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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1195878
審判番号 不服2007-4201  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-09 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2002-141143「静電荷像現像用トナーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-330224〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年5月16日に出願され、その特許請求の範囲に係る発明は、平成18年9月29日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。 (以下、「本願発明」という。)
「バインダー樹脂成分としての重合体一次粒子の水分散液を、少なくとも着色剤の存在下に、容器内で該重合体のガラス転移点より10℃高い温度未満の温度に加熱しつつ撹拌、混合して、重合体一次粒子を一次粒子凝集体となし、次いで、同一容器内で該重合体のガラス転移点より10℃高い温度以上の温度に加熱して一次粒子凝集体における一次粒子同士を融着させて静電荷像現像用トナーを製造するにおいて、前記容器をジャケット付き容器とすると共に、該ジャケット内に、減圧下で高圧水蒸気を供給して加熱することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな特開2000-347456号公報(原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献2」である。)及び、特開平10-282716号公報(同じく「引用文献3」である。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)

<引用文献2>
(2a) 「【請求項1】 ワックス微粒子の存在下に酸性極性基又は塩基性極性基を有するモノマーを含むモノマー混合物を添加してシード乳化重合を行う第1工程、得られた重合体分散液と少なくとも着色剤分散液とを混合し、更に重合体固形分100重量部に対して電解質を0.01?100重量部添加して混合分散液とする第2工程、該混合分散液の粒子を凝集させて凝集粒子とする第3工程を含むことを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造法。
【請求項2】 該第2工程において、電解質を添加した後の混合分散液の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】 該第2工程での混合を40℃未満で行い、該第3工程での凝集反応を40℃?(重合体のガラス転移温度(Tg)+20℃)の範囲内で行うことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造法。
【請求項4】 ワックスがトナー粒子の中にバインダー樹脂100重量部に対して1?40重量部含まれることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造法。
【請求項5】 電解質が一価、二価、又は三価の金属塩を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造法。
【請求項6】 凝集粒子の少なくとも一部が融着していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造法。」
(2b) 第3工程での反応温度に関して、
「【0026】反応温度は、通常樹脂のガラス転移点(Tgと略)に対して、通常、40℃以上(Tg+20℃)以下が好ましい。なお、ガラス転移点は示差走査熱量計(DSC)によって測定される。より好ましい温度範囲は、Tg?(Tg+10℃)にある。反応温度が(Tg+20℃)よりも高い場合には、所望の粒径に制御することが難しく、粗粉ができやすいという問題がある。反応は、所定の温度で少なくとも10分以上保持し、より好ましくは20分以上保持することにより所望の粒径のトナー粒子とする。所定の温度までは一定速度で昇温してもよいし、ステップワイズに昇温しても良い。更に、第3工程で得られたトナーサイズの凝集粒子の安定性を増すために(Tg+20℃)?(Tg+80℃)の範囲で凝集した粒子間の融着を起こす工程を加えても良い。通常はこの工程の間に粒子間の融着が更に進み、トナー粒子の形状も丸くすることができ、必要に応じて形状を制御できる。この工程の時間は通常1時間から24時間であり、好ましくは2時間から10時間である。」
(2c) シード乳化重合に関して
「【0032】参考例1
日本油脂製 ユニスターM-2222SL(エステルワックス)をドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)とノニルフェニルエーテル(NPE)の存在下に高圧剪断をかけて乳化し、エステルワックスのエマルジョン(ワックスエマルジョンAと呼ぶ)を得た。得られたエマルジョンの固形分濃度は33.5%であり、UPAで測定した平均粒径は399nmであった。
【0033】実施例1
<シード乳化重合>撹拌装置、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えたガラス製反応器に以下の量のワックスエマルジョンA、脱塩水を仕込み、窒素気流下で90℃に昇温した。
【0034】【表1】
ワックスエマルジョンA 63部
脱イオン水 350部
【0035】その後、下記のモノマー類、乳化剤水溶液、開始剤を添加し、6.5時間乳化重合を行った。
【0036】【表2】(モノマー類)
スチレン 64部
アクリル酸ブチル 36部
アクリル酸 3部
トリクロロブロモメタン 0.5部
(乳化剤水溶液)
DBS 0.27部
NPE 0.01部
脱イオン水 20部
(開始剤)
2%過酸化水素水溶液 37部
2%アスコルビン酸水溶液 37部
【0037】重合反応終了後冷却し、乳白色の重合体分散液を得た(以下、重合体分散液Aと略す)。得られた重合体分散液の重量平均分子量は71,000、UPAで測定した平均粒子径は252nm、Tgは45℃であった。得られたエマルジョンの断面をTEMで観察したところ、ワックスが樹脂で内包化されているのが観察された。」
(2d) トナーの調製に関して、
「【0038】【表3】
重合体分散液A 120部(固形分として)
荷電制御剤フェノールアミド化合物 0.65部(固形分として)
フタロシアニンブルー* 水分散液 6.7部(固形分として)
*EP-700BlueGA(大日精化製)
【0039】以上の混合物をディスパーザーで分散撹拌しながら20℃で塩化ナトリウム水溶液を添加した(固形分濃度として9部添加)。塩化ナトリウム水溶液添加後の混合分散液の平均粒径は、1.8μmであった。その後、更に撹拌しながら45℃に昇温して0.5時間保持し、更に会合粒子の結合強度を上げるため、pHを5以上に調整してから95℃に昇温し、5時間保持した。その後得られた会合粒子のスラリーを冷却し、桐山ロートで濾過、水洗し、凍結乾燥することによりトナー(トナーAと略)を得た。得られたトナーAのコールターカウンターによる体積平均粒径は9.0μmであった。また、体積粒径の5μm以下の割合は1.63%、25μm以上の割合は0.01%であり粒径分布は非常に良好であった。このようにして得られたトナーの定着性を評価したところ、方法1で125?190℃以上の間で定着し、方法2では122?190℃以上で定着した。」

