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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1195842
審判番号 不服2006-20418  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-14 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2002- 74991「光記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月26日出願公開、特開2003-272227〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下「本願」という。)は、平成14年3月18日に出願されたものであって、原審において、平成18年5月15日付けで、請求項1?5,8の各項に係る各発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けられない旨、及び、請求項1?8の各項に係る各発明は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けられない旨の拒絶理由通知がされ、平成18年8月7日付けで、拒絶すべきものである旨の査定がされ、これに対して、平成18年9月14日付けで、拒絶査定不服審判が請求され、平成18年10月13日付けで、手続補正がされた。
その後、平成20年7月25日付けで前置報告書を利用した審尋をしたところ、回答がなかったものである。


II.平成18年10月13日付け手続補正について
平成18年10月13日付け手続補正についての却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成18年10月13日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.平成18年10月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正のうち特許請求の範囲についてするものは、
(1)本件補正前
「【請求項1】 透明基板上に相変化材料を主成分とする少なくとも1層の記録層と金属または合金よりなる少なくとも1層の反射層を有し、光照射により記録層に結晶層と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体において、該光記録媒体(該記録層)の結晶化状態における反射率の変動を初期反射率と安定反射率で規格化した値
【数1】
(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R_(0)は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R_(1)は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるようにしたことを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】 透明基板上に相変化材料を主成分とする少なくとも1層の記録層と金属または合金よりなる少なくとも1層の反射層を有し、光照射により記録層に結晶層と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体であって、該光記録媒体(該記録層)の結晶化状態における反射率の変動を初期反射率と安定反射率で規格化した値
【数2】
(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R_(0)は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R_(1)は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるように、前記相変化材料の下記元素組成式【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はAg、Ge、Sn、MnおよびSeよりなる群から選ば
れた少なくとも1種の元素であり、M_(2)はIn、GaおよびDyより
なる群から選ばれた元素である)
におけるα、β、γを設定したものであることを特徴とする光記録媒体。
【請求項3】 該記録層の結晶化温度Tcが
【数3】
150℃≦Tc≦200℃
である請求項1または2記載の光記録媒体。
【請求項4】 該記録層の膜厚が10?30nmである請求項1?3いずれか記載の光記録媒体。
【請求項5】 該反射層の膜厚が50?300nmである請求項1?4いずれか記載の光記録媒体。
【請求項6】 該記録層の膜厚をw1、該反射層の膜厚をw2とするとき、
【数4】
10nm≦w_(1)≦20nm
120nm≦w_(2)≦180nm
の関係を満足するものである請求項1?3いずれか記載の光記録媒体。
【請求項7】 該反射層がAgまたはAgを90原子%以上含有する合金である請求項1?6いずれか記載の光記録媒体。
【請求項8】 該記録時の走査線速度が12m/s以上であることを特徴とする請求項1?7いずれか記載の光記録媒体への情報記録方法。」

とあったところ、

(2)本件補正後
「【請求項1】 透明基板上に相変化材料を主成分とする少なくとも1層の記録層とAgまたはAgを90原子%以上含有する合金よりなる少なくとも1層の反射層を有し、光照射により記録層に結晶層と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体であって、該光記録媒体(該記録層)の結晶化状態における反射率の変動を初期反射率と安定反射率で規格化した値
【数1】
(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R_(0)は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R_(1)は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるように、前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はGe、M_(2)はInである)
におけるα、β、γを設定したものであることを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】
0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、0.78≦γ≦0.82である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】 該記録層の結晶化温度Tcが
【数2】
150℃≦Tc≦200℃
である請求項1又は2記載の光記録媒体。
【請求項4】 該記録層の膜厚が10?30nmである請求項1?3いずれか記載の光記録媒体。
【請求項5】 該反射層の膜厚が50?300nmである請求項1?4いずれか記載の光記録媒体。
【請求項6】 該記録層の膜厚をw1、該反射層の膜厚をw2とするとき、
【数3】
10nm≦w_(1)≦20nm
120nm≦w_(2)≦180nm
の関係を満足するものである請求項1?3いずれか記載の光記録媒体。
【請求項7】 該記録時の走査線速度が12m/s以上であることを特徴とする請求
項1?6いずれか記載の光記録媒体への情報記録方法。」
と、(注:下線は補正箇所を明示するために当審での付与。)するものである。

2.本件補正の目的
本件補正のうち上記特許請求の範囲についてするものは、
請求項1に係る発明に対しては、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、
反射層を構成する「金属または合金」を、
「AgまたはAgを90原子%以上含有する合金よりなる」と、

