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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200523625 審決 特許
不服200625081 審決 特許
不服20051624 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1195950
審判番号 不服2005-6282  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-08 
確定日 2009-04-09 
事件の表示 平成 6年特許願第518713号「腫瘍の治療並びにヒトと動物の免疫化に使用する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 9月 1日国際公開、WO94/19022、平成 8年 8月20日国内公表、特表平 8-507757〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.本願発明
本願は、平成6年2月21日(優先権主張1993年2月22日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成20年6月3日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は請求の範囲に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は以下のものである。

「-生物体に対して同種異系(allogeneic)又は異種(xenogeneic)である細胞、ウイルス又はバクテリアであって、インターロイキン-2をコードする遺伝子を生物体において一時的に発現するもの、及び
-ウイルス、又は生物体に対して同種異系又は異種であるウイルスを産生する細胞であって、該ウイルスが、生物体の分裂中の細胞に感染し、チミジンキナーゼをコードする遺伝子をそれらのゲノム中に有しているもの
を含有する組成物。」

2.引用例の記載事項

当審の拒絶の理由に引用した国際公開第93/02556号パンフレット(以下、引用例Aという。)には、悪性細胞を使用する癌治療方法と題して、次の事項が記載されている。

(1)本発明は、サイトカイン又はリンホカインに対応する外来遺伝子を有する形質導入癌細胞も利用することができる。サイトカイン遺伝子を有する形質導入癌細胞を単独で、又は、治療剤に対する癌細胞感受性を付与する外来遺伝子を有する上述の形質導入癌細胞と組合わせて使用することができる。薬剤感受性を付与する外来遺伝子及びサイトカイン遺伝子の両方を有する形質導入癌細胞を、代わりに使用することもできる。形質導入癌細胞に組み込むべき好ましいサイトカイン遺伝子としては、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-4、IL-6、αインターフェロン及びγインターフェロンなどが挙げられる。一つの例として、レトロウイルス保持のIL-1遺伝子を有する形質導入癌細胞とともにHSV-TK遺伝子を有する形質導入癌細胞が用いられた。これらの形質導入癌細胞の組み合わせは、正常細胞を損傷せずに、実質的な量の形質導入癌細胞及び非形質導入細胞を死滅させることができる。サイトカイン遺伝子を、HSV-TKなどのレトロウイルス遺伝子又は遺伝子断片とともに形質細胞に導入することもでき、それによって、治療薬剤感受性及びサイトカイン活性を示す形質導入癌細胞を供給し、癌細胞に対する死滅力は増強する。(9頁26行?10頁13行)(2)本発明では、生癌細胞は免疫源として機能して、癌細胞に対する特異的免疫応答を刺激する。癌細胞は生きたものを使用しているが、in vivo使用時には細胞分裂能力がないことが好ましい。生きている非複製担体細胞は、好都合なことに致死照射によって得ることができる。……被検体の細胞に挿入する遺伝子の発現は、短時間すなわち適切な治療剤を投与して感受性娘細胞を死滅させるまでの期間であり、このようにして治療法が開始される。(14頁12?33行)
(3)Kbalb腫瘍細胞を注入した Balb/cマウスにLNLベクター又はSTKベクターを腹腔内に投与しGVC療法により、STKベクター投与したマウスは他の群より延命効果があること。(32頁16?末行、例11)
(4)Balb/cマウスを実験動物として用いて、Kbalb-LNL 腫瘍細胞を注入して1及び2日後にγ線を3000rad照射した Kbalb-STK細胞を注入し、3日後からGCV療法すると、対照のγ線照射した Kbalb-LNL細胞注入したマウスが24日後に生存率が0であるのに対して、43日後でも10%の生存率で、68日後に生存率が0であるとの実験結果、及びin vitroで Kbalb-LNL又は Kbalb-STK細胞にγ線を3000rad照射して、GCV暴露すると Kbalb-LNLでは28日後に少数生存しているものの分裂能はなく、Kbalb-STK では死滅したこと。(35頁29行?36頁末行、例14)
(5)5×10^(4)個のC6細胞(ラットの脳の神経膠腫細胞)をラットの頭蓋骨内に各グープ3動物からなる下記グループ1?4に接種し、腫瘍接種直後に開始し、各グループにガンシクロビル療法(1日2回、50mg/kg)を6日間続け、ラットを腫瘍接種後約3週間目に犠牲にし、脳を取り出し、各脳をC6腫瘍の成長に関して評価した下記の結果が表(省略)とともに記載されている。

