• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1195839
審判番号 不服2006-18902  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-29 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2002-256726「チオエステル化合物の加水分解反応方法とチオアセタール化反応方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月25日出願公開、特開2004-91417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・補正の適否・本願発明
1 手続の経緯
本願は、平成14年9月2日の出願であって、平成17年2月10日付けの拒絶理由通知に対して同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成18年7月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月29日に拒絶査定に対する審判請求がされた後に同年9月28日に手続補正書が提出され、その後、平成20年5月21日付けで審尋がされ、これに対して、同年7月22日に回答書が提出されたものである。

2 補正の適否
平成18年9月28日付け手続補正は、補正前の請求項9における「請求項1ないし8」との記載を、補正により「請求項4ないし8」とするもので、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また誤記の訂正を目的とするものであるから、平成18年9月28日付け手続補正は適法になされたものである。

3 本願発明
平成18年9月28日付け手続補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年9月28日付け手続補正書の請求項1に記載された以下のとおりのものである。「-CO-S-で表わされる部分構造を有するチオエステル化合物を、水中で有機ポリマーに支持した酸触媒の存在下に、カルボン酸化合物とチオール化合物とに加水分解することを特徴とするチオエステル化合物の加水分解反応方法。」

第2 拒絶の理由
原審における拒絶の理由は、「この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献2及び3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第3 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物には、次の事項が記載されている。
1 刊行物1(特開平1-226866号公報)に記載された事項
特開平1-226866号公報(原審の拒絶理由における引用文献2。以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
(1-a) 「(1) 芳香族性を有する化合物に酸触媒の存在下、一般式[I]
(一般式[I]は省略)
(式中、R^(1)はアミノ基のメタ位又はパラ位のハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又は水素原子を表わし、R^(2)はアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表わす。)
で示される置換又は無置換-N,N-ビス(アシルチオ)メチルアニリン、又は一般式[II]
(一般式[II]は省略)
(式中、R^(3)はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、モノ置換アミノ基又はジ置換アミノ基を表わし、R^(2)は前記と同じ。)
で示される置換-N-(アシルチオ)メチルアニリンを作用させて該化合物をアシルチオメチル化体とした後、これを還元解裂させるか、酸性下加水分解することを特徴とする、芳香族性を有する化合物のメルカプトメチル化方法。
(2) 芳香族性を有する化合物が、アニリン類、フェノール類、ハロベンゼン類、ナフチルアミン類、ナフトール類、ハロナフタレン類、インドール類、ピリダジン類、ピリミジン類、ピラジン類又はピラゾール類である請求項1に記載のメルカプトメチル化方法。」(特許請求の範囲、請求項1及び2)
(1-b) 「一般式[I]又は[II]で示される本発明のアシルチオメチル体を用いた本発明のアシルチオメチル化方法は通常下記の如くして実施される。
即ち、先ず、メルカプトメチル化しようとする前記芳香族性を有する化合物を適当な反応溶媒中、酸触媒の存在下、一般式[I]又は[II]で示される本発明のアシルチオメチル体と数時間乃至数十時間加熱(要すれば還流下)反応させて該化合物をアシルチオメチル化体とし、ついて該アシルチオメチル化体をエーテル性溶媒中適当な還元剤で還元するか、又は酸性下加水分解すれば相当する芳香族性を有する化合物のメルカプトメチル化体が容易に得られる。該反応経路を式示すれは以下の如くなる。・・・