記録層の相変化材料について、
「前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はGe、M_(2)はInである)
におけるα、β、γを設定したものである」と、
発明特定事項について限定を付加するものである。

また、請求項2に係る発明に対しては、請求項1の引用形式で記載して、本件補正前の請求項2と比較して、本件補正前の請求項2における発明特定事項である元素組成式【化1】について、M_(1)をGe、M_(2)をInと限定すると共に、相変化材料の元素組成式のα、β、γについて、「0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、0.78≦γ≦0.82である」と数値範囲を特定したものである。

上記、請求項1,2に係る発明の補正は、いずれも、請求項に係る各発明に対して、その発明特定事項を限定するものである。また、本件補正前の請求項7については削除して、削除にともない特許請求の範囲の項番を整理するものである。

したがって、上記の特許請求の範囲についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除と同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

3.補正の適否
そこで、本件補正後の請求項1?7に係る発明のうち、上記請求項2に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正後の請求項2に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、上記1.(2)の【請求項2】に係る発明に記載されたとおりのものであって、本件補正後の請求項1の記載事項を含めて示すと次のとおりである。
即ち、
「透明基板上に相変化材料を主成分とする少なくとも1層の記録層とAgまたはAgを90原子%以上含有する合金よりなる少なくとも1層の反射層を有し、光照射により記録層に結晶層と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体であって、該光記録媒体(該記録層)の結晶化状態における反射率の変動を初期反射率と安定反射率で規格化した値
【数1】
(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R_(0)は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R_(1)は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるように、前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はGe、M_(2)はInである)
におけるα、β、γを
0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、0.78≦γ≦0.82に設定したことを特徴とする光記録媒体。」
というものである。

(2)刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-229537号公報(平成13年8月24日公開、以下「刊行物」という。)は、「書換え型光記録媒体及びその記載方法並びに光ディスク記録再生装置」について以下の記載がある。(なお、下線は、(ii)(iii)のタイトルを除いて当審での付与。)

(i)「【特許請求の範囲】
【請求項1】?【請求項6】・・・(省略)・・・。
【請求項7】 ウォブル溝が形成された基板と相変型記録層とを有してなり、該相変化記録層の結晶状態の部分を未記録・消去状態に対応させ、該相変化記録層の非晶質状態の部分を記録状態に対応させて、記録光を照射することにより該記録状態に対応する非晶質マークを形成させる書き換え型光記録媒体であって、線速1.2m/s?1.4m/sを基準速度(1倍速)V_(1)としたとき、基準速度の8?10倍速のいずれかの線速で記録される書き換え型光記録媒体において、
基板上に、下部保護層、相変化型記録層、上部保護層及び反射層を設けてなり、該相変化型記録層が、M_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)(ただし、0≦z≦0.1、0<y≦0.1、0.72≦x≦0.8であり、MはIn、Ga、Si、Sn、Pb、Pd、Pt、Zn、Au、Ag、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co、Bi、O、N、S及び希土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す)で表される組成から選択されたものであることを特徴とする書換え型光記録媒体。
【請求項8】?【請求項15】・・・(省略)・・・。
【請求項16】 反射層がAl合金又はAg合金から選択されたものである請求項1乃至15のいずれか1つに記載の書き換え型記録媒体。
【請求項17】?【請求項48】・・・(省略)・・・。」

