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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1195867
審判番号 不服2006-24847  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-02 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 平成10年特許願第304935号「排熱回収システム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月12日出願公開、特開2000-130885号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成10年10月27日の特許出願であって、原審において平成18年1月26日付けで拒絶理由通知がなされ、平成18年3月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年9月29日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成18年10月3日)、平成18年11月2日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第162条による審査がなされ、平成19年1月5日付けで特許庁長官への報告がなされ、平成20年10月20日付けで審尋がなされ、平成20年12月19日付けで回答書が提出されたたものである。


2.平成18年11月2日付け手続補正の目的
上記平成18年11月2日付けの手続補正は、補正前の請求項1及び2を削除し、補正前の請求項3の内、請求項1を引用するものを独立形式に書き換えて補正後の請求項1とし、補正前の請求項4ないし7をそれぞれ2繰り上げて、補正後の請求項2ないし5とするものであって、この補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。



3.本件の請求項1に係る発明
したがって、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記平成18年11月2日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 温熱を蓄熱する蓄熱材を有する蓄熱槽と、
温熱を有する流体を貯留して利用する温熱利用槽と、
前記温熱利用槽の流体からの排熱を前記蓄熱槽の前記蓄熱材に伝える温熱輸送手段と、
前記蓄熱材に蓄熱した温熱で利用前の流体を加温する流体加温手段と、
前記温熱利用槽に前記加温した流体を導入する流体導入手段と、
前記温熱利用槽の流体を排出する流体排出手段と、
前記温熱利用槽の温度を検出する温熱利用槽温度検出手段と、
所定の基準温度を設定する基準温度設定手段と、
前記温熱利用槽温度検出手段で検出される温度が前記基準温度以上の時に、前記温熱利用槽で利用した流体からの排熱を前記温熱輸送手段によって前記蓄熱槽に蓄熱するよう制御するとともに、予め設定された時間帯に前記排熱回収運転を行うように制御する排熱回収運転制御手段と、備えることを特徴とする排熱回収システム。」



4.引用刊行物に記載された発明
《記載事項》
原査定の拒絶の理由で引用した特開平3-274329号公報(以下「引用刊行物」という)には次のa.?k.の記載がある。
a.「[産業上の利用分野]
本発明は、例えば一般住宅、店舗及び工場等から出る温排水、温排気のような排熱利用システム、夜間電力利用電気温水器の給水余熱システム、並びに太陽熱温水器及びヒートポンプと組み合わせる冷暖房システム等に利用可能な蓄熱熱交換器に関するものである。」(第1頁左下欄15行?右下欄1行)、(なお、下線は当審が付した。以下、同じ。)

b.「[従来の技術]
従来、排熱利用システムとしては、熱交換器を用いたり、蓄熱槽を用いたりする方式が採用されてきたが、前者は、蓄熱できないため排熱が出ている間しか利用できず、従って利用範囲が制限されるため、後者が望ましいとされている。
第7図は、温排水を蓄熱して利用する従来の典型的な家庭用排熱利用システムを示しており、図中、1、1’は風呂とか洗面所等のように温水を排出する設備、2、2’は感温式切替弁で、設備1、1’からの温水は所定温より高ければ蓄熱槽3に蓄えられる。設備1、1’からの温水を単に蓄える蓄熱槽3内には、給水源5及びボイラー6に連絡した伝熱管4が挿通されており、必要な時期に、ボイラー6の給水予熱として、或は図示しないヒートポンプの熱源として、取り出すことができる。
しかし、上述の方式では、十分な容量を得るには蓄熱槽3が大型化し、現実的ではないので、小型化のために、第8図に略示するように、融解潜熱を持った化学物質からなる蓄熱媒体を球殻内に密封内蔵した多数の蓄熱体8を収容したタンク7からなる蓄熱容器9を用意し、この蓄熱容器9を第9図に示すように接続して、蓄熱体8に蓄熱する方法が採用されている。
即ち、第9図(a)の蓄熱時には、三方切替弁2の熱源設備1、1’側ポート及び蓄熱容器9側ポートを開き、負荷12側ポートを閉じてポンプ11を運転し、熱源設備1、1’からの温水を1次系Aに循環させて、蓄熱容器9内の蓄熱体8に蓄熱し、第9図(b)に示す放熱時には、三方切替弁2の熱源設備1、1’側ポートを閉じ、蓄熱容器9側ポート及び負荷12側のポートを開き、ポンプ10を運転し、蓄熱体8に蓄熱された熱により加熱された温水を中間系Bに循環させ、熱交換器12において2次系Cの負荷に放熱するようになっている。」(第1頁右下欄2行?第2頁左上欄17行)