(式中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は前記と同じ。また、Arはアニリン類、フェノール類、ハロベンゼン類、ナフチルアミン類、ナフトール類、ハロナフタレン類、インドール類、ピリダジン類、ピリミジン類、ピラジン類、ピラゾール類等の比較的電子密度の高い、芳香族性を有する化合物を表わす。)」(5頁左上欄下から2行?左下欄下から10行)
(1-c) 「芳香族性を有する化合物と一般式[I]又は[II]で示される本発明のアシルチオメチル体との反応により得られる、芳香族性を有する化合物のアシルチオメチル化体は、還元解裂させるか又は酸性下加水分解することにより極めて容易に且つ殆ど定量的にメルカプトメチル化体に変換し得る。・・・
また、酸性下の加水分解反応に用いられる酸としては、プロトン性の酸であれば何れにても良いが、通常は硫酸、塩酸等の鉱酸類が実用的であり、好ましく用いられる。加水分解時の溶媒としては、通常水性アルコール(メチルアルコール又はエチルアルコール)或は水性アセトン等が好ましく用いられ、通常40?50℃若しくは溶媒還流下、数時間の反応で目的とするメルカプトメチル化体がほぼ定量的に得られる。還元反応によるか、加水分解反応によるかは任意であり、他の置換基の性質等を考慮して適宜選択すればよい。」(5頁右下欄5行?6頁左上欄8行)
(1-d) 「実施例28
p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオベンゾエート1.357g(5ミリモル)を5%塩酸を含む50%水性エチルアルコール20mlに溶解し、75?80℃で4時間加熱撹拌した。反応液を室温に冷却後塩酸を飽和重曹水で中和し、溶媒を減圧下に留去した。
無機塩を含む残部を5mlのエチルエーテルで4回抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシュームで乾燥後、エーテルを減圧下に留去した。油状の残部をガラスチューブオーブンで真空蒸留するとp-N,N-ジメチルアミノ-α-トルエンチオールが0.701g(収率83.9%)得られた。
尚、p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオベンゾエートの代りに、p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオアセテートを用いた場合にも同様の結果が得られた。」(12頁右下欄下から4行?13頁左上欄12行)

2 刊行物2(特開昭60-97929号公報)に記載された事項
特開昭60-97929号公報(原審の拒絶理由における引用文献3。以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
(2-a) 「ビフエニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル(但し、アルキル基は炭素数1?3のアルキル基であり且つ同一のアルキル基を意味する)を加水分解してビフエニルテトラカルボン酸を製造する方法において、触媒として、強酸性陽イオン交換樹脂を用い、水溶媒中で不均一系で加水分解反応を行なうことを特徴とするビフエニルテトラカルボン酸の製法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(2-b) 「本発明はビフエニルテトラカルボン酸(以下、BPTCと言う)の製法に関するものである。
ポリイミド樹脂の原料となるビフエニルテトラカルボン酸ジ無水物は通常、オルソ-フタル酸ジメチルを二量化して得たビフエニルテトラカルボン酸テトラメチル(以下、BPTMと言う)を加水分解してBPTCとし、次いで、これを脱水することにより製造される。この方法において、BPTMの加水分解反応は通常、硫酸などの酸触媒を用いて実施されるが、この方法では原料のBPTMが溶媒中に溶解して反応系が均一系にならないと反応が良好に進行しない傾向がある。ところが、BPTMは常圧下の反応温度では、水に対して実質的に溶解しないため、水単独溶媒では反応系が均一系にならず、BPTMの加水分解は実質的に行なわれない。そこで、従来、BPTMを溶解させる方法として、例えば、溶媒として酢酸-水混合物を用いる方法、又は、反応を加圧下で150?500℃の高温で実施する方法が採用されていた。
しかしながら、溶媒として酢酸-水混合物を用いた場合には、加水分解反応で副生するメタノールが酢酸と反応して酢酸メチルが生成するため、反応量に相当する酢酸が損失となるばかりか、反応後の溶媒からの酢酸の回収操作などが面倒である。」(1頁右下欄3行?2頁左上欄8行)
