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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F22B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F22B
管理番号 1195838
審判番号 不服2006-18607  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-24 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 平成11年特許願第108312号「ボイラ本体の制振構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月2日出願公開、特開2000-304202号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成11年4月15日の特許出願であって、平成18年7月21日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年7月25日)、これに対し、同年10月16日に審判請求がなされ、平成20年9月3日付けで平成18年9月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされ、同日付けで当審による拒絶理由が通知され、平成20年10月16日付けで手続補正書が提出され、さらに、同年11月13日付け(発送日:平成20年11月18日)で当審による最後の拒絶理由が通知され、平成21年1月19日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成21年1月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年1月19日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成21年1月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「柱、梁、ブレースを有するボイラ支持鉄構と、前記ボイラ支持鉄構に吊り下げ支持されたボイラ本体と、前記ボイラ本体と前記ボイラ支持鉄構間で前記ボイラ本体の吊り下げ位置から所定の取付範囲に亘って各高さ位置に取り付けられた第1の制振装置と、を備えたボイラ本体の制振構造体であって、
前記第1の制振装置は、その一端を前記ボイラ本体の周りを囲んで補強するためのバックステーに取り付けられ、エネルギー吸収機能を持たせたリンク式振れ止め装置であり、
前記所定の取付範囲に亘って取り付けられた前記第1の制振装置の内の最下段の制振装置よりも下層のみにおいて、前記ボイラ支持鉄構同士の間に取り付けられた第2の制振装置を設け、
前記第2の制振装置によって地震の揺れを吸収し、前記ボイラ本体への地震応答量を低減し、
前記第2の制振装置による地震の揺れ吸収によって、前記所定の取付範囲における支持鉄構とボイラ本体との相対変位を小さくし、前記小さくした相対変位を前記第1の制振装置でさらに吸収する
ことを特徴とするボイラ本体の制振構造体。」
と補正された(以下「本件補正発明」という。)。

上記補正は、第1の制振装置について、本件補正前に「エネルギー吸収機能を持たせた振れ止め装置であり」とあったところを、「その一端を前記ボイラ本体の周りを囲んで補強するためのバックステーに取り付けられ、エネルギー吸収機能を持たせたリンク式振れ止め装置であり」と限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項に適合するか)否かについて、以下検討する。

(2)刊行物
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-285208号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「ボイラ本体を水平方向の振れ止め機構を介して支持鉄骨に支持し、脱硝装置、エアヒータ等の附帯機器を上記支持鉄骨上に載設してなるボイラの支持構造において、上記ボイラ本体と支持鉄骨との間に油圧ダンパ等の振動減衰装置を上記振れ止め機構と併設し、上記附帯機器と支持鉄骨との間に油圧ダンパ等の振動減衰装置及び積層ゴム等の弾性体を介装したことを特徴とするボイラの制振支持構造。」(段落【請求項1】)

