• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1195825
審判番号 不服2006-12961  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-22 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 平成 8年特許願第249312号「アクリル木目模様シート、アクリル木目模様成形品とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月17日出願公開、特開平10- 71680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年8月29日の出願であって、平成18年5月19日付けで拒絶査定がされ、同年6月22日付けで拒絶査定に対する審判が請求されるとともに同年7月24日付けで手続補正書が2通提出され、同年9月7日付けで審判請求書の手続補正書が提出され、平成19年11月28日付けで、審尋がなされ、平成20年1月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成18年7月24日付けで提出された2通の手続補正書について
特許庁においては、提出された書類の受付番号は、提出された順番にしたがって付与しているので、手続補正がなされた順に、すなわち、平成18年7月24日付け手続補正書のうち、受付番号50601420549による手続補正を「手続補正(1)」、受付番号50601421267による手続補正を「手続補正(2)」とする。
そこで、まず、先にされた手続補正(1)の適否について検討し、次いで、手続補正(2)の適否について、検討する。

第3 平成18年7月24日付けの手続補正(1)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年7月24日付けの手続補正(1)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
この補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「アクリルフィルム上に木目模様導管柄層、木目模様下柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様シートにおいて、前記木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とするアクリル木目模様シート。」

「純粋のアクリル樹脂からなるアクリルフィルム上に木目模様導管柄層、木目模様下柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様シートにおいて、前記木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とするアクリル木目模様インサートシート。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アクリルフィルム」について、補正により「純粋のアクリル樹脂からなる」ものに限定し、「アクリル木目模様シート」を、補正により、「アクリル木目模様インサートシート」に限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正前の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項には「インサートシート」なる記載はないが、補正前の請求項3には、「請求項1または請求項2に記載のアクリル木目模様シートを射出成形用金型の中に入れ、型閉め後、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネイト樹脂、または、ポリカーボネイト樹脂とアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂との混合材料のいずれかの溶融樹脂を用いて射出成形し、射出成形品の表面にアクリル木目模様シートを接着させることを特徴とするアクリル木目模様成形品の製造方法。」が記載されており、この射出成形法は一般に「インサート成形」と呼ばれているので、「アクリル木目模様シート」を「インサート成形に用いるアクリル木目模様シート」、すなわち、「アクリル木目模様インサートシート」とする補正は、実質的に、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてした補正であると解されるので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用例及びその記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-183064号公報(以下、「引用例1」という。)、及び特開平5-177992号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

引用例1の記載事項
(1-1)「アクリル系樹脂製基材上に少なくとも絵柄層および接着層が形成された絵柄フィルムを、凹部を有する金型Aと溶融樹脂射出口を有する金型Bとの間に導入し、次にクランプ手段によって絵柄フィルムを金型Aの凹部の周囲で押さえ付け、次に熱源により絵柄フィルムを加熱して軟化させるとともに、絵柄フィルムを真空吸引して金型Aの凹部の表面に密着させ、次に金型Aと金型Bとを型閉めして凹部に密閉空間を形成し、次に前記密閉空間に溶融樹脂を射出し、射出樹脂成形品と絵柄フィルムとが一体化された成形同時絵付け品を金型から取り出す成形同時絵付け品の製造方法において、絵柄フィルムのアクリル樹脂製基材が、金型Aと金型Bとの間で絵柄フィルムが加熱されたときの第1加熱温度、および、射出された溶融樹脂が絵柄フィルムに接触したときの第2加熱温度のいずれの温度によっても、アクリル樹脂製基材から脱出しない紫外線吸収材を混入したものである絵柄フィルムを用いることを特徴とする成形同時絵付け品の製造方法。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(1-2)「成形同時絵付け用の絵柄フィルムは、基材上に少なくとも絵柄層が形成されたものであるが、(1)成形同時絵付け品として、最外層である基材の透明性、平滑性などの機能が要求されている現状、(2)耐光性が要求されている現状、並びに(3)成形同時絵付け方法として、絵柄フィルムの真空成形時の変形性が要求されている現状がある。前記(1)と(3)の現状の対策としてアクリル樹脂製基材を用いるとともに、(2)の現状の対策として基材に紫外線吸収材を混入させた絵柄フィルムが、前記成形同時絵付け品の製造方法に用いられている。」(段落【0003】)
(1-3)「アクリル系樹脂製基材中のアクリル系樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル)、ポリメチルアクリレートなどがある。」(段落【0037】)
(1-4)「絵柄層12は、射出樹脂成形品24の表面に装飾性や機能性を付与する層である。絵柄層12は通常の印刷図柄や導電材で形成された導電パターンなどがある。絵柄層12は各種着色顔料あるいは染料と、樹脂バインダーおよび溶剤とからなるインキを用いて多色印刷などにより形成したものである。絵柄としては、文字や記号、木目模様や艶消し模様、透光性の着色絵柄や染色絵柄、遮光性の着色絵柄や染色絵柄などがある。」(段落【0039】)