(2-c) 「本発明者等は上記実情に鑑み、常圧下、水単独溶媒においても、良好にビフエニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル(但し、アルキル基は炭素数1?3のアルキル基であり且つ同一のアルキル基を意味する)(以下、BPTEと言う)の加水分解反応を進行させることのできる方法につき種々検討した結果、ある特定の触媒を用いることにより、水単独溶媒中で、原料BPTEが溶媒に実質的に溶解しない場合でも、BPTEの加水分解反応が良好に行なわれることを見い出し本発明を完成した。」(2頁左上欄13行?右上欄3行)
(2-d) 「本発明ではまた、触媒として強酸性陽イオン交換樹脂を用いることを必須の要件とする。この陽イオン交換樹脂は通常、市販のスルホン酸型のものが用いられ、ゲル型又はポーラス型のいずれのものでもよく、また、架橋度は通常、1?50%、好ましくは2?10%のものが使用される。」(2頁左下欄11?17行)
(2-e) 「従つて、本発明では溶媒として、反応成分である水のみを用いればよく、従来法のように、酢酸などのBPTEを溶解させるための有機溶媒を併用する必要はない。」(2頁右下欄7?10行)
(2-f) 「本発明によれば陽イオン交換樹脂を触媒として用いることにより、水溶媒中で、原料BPTEが実質的に溶解していない状態でも、BPTEの加水分解反応を行なうことができる。そのため、従来法のように、BPTEを溶解させるために水と酢酸との混合溶媒を用いる必要もないので、工業的に極めて好ましい方法である。・・・いずれにしても原料BPTEが水溶媒に殆ど溶解していないにも拘らず、良好な加水分解が行なわれることは驚くべきことである。」(3頁右上欄2?15行)
(2-g) 「反応原料としてS-BPTEとα-BPTEとの混合物を用いた場合に得られる反応終了後の反応混合物中には、触媒として用いた陽イオン交換樹脂と共に、S-異性体の加水分解物である3,4,3’,4’-BPTCの実質的全部が微細な結晶として析出しているが、α-異性体の加水分解物である2,3,3’,4’-BPTCは溶解している。従つて、通常、これらの混合物を先ず、陽イオン交換樹脂だけが濾別されるフイルターにより濾過し、」(3頁左上欄6?15行)
(2-h) 「反応後の混合物をまず80メツシユの金網で濾過し、陽イオン交換樹脂を分離した。」(3頁左下欄10?11行)

第4 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
刊行物1には、「「(1) 芳香族性を有する化合物に酸触媒の存在下、一般式[I]
(一般式[I]は省略)
(式中、R^(1)はアミノ基のメタ位又はパラ位のハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基又は水素原子を表わし、R^(2)はアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表わす。)
で示される置換又は無置換-N,N-ビス(アシルチオ)メチルアニリン、又は一般式[II]
(一般式[II]は省略)
(式中、R^(3)はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、モノ置換アミノ基又はジ置換アミノ基を表わし、R^(2)は前記と同じ。)
で示される置換-N-(アシルチオ)メチルアニリンを作用させて該化合物をアシルチオメチル化体とした後、これを還元解裂させるか、酸性下加水分解することを特徴とする、芳香族性を有する化合物のメルカプトメチル化方法。
(2) 芳香族性を有する化合物が、アニリン類、フェノール類、ハロベンゼン類、ナフチルアミン類、ナフトール類、ハロナフタレン類、インドール類、ピリダジン類、ピリミジン類、ピラジン類又はピラゾール類である請求項1に記載のメルカプトメチル化方法。」(摘示(1-a))に関する発明が記載されており、また、
「アシルチオメチル化体を・・・酸性下加水分解すれば相当する芳香族性を有する化合物のメルカプトメチル化体が容易に得られる。該反応経路を式示すれば以下の如くなる。・・・

(式中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は前記と同じ。また、Arはアニリン類、フェノール類、ハロベンゼン類、ナフチルアミン類、ナフトール類、ハロナフタレン類、インドール類、ピリダジン類、ピリミジン類、ピラジン類、ピラゾール類等の比較的電子密度の高い、芳香族性を有する化合物を表わす。)」(摘示(1-b))
と記載されている。
(注.ここで、チオエステルを加水分解すればカルボン酸及びチオールが生成するから、上記の「R^(2)CH_(2)OH」は「R^(2)COOH」の誤記であることは明らかである。)
刊行物1には、また、「酸性下の加水分解反応に用いられる酸としては、プロトン性の酸であれば何れにても良いが、通常は硫酸、塩酸等の鉱酸類が実用的であり、好ましく用いられる。加水分解時の溶媒としては、通常水性アルコール(メチルアルコール又はエチルアルコール)或は水性アセトン等が好ましく用いられ、通常40?50℃若しくは溶媒還流下、数時間の反応で目的とするメルカプトメチル化体がほぼ定量的に得られる。」(摘示(1-c))と記載されており、そして、実施例28には、