(ii)「【0031】2.媒体の記録層について
本発明の書換え型光記録媒体においては、非晶質マークの高速結晶化による短時間の消去と、非晶質マークの経時安定性を両立させることが肝要である。なおかつ、再生専用CD-ROMドライブと再生互換をとるために、基準となる光学系において、高変調度を満足すると共に、反射率をその他のサーボ信号特性等を満足させるのが好ましい。高速結晶化と経時安定性には基板上に設けられる相変化型記録層の材料の選択が最も重要である。本発明では該記録層の結晶化速度を速めることが重要であり、これは記録層の組成を微妙に調整することにより達成される。記録層材料の組成としては特に、SbTe共晶組成よりも過剰のSbを含有する合金、より具体的にはSb_(70)Te_(30)共晶点組成を基本として過剰のSbを含むSb_(70)Te_(30)合金を母体としたものが好ましい。SbTe共晶組成に過剰のSbを存在させることによって高速での結晶化が可能となる。この中でも特に、さらにGeを含む、M_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)組成(ただし、0≦z≦0.1、0<y≦0.1、0.72≦x≦0.8であり、MはIn、Ga、Si、Sn、Pb、Pd、Pt、Zn、Au、Ag、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co、Bi、O、N、S及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも一種)なる組成から選択するのが好ましい。
【0032】上記好ましい組成は、SbTe共晶点組成より過剰のSbを含む2元合金に経時安定性及びジッタの改善のためにGeを添加した3元合金をベースとするものと考えることができる。この際、Geは過剰Sbによる高速結晶化機能を損ねることなく、非晶質マークの経時安定性を高める機能を有していると考えられる。また、結晶化温度を高めるとともに、結晶化の活性化エネルギーを高めるのに最も有効な元素であると考えられる。Ge量は上記式におけるyの値として0.03以上、特に、0.04以上であることが好ましい。一方Ge量が多すぎると、おそらくGeTeやGeSbTe系の金属間化合物が析出するために、光学定数の異なる結晶粒が混在し記録層のノイズが上昇しジッタが増加することがあり、また、あまりに多く添加してもそれ以上経時安定性は改善されないので、通常Ge量は上記式におけるyの値として0.1以下、好ましくは0.08以下である。
【0033】また、過剰Sbが少なすぎると、再結晶化速度が低すぎて8倍速以上といった高線速で良好なオーバーライトができない場合があるので、上記式におけるxは0.72以上、好ましくは0.73以上、さらに好ましくは0.74以上とする。一方、Sb量が過剰すぎると、再結晶化速度が速すぎ、4倍速においてはCD-RW規格のパルス分割方法では良好な非晶質マークの形成が困難となりジッタが非常に高くなってしまい、また、非晶質マークの経時安定性も悪化してしまう傾向にあるため、上記xは0.80以下、好ましくは0.79以下、さらに好ましくは0.78以下とする。最適な組成範囲は開口数NAによっても若干異なる。NAが大きく集束光ビームがより絞られている場合は、ビーム照射後の記録層冷却速度が若干高い傾向があるためである。従って、NA=0.5に対してはxは0.73?0.78の範囲が好適であり、NA=0.55に対してはxは0.75?0.80の範囲が好適である。この中間のNAに対しては、これらの中間の組成領域を用いることが好ましい。
【0034】前記組成式において、上記Mで示される一群の元素のうち少なくとも1種を添加することによりさらに特性が改善される。In、Ga、Si及びSnはさらなるジッタの低減に効果がある。N、O及びSは繰返しオーバーライトにおける偏析の防止や光学特性の微調整ができるという効果がある。Bi、Zn、Pd、Pt、Au、Ag及び希土類金属は成膜直後の非晶質膜の全面結晶化が容易になるという効果がある。Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co及びPbはさらなる経時安定性の改善に効果がある。ただし、元素Mの量が多すぎると特定の物質の経時的偏析や繰返しオーバーライトによる偏析が起こりやすくなるため、元素Mの添加量は上記式におけるzのx+y+zに対する量として0.1以下、特に0.09以下とするのが好ましい。偏析が生じると、記録層が初期に有する非晶質の安定性や再結晶化速度等が変化して当初のオーバーライト特性が得られなくなるので好ましくない。特に、O、S及びNはその合計量がこれらとSb、Te及びGeの合計量に対して5原子%以下であることがより好ましい。」

(iii)「【0052】3.媒体の層構成について
次に、本発明に用いられる媒体の層構成及び記録層以外の層について説明する。層構成及び記録層以外の層の組成は、記録層の高速結晶化及び経時安定性を両立させつつ、媒体の光学特性を特定範囲としCDとの再生互換性を保つために重要である。本発明の媒体の基板には、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの透明樹脂、あるいは透明ガラスを用いることができる。なかでもポリカーボネート樹脂はCDにおいて最も広く用いられている実績もあり安価でもあるので最も好ましい。基板の厚さは通常0.1?20mm、好ましくは0.3mm?15mmである。一般的には1.2mm程度とされる。記録層は、記録時の高温による変形を防止するためその上下を保護層で被覆されていることが望ましい(説明の便宜上、記録層に対して入射される光の側にある保護層を下部保護層、反対側にある保護層を上部保護層と称することがある。)。」

(iv)「【0063】なお、曲線cは、曲線bの媒体に、後述する好ましいパルス分割方法を併せ用いた場合に容易に達成できる。上記のような観点から、反射層の材料としては、熱伝導率が高く放熱効果が大きいAlあるいはAgを主成分とする合金を用いるのが好ましい。反射層の比熱はAlやAgを主成分とする合金では純Al及び純Agに準じており、微量元素添加や薄膜化でほとんど変化しないと考えられる。従って放熱効果は反射層の熱伝導率と厚みに依存する。」