グループ1:C6細胞のみ
グループ2:HSV-TK遺伝子(ヒト単純ヘルペスウイルス1型のチミジンキナーゼ遺伝子)を発現する照射されたC6神経膠腫細胞(C6-STK)の5%混合物(4.75×10^(4)のC6+2.5×10^(3)個のC6-STK)
グループ3:IL-1サイトカインを産生する照射されたkbalb-IL-1細胞(5×10^(4))の50%混合物とともに
グループ4:4.0×10^(3)個のC6-STK及び5×10^(4)個のkbalb-IL-1とともに
グループ1、2及び3は、腫瘍接種部位に腫瘍が形成されており、グループ2の結果は、HSV-TK陽性細胞及びHSV-TK陰性細胞の5%混合物は、腫瘍を根治するのに十分なHSV-TK陽性細胞を含まないことを示唆している。グループ4の動物の腫瘍は根治したことがわかり、HSV-TKを発現する腫瘍細胞とサイトカイン遺伝子の組み合わせを投与すると効果が強力になることが明らかになったこと。照射条件はkbalb-IL-1細胞は10000rad、C6-STKは3000radであること。(40頁1行?41頁14行、例17)

同じく、当審の拒絶の理由で引用した国際公開92/05262号パンフレット(以下、引用例Bという。)には次の事項が記載されている。

(6)本発明は、例えばインターロイキン-2のような、腫瘍抗原に対するホストの免疫応答性を誘導することができ、選択された免疫強化遺伝子を有する新たな免疫強化腫瘍細胞変異体を提供する。………調製物には、免疫強化性のあるインターロイキンをコードする外来遺伝子を有する腫瘍由来の細胞が含まれる(例えば、細胞外からの遺伝物質を挿入されたもの、例えばトランスフェクションされ、選択された安定な細胞系など)好適な実施例において、インターロイキンは、インターロイキン-2である。(3頁32行?4頁12行)
(7)免疫強化性遺伝子の第二のカテゴリーには、宿主に対して免疫抗原性を示さないが免疫システムの細胞(Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、又はリンホカイン活性化キラー細胞など)の活性を活性化又は強化することにより免疫性を強化するタンパク質をコードする遺伝子が含まれる。このカテゴリーに含まれる免疫強化性遺伝子は、“インターロイキン”として分類される数種のリンホカイン(さらに特定すると、インターロイキン-2、-4、-5、-6、-1、又は-3)をコードする。(5頁15?24行)
(8)マウス結腸腫瘍系細胞 CT26又はマウス黒色腫細胞系B16を同系のマウスに注射すると腫瘍が発生するが、IL-2形質導入されたこれらの細胞、CT26-IL-2^(+)、B16-IL-2^(+)の注射では、同系のマウス中に腫瘍は発生せず、CT26-IL-2^(+)、B16-IL-2^(+) 細胞は完全に除去されたこと。(16頁11?33行及び18頁29行?19頁13行)
(9)結腸腫瘍及び黒色腫のデータに加えて、IL-2形質導入されたマウスCBA-SPI肉腫及びラットDunning前立腺癌においても同様の結果が近年観察され、大きく異なる細胞起源の2種の腫瘍において類似の結果が認められたという事実は、ここで概観された原則が種々の癌に対して一般化できることを示唆していること。(19頁21?28行)

3.対比・判断
引用例Aには、悪性細胞利用による癌治療方法について、その例17に、ラットにラットの脳の神経膠腫細胞C6とともに、治療剤に対する感受性を付与する外来遺伝子としてチミジンキナーゼをコードする遺伝子であるHSV-TK遺伝子を形質導入した癌細胞C6-STKと、サイトカインIL-1遺伝子を形質導入した照射IL-1産生細胞kbalb-IL-1を接種し、その後治療剤であるガンシクロビルを投与したグループ4は、形質導入癌細胞としてC6-STKのみ又はkbalb-ILのみを接種したグループ2又は3に比べ、腫瘍は根治した(上記(5))ことが記載されている。
ここでのkbalb腫瘍細胞は「BALB/3T3クローンA31細胞系の形質転換腫瘍形成誘導体」(引用例Aの22頁8?10行参照)であるからマウス由来細胞であることは自明である。そして、例17における治療対象動物はラットであるから、マウス由来のkbalb細胞は、明らかに異種細胞であって、長期間の細胞維持は難しいことは自明である上、引用例Aの例14(上記(4))によればKbalb-STK細胞は3000radのガンマ線の照射により分裂能力を失うことが示されているから、例17の10000radの照射を受けたkbalb-IL-1細胞によるIL-1の発現は一時的なものということができる。
そうすると、例17には、生物体であるラットの脳腫瘍の治療のための、インターロイキン-1をコードする遺伝子を一時的に発現するkbalb-IL-1細胞(マウス由来細胞)と、チミジンキナーゼをコードする遺伝子を発現するC6-STK細胞(ラットと同種の細胞)との組成物が記載されているものと認められる。