c.「[発明が解決しようとする課題]
蓄熱媒体として融解潜熱を持った化学物質からなる蓄熱体8を用いる第8図の蓄熱容器9を使用した場合には、蓄熱媒体として水を用いる第7図の蓄熱槽3と比較して、容積を約1/10に減少させることができるが、中間系B及び熱交換器12を設ける必要があるので、システム全体が依然として大掛かりとなってコストが上昇するだけでなく、蓄熱から放熱又はその逆に切り替える時には、1次系から中間系又はその逆への切り替えが必要であり、操作が面倒であった。
従って、本発明の目的は、蓄熱・放熱間の切り替えが不要で操作が簡易でありながら、構成がコンパクトな蓄熱熱交換器を提供することである。」(第2頁左上欄18行?右上欄11行)

d.「[実施例]
次に、本発明の好適な実施例について添付図面を参照して詳細に説明するが、図中、同一符号は同-又は対応部分を示すものとする。
第1図は、本発明による蓄熱熱交換器14の一実施例を排熱利用システムに設置して略図的に示すもので、図中、1、1’は風呂とか洗面所等のように温水を排出する熱源設備、2、2’は感温式三方切替弁で、設備1、1’からの温水は、その温度が所定温より高ければ、三方切替弁2、2’の蓄熱熱交換器14側ポートが開いて蓄熱熱交換器14に蓄えられ、所定温より低ければ、排水路13側のポートが開いて排水路13に排出される。
蓄熱熱交換器14は、本発明に従って特別に構成されたもので、後述するように蓄熱体を内蔵すると共に、熱源設備側に連通する1次系の1次流体通路と、排熱利用側に連通した2次系の2次流体通路とを有し、1次及び2次流体通路は、支持装置もしくは支持・仕切板により1次流体及び2次流体が混合しないように仕切られ、また、蓄熱体は、支持・仕切板により支持されている。同蓄熱熱交換器14において、熱源設備1、1’側の1次系の温水と、給水源5及びボイラー6に連絡した伝熱管4を有する2次系の給水との間で熱交換が行われるようになっている。」(第2頁左下欄19行?第3頁左上欄3行)

e.「次に、第2図?第6図を参照して、蓄熱熱交換器(以下、単に熱交換器という)14の構造の詳細について説明する。第2図は、熱交換器14の外周を覆う断熱材34(第3図参照)を取り除いて同熱交換器14の全体を示す斜視図で、熱交換器14は、上蓋22と、下蓋23と、中間枠24a、24b、24cとを有し、これ等が複数のボルト・ナット組立体37により相互に結合されて、後述する1次流体通路及び2次流体通路を画成するハウジング24を形成している。ハウジング24には、1次流体通路に対する熱源設備側(熱放出系)の温水の入出口となる入口ノズル26及び出口ノズル27と、2次流体通路に対する熱利用系の流体の入出口となる入口ノズル28及び出口ノズル29とが接続されている。
尚、第1図に示すように、熱放出系の入口ノズル26は、切替弁2、2’を有する管路2aに連通し、出口ノズル27は、排水路13に接続された管路13aに連通している。また、熱利用系の入口ノズル28は、給水源5に接続された管路5aに連通し、出口ノズル29は、ボイラー6に接続された管路6aに連通している。」(第3頁左上欄4行?右上欄4行)