(v)「【0067】反射層の材料としてはAl合金やAg合金を挙げることができる。本発明に適した反射層の材料をより具体的に述べると、AlにTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAl合金を挙げることができる。これらの合金は、耐ヒロック性が改善されることが知られているので、耐久性、体積抵抗率、成膜速度等考慮して用いることができる。上記元素の含有量は、通常0.1?2原子%、好ましくは0.2?1原子%である。Al合金に関しては、添加不純物量が少なすぎると、成膜条件にもよるが、耐ヒロック性は不十分であることが多い。また、多すぎると上記の低抵抗率が得られにくい。」

(vi)「【0069】また、反射層材料の他の好ましい例としては、AgにTi、V、Ta、Nb、W、Co、Cr、Si、Ge、Sn、Sc、Hf、Pd、Rh、Au、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAg合金を挙げることができる。経時安定性をより重視する場合には添加成分としてはTi、Mg又はPdが好ましい。上記元素の含有量は、通常0.2?5原子%である。本発明においては、このような高熱伝導率な反射層材料を用いることにより、300nm以下の比較的薄い反射層であって、面積抵抗率が0.2?0.6Ω/□と適切に小さい範囲の反射層とすることができる。Alへの不純物元素の添加、Agへの不純物元素の添加によってその添加濃度に比例して、体積抵抗率が増加するのが通常である。不純物の添加は一般的に結晶粒径を小さくし、粒界の電子散乱を増加させて熱伝導率を低下させると考えられる。従って、添加不純物量を調節することは、結晶粒径を大きくすることで材料本来の高熱伝導率を得るために重要である。」

(vii)「【0233】(実施例11)上記基本例において、下記のようにディスクを製造し、記録を行なった。同様の基板上に(ZnS)_(80)(SiO_(2))_(20)からなる下部保護層を97nm、In_(3)Ge_(5)Sb_(72)Te_(20)からなる記録層を15nm、(ZnS)_(80)(SiO_(2))_(20)からなる上部保護層を38nm、Al_(99.5)Ta_(0.5)からなる反射層を250nm、紫外線硬化樹脂層を約4μmとしてこの順に設け、書換え型コンパクトディスクを作製した。このAl_(99.5)Ta_(0.5)反射層の体積抵抗率ρvは100nΩ・m、面積抵抗率ρsは0.4Ω/□であった。長軸約100μm(半径方向)、短軸約1.3μm(円周方向)に集束した波長約830nmのレーザー光を記録層に照射し、初期結晶化を行った。該集束光ビームがディスクに対して2.5m/sで走査されるようディスクを回転させ、かつ、ディスク一回転につき約50μmを半径方向に移動させながら、700?900mWのパワーを連続的に照射した。同一個所に2回繰り返し照射したことになる。該初期結晶化操作により、未記録状態の反射率は、後述のオーバーライト記録時の消去状態の反射率とほとんど同じになった。本実施例の以下の評価は、NA=0.5の光学系を有するテスター2を用いて評価を行った。」

以上の摘示記載事項を記録層及び反射層の各組成について整理すると、

上記(i)【請求項7】の記載から、記録層について、
相変化型記録層が、M_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)(ただし、0≦z≦0.1、0<y≦0.1、0.72≦x≦0.8であり、MはIn、Ga、Si、Sn、Pb、Pd、Pt、Zn、Au、Ag、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co、Bi、O、N、S及び希土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す)で表される組成から選択されたものであること、

上記(i)【請求項7】の記載、【請求項16】の記載から、反射層について、
請求項1乃至15のいずれか1つ(請求項7が含まれることは自明である)に記載の書き換え型記録媒体に対して、Al合金又はAg合金から選択されたものであること、

上記(ii)【0031】の2.媒体の記録層についての記載においても、
記録層が、M_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)(ただし、0≦z≦0.1、0<y≦0.1、0.72≦x≦0.8であり、MはIn、Ga、Si、Sn、Pb、Pd、Pt、Zn、Au、Ag、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Co、Bi、O、N、S及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも一種)なる組成から選択するのが好ましいこと、

上記(iii)【0052】?(vi)【0069】までの3.媒体の層構成についての記載から、
反射層の材料としては、熱伝導率が高く放熱効果が大きいAlあるいは/やAgを主成分とする合金を用いるのが好ましいこと、特に、(v)【0069】で、Agについては、添加成分としての元素の含有量が、通常0.2?5原子%であること、