引用例2の記載事項
(2-1)「基材フィルム上に少なくとも絵柄層と接着剤層が転写層として設けられている射出成形同時転写加工に用いる転写箔であり、絵柄層のビヒクルにアクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合物を用い、該混合物は各々の成分の分子量が20000?70000、Tgが50?70℃、アクリル:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合比(重量比)が6:4?8:2であり、且つ接着剤層のビヒクルに塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を用い、該共重合体の分子量が10000?30000、Tgが60?70℃、塩化ビニル:酢酸ビニルの共重合比(重量比)が6:4?8:2であることを特徴とする射出成形同時転写用転写箔。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(2-2)「本発明は上記従来技術の欠点に鑑みなされたもので、絵柄層や接着剤層の耐温水性に優れ、クラックが入ったり、白化、密着性の低下等の不具合がなく、且つ転写後の離型力にバラツキがなく、低コストの射出成形同時転写用転写箔を提供することを目的とするものである。」(段落【0006】)
(2-3)「本発明転写箔は図1に示すように、基材フィルム2の表面に離型層3が設けられ、該離型層3の表面に剥離層4、絵柄層5、隠蔽層6、接着剤層7が転写層8として順次積層されてなる。尚、本発明においては少なくとも基材フィルム2の表面に絵柄層5と接着剤層7が設けられていればよく、離型層3、剥離層4、隠蔽層6等の層は必要に応じ設けることができる。」(段落【0010】)
(2-4)「更に必要に応じて転写層との離型性を促進するために、離型層3を設けるのが好ましい。射出成形同時転写用転写箔の離型層としては、成形時の耐熱性、可撓性、剥離層との経時安定性を考慮して、アクリル、メラミン、ウレタン、ポリエステル、アミノアルキッド、エポキシ等の熱硬化層の単体或いはそれら2種以上の混合物を用いるのが好ましい。必要に応じ離型性を調整するために、フッ素樹脂やパラフィン等の離型性の樹脂を添加する」(段落【0012】)
(2-5)「転写層8を形成する絵柄層5は全面に設けても、部分的に模様状に設けても良く、模様としては例えば、木目、石目、布目等の天然物の意匠、文字、図形、記号、各種抽象模様のいずれでもよい。絵柄層5は、ビヒクルに必要に応じて、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したインキを用いて形成される。」(段落【0013】)
(2-6)「絵柄層を形成するインキのビヒクルとしては、アクリルと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合物であり、アクリルと塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合比は6:4?8:2(重量比)で、各々の成分の平均分子量が20000?70000の範囲であり、好ましくは50000のものを使用する。混合比が上記の範囲を外れると耐水性もしくは密着力が低下し好ましくない。・・・」(段落【0014】)
(2-7)「接着剤層7は、転写層8を被転写体に転移、接着させるための層であり、耐温水性を向上させるために本発明では、ビヒクルとして塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を用いる。上記共重合体の分子量が10000?30000の範囲で、塩化ビニルと酢酸ビニルのモノマーの各成分の重量比(共重合比)が6:4?8:2の範囲のものを使用する。平均分子量が10000未満になると、耐水性が低下し、又30000を越えると、密着力が低下する。又、共重合比が上記の範囲以外になると、密着力及び耐水性の低下となり好ましくない」(段落【0016】)
(2-8)「剥離層4は基材フィルム2を剥離した際に被転写体側に残存するもので、両者の剥離を容易成らしめる効果を有するものである。この様な剥離層4の材質としては種々のものが使用でき、例えば、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、アミノアルキッド樹脂、繊維系樹脂、エポキシ樹脂等の反応型樹脂、或いは電離放射線硬化性樹脂等が挙げられる。なかでも電離線硬化型樹脂が好ましい。剥離層4の厚みは1?2μmに形成される。」(段落【0018】)
(2-9)「隠蔽層6は転写後の絵柄層5の下層(絵柄層5と接着剤層7との間)となるように通常設けられ、絵柄層5の下地の色を調整したり、成形品の色や柄を隠蔽して絵柄層の意匠を自由に表現可能にするために設けるもので、絵柄層と同様の材質からなるインキを用いて全面ベタに印刷形成することができる」(段落【0019】)
(2-10)「実施例1
表面にアクリルメラミン離型層を有する厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム〔ダイアホイル (株) 製:GH38〕の離型層の塗工してある面に、アクリル系ビヒクルを有するハクリインキ〔 (株) 昭和インク工業所製:ハクリニス45LC〕をグラビア印刷にて塗工し剥離層を形成し、該剥離層の表面に下記に示すアクリル/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(塩酢ビ)混合系のビヒクル(アクリル/塩酢ビ=8/2)を含む柄インキ〔 (株) 昭和インク工業所製:BCT〕を用いグラビア印刷にて柄層を形成した。更に上記柄層の上にアクリル/塩酢ビ混合系のビヒクル(平均分子量50,000、アクリル/塩酢ビ=6/4、Tg:70℃)を有する柄インキ〔 (株) 昭和インク工業所製:BC-72〕を用い、ベタ状に3層設け隠蔽層をグラビア印刷にて形成し、該隠蔽層の上に下記ビヒクルを含む接着剤層〔 (株) 昭和インク工業所製:PVHS〕をグラビア印刷にて形成して射出成形同時転写用転写箔を得た。」(段落【0022】)
(2-11)「