f.「第3A図及び第3B図は、上述した熱交換器14の一例の詳細な断面構造を示すもので、ハウジング24を形成する上述の各部材22、24a、24b、24c及び23間には、アルミニウム、ステンレス鋼、銅等のような材料からなる薄板をプレス加工等により成型して製作することができる支持・仕切板もしくはパネル(仕切装置)21が挟持されている。実施例では、4枚の仕切板21によりハウジング24内の空間は5つのスペース32a?32c及び33a?33bに区画されている。スペース32a及び32bは、図示のように、上蓋22、中間枠24a及び24bに形成された流路30aを介して連通し、スペース32b及び32cは、中間枠24b、24c及び下蓋23に形成された流路30bを介して連通する。また、スペース33a及び33bは、中間枠24a、24b及び24cに形成された流路30cを介して連通する。
また、第3A図及び第3B図に示すように、熱放出系の入口ノズル26及び出口ノズル27は、それぞれスペース32a及び32cに連通しており、熱利用系の入口ノズル28及び出口ノズル29は、それぞれスペース33b及び33aに連通しているので、上述のスペース32a、流路30a、スペース32b、流路30b及びスペース32cは1次流体通路を構成し、スペース33a、流路30c及びスペース33bは2次流体通路を構成する。
このように各スペースを1次流体もしくは2次流体が流れるので、流体の漏洩を防ぐため、各仕切板21とハウジング24を構成する各部材との接触面にはガスケット25が略図的に示したように設けられると共に、流路30a、30b及び30cの各貫通部分にはパッキン31が略図的に示したように設けられている。」(第3頁右上欄5行?左下欄16行)

g.「次に、1次流体通路には、即ちスペース32a?32cには、第4図(a)及び(b)に最も良く示すように円筒状の蓄熱体20が仕切板21により支持され収納されている。蓄熱体20に蓄えられた熱は、仕切板21を介して2次流体に伝達されるので、仕切板21が上述の円筒状蓄熱体20と良好な熱伝達関係で接触するように、各仕切板21は、第6図(a)及び(b)に最も良く示すように蓄熱体20の上半部もしくは下半部の外形に実質的に一致する形状の凹部21aを有する。実施例では、2次流体通路のスペース33a、33bをそれぞれ画成する対の仕切板21のうち、上方のものはその凹部21aの凹面側が上を向き、下方のものはその凹部21aの凹面側が下を向くように配設されていて、第3A図に示した態様で蓄熱体20を好適に支持する。
また、1次流体及び2次流体が蓄熱体20と良好な熱伝達関係で1次流体通路及び2次流体通路を流れるように、前述のスペース32a?32c及び33a?33bには、スペース32aについて第5図(a)に平面図で代表的に示すように、各蓄熱体20の半球状端部に係合する硬質ゴムもしくはプラスチック製の整流ブロック35が千鳥状に配設されていて、該整流ブロック35とハウジング24を構成する上蓋22(第3A図参照)との協働作用により、流体の流れを矢印で示すようにジグザグ流とすることができる。」(第3頁左下欄17行?第4頁左上欄1行)

h.「蓄熱体20の詳細は第4図(a)及び(b)に示されている。蓄熱体20は、アルミニウム又はプラスチツクで円筒状もしくはカプセル状に形成された被覆体20aと、この被覆体20a内に封入された化学物質20bとからなる。被覆体20aには注入口20cが形成されていて、この注入口20cから化学物質20bを被覆体20a内に適宜の空間(化学物質20bの体積の変動を吸収する)20dが残るように注入した後、同注入口20cは閉止される。化学物質20bは、単位体積当たりの蓄熱容量を高めるため高い融解潜熱を持った材料からなり、蓄熱状態では液体、放熱状態では固体に変態する。このような化学物質20bとしては、水和塩、共融物、有機化合物等の主に食品添加物のような安全な物質に過冷却防止剤、相分離防止剤を混合した蓄熱媒体からなり、融解温度-21℃?+64℃のものが市販されており、これを使用することができる。また、蓄熱体20自体も、直径70mm程度の球状のシェルに前述のような蓄熱媒体を封入したものが商品名「ノジュール」として三菱商事株式会社から市販されており、これを使用してもよい。
実施例では、蓄熱体20は、2×2段、4列に配置されているが、所要容量に合わせ、2段の蓄熱体20、2枚の仕切板21及び2つの中間枠をモジュールとして積み重ね、簡単に2×n段、m列とすることができ、また、その外形は円筒状であるが、更に伝熱面積を増すため球状にしてもよい。蓄熱体を球状に形成した場合は、この形状に合わせて仕切板の形状を変更する必要がある。即ち、第6図(c)?(e)に示すように、球状蓄熱体(図示せず)を使用する場合には、仕切板(仕切装置)21’に半球状の凹部21’aを複数列形成すると共に、流体が各列の凹部21’aに収容された隣接する球状蓄熱体(図示せず)間を通ってバイパスしないように、隣接する各対の凹部21’aごとにそのほぼ中心から中心まで凹部21’aと同じ方向に延びるV字状断面の遮流部21’bが一体的に成型されている。尚、このような形状の場合は、鉄系では製作しにくいので、プラスチックの使用が好ましい。」(第4頁左上欄15行?左下欄13行)