等の記載がされている。

上記(vii)【0233】の(実施例11)に記載の記録層の組成を請求項7の表記方法にすると、
In_(0.03)Ge_(0.05)(Sb_(0.783)Te_(0.217))_(0.92 )となり、0≦z=0.03≦0.1、0<y=0.05≦0.1、0.72≦x=0.783≦0.8で、請求項7に記載された組成範囲を満たすものである。また、この実施例では、
記録層 In_(3)Ge_(5)Sb_(72)Te_(20) に対して、
反射層 Al_(99.5)Ta_(0.5) を用いている。

結局、刊行物には、特に、【0233】の(実施例11)に基づき整理すると、以下のとおりの発明が記載されていると認める。

「ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの透明樹脂、あるいは透明ガラスを用いる基板上に、上下を保護層で被覆されている相変型記録層と、Al合金からなる反射層とを有し、
相変化型記録層は、
In_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)
(ただし、z=0.03、y=0.05、x=0.783)であり、
反射層は、Al合金からなり
Al合金からなる反射層は、
AlにTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAl合金であって、他の元素の含有量は、通常0.1?2原子%である
光記録媒体。」

(3)対比・判断
〔対比〕
補正後発明と刊行物記載の発明とを対比する。
a.両発明とも、光照射により記録層に結晶相と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体に関することで共通する。

b.刊行物記載の発明における「ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの透明樹脂、あるいは透明ガラスを用いる基板」は、補正後発明の「透明基板」に相当する。

c.記録層の相変化材料について、
補正後発明における相変化材料の元素組成式は、結局、
Ge_(α)In_(β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)であって、α、β、γは、それぞれ、0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、0.78≦γ≦0.82というものである。

一方、刊行物記載の発明における相変化材料の元素組成式は、
『In_(z)Ge_(y)(Sb_(x)Te_(1-x))_(1-y-z)(ただし、z=0.03、y=0.05、x=0.783)』というもので、上記元素組成式で、Geに対するy、Inに対するz、Sbに対するxが、それぞれ、補正後発明の元素組成式のα、β、γに相当することは明らかである。

刊行物記載の発明における相変化材料の元素組成式をα、β、γを用いて表現すると、
『Ge_(α)In_(β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-β-α)(ただし、α=0.05、β=0.03、γ=0.783)』
となり、刊行物記載の発明における相変化材料の元素式のα、β、γについての数値は、補正後発明の元素組成式の数値範囲を満たすものである。

結局、補正後発明と刊行物記載の発明との[一致点][一応の相違点]は、以下のとおりとなる。

[一致点]
「透明基板上に相変化材料を主成分とする少なくとも1層の記録層と反射層金属を90原子%以上含有する合金よりなる少なくとも1層の反射層を有し、光照射により記録層に結晶層と非晶質層との可逆的相変化を起こす光記録媒体であって、
前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はGe、M_(2)はInである)
におけるα、β、γを
α=0.05、β=0.03、γ=0.78
に設定した光記録媒体。」

[一応の相違点]
A.補正後発明のものが、「前記相変化材料の下記元素組成式」とする元素式のα、β、γを設定するのに、
「該光記録媒体(該記録層)の結晶化状態における反射率の変動を初期反射率と安定反射率で規格化した値
【数1】
(R_(0)-R_(1))/R_(0)(式中、R_(0)は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R_(1)は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるように」
と規格化して、所定の数値範囲に入るようにしているのに対し、刊行物記載の発明は「(R_(0)-R_(1))/R_(0)」なる式の設定、及び、式より導かれる値が「0.08?0.12の間になるように」とする数値範囲の記載がない点。

B.補正後発明のものが、反射層について、「AgまたはAgを90原子%以上含有する合金」としているのに対して、刊行物記載の発明の反射層金属は具体的には「Al合金」である点。

で、一応の相違が認められる。

〔判断〕
上記『一応の相違点』について検討する。
-A.について-
本願明細書及び図面の記載で、記録層の結晶化直後の初期反射率と結晶状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率との関係について、補正後発明における数値範囲を、如何に実現するのか、又、元素組成式のα、β、γの数値範囲についての記載を検討すると、
イ.【0030】に、「前記α、β、γのうち(R_(0)-R_(1))/R_(0)に多大な影響を及ぼすのはγである。γが高い、すなわちSb含有量が多いほど結晶化エネルギーが低くなる傾向になる。すなわち高い走査速度での結晶化が可能となる。また、γが高いほど、記録層の緩和現象が発生しやすくなる。緩和現象のパラメータである(R_(0)-R_(1))/R_(0)が、請求項1に記載の範囲を満たすには、0.78?0.82の範囲にあることが好ましい。」としており、元素組成式で、少なくとも、γが、0.78?0.82にあれば、(R_(0)-R_(1))/R_(0)が、請求項1に記載の範囲を満たしていることは明らかである。

