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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29D
管理番号 1195805
審判番号 不服2006-3318  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-23 
確定日 2009-04-13 
事件の表示 平成 7年特許願第 18095号「冷却流体用導管」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 9月19日出願公開、特開平 7-241925〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年2月6日(パリ条約による優先権主張 1994年2月9日 ドイツ国)の特許出願であって、平成17年3月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月22日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成18年2月23日に審判請求書及び手続補正書が提出され、同年5月10日付けで前置報告がなされ、当審において平成20年3月10日付けで審尋がなされ、同年9月12日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年2月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結 論]
平成18年2月23日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
(1)補正事項
平成18年2月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成17年9月26日付けで補正された明細書(以下、「本件補正前明細書」という。)をさらに補正するものであって、本件補正前明細書の特許請求の範囲の、
「【請求項1】 複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管であって、導管が少くとも一部分で波形部を形成している形式のものにおいて、少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされていることを特徴とする、冷却流体用導管。
【請求項2】 冷却流体導管が2層から成っていることを特徴とする、請求項1記載の冷却流体用導管。
【請求項3】 冷却流体導管が少くとも1つの内層と、少くとも1つの中間層と、少くとも1つの外層とから成り、少くとも1つの中間層が付加的にバリア機能を有していることを特徴とする、請求項1記載の冷却流体用導管。
【請求項4】 少くとも搬送される媒体に対し不活性な内層と、圧力及び機械的な作用に対し耐性のある外層とから成っていることを特徴とする、請求項1から3までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項5】 外層がホモポリアミド又はコポリアミドから、又はこれら相互の又は別のポリマとの配合体又は混合体から成っていることを特徴とする、請求項1から4までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項6】 ホモポリアミド又はコポリアミドが、炭素原子を6個乃至12個備えた線状脂肪族モノマから、又は炭素原子を6個乃至20個備えたシクロ脂肪モノマから構成されていることを特徴とする、請求項5記載の冷却流体用導管。
【請求項7】 ホモポリアミドがPA6、PA66、又はPA12であり、更にこのポリアミドが加工又は使用上必要な添加剤によって改質されていても宜いことを特徴とする、請求項5記載の冷却流体用導管。
【請求項8】 内層が、外層に対し機能的に耐性にする基を有しているハロゲン化された又はハロゲン化されないホモポリオレフィン又はコポリオレフィン、又はそれら自体の混合体又は配合体から成っていることを特徴とする、請求項4から7までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項9】 内層が外層に対し充分には耐性でないハロゲン化された又はハロゲン化されないホモポリオレフィン又はコポリオレフィンから成り、かつこの両層に対し耐性である中間層が配置されていることを特徴とする、請求項3から8までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項10】 中間層が主として、グラフトされたポリオレフィン、グラフトされたコポリオレフィン又はコポリマ化によって機能基の設けられたコポリオレフィン、又は非機能性ポリマとのコポリオレフィンの配合体、又は相互に結合されるべきポリマ及び場合によっては別のポリマから成る混合体であることを特徴とする、請求項9記載の冷却流体用導管。
【請求項11】 内層がグラフトされたα型非飽和ジカルボン酸を備えて、部分的に非グラフトポリオレフィンによって代替え可能であるコポリオレフィンから成り、外層が改質又は非改質のPA12であることを特徴とする、請求項8記載の冷却流体用導管。