イ.「発電用石炭焚きボイラ、重油焚きボイラ等の大型ボイラは、通常脱硝装置、エアヒータ等の附帯機器とともに支持鉄骨に取付けて支持されている。
図4(a),(b)には、かかる発電用石炭焚き大型ボイラ及び附帯機器の支持構造の従来の1例の側面図が示されている。図4(a)において1は支持鉄骨、2はボイラ本体であり、同ボイラ本体2は支持鉄骨1の略中央部にこれの頂部から複数本の吊り棒6により吊下されることにより鉛直方向に支持されている。
3は支持鉄骨1の前部に配設されたコールバンカー、4及び5は支持鉄骨1の後部に配設された脱硝装置及びエアヒータである。これらの附帯機器3,4,5は支持鉄骨1を構成する水平方向の梁1b上の支持鉄骨1の前部及び後部に載置、固定されている。
上記支持鉄骨1は、鉛直方向の柱1a、水平方向の梁1b、柱1aと梁1bとの節部を結合する鉛直ブレース1c及び水平ブレース1d(詳細は後述)から構成され、鉛直方向の自重や水平方向の地震力に耐える構造となっている。
7は上記ボイラ本体2と支持鉄骨1との間に複数個介装された水平方向の振れ止め機構である。この振れ止め機構7は地震発生時にボイラ本体2が水平方向に大きく振れることができるよう、剛性の低い支持構造となっている。
即ち、図4(b)に示されるように、上記振れ止め機構7は、ボイラ本体2から突設された片持ち梁状の柔構造のビーム7aを支持鉄骨1に設けられた爪部7bにて挟み込むような構造となっている。
さらに、支持鉄骨1とボイラ本体2との間には、油圧ダンバ等の振動減衰装置8が複数個介装され、地震発生時に同減衰装置8により支持鉄骨1とボイラ本体2との変位の差(相対変位)を利用して振動エネルギを吸収するようになっている。
一方、コールバンカー3、脱硝装置4、エアヒータ5等の附帯機器は支持鉄骨1の梁1b上に載置されボルトにて固定されている。
上記のように構成された支持鉄骨1を含むボイラ支持構造における装置の総重量に対する重量割合は、概ねボイラ本体2=20%、コイルバンカー3=20%、脱硝装置4=6%、エアヒータ5=4%、支持鉄骨1その他の付属物=50%程度である。
以上のように構成されたボイラの支持構造において、地震発生時には、振れ止め機構7により支持鉄骨1に支持されたボイラ本体2は、支持鉄骨1に対して大きく変位して両者間に大きな相対変位を生じ、この相対変位による振動エネルギを支持鉄骨1とボイラ本体2との間に介装した振動減衰装置8により吸収する。これにより、装置全体の減衰能が向上し、地震応当性が低減される。」(段落【0002】乃至【0011】)

ウ.「上記のような従来のボイラの支持構造にあっては、地震発生時において、上記のように、装置全体重量の約20%の重量を有するボイラ本体2を振れ止め機構7により水平支持することによりボイラ本体2を積極的に変位(振動)させ、同振れ止め機構7と併設された振動減衰装置8にて振動エネルギを吸収し、地震応答を低減せしめている。
この地震応答の低減効果は、変位させる(振動させる)重量物の重量が重くなる程向上する。しかるに、上記従来のボイラ支持構造にあっては、上記の通り、装置全体の20%程度であるボイラ本体2の質量のみを使用していることから、地震応答低減効果を向上せしめるには質量面から限界があった。
本発明の目的は、振動減衰装置に加わる振動質量を増加せしめることにより、地震応答の低減効果を増大せしめるとともに、これに伴い支持鉄骨の軽量化が実現されたボイラの制振支持構造を提供することである。」(段落【0012】乃至【0014】)

エ.【図4】には、振動減衰装置8が所定の取付範囲に亘って各高さ位置に介装されたこと、ボイラ本体の吊り下げ位置から所定の取付範囲に亘って複数個介装された振動減衰装置8の内の最下段の振動減衰装置8よりも下層においては、振動減衰装置8が何も設けられていないことが示されている。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されている。

「柱1a、梁1b、垂直ブレース1c、水平ブレース1dを有する支持鉄構1と、支持鉄構1に吊下されることにより支持されたボイラ本体2と、支持鉄構1とボイラ本体2との間にボイラ本体の吊り下げ位置から所定の取付範囲に亘って複数個介装された振動減衰装置8と、を備えたボイラ本体2の制振支持構造であって、
振動減衰装置8は、振動エネルギを吸収するものであって、
所定の取付範囲に亘って介装された振動減衰装置8の内の最下段の振動減衰装置8よりも下層においては、振動減衰装置8が何も設けられていない
ボイラ本体2の制振支持構造。」