i.「以上のように構成された本発明の蓄熱熱交換器14を第1図に示した排熱利用システムに設置して運転した場合、熱源設備1、1’から出た温水の温度が所定値以上なら、温水を熱交換器14の入口ノズル26に送るように切替弁2、2’が開き、温水は入口ノズル26からハウジング24内の1次流体通路、即ち、スペース32a、流路30a、スペース32b、流路30b及びスペース32cを経て出口ノズル27からハウジング24を去り、排水路13に放出される。そして、温水は、1次流体通路を通る間に多数の蓄熱体20と熱交換して、熱エネルギーは蓄熱体20に蓄えられる。
一方、このように蓄熱体20に蓄えられた熱エネルギーを熱利用系に取り出したい場合には、入口ノズル28から2次流体を供給すると、同2次流体は2次流体通路、即ちスペース33a、流路30c及びスペース33bを経て出口ノズル29からハウジング24を出る。この間に、2次流体は蓄熱体20と1次流体通路にある流体の熱を除熱して昇温し、このようにして排熱が利用される。」(第4頁左下欄14行?右下欄13行)

j.「[発明の効果]
本発明によれば、蓄熱熱交換器は、1次、2次流体通路が完全に仕切られているため、蓄熱・放熱の切り替え操作が不要であると共に、中間系を用いることなく、1次流体通路内に配設された蓄熱体から熱を取り出すことができ、また、その体積も従来のように水を貯留して蓄熱媒体として使用する蓄熱槽と比較して約1/5に減少させることができ、比較的小容量の排熱利用システムに特に有効である。しかも、1次、2次流体通路が完全に仕切られているため、石油又はガスボイラや、電気湯沸かし器の給水予熱に使用することもできる。」(第4頁右下欄20行?第5頁左上欄12行)

k.第1図には、蓄熱熱交換器14で昇温された2次流体が管路6a,ボイラー6及びその下流側の流路を介して風呂1に供給されることが図示されている。


《引用刊行物に記載された発明の認定》
したがって、上記記載事項a.?k.を総合すると、引用刊行物には、
「高い融解潜熱を持った蓄熱媒体からなり蓄熱状態で液体となる化学物質20bを有する蓄熱体20を内蔵する蓄熱熱交換器14と、
風呂1と、
風呂1からの温水を蓄熱熱交換器14の入口ノズル26に送り、この温水が蓄熱熱交換器14内の蓄熱体20と熱交換して熱エネルギーが蓄熱体20に蓄えられるように流路を切替る三方切替弁2及び管路2aと、
蓄熱体20に蓄えられた熱を、2次流体に伝達して昇温する仕切板21と、
風呂1に前記昇温された2次流体を供給する管路6a,ボイラー6及びその下流側の流路と、
風呂1からの温水を排出する排水路13とを備え、
風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ、三方切替弁2の蓄熱熱交換器14側ポートを開き、管路2aを経由して、風呂1からの温水を蓄熱熱交換器14に送り、蓄熱体20に蓄熱して排熱を利用する排熱利用システム。」
という発明が記載されている。