【請求項12】 内層がPVDFであり、外層が改質されたPA6又はPA12であり、中間層が内層及び外層のポリマから成る配合体であることを特徴とする、請求項10記載の冷却流体用導管。
【請求項13】 内層がEPDMを備えたポリオレフィン又はコポリオレフィンから成り、中間層が機能化されたポリオレフィン又はコポリオレフィンであり、かつ外層が改質又は非改質のPA12であることを特徴とする、請求項10記載の冷却流体用導管。
【請求項14】 爆発圧耐性外層の壁厚が全壁厚の25%乃至95%であることを特徴とする、請求項4から13までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項15】 中間層の壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであることを特徴とする、請求項3記載の冷却流体用導管。
【請求項16】 冷却流体用導管は、ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造可能であることを特徴とする、請求項1から15までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。」
との記載を、
「【請求項1】 複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管であって、導管が少くとも1つの内層と、少くとも1つの中間層と、少くとも1つの外層とから成り、かつ少くとも一部分で波形部を形成している形式のものにおいて、少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされており、冷却流体用導管の少くとも1つの中間層が付加的にバリア機能を有しており、該中間層の壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであり、かつ冷却流体用導管は、ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造されていることを特徴とする、冷却流体用導管。
【請求項2】 冷却流体用導管が2層から成っていることを特徴とする、請求項1記載の冷却流体用導管。
【請求項3】 少くとも搬送される媒体に対し不活性な内層と、圧力及び機械的な作用に対し耐性のある外層とから成っていることを特徴とする、請求項1又は2記載の冷却流体用導管。
【請求項4】 外層がホモポリアミド又はコポリアミドから、又はこれら相互の又は別のポリマとの配合体又は混合体から成っていることを特徴とする、請求項1から3までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項5】 ホモポリアミド又はコポリアミドが、炭素原子を6個乃至12個備えた線状脂肪族モノマから、又は炭素原子を6個乃至20個備えたシクロ脂肪モノマから構成されていることを特徴とする、請求項4記載の冷却流体用導管。
【請求項6】 ホモポリアミドがPA6、PA66、又はPA12であり、更にこのポリアミドが加工又は使用上必要な添加剤によって改質されていても宜いことを特徴とする、請求項4記載の冷却流体用導管。
【請求項7】 内層が、外層に対し機能的に耐性にする基を有しているハロゲン化された又はハロゲン化されないホモポリオレフィン又はコポリオレフィン、又はそれら自体の混合体又は配合体から成っていることを特徴とする、請求項3から6までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項8】 内層が外層に対し充分には耐性でないハロゲン化された又はハロゲン化されないホモポリオレフィン又はコポリオレフィンから成り、かつこの両層に対し耐性である中間層が配置されていることを特徴とする、請求項1から7までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。
【請求項9】 中間層が主として、グラフトされたポリオレフィン、グラフトされたコポリオレフィン又はコポリマ化によって機能基の設けられたコポリオレフィン、又は非機能性ポリマとのコポリオレフィンの配合体、又は相互に結合されるべきポリマ及び場合によっては別のポリマから成る混合体であることを特徴とする、請求項8記載の冷却流体用導管。
【請求項10】 内層がグラフトされたα型非飽和ジカルボン酸を備えて、部分的に非グラフトポリオレフィンによって代替え可能であるコポリオレフィンから成り、外層が改質又は非改質のPA12であることを特徴とする、請求項7記載の冷却流体用導管。
【請求項11】 内層がPVDFであり、外層が改質されたPA6又はPA12であり、中間層が内層及び外層のポリマから成る配合体であることを特徴とする、請求項9記載の冷却流体用導管。
【請求項12】 内層がEPDMを備えたポリオレフィン又はコポリオレフィンから成り、中間層が機能化されたポリオレフィン又はコポリオレフィンであり、かつ外層が改質又は非改質のPA12であることを特徴とする、請求項9記載の冷却流体用導管。
【請求項13】 爆発圧耐性外層の壁厚が全壁厚の25%乃至95%であることを特徴とする、請求項3から12までのいづれか1項記載の冷却流体用導管。」
と補正するものである。