(2-2)同じく特開平11-13304号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

オ.「構造物の低層部分に設けた耐震要素と上層部分とを制震装置で連結し、前記制震装置をロックさせた状態について耐震設計した構造物架構に対し、地震や風等の外乱による構造物の応答に応じて前記制震装置による連結状態を制御するための制御手段を設けてあることを特徴とする能動制御型制震構造物。
前記制震装置には、制震装置が正常に作動しないときまたは断電状態において、前記耐震要素と上層部分間を固定するロック機構を設けてある請求項1記載の能動制御型制震構造物。
前記低層部分の柱梁架構の水平剛性を上層部分の柱梁架構の水平剛性より小さく設定し、前記制震装置をロックさせた状態の低層部分の水平剛性を主として前記耐震要素の水平剛性によって与えている請求項1または2記載の能動制御型制震構造物。」(段落【請求項1】乃至【請求項3】)

カ.「本願発明は、従来技術における上述のような問題点の解決を図ったものであり、低層階に設置した制震装置により効率的な制震を可能とするとともに、万が一の場合にもフェールセーフ機構により構造物の安全性を維持することのできる能動制御型制震構造物を提供することを目的としている。」(段落【0004】)

キ.「請求項3は、低層部分(通常、建物の1階部分)の柱梁架構の水平剛性を上層部分(通常、2階部分以上)の柱梁架構の水平剛性より小さく設定し、制震装置をロックさせた状態の低層部分の水平剛性を主としてブレース等の耐震要素の水平剛性によって与える場合を限定したものである。
低層部分の水平剛性をどの程度小さく設定するかについては、構造物の形態(規模、形状、その他)や耐震要素の剛性、設計における地震動、風等の振動外力他、種々の要因があるが、具体的には安全設計が可能な範囲で、例えば1/5、1/4、1/3、1/2といった設定を行う。
制震効果のみを考えた場合には、1階部分の水平剛性をできるだけ小さく設定することが望ましい。」(段落【0015】乃至【0017】)

ク.「図1は本願発明に係る制震構造物の一実施形態を原理的に示したものであり、図1(a) に示すように、建物の1階(1層)部分の柱梁架構31a内に耐震要素としての逆V字形のブレース35を設け、その上部を制震装置1を介して2階床部分と接続している。
1階の柱梁架構31aの水平剛性は、上層すなわち2階部分より上の柱梁架構31の水平剛性の値に対して、例えば1/4程度というように小さい値に設定して設計を行う。」(段落【0018】、【0019】)

ケ.「図2は、本願発明の効果を確認するためのモデル建物の解析結果を示したものである。
建物規模、構造としては、地上5階建、基準階床面積300m^(2) 、鉄骨造、1階の柱梁架構のみの水平剛性を上階の1/4とし、制震装置を1階の各方向2構面に配置した場合について解析を行った。入力地震波としては、エルセントロ25kineを用いた。
図2(a) は各階(縦軸は床位置)における応答最大せん断力(tf)、図2(b)は各層の応答最大層間変位(cm)を示したもので、実線Aが本願発明に対応する応答値、破線Bがフェールセーフ機能が働いたロック時の応答値、点線Cが制震装置のない通常の構造物の場合の応答値を示している。
図から明らかなように、通常の構造物に対し、応答値を1/3?1/4程度に低減することができる。また、ロックによるフェールセーフ状態でも通常構造物に比べ低い応答値を示している。」(段落【0024】乃至【0027】)

コ.「制震装置をロックさせた状態について耐震設計されているため、制震装置を作動させなくても通常の耐震設計された構造物と同様の安全性が確保されており、その上で制震装置が正常に機能することで構造物の応答を低減することができる。
制震装置の設置層を1階部分等の低層部分に限定できるため、どのような建物にも設置しやすく、基準階に影響を与えない。
制震装置は通常ロック状態となっており、ブレース等の耐震要素を構造体として算入し、構造物の架構と合わせた状態で、通常の静的な荷重による耐震設計法に準拠した設計ができる。
ブレース等の耐震要素からの付加応力を直接基礎部(または地下部)で受けることができるため、地上構造には制震装置設置に伴う力を考慮した特別な設計を行わなくて済む。
低層部分の柱梁架構の水平剛性を上層部分の柱梁架構の水平剛性より小さく設定することで、制震装置による制震効果を増大させることができ、特に制震装置設置層より上層での加速度の低減効果が顕著に現れる。なお、上記の理由から低層部分の低剛性化が図りやすい。」(段落【0048】乃至【0052】)