上記の事項を総合すると、引用文献2には、下記の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用文献2に記載の発明」という。)

「バインダー樹脂成分としての重合体分散液を、少なくとも着色剤の存在下に、容器内で該重合体のガラス転移点(Tg)である45℃に加熱しつつ撹拌、混合して、重合体を凝集粒子となし、次いで、95℃に昇温することによって、会合粒子の結合強度を上げて、静電荷像現像用トナーとする、静電荷像現像用トナーの製造方法」


<引用文献3>
(3a) ジャケット付き反応容器について
「【請求項1】 重合性単量体及び着色剤を少なくとも含有する重合性単量体組成物を調製する混合工程、該重合性単量体組成物を高剪断力により、水系媒体中に分散させ、重合性単量体組成物の粒子を造粒する造粒工程及び該重合性単量体組成物の粒子中の重合性単量体を重合してトナー粒子を生成する重合工程を有するトナーの製造方法において、
該重合工程がジャケットを有する容器内で行われ、ジャケット内の真空度を調整しながら、ジャケット内に高圧蒸気を供給することにより、容器内の液温を、温度コントロールすることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項2】 該混合工程がジャケットを有する容器内で行われ、ジャケット内の真空度を調整しながら、ジャケット内に高圧蒸気を供給することにより、容器内の液温をコントロールすることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】 該造粒工程がジャケットを有する容器内で行われ、ジャケット内の真空度を調整しながら、ジャケット内に高圧蒸気を供給することにより、容器内の液温をコントロールすることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項4】 該重合性単量体組成物が、スチレン系単量体を含有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項5】 該重合性単量体組成物が、極性樹脂を含有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項6】 該重合性単量体組成物が、DSCで測定される吸熱極大ピークが40?90℃にある低軟化点物質を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】 該重合性単量体組成物が、重合開始剤を含有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項8】 該ジャケット内の真空度が、10?90kPaであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項9】 該ジャケット内の真空度が、10?80kPaであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項10】 該重合工程に用いられる容器の内壁が、グラスライニングされていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項11】 該トナー粒子が、コア/シェル構造を有していることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項12】 コア部の主たる成分が低軟化点物質であることを特徴とする請求項11に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項13】 該ジャケット内に供給される高圧蒸気が、飽和水蒸気であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項14】 該ジャケット内の水蒸気の温度が45?90℃であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項15】 該ジャケット内が、飽和水蒸気で満たされていることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項16】 該重合工程が、液温50?90℃で行われることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。」
(3b) 発明の目的について
「【0009】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、重合法による静電荷像現像用トナーの製造において、温度応答性に優れ、反応系を一定温度に保つのが容易である製造方法を提供することにある。」
(3c) 反応容器の熱源について
「【0017】温度応答性に優れた熱源としては、大気圧以上の高圧蒸気が一般的に使用されるが、高圧蒸気は100℃以上の飽和水蒸気であることが好ましく、容器内の溶液を昇温する場合、非常に短時間で効率よく行うことができる。しかし、懸濁重合トナーの製造工程では、先に述べたように、通常、50?90℃の温度で重合を行うため、内容物の温度とジャケットとの温度差が大きくなり、反応系を一定温度に制御する場合、振れ幅が大きくなる傾向があり、制御が困難である。ジャケット内に熱源を供給するが、ジャケット内が高圧蒸気で満たされる場合、ジャケット内は100℃を超えるので容器内壁面への反応物の付着が激しくなる問題点がある。
低温加熱の方法として温水加熱がよく用いられる。温水加熱の場合、一定温度に保つコントロール精度、容器内付着の問題はある程度解消される。しかし、温水加熱は、顕熱利用であるため、温水温度の降下が起こりやすく、加熱量が低下するため、昇温速度が遅くなり、生産性が低下するという問題がある。また温水は、温度をコントロールするのに多大なエネルギーが必要なため、トナーの製造に要するコストが高くなる。」
(3d) 上記の問題点に対する対策について
「【0018】これに対し、本発明のトナーの製造方法では、かかる問題を解消することができる。
【0019】本発明は、熱源として絶対圧力が大気圧より低い水蒸気を用いることにより達成される。飽和蒸気の場合は、絶対圧力が低い程、「潜熱量」が大きいという特徴があり、したがって、絶対圧力の低い水蒸気でジャケット内を満たすことは、エネルギーの有効利用になり、非常に効率が良い。また、熱源として原則的に水蒸気の状態変化に伴う「潜熱」のみを使用しており、温度降下もほとんど起こらず、熱効率が良い。さらには、水蒸気の温度を内容物の制御温度と近づけることにより、内容物の温度をより一定に保つことが可能になり、品質の安定性も増大する。使用するジャケット内の水蒸気の絶対圧力(すなわち真空度)は、10?90kPaに制御することが好ましく、10kPa?80kPaに制御することがより好ましい。
【0020】ジャケット内に供給される高圧蒸気は、飽和水蒸気であることが好ましく、またジャケット内の水蒸気も飽和水蒸気であることが好ましい。飽和水蒸気では、蒸気圧がわかれば水蒸気の温度がわかるため温度コントロールをする際には飽和水蒸気を用いることが好ましい。」