5.対比・判断
(1)対比
イ.用語の対応
本件発明と、引用刊行物に記載された発明とを対比する。
引用刊行物に記載された発明における「高い融解潜熱を持った蓄熱媒体からなり蓄熱状態で液体となる化学物質20b」は、その機能・構成からみて、本件発明における「温熱を蓄熱する蓄熱材」に相当し、以下同様に、
「蓄熱体20を内蔵する蓄熱熱交換器14」は「蓄熱槽」に、
「風呂1」は「温熱を有する流体を貯留して利用する温熱利用槽」に、
「温水」は「流体」に、
「熱エネルギー」は「排熱」に、
「風呂1からの温水を排出する排水路13」は「温熱利用槽の流体を排
出する流体排出手段」に、
「所定温」は「基準温度」に、
「排熱利用システム」は「排熱回収システム」に、
それぞれ相当する。
また、引用刊行物に記載された発明では三方切替弁2及び管路2aに関して「風呂1からの温水を蓄熱熱交換器14の入口ノズル26に送り、この温水が蓄熱熱交換器14内の蓄熱体20と熱交換して熱エネルギーが蓄熱体20に蓄えられるように流路を切替る三方切替弁2及び管路2a」を備える。このように三方切替弁2及び管路2aは、風呂1からの温水の熱エネルギーを蓄熱体20へ伝えるものであるから、引用刊行物に記載された発明の上記「三方切替弁2及び管路2a」は本件発明の「温熱利用槽の流体からの排熱を前記蓄熱槽の前記蓄熱材に伝える温熱輸送手段」に相当する。
引用刊行物に記載された発明の「2次流体」については、昇温された2次流体が、管路6a,ボイラー6及びその下流側の流路により風呂1に供給されるものであるから、本件発明の「利用前の流体」に相当し、同様に、
「仕切板21」は「蓄熱体20に蓄えられた熱を、2次流体に伝達して昇温する」ものであるから「蓄熱材に蓄熱した温熱で利用前の流体を加温する流体加温手段」に、
「風呂1に前記昇温された2次流体を供給する管路6a,ボイラー6及びその下流側の流路」は「温熱利用槽に前記加温した流体を導入する流体導入手段」に、それぞれ相当する。
さらに、引用刊行物に記載された発明の「風呂1からの温水の温度」と本件発明の「温熱利用槽温度検出手段で検出される温度」とは「温度」である点で共通すると言えるから、引用刊行物に記載された発明の「風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ、三方切替弁2の蓄熱熱交換器14側ポートを開き、管路2aを経由して、風呂1からの温水を蓄熱熱交換器14に送り、蓄熱体20に蓄熱して排熱を利用する」ことと、本件発明の「前記温熱利用槽温度検出手段で検出される温度が前記基準温度以上の時に、前記温熱利用槽で利用した流体からの排熱を前記温熱輸送手段によって前記蓄熱槽に蓄熱するよう制御する」こととは、
「温度が基準温度以上の時に、前記温熱利用槽で利用した流体からの排熱を前記温熱輸送手段によって前記蓄熱槽に蓄熱するよう制御する」点で共通している。

ロ.一致点
したがって、両発明は
「温熱を蓄熱する蓄熱材を有する蓄熱槽と、
温熱を有する流体を貯留して利用する温熱利用槽と、
前記温熱利用槽の流体からの排熱を前記蓄熱槽の前記蓄熱材に伝える温熱輸送手段と、
前記蓄熱材に蓄熱した温熱で利用前の流体を加温する流体加温手段と、
前記温熱利用槽に前記加温した流体を導入する流体導入手段と、
前記温熱利用槽の流体を排出する流体排出手段と、
を備え、
温度が基準温度以上の時に、前記温熱利用槽で利用した流体からの排熱を前記温熱輸送手段によって前記蓄熱槽に蓄熱するよう制御する排熱回収システム。」
で一致する。