」(図1)

4 対比・判断
上記引用例1には、「アクリル系樹脂製基材上に少なくとも絵柄層および接着層が形成された絵柄フィルムを、凹部を有する金型Aと溶融樹脂射出口を有する金型Bとの間に導入し、次にクランプ手段によって絵柄フィルムを金型Aの凹部の周囲で押さえ付け、次に熱源により絵柄フィルムを加熱して軟化させるとともに、絵柄フィルムを真空吸引して金型Aの凹部の表面に密着させ、次に金型Aと金型Bとを型閉めして凹部に密閉空間を形成し、次に前記密閉空間に溶融樹脂を射出し、射出樹脂成形品と絵柄フィルムとが一体化された成形同時絵付け品を金型から取り出す成形同時絵付け品の製造方法において、・・・絵柄フィルムを用いることを特徴とする成形同時絵付け品の製造方法。」(摘示(1-1))が記載されているから、用いられた絵柄フィルムについても記載されているところ、「絵柄としては、文字や記号、木目模様や艶消し模様、透光性の着色絵柄や染色絵柄、遮光性の着色絵柄や染色絵柄などがある。」(摘示(1-4))と記載されているので、引用例1には、
「アクリル系樹脂製基材上に少なくとも木目模様絵柄層および接着層が形成された木目模様絵柄フィルムを、凹部を有する金型Aと溶融樹脂射出口を有する金型Bとの間に導入し、次にクランプ手段によって絵柄フィルムを金型Aの凹部の周囲で押さえ付け、次に熱源により絵柄フィルムを加熱して軟化させるとともに、絵柄フィルムを真空吸引して金型Aの凹部の表面に密着させ、次に金型Aと金型Bとを型閉めして凹部に密閉空間を形成し、次に前記密閉空間に溶融樹脂を射出し、射出樹脂成形品と絵柄フィルムとが一体化された成形同時絵付け品を金型から取り出す成形同時絵付け品の製造方法において用いる木目模様絵柄フィルム」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(1)本願補正発明1と引用発明との対比
引用発明における「アクリル系樹脂製基材」は、本願補正発明1における「アクリルフィルム」に相当し、引用発明における「絵柄フィルムを、凹部を有する金型Aと溶融樹脂射出口を有する金型Bとの間に導入し、次にクランプ手段によって絵柄フィルムを金型Aの凹部の周囲で押さえ付け、次に熱源により絵柄フィルムを加熱して軟化させるとともに、絵柄フィルムを真空吸引して金型Aの凹部の表面に密着させ、次に金型Aと金型Bとを型閉めして凹部に密閉空間を形成し、次に前記密閉空間に溶融樹脂を射出し、射出樹脂成形品と絵柄フィルムとが一体化された成形同時絵付け品を金型から取り出す成形同時絵付け品の製造方法」は、一般にインサート成形と呼ばれるので、引用発明における「木目模様絵柄フィルム」はインサート成形に用いる木目模様絵柄フィルムであり、「アクリル系樹脂製基材」に基づくものであるから、本願補正発明1における「アクリル木目模様インサートシート」に相当する。そして、本願補正発明1における「木目模様導管柄層、木目模様下柄層」は、併せて「木目模様柄層」ということができ、引用発明における「木目模様絵柄層」も「木目模様柄層」ということができるから、以上によれば、本願補正発明1と引用発明とは、
「アクリルフィルム上に木目模様柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様インサートシート」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(ア)アクリルフィルムが、本願補正発明1では「純粋のアクリル樹脂からなる」ものであるのに対し、引用発明においては、純粋のアクリル樹脂からなるものかどうか特定されていない点