(2)補正の目的
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項3に記載の「冷却流体導管が少くとも1つの内層と、少くとも1つの中間層と、少くとも1つの外層とから成り、少くとも1つの中間層が付加的にバリア機能を有していること」との事項、同請求項15に記載の「中間層の壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであること」との事項、及び同請求項16に記載の「冷却流体用導管は、ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造可能であること」との事項に基づいて、補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の「冷却流体用導管」に係る補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものであって、平成6年法律改正第116号附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するものである。

(3)独立特許要件
そこで、本件補正が、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

(3-1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、本件補正後の明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管であって、導管が少くとも1つの内層と、少くとも1つの中間層と、少くとも1つの外層とから成り、かつ少くとも一部分で波形部を形成している形式のものにおいて、少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされており、冷却流体用導管の少くとも1つの中間層が付加的にバリア機能を有しており、該中間層の壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであり、かつ冷却流体用導管は、ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造されていることを特徴とする、冷却流体用導管。」

(3-2)引用文献の記載事項
本出願の優先日前に頒布された刊行物であって、原審における拒絶査定の理由に引用された、特開平4-290691号公報(以下、「引用文献1」という。)及び実願昭63-026480号(実開平1-130019号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)、並びに、当審において発見された特開平5-42585号公報(以下、「引用文献3」という。)及び特開平5-220816号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

・引用文献1の記載事項
1a.「少なくとも接触面で相容性のポリマーの複数の層(12,14)からなり、かつ少なくとも部分的にリング状またはらせん状で波形に変形された壁を有することを特徴とする高い加水分解強度および高い破裂圧強度を有するエンジン用のフレキシブルな冷却液導管。」(【請求項1】)
1b.「破裂圧に強い外側層(12)の壁厚が、全壁厚の25%?95%である請求項1から10までのいずれか1項記載の冷却液導管。」(【請求項11】)
1c.「請求項1から14までのいずれか1項記載の冷却液導管を同時押出により製造することを特徴とする冷却液導管の製造方法。」(【請求項13】)
1d.「【産業上の利用分野】本発明は、高い加水分解強度および破裂圧強度を有する、エンジン、特に自動車エンジン用のフレキシブルな冷却液導管に関する。“フレキシブル”とは、製造するために比較的硬質のポリマーを使用するにもかかわらず、上記導管を小さな曲率半径で曲げることができるという意味で表現される。」(段落【0001】)
1e.「【従来の技術】従来技術水準によれば、冷却液導管のために繊維織物で強化されたゴム導管が使用される。そのような、特に自動車エンジンに使用されるゴム導管は、一方では比較的高価であり、かつそれにもかかわらず特にエンジン室内で生ずる高温の場合には、完全に要求に応じられないという欠点を有する。約100000走行キロメートルに相当する運転時間後、機械的特性はすでに著しく低下する。エンジン室内の温度が従来よりもなお一層上昇せしめられ、ひいては機械的特性が劣化を付加的に加速される今後の自動車エンジンのための冷却水ゴム導管の安定性は一層重要になる。それゆえ、完全に新しいタイプの解決策が必要である。」(段落【0002】)
1f.「狭い空間に大きな導管湾曲を可能にするための必要性から生ずる必要なフレキシビリティは、いわゆる波形の管、すなわちその壁が従来技術水準による公知方法により、たとえばリング状またはらせん状で波形に変形された管によって達成可能である。」(段落【0008】)
1g.「図1は、リング状で波形に変形された壁を有するフレキシブルな冷却液導管10の一部を示し、図に示された開口端部が管16に取付けられている。」(段落【0017】)
1h.「


」(第4頁、【図1】)

1i.「外側の層12は、破裂圧に強い層として形成され、一方内側の層14は、冷却剤に対して不活性の、膨潤不能の材料からなる。2つの層12および14は、相容性のポリマーからなる。内側の層および外側の層のために相容性でないポリマーを使用する場合は、内側の層および外側の層の材料と相容性であるかまたは相容性にする、付加的中間層を使用することができる。」(段落【0018】)