サ.【図2】(b)には、応答最大層間変位について、本願の制震装置を備えたものが、制震装置を備えない通常の構造物の場合に比して、上層の応答最大層間変位が小さいことが示されている。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。

「構造物の1階に設けた耐震要素と2階部分とを連結した制震装置により1階部分の水平剛性を小さく設定し、制震装置による制震効果を増大させ、上層での応答最大層間変位を小さくした制震構造物。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「柱1a」は、本件補正発明の「柱」に相当し、同様に、
「梁1b」は「梁」に、
「垂直ブレース1c、水平ブレース1d」は「ブレース」に、
「支持鉄構1」は「ボイラ支持鉄構」に、
「ボイラ本体2」は「ボイラ本体」に、
「振動減衰装置8」は「第1の制振装置」に、
「介装」は「取り付け」に、
「ボイラ本体2の制振支持構造」は「振れ止め装置であるボイラ本体の制振構造体」に、
「最下段の振動減衰装置8」は「最下段の制振装置」に、それぞれ相当する。

そして、刊行物1に記載された発明の「振動エネルギを吸収する」は、本件補正発明の「エネルギー吸収機能を持たせた」と同義である。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「柱、梁、ブレースを有するボイラ支持鉄構と、ボイラ支持鉄構に吊り下げ支持されたボイラ本体と、ボイラ本体とボイラ支持鉄構間で前記ボイラ本体の吊り下げ位置から所定の取付範囲に亘って各高さ位置に取り付けられた第1の制振装置と、を備えたボイラ本体の制振構造体であって、
所定の取付範囲に亘って取り付けられた第1の制震装置の内の最下段の制振装置よりも下層のみに(第1の制振装置を設けずに)、
第1の制振装置は、エネルギー吸収機能を持たせた振れ止め装置であるボイラ本体の制振構造体。」

[相違点1]
振れ止め装置である第1の制振装置について、
本件補正発明では、その一端がボイラ本体の周りを囲んで補強するためのバックステーに取り付けられているのに対して、
刊行物1に記載された発明では、ボイラ本体とボイラ支持鉄構間に取り付けられている点。

[相違点2]
第2の制振装置について、
本件補正発明では、所定の取付範囲に亘って取り付けられた第1の制振装置の内の最下段の制振装置よりも下層のみにおいて、ボイラ支持鉄構同士の間に取り付けられ、地震の揺れを吸収し、ボイラ本体への地震応答量を低減し、地震の揺れ吸収によって、所定の取付範囲における支持鉄構とボイラ本体との相対変位を小さくし、小さくした相対変位を第1の制振装置でさらに吸収するのに対して、
刊行物1に記載された発明では、この発明特定事項を備えていない点。

(4)当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
まず、上記相違点1について検討する。
ボイラの技術分野において、制振構造として、その一端をボイラ本体の周りを囲んで補強するためのバックステーに取り付け、他端をボイラ支持鉄構に取り付けた振れ止め装置を採用することは、本願出願前周知の技術事項である(例えば、特開平6-2805号公報の段落【0002】乃至【0004】、特開平5-157206号公報の段落【0004】参照。)。
そして、刊行物1に記載された発明においても、第1の制震装置は、ボイラ本体とボイラ支持鉄構との間のいずれかの箇所に取り付けられるものであることから、刊行物1に記載された発明に上記周知の技術事項を適用して、第1の制震装置の取り付け位置を特定することは、当業者が容易になし得たものである。

