つ以上の予め計算されたセットから、係数の特定の単数または複数のセットを選択するために使用されてもよい。
【0090】
例えば、妨害事象に応答して電力レベルを決定する場合と同様に、様々なサブチャネル上のSNRは、事象に関連する特定の1つまたは複数の装置を識別するため、および従って、単にその後の通信に使用されるパラメータセットの番号を特定するメッセージまたはトーンセットを通信対の他方のモデムに伝送するだけで、ATU-RおよびATU-Cでそれぞれ格納された適切な予め格納されたパラメータセットを選択するために、使用され得る。従って、SNR測定は、妨害事象に関連する1つまたは複数の装置の「シグネチャ」としての役割を果たし、そして、これらの装置の迅速な識別を可能にする。このアプローチは、等化器およびエコーキャンセラを再訓練するために必要とされる時間を大幅に減らすことができる。そして、特定の環境下で訓練が必要とされる場合であっても、予め格納された係数を開始点として用いることにより、訓練時間を有意義に減らすことができる。
【0091】
対応するパラメータセットを取り出す際のSNR測定の使用を容易にするために、格納されている様々なパラメータセットがSNRのセットにインデックス付けされて、特定の通信条件に関連する1つ以上のパラメータセットが迅速に識別されて取り出され得るようにすることが望ましい。これが達成され得る1つの方法は、図9Aに示される。ここでは、第1のセット250、第2のセット252、などのそれぞれのパラメータセットが、サブチャネル(SC)番号254と、対応するビット割り当て(BA)およびゲイン(G)エントリとに加えて、「オンフック」(テーブル250)、「オフフック」(テーブル252)、などの所与の通信条件に適したパラメータセットに特有のSNRエントリ260を有する。モデムの受信器部に適切であるように、周波数ドメイン等化器係数、時間ドメイン等化器係数、およびエコーキャンセレーション係数、などの追加のパラメータセットもまた、テーブルに格納されてもよい。送信器部については、これらの係数は、適用可能でなく、従って格納されない。
【0092】
サブチャネルSNRおよび対応するパラメータセットをリンクする別の手段が、図9Bに示される。図9Bに示されるように、単純なリスト構造270は、パラメータセット識別子272、および多数のSNR測定値274、276などを含む。サブチャネルの幾つかまたはすべてについてのSNRが含まれていてもよい。リストは、格納されたパラメータセットに最も近い一致を識別するための基準のための検索される手段であってもよく、次いでそのセットは取り出され、その後に使用される。図9Aまたは図9Bのいずれかにおいて、SNRにインデックス付けされたパラメータセットは、とりわけビット割り当ておよびゲインなどの多数のパラメータからなるセットであってもよく、あるいは、ビット割り当てだけ、またはゲインだけ、などの単一のセットを含んでいてもよい。
【0093】
その後の通信に使用されるチャネル制御パラメータセットの識別は、トランシーバ間で交換される(ステップ226?232)。次いで、これらのトランシーバは、これらのパラメータセットに切り替わり(234、236)、そして新しい条件下で通信を開始する。チャネル制御パラメータを含むメッセージは、好ましくは、「電力レベル」メッセージと同様の態様で変調される。即ち、BPSK信号伝達とともに幾つかの変調トーンを用いて変調される。従って、メッセージは、短く、そして非常にロバストである。高速再訓練時間が最小限にされるように、メッセージが短いことが重要である。なぜなら、例えばモデムがビデオ伝送またはインターネットアクセスなどに使用されているときにそうであるように、モデムは、この時間中データを送信または受信しておらず、従って、その一時的な利用不可能性が、非常に顕著であり得るからである。同様に、メッセージ伝送がロバストであることが重要である。なぜなら、低減されたSNR、リンギングまたはダイアリングなどからのインパルス雑音のため、妨害事象中の誤りのない通信は非常に困難であるからである。従って、予め格納されたパラメータセットの提供および使用は、モデムの少なくとも1つでスプリッタがないにもかかわらず、そして、データ通信と同時に起こる妨害事象が存在するにもかかわらず、通信の信頼性を大幅に高める。
【0094】
本明細書に記載されるモデムが、最も一般的には、専用の対で使用されることが予想される。即ち、各加入者(ATU-R)モデムは、専用の中央局(ATU-C)モデムと通信する。しかし、ある特定の場合、2つ以上の加入者モデムをサービスするために、単一のマスタ中央局モデムを提供することが十分であり得る。本発明は、その起こり得る事態も収容する。従って、図10では、中央局モデム280は、スイッチ282を通して、加入者回線290、292、294を介して複数の加入者モデム284、286、288と通信する。これらのモデムは、中央局から異なる距離に、そして、異なる通信環境に配置され得、従って、各モデムのチャネル制御テーブルは、それら自体の間で一意である。従って、中央局モデムは、各加入者モデムにつき1セット(送信および受信の両方)である個々のチャネル制御パラメータセット298、300、302などからなるマスタセット296を格納する。特定の加入者への通信を開始すると、中央局モデムは、加入者についての適切な伝送パラメータセットを取り出し、そしてそれを、その後の通信で使用する。同様に、中央局への通信を開始すると、所与の加入者モデムは、その加入者モデム自体を識別し、中央局モデムが、その加入者についての適切な受信パラメータセットを取り出すことを可能にする。
【0095】
結論
以上から、本出願人が、普通の住宅用電話回線などの制限されたバンド幅のサブチャネルを介する通信のための、改良された通信システムを提供したことが分かる。このシステムは、回線を介する音声およびデータ通信の両方を同時に受け入れ、そして、「スプリッタ」の設置および使用を不要にする。即ち、DSLシステムによって提供される高い通信能力の採用および使用を妨げ得る費用を不要にする。従って、このシステムは、従来のモデムが今日実現され使用されているのと同じ程度に広く実現され使用され得るが、そのようなモデムで現在達成可能なバンド幅よりも大幅に大きいバンド幅を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
従来技術に特有の、POTSスプリッタを用いる従来のデジタル加入者回線(DSL)システムのブロック線図である。
【図2】
図1の装置で使用される例示的なビット割り当ておよびゲインテーブルを示す。
【図3】
本発明によるスプリッタレスDSLシステムのブロック線図である。
【図4】
本発明によるスプリッタレストランシーバのブロック図である。
【図5A】
本発明に従って構成されそして使用されるチャネル制御テーブルを示す。
【図5B】
本発明に従って構成されそして使用されるチャネル制御テーブルを示す。
【図5C】
本発明に従って構成されそして使用されるチャネル制御テーブルを示す。
【図6】
本発明による妨害事象検出器の1つの形態の図である。
【図7】
リモートモデムに切り換え決定を伝達するためのフレームカウンタの使用を示す。
【図8】
本発明に従ってモデムの高速再訓練を行うために用いられる好適な手順を示す。
【図9A】
本発明による、チャネル制御テーブルが容易に選択され得る態様を示す。
【図9B】
本発明による、チャネル制御テーブルが容易に選択され得る態様を示す。
【図10】
本発明のモデムの相互接続の別の構成を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2009-03-19 
出願番号 特願2000-516470(P2000-516470)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (H04J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 松元 伸次
萩原 義則
登録日 2003-06-06 
登録番号 特許第3436742号(P3436742)
発明の名称 スプリッタレス多搬送波モデム  
代理人 松下 正  
代理人 鶴本 祥文  
代理人 古谷 栄男  
代理人 鶴本 祥文  
代理人 松下 正  
代理人 古谷 栄男  

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