してみると、引用文献3には、下記の事項が記載されていると認められる。
「50?90℃程度の加熱を要する反応の遂行において(3a,3c)、反応容器ジャケットの加熱用熱源として一般的に使用される高圧水蒸気を使用する方式、並びに、温水を使用する方式の欠点を認識し(3c)、ジャケットに減圧下で高圧水蒸気を供給して加熱する方式を採用することで、熱効率が良く、温度コントロールが容易で、温度が安定して反応の進行が行われること」

3.対比
引用文献2に記載の発明における「重合体分散液」、「凝集粒子」は、それぞれ本願発明における「重合体一次粒子の水分散液」、「一次粒子凝集体」に相当する。
また、引用文献2に記載の発明における「ガラス転移温度(Tg)」は、本願発明における「ガラス転移点」と同義である。
さらに、引用文献2に記載の発明における「該重合体のガラス転移温度(Tg)である45℃に加熱」、「95℃に昇温」、「会合粒子の結合強度を上げて」は、それぞれ、本願発明における「該重合体のガラス転移点より10℃高い温度未満の温度に加熱」、「該重合体のガラス転移点より10℃高い温度以上の温度に加熱」、「一次粒子同士を融着させて」に相当する。

してみると、本願発明と、引用文献2に記載の発明とは、
「バインダー樹脂成分としての重合体一次粒子の水分散液を、少なくとも着色剤の存在下に、容器内で該重合体のガラス転移点より10℃高い温度未満の温度に加熱しつつ撹拌、混合して、重合体一次粒子を一次粒子凝集体となし、次いで、該重合体のガラス転移点より10℃高い温度以上の温度に加熱して一次粒子凝集体における一次粒子同士を融着させて静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法」で一致し、下記の点でのみ相違する。

相違点1:「一次粒子凝集体となし、次いで、該重合体のガラス転移点より10℃高い温度以上の温度に加熱して一次粒子凝集体における一次粒子同士を融着」する際に、本願発明は、「同一容器内で」融着が行われるのに対して、引用文献2に記載の発明には、その特定がない点。

相違点2:一次粒子凝集体を形成し、それを融着させて静電荷像現像用トナーとするための容器について、本願発明は、「前記容器をジャケット付き容器とすると共に、該ジャケット内に、減圧下で高圧水蒸気を供給して加熱する」のに対して、引用文献2に記載の発明には、その特定がない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
複数の工程を異なる容器で行うか、それとも、同じ容器内で行うかは適宜選択できる事項であるから、凝集工程と加熱融着工程とを同一容器内で行う程度のことは、当業者が適宜採用できる設計的事項である。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
引用文献2に記載の、いわゆる凝集法による静電荷像現像用トナーの製造においても、ガラス転移温度からそれほどかけ離れた高温ではない程度の加熱が必要であることは明らかである(2a,2b,2d)。
一方、引用文献3には、前記2.のとおり、「50?90℃程度の加熱を要する反応の遂行において、反応容器ジャケットの加熱用熱源として一般的に使用される高圧水蒸気を使用する方式、並びに、温水を使用する方式の欠点を認識し、ジャケットに減圧下で高圧水蒸気を供給して加熱する方式を採用することで、熱効率が良く、温度コントロールが容易で、温度が安定して反応の進行が行われること」が記載されているものの、引用文献3に記載されている反応は、引用文献2及び本願発明で規定する一次粒子凝集体を作製するための凝集反応、あるいは、融着反応ではなく、懸濁重合反応であるから、ジャケット付き容器による加熱方式が対象とする反応が異なっている。