・引用文献2の記載事項
2a.「内燃機関の排気系の途中に接続する縦断面波形のベローズ状可撓管の隣り合う各山部間もしくは谷部間にリブを設け、軸線方向の隣合う上記各リブの周方向の位置を異ならせたことを特徴とする内燃機関の排気系用ベローズ状可撓管。」(実用新案登録請求の範囲)
2b.「〔産業上の利用分野〕
本考案は自動車等の内燃機関の排気系に用いるベローズ状可撓管、更に詳しくは排気系の途中に接続して機関からの振動等を緩衝する縦断面波形のベローズ状可撓管に関する。」(第1頁第11?15行)
2c.「本考案は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、簡単な構成により上記ベローズ状可撓管の伸びを防いで排気系の耐久性を向上させることを目的とする。」(第3頁第11?14行)
2d.「〔作用〕
ベローズ状可撓管の隣合う各山部間もしくは谷部間にリブを設けたことにより、ベローズ状可撓管の軸線方向の伸びが防止されると共に、軸線方向に隣合うリブの周方向の位置を異ならせたので、ベローズ状可撓管の半径方向の撓みが許容されて該可撓管による振動吸収性能が維持される。」(第4頁第1?7行)
2e.「第1図は本考案の一実施例を示す内燃機関の排気系用ベローズ状可撓管の斜視図、第2図・第3図はそのベローズ状可撓管の互いに隣合う谷部の横断面図である。」(第4頁第9?12行)
2f.「


」(第8頁、第1図)

2g.「本実施例はベローズ状可撓管8の各谷部8bの一部を半径方向外方に突出させることによって隣合う各山部8a・8a間に、その山部8aと略同じ高さの外向きの突リブ80aを、それぞれ直径方向2箇所に、かつ軸線方向に隣合う80aが第2図・第3図のように互いに周方向に約90°ずつずれた位置になるように設けたものである。
上記のようにベローズ状可撓管8の隣合う各山部8a・8a間にリブ80aを設けたことにより、ベローズ状可撓管8の伸びが防止されると共に、リブ80aのないところでは半径方向の撓みが許容され、可撓管8全体としては半径方向いずれの方向の撓みをも許容して十分な振動吸収性能が維持されるものである。」(第4頁第13行?第5頁第6行)

・引用文献3の記載事項
3a.「前記コルゲート管の製造装置は、前記外周面成型用割型に隣設された押出成型機により管状に押し出された熱可塑性樹脂の外周面を前記モールディング・ブロックに当接させブロー成型することにより前記外周面に螺旋状の凹凸を成型するものである。」(段落【0002】)

・引用文献4の記載事項
4a.「押出機24から押し出されたパリソン(溶融樹脂のチューブ)26は前記成形トンネル18内に導かれるのと同時にパリソン内に圧縮空気が吹き込まれて、パリソンの内側と外側との間に差圧が発生し、その差圧で溶融樹脂のパイプ状物がモールド金型の成形面に向かって押し拡げられることにより、合成樹脂製波付管28が連続的に成形される。尚、押出機24から押し出されるパリソン26の押出速度と連続的に旋回する無限軌道モールド金型20の速度は同じ速度である。圧縮空気を吹き込む代わりに別法として、例えば、特公昭55-23738号公報等に記載のように真空ポンプと連通する貫通孔をモールド金型に設けておき、モールド内に押し出されたパリソンとモールド金型との間を真空吸引することによりパリソンの内側と外側との間に差圧を発生させ、その差圧によりパリソンをモールド金型の成形面に吸引して連続的に合成樹脂製波付管を製造する方法が知られている。」(段落【0003】)

(3-3)対比
引用文献1には、ポリマーの複数の層からなり、破裂圧に強い外側層を有し、リング状で波形に変形された壁を有する管である、小さな曲率で曲げることができる自動車のエンジン用の冷却液導管〔摘示1a.1b.1d.1f.1g.及び1h.〕、冷却液導管の層構成として、外側の層、内側の層並びに内側の層及び外側の層の双方の材料に相溶性である付加的中間層との3層構造であること〔摘示1i〕、及び前記波形の管を同時押出により製造すること〔摘示1c.〕が記載されていることから、引用文献1に記載の発明(以下、「引用発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「破裂圧に強い外側の層、内側の層及び前記内外層の材料と相溶性である付加的中間層の3層構造のポリマー層から成り、リング状で波形に変形された壁を有することによって湾曲することができ、同時押出によって製造された、高い破裂圧強度を有する自動車エンジン用の冷却液導管。」