「p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオベンゾエート1.357g(5ミリモル)を5%塩酸を含む50%水性エチルアルコール20mlに溶解し、75?80℃で4時間加熱撹拌した。反応液を室温に冷却後塩酸を飽和重曹水で中和し、溶媒を減圧下に留去した。無機塩を含む残部を5mlのエチルエーテルで4回抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシュームで乾燥後、エーテルを減圧下に留去した。油状の残部をガラスチューブオーブンで真空蒸留するとp-N,N-ジメチルアミノ-α-トルエンチオールが0.701g(収率83.9%)得られた。
尚、p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオベンゾエートの代りに、p-N,N-ジメチルアミノベンジルチオアセテートを用いた場合にも同様の結果が得られた。」(摘示(1-d))と記載されている。
以上によれば、本願発明の記載ぶりに合わせると、刊行物1には、
「ArCH_(2)SCOR^(2)で表わされる構造を有する化合物を、水性アルコール又は水性アセトン等の溶媒中でプロトン性の酸の存在下に、R^(2)COOHとArCH_(2)SHとに加水分解する加水分解反応方法。(式中、R^(2)はアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表わし、Arはアニリン類、フェノール類、ハロベンゼン類、ナフチルアミン類、ナフトール類、ハロナフタレン類、インドール類、ピリダジン類、ピリミジン類、ピラジン類又はピラゾール類である化合物を表わす。)」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比
引用発明における「ArCH_(2)SCOR^(2)で表わされる構造を有する化合物」、「R^(2)COOH」及び「ArCH_(2)SH」は、それぞれ本願発明の「-CO-S-で表わされる部分構造を有するチオエステル化合物」、「カルボン酸化合物」及び「チオール化合物」に対応する。
また、引用発明における「加水分解反応方法」は、ArCH_(2)SCOR^(2)というチオエステル化合物の加水分解反応方法であるから、本願発明の「チオエステル化合物の加水分解反応方法」に対応する。
以上の点を考慮して、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明は、本願発明における
「-CO-S-で表わされる部分構造を有するチオエステル化合物を、カルボン酸化合物とチオール化合物とに加水分解することを特徴とするチオエステル化合物の加水分解反応方法。」
に対応するので、この点で本願発明と引用発明とは一致するが、両者は以下の点において一応相違すると認められる。
・本願発明が「水中で有機ポリマーに支持した酸触媒の存在下に」加水分解するのに対し、引用発明は「水性アルコール又は水性アセトン等の溶媒中でプロトン性の酸の存在下に」加水分解する点
(以下、この相違点を、「本件相違点」という。)

3 本件相違点についての判断
(1) 刊行物1においては「酸性下の加水分解反応に用いられる酸としては、プロトン性の酸であれば何れにても良い」(摘示(1-c))とされている。
(なお、強酸性陽イオン交換樹脂は、スルホン酸官能基を有するから、プロトン性の酸に当たることが明らかである。そして、強酸性陽イオン交換樹脂は、本願発明における「有機ポリマーに支持した酸触媒」に対応することは周知である(必要なら、例えば、原審の拒絶査定において引用された特開平9-216842号公報の段落【0033】、及び特開昭60-169437号公報2頁左下欄15行?右下欄1行参照。)。)
しかも、次項の(2)で述べるように、「チオエステル化合物の加水分解反応方法」と「エステル化合物の加水分解反応方法」とは類似の化学反応であって技術的に関連性が高いところ、刊行物1においては、加水分解反応に用いられる酸触媒として、具体的に硫酸、塩酸等の鉱酸類を挙げている(摘示(1-c))が、「エステル化合物の加水分解反応方法」における加水分解反応で用いられる酸触媒として、硫酸、塩酸等の鉱酸類とともに、強酸性陽イオン交換樹脂は周知である(必要なら、例えば、特開昭60-169437号公報2頁右上欄3?14行及び特開平6-49020号公報【0027】?【0028】参照。)。