ロ.【0031】で、「さらに、元素M2(即ち、In)は記録層元素の結晶化温度を上昇させる効果があり、結晶中に形成されるアモルファス状態の安定度を上げる効果がある。その組成比βが高いほど結晶化温度が上がりアモルファスマークは安定化するため、結晶化が困難になり、均一な結晶が形成されにくくなる。その結果100nm程度の微小な分域構造を形成するため、再生光を走査したときに反射率の微小なノイズとして観察される。これは、記録後の再生振動にノイズが載ることに相当し、アモルファスマークおよびマーク間の時間的なばらつきであるジッタを上昇させることになる。また、βが低い場合はアモルファスマークの安定性が低下し、多数回の再生(同一個所を多数回走査すること)を行うと、マーク内に結晶核が発生するため、再生信頼性が劣化する傾向にある。そのためβの適切な範囲としては0.02?0.05が好ましい。この範囲であればジッタ(結晶化温度による影響)と再生安定性を最適化できる。」と記載している。

ハ.【0032】で、「M_(1)(審決注:即ち、Ge)の原子を添加することで保存信頼性を向上することができる。これは、アモルファスマークの界面の易動度をさげることが可能となり、マークを安定させることができる。その結果として保存寿命を向上することができる。しかし、αが高すぎるとマーク界面に結晶粒が発生する傾向にあり、ジッタを悪化させる。αの適切な組成範囲としては0.02?0.10が好ましい。」との記載がある。

ニ.更に、【0041】以下の【実施例】の記載範囲で、【0050】に、「反射率の緩和量は記録層の主成分であるSbとTeによるところもあるが、第3成分の割合である前記γに大きく依存する。緩和量のγ依存性を図5に示す。反射率の緩和量が上記規定の範囲を達成するには少なくとも
【数10】0.780≦γ≦0.816
であることが必要である。」と記載している。

ホ.【0051】?【0052】に、「記録層の組成による結晶化状態の違いとして、反射率の微小変動がある。この現象は記録層の結晶の組織構造によることが大きい。
・・・(中略)・・・
結晶化温度が150℃?200℃の範囲にあることが好ましい。この結晶化温度はβによるところが大きく、βが高いほど結晶化温度が高くなり、結果としてノイズが大きくなり、記録媒体の再生特性を著しく悪化させることになる。これらのノイズはオーバーライト特性の関与しない。βは、初期化後1回目の記録でのジッタに大きく影響する。この初期記録後のジッタとβの関係を図6に示す。オレンジブックの要求であるジッタ35ns以下を満足するには、βは0.05以下、好ましくは0.04以下である。したがって好ましいβの範囲は
【数11】0.02≦β≦0.04
である。
さらに、これらのディスクについて、保存寿命試験を行った。前述のDOW1ジッタを測定したディスクのうち、組成2、組成3、組成10、組成11、組成15、組成16について、保存信頼性試験を行った。上記のディスクを80℃、85%RHの環境下で300時間放置後に室温に戻し、ジッタの測定を行った。
その結果、組成3を除く全ての組成でのジッタが大きく上昇し、規格35nsを超える結果となった。この組成依存を検討したところ、αに依存していることがわかる。αと保存試験後のジッタの関係を図7に示す。この結果から【数12】0.03≦α≦0.05となる。」なる記載がある。

反射率の変動を初期反射率で規格化した値、いいかえれば緩和現象値(【0009】)、緩和現象のパラメータである(R_(0)-R_(1))/R_(0)(【0030】)を満たすには、
上記イ.【0030】から、元素組成式で、γを0.78?0.82に、
上記ニ.【0050】から、0.780≦γ≦0.816とすることで、(R_(0)-R_(1))/R_(0)が、請求項1に記載の数値範囲を満たすことは明らかである。

本願明細書等には、他に、補正後発明のように、
「(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R0は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R1は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
が0.08?0.12の間になるように」
するための、更なる相変化材料の元素組成式、又、特別の記録膜形成方法、加工・製造方法等を示す記載はない。