一方、本件補正発明1は、「複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管」に係るものと規定されているところ、前記「層相互間の接触面において層が耐性である」の意味は必ずしも明りょうではないものの、積層体ないし多層ポリマー管についての技術常識からみて、層相互間の接触面における接着性ないし耐剥離性を意図するものと解されることから、引用発明に係る「冷却液導管」における「付加的中間層が内外層の材料と相溶性」の構造のものであれば、本件補正発明1の「層相互間の接触面において層が耐性である」ものと認められる。
ここで、引用発明に係る「冷却液導管」は、自動車エンジン用のものであると認められるところ、本件補正発明1に係る「冷却流体用導管」はその適用用途が限定されているものではないが、本件補正明細書段落【0003】における「ポリマからなる冷却流体用導管は、・・・使用されるポリマ材料の選択とそれに対応した層厚とによって、自動車産業の高い要求に対応可能である。」との記載を参酌すれば、少なくとも、自動車エンジン用のものである態様を包含することは明らかであり、かかる態様の場合においては、本件補正発明1における「冷却流体用導管」は、実質上、引用発明における「冷却液導管」に相当する。
したがって、本件補正発明1と引用発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりであると認められる。

<一致点>
「複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管であって、導管が少なくとも1つの内層と、少なくとも1つの中間層と、少なくとも1つの外層とから成り、かつ少なくとも一部分で波形部を形成している形式のものであって、かつ冷却流体用導管はポリマからなる多層管の同時押出成形によって製造されていることを特徴とする冷却流体用導管」である点。

<相違点1>
本件補正発明1が、「少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされており」との発明の構成に欠くことができない事項(以下、「構成要件」という。)を有するのに対して、引用発明では、前記導管の部分構造について規定されていない点。
<相違点2>
本件補正発明1に係る「中間層」が、「付加的にバリア機能を有しており」と規定され、かつ、その「壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであり」と規定されているのに対して、引用発明では、前記機能及び壁厚について規定されていない点。
<相違点3>
本件補正発明1に係る「冷却流体用導管」が、「ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造されていること」により製造されたものであることを構成要件としているのに対して、引用発明のものは同時押出成形により製造されたものであるとしているのみである点。

(3-4)判断
以下、上記各相違点について検討する。

<相違点1について>
相違点1に係る、本件補正発明1の「少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされており」との構成要件における「ウエブ」及び「管壁部の条溝状の変形部」との記載の意味は必ずしも明らかではないが、本件補正明細書及び特に図面の記載からみて、前記構成要件は、具体的には、下図に示される形状・構造である態様を含むものと解される。


(本件図面、第4頁【図1】で示される図である。以下、該図示構造を「本件構造」という。)