そして、刊行物2には「ビフエニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル(但し、アルキル基は炭素数1?3のアルキル基であり且つ同一のアルキル基を意味する)を加水分解してビフエニルテトラカルボン酸を製造する方法において、触媒として、強酸性陽イオン交換樹脂を用い、水溶媒中で不均一系で加水分解反応を行なうことを特徴とするビフエニルテトラカルボン酸の製法。」の発明(摘示(2-a))という「エステル化合物の加水分解反応方法」の発明が記載されているところ、刊行物2の記載によれば、以下の事実が認められる。
ア ビフエニルテトラカルボン酸テトラメチル(以下、「BPTM」という。)の加水分解反応は通常、硫酸などの酸触媒を用いて実施されるが、この方法では原料のBPTMが溶媒中に溶解して反応系が均一系にならないと反応が良好に進行しない傾向があるところ、BPTMは常圧下の反応温度では、水に対して実質的に溶解しないため、水単独溶媒では反応系が均一系にならず、BPTMの加水分解は実質的に行なわれないので、従来、BPTMを溶解させる方法として、例えば、溶媒として酢酸-水混合物を用いる方法が採用されていた。しかしながら、溶媒として酢酸-水混合物を用いる場合には、反応後の溶媒からの酢酸の回収操作などが面倒である等の課題に当業者は直面していた(摘示(2-b))。
イ これに対し、刊行物2の発明者等は上記実情に鑑み、常圧下、水単独溶媒においても、良好にビフエニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル(以下、「BPTE」という。なお、BPTMはBPTEの一種(下位概念)である。)の加水分解反応を進行させることのできる方法につき種々検討した結果、ある特定の触媒を用いることにより、水単独溶媒中で、原料BPTEが溶媒に実質的に溶解しない場合でも、BPTEの加水分解反応が良好に行なわれることを見い出し刊行物2の発明を完成した。(摘示(2-c))
ウ 刊行物2の発明によれば、強酸性陽イオン交換樹を触媒として用いることにより、水溶媒中で、原料BPTEが実質的に溶解していない状態でも、BPTEの加水分解反応を行うことができる。そのため、従来法のように、BPTEを溶解させるために水と酢酸の混合溶媒を用いる必要もないので、工業的に極めて好ましい方法である。(摘示(2-d)?摘示(2-f))
してみると、刊行物1には水性アルコール又は水性アセトン等の溶媒中で加水分解反応を行う例、すなわちアルコールやアセトン等の有機溶媒を水と併用して加水分解反応を行う例が示されているところ、かかる加水分解反応におけるアルコールやアセトン等の有機溶媒回収操作などの面倒を避け、水単独溶媒中で、原料が実質的に溶解していない状態でも加水分解反応を行うようにするため、引用発明における「水性アルコール又は水性アセトン等の溶媒中でプロトン性の酸の存在下に」加水分解する方法に替えて、水単独溶媒中で、加水分解触媒として周知の強酸性陽イオン交換樹脂を用いる刊行物2に記載された加水分解方法を用いること、すなわち「水中で有機ポリマーに支持した酸触媒の存在下に」加水分解すること、は当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 続いて、以下、「チオエステル化合物の加水分解反応方法」と「エステル化合物の加水分解反応方法」とは、類似の化学反応であって技術的に関連性が高いことについて述べておくことにする。
本願発明において「-CO-S-で表わされる部分構造を有するチオエステル化合物」と規定されていることから明らかように、チオエステル化合物とは「-CO-S-で表わされる部分構造を有する化合物」のことである。これに対し、エステル化合物とは、「-CO-O-で表わされる部分構造を有する化合物」のことである。
そして、エステル化合物とチオエステル化合物とは、その部分構造から明らかなように、化合物の部分構造を構成する元素の一つが酸素原子(O)であるか、硫黄原子(S)であるかの点だけで相違している。
しかしながら、化学常識として、一般に、(酸素原子と硫黄原子というような)同じ族の元素は化学的性質が類似していることは周知である(必要なら、例えば、「化学大辞典5 縮刷版」(1989年8月15日 縮刷版第32刷発行),発行所 共立出版株式会社,509頁左欄の「ぞく 族」の項、参照。)から、エステル化合物とチオエステル化合物は化学的性質が類似しているので、「チオエステル化合物の加水分解反応方法」と「エステル化合物の加水分解反応方法」とは、類似の化学反応であって技術的に関連性が高いことは明らかである。
さらに、具体例に基づいて、以上述べた事実を確認しておくことにする。
本願明細書の段落【0002】にも記載されていることであるが、塩酸や硫酸といった酸触媒を用いて、チオエステル化合物を加水分解することは周知である(例えば、Synthesis (1999), (2), 270-274頁、特に273頁右欄の「2-Thioadipic Acid」の項;Journal of Medicinal Chemistry (1999), 42(1), 95-108頁、特に106頁左欄の「5-Mercapto -4(S)-aminopentanoic Acid(30).」の項;Chemische Berichte (1989), 122(3), 553-559頁、特に557頁右欄の「Hydrolytische Spaltung von (2S,2'R)-7b und (2S,2'R)-7'a zu (R)-3-Mercapto-2-methylpropansaure[(R)-8]」の項、参照。)