(イ)木目模様柄層が、本願補正発明1においては、「木目模様導管柄層、木目模様下柄層が順次積層された」ものであるのに対し、引用発明においては、「木目模様絵柄層」であって、導管柄層と下柄層が順次積層されたものであるかどうか特定されていない点
(ウ)本願補正発明1においては、木目模様柄層の樹脂バインダーが「アクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物」であり、接着層の材質が「ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂」であるのに対し、引用発明においては、木目模様柄層の樹脂バインダー及び接着層の材質が特定されていない点
(以下、それぞれ、「相違点(ア)」?「相違点(ウ)」という。)

(2)相違点(ア)について
本願補正発明1における「純粋のアクリル樹脂」について、手続補正(1)後の明細書(以下、「補正明細書1」という。)の発明の詳細な説明の項の記載を参照すると、段落【0012】には、「アクリルフィルム2としては、ポリメタクリル酸メチルやポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチルなどの純粋なアクリル樹脂からなるアクリルフィルム2だけでなく、アクリル樹脂と他の樹脂(たとえばフッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂など)との共重合体からなる成分のフィルムやアクリルフィルム2と他のプラスチックフィルム (たとえばフッ素フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレン酢酸ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルムなど)との積層フィルムなども含む。」との記載があり、この記載からすると、「純粋のアクリル樹脂」は、ポリメタクリル酸メチルやポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチルなどのアクリル系樹脂単独重合体を意味するものと解するのが妥当である。
一方、引用例1には、「アクリル系樹脂製基材中のアクリル系樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル)、ポリメチルアクリレートなどがある。」(摘示(1-3))と記載されており、引用発明における「アクリルフィルム」もポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂単独重合体、即ち、純粋のアクリル樹脂からなるものといえるので、この点は実質的な相違点ではない。

(3)相違点(イ)について
木目模様柄層について、視覚的により天然木に近づけるために木目模様柄層を木目模様導管柄層と木目模様下柄層の二層に分けて形成することは化粧シートの分野において本願出願前普通に行われていることであり、その際、導管柄層が木目模様下柄層よりも一体化された成形品の表面側から見えるように、導管柄層を透明なアクリルフィルム側に配置することは、当業者が当然行うべきことである。
したがって、木目模様柄層として、木目模様導管柄層、木目模様下柄層が順次積層されたものとすることは、当業者がその効果を予期の上、適宜なし得ることである。