結局、本願明細書等の記載からは、
Ge_(α)In_(β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
なる元素組成式におけるα、β、γのうち、少なくともγについて、0.78≦γ≦0.82であれば、
「(R_(0)-R_(1))/R_(0)
(式中、R0は記録層の結晶化直後の反射率すなわち初期反射率であり、
R1は記録層の結晶化状態が安定したときの反射率すなわち安定反射率
である)
なる関係が0.08?0.12の間になるように」
なっていることは明らかである。
要するに、補正後発明において、(R_(0)-R_(1))/R_(0)が所定の数値範囲にあるための条件は、α、β、γの値が補正後発明の範囲であればよいとするところ、刊行物記載の発明におけるz、y、xの数値は全て、補正後発明のα、β、γの条件を満たしている。そうすると、刊行物記載の発明も(R_(0)-R_(1))/R_(0)が0.08?0.12の間にあるといえるもので実質的に相違するものではない。

-B.について-
反射層としてのAg合金であるが、相変化型光記録媒体において、反射層としてAl合金、Ag合金の採用は周知である。そして、刊行物記載の発明の反射層としては実施形態でAl_(99.5)Ta_(0.5)を用いていることに加えて、「反射層の材料としては、熱伝導率が高く放熱効果が大きいAlあるいはAgを主成分とする合金を用いるのが好ましい」(上記(2)(iv))、「反射層材料の他の好ましい例としては、AgにTi、V、Ta、Nb、W、Co、Cr、Si、Ge、Sn、Sc、Hf、Pd、Rh、Au、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAg合金を挙げることができる。・・・。上記元素の含有量は、通常0.2?5原子%である。」(上記(2)(vi))、及び請求項16の記載においては、請求項7を引用し、反射層として、「Al合金又はAg合金から選択されたもの」としていることから、請求項7記載の記録層組成範囲を満たす記録層について、Ag合金が、反射層として対等に用いられるものであることは明らかである。
したがって、記録層が、In_(3 )Ge_(5 )Sb_(72)Te_(20)である場合においても、反射層金属としてAg合金、しかも、添加成分としての元素の含有量が、通常0.2?5原子%のものを用いることでの「Agを90原子%以上含有する合金」よりなる少なくとも1層の反射層とすることは単なる周知技術の変更ににすぎない。
また、反射層の合金であるが、本願発明の記載からみて反射層がAl合金かAg合金かによって、(R_(0)-R_(1))/R_(0)の値にどのような影響があるかについて本願明細書に記載されていない。【0033】には「反射層の材料としてはCu、Ag、Au、Al、Siを主成分とし、微量の添加物を加えても良く、添加物としてはTi、Cr、Si、C、Pd、Ta、Ag、Cu、Au、Alが例として挙げられ、熱伝導度と高い反射率をもつという点からAgまたはAgを主成分(とくに90原子%以上が好ましい)とする合金を用いることが好ましい。」と記載されているだけで、Ag⇔Alとした場合、(R_(0)-R_(1))/R_(0)について如何なる影響があるかは明らかでない。そうすると、上記周知技術に基づく反射層にAg合金を用いる構成が(R_(0)-R_(1))/R_(0)についての判断に実質的な相違点とはならない。

以上、『一応の相違点』とした補正後発明における初期反射率と安定反射率との関係及びその数値範囲は、請求項2記載の元素組成式で、α、β、γの少なくとも、γについて、0.78≦γ≦0.82の数値範囲内である相変化材料であり、αとβについても0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、の数値範囲に含まれるものであるから、このような数値範囲にある相変化材料を用いた光記録媒体が元々、本来的に有する反射特性を測定、検出し、規格化形式で表現したものということができ、この表現の有無で、補正後発明の記録層自体が異なるとは考えられない。また、(R_(0)-R_(1))/R_(0)を所定の範囲にするのは、ジッターを抑えるため、記録層の組成を特定の範囲としているものであったとしても、刊行物記載の発明の実施例の記録層の組成は、補正後発明で(R_(0)-R_(1))/R_(0)が所定の範囲である為の要件を満たしているものであるから同様の作用効果が得られるものである。
また、反射層としてのAg合金については、反射層としてAg合金の使用は周知であり、Ag合金を用いたところで(R_(0)-R_(1))/R_(0)に如何なる影響を与えるかについて明確な記載がなく把握できないことは上記したとおりである。

結局、補正後発明と刊行物記載の発明の光記録媒体自体に実質的な差異があるとは、認められない。

したがって、補正後発明と刊行物記載の発明とは同一であって、補正後発明は、特許法第29条第1項第3項に規定された発明に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願について
1.本願発明
平成18年10月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1乃至8に係る各発明は、出願当初の明細書及び図面からみて、その請求項1乃至8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項2に係る発明は、上記「II.〔理由〕1.(1)本件補正前」の【請求項2】に記載されたとおりのもの(以下「本願発明」という。)と認める。