同様に、塩酸や硫酸といった酸触媒を用いて、エステル化合物を加水分解することも周知である(例えば、特開昭60-169437号公報2頁右上欄3?14行及び特開平6-49020号公報【0027】?【0028】参照。)。
しかも、上述のSynthesis (1999), (2), 270-274頁、特に273頁右欄の「2-Thioadipic Acid」の項に示されるように、化合物中にエステル基とチオエステル基とを共にもつ化合物を加水分解することにより、エステル基とチオエステル基とは同様に加水分解され、化合物中に水酸基(-OH基)とチオール基(-SH基)をもつ化合物が得られるのである。
以上述べたように、「チオエステル化合物の加水分解反応方法」と「エステル化合物の加水分解反応方法」とは、類似の化学反応であって技術的に関連性が高いことは明らかである。

4 効果について
しかも、本願発明が本件相違点により格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
すなわち、本願発明の効果は、
(1) 有機溶媒の共存なしでもチオエステル化合物の酸触媒加水分解反応を実現できること(例えば、本願明細書の段落【0047】)
(2) 触媒としての回収、再利用をも容易に可能とすることのできること(同【0047】)
(3) 高い収率で、各種チオエステルに対応するチオールまたはカルボン酸を与えること(同【0034】)
である。
そこで、これらの効果について検討すると、上記(1)の効果については、刊行物2に、加水分解触媒として強酸性陽イオン交換樹脂を用いることにより、水単独溶媒中で、加水分解反応が良好に行なわれることが記載されている(摘示(2-c)、摘示(2-e)及び摘示(2-f))から、上記(1)の効果は当業者が予想し得ることである。
次に、上記(2)の効果については、刊行物2には、「反応終了後の反応混合物中には、触媒として用いた陽イオン交換樹脂と共に、S-異性体の加水分解物である3,4,3’,4’-BPTCの実質的全部が微細な結晶として析出している」こと及び「通常、これらの混合物を先ず、陽イオン交換樹脂だけが濾別されるフイルターにより濾過」すること(以上、摘示(2-g))、並びに「反応後の混合物をまず80メツシユの金網で濾過し、陽イオン交換樹脂を分離した。」(摘示(2-h))ことが記載されている。
また、先に周知例として示した特開昭60-169437号公報には、「本発明方法において、反応生成物から触媒と反応媒体の簡単な機械的分離が可能になり、その結果として反応目的物である桂皮酸類の迅速な回収、触媒除去工程の省略および操作の容易性を促進させるためには、不溶性粒状酸性触媒を使用することが好ましい。」(2頁右上欄15?20行)とした上で、「具体的な触媒形態としては、酸性陽イオン交換樹脂、あるいは無機固体酸を挙げることができる。」(2頁左下欄13?14行)と記載されている。
したがって、加水分解触媒として強酸性陽イオン交換樹脂を用いれば、反応後に酸性触媒として用いた樹脂を回収できることは刊行物2に記載され、しかも周知であるし、また、経済性の観点から、回収した樹脂を必要性や状況に応じて再利用することは当業者が当然に考慮することであるから、上記(2)の効果は当業者が予想し得ることである。
次に、上記(3)の効果については、刊行物1には、加水分解により目的物が殆ど定量的に得られることが記載されている(摘示(1-c))ので、上記(3)の効果は当業者が予想し得ることである。

5 小括
以上のとおり、本件相違点は当業者が容易に想到し得るものであり、また本件相違点により本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 結語
したがって、本願は、その余の点について判断するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-16 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-03 
出願番号 特願2002-256726(P2002-256726)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 穴吹 智子木村 敏康  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 鈴木 紀子
坂崎 恵美子
発明の名称 チオエステル化合物の加水分解反応方法とチオアセタール化反応方法  
代理人 西澤 利夫  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