本願発明と引用例Aの例17に記載の組成物を対比する。
両者は、生物体に対して異種である細胞であって、インターロイキンをコードする遺伝子を生物体において一時的に発現する細胞と、生物体の分裂中の細胞に感染し、チミジンキナーゼをコードする遺伝子をそれらのゲノム中に有している細胞を含有する組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
チミジンキナーゼをコードする遺伝子を有しているものが、前者はウイルス、又は生物に対して同種異系又は異種であるウイルス産生細胞であるのに対して、後者はチミジンキナーゼをコードする遺伝子をもつC6細胞(C6-STK細胞)である点、
(相違点2)
発現するサイトカインのインターロイキンが、前者はインターロイキン-2であるのに対して後者はインターロイキン-1である点

そこで、これらの相違点について検討する。

・(相違点1)について
引用例Aには、Kbalb腫瘍細胞を注入したBalb/cマウスにLNLベクター(対照)又はチミジンキナーゼをコードする遺伝子をウイルスゲノム中に有しているSTKベクターを腹腔内に投与し、その後のGVC療法により、STKベクター投与したマウスは他の群より延命効果があること(上記(3))が記載されており、例17のC6-STKのチミジンキナーゼ産生細胞だけでなく、ウイルスそのものであるSTKベクターを用いても治療できることが記載されている。
そうすると、引用例Aの例17に記載のチミジンキナーゼ産生細胞であるC6-STK細胞に代えて、例11に記載されているチミジンキナーゼをコードする遺伝子をゲノム中に有しているウイルスそのものを使用することは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
また、引用例Aには、「外来遺伝子(チミジンキナーゼ、サイトカインなど)によって形質転換される癌細胞は除去されることが求められている親の癌細胞と同系列である必要はないが、同一の又は異なる型の癌細胞のin vitro確立系由来であっても良い」(第8頁23?28行)「「担体細胞」は、それらが崩壊して親細胞のクラスが死に至る限り、「親細胞」から由来する必要はない。例えばマウス線維肉腫細胞を使用してマウスの乳癌細胞を死滅させたり、ヒト卵巣細胞系を使用してマウスの線維肉腫を治療することができる。」(第11頁33行?第12頁2行)と記載され、実際に例9や例12においてはマウスに対し、チミジンキナーゼをコードする遺伝子が導入されたヒト由来細胞を投与しているのであるから、チミジンキナーゼをコードする遺伝子を導入して使用する細胞として治療の対象である生物体とは同種異系又は異種である細胞を使用する点にも格別の創意は見いだせない。

・(相違点2)について
引用例Aには、形質導入癌細胞に組み込むべき好ましいサイトカイン遺伝子としてインターロイキン-1(IL-1)と並んでIL-2、IL-4、IL-6などが挙げられ、サイトカイン遺伝子をチミジンキナーゼをコードする遺伝子とともに形質を導入することにより癌細胞の死滅力は増強すること(上記(1))が記載されている上、引用例Bには、免疫強化遺伝子として好適なインターロイキン-2と並んでIL-1、-3、-4、-5及び-6が挙げられていること(上記(6)及び(7))及びインターロイキン-2遺伝子が、腫瘍抗原に対するホストの免疫応答性を誘導することができ、具体的にマウス結腸腫瘍系細胞及びマウス黒色腫細胞系においてIL-2遺伝子で形質導入すると腫瘍が発生しないこと(上記(8))が記載され、
種々の癌に対しても、このことが一般化できる旨(上記(9))が示唆されている。
そうすると、引用例AにおけるIL-1形質導入細胞に代えて引用例Bに記載されている好適なサイトカイン遺伝子IL-2形質導入細胞を用いることは当業者が容易に想到できるものである。
そして、本願発明の効果にしても、上記引用例A及びBに記載された事項から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

なお、請求人は、引用例Aのインターロイキン産生細胞であるKbalb-IL-1はγ線で照射されているから、一時的ではなく継続的にインターロイキン-1を発現する旨参考資料を添付して主張している。
しかし、当該参考資料には、p53遺伝子が変異している骨髄細胞はγ線照射に耐性があることを示しているにとどまり、引用例Aにおいて使用されたKbalb細胞のp53遺伝子に変異があり、10000radのガンマ線にも耐性であったことの根拠となるものではないし、引用例Aにおけるγ線照射はin vivoでの複製能力をなくすに十分な線量であることはその記載(4)から明らかであるから、請求人の主張は採用できない。

4.結び
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前頒布されたことが明らかな引用例A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-10 
結審通知日 2008-11-12 
審決日 2008-11-28 
出願番号 特願平6-518713
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 穴吹 智子
弘實 謙二
発明の名称 腫瘍の治療並びにヒトと動物の免疫化に使用する組成物  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  
代理人 三枝 英二  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  
代理人 小原 健志  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  
代理人 小原 健志  

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