上記図中、図番「2」及び「3」で示される部分が、本件補正明細書の【図面の簡単な説明】の【符号の説明】の記載から、「ウエブ」を意味するものであることから、これらの部分が「管壁部の条溝状の変形部」に相当すると解される。そして、同【図面の簡単な説明】の【図1】の記載から、長手方向で続いて位置し、隣り合う「ウエブ2」と「ウエブ3」とは、波形部の管軸からみて、周方向に約90°だけずれて形成されている構造であると解されるものである。
一方、引用文献2には、自動車の内燃機関の排気系に用いる「ベローズ状可撓管」〔摘示2a.及び2b.〕に係る発明が記載されている。
上記「ベローズ状可撓管」の構造は、摘示2f.(第1図)に図示されている態様の管構造(以下、「引用構造」という。)を含むものであり、引用構造は、摘示2g.のとおり、「ベローズ状可撓管8の各谷部8bの一部を半径方向外方に突出させることによって隣合う各山部8a・8a間に、その山部8aと略同じ高さの外向きの突リブ80aを、それぞれ直径方向2箇所に、かつ軸線方向に隣合う80aが第2図・第3図のように互いに周方向に約90°ずつずれた位置になるように設けたもの」であるから、前記「山部8a」及び「突リブ80a」は、本件構造の「ウエブ」に相当するものであり、引用構造のその他の構造について検討しても、引用構造は、実質的に、本件構造と同一の波形管構造であるものと認められる。
そして、引用構造は、「ベローズ状可撓管8の隣合う各山部8a・8a間にリブ80aを設けたことにより、ベローズ状可撓管8の伸びが防止されると共に、リブ80aのないところでは半径方向の撓みが許容され、」〔摘示2g.〕との効果を奏するものである。
ここで、自動車の組立・製造に用いられる部品については、その適用箇所・目的等に応じた一定の仕様が定められており、本件補正発明1に係る自動車エンジン用の冷却流体用導管についても、同様に、一定の仕様が定められているものであると解される。そして、自動車エンジン用の冷却液導管の記載された引用文献1には、自動車エンジン用の冷却液導管についての仕様、あるいは仕様を定めるための条件として、具体的に、「すぐれた加水分解安定性」、「高い破裂圧安定性」、「自動車製造に必要な8バール/120℃を容易に達成すること」(段落【0007】)、「狭い空間に大きな導管湾曲を可能にするための必要性から生ずる必要なフレキシビリティ」(段落【0008】)などが記載されているが、自動車エンジン用の冷却液導管については、上記記載からみて、高温状態の下、高い圧力が作用することが容易に想定され、かかる圧力による導管の拡開や伸張の変化を最小とすることは、上記仕様、あるいは仕様を定めるための条件を設定するための前提であるものと解され、このことは、本件補正明細書の段落【0005】に、「更に自動車産業の厳格な公差に基いて管は、加熱及び圧力負荷に基く長さ変化が可能な限り小さいように要求されている。」と明記されていることからも裏付けられている。
すると、引用発明は、リング状の波形部を形成した管〔摘示1h.〕であって、自動車エンジン用の冷却液導管に係るものであることから、その軸ないし長手方向の伸張性を抑制すべく、形状、構造等を設定・設計することは、引用発明が内在的に包含している課題であると解することができる。
してみれば、引用発明が内在的に包含する課題を解決する手段として、自動車部品としてのベローズ状可撓管である点において、引用発明に係る「自動車エンジン用のフレキシブルな冷却液導管」と軌を一にする引用文献2記載のベローズ状可撓管に着目し、「ベローズ状可撓管の伸びが防止される」との特性を発揮する構造として引用文献2に具体的に開示されている「引用構造」を適用し、上記相違点1に係る本件補正発明の構成要件と成す点に、当業者にとって格別の困難性があったものとはいえない。
また、本件補正明細書の段落【0020】には、「本発明の冷却流体用導管は、ウエブなしの同一形式の導管に比較して約10-20%高い耐爆発圧強度を有している。その際本発明の導管の撓性は実用上制約されないままである。つまり例へば連続して90°だけずらされているウエブは、極めて狭い波形部に対し導管の同一の曲げ性能を実現している。同時に本発明の導管の不都合な長さ膨脹が殆んど完全に阻止されている。」と記載されている。しかしながら、上記「耐爆発圧強度」は、引用発明における「高い破裂圧強度」〔摘示1a.等〕に相当するものであるところ、本件補正発明に関しては、本件補正明細書の段落【0012】において「爆発圧耐性の外層は有利には、ホモポリアミドまたはコポリアミド基のポリアミドから、又はこれら相互の又は別のポリマとの配合体又は混合体から成っており」と記載され、引用発明に関しては、引用文献1の段落【0011】において「外側層のための破裂圧に強い材料は、特にポリアミド」と記載されており、両者は同等の材料を用いることにより、「耐爆発圧強度」または「破裂圧強度」を確保しているものであり、そして、本件補正明細書には、上記のとおり、「ウエブなしの同一形式の導管に比較して約10-20%高い耐爆発圧強度を有している」と記載されているものの、管自体の「耐爆発圧強度」は不明であり、かつ、実施例等により具体的に裏付けられているものではなく、前記「約10-20%高い耐爆発圧強度」であることが、自動車エンジン用の冷却流体用導管として、どの程度に有効であるのか明らかではないことから、上記相違点1に関し、「耐爆発圧強度」の点で、本件補正発明が、予期し得ない格別に顕著な効果を奏するものであるとはいえない。
以上のとおり、上記相違点1に係る本件補正発明の構成要件は、引用発明及び引用文献2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであり、その効果も格別のものとは認められない。