2.刊行物及びその記載
上記「II.〔理由〕3.(2)刊行物及びその記載」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記II.で判断した補正後発明から、記録層の相変化材料については、
「前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1)はGe、M_(2)はInである)
におけるα、β、γを設定したものである」
なる構成要件は含み、及び、α、β、γについては、
「0.03≦α≦0.05、0.02≦β≦0.04、0.78≦γ≦0.82である」なる具体的数値範囲の要件を除いた、
「前記相変化材料の下記元素組成式
【化1】
M_(1α)M_(2β)(Sb_(γ)Te_(1-γ))_(1-α-β)
(式中、M_(1 )はAg、Ge、Sn、MnおよびSeよりなる群から選ば
れた少なくとも1種の元素であり、M_(2)はIn、GaおよびDyより
なる群から選ばれた元素である)
におけるα、β、γを設定したものである」
とするとともに、

同じく反射層については、
「AgまたはAgを90原子%以上含有する合金よりなる」
なる構成要件から金属名及び原子%表現の含有量の要件を除いた、
「金属または合金よりなる」
として、その記載形式を独立請求項形式としたものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する補正後発明が、上記「II.〔理由〕3.(3)対比・判断の〔判断〕」で示したとおり、刊行物記載の発明とは同一であるから、本願発明も同じ理由により、刊行物記載の発明と同一と認める。

-補足-
請求人は、却下された平成18年10月13日付け手続補正に基づくものではあるが、審判請求書の【請求理由】で、〔本願発明が特許されるべき理由〕を以下のように主張しているので付言する。
主張1:「本願発明は、・・・結晶化直後からの記録層を形成する材料の構造における緩和現象を結晶相の反射率の緩和により特定し、これに基づいて構成元素と原子組成を最適化すれば、高速記録に対応でき高い保存信頼性をもつ光記録媒体が得られることを見出したことにより完成されたものである。
具体的には、請求項1に記載したように、反射率に関する式(R_(0)-R_(1))/R_(0)の値が0.08?0.12の間になるように、相変化材料の組成を設定した点に特徴を有する。
これに対し、引用文献1には、・・・、本願発明の上記反射率に関する式、及びこのような式を導き出すのに示唆を与えるような記載は全く見当たらない。
従って、引用文献には本願発明の技術思想について全く開示されていないと見るべきである。」との点について、
『反射率に関する式(R_(0)-R_(1))/R_(0)の値が0.08?0.12の間になるように、相変化材料の組成を設定した点』については、上記「II.〔理由〕3.(3)〔判断〕」で記載したとおりであり、本願明細書等の記載からみて、『反射率に関する式(R_(0)-R_(1))/R_(0)の値が0.08?0.12の間になる』との反射特性が、相変化材料の組成を所定の数値範囲とした記録層が、元々、本来的に有する特性を表現したものということができ、その表現が、いかに独特のものとしても、この表現の有無で、記録層自体、ひいては、この記録層を用いた発明自体が異なるとはいえない。
又、記録層形成時の諸工程等に関して特別のものがみいだせない以上、記録層を構成する相変化材料の元素組成式が同じものであれば、同じ特性を有すると考えることは当然のことであり、相変化材料の組成の数値範囲が、同じものであることから、両発明に差異があるとはいえず、請求人の主張は採用できない。

主張2:「請求項1において、反射層材料をAgまたはAgを90原子%以上含有する合金に限定したことにより、本願発明は、反射層材料としてAl_(99.5)Ta_(0.5)を用いている実施例11と同一ではなくなる。なお、実施例11以外の他の実施例も全て反射層材料としてAlTa合金を用いており、Ag又はAg合金のみを用いた実施例は全く示されていない。」との点について、
刊行物記載の発明が、反射層材料として、Agを90原子%以上含有する合金を用いていることは単なる周知技術に基づく変更にすぎないことは、上記「II.〔理由〕3.(3)の〔判断〕-B.について-」したとおりであり、請求人の主張は採用できない。

なお、当審において、前置報告を利用した審尋を通知したところ、請求人から回答はなされなかったことは上記「I.手続の経緯」で記載したとおりであるが、因みに、前置報告の趣旨は、刊行物には反射層材料として、Agを90原子%以上含有するAg合金を用いる旨の記載があることを含めて指摘しているものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-13 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-05 
出願番号 特願2002-74991(P2002-74991)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 山田 洋一
横尾 俊一
発明の名称 光記録媒体  
代理人 友松 英爾  

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