(4)相違点(ウ)について
引用例2には、「基材フィルム2の表面に離型層3が設けられ、該離型層3の表面に剥離層4、絵柄層5、隠蔽層6、接着剤層7が転写層8として順次積層されてなる射出成形同時転写加工に用いる転写箔であり、絵柄層のビヒクルにアクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合物を用い、接着剤層のビヒクルに塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を用いた転写箔」(摘示(2-1)及び(2-3))が記載されているところ、絵柄層の模様として、部分的に模様状に設けても良い、木目等の天然物の意匠が例示され(摘示(2-5))、「隠蔽層6は転写後の絵柄層5の下層(絵柄層5と接着剤層7との間)となるように通常設けられ、絵柄層5の下地の色を調整したり、成形品の色や柄を隠蔽して絵柄層の意匠を自由に表現可能にするために設けるもので、絵柄層と同様の材質からなるインキを用いて全面ベタに印刷形成することができる」ことが記載されている(摘示(2-9))から、絵柄層5及び隠蔽層6を併せて、木目模様柄層に相当するといえる。
そして、隠蔽層6は絵柄層5と同様の材質からなるインキを用いて形成され(摘示(2-9))、その樹脂バインダーとしては、両層ともにアクリル/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体混合系のものが用いられ(摘示(2-10))、一方、接着剤層7の材質としては、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体が用いられており(摘示(2-1)、(2-7))、これらのビヒクルを用いることで、模様柄層及び接着剤層が密着性に優れるものになることが示されている(摘示(2-2)、(2-6)、(2-7))ところ、模様柄層の密着性とは、摘示(2-11)、及び摘示(2-8)の「剥離層4は基材フィルム2を剥離した際に被転写体側に残存するもので」なる記載からすると、模様柄層と剥離層4との密着性をも意図していることは明らかであって、剥離層の材質としてアクリル樹脂が記載されているのであるから(摘示(2-8))、引用例2には、上記樹脂バインダーを用いることによって、模様柄層とアクリル樹脂との密着性が高まることが記載されている。
そうしてみると、引用発明において、「木目模様柄層の樹脂バインダー」及び「接着剤層の材質」として、それぞれ、引用例2に、密着性が優れるものとして示された、「アクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物」及び「ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂」を適用することは、当業者にとって容易といえる。

(5)本願補正発明1の効果について
本願補正発明1の効果は、補正明細書1の段落【0028】?【0029】に記載されるように、
「この発明のアクリル木目模様シートとこのシートを用いたアクリル木目模様成形品の製造方法では、木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であるので、このシートとABS樹脂などの溶融樹脂を用いて射出成形してアクリル木目模様成形品を製造すると、アクリルフィルムが有する透明性、耐候性などの特性と、射出成形品が有する耐熱性、耐衝撃性なのの特性との両方を併せ持ち、かつ、アクリルフィルムやアクリル木目模様シートがアクリル木目模様成形品から剥離しにくいものを得ることができる。
この発明のアクリル木目模様成形品は、アクリルフィルムが有する透明性、耐候性などの特性と、射出成形品が有する耐熱性、耐衝撃性などの特性との両方を併せ持ち、かつ、アクリルフィルムやアクリル木目模様シートが剥離しにくい成形品である。」
であるところ、引用発明においても、成形同時絵付け用の絵柄フィルムは、透明性、平滑性、変形性が要求されておりその対策としてアクリル樹脂基材を用いることが記載されているのであり(摘示(1-2))、また、模様柄層の樹脂バインダー及び接着剤層の材質を特定のものにすることで、密着性が高まることは、引用例2に記載されている(摘示(2-2)、(2-6)、(2-7))のであるから、本願補正発明1の効果は、これらの刊行物に記載されたものから当業者が予測しうるところといえる。
以上のとおり、本願補正発明1は、格別顕著な効果を奏し得たものとは認められない。