ハ.相違点
そして、両発明は下記のA及びBの2点で相違する。
相違点A:本件発明では、制御をするための「排熱回収運転制御手段」を備え、この制御手段は「予め設定された時間帯に前記排熱回収運転を行うように制御する」ものでもあるが、引用刊行物に記載された発明では、風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ蓄熱体20に蓄熱して排熱を利用するものの、この制御をするための制御手段を備えるかは不明であり、また、予め設定された時間帯に排熱利用運転を行うように制御する手段を備えていない点。

相違点B:排熱を回収しようとする温熱利用槽の流体の温度に関して、本件発明では、「前記温熱利用槽の温度を検出する温熱利用槽温度検出手段と、所定の基準温度を設定する基準温度設定手段と、」を備えており、また「前記温熱利用槽温度検出手段で検出される温度」が基準温度以上の時に蓄熱槽に蓄熱するよう制御するが、引用刊行物に記載された発明では、風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ、蓄熱熱交換器14内の蓄熱体20に蓄熱するものの、「風呂1の温度を検出する手段」や「所定温を設定する手段」を備えておらず、また当然ながら、この「風呂1の温度を検出する手段」で検出される温度と、設定された所定温とを比較するものではない点。



(2)判断
(2)ー1 相違点Aについての検討
風呂の温水の排熱を蓄熱して利用する排熱利用システムにおいて、風呂の残り湯から排熱を深夜の時間帯に蓄熱槽へ蓄熱することは周知の技術である。
(周知文献が必要であれば、例えば、
特開昭60-117055号公報
(第2頁左下欄4?8行,同頁右下欄1?13行)
特開昭64-19250号公報
(第2頁右下欄16?19行,第3頁左下欄11?14行)
等を参照。)
そうすると、この技術を引用刊行物に記載された発明に組み合わせ、さらに、この周知の運転を実現するための制御手段を設けることは当業者であれば容易である。
また、引用刊行物に記載された発明では、風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ、蓄熱熱交換器14内の蓄熱体20に蓄熱しており、この制御を実現するための手段を設けるとともに、この制御手段と上記周知の運転を実現するための制御手段とを統合し1つの制御手段とすることも当業者であれば容易である。
したがって、引用刊行物に記載された発明及び周知の技術に基づいて、相違点Aにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。


(2)ー2 相違点Bについての検討
引用刊行物に記載された発明では、排熱を利用(回収)するために、風呂1からの温水の温度が所定温より高ければ、蓄熱熱交換器14内の蓄熱体20に蓄熱するものであるが、排熱が回収される温水は元々風呂1(温熱利用槽)に蓄えられていたものであり、排熱を温水から回収するにあたり、温水が元々あった場所である風呂1において温水の温度(温熱利用槽の流体の温度)を検知するようにし、そのために風呂1の温度(温熱利用槽の温度)を検知する手段を設け、この検知手段により検知された温度を所定温と比較し、所定温より高ければ、蓄熱熱交換器14(蓄熱槽)内の蓄熱体20に蓄熱することは、当業者にとって格別困難であったとは言えない。
また、上記のように所定温と比較するために、所定温を設定する手段(所定の基準温度を設定する基準温度設定手段)を設け、この手段により設定された所定温と比較することも当業者であれば容易である。
したがって、引用刊行物に記載された発明から、相違点Bにおける本件発明の特定事項に到達することは当業者であれば容易である。


(2)-3 本件発明の効果についての検討
本件発明の効果は、引用刊行物記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が予測できたものである。


(3)まとめ
このように、本件発明は、本願の出願前に国内において頒布された引用刊行物に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。



6.むすび
以上のように、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件の請求項2ないし5に記載された発明については検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、回答書において、審判請求人は補正案を提示し、請求項1に「使用者からの排熱回収運転開始操作を検出した場合に排熱回収運転動作を一定時間行う」旨を追加することを提案しているが、このような運転の制御は当業者が容易に想到できた範囲内の事項であり、補正の必要は認めない。
 
審理終結日 2009-02-16 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-03 
出願番号 特願平10-304935
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾清水 富夫  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 佐野 遵
会田 博行
発明の名称 排熱回収システム  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 高橋 省吾  
代理人 村上 加奈子  

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