次に、上記相違点2について検討する。
本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「構造物」は、本件補正発明の「構造体」に相当し、同様に、
「1階」は「下層」に、
「連結」は「取り付け」に
「制震装置」は「第2の制振装置」に、
「制震構造物」は「制振構造体」に、
それぞれ、相当する。
そして、刊行物2に記載された発明の「制震効果を増大させ」は、本件補正発明の「地震の揺れを吸収し」と同義である。

したがって、刊行物2に記載された発明は
「構造体の下層に設けた耐震要素と2階部分との間に取り付けた第2の制振装置で連絡することにより、1階部分の水平剛性を小さく設定し、第2の制振装置による地震の揺れを吸収し、上層での応答最大層間変位を小さくした制振構造体。」
と言い換えることができる。
即ち、刊行物2に記載された発明は、第2の制振装置を下層のみに取り付けることにより地震の揺れを吸収するものである。

そして、刊行物1及び刊行物2に記載された発明は、いずれも建造物の制振構造という共通の技術分野に属する発明であるから、刊行物1に記載された制振支持構造における地震の吸収効果をより高めるために、刊行物2に記載された第2の制振装置を下層にのみに追加して取り付けるようにすることは当業者が容易になし得たものである。
また、刊行物1に記載された発明の制振構造体の最下段の振動減衰装置8よりも下層に、刊行物2に記載された発明の下層部分の水平剛性を小さく設定する第2の制振装置を適用したものは、下層よりも上層の所定の取付範囲に亘って支持鉄構の応答最大層間変位が小さくなることから、ボイラ本体への応答量を低減させ支持鉄構とボイラ本体との相対変位が小さくなり、その小さくなった相対変位を第1の制振装置でさらに吸収するという効果を奏するものである。

よって、本件補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成21年1月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年10月16日付けで手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「柱、梁、ブレースを有するボイラ支持鉄構と、前記ボイラ支持鉄構に吊り下げ支持されたボイラ本体と、前記ボイラ本体と前記ボイラ支持鉄構間で前記ボイラ本体の吊り下げ位置から所定の取付範囲に亘って各高さ位置に取り付けられた第1の制振装置と、を備えたボイラ本体の制振構造体であって、
前記第1の制振装置は、エネルギー吸収機能を持たせた制振型振れ止め装置であり、
前記所定の取付範囲に亘って取り付けられた前記第1の制振装置の内の最下段の制振装置よりも下層のみにおいて、前記ボイラ支持鉄構同士の間に取り付けられた第2の制振装置を設け、
前記第2の制振装置によって地震の揺れを吸収し、前記ボイラ本体への地震応答量を低減し、
前記第2の制振装置による地震の揺れ吸収によって、前記所定の取付範囲における支持鉄構とボイラ本体との相対変位を小さくし、前記小さくした相対変位を前記第1の制振装置でさらに吸収する
ことを特徴とするボイラ本体の制振構造体。」

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、刊行物の記載事項、及び、刊行物に記載された発明は、前記「2.[理由](2)刊行物」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。

本願発明は、前記「2.[理由]」で検討した本件補正発明において、第1の制振装置について、「その一端を前記ボイラ本体の周りを囲んで補強するためのバックステーに取り付けられ、エネルギー吸収機能を持たせたリンク式振れ止め装置であり」とあったところ、「エネルギー吸収機能を持たせた振れ止め装置であり」と、その限定を省くものである。

そうすると、本願発明の構成要件の全てを含み、更に他の要件を付加したものに相当する本件補正発明が前記「2.[理由](4)当審の判断」に示したとおり、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-10 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-04 
出願番号 特願平11-108312
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F22B)
P 1 8・ 575- WZ (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男杉山 豊博  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 長崎 洋一
佐野 遵
発明の名称 ボイラ本体の制振構造体  
代理人 武 顕次郎  

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