(請求人の主張について)
これに関して、請求人は、請求の理由において、
「成る程、引用文献3に記載されたジャケット付容器及び温度制御方法は、本願発明方法と共通しますが、引用文献3では重合工程、即ち重合性単量体の懸濁重合反応に適用され、反応熱制御による重合体スケールの防止を主眼としていることを勘案すれば、対象とする反応工程及び目的において本願発明と明確に相違します。
加えて、引用文献3の重合工程における反応温度は、一般的には50?90℃に設定され、重合反応後半に昇温しても良いとされていますが、当然その温度は反応温度範囲内であり、事実実施例では60℃で反応を開始し80℃に昇温され、20℃温度上昇されています(刊行物3:[0055][0063],[0064])。これに対し、本願発明方法では、a)工程では該重合体のガラス転移点より10℃高い温度未満の温度に、b)工程では該重合体のガラス転移点より10℃高い温度以上の温度に加熱することが必要であり、実施
例ではa)工程で50℃からスタートし、b)工程で97℃に加熱されている如く凡そ40℃を超える温度上昇が行われるのです。従って、本願発明方法と引用文献3では温度制御手法が共通するとしてもそれが適用される反応工程の違いにより、制御内容は非常に相違するのであります。
更に、引用文献3では、造粒工程と重合工程における造粒装置と重合装置は兼務しえるが、一般には別装置であるとしている(刊行物3:[0029])のに対し、本願発明では凝集体形成と、一次粒子の融着は同一容器内で行われるのであり、かかる点においても相違することは明白であります。
この様に、本願発明のa)及びb)工程は、引用文献3の懸濁重合反応とは全く異なり、しかも該懸濁重合反応では重合体スケールの付着防止に加え粒子の会合を回避すべきとされていることを勘案すれば、例え引用文献3の懸濁重合反応工程において、ジャケット付容器及びジャケット内の圧力及び高圧蒸気の導入の調整による温度制御方法が採用されているとしても、本願発明における重合反応とは異なる重合体一次粒子の凝集工程にジャケット付容器及びその特定の温度制御方法を適用する必然性は存しないのであります。」と主張する。(下線は当審にて付与した。)
上記主張につき検討する。
まず、本願発明と、引用文献3に係るものとは、請求人自身が認めているとおり、制御すべき温度範囲としてはほぼ一致しているから、「制御内容は非常に相違する」との主張は当を得たものとはいえない。
次に、「本願発明のa)及びb)工程は、引用文献3の懸濁重合反応とは全く異なり、しかも該懸濁重合反応では重合体スケールの付着防止に加え粒子の会合を回避すべきとされている」との主張については、引用文献3には「粒子どうしが合一しないような適度な撹拌状態が要求される。」(段落【0029】)と記載されているとおり、「会合の回避」は撹拌によるものであり、温度調整に用いる熱媒体と直接の因果関係が示されているというわけではない。また、凝集工程においても撹拌は行われるのであるから、引用文献3における「会合の回避」は、凝集工程を有する製造方法への適用の阻害要因とはいえない。
そして、乳化重合凝集法によるトナーと、懸濁重合法によるトナーとは、重合トナー(ケミカルトナー)という、同じ技術分野に属するものであり、かつ、反応系が違ったとしても、反応系の温度を制御し、一定温度に保つことは、何れのトナーにおいても共通の課題であるから、引用文献3に記載の加熱方式を、引用文献2に記載の乳化重合凝集法トナーの作製に適用することになんら困難性は見出せない。
したがって、「重合体一次粒子の凝集工程に・・・適用する必然性は存しない」との主張も採用できない。

(本願発明が奏する効果について)
そして、本願発明が奏する「粒子形状が球形に近く、且つ、粒径が均一な静電荷像現像用トナーの製造方法を提供する」との効果も、引用文献2及び3に記載された発明から予測し得るものであって、格別のものでもない。

よって、相違点に係る構成の変更は、引用文献2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に為し得たことである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献2及び3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-06 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-02 
出願番号 特願2002-141143(P2002-141143)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 淺野 美奈
伏見 隆夫
発明の名称 静電荷像現像用トナーの製造方法  
代理人 特許業務法人志成特許事務所  

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