(6)請求人の主張
請求人は、平成18年9月7日付け審判請求書の手続補正書において、「引用文献1の絵柄フィルムはインサートシートであるため、絵柄層とアクリル系樹脂製基材とはインサート成形後も剥離しません。
また、引用文献2に示されているのは、絵柄層と基材フィルムとが転写後に剥離する転写箔についてです(引用文献2中、段落番号0007、0011参照)。
したがって、引用文献1の絵柄層と引用文献2の絵柄層とは、その性質が本質的に異なるものであるため、引用文献2の絵柄層を引用文献1の絵柄層に適用することは困難と考えます。
また、引用文献2は転写箔の発明ですので、引用文献2の転写箔における絵柄層の組成を引用文献1の絵柄フィルムにおける絵柄層に適用すると、アクリル系樹脂製基材と絵柄層が剥離することになり、本願発明が目的とする剥離しにくいという作用効果とはと逆の作用効果を奏することになります。
したがって、引用文献1の絵柄フィルムに引用文献2の技術を適用したとしても、本願発明には至らず、本願発明は進歩性を有するものと考えます。」(「3.(1)(1-1)」)、と主張する(注:「引用文献1」、「引用文献2」は、本審決の「引用例1」、「引用例2」に同じ。)。
しかしながら、引用例2には、上記の請求人の主張する記載内容以外にも、模様柄層の樹脂バインダーとしてアクリル/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体混合系のものを用いることで、アクリル樹脂の場合を含む剥離層との密着性が高まることが記載されているのであるから、この知見を引用発明に適用することは容易であり、上記(4)に示したとおりである。
したがって、請求人の主張は当を得ていない。

(7)まとめ
以上のとおりであって、本願補正発明1は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5 むすび
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、本願補正(1)は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 平成18年7月24日付けの手続補正(2)についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月24日付けの手続補正(2)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年7月24日付けの手続補正(1)は却下されたので、手続補正(2)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1
「アクリルフィルム上に木目模様導管柄層、木目模様下柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様シートにおいて、前記木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とするアクリル木目模様シート。」

「アクリルフィルム上に木目模様導管柄層、木目模様下柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様インサートシートにおいて、前記木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とするアクリル木目模様インサートシート。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アクリル木目模様シート」を、補正により、「アクリル木目模様インサートシート」に限定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正前の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項には「インサートシート」なる記載はないが、補正前の請求項3には、「請求項1または請求項2に記載のアクリル木目模様シートを射出成形用金型の中に入れ、型閉め後、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネイト樹脂、または、ポリカーボネイト樹脂とアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂との混合材料のいずれかの溶融樹脂を用いて射出成形し、射出成形品の表面にアクリル木目模様シートを接着させることを特徴とするアクリル木目模様成形品の製造方法。」が記載されており、この射出成形法は一般に「インサート成形」と呼ばれているので、「アクリル木目模様シート」を「インサート成形に用いるアクリル木目模様シート」、即ち、「アクリル木目模様インサートシート」とする補正は、実質的に、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてした補正であると解されるので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用例及びその記載事項
引用例1、2及びその記載事項は、前記「第3 3」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願補正発明2は、前記第3で検討した本願補正発明1から、「アクリルフィルム」の限定事項である「純粋のアクリル樹脂からなる」との構成を省いたものである。
そうすると、本願補正発明2の構成要件の全てを含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「第3 4(7)」に記載したとおり、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明2も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上のとおり、本願補正発明2は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5 むすび
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、本願補正(2)は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第5 本願発明について
1 本願発明
平成18年7月24日付けの手続補正(1)及び(2)は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、これらの補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「アクリルフィルム上に木目模様導管柄層、木目模様下柄層、接着層が順次積層されたアクリル木目模様シートにおいて、前記木目模様導管柄層および木目模様下柄層の樹脂バインダーがアクリル樹脂とポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂との混合物であり、接着層の材質がポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂であることを特徴とするアクリル木目模様シート。」

2 引用例及びその記載事項
引用例1、2及びその記載事項は、前記「第3 3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第3で検討した本願補正発明1から、「アクリルフィルム」の限定事項である「純粋のアクリル樹脂からなる」との構成を省き、「アクリル木目模様シート」の限定事項である「インサート」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件の全てを含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「第3 4(7)」に記載したとおり、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-10 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-04 
出願番号 特願平8-249312
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛川端 康之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 杉江 渉
鈴木 紀子
発明の名称 アクリル木目模様シート、アクリル木目模様成形品とその製造方法  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