<相違点2について>
引用発明に係る3層のポリマー管における中間層が、管内を流れる流体の透過を妨げるべきものであることは自明のことであるから、相違点2に係る、「中間層」が「付加的にバリア機能を有して」いることは、管の層構造を構成する中間層の材料として考慮すべき機能であり、格別の機能ではない。
また、引用発明に係る中間層は、破裂圧の強い層としての外側の層と冷却剤に対して不活性の膨潤不能の材料から成る内側の層の間にあって、前記内外層の材料と相溶性であるかまたは相溶性にするためのものであり、本件補正発明における付着連結のために付加的にバリヤ作用を有している中間層と同様の機能を有するものであることから、相違点2に係る、「壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであり」とすることは、かかる機能を発揮できる範囲において、当業者が適宜設定可能な事項である。
したがって、上記相違点2に係る事項は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項であり、その効果も格別なものとは認められない。

<相違点3について>
引用文献3及び4に記載のとおり、多層の波形管を、同時押出-ブロー成形、あるいは、同時押出-真空成形によって製造することは、当該技術分野において、当業者に周知・慣用の技術的事項にすぎないから、上記相違点3に係る事項は、引用発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が適宜実施し得たことに過ぎない。

<小括>
上記相違点1ないし3については、上記検討のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明
上記2.のとおり、平成18年2月23日付けの手続補正は、決定をもって却下された。
したがって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年9月26日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 複数のポリマ層から成り、層相互間の接触面において層が耐性であるポリマを有している冷却流体用導管であって、導管が少くとも一部分で波形部を形成している形式のものにおいて、少くとも隣接する個々の波形部が該波形部の内周面側で少くとも1つのウエブによって相互に結合されており、該ウエブは管壁部の条溝状の変形部から成っており、かつ導管の長手方向で続いて位置する前記各ウエブは、連続的に規定された角度だけずらされていることを特徴とする、冷却流体用導管。」

4.拒絶査定の理由について
原審において拒絶査定の理由とされた、平成17年3月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のとおりである。

この出願の請求項1?19に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開平4-290691号公報
引用文献2:実願昭63-026480号(実開平1-130019号)のマイクロフィルム
(以下、引用文献3?5略)

5.引用文献の記載事項
・引用文献1の記載事項
上記2.(3-2)引用文献の記載事項において、「・引用文献1の記載事項」として記載した事項と同じである。
・引用文献2の記載事項
上記2.(3-2)引用文献の記載事項において、「・引用文献2の記載事項」として記載した事項と同じである。

6.対比・判断
本願発明は、上記2.で検討した本件補正発明1において、「冷却流体導管が少くとも1つの内層と、少くとも1つの中間層と、少くとも1つの外層とから成り、少くとも1つの中間層が付加的にバリア機能を有していること」、「中間層の壁厚がほぼ0.1乃至0.2mmであること」及び「冷却流体用導管は、ポリマから成る多層管の同時押出成形と、またそれに続く吹込み成形又は吸込み成形による波形部及び条溝状のウエブの形成とによって製造可能であること」との事項を構成要件に備えないものである。
してみると、本願発明と本件補正発明1との関係において、本願発明に係る冷却流体用導管の層構造を限定し、その製造方法を限定した本件補正発明1が、上記2.(3)のとおり、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、同様の理由により、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-14 
審決日 2008-11-26 
出願番号 特願平7-18095
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B29D)
P 1 8・ 121- Z (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 一色 由美子
亀ヶ谷 明久
発明の名称 冷却流体用導管  
代理人 矢野 敏雄  

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